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機械仕掛けの使い魔-第14話 後編



機械仕掛けの使い魔 第14話~後編~


「出やがったなぁ、デク人形ッ!!」
 振り返り様にガトリング砲を上空に向けるクロ。その銃口の先には、昨夕に失態を演じさせられた相手、フーケのゴーレムが悠然と立っていた。
「ちっ、今日は乗ってねぇか…」
ズームせずとも解った。今日のゴーレムは、フーケを肩に乗せていない。いれば狙い撃っていただろうが、ゴーレム単体ではいくらガトリング砲を叩き込んでも、焼け石に水だ。

「クロ、どうする? 一応言っとくけど、ここじゃ”アレ”は使えないぜ」
いつの間にか隣に並んでいたミーが聞く。同様にガトリング砲を構えてはいるが、昨日の顛末を見た以上、下手に撃っても無駄だと理解しているようだ。
「わーってるよ。コイツをいくら攻撃しても、ほとんど意味がねぇ。アレを動かしてるヤツを叩く」
「ガッテン。だけど、その動かしてるヤツってのは、どこにいるのさ?」
辺りを見回しても、フーケらしい人物の姿は見えない。クロはなんでも斬れる剣を抜刀し、ゴーレムに向かって走り出した。
「オメーらで探して来なッ!」

 クロのダッシュを合図に、全員が散らばった。固まっていてはいい的だが、30メイルのゴーレムからすると、散開した人間サイズの目標は、追うだけでも困難だろう。
 加えて、ここは森林地帯のど真ん中。ゴーレムの視界から姿を隠す場所はいくらでもある。フーケ捜索に集中したとしても、そうそうゴーレムに見つかる事はないはずだ。

 そして今、ゴーレムに立ち向かったのはクロである。型にはまった戦い方など通用しないこの黒猫が相手になった時点で、フーケの命運は、決まった。

 ゴーレムに向けて走っていたクロは、そのまま股下をくぐり、駆け抜けざまに両足首を切断した。両足首の先を失い、轟音と共に前のめりに倒れるゴーレム。
 これが普通の生物であれば、この時点でまともに動けなくなっていただろう。しかし、ゴーレムは違う。術者の精神力と素材が続く限り、いくらでも身体を再生出来るのだ。
 昨日のように、ゴーレム周囲の地面がモコモコと蠢き、切断された両足首辺りに集中していく。そして、
「デビル化したミーくんみてぇだなぁ…」
その再生の様子に、過去に戦ったデビルミーを思い出していたクロだったが、そうこうしている間に、ゴーレムの自己修復が完了した。
新しい足を得、両手を付いて、いざ立ち上がらんとするゴーレム。

「ま、どーでもいっか。ホレ」
 そんなゴーレムの両足首を、クロは再び、切断した。再び失われる足、再び前のめりに倒れるゴーレム、再び響く轟音。
まるで先程の光景を、巻き戻してもう一度見ているかのようだ。

 足首を失った為、ゴーレムはまた周囲の地面から土を補給し、新たな足首を作り出す。
「ホレ」
そして立ち上がろうとしたところで、三度クロは、足首を切断した。
「おいおいフーケさんよぉ! ゴーレムちゃんが痛い痛いって泣いてるぜぇ!?」
なんでも斬れる剣を肩に担ぎ、鼻をほじりながらフーケを挑発するクロ。その顔は、邪悪そのものと言えた。

 これが、クロ流の対ゴーレム時間稼ぎ、である。
 人間に限らず、足のある生物の足止めに最も手っ取り早いのは、足自体を破壊する事だ。30メイルのゴーレムが相手では、常識で考えれば足の破壊など簡単には行かないが、クロは話が違う。
過去に何度も、ゴーレムの足首より太く、分厚く、硬い物体を一刀の元に切り捨てて来たのだ。土を切り裂くなど、造作もない。
 ゴーレムが立ち上がろうとしたら、足首を切断して転ばせる。修復して立ち上がろうとしたら、また切断して転ばせる。
 オマケにゴーレムからは、クロへの反撃が一切出来ない。手は届かないし、修復中の足は動かせない。
さらに言えば、緩慢なゴーレムの足など、すばしっこいクロには脅威足りえない。修復後のゴーレムの足はクロには当たらず、立ち上がろうとすればまた切断される。

 目を覆いたくなるようなハメ技が、開始された。


 散開したフーケ捜索メンバーたるルイズたちは、それぞれが別の場所にいるのだが、それでも全員が、1点に目が釘付けになった。
 ゴーレムが立ち上がったかと思うとすぐに倒れ、轟音が辺りを揺らし、また立ち上がったら倒れる、といった、意味の解らない行動を繰り返しているからだ。
 そんなメンバーの中、ただミーだけが、その意味を理解していた。
「また派手にやってるなぁ、クロ…」

 クロの手口を知っているミーだけが、おおよそではあるが、ゴーレムの足元で一体何が起こっているのかを把握していた。
元の世界でも、相手が哀れにすら思える戦い方をしているクロだ。あの、ひたすらに立つ、倒れるを繰り返しているゴーレムも、クロの被害に遭っているのだろうと、僅かに胸を痛めるミーであった。

 ゴーレムと周囲へ、交互に視線を移しながらフーケを探していたルイズは、異変を感じ取った。
 なぜかは解らないが、オーラを感じる。それも目で見えそうなくらいの、激しい物を。
「何かしら…、この、近寄りたくはないけど、妙に同情を誘われる感じは…」
気配の立ち上る大元と思われる場所に、忍び足で近づくルイズ。

 と、横の茂みからガサッ、と音がした。
「――――ッッ!?」
先程の気配はフーケの罠か、と呼吸が詰まったルイズだが、そこにいたのはキュルケとミーだった。
キュルケは人差し指を口の前で立て、ミーはルイズが検討を付けていた辺りを指している。
「あなたも感づいたのね、ヴァリエール」
「って事は、ツェルプストーとミーも?」
小声のやり取りに頷くキュルケ。その横でミーが、少し目を丸くして、ルイズの後方に視線をやった。
「タバサちゃん…それに、ルイズちゃんのお姉さん?」
「え?」
後ろを振り返ると、そこにはタバサとエレオノールの姿が。どうやらこの二人も、この辺りから発せられるオーラに感づいたようだ。



144 :機械仕掛けの使い魔:2011/04/22(金) 22:40:10.93 ID:bIxJCUQy

 だがここで、1つ疑問が浮上する。
「あら、ミス・ロングビルはいないの?」
ゴーレムが現れたというのに、小屋裏側で警戒していたはずのロングビルが、一切姿を見せていないのだ。小屋裏手なら、ゴーレムが現れれば嫌でも目に付く。
「そう言えば、それなりに森の中を探したけど、一度も姿を見ていないわね…」
キュルケの質問に、ルイズが答える。
「私も見ていないわ」「ボクもー」
エレオノールにミーも同様らしい。タバサは黙ったままだが、同じく見ていない、と受け取っていいだろう。見かけたなら、その情報を提示するはずだ。

「ヴァリエールが気付いたんですもの、ミス・ロングビルもここに来ててよさそうなものだけれど…」
「それ、どういう意味よ?」
 キュルケを睨むルイズ。こんな時でも憎まれ口は忘れないようだ。
「ともかく、気配の正体を確かめましょう。もしかしたら、フーケかもしれないわ」
リーダーシップを発揮するエレオノールを先頭に、ルイズたちが付き従った。ミーはエレオノールの隣を、進行方向にガトリング砲を構えながら歩く。

 足音を立てないよう、こっそりと進む。果たしてその先には――
「あのクソ猫ッ! デタラメも大概にしときなってのよ!」
空気を赤々しく歪める、ロングビルがいた。普段からは考えられない乱暴な口調で、恐らくクロと思われる相手に、ひたすらに悪態をついている。

「み、ミス・ロングビル…?」
そーっと、ルイズが声をかけた。しかし、届かない。相変わらず怒りにまみれた言葉を発し続けている。
「足は当たらないし、簡単に切り落とされるし…! 何だってのさ、もう!」
気付く気配のないロングビルに、今度は近寄り、肩をぽんぽんと叩く。
「うひゃいっ!?」
叩かれた瞬間、変な叫びと共に飛び上がったロングビルは、機敏な動作でルイズから距離を取り、引きつった笑みを浮かべた。
「な、なな何だ、ミス・ヴァリエールじゃないですか…。お、脅かさないでくださいよ…」
脂汗を浮かべ、声も上ずっているロングビル。
 その後方で、今まさに立ち上がらんとしていたゴーレムが、粉々に砕け散った。

「その女から離れなさい、ルイズ!」
 杖を引き抜き、ルイズに怒鳴り付けるエレオノール。突然の事に、対応が遅れたルイズ。
そんなルイズを、ロングビルは羽交い絞めにし、手にした杖をエレオノールに突きつけた。
「動くんじゃないよ! 動いたら、このお嬢ちゃんの首をへし折るからねぇ!」
一喝し、直後に小声で何かを呟いて、杖先をエレオノールの手元に向ける。すると、エレオノールが引き抜いた杖が、土くれになってボロボロと崩れ落ちてしまった。
「同じトライアングルって話だけど、妹に気を取られ過ぎてちゃ、ドット以下ってものさね」
手元からこぼれる土の感触に舌を打つ。確かにロングビルの言う通り、魔法の影響がルイズに及ぶのを危惧し、隙を生んでしまったのだ。

「他の連中も杖をこっちに寄越しな。そこの猫は、武器全部よ」
 全員が、言われた通りに手元の杖や武器を、ロングビルに向かって投げる。地に落ちたそれらを、ロングビルは足で蹴り、離れた位置にやった。
「ま、まさかミス・ロングビル…。あなたが…」
苦しそうな表情で、ルイズがロングビルに問う。
「そうさ、あたしがあんたたちの探してた『土くれ』のフーケだよ」
その答えを、ロングビル改め、『土くれ』のフーケは楽しげに口にし、ルイズの身体を検めた。そして、彼女の杖を探し当て、取り出す。
「あんたの魔法は特に危険だからねぇ。悪いけど…」
悪い、と言いながら、ルイズの杖を二つにへし折った。その口調には悪びれた様子が感じられない。

「さて、それじゃ改めて、お嬢ちゃんにお願いしようかしらね」
「お、お願いって、何よ…」
 抵抗も出来ぬまま杖を折られた悔しさと、羽交い絞めにされている苦しさに顔を歪めながらも、それでも強気な姿勢を崩さないルイズ。
そしてミーたちは、ルイズを助けたくとも、フーケの脅しのせいで動けない状況に歯噛みしていた。
「なに、簡単な事さ。お嬢ちゃんの使い魔…あの猫ちゃんに、破壊のゴーレムを動かしてほしい、それだけよ」
「な、何をバカな事を! アレが動いたら、国が1つ潰される危険だってあるのよ!」
 破壊のゴーレムを知る、この場で数少ない人物であるエレオノールが、悲鳴にも似た声で批難する。しかし、フーケはそれを鼻で笑った。
「破壊のゴーレムの鍵を握るのは、あの猫ちゃんなんだろう? だったら、制御する術を知ってるんじゃないのかい?」
 フーケの推理に、エレオノールがハッとする。フーケに、クロが破壊のゴーレムの鍵だと言ったのは、間違いなく自分だ。
だが、ゴーレムの危険性ばかりに目が行き、制御という方向に考えが及んでいなかった。
 クロに制御させる事で、破壊のゴーレム研究を前進させる――どうして、今までこんな、簡単な事に気付かなかったのだろう。己の愚かさに、きつく歯を食いしばるエレオノールだった。

「しかし、妙だねぇ」
 振り返り、小屋のあった場所へ向かおうとしたフーケが、首を傾げた。
「そこの研究員様は、何であたしがフーケだって、解ったんだい?」
視線は、エレオノールへ。そのエレオノールは、フーケの後方を指差した。
「…あなた、ルイズに驚いた瞬間、ゴーレムの制御を手放したでしょ? ゴーレムが崩れたからよ」
「あぁ、なるほど――」
その指の指し示す方向に、フーケが首を巡らせた。するとそこには、
「――ねェェぇェぇェぇッっッ!?」
真っ白な、そして中心にやわらかそうな肉球の付いた足が、目の前一杯に広がっていた。

 足は、崩れたゴーレムを捨て置き、騒ぎを聞いて駆けつけたクロの物だった。そして、相変わらず原因不明に伸び、巨大化した足をモロに顔面で受けたフーケは、意識を手放した。
「あ、そっか。ゴーレムがいなくなったら、クロがフリーで動けるんだっけ」
「状況はよく解んねぇけど、コイツが例のフーケでいいのか?」
「そ、そうよクロ、よくやってくれたわ…」
ようやくフーケから解放されたルイズが、咳き込みながらも労う。そのルイズの背中を、軽くさするミー。キュルケとタバサは、蹴飛ばされた自分たちの杖と、ミーの武器類を回収していた。

「それにしても、こんな森の中で、よくここだって解ったわねぇ」
 感心したように呟くキュルケに、なんでも斬れる剣を収めながら、クロが答えた。
「しっかりとオメーらの騒ぎが聞こえたってのもあるけど、それ以上に…何つーのかな、勘?」
「お前にしちゃ、ハッキリしないなぁ」
答えながらも、何度も頭を捻るクロに、ミーが首を竦めた。
「いや、オイラにも解んねーんだよ。何となく、こっちで…」
ここまで言うと、クロが顔を背けた。
「こっちの方で…何だよ?」
「な、何でもねーよ。とにかく勘だ、カ・ン!」
珍しく慌てたように取り繕うクロ。その顔がほんのりと赤かったのは、誰にも見られる事はなかった。

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 気絶したフーケを後ろ手に縛り上げた一同は、小屋のあった場所、即ち破壊のゴーレム――バイスの元へ向かった。
 改めて見てみると、小屋は完全に破壊し尽くされているというのに、バイス自体には元々付いていたもの以外、一切傷跡が見られない。
クロやエレオノールの言った通り、恐ろしく頑丈なのだ。

「破壊のゴーレムは、ひとまず無事みたいね。後は、不可思議の箱がどこにあるか、だけど…」
 軽くバイスのボディを検め、一息ついたエレオノールが立ち上がったところで、タバサが前に進み出た。手には、何か箱のような物を持っている。
 チャコールグレー一色のその箱は、直方体の形状を取っている。1面だけ穴が2つ空いており、その対面となる面には、それよりも小さな穴が、中心に1つだけ空いている。
「…不可思議の箱」
言いながら、自分の後方を指差すタバサ。そこにあったのは、原形をとどめないほどに破壊された、元はそれなりに頑丈そうだった箱がある。
恐らくクロのガトリング掃射及びミサイル攻撃で破壊されたのだろうが、中に入っていた不可思議の箱も、バイス同様無傷で済んでいた。

「ってそれ、『ツインキャノン』じゃねーか」
 タバサの手元の不可思議の箱を見たクロが、目を丸くした。
「『ついんきゃのん』? あなた、破壊のゴーレムだけじゃなくて、これも正体を知っているの?」
発見から今に至るまで、呼称を不可思議の箱として扱っていたエレオノールが、何でもなさそうに全く違う名前を口にしたクロを見る。
「知ってるも何も、コイツはオイラの武器だぜ」
 言いながらタバサの元に近寄り、箱を受け取ると、小さな穴に自身の腕を挿しいれた。すると驚くほどに、全体のシルエットとしてしっくりと来る。
「そう言えば、ゴーが昨日、口走ってたわね。構造がどうの、って」
「あぁ、そう言やそうだっけか。まぁ、弾もねーし、こっちは本物のガラクタだ」
装着したツインキャノンを眺めたクロだったが、有用性がないと判断し、すぐに腕から外した。


「色々話もあるでしょうけれど、フーケが起きそうよ」
 少し離れた位置で、フーケの見張りを勤めていたキュルケの声がした。その足元で、フーケの体がもぞもぞと動く。
「フーケの杖は、ミス・ツェルプストーが持っているのね?」
「縛り上げた時に、しっかりと」
キュルケが胸の谷間を指差した。どうやら自分の杖同様、その谷間に隠してあるらしい。
「いいわ、そのまま持っていなさい。だけど色々と自重しなさい」
「何を自重すればいいのか、私には解りかねますわ」
恨みがましい目のエレオノールと、涼しげな顔のキュルケ。どうやら胸部に関する事柄は、エレオノールもルイズ同様、NGのようだ。

 呻き声と共に、フーケの目がうっすらと開かれた。何度か頭を振り、手放した意識を手元に手繰り寄せようとしている。
そして、意識してか無意識のうちか、視界に入ったバイスに手を伸ばそうとし、肩と手首に走った痛みに眉を顰め、そこで完全に目が覚めた。
 フーケの周囲は、完全にルイズたちに囲まれており、杖も取り上げられている。この状況で逃げ出す術など、ない。

「あたしとした事が、お子ちゃまやら猫やらにやられるとは、ヤキが回ったもんだね…」
 圧倒的に不利な状況にありながらも、悪態を吐くフーケ。しかし声には力がない。杖を持たないメイジがいかに無力か。
 ハルケギニアにおいて杖を奪われたメイジは、羽をもがれた鳥も同然である。メイジとして当然の知識である為、自分が今、どれだけ絶望的な状況に立たされているか、彼女は理解していた。

「…どうせあたしは、王宮衛士隊に引き渡された後に縛り首だ。だけど、処刑される前に教えてほしい」
 溜息と共に、フーケが言う。その相手は、クロだった。だがそこへ、ルイズが割って入る。
「私も、あなたに聞きたい事があるの。クロがあなたの問いに答えたのなら、あなたも、私の質問に答えてほしい。いいかしら?」
真摯な目だった。フーケは驚く。人質に取り、杖まで折った相手に、どうしてこの少女は、こんな目を向けられるのか、と。
「…解ったよ。その条件、従ったげるよ」

 両手が使えないにもかかわらず、器用に、寝転がった体勢から横座りの体勢に移ったフーケは、首をクロに向け、問うた。
「あんたは、破壊のゴーレムが一体何なのか、知ってるのかい?」
 その問いに、クロは空を見上げた。
 遠い異世界。今でも昨日の事のように思い出せる。その思い出を、この世界の空と新世界の空、そして偽りの空を重ねて見ながら、記憶から手繰り寄せる。

 初めは、助けられた。
 次は、笑った。
 そして、手助けした。
 最後は、殺し合った。

「…オイラがぶっ壊した、オイラの友達だ」

 振り返ってみれば、友達だった。

「友達…だって?」
 驚きに目を見張るフーケ。クロは、自分の左腕の肘辺りを、ゆっくりさすっている。
 クロは、サイボーグだ。きちんと修理が行われれば、その箇所に不具合が生じる事などありえない。しかしその仕草は、まるで生き物の、古傷が疼いているかのようなものだった。
「オイラがとどめを刺した。だからはっきりと言ってやる。バイスは、もう二度と動かねぇよ」
 断言するクロに、フーケは項垂れるしかなかった。  
「大層な名前の癖に、動かないのかい…。それじゃ、盗んだ意味なんて、ないじゃないか…」
「それよ、私が聞きたいのは」
 フーケの独白を、ルイズが拾う。
「あなたは平民の間で、義賊と言われているわ。悪い貴族にしか、盗みを働かない、って。
なのにあなたは今回、学院の宝物庫から、アカデミーの重要研究物を盗み出した。悪徳貴族なんて、一枚も噛んでいない物を。それは、一体どうしてなの?」
 詰問ではなかった。ルイズにとって、あくまでも純粋な、疑問。
 人一倍、貴族としての誇りを重んじるルイズである。正義感の強さもあり、平民を苦しめる悪徳貴族など、庇うつもりは一切ない
 だからこそ、武器屋で聞いた噂とは違う、今回の一件をフーケ自身の口から聞きたかったのだ。

 ルイズの質問に、一瞬は呆気に取られたフーケだが、すぐに鼻で笑った。
「簡単な話さね。金よ、金」
「金…? お金の為に…あなたは、平民の信頼を、裏切ったの?」
「平民の信頼? 知った事じゃないねぇ。勝手に祭り上げられてたらしいけど、ターゲットが悪徳貴族だったのは、そいつらの方が、金になりそうなお宝をしこたま溜め込んでたからさ」
「…それは、本気で言っているの?」
ルイズの顔が俯き、肩が震える。そんな様子を見てなお、フーケは酷薄そうな笑みを絶やさなかった。
「お嬢ちゃん、盗賊に夢見すぎなんじゃないのかい? 今回の破壊のゴーレムにしたって、アカデミー秘蔵のお宝なら、さぞかしいい金になると思って、やっただけさ」

「――ッ!!」
 キッと顔を上げ、右手を振り上げるルイズ。しかし、その手が振り下ろされる事はなかった。
「待って、ルイズちゃん」
「み、ミー!? て、手を離しなさい!」
ルイズの手は、ミーによって止められていたからだ。
「この人は、ボクたちに嘘をついてる」
「え…?」
 その一言に、ふっと力が抜けるルイズ。それを確認したミーは、ルイズの右手を離した。その目は、フーケの瞳を、じっと見据えている。

「この人の目、剛くんと同じなんだ」
「ゴーと、同じ目…?」
 コクリと頷いて、フーケに歩み寄る。
「守りたい誰かがいる。自分はどうなってもいいから、その誰かが幸せであって欲しい。そんな目をしてるんだ」
「…ハッ、な、何バカな事言ってんだい、あたしは…」
言い返そうとするフーケだったが、それは虚勢だった。目は泳ぎ、言葉も震えている。

「本当に、お金は必要だったんだと思う」
 記憶がフラッシュバックする。ミーがまだ、生身の身体だった頃。剛に助けられ、共に暮らした日々。
「でもそれも全部、ボクたちの知らない、この人の大切な誰かの為」
 サイボーグとなって間もない頃。怪我や病気の子猫たちを拾って、面倒を見ていた日々。
「確かにこの人は、悪党かもしれない。でも、悪人じゃないよ」
 自分を投げ打って、大切な誰かの為に尽くそうとする。そんな剛の目を、ミーはフーケに見たのだ。

 ぽんぽん、とフーケの頭を撫でるミー。
「あ…」
「そんな目をされたら、放っとけないよ。ボクも何か、力になれるかも知れないから、話してくれないかな?」
 硬い、そして冷たい手だった。だが、なぜかフーケにはその手が、暖かく、そして柔らかく感じられた。
こうして、頭を優しく撫でられるなど、何年ぶりだろうか。もう戻れない、郷愁の念にも似た悲しさと嬉しさに、フーケの目尻に、涙が溢れた。

 嗚咽交じりに、フーケは語る。自分が、アルビオン出身の元貴族である事。ある一件により、家名取り潰しとなった事。その一件の最中に出会った少女を匿い、養っている事。
女手1つでその少女と、匿い先である村の孤児たちを食べさせるには、名前を捨てて盗賊となり、高価な品々を盗み渡るしか方法がなかった事。
「――アルビオンが今どうなっているか、知ってるだろう?」
「王党派と貴族派の内紛が続いているわね。アルビオン大陸ほぼ全土を巻き込んでいるとか」
「…そんな状況じゃ、市場も崩壊するってモンさ。交易船は規制だらけで、ろくに食料や日用品が届かない。
数少ない物資の相場は跳ね上がって、今じゃエキュー金貨100枚あっても、3日食い繋げられるか怪しい」
「アルビオンの人々は、そんなに逼迫していたのね…」

 食料や物資が優先的に届けられるのは、ハルケギニアでは当然の如く、王族や貴族である。平民にはまともな量が行き渡らない。届いた物資の量如何では、平民はパン1個すら手にする事は出来ないのだ。
 その結果発生するのは、平民間の市場相場の、猛烈なインフレである。交易船のスタッフは、関税と、貴族派に接収され、数が少なくなり価値の高騰した風石のコスト確保の為に物資の値段を上げざるを得ず、
物資を仕入れた商人は食い扶持を稼ぐ為、高額な仕入額の元を取る為に値段吊り上げを余儀なくされ、平民は身の回りの物品などを売り払うなり、物々交換するなりして、身を切り詰めながらその日の糧を得る。
 しかもこれらは、停滞する事はない。内紛が終結するまで、あるいは終結後しばらくの間、悪化の一途を辿るのだ。それまでの間に、平民の生活がどれだけ崩壊するか――予想出来る者など、いない。
みな、その日1日の糧を得、明日の無事を祈るだけで精一杯なのだから。

「普通の宝物じゃ、もう、追いつかないんだよ…。だから、破壊のゴーレムを盗んだのさ。
アカデミー秘蔵の研究品となれば、好事家がそれこそ、今までの宝物が玩具に思えるくらい、高値で買ってくれるんじゃないか、ってね…」
 だけど縛り首なら、どんな額になっても意味がない、と最後に呟いたフーケ。その涙の雫が、眼下の土を湿らせた。
 義賊の仮面の裏に隠された、フーケの苦しみ。その場にいた誰もが、言葉を発せなかった。

 最後まで聞き、フーケの頭をもう一撫でしたミーが、ルイズに向き直った。
「フーケのやった事は、絶対に許されない事だと思う。だけど、この人がいなかったら、苦しむ人も大勢いると思うんだ」
「うん、それは私も解るの。でも…」
 法律に照らし合わせれば、フーケの行いは重罪である。極簡易な裁判の後、即日処刑されたとしても、文句は言えない。しかしフーケの処刑後、残された者たちはどうなるのだろうか。
 フーケに匿われているという少女と、孤児たち。悪徳貴族の圧政に苦しめられる平民たち。
 ルイズの中では、すでに答えは出ている。しかし、貴族としてトリステインに殉ずる以上、それを口にする事は、決して許されない。
 国家と平民。その板挟みに遭い、キリキリと、心を締め付けられているかのような錯覚に陥るルイズ。

 ルイズに共感するように、一様に押し黙る一行。
 だがここで、誰もが思いもしなかった者から、意見が飛び出した。
「待ちな。オイラにいい考えがあんだよ」
「クロ…?」
声の主は、クロだった。全員が、頭上に疑問符を浮かべる。
 そしてその後、クロの口から飛び出た”案”が、全てを丸く収める事となるのだった。



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