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萌え萌えゼロ大戦(略)-47a



「……なっ!?」
 トリステインの王宮にてフィリップ三世が書簡を開く二日前。ガリア
王国の王都リュティス。その中心にあるヴェルサルテイル宮殿の巨大な
王城『グラン・トロワ』の謁見の間で、トリステイン王国の密使である
一人の竜騎士が絶句した。
「そ、それでは我が国には何の利益もないではありませんか!」
「……そんなことはないだろう?卿の言ったとおり、貴国の生ける伝説、
『烈風』どのを治療することができる。それ以上のことは何も書かれて
いないぞ」
 絶句する竜騎士を、玉座に座するガリア王、ルイ一三世が肘をついたまま
その王権の証である整えられた青い顎髭をなでつつ見下ろす。その顔には
絶対的な強者の笑みが浮かんでいた。
「我が忠臣は貴国の望みを叶えるだろう。他に何か言いたいことはあるか?」
 先代のロベスピエール三世と異なり、ルイ一三世は若く好戦的な野心家だ。
トリステインのフィリップ三世とも幾度となく杖を交え、臣民からの
人気も高い。その彼が煮え湯を飲まされ続けたトリステインの伝説の
窮地を知り、交換条件を出してくることは想定されていた。しかし……
 竜騎士はうなだれたまま答えられなかった。無理もない。散々待たされた
あげく、わずかでもこちらの要求を通すか、それとも全部なかったことに
されるか。その様子を、ガリア王は自身の質問への肯定と受け取った。
「本来ならば卿をもてなす宴を開くべきだが、今は時間が惜しいだろう。
フィリップ三世陛下への親書をしたためる故、しばし待て」
 ルイ一三世はそう言うと、指を鳴らす。即座に小姓が用意した火食い鳥の
羽根ペンと羊皮紙を王の御前に掲げる。ガリア王はさらさらと流麗な筆致で
親書をしたためると、懐から宝石がちりばめられた精巧な銀細工の杖を
取り出し、一振りする。その動きに合わせて親書が巻き上がり、封蝋され、
花押が捺された。
 その親書を、小姓が竜騎士の前に持ってくる。それを受け取り、失意を
隠すことなく退場する竜騎士。その姿が見えなくなってから、控えていた
重臣が王に注進する。
「陛下。『烈風』を亡き者にするまたとない機会ですぞ。それを……」
 重臣はそれを最後まで言うことができなかった。王が素早く立ち上がり、
その豪奢な襟首を掴んでいたからだ。
「お前は……俺を『烈風』に勝てないから誅殺した臆病者と、歴史に
名を残させたいのか!」
 襟首を捕まれたまま持ち上げられ、重臣は泡を吹く。ガリア王はそれを
見て吐き捨てるように言う。
「『烈風』とは、いずれケリをつける。分かったか!」
 そう言って、ガリア王は重臣を緋毛氈の上に放り投げた――


「これは……おのれルイめが!」
 親書に目を通したフィリップ三世は、怒りとともに親書を真っ二つに
引き裂いた。その様子に、あかぎが尋ねる。
「いかがなされましたか?」
「どうもこうもないわ!あの男、よりにもよって『こちらで加療する故、
烈風どのをリュティスまでお連れいただくよう』などと書き寄越しおった!
これではこちらには何の益もないではないか!」
 腹に据えかね今にも火を噴く勢いの王に、あかぎは静かに言葉をかける。
「あちらも焦っておられるようですわね。何しろ『毒』の正体と治療方法を
知るのはこちら、治療できるメイジはあちら、ですもの。
 ですが、ある意味これで良かったのかもしれません」
「どういうことだ?」
 王は興奮冷めやらぬままあかぎをにらみつける。その怒りを優しく
静めるように、あかぎはゆっくりと落ち着いた様子で言う。
「治療が必要な人間がもう限られてしまっているからです。
ド・マイヤールさまが倒れてすぐ、私が識別救急のカードを使ったのは
覚えておられますか?」
「う、うむ。余に『在隊治癒可能な微傷者』の緑のカードを渡しおったな。
余を葡萄か羊毛のように扱いおって。あのカードがこれに関係するのか?」
 王は逆に問う。

 識別救急――トリアージの概念は、赤十字国際条約で禁止されている
『差別的治療』に当たるとして導入には慎重だったものの、大日本帝国
陸海軍における最前線の野戦病院ではこれなくしては成り立たず、軍医
関係者のみ分かる変則的なものとして導入された。
 だが、これは貴族社会においては時によって貴族よりも平民の治療を
優先するという、社会の根底を揺るがす禁忌に触れるものであり、実行に
当たっては実際にあかぎに面と向かって抗議した『水』メイジもいた。
しかし『キョウリュウ』の『毒』の正体を知る唯一の人間が行うことで
あるため、王命によりトリステイン・アルビオン連合艦隊の残存将兵
全員に対して実施されていたのである。

 王の問いに、あかぎはその目をまっすぐ見て答える。
「はい。黒いカード――『助かる見込みのない死者』は別にして、赤い
カード――つまり『担架で搬送しなければならない重傷者』を、私は
全部で六枚出しました。
 『キョウリュウ』の心臓に杖を突き立てたアルビオン空軍の三人、
『キョウリュウ』の動きを止めた『烈風』ド・マイヤールさま、そして
ご自身の大隊を『キョウリュウ』の間近で指揮し続けたド・ギンヌメール
伯爵さまと、ド・ワルド子爵さま。
 そのうちすでに二人が亡くなっておりますが、残る四人のうち、
ド・ギンヌメール伯爵さまとド・ワルド子爵さまはまだ動けますから、
何とかなりますわ」
「ん?ギンヌメールにはそちは『自分で歩ける徒歩可能者』の黄色い
カードを渡したのではなかったか。そちはもう一度カードを配ったのか?」
「はい。『キョウリュウ』の『毒』の影響は、時間が経ってから現れる
ものもあります。ですので、艦隊がトリスタニアに戻ってからすぐに、
もう一度お配り致しました」
 あかぎの言葉に王はうなる。あかぎが渡したカードは黒もそれなりには
あったものの、ほとんどが緑と黄色ばかりで、黄色が一番多いと王は
聞いていたからだ。
 実際、原子力光線砲の攻撃と被曝の度合いにより、即死かもう助かる
見込みのない重体に陥るか、さもなくば何とかハルケギニアの治療だけで
持ちこたえられるレベルで落ち着いた者が多かった。だが、あかぎも
放射線の中長期的な影響についてまだ知らないことが多かったことを
知るのは、それから数年の時を必要としていた。
「陛下。この件、私にお任せいただけませんか?ド・マイヤールさま
だけでなく、より多くの人間が助けられるようにしてみせますわ」


 あかぎのその言葉から三日後、六騎の竜騎士に護衛された二台の竜籠は
一昼夜でトリステインとガリアの国境を越え、ガリア王国の王都
リュティスに到着した。
 最速の風竜と、同じく風竜の竜籠である。積載重量よりも速度を優先
しており、そのとおり、乗客に負担をかけない最大速度でここまで来た。
彼らを迎えたガリア空軍は、国境からの連絡が届くのとほぼ同時の到着に
驚きを隠さなかった。
「時間との勝負ですので、ご無礼を承知で急がせていただきました」
 フル装備のあかぎはそう言って、迎えたガリアの将軍をさらに驚かせる。
ハルケギニアでは見ない黒い髪の女が、見たこともない衣装と装備を
纏って竜籠から姿を現したのだ。その後ろから、金色の髪を縦ロールにした
トリステインの貴婦人が続き、もう一つの竜籠から軽量化を施した簡易
ベッドが『レビテーション』の魔法で浮き上がらせた状態で姿を現す。
その傍らには、ピンクブロンドの髪をショートカットにした若い貴婦人と、
それよりもやや年上のトリステイン貴族の青年が二人、ベッドと貴婦人を
守る騎士のごとく立つ。その様子に、ガリアの将軍は思わず一歩退いた。
「陛下の親書では『烈風』どののみをお連れするように書かれていたはずだが?」
「あら?『烈風』ド・マイヤールさまをこちらで加療する旨は書かれて
おりましたが、それ以外はダメとは一言も書かれておりませんでしたわ。
 私の助手としてド・モンモランシ夫人は必要ですし、時間との勝負故、
護衛のついでに一緒に治療するのは当然です」
 あかぎは将軍に向かってしれっとそう言ってのける。その様子に将軍は
隠すことなく歯がみした。

 あの後、あかぎは今回の治療を体験させ、後の治療を行うために
『水』メイジを要求した。前回同じ事を聞いたときには全員辞退したが、
今回はしばらくしてから手が上がった。
 それがかつて水の精霊との儀式を司っていたこともある貴族
ド・モンモランシ夫人。彼女とて異端の技に嫌悪感を抱いていたが、
同時にかつて精霊との儀式に失敗し没落した家を再興させたいとの思いも
あった。そうして悩んで天秤にかけた結果だということは、あかぎにも
痛いほどよく分かった。
 同時に、ギンヌメール伯爵とワルド子爵の治療も行えるよう、あかぎは
画策した。ワルド子爵は魔法衛士隊グリフォン隊の隊長だが、幻獣を
乗りこなす技に長けており、風竜に騎乗できたことは僥倖だった。
全員風竜に騎乗させ、護衛としてガリアにねじ込み、既成事実として
治療することにしたのだ。それを伝えようとしたときにミネルバ中尉の
訃報を聞き、あかぎは肩を落としたが、残る全員を救えるよう、とにかく
急いだのだった。

「……そういえば、貴君の名を聞いていなかったな」
「東方の果て、大日本帝国海軍聯合艦隊司令長官付き副官のあかぎと
申します。向こうでは将官待遇でしたわ。今はトリステイン王国に身を
寄せております故、今回国王フィリップ三世陛下の全権大使としてここに
立っております」
「覚えておこう。
 陛下がお待ちだ。貴君の言葉が嘘ではないことを期待しているぞ」
 忌々しげにそう言うと、将軍はきびすを返した。


 グラン・トロワの謁見の間。そこは今静かなざわめきに支配されていた。
 玉座に片肘をついて座する王を前に、遙か東方からやって来たという
女将軍が少しも臆することなく立つ。それは臣下の礼ではない。その証拠に、
女は身につけた武器の一切を取り上げられてはいなかった。王の命令だが、
それ故に、居並ぶ重臣たちはその見たこともない巨大な盾のような武器が、
両脚を包み込む鉄の長靴が、自らの主君にいつ牙をむくことになるのか
気が気でなかった。
「貴様のことは聞いている。あのがらくただと思わせていた『竜の羽衣』を
指揮し、かの憎き敵に痛打を浴びせたとな。
おまけに貴様本人もとてつもない治癒魔法の使い手だと聞いたぞ」
 そう言ってにやりと笑うガリア王ルイ一三世の先制攻撃。ガリア王国の
情報網をもってすれば、観戦する駐在武官すら配置していない戦場に
おける情報すら把握しているという余裕の表れ。だが、あかぎはそれを
にっこりと受け流す。
「それは光栄ですわ。ですが、早く本題に入っていただかなければ困ります」
「な……貴様!陛下の御前であるぞ!」
 その余裕の表情にいきり立つ重臣たち。しかし、あかぎは笑みを
崩すことなく言った。
「今の私たちには時間がありませんの。
それをわざわざここまで呼びつけておいて、さらに引き伸ばし……本当に
今回被害を受けた人たちを助けたいと思っているのですか!?」
 笑ったままのあかぎだが、そのにじみ出る迫力は並み居るガリアの
重臣たちを気圧す。そこに拍手の音がする。重臣たちの列が割れ、
そこにいたのは青を基調としたガリア南薔薇花壇騎士団の騎士服に身を
包み、片目を隠すような緑がかった長髪に眼鏡をかけた、理知的な紅顔の
美少年だった。
 少年騎士はくいと眼鏡を直すと、あかぎの前に進み出る。
「あなたの言葉はまさに正論です。今のぼくたちにはこの一秒はまさに
黄金の砂時計。どんな宝石よりも尊い」
 そう言って、少年は右手の白手袋を外してあかぎに差し出す。
「あなたは?」
「おや?今回ぼくを指名したのはあなたではなかったのですか?」
「……遅いぞ。マクシミリアン」
「申し訳ございません。陛下。ヴァルハラに旅立つ騎士たちを放って
おくことはできませんでした」
「まったく。天才と誉れ高きお前も、運命には勝てんか」
 ガリア王の呆れたような声に、あかぎは驚いた視線を少年騎士に向ける。
「はじめまして。異国の将。ぼくがガリア王国南薔薇花壇騎士団の
マクシミリアン・ラルカスです」
 そう言って、ラルカスはあかぎと固い握手を交わした。


「面白いですね」
 あかぎから治療方針を聞いたラルカスの第一声はそれだ。
「人の生命を司る設計図がそんなところにあったなんて。とはいえ、
女性に限れば新たな命を宿す子宮の側ですし、そう考えれば納得できます。
提供者を同性の兄弟姉妹に限るのも、設計図が近いという理由ですね?」
 うんうんと納得するように首肯するラルカス。そこにあかぎが続ける。
「あなたにお願いしたいのは、提供者への麻酔と患者の拒絶反応の滅殺です。
私の国のやり方だと、患者は命は助かってももう子供がつくれない体に
なってしまうの。こっちの魔法だと、それを回避できると思うのよ」
「つまり、『水』の流れを操作して、書き換えた設計図が正しく機能する
ようにする、ということですね。そちらのド・モンモランシ夫人も
『水』のトライアングルだそうですが、シャルル王子殿下には及ばぬものの
まもなくスクウェアに達するぼくの方が向いている、と」
「難しいかしら?」
「いえ。ぼくに任せようと思ったのは賢明な判断でしたよ。他のメイジなら、
そもそもやろうとさえ思わないでしょうしね」
 そう言って、ラルカスは不敵に微笑んだ。

 あかぎが提案した治療方法――それはまだ大日本帝国でも臨床実験
段階にすら至っていない骨髄移植だった。台湾の海軍秘密試験場で発生した
小規模な臨界事故の被害者を死後解剖した結果からたどり着いたそれを、
あかぎはこの異世界で実現しようとしていた。


 一方、治療を行うためガリア王国の王都リュティス郊外のサナトリウムに
移動したカリンたちの前に、一人のガリア花壇騎士が現れる。取り急ぎ
取り付けたような右の義足に松葉杖をつき、つるりとはげ上がった青年
騎士は、警戒するギンヌメール伯爵たちを横目に、『レビテーション』で
浮き上がった簡易寝台に横たわるカリンに話しかける。
「やっぱり。カリン・ド・マイヤール、きみだったか」
「……お前は……誰だ?」
「おいおい。おれを忘れたのか?」
 カリンの言葉にやや気分を害した青年騎士。だが頭をなでたときに
その理由に気づいたのか、辺りを見回し出しっ放しのモップを見つけると、
それを引き千切って頭に載せる。
「これなら分かるか?」
「……お前……!ペルスランか!?」
「やっと思い出したか。そうだよ。おれだよ、カリン」
「ペルスランだと……!?貴卿、ガリア王国東薔薇花壇騎士団団長の
ジャン・ペルスラン卿か?」
 その名を聞いてワルド子爵が目を見開く。それを聞いて、ギンヌメール
伯爵もカリンの姉たちも、驚いた視線をペルスランに向けた。
「いかにも。吟遊詩人が謳う、天に挑んだ愚かな竜騎士だ」
「……生きて……いたんだな」
「ああ。八千メイルから墜落死する寸前でなんとかな。その代償に二度と
飛べなくなったが。
 だが、陛下はそんなおれを団長に据えたまま今回の戦に臨んだ。
おれも艦隊を率いて陛下の信頼に応えようとしたんだがな……結果は
この有様だ。フネは爆沈したが、またおれは生き残った」
 感慨深く、苦しそうに言葉を紡ぐカリンに、ペルスランは複雑な笑みを
向ける。慰めの言葉をかけようとしたカリンだが、その前にペルスランが
にかりと笑った。
「……だがな、これだけ失敗したにもかかわらず、もう戦えなくなった
おれを陛下はまだ必要としてくれる。
 信じられるか?カリン。陛下は、おれをシャルル王子殿下の御側役に
命じて下さった。殿下と、未来の奥方様、そしてお子様をお守りする
大役を、おれに授けて下さったんだ」
「ペルスラン……おめでとう。よかったな」
「ああ。だから、カリン。お前も『毒』なんかに負けるなよ」
 真顔で言うペルスラン。カリンは、彼が怪我を押して自分を激励に
来てくれたと今更ながら知った。
「……負けるものか」
「それでこそ『烈風』だ。いつかまたあの店で祝杯をあげよう。じゃあな」
 軽いガリア式の敬礼をして、ペルスランは去って行った。その消えた
背中に、ギンヌメール伯爵が言う。
「……我々は、ガリア王という人物を誤解していたのかもしれないな」と。


「……これは……」
「なんということでしょう……」
 先にカリンたちが向かったサナトリウム。その大ホールを見てあかぎと
モンモランシ夫人は絶句する。
 本来は通る必要のない場所。だが、ラルカスはあえてここを通った。
「……これが……ぼくたちがあなたを欲した理由です」
 そう言って、ラルカスは拳を握りしめる。その言葉からは、たとえようの
ない深い悲しみがにじみ出る。
 そこには――血と漿液、そして排泄物のにおいが充満していた。全身が
焼けただれ、膿にまみれた者。かすれるような声で横を通る彼らに
「み、水……」とだけ口にした者。吐瀉物と汚物にまみれ、それを止める
術を失った者――末期的な放射線障害の患者たちがそこにあふれていた。
「彼らには『治癒』の魔法が効かないんです。ぼくたちは……ただ彼らが
死んでいくのを見送ることしかできない」
「ミスタ……」
「あなたには見て欲しかった。この現実を。
 何が天才だ。ぼくには、彼らの苦しみを和らげることすらできない……」
 あかぎが言葉をかけようとするが、ラルカスはうつむいたまま自嘲するように
言う。そこに、彼らを見つけた従軍看護婦姿のガリア花壇騎士が走り寄る。
その帽子に飾られた薔薇の部隊章から、彼女もラルカスと同じガリア
南薔薇花壇騎士だと分かる。
「ラルカスさま!」
 寄って来る彼女から見れば子供でしかないラルカスだが、それは上司に
助けを乞う部下のようだった。ラルカスは軽く頷くと、彼女が案内するまま
ある患者の許へと向かう。あかぎとモンモランシ夫人も、二人の後を
追った。
「気をしっかり!ラルカスさまが来て下さいましたよ!」
 女騎士はそうベッドに横たわるぼろぼろの患者に声をかけた。
聞けば、彼は桃山飛曹長が上空から見た『キョウリュウ』との戦いで
胸に杖を突き立てようとして、その皮の厚さに阻まれたらしい。
彼の部隊の竜騎士たちはもう全員ヴァルハラに向かってしまった、とも。
 ラルカスはベッドの竜騎士の手を握ると、先程までの弱気などみじんも
感じさせない口調で言う。
「ぼくが分かるか?今、トリステインからお招きした、東方のメイジどのから
みんなの治療法を伝授してもらうところだ。
 もう少しだ。だから……もう少しだけ待ってくれ!」
 ラルカスが手に力を込める。しかし――竜騎士は聞こえぬほど小さく
何かを言うと、そのまま力が抜けたようにラルカスの手をすり抜けた。
にわかに慌ただしくなるその場所を離れ、ラルカスは言った。
「……行きましょう。もう、今のぼくにできることはない」
 ラルカスはあかぎたちに顔を見られないように歩き出す。
二人はその後ろをついていくことしかできなかった。


 あかぎたちが治療室の前に到着すると、そこにはカリンたちだけでなく、
王宮『グラン・トロワ』の警護をしていたはずの西百合花壇騎士がいた。
カリンの姉は術式で腰のあたりをまくる必要があると伝えてあるので、
予定通り病人服に着替えていた。
 何故中に入らないのかとあかぎが問うと、騎士は「まもなくこちらに
陛下がおいでになります」と答えた。
「……時間が惜しいって言ったこと、ご理解いただけなかったのかしら」
「まあまあ。あなたの技をご自身の目で見たいのでしょう」
「はぁ。手術中は余計なことを考えたくないのに……」
 ふつふつとわき上がる怒りをなだめようとするモンモランシ夫人に、
あかぎはがっくりと肩を落とす。それまでの印象とは異なったあかぎの
リアクションに、モンモランシ夫人だけでなくラルカスもくすりと笑った。
 それから程なくしてガリア王がその場に到着する。王は悪びれもせず
手を上げると、あかぎの前に立った。
「悪いな。貴様の手腕を俺の目で見たくなった」
「それは構いませんが、そういうことでしたなら前もってご連絡を
いただかなければ困ります」
「ふっ。俺にそこまでずけずけとものが言えるヤツはこの国にはいない。
 どうだ?俺のところに来ないか?いくら貴様が有能な将軍でも
トリステインでは貴族の地位にも就けまい。とはいえ、いきなり爵位を
やるとうるさいのがいるからな。とりあえずシュヴァリエとして、
その禄の倍を出そう。それか、側室として囲ってもいいぞ」
「身に余る光栄ですが、謹んでご辞退させていただきます」
「おい、即答か。普通ならそこで少しは悩むだろうに」
 あかぎの言葉にガリア王は一瞬気分を害した顔をした。だが、すぐに
それを笑い飛ばした。
「まぁいい。このハルケギニアの人間ではない貴様には貴族の地位も
王の側室となるのも興味はないということか。ますます気に入った。
 確か、貴様はトリステインでは商人として身を立てていたな。
それなら……」
「申し訳ございませんが、私の扱う『ミジュアメ』は、トリステイン王国
国王フィリップ三世陛下より国外への販売を制限されておりますので。
誠に申し訳ございません」
「ちっ。フィリップのヤツ、相変わらず抜け目のない。クロステルマンに
アストン、モット……こっちに向けているだけでも『烈風』だけじゃなく
いいのが集まっていやがる。
 仕方ない。今回は引き下がろう。だが、トリステインに飽きたら
いつでもガリアに来い」
「考えておきますわ」
 そう言って、あかぎはにこやかに微笑む。そしてカリンとその姉を
連れて治療室に入ろうとしたとき――ラルカスが待ったをかけた。
「待って下さい。あかぎどの、あなたはさっきぼくに『生命(いのち)の
設計図を移すのは同性の兄弟姉妹から』と言いましたね。
どうして『烈風』どのはそちらの女性なのですか?」
「何だと?」
 ラルカスの言葉に、ガリア王の視線が鋭くなる。皆の視線が一堂に
集まる中、カリンの姉は臆することなく言った。
「我が家の男子はカリンただ一人にございます。弟の命が危ういとき、
そこに手をさしのべない姉がどこにおりましょう」
「……ほぉ。未知の技を最初に試されて死ぬかもしれんというのに、
たいした度胸だな」
 ガリア王は試すようにカリンの姉を見下ろす。彼女はその視線から
目をそらすことなく続ける。
「殿方に騎士道がございますように、わたくしども女にも婦道がございます」
「なるほどな。……マクシミリアン。お前もガリアの騎士として、負けるなよ」
「もちろんです。この杖に、いえ、ガリア花壇騎士の名にかけて、東方の
技を我が物として見せます」
 ガリア王の言葉に、ラルカスは姿勢を正し踵を鳴らしてそう答える。

 そして――ハルケギニア史上初の術式が開始された。




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