あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

三重の異界の使い魔たち-10


~第10話 勇気と闘いと覚醒と(中編)~

 シエスタは廊下を駆けていた。スカートのすそを摘まみながら、学院の中を走り続ける。埃を
立てながら足を駆る、行儀悪い姿。そのはしたない様は、普段の彼女であればありえないものだ。
 それだけ、今シエスタは焦っていた。今朝から仲良くなった使い魔の少年、サイトが、貴族と
決闘することになったのだから。平民にとって、魔法を使う貴族は絶対的な存在。杖の一振りで
不可能を可能にしてしまう、別格の人種である。そんな相手に、自分と同じ平民であるサイトが
勝てるわけがない。

――なのに、サイトさんたら!
 それにもかかわらず、サイトは自分の制止を全く聞き入れなかった。なんの根拠があるのか、
大丈夫だといって聞く耳を持たなかった。
 このままでは、大変なことになってしまう。貴族と本気で戦ったら、怪我することはまず間違い
ない。否、それどころか、殺される可能性の方が高いのだ。
 それに、シエスタができることなんて何もない。シエスタもサイトと同じ平民。貴族に逆らう
ことなんて不可能なのだから。

――だけど、ムジュラさんたちなら!
 しかし、あの少年と共に召喚された者たち、サイトの使い魔仲間たちならば、話は別だ。特に、
ムジュラの仮面というあの使い魔。被った相手を魔法が使える様にしてくれるらしい彼ならば、
きっとサイトを助けてくれる。
 そう考えたからこそ、シエスタは一心不乱に走っていた。何処にいるのか判らない仮面と妖精の
コンビを、必死になって探し続ける。

「しかし、広い学院だな。本当に施設全部きっちり使っているのか?」
「ホントだね、掃除しなきゃいけないシエスタたちは大変そう」
 そうして学院中を探索すること約一刻、ようやく廊下の向こうに見知った影が2つ見えた。
「ムジュラさん! ナビィさん!」
 そちらへ向かいながらも呼び掛けると、2名はこちらに向き直ってくる。
「噂をすれば、だな」
「Hello、どうしたのシエスタ? そんなに慌てて」
 不思議そうにする両者に追いつくと、シエスタは息を切らせながら答えた。
「さ、サイトさんが……」
「サイトが?」
「どうかしたのか?」
 体ごと首を傾げる2名に、荒い息のまま叫ぶ。
「き、貴族の方と、決闘を!」
「ええっ!?」
「何やってるんだ、あいつは」

 驚くナビィと呆れるムジュラの仮面に、シエスタは縋りついた。
「ですから! ナビィさん、ムジュラさん! サイトさんを助けてあげてください!」
「うん、判った!」
「せいぜい遊ばせてもらうか」
 答えたムジュラの仮面が視線を向けると、何かの魔法を使ったのだろう、廊下の窓がひとりでに
開く。
「シエスタ、決闘は何処でやってるの!?」
「はい、ヴェストリの広場です!」
 ナビィの質問に答えると、2名の使い魔たちは互いに顔を見合わせた。
「昨日行った広場だね。急ごう、ムジュラ!」
「そうだな、行く前に終わっていてもつまらない」
 言うが早いか、ナビィが真っ先に窓から外へ飛び出していき、ムジュラの仮面もその跡を
追おうとする。その背中に、シエスタは呼び掛けた。
「待って、私も連れて行ってください!」
 サイトには今朝の洗濯や、配膳の申し出等、色々と親切にしてもらった。ムジュラの
仮面たちが助けに向かうとしても、サイトの安全を確認してからでなければ安心できない。

「ふうん?」
 すると、ムジュラの仮面の眼に何やら意地の悪そうな光が宿った。かと思えば、シエスタの体が
俄(にわか)に浮き上がる。
「なら、ご希望に沿うようにしようか」
 面白がっている様な声音で言うムジュラの仮面に、不安が湧いてくる。その不安の通りか、
シエスタの周りに夕焼け色の靄(もや)のようなものが立ち昇りだした。その靄は、凄まじい
速さで窓の外へと伸びていく。よくよく見てみれば、その靄は動いているらしく、川の様に
外へと流れていっている。
「あ、あのう、ムジュラさん……?」
「さて、急ぐぞ」
 シエスタの不安も何処吹く風とばかりに、ムジュラの仮面自身もその靄の中に入ってくる。
「あの、どうするんですかっ!?」
「向かうだけさ、広場へとな」
 何か妖しいものの籠(こも)った声で告げられると、浮き上がった体が動くのを感じた。

「っ、きゃああぁぁ!!」
 その次の瞬間、もの凄い加速がシエスタに襲いかかる。とんでもない力に引っ張られる様な
感覚に、思わず悲鳴が飛び出していた。視界も定まらない程の高速に目が回りそうだ。
 感じたこともない速度に怯えていると、やがてそれは終わりを迎えた。
「着いたぞ」
 ムジュラの仮面の言葉が耳に届くと、シエスタの体が急に止まる。すると、周りの靄が
霧散して、シエスタの体が地面に落ちた。
「痛っ!」
 臀部(でんぶ)から落とされた痛みに小さく悲鳴を上げると、シエスタはムジュラの仮面に
抗議の眼を向ける。
「いたた、ひどいです、ムジュラさん!」
「ん? リクエストには応えているはずだが?」
 悪びれずに言うムジュラの仮面に、シエスタはサイトが彼を性悪と評していたことを思い
出した。しかし、すぐにそんな場合ではないことを思い出す。
「そうだわ、サイトさんは」
 立ち上がってみると、シエスタは周囲に学院の生徒たちが輪を作っていることに気がついた。
そして、ムジュラの仮面が着いたといった通り、ここがヴェストリの広場であることも。
――ここ、ヴェストリの広場で、しかも人垣の真ん中……ってことは!

「がはっ!」
 状況を把握した瞬間、シエスタの背後から苦し気な声が聞こえてきた。次いで、すぐ後ろの
地面に、何かが叩きつけられた様な音が響く。
「ぐ、……っそったれ……」
 慌てて振り返れば、果たしてそこには件の少年、サイトの倒れた姿があった。
「サイトさん!」
「サイト!」
 先に広場へ来ていたのだろう、ナビィと声を揃えて倒れたサイトの許へ跪く。見れば、彼は
悲惨な有様だった。顔の半分は紫色のあざに覆われて、片目が腫れの中に埋まってしまっている。
頭も打っているのか、それとも切れているのか、まだ固まっていない血の跡が目についた。
鼻からも血が滴(したた)り、荒い息をついている口の中さえも鮮血の色に染まっているのが見える。
着ているものも酷い状態だ。あちらこちらが裂けていて、そこから生々しい切り傷が覗き、青い服に
赤茶けた染みを作っている。
 傍から見て、完全な満身創痍(まんしんそうい)だった。
「サイトさん、大丈夫ですか!?」
「くっ……」
 シエスタの声が聞こえているのか、いないのか、サイトが苦しそうな声を上げる。そんな状態で
あるにもかかわらず、彼は苦悶の声と共に起き上がろうとした。
「さ、サイトさん!? 無茶しないでください!」
 慌ててそれを押しとどめようとすれば、サイトは開いている方の目でシエスタを見てくる。
「シエスタか……かっこ悪いとこ、見せちゃったな……」
 黒髪の少年の言葉は、そんなことだった。声の感じは苦笑じみていたが、腫れた顔では表情として
表れない。
「そんなこと言ってる場合ですか! 早く手当てしないと!」
「そうだぞ、平民」
 聞こえてきた声に目を向ければ、サイトの決闘相手であるヴィリエ・ド・ロレーヌが、嘲笑の
滲んだ眼でこちらを見据えていた。
「全く、勝ち目なんて全く無いというのに、不様な真似を続けて。どうして素直に自分の無力を
受け入れないのかね?」
 傲慢な調子で、溜息を吐かれる。これほど痛めつけた相手に対し、そんな侮蔑的な言葉しか
放てないヴィリエに、シエスタは激しい嫌悪を抱いた。同時に、これだけサイトを圧倒しながらも、
自身は全く無傷だという、貴族に対する恐れの感情も。
 嫌悪と恐怖の感情で板挟みになり、動けずにいると、サイトがシエスタの手を振り切ってしまう。
「言ってろ……てめえの風が退屈なんで、眠くなっちまった、だけだよ……」
 そんな強がりを言いながら、サイトは立ち上がった。そこへ、面白がっている様な声が上がる。
「そんな様で、よくも言えたものだな」
 ムジュラの仮面だった。仮面の使い魔は、同僚である少年をじろじろと見る。
「邪気は抜けても、やはりオレもモンスターか。流血と苦悶を前にすると、胸が躍る」
 楽しそうに言うムジュラの仮面に、サイトは赤いつばを吐きながら言った。
「悪趣味な奴……」
「ヒャハハ。まあ、そう言うな。それより、早く被れ」
 オレも遊びたいんだ、と急かすムジュラの仮面に、サイトは言い放つ。

「いやだ」
「なに?」
「ええっ!?」
「サイトさん!?」
 サイトの返答に、ムジュラの仮面、ナビィ、シエスタは、三者三様に疑問の声を上げた。
「これは、俺の喧嘩だ……ムジュラは、関係ないだろ……」
 途切れ途切れに、だがはっきりと言うサイトを前に、ムジュラの仮面はその目を真っ直ぐに
見つめる。
「本当に……いいんだな?」
 念を押すムジュラの仮面に、サイトは頷く。すると、ムジュラの仮面がまた楽しそうに言った。
「ヒラガ、昨日言ったことを覚えているか?」
「ん、なんだよ……?」
 サイトが聞き返せば、何気ない調子でムジュラの仮面は答えた。
「使えない道具は、タダのゴミでしかない」
 傍で聞いていたシエスタは、その言葉にぞっとする。言葉の内容もさることながら、そんな残酷な
台詞を平気で言えるムジュラの仮面に背筋が震えた。
「その意味が判るか?」
 そんなシエスタの怯みに構うことも無く、ムジュラの仮面は続ける。
「お前の心身、あの小僧に勝つために使い、それができないというのなら、お前の命、その程度の
ゴミだったということだ」
 それは極論すぎるとシエスタは思ったが、そんなことを平然と、その上面白そうに言うムジュラの
仮面に唖然とし、言葉にならない。
 一方、その挑発めいた言葉を受けたサイトは、つまらなそうな声を出す。
「あの冗談みたいな台詞、こんな場面で使いやがって……」
「気に入らないなら、ゴミじゃないと証明するしかないな」
 見下す様な言われ方で、サイトがますます反抗心を見せた。
「ああ、してやろうじゃねーかよ……」
 その返事を受けると、ムジュラの仮面の眼が楽し気に光る。
「あの子鬼のように失望させるなよ、被り手」
 そう言うと、ムジュラの仮面は思い出したように付け加えた。
「そういえば、ヒラガよ」
「まだ、なんかあんのか……?」
 サイトが訝しむと、ムジュラの仮面の声の質が変わる。
「お前には、オレが優しく見えるのか?」
「え……?」
「せっかく出してやった助け船を蹴られ、それを許してやるほどに、オレが優しく見えるのか?」
 その声に、今度こそシエスタは戦慄した。否、ナビィも、サイトも、一様に竦み上がっている。
ムジュラの仮面の笑い声――面白がっている様な陽気な声のはずなのに、それには全く温度が
感じられなかった。軽い調子で言われているにも関わらず、異常な程に暗いものを感じさせた。
 笑いながらも、周囲から熱を奪い、暗がりへ引き込む、妖しの声。この世ならざる音声に呑まれ、
シエスタたちは息も凍るような感覚に襲われていた。
「まあ、どうでもいいことだな」
 かと思えば、次に放たれた一言に、温度が戻る。そこで、サイトが腫れた顔に浮かんだ冷や汗を
拭った。
「ど、どうでもいいなら、聞くなよ……」
「そうだな、ヒャハハ……」
 上擦り気味の声で返すサイトに、ムジュラの仮面は意外と甲高い笑い方で応える。シエスタは、
段々と後悔の念を抱きはじめていた。助けを求める相手を、思い切り間違えたのかもしれない。

「おい、いつまで待たせるんだ?」
 そこへ、ヴィリエの苛立った声が上がる。そういえば、なんだかんだですっかり無視してしまって
いた。その間、まったく攻撃を仕掛けてこなかったのは、余裕があるのか、意外と律儀なのか。
「ああ、休憩終了だよ」
「違う」
 サイトがヴィリエに言い放った瞬間、別の声が上がった。誰の声かと思ったら、シエスタの目が
青い髪と長い杖を持った影に留まる。いつの間に来ていたのだろうか、サイトたちの主、タバサが
すぐ傍にいたのだ。
「休憩でなく、決闘が終了」
 淡々とした声で告げるタバサに、サイトが片目に反抗的な光を灯す。
「なんだよ、それ……」
「言った通りの意味。これ以上は許さない」
 言葉の通りか、タバサは鋭い瞳でサイトを見据えた。その眼差しに、直接向けられているわけでも
ないシエスタまでもが息を飲む。静かでありながら有無を言わせない迫力に、ムジュラの仮面の
時とはまた違った寒さが背筋に走った。
 一方、それを直に受けているサイトの方は、真っ向からその眼を見返している。
「まだ、決着ついてないだろ……」
「これ以上続けても無駄」
 反論するサイトではあるが、タバサは聞く耳を持たない。
「貴方はそんなぼろぼろになりながら、相手に一撃さえ入れていない。これ以上やっても、結果は
見えている」
「っ……」
 論理的に続けるタバサに、サイトは言葉を返せない様だった。そこまで言うと、タバサの雰囲気が
微妙に変わる。
「貴方はよく闘った。でも、これ以上無理したら、本当に命の保証はない」
「けどっ……!」
 尚も抗議するサイトだが、タバサは首を横に振った。
「庶子と言われたことを怒ってくれるのは嬉しい。だけど、貴方がそこまで無理することはない」
「それだけじゃねえんだよっ!」
 俄に響く、サイトの叫び。空気を震わせたその訴えに、一瞬タバサは気圧されたように見えた。
「あんな奴に虚仮(こけ)にされたまま、自分の友達の悪口も取り消せないまま、そんなだせえ
奴のまま、終わりになんてできるかよ……!」
 拳を握りしめながらも、サイトの言葉は終わらない。
「確かに、俺はムジュラみたく、魔法使ったりできない」
 出てきたのは、弱気とも思える言葉。しかし、そこにこめられているものは弱さと正反対の
それだ。
「ナビィみたく、感覚共有ってやつも、できない」
 痛みのためか、微妙に調子が外れた声。それでも、サイトははっきりと言葉を紡いでいく。
「でも、俺にだって、意地ってもんがあんだよ……!」
 言葉と共に、サイトの瞳に火が灯った。片方しか開けられていない眼が、強い意志で燃え
上がる。
「痛めつけられようが、何されようが……、一矢も報いらんねえまま、やられっぱなしで
いられるか!」
 力強い叫び――それを真っ向から受けたタバサは、シエスタの目には動揺している様に
映った。相変わらず、立っているのがやっとにしか見えないというのに。言っていることは、
まるで子どもの駄々の様なのに。サイトから発せられる気迫は、とても大きく感じられた。

 最早、言葉でサイトが止まりそうにないことは明らかだ。タバサもそれが判っているの
だろう、どうすべきか悩んでいるように見える。例え、彼女が魔法でサイトの自由を奪ったと
しても、それで決闘相手であるヴィリエが納得するだろうか。
 そういえば、去年彼女とヴィリエが諍(いさか)いを起こしたという話を、シエスタは思い
出した。無理に中断させようとすれば、かえって話がこじれるかもしれない。
 なんともしがたい状況に、シエスタは焦燥感を募(つの)らせることしかできなかった。
それに歯がゆさを感じていると、唐突に拍手の音が聞こえてくる。
 驚いてそちらに目を向けてみれば、1人の金髪の少年がこちらに近づいてきているところ
だった。



 学院の生徒たちは、この昼の決闘騒動を、見世物の一種として捉えていた。娯楽も刺激も
少ない学院生活の中の、降って涌いたショーを楽しむ感覚で、ここに集まっていた。
 タバサとヴィリエのクラスメイト、ギーシュ・ド・グラモンもまた、その1人だ。
 彼も別段、この決闘に何か思うところがあるわけではなかった。周囲の者たちの多くとと
同様、ただの興味本位でここにいるだけだ。
 しかし、彼は他の者たちとは違う点が一点だけあった。それは、どちらかというと平民の
使い魔の方に興味を持っていたという点だ。
 とはいっても、彼は平民という存在に関心を持っているわけではない。他の貴族たちと
同程度には見下しているし、魔法が使えない下等な存在だと考えている。
 魔法が使える貴族に逆らうこともできないくせに、陰でこそこそと罵(ののし)っては、
いざメイジを目の前にすればへこへこするだけの連中。そんな誇りも何もない、つまらない
人種だというのが、ギーシュらトリステイン貴族の多くが持つ平民観だった。
 しかし、タバサの召喚した、黒髪の使い魔。あの少年は、そんな自分たちの考える平民とは
違って見えた。
「タバサは関係ねえだろうが!」
 貴族に対して臆することも無く、自分の主を侮辱した相手を思い切り怒鳴りつける。そのことに
驚いた者は、きっとギーシュだけではなかっただろう。特にギーシュは、彼の怒り方に関心を覚えた。
女性への侮辱に対する怒り、それはギーシュも共感できることだったからだ。
 だから、フェミニストを自任するギーシュとしては、むしろ平民の使い魔の方を応援する気に
なっていた。ラインクラスの風メイジであるヴィリエが平民に負けるとは本気で思っていなかったし、
気持ちだけでも味方に立ってやろうと思ったのだ。

 そして、決闘は大多数の予想通りに展開していった。平民の使い魔はヴィリエに全く歯が立たず、
ヴィリエの繰り出す風で一方的に痛めつけられていく。風の鎚(つち)に体を打ちつけられ、風の
刃に血飛沫を上げられる。
 黒髪の少年は何度も吹き飛ばされ、何度も倒れ込んだ。その度に起き上がっては、何度も何度も
ヴィリエへと突っ込んでいく。幾度も傷つきながらも、使い魔の少年は諦めずにヴィリエに挑み
続けた。その不屈の意志を以って戦う姿に、少年に対する感情がただの興味から少し変化する。
 どれほど傷ついても、心が折れることなく戦い続ける。それは、むしろ自分たち貴族が持つべき
姿勢に思えたからだ。だからこそ、平民でありながらそれができるこの使い魔を応援する気持ちが、
ますます大きくなっていった。
「痛めつけられようが、何されようが……、一矢も報いらんねえまま、やられっぱなしで
いられるか!」
 そして、満身創痍になりながらもそんな叫びを上げる使い魔に、とうとう気紛れを起こす。

「いや、なかなか大した根性だね、使い魔君」
 拍手をしながら、ギーシュは使い魔たちの許へ歩み寄っていく。すると、件の使い魔はこちらを
じっと見据えてきた。
「誰だ、あんた……?」
「おっと、失礼。僕の名はグラモン伯爵家四男、ギーシュ・ド・グラモン」
 バラの造花をあしらった杖を振りながら、軽く自己紹介をする。すると、ヴィリエが険のある声を
投げてきた。
「ギーシュ? なんのつもりだ?」
 明らかに不愉快そうな眼が向けられてくる。
「まさか、決闘の邪魔をしようなんていうんじゃないだろうね?」
「邪魔をするだって? まさか! そんな無粋なことをするものか」
 大仰に手を広げて、否定を示す。こういうことは、多少芝居っ気が必要なものだ。
「ただ、性分というのかな。こういった多くの観衆が集まる中では、どうにも体がうずいてしまってね。
何か自分も注目を集めたくなってしまうんだよ」
 言いながらも軽くバラの香りを楽しむ仕種を取り、平民の使い魔の方へ目を向ける。
「それに、そちらの使い魔君にも少し興味が湧いてね」
「興味……?」
 訝しむ平民に、軽く頷いてみせた。
「魔法が使えない身でありながら、どこまでも貴族に立ち向かっていく。そんな平民がいることに、
何故か素直に感動してしまったようだ」
 言い終われば、ギーシュは杖を小さく振った。すると、バラの造花から花弁が1枚零れ、使い魔の
許へと飛んでいく。そして、それはギーシュの掛けた錬金の魔法で剣に変わり、黒髪の少年の傍に
突き刺さった。刃渡り70サント程のミドルソードだ。
「判るかい? それは剣、君たち平民が僕たち貴族に抗うために生み出したものだ。本気で決闘を
するつもりなら、その青銅の刃を手にしたまえ」
 そこまで言うと、ギーシュはヴィリエに向き直った。
「失礼、ヴィリエ。横槍を入れてしまったね。けど、君だとて丸腰の平民が相手ではつまらない
だろう?」
 肩をすくめながら言えば、ヴィリエは声を上げて笑った。
「ハッハ、君も酔狂だな、ギーシュ? まあ、別に武器を与えるくらい構わないさ」
 もっとも、とヴィリエは付け加えた。
「今更そいつに勝ち目が増えるとは思えないけど?」
 ヴィリエが辛辣に言った通りか、既に使い魔の少年は限界に見える。自分で贈っておいてなんだが、
とても剣を取って闘える様な状態ではなかった。
 ギーシュはそう思ったが、一方、黒髪の少年の方は剣に手を伸ばそうとする。しかし、それは
直前で遮られた。彼の主、タバサによって。
「駄目、これを取ったら、相手はもう容赦しない」
 小さく首を振りながら告げるタバサ、その表情は、心なしかいつもの無表情と違って見えた。
そして、それを向けられた方は軽い笑みで応えている。
「言ったろ……? 俺にも、意地があるって……」
 言いながら、タバサの制止をやんわりとどけ、剣に手を伸ばす。
「そりゃ、痛いのは嫌だ……死ぬのだって嫌だ……」
 だけど、と使い魔は続けた。
「あんな奴に、負けたくねえ……勝ち目があろうと、なかろうと……」
 瞬間、その半開きの目が燃え上がる。
「下げたくねえ頭は、下げられねえっ!」
 言い放った言葉と共に、その手が剣の柄を握り締めた。

~続く~


新着情報

取得中です。