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13日の虚無の曜日 第二話

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見知らぬ土地に、ティファニアはいた。
燦々と太陽の光が森の木々に降り注ぎ、木々はその思し召しを余すことなく
すべての葉で受けていた。その葉を撫でるように一条の風が吹く。
人の手により整頓されて草一本生えていない道が木々の間を縫うように敷かれ
雑草はそれを避けるように、木々の根元や茂みの周りで静かに群生していた。
綺麗に管理され、新築と肩を並べられるほどの丸太小屋があちこちに並び、
大きい小屋の外壁には大小様々な小舟が立てかけられていた。

何故か湖が近くにあるのだと強く感じ、
そう意識した瞬間、子どもが発する喜びの声と
バシャバシャと水を跳ね散らす音が耳に入った。
それと同時にあちこちから音が聞こえ始めた。
森の近くからは楽器を鳴らす音が聞こえ、誰かが楽しげに歌い、
子どもたちの嬌声混じりの歌声が上がる。
しかしそれらの音や声は全てくぐもって聞こえ、
さらに体は鉛のように重くゆっくりとしか動けず、
不安もあってティファニアはただ立っていることしかできなかった。

しかし見聞きしたことは、どれも平穏そのものであり、
彼女の心を穏やかにするに十分なものだった。
いつしかティファニアは誘われるまま、声や音が聞こえる場所へと歩を進めた。
少しずつゆっくりと前進しながら、ついに一番大きい丸太小屋を過ぎて
空の色のように澄んだ湖が見え始めた頃。
通り過ぎた丸太小屋から誰かが出てくる音が、周りの音よりもはっきりと聞こえた。

「――ソン、母さんは少し忙しいから、お友達と遊んでらっしゃい」

優しく子どもを宥める女性がそこにいた。
短めの金髪で、疲れているのを子どもに気取られないように笑顔を浮かべるが、
その笑顔は儚げで、刺激すれば崩れてしまいそうな、
そんな雰囲気を持つ女性が、一人の子どもにしゃがんで話しかけていた。
子どもの顔を見ようとするが、後ろ姿からでは顔は見えない。
しかしその頭部は特徴的だった。毛が一切なく、痛ましいほどツルツルな
子どもの頭部には薄く汗が浮かび、太陽の光が反射していた。
いつの間にかティファニアは女性の言葉に耳を傾け始めた。

「何?苛められる?大丈夫よ。あなたは私の自慢の息子。
何も責められることなんてしてないのだから、苛められなんかしないわ。
え!苛められたらどうするのって?大丈夫、安心して。
そんな悪い子がいたら、母さんがやっつけてあげる!」

その女性は息子が他者と打ち解けられるように励ましているようだが、
息子は頑として母親から離れたくないようで、泣きながら啜り声を出した。
それを見た母親は息子を抱き寄せ、しっかりと抱き締めようとした。
そこへ「パメラさん!」と小屋から声が上がり、
母親は息子を抱こうとした腕を止め、小屋に向かって相槌を打った。
パメラと呼ばれた女性は、最後に強く息子を抱き締めながら、
「ジェイソン、がんばって!」と一声かけると、小屋へと姿を消した。

ジェイソンと呼ばれた少年は、ティファニアの方へ振り向いた。
ティファニアは思わず息を飲んだ。少年の顔は青白く、頭部全体が歪んでおり、
また両目も本来の形状、通常の位置とは異なり、
どんよりとした暗い目と、悲しみで震える色の薄い唇が、より少年を醜く見せた。
大粒の涙を目に溜めていたジェイソン少年は、ティファニアが見えないのか
横を通り過ぎると、森の方へと向かっていた。

少年の顔があまりにもショックだったため、
ティファニアは何も言えなかったが、自然とその姿を目で追っていた。
だがその無意識に気付き、愕然とした。
ティファニアはハーフエルフのため、耳がエルフと同じように先が尖っており、
それを見た者からは大抵、好奇と畏怖の目で見られた。
そして彼女はその視線を嫌った。しかし今、自分がジェイソンに向けていた
視線はまさにそれであり、自分の中の邪な部分を恥じた。
皮肉にもその邪が、彼女に通常の思考を取り戻させた。

一体ここはどこだろう?

自身の住むウエストウッド村周辺に、このような丸太小屋が林立する場所、
草が生えぬよう丁寧に慣らされた道は見たことがなかった。
木々や群生する雑草は一度も見たことがない種類であり、
またパメラやジェイソンの服装も、ティファニアは見たことがなかった。
何よりここは早朝に近く、自身は夜の森でサモン・サーヴァントを行っていたはず。
「化け物、化け物ー!」という言葉に、ティファニアの思考は中断された。

湖の埠頭の前に20人以上の子どもたちが現れ、
わんぱくそうな子どもたちは押し合いへしあい、遊んでいるようだ。
その口からあのような言葉が飛び出したということにティファニアは驚きを隠せない。
だが、子どもたちが何かの遊びに興じているように見えたのは間違いだった。
注視してみれば子どもたちは誰かを囲んで、その誰かを突き飛ばし合っているのだ。
その誰かとは、先ほど森へ向ったはずのジェイソンであり、
子どもたちは自分たちと同い年の少年を使って、残酷な遊びに夢中になっていた。

誰かが被せたのか。ジェイソンの醜さを隠すように、頭には麻袋があった。
ジェイソンはそれを脱ごうとしているのだが、無防備なところを突き飛ばされ、
体勢を崩さないように踏ん張るのだが、踏ん張った先でまた突き飛ばされる。
それを繰り返され、麻袋からはそれとわかるくらいの呻き声混じりの泣き声が聞こえた。
しかし子どもたちは手を休めずに、ジェイソンを突き飛ばし続け、
口々に「化け物」「ブサイク」「赤ん坊」「泣き虫」と罵った。
ティファニアはこの光景を見て、咄嗟にやめさせようと叫んだ。

しかし子どもたちの誰一人として、彼女の叫びに耳を傾けず、
ネコがネズミを嬲るように、少年を痛めつけ続けた。
少年が醜いという、ただそれだけの理由で。
子どもたちがやり過ぎたのか、それとも責め苦に耐えられなかったのか。
ジェイソンの体が、湖に吸い込まれるように沈んだ。

ティファニアは埠頭へと走った。鉛のように重い感覚は嘘のように消え、
それまで時間をかけなければ、まともに動けなかった身体が
まるで少年を助けようという心に呼応したかのように動く。
埠頭にたどり着くと、冷たい湖水に手を浸し、ジェイソンを引き上げようとする。
しかし手は水を掻くだけで、肝心の少年にはまるで届かない。
ティファニアは周りにいるはずの子どもたちに声をかけようと
口を開いたが、その口はすぐに閉じられた。

少年を集団で虐めていた子どもたちの姿が消えていた。
そして湖の周りの風景が一変していた。
埠頭への移動の内に変わったのか、
それとも彼女が湖で少年を助けようとする内に変わったのか。
さっきまで燦々と輝いていたはずの日の光がなく、
湖を囲うようにあった森の木々は、漆黒の闇に取って代わられた。
目の前で溺れていた筈の少年の姿も消えていた。
闇の先は何も見えず、ティファニアただ一人が、湖にいた。

ティファニアが呆気にとられる中、音もなく闇から何かが現れた。
それは一人の老女だった。顔には苦悩の皺が刻まれ、
目はどこを見るでもなく宙を彷徨い、
乱れた短い金髪がその姿を痛ましく見せた。
老女はティファニアの目の前で立ち止まり、何事か呟いた。

「今日はあの子の誕生日なの・・・・・・あんなに良い子だったのに!
ジェイソン、私の大事なかわいい息子!あの子は泳げなかったのよ!
なのに、監視員が情事に耽っていたせいで、あの子は死んだの!
ああ、私のジェイソン・・・・かわいそうなジェイソン・・・・」

ティファニアは愕然とした。目の前にいる老女はジェイソンを息子といったが、
彼女には息子を励ましていた女性と、この老女が同一人物だということに
思考が結びつかない。目の前の老女はそんなティファニアの動揺を気づいているのか、
今までにない鋭い目でティファニアを睨みつけた。

「・・・お前のせいだ。お前がジェイソンを見ていなかったからだ!
 お前のせいで、私のかわいいジェイソンは死んだのよ!」

老女の口から罵倒が飛び出し、ティファニアは思わず耳をふさいだ。
老女は奇声に近い罵詈雑言をティファニアに浴びせ、
彼女は無意識のうちに一言「ごめんなさい」と呟いた。
老女は彼女の言葉を聞いたのか、突然しゃべるのをやめた。
しかし老女は動きを止めたわけではなかった。
右手が徐々に下へと向かい、どこに隠していたのか、大きなナイフを掲げた。

「その女を殺して母さん。殺すんだ・・殺して・・・
殺して・・・・殺せ・・・・・殺せ・・・・・・殺すんだ!」

自分に向けられる老女の鋭い目に、ティファニアは今までにない恐怖を感じた。
そこに正常な人間の目はなく、獰猛な獣の、血に飢えた目が存在していた。
老女は狂気を宿した目で、ティファニアを射殺すように憎悪と殺意を向けた。
ティファニアは自身の最期を感じた。老女の右手が振り下ろされ、
自分の体を刃物が貫くのを恐れ、深く目を閉じた。
しかし、いつまでたっても痛みが訪れない。瞼を薄く開けてみると、
今にも襲いかかろうとしていたはずの老女が消えていた。

またしてもティファニアは一人になった。
彼女はこの異常な世界から抜け出そうと、とにかく湖から離れようとした。
埠頭から少し離れ、木々の代わりに現れた闇の前で逡巡する。
その逡巡の間、彼女の耳に水音が聞こえた。
何かが湖から現れ、埠頭に足をつける音が。
彼女は思わず振り向く。そこには溺れて消えたはずのジェイソンがいた。
ポタポタと水を体から垂らしながら、俯いた少年が顔を上げた。
醜い顔があるはずの場所に、白い仮面があった。
ティファニアはどこかでそれを見たことがあるような気がした。

ジェイソンが彼女の方へと歩いてきた。
最初は歩みが遅く、おぼつかない足でゆっくりと。
その後急激にしっかりと歩き始めると大股で歩き、
肩をいからせながら、着実に歩を進める。
その歩みの変化は、体にも現れた。
貧弱な足が木の根のように大きくなり、棒切れのような腕は太い丸太の様。
薄い胸板は成人の男性のそれのように厚くなった。

ティファニアの目の前に少年が来たとき。
そこにいたのは少年ではなく、成人した男性、ティファニアよりも大きな男の姿だった。
白い仮面から濁った眼が覗き、そこから一切の感情を読むことはできず、
だが非常に分かり易い、悪意に満ちたものが体中から放射されていた。
少年の母親がティファニアに向けていた、憎悪と殺意が
この男から、より強くティファニアに向けられていた。

そして彼女は全て思い出した。自身がサモン・サーヴァントで呼び出した、
目の前に迫る男の存在、そして自分が男に突き飛ばされ、気を失ったこと、
これは夢であり、同時にあの男の過去なのだと・・・・

*********************************************

ジェイソンは困惑していた。自身の置かれた状況と相反する感情のぶつかり合いに。
直立不動のまま、手に持った鉈を振り上げずにぶら下げ、
言い知れぬ感情に、戸惑っていた。
現在の複雑な状態になったのは、数分前に遡る。


ほんの少し長い睡眠を取ろうとベッドで寝ていたはずが、
突然胸に走った痛みにより起きてみれば、何故か自身を見つめる金髪の少女がいた。
条件反射で突き飛ばすと、少女はボールのように宙を飛び、
剥き出しの地面に背中から落ちた。
その光景を眺めながら、少女に襲われたと合点がいき、
ジェイソンは自身の状態を確認した。

胸の痛みは現れた時と同じように、忽然と消えていた。
元々ボロボロな衣服に異常はなく、服を引っ張って覗くと
夜闇ではっきりとは見えないが、左胸に入れ墨のようなものがあった。
猛烈な怒りがジェイソンの胸に宿った。
寝ている隙をつかれたこと、痛みを与えられたこと、
妙な印を書き込まれたことを含め、何より家から連れ出されたことに激怒した。
少女の生命を即座に断つことだけを考えて、ジェイソンは立ち上がった。

そこで初めて周りの風景が映り、困惑しながらも一切の感情を感じさせなかった
ホッケーマスクの内側の目に、さざ波程度の変化が現れる。
ジェイソンは自分が住居から引きずり出されただけだと思っていた。
かつてジェイソンの手から逃れた少女が、超能力を使ったのと同じだと。
だが彼の目の前に広がる光景は、その認識が誤りだと告げていた。
ジェイソンはクリスタルレイクとその周辺の森を活動範囲にしており、
連続殺人を犯し続けて約30年以上の彼にとって、活動範囲全てがホームグラウンドであり、
その全てを知り尽くしているといって過言はなかった。

しかし目の前の木々はジェイソンの知っている
クリスタルレイクの森の木々とは全く違っていた。
そして木々を照らし、闇を払う光を発する源、
幾年も殺戮の夜を共にしてきた「月」は数が増え、
通常とは異なる二条の光を放ち、ジェイソンの体を闇へ浮かび上がらせていた。
ジェイソンは二つの月をしばらく見上げていたが、興味がなくなったのか目を下げ、
足元に散乱している物を見ると、10秒ほどクマの人形に目がいき、
枕には一瞥もせず、落ちていた愛用の鉈を拾い上げた。
そして倒れた少女に向かって鉈を振り下ろそうとした。

しかし鉈が少女の柔肌を断ち割ることはなかった。
彼の中に残った良心が、殺意が込められた腕を鈍らせたのか。
だがジェイソンに慈悲の心はない。自分に出会ったもの全てに
情け容赦なく死を与えてきた。そんな彼にこれから殺そうとしている人間に
慈悲や哀れといった感情を向けることは決してなかった。
それ故に少女を殺害することに躊躇するわけがなかった。
だが、彼は目の前の少女を殺すことに初めて戸惑いを感じた。


そして現在に至る。彼は鉈を持った手を振り上げようとするが
意志に反して腕が上がることはない。ジェイソンは愕然とした。
何が目の前の少女を殺すことを躊躇わせているのか、彼には理解できなかったのだ。
彼はやり場のない怒りを、殺そうと思っても殺せない少女に向けた。
そこで、彼の耳朶に微かな声が聞こえた。

「―――そうな――ソン」

ジェイソンはその声が、目の前の気絶した少女の唇から発せられているとわかった。
殺意を漲らせていた数分前の彼だったら、この声に何も感じなかっただろう。
しかし殺意のなくなったジェイソンは興味本位に、その声に耳を傾けた。

「かわい―――――ソン」

ジェイソンは更に耳を傾けた。
ホッケーマスクに包まれた彼の頭は、必然的に少女の顔へ近づき、
その閉じたままの瞳を睨みつけたまま、耳をそばだてた。
突如として少女の目が見開き、ジェイソンの目と合った。
だがその視線は夢遊病のように揺らいでおり、
ジェイソン自体を見ているわけではないようだった。
そして今度ははっきりと言葉が聞こえた。

「かわいそうなジェイソン」

ジェイソンは驚愕した。自分の名を呼ばれたこともそうだが、
何より自分を「かわいそう」といった憐憫の籠った言葉が、
殺意と憎悪と怒りで満たされていた思考を、驚きでかき乱した。
そして彼の脳裏に母の記憶が蘇り、彼をより恐慌へと導いた。
彼はその記憶の母の姿を、目の前の少女へと重ねようとしていたのだ。
自分にとって絶対の存在だった母を、共通しているのは金髪だというだけで
髪の長さも、肌の色も、そして何より嫌に目につく長く尖った耳という
大きな違いがあるのに、彼はそれを考えるのをやめられなかった。
そしてジェイソンは殺人鬼として過ごした人生の中で、
一度も行ったことがないことをしようとした。
少女の視線から逃れようと、鬱蒼と生い茂る森の奥へと、足を進めた。
ジェイソンは無力な少女から逃げた。

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