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萌え萌えゼロ大戦(略)-45



 彼らは轟雷の音とともに天空を翔る。
 最速の風竜ですら追いついていくことも叶わない高速で。
 その武器は光とともに撃ち出される細身の大砲。
 戦列艦の主砲をはじき返し、いかなる魔法ですら貫けなかった、
鉄の竜の鱗を易々と引き裂く威力に我らは畏怖した。
 しかし――彼らは、公式記録には存在しない。
 この日記も、私が死ぬまで誰の目に触れることもないであろう。
 彼らがどこから来て、何故我らに加勢してくれたのか、それを知ることは
できなかった。
 そう。歴史の影に埋もれることを彼らは選んだのだ……
 (アルビオン王国王立博物館所蔵
 サー・イプシロン・アレクシオス アルビオン王国王立空軍元帥の日記より)


「……ようやくか」
 武雄は上昇する自分と入れ替わりに逆落としで攻撃を仕掛ける濃緑色の
機体――震電の姿をその目に捉える。
 試作局地戦闘機『震電』の速度は400ノットを超える。実用上昇限度
一万二千とキロ換算で750km/hの高速は、来寇する超重爆撃機『超空の
要塞』B-29、そしてやがて現れるであろう『平和の守護者』B-36を撃墜
するために与えられたものだ。日本全土を灰燼に帰するこれらを撃墜できる
新型機を一刻も早く開発することが、大日本帝国海軍航空技術廠の鶴野
技術少佐、そして白田技術大尉たちの目的だったという。
その未来を知らない自分を、武雄は嬉しくもあり、また悲しかった。
 武雄がハルケギニアに召喚されたとき、米国最新鋭の超重爆撃機B-29は
中国から北九州の工業地帯を限定的に爆撃していたに過ぎなかったが、
白田技術大尉が召喚されたとき、陥落した沖縄を拠点として大挙来寇し
日本全土を焦土とする空襲を行っていたという。
 レイテ決戦に敗北し、挽回のしようもない敗戦への坂を転がり落ちる中。
最終艤装を行うべく横須賀から呉へと回航途中、すでに機能しない日本の
対潜哨戒をくぐり抜けた米軍潜水艦に輸送船ごと沈められたという海軍の
回天の希望だった超弩級空母型鋼の乙女『信濃』、そして破壊を免れた
最後の鋼の乙女開発拠点であった硫黄島陥落時、大本営の最後の希望であった
超重爆撃機型鋼の乙女『フガク』を起動直前で破壊されたことにより、
大日本帝国はついに落日の日を迎えたと聞いたが、そのとき、刀折れ
矢尽きた日本に残っていた鋼の乙女は、陥落寸前の沖縄への特攻作戦
『菊水作戦』失敗時に撤退するやまと以下最後の聯合艦隊を佐世保に
逃がすため、弾切れ状態にもかかわらず単機で盾となった駆逐艦型
鋼の乙女ゆきかぜと、フィリピンで陸軍が小破状態で放棄して米軍に
鹵獲された九七式中戦車・チハだけだったことを聞かされたあかぎの
心情は、彼には想像できるものではなかった。

 震電の機首に装備された四門の三〇ミリ機関砲は、たった一斉射で
『キョウリュウ』の右腕を吹き飛ばした。そのまま複座零戦では
考えられない発動機の馬力を生かした回避運動を行い攻撃の隙を与えない。
それに続いて、上空からたたみかける深紅の紫電改――桃山飛曹長の
四門の二〇ミリ機関砲が『キョウリュウ』の頭部を貫いた。複座零戦に
搭載されているものより改良されたものだけあり、同じ二〇ミリとは
思えないほど弾道の直進性などが安定していた。
「遅れて済まない」
「いや、俺もさっき来たところさ」
 桃山飛曹長からの通信が武雄に届く。武雄は冗談めかした返答をしたが、
雑音のない無線に、武雄はあかぎと白田技術大尉の労作を戻ったら
ねぎらおうと決めた。
『こっちでも全員確認したわ。そっちの状況を教えて』
 そこにあかぎの声が入る。武雄が簡単に状況を説明すると、あかぎは
『了解。私に任せて』とだけ答えて通信を終える。その直後、武雄の
複座零戦をはじめ、戦場にいるすべての友軍を緑色の輝きが包み込んだ。


「『レーガン』……沈みます……」
 『イーストウッド』指揮所に悲痛な声が消える。アルビオン王国の
最新鋭巡洋艦『イーストウッド』級は、今各所で爆発を繰り返しながら
高度を落とす僚艦『レーガン』が、新兵器の機密保持と鹵獲を防ぐため
巨大な爆発を残して消滅したことにより、この『イーストウッド』
ただ一隻のみを残すことになった。
「デビアス……」
 サー・アレクシオスは兵学校からの親友だった『レーガン』艦長の
名を呼び拳を握りしめる。『レーガン』からの退艦者はない。彼の指揮する
『イーストウッド』も傷つき、すでに船足は半分に落ちている。
トリステイン艦隊もすでに旗艦『ラ・レアル』と、わずか二隻を残すのみ。
戦闘開始から一時間も経過しないうちに、すでにトリステイン・アルビオン
連合軍は全滅の危機に瀕していた。
 サー・アレクシオスは未だ士気の衰えぬ視線で『キョウリュウ』を見る。
新たな『竜の羽衣』が加わり、『竜の羽衣』と『イーストウッド』級の
主砲以外ではまともに打撃が与えられなかった『キョウリュウ』に痛打を
浴びせているのが分かる。だが、まだ敵の足は止まらなかった。
 サー・アレクシオスはぱんと音を立てて真っ青な制服のよれを直した。
指揮所にいる士官たち――試験的な意味合いもあり、艦長である彼を
除きここにいる全員が女性だ――の視線が彼に集まった。
「事ここにいたり敵の足が止まらない以上、もはや打つ手は一つしかない。
 これより本艦は敵『キョウリュウ』に突撃し、主砲のゼロ距離射撃にて
敵の動きを止める。
 よって、必要な人員を残して退艦を命じる。君たちも退艦したまえ」
 サー・アレクシオスは指揮所を見渡す。だが、彼の言葉に応じる士官は
一人もいなかった。
「それはとても受諾できない命令です。艦長」
 彼女たちを代表するように操舵長の女性士官がそう言うと、
サー・アレクシオスはかぶりを振る。
「リネット君……いいやダメだ。君たちのような、まだ若い娘まで道連れに
したとあっては、俺はどんな顔でヴァルハラに行けばいいんだ」
「私も辺境とはいえアルビオンの貴族ビショップ家の人間としてここにいます。
実験部隊の婦人補助空軍ですが、こんな時だけ娘扱いされては困ります」

 アルビオン王国王立婦人補助空軍とは、浮遊大陸国家故国力に劣る
アルビオン王国が、最悪の事態――すなわち本土決戦――に備えて国民
皆兵となるべく、国王ジェームズ一世が実験的に創設した予備軍である。
だが、保守派の反対により、彼女たちに与えられたのはフネや竜騎士などの
侵攻を防ぐ防空阻塞気球部隊や伝令部隊などの、海のものとも山のものとも
つかぬ新兵器のモルモット部隊や補助的な役割ばかりであった。
それでも、男子に恵まれず軍役免除金を支払うことも困難な貧乏貴族の
子女たちにとっては、家のため、そして国のために取り得る数少ない道の
一つ(竜騎士隊のミネルバ中尉のように最初から男と同じ生活ができ存在を
認めさせる強さを彼女たち全員に求めることは酷だろう)となった。
 そして、『イーストウッド』級巡洋艦は、その婦人補助空軍の士官たちを
本格的に活用するためのテストベッドとして使用された。新型砲の運用艦という、
他の軍艦とは毛色の違うフネ故になしえたことであるが、同時に重量配分の
関係で有り余る艦内空間が荒くれる水兵たちと彼女たちを同居させる
間衝地帯として機能していることも、その理由のひとつといえた。

「そうですよ艦長。リネットの言うとおりです」
「私たちも最後までお供します」
「ここで退艦なんてしたら、私たち何のためにつらい訓練を乗り越えて
ここにいるのか分からなくなりますよ」
「君たちは……」
 サー・アレクシオスは娘か孫かという年頃の女性士官たちに諭されて、
自らの考えが浅はかだったことを知る。そして、彼は迷いを捨てた。
「分かった。皆の命、俺が預かる。帆を打て!両舷全そ……
何?これは……?!」
 サー・アレクシオスは自身の命令を最後まで発することはできなかった。
彼と、そして『イーストウッド』、それに留まらずこの戦場に存在する
すべての友軍全体を緑色の輝きが包み込んだのだ。それは光に包まれた
人間の傷だけではなく、今にも墜落しそうだった騎竜の傷、そしてフネの
損傷まで修復する。光に包まれながら、リネットは思わずつぶやいた。
「……あと五分、早かったら……」
 思わずにじむ視界の向こう側に、新たに巨大な『竜の羽衣』が
『キョウリュウ』への攻撃に加わったことが見えた。
そして、それはこの『イーストウッド』に乗り組む全員の偽らざる本心でもあった。


「……な……これはいかなることか?」
 トリステイン艦隊の旗艦『ラ・レアル』の指揮所で、緑色の輝きに
包まれたフィリップ三世が驚きの声を上げる。そこに、答えを持つ者がいた。
「あかぎの『癒しの抱擁』です。陛下」
 それはつい先程この艦に降り立ったルーリーだった。その言葉に、
国王のみならず指揮所にいる全員が驚愕の表情を隠しきれなかった。
「あの者はメイジだったのか?しかもこれほどの『水』の使い手とは」
「我々の系統魔法とは異なるものです。陛下。もちろん、エルフが使う
先住魔法とも異なります。遙か東方の魔法、いえ、あかぎの固有能力と
言った方がいいかもしれません」
「なんと!?」
 フィリップ三世は今度こそ言葉が出ない。そこに拍手の音がする。
「いやはや。まさに東方の秘術ですね。あの『竜の羽衣』たちといい、
まだまだ私たちは学ばなければならないことが多いようです」
 それは栗色の髪をポニーテールにし、眼鏡をかけた若い女性メイジ。
身につけているのはアルビオン王立空軍の制服のようだが、色が青では
なく白。彼女はルーリーが誰何する前に、慣れない敬礼をして官位姓名を
名乗った。
「アルビオン王国王立空軍技術廠のステラ・バダム技術少尉です。
今回の作戦のためにあなたと共闘することになりました。ミセス」
 そう言ってステラは白手袋を外した右手をルーリーに差し出す。
握手をしながらルーリーが「悪いがミスだよ」と言うと、彼女は意外そうな
顔をした。
「おや?私はてっきり……ミスタ・ササキでしたか?あの『竜の羽衣』の
乗り手の方とご結婚されているのかと」
「アイツにはあかぎがいる。アタシはただつきあいが長いだけさ」
 ルーリーの言葉に、ステラは「二人ですか。やりますね」とつぶやき、
きつい視線を向けられることになるのだが……彼女はそれをあっさりと
受け流した。


「こ、この『ラグナブル』がやられるなんて!」
「ジャーバス!」
 赤い光を躱したはずが、ジャーバスの騎竜である一際大きな火竜は
右の翼を切り落とされ、鮮血を吹き出して墜落していく。だが……
「これは……いったい……?」
 その彼らを緑の輝きが包み込んだ。突然の事態に驚きながらも、
グレッグはそれまでの傷が癒えていくのを感じていた。同時に、地面に
落ちるだけだったジャーバスも、失われた翼を取り戻した騎竜の傷が
癒えて高度を取り戻す。あっけにとられる彼らの上から、少女の声がした。
「あかぎ大姐の『癒しの抱擁』よ。間に合った人は運が良かったね」
 グレッグたちガーネット小隊、そしてマービィ大尉のエメラルド小隊の
視線が一点に集まる。その視線の先には――鉄の翼が付いたカーキと
カーキグリーンの二色迷彩の脚甲を履き、袖のない東方風のドレスを
着た少女がいた。桃色の長手袋に包まれた右腕には、それが彼女に空を
飛ぶ力を与えているのであろう見たこともない機械を抱え、背中に届く
長い金髪が吹き抜ける戦風になびく。グレッグはその姿を伝説の戦乙女かと
思った。
「……君は?いったい……」
「私は中華民国……っと、今はタルブ義勇軍か。そこの少女兵器、
P-40・裴綻英(ヒ・テンエイ)。あっちにいるのが燕(えん)姐姐と霍可可
(ホゥ・ココ)。あなたたちとは通信ができないから、私たちの誰かが
あかぎ大姐の指示を伝えることにしたのよ」
 綻英が指さす先には、背中に鉄の翼を背負い、彼女のをさらに派手に
したような金糸を贅沢に使った深紅の東方風のドレスを身につけ、東方の
長槍を手にした黒髪の少女と、裴綻英と似た機械に跨った緑色の東方風の
ドレスを着た少女が、『キョウリュウ』に攻撃を仕掛けようとしていた
ところだった。
「私も行くけど、あんまり無茶はしないようにね。特に、アイツの側に
長居しないように。死んじゃうから!」
 そう言い残して綻英は飛び去っていく。その後ろ姿に、マービィ大尉は
不敵に笑う。
「面白い。行くぞ、ミネルバ、ジャーバス」
 みなぎる力に勝利を確信し、三騎の竜騎士は突撃を再開した。


「いくよ!」
 飛行艇体のエンジンを全開にした可可が、複葉機型少女兵器の利点を
最大限に生かし背中の小翼を使って驚くほど小さな旋回半径で『キョウリュウ』に
取り付き、艇体に装備された12.7ミリ機銃を放つ。防御の薄い膝の関節を
狙ったのだが、残念ながら効果は薄かった。
「うわ。予想以上に硬いよ~」
「そこを退くアル!次は私の番ネ!」
 可可の後ろから、燕が空対地空対艦ロケットを放つ。嫌な笑顔のパンダの
顔をしたロケットが、『キョウリュウ』の胸部装甲に炸裂した。
「中国四千年の力、思い知ったアルか!」
「ダメだよ~燕姐姐。足を狙って動きを止めないと」
 思わずガッツポーズを取る燕を、可可が困った顔で窘める。それを聞いて、
今更思い出したかのように燕がしまったという顔をした。
「そうは言うけど、お前たちにはろくな対地兵器がないアル」
『それだったら、膝の関節とか、駆動系を狙ってちょうだい。
それか、操縦室を無力化してね』
 燕の困った声に、あかぎが指示を出す。そこに、速度に勝る綻英が
やってくる。
「そういうことなら……これで!」
 右腕に抱えるエンジンユニットに装備された12.7ミリ機銃が火を噴き、
右の股関節に着弾する。一瞬動きを止めた『キョウリュウ』に思わず
拳をぐっと握りしめた綻英だが、反撃の気配に素早く高度を取った。
「さすが日本の決戦兵器。こんなのが大陸に現れなくて良かったよ」
 赤い光と距離を取る綻英。だが、皮肉にもその機動が接近する
『連山』から攻撃の機会を奪ってしまった。回避行動を取る『連山』に、
綻英が謝った。
「ご、ごめんなさい」
『まぁ君たちは実質初陣じゃからの。もう少し周りに気を配ることじゃな。
 ワシらはこのまま上空で管制補助に回る。あかぎ君に状況を知らせるには
ワシらが適任じゃろう』
 四発陸攻故の機動性の低さから、そう告げて高度を取る『連山』。
そこに『キョウリュウ』が攻撃を仕掛けようとするが、頭部に攻撃を
受けて阻まれる。『連山』のエスコートをしていたブリゥショウ中将の
Fw-190G『グスタフ』だ。
「さすがに装甲が厚いな。機関砲(マシンカノーネ)では少々荷が重いか……」
 一撃離脱で距離を取るブリゥショウ中将。戦闘機、戦闘爆撃機、
それに鋼の乙女と少女兵器が勢揃いし、『キョウリュウ』包囲網は徐々に
狭まっていく。そこにマービィ大尉たちエメラルド小隊の三騎が地面
すれすれの低空から突き上げた。
「貴様に消し飛ばされた仲間たちの恨み……思い知れ!」
 マービィ大尉らの裂帛の気合いとともに突き出された『ブレイド』の
魔法をまとわせた精緻なレイピア様の魔法の杖が『キョウリュウ』の
胸部装甲に突き刺さる。
これまでの攻撃に加えてカリンの『カッター・トルネード』、そして
燕のロケットでダメージを受けていた装甲のヒビが一段と大きくなる。
そこに、マービィ大尉たちは青白い光を見た。
「何だ?この……光は?」
 ミネルバ中尉は間近に見るその光に薄ら寒いものを感じる。その輝きは
暗い空の中で白い光となって、上空で次の攻撃の機会をうかがっていた
ギンヌメール伯爵ら多くの騎士、兵士たちに目撃された。
そして、武内少将からそれを伝えられたあかぎが血相を変える。
『みんな、すぐに離れて!もう保たない!』
「何だって!?」
 武雄は、あかぎの様子が尋常でないことに気づく。『キョウリュウ』から
武雄たち『竜の羽衣』が離れ始めたとき――上空のアテナイスから飛び降りた
カリンが愛用のレイピア様の魔法の杖に『ブレイド』の魔法をまとわせて
『キョウリュウ』の首筋に深々と突き立てる。
「この……止まれぇ!」
 カリンが杖を引き抜くと一緒にメンテナンスハッチが一枚外れ、中から
見たこともない機械と、それにまとわりつくようなパイプやチューブが
あらわになる。カリンには、それが『キョウリュウ』の内臓の一部に
見えた。
「この!このっ!」
 カリンはがむしゃらに杖を機械に突き立て、パイプやチューブを切断していく。
熱気がカリンの皮膚を灼き、嫌なにおいがするガスにむせながらも、
杖を振るい続け……やがて『キョウリュウ』の歩みが止まった。

「今だよ!」
 ルーリーの言葉を合図に、『ラ・レアル』にいる『土』のメイジたちが
一斉に遠距離『錬金』の魔法を行使する。その巨体故に一度で鉛の塊とは
ならず、足下から徐々に鈍色の鉛へと変貌していく『キョウリュウ』。
二リーグ近い望外な遠距離魔法に、メイジたちが次々と音を上げる。
「……これは……きついですね」
 ステラの口からも思わず弱気な言葉が出る。その横にいる、トリステイン
王立魔法研究所、通称『アカデミー』の主席研究員であるキュリー夫妻が
彼女を激励する。
「ここが正念場だよ。
僕たちの力のすべてを使い切ってでも、ヤツを鉛に変える」
「あなたの言うとおりね。ここで私たちが失敗したら、死んでいった
人たちに言い訳もできないわ」
「そうです……ね!」
 ステラは萎えかけた心を奮い立たせ行使中の魔法に魔力を込める。
彼らの意地と執念が結実し、ついに『キョウリュウ』はその姿を鉛の
彫像へと変えた。
「これはおまけだよ……安らかに、な」
 そこにルーリーが魔法で土をかぶせ、色とりどりの花を咲かせる。
その行為に疑問を持つ者もいたが、望まず召喚されたものへの手向けだと
後で聞かされ、納得することになる。
 もちろん、それは『キョウリュウ』に乗っていた大日本帝国陸軍戦車兵たちへの
手向けであったが、ルーリーはそのことを口にしなかった。


「……終わった……アルか?」
 遠巻きに姿を変えた『キョウリュウ』を見て燕が言う。空を見ると、
もう太陽を覆い隠す双月が作り出す黄金の環が完成しつつあった。
「……これで、私もあと三十年ここに居残りアルね……」
『燕ちゃん……』
 燕の性能では、高高度への上昇は難しい。そこまでいかなくとも、
燕のエンジン性能では高度を上げることは相当の時間がかかる。諦観した
燕のつぶやきに、あかぎはかける言葉がなかった。
「まだ諦めるのは早いよ!」
 そのとき。突如燕は何者かに後ろから抱きかかえられた。何事かと燕が
振り向くと、そこには――自分を抱きかかえる裴綻英と、二人を後押しする
霍可可がいた。
「お前たち、何するアル?!」
 突然のことに状況を理解するまで時間がかかった燕。燕と綻英を支える
可可が、にっこりと笑って言った。
「私たちで、燕姐姐を『門』まで運ぶよ」
「無茶アル!そんなことをしたら……」
『二人とも、何をしているの?!止めなさい!』
 あかぎの制止も聞かず。複葉機型の可可のエンジン出力は燕と変わらない。
そんな彼女が二人分の加重を抱えて上昇する。能力を超えた可可の艇体から、
暴走警報音が鳴り響いた。
「止めるアル!可可、そんなことをしたら、お前は……」
 涙顔の燕。そのとき、可可の艇体が爆発音とともに黒煙を吐く。
「……綻英姐、あと……お願い。私は、ここまでだよ~」
「任せて!」
 最後の力で燕と裴綻英を空へ押し出して、エンジンが止まった霍可可は
重力の軛に捕らわれて落ちていく。自由落下する従妹に燕が手を伸ばそうと
するが、それは綻英に遮られた。
「前を見て!燕姐姐!」
「綻英!お前、何を言っているアルか!?」
「私のエンジンはアメリカ製!行けるところまで行くから!」
 燕の糺弾にも綻英は動じない。大日本帝国海軍の主力鋼の乙女、
零式艦上戦闘機・レイをも上回る、燕より五割増しの馬力にものをいわせての
急上昇を続け、さらに上昇して高度八千に近づいたとき……綻英の抱える
エンジンユニットが暴走警報音を発しだした。
「……実用上は一万まで行けるはずだったんだけどな……やっぱり、
未完成だったね、私」
「綻英!も、もういいアル!」
 燕の顔は涙でぐしゃぐしゃだ。暴走警報音はさらに大きくなり、連続した
爆発音とともにそれまでの鋭い勢いが殺がれる。
「……さあ、私もここまで。あとは、燕姐姐の力でお願い!」
 綻英はそう言うと、燕を力の限り空に放り投げる。制御不能に陥った
エンジンユニットとともに落下する綻英。燕が振り返ろうとすると……
綻英は最後の力を振り絞って叫んだ。
「振り返っちゃダメだよ!燕姐姐。そのまま『門』に飛び込んで!」
「…………っ!」
 従妹たちの声に後押しされるように、燕は自らの性能を超えた高度を
さらに上昇する。空を掴むように、少しでも前へ――もうダメかと思われた
そのとき。完成した天空の黄金の環から降りた光の柱が燕を包み込む――


「……これは……いったいどうしたことだ!?」
 『ラ・レアル』の指揮所でフィリップ三世が叫ぶ。
今まさに途切れようとした金環日食の黄金の環から降り立つ光の柱。
まばゆく輝くそれは誰かを誘うように暗闇を切り裂く。
「……これは……まさか……」
 その横で、トリステイン王国空軍艦隊参謀長のアストン伯が信じられない
ような顔で光の柱を見つめていた。

「これが……『門』か。あの子は間に合ったんだな……」
 複座零戦の操縦席で武雄がつぶやく。あの『門』に飛び込めば、自分も
あの懐かしい日本に帰れる……だが、武雄はふっと笑った。
「俺はもうハルケギニアの人間だ。そうだよな、あかぎ、ルーリー」
 武雄は機首を返すと、『ラ・レアル』の上空をフライパスする。
ここにはルーリーがいる。そして……遠くに見える湖にはあかぎがいる。
 横を見ると、右に白田技術大尉の震電、左にブリゥショウ中将の
Fw-190G『グスタフ』が。そして後方には桃山飛曹長の紫電改がつき、
見事なダイヤモンドを描いていた。上空には武内少将と加藤中佐の連山も
いる。誰も『門』には向かわなかった。そう。誰も。武雄はそれを見て、
不意におかしさがこみ上げてきた。
「任務完了。これより帰投する!」
 武雄がそう告げると、全機あかぎが待つ本陣へと機首を向けた。


 光を抜けた先――そこは雪降る白銀の世界だった。
 燕は思わず振り返る。しかしそこはただ雪纏う風が吹き付けるだけ。
燕は、これまで見たことが夢ではないか……そう思い始めて、すぐに
それを否定した。
 燕の手には、ついさっきまで握りしめられていた従妹のぬくもりが
まだ感じられた。夢ではない。ここではないどこかで、自分は生まれることなく
破壊されたはずの従妹達と出会い、そして、ここに届けられたのだ。
 燕は天を向く。ひたすら降り続く雪。それはこぼれる涙を優しく隠す。
そこに、燕は砲声を聞いた。
「……この音は……間違いないアル。ドイツ軍の戦車の砲声ネ」
 それはアメリカ軍の重戦車型鋼の乙女、M-26パーシングのエイミーと
初めて出会った、あのアフリカの砂漠で聞いた音。燕は涙を拭き、
迷うことなく砲声のした方角に向かう。日本、いや枢軸軍を倒し、勝利と、
何よりも混迷の祖国の地位安定のために。

 かくして。西暦1942年12月11日。ドイツ軍が発動した『冬の嵐作戦』に
おいて、ドイツ軍が誇る陸戦型鋼の乙女、III号突撃砲・ミハエルと
VI号重戦車ティーガーI・フェイを中心としたホト装甲師団は迎え撃つ
ソ連のマリノフスキー中将率いる第二親衛軍、そして陸戦型鋼の乙女、
中戦車T-34・ロジーナに対して優位な戦闘を繰り広げていたが、そこに
突如加勢した中華民国の鋼の乙女、I-16・燕の活躍によって戦局は一変。
ついにドイツ軍の目的であったスターリングラードの枢軸軍将兵の救出を
阻止することに成功する。
 だが、11月初頭に行方不明となったはずの燕が何故そこにいたのか、
第二次世界大戦終結から六十年以上が経過した現在でも、歴史の謎として
残ることとなった。


 トリステイン王国空軍艦隊旗艦『ラ・レアル』が傷ついた戦列艦
『レドウタブール』、そしてアルビオン派遣艦隊の生き残りである
巡洋艦『イーストウッド』とともに総本陣に帰投したとき、本陣のある
丘と湖の間を走る、ガリア王国とトリステイン王国を結ぶまっすぐな
幹線道路の脇に『竜の羽衣』が並び、壮観な光景を見せていた。
『竜の羽衣』はどれも濡れて光り、傾きつつある太陽に照らされていて、
それらが先程まで獅子奮迅の活躍をしていたとは思えないほど、静かに
そこにたたずんでいる。
 フィリップ三世が『ラ・レアル』から降り立ったとき、そこに濡れた
軍服を着替えたあかぎたちが整列して待っていた。全員が王に向かって
大日本帝国式とドイツ国防軍式の敬礼をしたとき、王は思わず「ほぅ」と
うなった。
「謹んで陛下の勝利をお祝い申し上げます」
 一歩進み出たあかぎはそう言ってにこやかに微笑んだ。
対するフィリップ三世の顔は暗い。
「……苦い勝利だ。余は、いや、このハルケギニアはかけがえのないものを
犠牲にした」
「人類の歴史は戦いの歴史。そして、命にはどれ一つ無駄なものなど
ございません。ですが、生き残った者だからこそできることがございます」
「……そなたの言うとおりだな。
しかし、何故あの忌まわしき『キョウリュウ』はこの地に現れた?
そして、そなたらも。何故だ?」
 フィリップ三世は問う。すでに人払いをしてあり、幕僚たちはここにいない。
あかぎは武雄たちに視線を向けた後、静かに目を閉じて語り始めた。
「私たちは、いえ、『場違いな工芸品』と人間たちから呼び習わされる
すべての兵器は、六千年前の大いなる災いを封じた聖者アヌビスの長槍として、
『悪魔の門』から召喚されると聞き及んでおります。
先程天より降り立った光の柱は、私たちの世界とこのハルケギニアを繋ぐ『門』。
あの『門』を通れば、私たちは元の世界に戻ることができました。
 そして、聖者アヌビスはエルフの伝説に登場します。これに相当する
人間の伝説は……」
「そんなもの、一つしかないわ。なるほど、エルフどもは『悪魔の門』と
呼び、我らは『聖地』と呼ぶ。彼の地にそんないわれがあったとはな。
 なんたることだ。そちらが伝説の『虚無』の使い魔『ガンダールヴ』の
右手の槍とは。
 つまり、そちらが召喚された三十年前、そして今このとき、このトリステインの
いずこかに『虚無』が……そう。未だ知られることなく存在すると言うことだ!」
 フィリップ三世の声が口惜しく大地を踏みしめる。解けないパズルの
最後のピースがはまったのだ。それも最悪の形で。驚いた幕僚たちの
視線がしばし王に注がれるが、王は腕を横に振り抜いてそれを抑えた。
「教えてくれ。今回はそちらのおかげで我らは窮地を乗り越えた。
だが、次はどうか?そちらも年を取り、やがて死ぬ。そのとき、再び
このような事態が起これば、我らにはもはや打つべき手がなくなる。
そのときのために、あの『竜の羽衣』を我らが造ることはできぬか?」
 懇願するような王の視線を、あかぎは真正面から受け止める。
「現在のトリステイン王国の技術水準では不可能です。それに、私たちは
もうこれ以上歴史の表舞台に立ちたいとは思いません。できるなら、
今回も私たちのことは記録に残さないで欲しいと思っております」
「余がこれほど頼んでも無理か?」
 フィリップ三世はなおも食い下がる。しばしの間交錯する王とあかぎの
視線。そして、ついにあかぎが折れた。
「……致し方ありません。私たちのことを記録に残さず、『竜の羽衣』に
ついて今後一切調査もしないと約束していただけるのであれば、少しばかりの
お手伝いはさせていただきます」
「すまぬ」
 フィリップ三世はあかぎの手を取り、両手で強く包み込む。その目には
安堵の涙すら浮かんでいた。

 二人の話が終わった頃合いを見計らって、幕僚たちが王の元へと集う。
フィリップ三世は厳格な英雄王の顔に戻り、将兵と残存兵器の洗浄を
命令した。直ちに『水』メイジたちが『ウォーター・フォール』の魔法で
フネを洗浄し、カーテンのように調整した『ウォーター・シールド』の
魔法をくぐらせて将兵たちを洗浄する。その後『風』メイジが起こした
『ウィンド』で濡れた体を乾かした。『火』メイジが『発火』の魔法で
起こしたたき火に当たる者もいる。その様子を見ながら、最初に洗浄を
受けた王が、再びあかぎのところに足を向けた。
「先程余はそちらに関する一切の記録、調査は行わないことを命じた。
アルビオン派遣艦隊にも要請ではあるが、司令官サー・アレクシオスは
快諾してくれた」
「ありがとうございます」
 丁寧に頭を下げるあかぎ。そこに王は続ける。
「……確かに記録には残さぬが、そちら、余の幕臣として仕える気はないか?
サンドリオンとカリン、そしてそちらがおれば、この国に攻め入る国など
ありはしない。さすれば、余は安心してマリアンヌと、近いうちに娘の
婿となるアルビオンの皇子ヘンリーに王位を譲ることができる」
「素晴らしいお申し出、身に余る光栄にございます。ですが、謹んで
ご辞退させていただきたいと思います」
 再び頭を下げるあかぎ。その流れるような黒髪に、王は「やはりな」と
言わんばかりの顔を向けた。
「そう申すと思ったわ。少なくとも、余に力添えはしてくれるのであろう?
せめて戦勝記念……いや今日の戒めとして絵の一枚くらいは残したいが」
 王の言葉に、あかぎはしばし考える仕草を見せて……こう言った。
「それでしたなら……一枚お撮りいたしましょう。
そうですね。このカメラだと十二人くらいまで一度に写せますから」
 そう言って、あかぎは懐からカメラを取り出して武雄たちを呼ぶ。
王は何が起ころうとしているのかと思っていると、突然あかぎから
あと三人一緒に撮す人間を選んで欲しいと言われた。だが……
「な、その箱に……一瞬の時を撮し込む、ですと!?」
 トリステイン王国空軍艦隊司令長官のハイデンベルグ侯爵は青い顔で
真っ先に辞退した。魂まで封じ込められてはたまらぬと。他の幕僚たちも
ほぼ同意見。
そこに志願したのは、アストン伯とカリン、それにギンヌメール伯爵だった。
「ぐ、軍人として、この程度のことに背を向けられるか」
 カリンの声は心なしか震えている。
一方でギンヌメール伯爵は「タケオに出会ってからもう十分驚いた」と
達観している。その様子をアストン伯はほほえましく見ていた。
「シャッターは私たちが押すよ~」
 そう言ってあかぎのカメラを持つのは霍可可と裴綻英。二人は墜落する
ところをギンヌメール伯爵とグレッグに助けられていた。

 フィリップ三世を中心に、その両脇をあかぎとアストン伯、その二人の
横に武雄とカリンが急遽用意された椅子に座り、後ろにはギンヌメール
伯爵やブリゥショウ中将、武内少将、加藤中佐、白田技術大尉、桃山飛曹長、
そしてルーリーが立つ。ルーリーはあかぎと武雄から椅子に座るよう
勧められたが、それを断って武雄の横に来るように立っていた。
「じゃあ撮るよ~。一二三、茄子(ちぇず)!」


「へぇ。あの絵はそうやって撮したものだったのね」
 ルイズが感心したように言う。あまりの内容にシエスタは言葉が出ず、
アニエスもうなっている。
「ええ。私たち十四人が写っているわ~。それからアルビオン艦隊の
司令官殿たちとも撮したから、これは二枚で一組ね」
「十四人?でも、あの絵には十二人しか……」
 ルイズが写真を思い出すように言うと、あかぎは静かに告げる。
「綻英ちゃんと可可ちゃんも写っているわ~。あの写真に、影が写って
いたでしょう?」
「え?」
 突然のことにルイズは言葉に詰まる。それを見て、あかぎは自分の
部屋に戻された写真を食堂に持ってくる。
「ほら。ここ」
 あかぎが指さしたのは、写真の右下の隅っこ。そこに二人分の影が
写っていた。
「なるほどね。うまい撮り方だわ」
 ふがくも感心したように言う。セルフタイマーでも使えばいいのだろうが、
そうしなかった理由もあったのだろう。
 だが、そこであかぎの言葉に影が差した。
「……でもね。これでまだお話は終わりじゃないのよ……」
「え?」
 ルイズが何事かと聞き返す。あかぎは、ゆっくりと言葉を続けた――


「いやはや。これで絵が描けるとは……東方には変わったものがあるのですな」
 写真を撮り終えたサー・アレクシオスが言う。感心するその様子に、
あかぎは楽しげに言う。
「できあがったらお国にお送りいたしますわ。楽しみにしていて下さいね」

 カリンたちに代わり、フィリップ三世とあかぎと武雄とルーリーの
トリステイン王国の人間と、アルビオン派遣艦隊司令官であり巡洋艦
『イーストウッド』艦長のサー・アレクシオスをはじめとして、
カニンガム大尉、グレッグ、コンロッドのガーネット小隊とマービィ大尉、
ミネルバ中尉、ジャーバス少尉のエメラルド小隊、そこにステラと
リネットのアルビオン艦隊の人間で合計十三人がカメラに収められた。
皆未経験のことに緊張を隠しきれない様子だったものの……
「あの、私がご一緒して良かったんでしょうか?」
「入っちゃえばこっちのものです。あなたは『イーストウッド』指揮所
代表ってことで。こんな機会、もう一生巡ってこないと思いますし。
……それにしても、技術に携わるメイジとして興味がわきますね、あれは」
 ステラに引き込まれるまま恐縮するリネットと、あかぎのカメラに
技術者としての興味を隠しきれないステラ。そのとき……ミネルバ中尉が
うずくまり、口元に手を当てた。
「おい、大丈夫か?ミネルバ」
 マービィ大尉が慌てて駆け寄る。嘔吐を繰り返すミネルバ中尉。
そこにリネットがハンカチを差し出す。その様子をカリンが何かを
こらえるような青い顔で見つめていたが、やがてこらえきれずその場に
くずおれる。

 だが、それはまだ始まりでしかなかったのである……



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