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ウルトラ5番目の使い魔、第二部-56


 第56話
 打ち砕かれた架け橋

 ガス超獣 ガスゲゴン 登場!


 突如地球を襲った、大怪獣軍団の侵攻。その力は人類の防衛戦力を上回り、世界中の地球防衛軍は危機に瀕した。
 しかしそのとき、宇宙のかなたM78星雲からウルトラ兄弟が駆けつけ、怪獣軍団に立ち向かっていった。
 その活躍により、怪獣軍団は壊滅。GUYS JAPAN本部を襲ったベムスターとアブソーバも、ゾフィーとメビウスによって撃破された。

 そして、ヤプールがその力を蓄えている異世界ハルケギニアへと向かうゲートを作り出すため、フェニックスネストは
改良型メテオール、ディメンショナル・ディゾルバーRの発射態勢を整える。これに成功すれば、ウルトラ兄弟の
手の届かないところでぬくぬくと力を蓄えるというヤプールの姑息な目論見は崩れ去る。
 世界各国や各惑星で暴れまわっていた怪獣たちも、ウルトラ兄弟とGUYSをはじめとする地球防衛軍の総力で
完全に鎮圧されたという報告が入ってきた。怪獣軍団を倒したウルトラ兄弟も、順次ここに向かいつつあるらしい。
空は先ほどまでの激戦が嘘であったかのように晴れ渡り、作戦の成功を祝福してくれているようである。

 だが……

「ディメンショナル・ディゾルバーR、照準誤差修正。発射位置固定」
「フェニックスキャノン、砲口部異常なし。全システムオールクリア」
 ディレクションルームに快い緊張感が流れ、リュウはキャプテン席で準備が整うのをじっと待っていた。胸中では、
みんなはできる限りのことをしてくれた、今度は俺たちがなにがなんでも道を切り開く番だと、強い決意が赤々と
燃え滾っている。
「隊長、ディメンショナル・ディゾルバーR、発射可能まであと三十秒!」
「ようし、カウント開始。総員衝撃に備えろ。とんでもねえショックがくるぞ!」
 主砲、フェニックスキャノンに装填されたメテオールカートリッジに次元を歪めるだけのエネルギーがチャージされ、
砲口部に青白い余剰エネルギーが見え始めた。視認するのは無理だが、部分日食も現在最大値に到達していると
報告も入っている。このときにだけ生まれるわずかな次元の歪み、ハルケギニアへの道をメテオールで一気に
こじあけてやる。
 カウントがひとつずつゆっくりと流れていき、誰もが固唾を呑んでその瞬間を待ち望んだ。

 しかしこの瞬間、フェニックスキャノン発射に意識を集中しすぎて、リュウたちGUYSクルーも、見守っていた
メビウスとゾフィーも注意力が薄れていたのはいなめなかった。
 怪獣軍団を撃退され、切り札のベムスターもメビウスとゾフィーの活躍で失ったヤプール。けれども、世界各国を
襲った怪獣軍団はあくまで『撃退』されたのであって『殲滅』されたわけではなかった。中には生息地へ
追い返されたり、不利を悟って逃げ出したものも存在する。
 そして、倒されなかったものの一部には、ヤプール自身が撤退させたものも存在する。怪獣軍団の中に
あってわずかに投入されていた超獣、それは地球攻撃と同時に、ある目的をもって投入され、それらを
果たしたがゆえに異次元に回収された。
 その超獣とは……

「うぬぬ、地球人め、ウルトラ兄弟め。どこまでもわしの邪魔をするつもりだな。だが亜空間ゲートだけは
なんとしても開かせん。かくなるうえは切り札を見せてやる。超獣ガスゲゴンよ、ゆけぇー!」

 ヤプールの波動とともに、地上に一体の超獣が送り込まれた。細身の体に、食べ物をいっぱいに
詰め込んだリスのような膨れ上がった頬を持った不気味な顔。両腕は太く長い鞭になっている。
 出現した超獣は、メビウスとゾフィーに向かって動き出した。その様子はフェニックスネストでも観測されている。
「ドキュメントTACに記録を確認。ガス超獣ガスゲゴンです。マレーシアの天然ガスステーションを襲って
姿を消したものと思われます」
「ちっ! この期に及んでまだ超獣を繰り出してきやがるか。しつっこい野郎だ」
「隊長、ディメンショナル・ディゾルバーR発射まであと十五秒です。どうします!?」
「無視しろ! 今はメビウスとゾフィーにまかせるんだ」
 リュウは焦燥を抑えて、カウントダウンに意識を戻した。どんな超獣かは気になるが、今のフェニックスネストに
できることはなにもない。それに、発射まであとたった十秒だ、いくら超獣でも間に合うものか。
 最終カウントが刻まれる中、ゾフィーとメビウスはガスゲゴンを食い止めに向かった。
「タアッ!」
「テェイ!」
 大蛇のような鞭を振り回してくるガスゲゴンの攻撃を潜り抜けて、二人は左右からガスゲゴンを挟み打った。
そして奴がどちらに対処しようか迷った一瞬の隙をついて、腕の鞭を掴まえて地面の上へとねじ伏せる。
「いいぞメビウス、そのまま動かすな」
「はい!」
 相手がどういう敵か分析している時間がない以上、二人は攻撃するより動きを封じるほうが得策だと判断した。
怪力を誇るガスゲゴンも、ウルトラ戦士二人に拘束されてしまったのでは身動きすることができない。足を
ばたつかせ、口からガスを吐いて振りほどこうとしてくるが、二人はそれに耐えてガスゲゴンの動きを封じる。
「リュウさん、早く!」
 ただの数秒が恐ろしく長い。ガスゲゴンの吐き出す毒ガスに耐えながら、メビウスの目に上空の
フェニックスネストが太陽を反射してまばゆく映る。その突き出した砲門に光が収束し、メビウスとゾフィーの
耳にリュウの叫びが飛び込んできた。
「ディメンショナル・ディゾルバーR、ファイヤー!」
 フェニックスキャノンから放たれた光束が空間の一点に吸い込まれていき、空間が渦巻くように捻じ曲がっていく。
空間の歪みを矯正して封じるディメンショナル・ディゾルバーの極性を反転させたRが、わずかに発生していた
別次元へ通じるトンネルを見つけてこじあけたのだ。
「やった! ワームホールが開いたぜ」
 以前にハルケギニアへ通じるゲートを開いたときと同じ形の時空の穴。最初はしみのような小さなものだったのが、
次第に大きくなっていき、やがて黒雲と見まごうような大きさへと成長していく。皆既日食に比べたら微小すぎる
ほどに小さな空間の歪みだったので不安だったが、天才フジサワ博士の設計は正しかったようだ。
 リュウはワームホールが安定に向かっているのを目視すると、オペレーターに確認を命じた。
「どうだ? 向こうとつながったと確認できたか」
「空間座標の固定は間違いないはずです……しかし、実際につながっているかはやはりくぐってみないことには
断言できません」
 当たり前の答えが返ってきたことにリュウは落胆はしなかった。すでに宇宙に手を伸ばしている地球人類にとっても、
異次元に関する研究はまだまだ未知数の部分が多すぎる。第一、自由に次元に手を加えられるならば、
とっくの昔にヤプールに攻撃をかけているだろう。ならば、確実にハルケギニアに通じたかどうかを手っ取り早く
確認する方法は一つ。
「よし、向こうにいるセリザワ隊長と、平賀才人のメモリーディスプレイに通信を送ってみろ」
「G・I・G、しかしゲートが安定するまでにあと数分かかりますので、少し待ってください」
 二人ともメモリーディスプレイは肌身離さずに持っているはずだから、応答があればハルケギニアに通じていると考えて
間違いはない。そうすれば、ヤプールに対してはじめて攻勢に出られる態勢が整う。向こうの世界でヤプールが
強大化しているのは今回の攻撃の規模を見ても明白だが、いくらヤプールでも本拠地を直撃されればたまったものでないはずだ。
 ともかく、ゲートを開くことには成功した。ヤプールの大攻勢を跳ね返して、俺たちの勝ちだとリュウは思った。
ヤプールも最後に悪あがきに超獣を送り込んできたが、たった一匹でどうなるものでもなかった。ガスゲゴンは
今になってようやく二人の拘束から逃れて、鞭をふるって反撃に出ようとしているが、二人のウルトラ戦士は
余裕を持ってかわしている。
 リュウはメビウスとゾフィーを援護するぞと、フェニックスキャノンを通常モードに切り替えろと命令した。
 だが、砲手がG・I・Gと答える前に、ガスゲゴンのデータを検索していたオペレーターが悲鳴のように叫んだ。
「隊長だめです! ガスゲゴンを撃ってはいけません。奴の体の中には、可燃性のガスが充満しています。
もしガスに引火することになれば、基地が丸ごと吹っ飛んでしまいますよ」
「なんだって! まずい、ミライ、サコミズ総監!」
 リュウの必死の叫びが、光線技で攻撃をかけようとしていたメビウスとゾフィーをすんでのところで止めた。
ガスゲゴンはかつて超獣攻撃隊TACの大気観測用人工衛星ジュピター二号を乗っ取り、自分の卵にして
地球に侵入してきたことがある。ジュピター二号の外装をガスタンクに見せかけ、ガスコンビナートでまんまと
好物のガスを大量に吸収したガスゲゴンは、いわば動く爆弾状態で孵化した。これにはTACやウルトラマンAも
うかつな手を打てず、かろうじて宇宙空間に運んで爆破することで勝利している。
 今回ガスゲゴンはマレーシアのガスステーションを襲って、大量の天然ガスを吸収しているため条件は昔と同じだ。
下手に火花の出る武器で攻撃をかけたら半径数キロは焼け野原になってしまう。リュウはヤプールのもくろみは
基地全体の破壊かとあたりをつけ、地上の隊員全員に地下への退避を警報するのと同時に、ガスゲゴンへの対策を練らせた。
「ガスゲゴンへはガス中和剤および冷凍弾での攻撃が有効と思われます。効果時間は短いですが、一時的にでも
動きを止められます」
 リュウは「よしそれでいこう」と思った。ほんのわずかでも動きが止まれば、メビウスとゾフィーに宇宙に運んで
もらえる。怪獣を宇宙に移送できるGUYSの装備は重力偏向板があるが、これは準備に大量の時間がかかるために
今は使えない。
 しかし、GUYSが対策を打つより早くヤプールは次の手を打ってきた。
「これは! ガスゲゴンの直上に次元の変動と強力なヤプールエネルギーが発生しています」
「また新しい超獣が出てくるってのか!?」
「いえ、この反応は超獣ではなく……隊長!」
「なんだと!」
 オペレーターが示したデータを見せられたリュウは愕然とした。そこには、超獣出現のための大型亜空間ゲートではなく、
もっと小型で超獣が通れるようなものではないが、その奥に強力な破壊エネルギーが渦巻いている。まさかヤプールは、
リュウはヤプールの目論見に思い至って愕然とした。まさか、いくらヤプールでもそこまで残忍なことは。
 だが、ヤプールは悪の結晶体。あらゆる善の逆がヤプールなのだ。それは自らが生み出した子ともいうべき存在に
対しても変わらない。ヤプールは空間を通した目でガスゲゴンを見下ろし、邪悪な笑いを浮かべた。

「人間ども、そしてウルトラ兄弟。貴様らの思い通りには絶対にさせんぞ! 最後に笑うのはこのわしだ! ガスゲゴンよ、
我々の勝利の糧となるがいい。やれ!」

 わずかに開いた次元の裂け目の奥の目が光り、強力な破壊光線が放たれた。しかし光線が狙ったのはメビウスたち
ではなかった。ガスゲゴンを直撃し、不意を打たれた形となったガスゲゴンは断末魔の声をあげて倒れこむ。
「しまった。メビウス、ゾフィー逃げろ! 爆発するぞぉ!」
 リュウの悲鳴が届いた瞬間、ガスゲゴンの死体から青白い火が漏れた。光線の熱エネルギーが皮膚を透過して
内部のガスに引火したのだ。炎は瞬間的に全体に燃え広がり、さらに周辺の空気中の酸素を奪って燃え上がる。
コンマ数秒後には、ガスゲゴンの体内に圧縮されて溜め込まれていた何千トンというガスはすべて気化し、
ありとあらゆるものを焼き尽くすだろう。
 上空のフェニックスネストにも炎は迫り、回避する余裕はすでにない。
 まさか、勝利のために超獣を犠牲にするとは。人間をはるかに超える動体視力を持つメビウスとゾフィーは
ガスゲゴンが炎と化すのをはっきりと見ながら、やつの悪魔性をまだ甘く見ていたことを悔やんだ。だが、このままではいけない。
「メビウス、飛べ!」
 ゾフィーはメビウスに命じると同時に、自らも脚力の限界を超えて駆けた。サコミズの心も持つゾフィーには、
GUYS基地のどこが弱いのかわかっている。フェニックスネストが飛び立った跡、そこはシャッターで閉鎖
されているといっても構造的にもろい。そこから炎が入り込めば、地下のクルーは蒸し焼きか窒息死を免れない。
ゾフィーは自らの体をもって地下への炎の侵入を全力でふせいだ。
 そしてメビウスも全力でフェニックスネストを守るバリヤーを張り巡らせた。
『メビウスディフェンスドーム!』
 球形のバリヤーがフェニックスネストを覆い、爆発の炎から守った。しかし本来自分自身しか覆えない
バリヤーを大きく拡大させてしまったために、ウルトラコンバーターから供給されるエネルギーをプラスしても
まかないきれない。
「ウァァァッ!」
 二人のウルトラマンのカラータイマーが一気に赤に変わり、爆発の衝撃波はなおも続いていく。
 フェニックスネストも自身の安定を保持するだけで精一杯だ。だが、そんなことなど問題にもならないような凶報が
リュウの耳に飛び込んできた。
「大変です。亜空間ゲートが爆発のショックで安定が乱れて、縮小しはじめています!」
「畜生!」
 爆発の衝撃波は、まだ不安定だった亜空間ゲートにも大きなダメージを与えていた。ようやくウルトラ戦士や
戦闘機が通れるほどに大きくなっていたワームホールが、センサー上でみるみる小さくなっていく。
ヤプールの真の狙いはこれだったのか、歯軋りするもののどうすることもできない。
 火焔に包まれる赤一色の世界の中で、邪悪な思念に変わってヤプールの勝ち誇った哄笑が響く。

「ファハハハ! 見たか愚かな人間どもめ、これで貴様らは我らの世界に攻め入ってくることはできまい。
このままとどめを刺してやりたいところだが、ほかのウルトラ兄弟も近づいてきているようだ。今回は
見逃してやるが、次は今回とは比べ物にならない戦力で一気に滅ぼしてくれる。ウワッハッハハハ!」

 暗黒の笑いが遠ざかっていき、ディレクションルームには落胆の声が流れる。しかし、指揮官には絶望する権利はない。
リュウは酷は承知でオペレーターたちに叫んだ。
「まだだ、まだ終わってねえ! まだ希望はある。セリザワ隊長か、才人の野郎のところへ通信をつなげ! こっちの
世界でなにがあったのか伝えるんだ。急げ、ゲートが閉じちまう前に」
「じ、G・I・G!」
 はじかれたようにオペレーターたちは動き出した。まだやれることがあるということが、絶望的な状況でも
彼らに働く意欲を取り戻させたのだ。ウルトラマンヒカリ、セリザワ・カズヤが向こうにはいる。それに平賀才人、
事故で偶然ハルケギニアに転移させられてしまった普通の高校生、けれど日本とはまったく違った社会環境で生き抜き、
なじみも薄い世界のために命を懸けてウルトラマンAに選ばれた彼ならば、なんとかできるかもしれない。
 爆発の影響もようやく薄らぎ、空が普通の青さを取り戻す。しかしゾフィーは体力を使い切ってひざを突き、
メビウスはエネルギーを使い切って浮いているのがやっとだ。
「ミライ、大丈夫か!」
「僕は……大丈夫です。それより、ゲートが」
「心配するな。望みは残ってる。それよりお前は自分の心配をしていろ」
 メビウスは消耗した体ながら、フェニックスネストが墜落しないように支えて着陸させてくれた。そのまま倒れこみ、
消滅するようにしてミライの姿に戻る。ゾフィーも大きく消耗した様子で、立ち上がったもののカラータイマーの
点滅は激しい。
 そのとき、ゾフィーは両手をつき合わせて小さなリング状の光線を放った。その光のリングは地上に降りてくると、
多数の光輪を放って、その中からサコミズの姿が現れた。どうやら、サコミズのほうは不調は少ないようで、
メモリーディスプレイでこちらの無事を確認すると、気を失って倒れているミライのもとへと走っていった。今頃は
カナタたちも担架を持って駆けつけているだろう。
 もしこの二人がいなかったら、フェニックスネストごと自分たちは灰になっていたかもしれない。ヤプールの執念、恐るべし。
 しかし、このままヤプールの勝ちにさせてしまうわけにはいかない。この絶望的な状況から、逆転を可能にする
一手は、希望は残っている。それをハルケギニアの才人のところへ届けなくてはいけない。リュウは閉じようとしている
亜空間ゲートをじっと見上げているゾフィーとともに、今できる唯一のことを成し遂げるべくマイクをとった。
「こちら地球だ。おい聞こえるか! ハルケギニアに届いてるか? 才人! 聞こえたら応答しろ」

 地球からハルケギニアへ行く望みは、ヤプールの執念によって砕かれた。しかし、ほんのわずかに開いた道を
通じて、希望は地球からハルケギニアへと向かっていく。

 場所をハルケギニアのガリアにいる才人たちに戻し、電波に乗ったリュウの声は才人のメモリーディスプレイまで
たどり着いていた。だが、不完全な亜空間ゲートを通過するうちに電波も劣化し、激しいノイズは聞き取ることを
極めて困難とした。
〔こち……ちき……聞こえるか? ハルケ……才人!〕
「この声は、リュウ隊長! おれです。聞こえますか!」
 才人からの応答は地球に届き、リュウは笑みを浮かべていた。フェニックスネストの大コンピュータで処理を
おこなう地球側の感度は、才人の側より格段にいい。リュウは早口で地球で何があったのかを伝えていった。
地球での怪獣軍団との戦い、しかし亜空間ゲートを開くことには失敗したこと。
 だが残念なことに、それらの情報の半分はノイズにかき消されて才人には届かなかった。それでも彼は声色と、
わずかに聞き取れる単語の組み合わせから、地球で危機的状況が起こって、GUYSがこちらに来れなくなったことだけは理解した。
「リュウさん! ヤプールはこっちでも本格的に暴れ始めたんです。すでに、エルフの国の一部がやつに占領されました。
やつは以前よりもはるかにパワーアップして、なにか恐ろしいことを企んでます」
〔な……れ……そっちでも……俺たちは、もう一度亜空間ゲートを……かかる。そ……大変……〕
 ノイズはどんどんひどくなり、音声も小さくなって聞き取れなくなっていく。ゲートが閉じかけているのだ。才人は
焦る頭の中でルイズといっしょに思いつく限りのことを地球に届けようと叫ぶ。どこまで届いているかは未知数だが、
地球を守り抜いてきたGUYSならば、どんな小さな情報でも希望につなげてくれるはずだ。
 しかし現実は残酷に、二つの世界をつなぐ糸を細くしていく。恐らく聞き取れるのもあと数秒、話せるのもあと一回。
才人はリュウの最後の言葉を聞き取ろうと耳にすべての意識を集中させた。
〔いいか……そちら……ん……向かっ……お前の銃……協力し……着くまで……がんばれ!〕
 そこまでで、受信不可能と判断したメモリーディスプレイは通信を切った。空に現れていた不可思議な月食も、
ワームホールと連動していたと見えて、元の青い月に戻っている。つまり、地球とハルケギニアを結ぶ糸は、
ウルトラ兄弟の支援を望む希望も、才人が地球に戻る期待もすべて、水の泡となってしまったことになる。
「なんてこった……」
 電源を切ったメモリーディスプレイを下げて、才人は落胆を隠しえない様子で、窓枠に手を置いてうなだれた。
そんな才人の様子に、ルイズは「大変なことになったわね」「そんな落ち込まれたら、こっちまで暗くなるから
やめなさいよね」「あんたから元気をとったらなにが残るの?」など、声をかけようとして、喉まで出掛かったところで
押しとどめた。
 ここ三ヶ月、才人がGUYSへの正式入隊を果たすためにどれだけ努力を重ねてきたか、ずっとそばにいたルイズは
よく知っている。ガンダールヴでなくなった今、腕っ節は本職の戦士に及ぶべくもなく、知力もよく言って並といえる
程度の才人にとって、GUYSへの入隊は夢であると同時に大きな目標だったのだ。ルイズも、死ぬほど努力して
報われない気持ちは痛いほど知っているから、下手な慰めが逆効果になってしまうことがわかる。
 GUYSの皆やウルトラ兄弟の援軍が期待できなくなったのも極めて痛い。果たして、彼らが再度地球から
こちらまでのゲートを開くまで、自分たちと数人のウルトラマンで食い止めきれるのだろうか? 大きすぎる
重荷を一気に背負わされてしまったことに気づいたとき、才人と同じプレッシャーがルイズの心にものしかかってきた。
 けれども、押しつぶされてしまうわけにはいかない。背負っている荷物は、誇りや期待だけではない、文字通りの
『全て』なのである。負ければその先はなく、やり直しも道の切り替えも許されない。子供のころに魔法ができなくて
逃げ出していたようにするわけにはいかない。
 ルイズは、今の才人に自分がかけるべき言葉はなんなのかを必死で考えた。ここで黙っていて、どうして
パートナーを名乗る資格があるだろうか。才人を愛しく思う気持ちが、才人の心の根幹をなす言葉をルイズに思い出させた。

「才人、しっかりしなさいよ! あなたが勉強してるとき、よくつぶやいている言葉があるでしょう?
ひとつ、土の上を裸足で走り回って遊ぶこと。
ひとつ、天気のいい日にふとんを干すこと。
ひとつ、道を歩くときは車に気をつけること。
ひとつ、腹ペコのまま学校に行かぬこと。
ひとつ!」

 ルイズはそこで言葉を切った。彼女が暗唱したのは、ウルトラ5つの誓い。ウルトラマンジャックが地球に残していった
言葉で、GUYS JAPANでも未熟な隊員たちの支えとして語られ続けてきたと聞いている。そのひとつひとつは、
なんでもない日常の心得を教えたものだが、それぞれに人間として正しく生きるための願いが込められている。
 そして最後のひとつ。才人は大きく息を吸って吐き、息を整えると目の光を取り戻して答えた。
「ひとつ、他人の力を頼りにしないこと!」
「やっと思い出したわね。まったく、日ごろ口にしてることもろくに思い出せないなんて記憶力悪いんだから。
そんなので試験なんか受けても落ちてたんじゃない? よかったわね、延期になって」
「ちぇっ、相変わらず人をバカよばわりしてくれて」
「犬扱いに比べたら進歩したと思いなさいよ。ぜいたく言えるような人間の出来だと思ってるの?」
「悔しいが、ごもっとも」
 嫌味を飛ばすルイズに、才人は苦笑で答えるしかなかった。頭のよさでも勤勉さでも、ルイズと自分は比べようもない。
何度かルイズの授業には立ち会ったが、すぐに居眠りする自分と違って彼女はいつでも真面目に受けていた。
考えてみたらあの母と姉に育てられたのだ、『怠惰』という言葉はルイズの辞書にはないだろう。もしもルイズが
日本の高校に通っていたとしたら、成績では天地の差をつけられたことは火を見るより明らかだ。
 けれど、昔と違って今ではそうしたきつい言葉にも愛情がこもっている。最後の誓いをあえてルイズが言わなかったのは、
この言葉は人から忠告されるよりも、自分で思い出して内面から変えていくべきものだからだ。
「リュウ隊長たちは、必ずもう一度ゲートを開くはずだ。そのときまで、なにがなんでもヤプールを食い止めないとな」
「そうよ。やるやらないじゃなくて、もうやるしかないんだから。けど、他人に頼らなくてもわたしには頼ってもいいのよ。
わたしとあなたは、も、た……他人じゃないんだから」
 最後の部分を顔を腫らして言うルイズに、才人は気づかないふりをして、やるべきことを確認するようにつぶやいた。
「急いでトリステインに帰らないとな」
「ええ、もう人間同士で争っている場合じゃない。ガリアは無理でも、国同士がいがみ合いをやめるようにならないと、
とてもエルフでも負けたヤプールには対抗できない。そのためには、姫さまになんとしても会わないと」
 巨大な悪に対抗するには、いくら強い志を持っていても個々の人間がバラバラでは意味がない。ヤプールはいずれ、
かつてのUキラーザウルスのような、ウルトラマンの力をも圧倒的に超える超獣を生み出してくるだろう。それに
太刀打ちするためには、ヤプールの力の源である絶望を塗り替えるような希望を人々が生み出さなくてはならない。
 トリステインに一日でも早く帰る。その単純だが、明確な目標を得たことが二人の不安を薄めた。明日には
必ず日は昇る。ようやくやってきた睡魔に身を任せて、二人はベッドの中に体をゆだねた。


 しかし、希望を見つけようとする世界の中で、邪悪な陰謀はその根を広げつつある。
 再びガリア首都リュティス。グラン・トロワの一室において、ジョゼフは舞い戻ってきたジュリオを拍手で歓待していた。
「いや、見事見事。余以外にもあのようなことができる者がいようとはな。月に穴が開き、シャルロットを吸い込んで
しまうとは余の浅い想像を超えていた。まさに奇跡! すばらしい」
「お褒めに預かり、光栄に存じます。それよりも、これで我々のことを信用していただけたでしょうか?」
「ふははは、信用か。あのような奇跡を見せられては、余も忠実なる神の僕になるしかないではないか」
 しかし笑いながらジョゼフは、ただし信頼はしていないがな、と内心で冷たい目でジュリオを見ていた。こいつは
どうせ、最後にはその奇跡の力で背信者である自分を始末しようとするだろう。なら、どちらが可能な限り相手を
利用しつくし、絶妙のタイミングで裏切るか……なかなか面白いゲームだと、ジョゼフは久しぶりに心地いい高揚感を
感じ始めていた。
「ともかく、疑って悪かったなチェザーレ殿。だがしかし、せっかく自由になりかけたシャルロットを再び母親から引き離して
やるとは、そなたも人が悪い。仲間の手を必死に握ろうとするシャルロットの顔を見たときは、余もぞくぞくしたのだぞ。
ところで、シャルロットは死んだのかな?」
 自らの姪が消滅してしまったというのに、まるでそれとは逆の表情でジョゼフは尋ねた。
「さあ、不安定な時空の歪みに吸い込まれた以上、行き先は見当もつきませぬ。生き物のいない不毛の荒野に
飛ばされるか、空気すらない真空の宇宙に放り出されるか。いずれにしても生きている可能性は低いかと。しかし、
仮に生き残ることのできる世界にたどりつこうと、この世界に戻る方法はありません。永遠に、どこかの時空をさまよい続けるでしょう」
「ふっ、むしろ一思いに死なせてやったほうが幸せな仕打ちだな。しかしそこまでしても、余の心が痛むことはなかったな。
まったくいつになったら余は、昔のような心を取り戻せるのだろうか」
 一瞬悲しげな表情を見せたように見えたのは、この世界への深い絶望か、それともジュリオの錯覚か。自らは望まず、
天の気まぐれで与えられる才能の違いだけで運命を狂わされた兄弟の悲哀は、他人のジュリオには推し量りようもない。
 ジュリオはそれは残念でしたねと事務的に答え、続いても歌うように澄んではいるが人間味のない声で言った。
「シャルロット様の使い魔とお母上、ご友人は我々が捕らえてあります。お会いになりますか?」
「いいや、らちもあるまい。だがゲームの駒としてはまだ使い道もあるかもしれないから、幽閉だけはしておけ。
これからの対戦相手には、シャルロットの友人たちも多くなるだろうからな」
「では、そのように」
 再びうやうやしくジュリオは頭を垂れた。そうしてジョゼフは、もうタバサのことなどは忘れたように楽しげな笑みを浮かべた。
「さて、それではこれからはじめるゲームの設定でも決めていくか。そなたらと余の手駒を合わせれば、世にもおもしろい
遊びをハルケギニアで繰り広げられよう。いや、そなたらのものはあくまで『奇跡』であったな。あの黒い怪物も、教皇陛下の
与えたもうた奇跡によって生み出されたものなのか?」
「正確には少し違いますが、まあ奇跡の産物と思っていただけてけっこうです。人間の力によって起こしえぬ出来事を、
奇跡と総称するのでしたらば」
「まあ深く追求するのはやめておこう。さて、ジュリオ・チェザーレ殿、さっそくで済まないが余は貴公らのどんな期待に
応えればいいのかな? 虚無に関することはうけたまわるが、教皇どのは余にさらなることを求めていると思うのだ。
おっと、これは自意識過剰だったかな?」
「いいえ、ご慧眼のとおりです。我々は陛下に最高のゲームの舞台を提供しようとするにあたり、プレイヤーに
退屈な思いをさせようとは思っておりませぬ。ですがとりあえずは、我々は陛下に力をお見せしましたが
我々のプレイヤーとしての力量はまだお見せしておりませぬ。陛下を失望させぬためにも、まずは我々が
軽くデモンストレーションを起こしましょう」
「ほう、それはまことに念のいったことだな」
「陛下はスリルを楽しむタイプでありましょうが、我々には聖地という確固たる目標がありますため、慎重に
駒を進めるのが基本です。ただ、ゲームは様々な個性のプレイヤーがいたほうがおもしろいでしょう。それにあたって、
ひとつ陛下からお譲りいただきたいものがございます」
「ほう……?」
 ジョゼフはジュリオの申し出に、興味深そうに目を細めた。そして、ジュリオがジョゼフから譲り受けたいというものを
聞くと、惜しげもなく提供すると答えた。
「あんなものでよければ持っていくがいい。しかし、もっと破壊力のあるおもちゃはあるのに、そんなものでいいのか?」
「ご冗談を、あなた様はこれがすでにどういうものなのか、使ってご存知のはずです」
「ふっ、確かに実験はしたが、中途半端な効果で兵器としては欠陥品だ。肉体強化こそできるが、理性を失って
しかもすぐに絶命してしまうのではものの役に立たん。量だけはあるが、頑強な鉄の筒に包まれていて
取り出すのも面倒だしな」
「兵器としては欠陥品でも、使いようによってはおもしろい結果を生みましょう。ナイフが人を刺し殺すだけでなく、
りんごの皮をむくこともできるように」
「なるほど、しかし思考が単純な余には見当もつかんな。よろしければ、ご教授願えないものかな」
 そう言いながら、ジョゼフはジュリオの企みを半分は看破していた。確かにこれをそういう使い方をすれば、
一国を滅ぼすことも可能だろう。だが、それではあまりにも簡単すぎてつまらないのでやらなかったのだ。
だがそれをこいつらは、余を楽しませることも含めてできるというのか?
「それはお楽しみということに。手始めに、我らのゲームの相手となる方々に宣戦布告をいたしてきます」
「では、お手並みを拝見させてもらおうか。楽しい見世物を期待しているぞ」
「ご期待に添えるよう。そして我らの悲願の地への第一歩となるよう、微力を尽くしてまいります」
 ジュリオは最後に、絵画の天使も見惚れるような美しい会釈をして立ち去っていった。
 謁見の間に一人になったジョゼフはしばし、彼が立ち去っていった扉を見つめていたが、やがて視線を天井の
シャンデリアに移した。奴らが、あの悪魔の薬を手に入れたことでどういう行動に出るか、非常に興味深い。
ジョゼフは、チャリジャのやつは拾い物だと言っていたそれのことを思い出していた。奴は確か、自分の世界に近い
亜空間をさまよっていたところを発見し、内容物が自分の商売に役立つかもしれないと思ったから回収したと言っていた。
なんでも、元は地球とかいうところで作られたものらしく、これが入っていた大きな筒のようなものはロケットというらしいが、
聞いてもわからなかったのでそのへんにしておいた。
 肝心の中身のほうも、チャリジャが薬品として生成したものがほんのわずか。それを試しにリッシュモンに反乱を
起こさせようとしたときに道具として与えたが、結局決定的に状況を動かす役には立たなかった。チャリジャのほうも、
信用性に欠けるので商品化はあきらめたらしい。名前は確か……そろそろ夜も遅いせいか、眠くなってきて思い出せない。
 ジョゼフは寝室へ向かい、控えていたシェフィールドに下がるように命じると、がっちりした巨体をシーツの上に
ゆだねた。目をつぶる前に、閉めるのを忘れたカーテンから沈みゆく月が見えた。
「シャルロット……いまごろ、お前はどんな空の下にいるのだろうかな?」
 ぽつりと、思い出したようにつぶやいたジョゼフは、そのまま心地よさそうに高いびきをかき始めた。シャルロットの
死に様を見れないのは残念だが、生きていたとしてもどこか異郷の地で老いさらばえて、故郷を思いながら絶望して
野垂れ死ぬのもいいだろう。いくらお前でも、異世界から戻ってくることは不可能だろうからな。


 ガリアとロマリアが水面下で手を結び、世界はさらに混沌への道を歩みつつある。
 しかし、ジョゼフやジュリオの思惑とは異なり、タバサはまだ生きていた。


「ここは、いったいどこなの……?」
 目が覚めたとき、タバサがいたのは不毛の惑星でも真空の宇宙でもなかった。そこはハルケギニアと同様に、
人間が生きていくのに必要なだけの空気や重力を持った星だった。水もあった、緑もあった、そして人もいて
街もあった。しかし……
「あの……」
「? ? ! ?」
「……」
 街をゆく人に話しかけてみても、言葉が通じない。道に落ちていた新聞らしい紙を拾ってみても、文字が
わからない。見たこともない、大きくて四角い石の塔のような建物が見渡す限りに続いており、道幅も
トリスタニアの何倍も広い。驚いたことに、道路はすべて白や黒の石のようなもので固められていて、土や石畳の
ハルケギニアの道よりはるかに滑らかだった。そこをいろんな色や形をした鉄の車が何百、何千両も人を
乗せて行き来している。
こんな大きくて人の大勢いる街は、ハルケギニアで一番大きな国であるガリアにもない。

 いったい……どれほど遠いところまで飛ばされてしまったんだろう……?

 タバサは、恐らく公園と思える噴水のある広場でベンチに腰をかけてとほうに暮れた。
 見慣れぬ街、見慣れぬ格好の人々。少し考えただけでも、自分がハルケギニアから絶望的なまでに
遠い国に送り込まれてしまったんだということがわかる。これからどこへ行き、どうすれば帰れるかまったく
見当もつかない。
 歩いている人間にしても、ハルケギニアではほとんど見かけない黒髪の人ばかりだ。タバサは、彼らの容姿が
才人と酷似していることから、彼の国に来てしまったのかと思ったが、だからといってどうなるものでもなかった。
 しかも、唯一の頼みであった魔法の杖も、こちらの世界で、公園の芝生の上で気がついたときには
どこかに消えてなくなってしまっていた。杖が無くては、比類なき戦士のタバサも非力な少女に変わりない。
 幸い、タバサの身につけていた学生服はこちらの世界でもそう不自然なものではないようで、道行く人も
特に気に留めた様子もなく歩き去り、怪しまれることだけはなかった。とはいえ、頼るべきものもなく、見知らぬ
異国の地に一人放り出されたタバサは孤独で、あまりにも無力だった。
 やがて不安を紛らわせるためにタバサは歩きだした。目的地も無く、人の波に乗ってさまよった。
 ここでは人と車の通る道がはっきり分かれているらしく、そこを横切るときは白い縞模様の書かれているところを
通らないとだめらしい。
 何か大きな建物のある場所で、大勢の人が四角くて大きな車に乗ったり降りたりしているところから、ここは
乗り合い馬車の駅のようなところなのだろうとあたりをつけた。異世界とはいえ、人間の生活するところでは
似たようなルールが適用されていくものらしい。
 街はとても大きく広大で、タバサの足で行けども行けども終わりはなかった。
「お腹、すいたな」
 なにかの食品を売っている店からの甘い香りがタバサの鼻腔をくすぐる。しかし注文の仕方はわからないし、金はない。
第一間違っても盗みなどはしたくない。

 空腹にふらつき始めながら、それでもタバサは歩き続けた。そうして、太陽が傾き始め、夕方に入り始めるころ、
タバサの目の前にひときわ大きな建物が現れた。
「ここは……学校?」
 確信があったわけではない。ただ、十八前後と見える若い男女が大勢行き来していて、広い庭と立派な建物が、
なんとなく母校の魔法学院の雰囲気を思い起こさせたのだ。
 どうやら時間帯から講義はすでに終わって放課後らしく、和やかな雰囲気で場は包まれている。タバサは、どうせ
ゆくところもないのだからと、校門から構内に足を踏み入れた。中では、まだ居残っている生徒がタバサの青い髪に
目をとめて何人も振り返ってきた。こっちでも若者が好奇心旺盛なのは変わらないようだが、タバサには話している
意味はわからない。
 構内を適当にさまよううちに、キャンパスらしい場所に出た。そこでは、男女がおしゃべりしていたり、学食で
買ったのかもしれない菓子をつまんだりしていた。
 タバサはそこもなんとなく通り過ぎるつもりだったが、ベンチに座っている一人の青年に目が留まった。
「あれ、サイトの持ってたのに似てる」
 その青年がひざの上に乗せて、なにか指先で操作しているような機械にタバサは見覚えがあった。確か、
才人が故郷から持ってきたもので、ノートパソコンとかいっていたような気がする。タバサは興味のままに、
その青年のそばに駆けて行って、ずいと覗き込んだ。
「わわっ! なんだ」
 タバサには意味はわからなかったが、彼はそう言って驚いていた。無理も無い話だが、覗き込んだタバサも
驚いていた。なにか、とてつもなく精巧な図形や文字が映し出されて、しかも動いている。パソコンを間近に
はじめて見るタバサは、それが以前見たガンクルセイダーのモニターと重なって見え、思わず見入っていた。
 そのとき、画面に飛行機を擬人化したようなキャラクターが現れて、青年に話しかけた。
「おや? 新しいお友達ですか」
「違うよ。この子が勝手に……ねえ君、どこのクラスの子? もしかして、留学生」
 青年はそうタバサに話しかけるが、当然タバサにはわからない。彼は言葉が通じないことを知り、さらに何ヶ国語を
使って話しかけたが、やはり通じるはずはなかった。けれど、熱心に話しかけてくる様子が人との交流に飢えていた
タバサの気を引き、タバサもなんとか応えようと身振り手振りをふる。
「困ったな。これでも通じないとなると、どこの国の人だろう?」
 彼はまさか異世界の人間だとは知らずに、本気で困ったようだった。それでもごまかして逃げ出そうとはせずに、
真摯に相手を続ける姿勢から、彼の人柄がわかるだろう。と、そこへ彼の友人と思われる数人の青年たちがやってきた。
「おーい、なんだここにいたのか」
「トオル」
「探したぜ。お前がいないと量子物理の研究レポートが完成しないんだからな」
「ごめん。僕も卒論のまとめがおしてて。すぐに行くから」
「頼むぜ。ん? その子は……ははあ、お前いまだにどこの女子にも手を出さないところから、そういう趣味だったのか」
「なっ! 違うよ、この子がいきなり僕のところに来たんだ。僕はけっしてそんな趣味はない」
 友人のたちの悪いジョークに、彼は怒ってみせた。もっとも、友人たちのほうもジョークの域を超えようとはせずに、
軽く謝罪すると彼に事情を聞き、誰かの心当たりはないと応えた。
「迷子かな。教授たちに知らせるか?」
「警察のほうがよくないか? にしても、青い髪なんて珍しいな。染めてるわけでもなさそうだし、どこの国の子だろう」
「言葉も通じないって? それじゃ連れてくのも難しいな」
 彼の友人たちは、それぞれ話し合って考えたけれども、彼の窮地を救う方法は思いつかなかった。そして最終的に。
「よし、じゃあとりあえずお前が引き取って帰り先を探してやれ」
「ええ! なんで僕が」
「だって、こういう不可思議なことを担当するのが仕事だろ? 頼むぞ、我夢」

 この出会いが、その後の未来にどんな影響をもたらすのか、想定できている者は全宇宙にただ一人としていない。


 続く



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