早朝、朝食の給仕の準備に向かうシエスタは道中、辺りをちらちらと一瞥している一人の少年の姿を見かけた。
見慣れない姿であるが、その様子からして何かを探しているようだ。
「あの、何かお探しものですか?」
彼はシエスタの声に反応して振り向く。
(うわっ……すごい綺麗な人……)
思わず息を呑む。貴族の人間に負けずとも劣らない端整な顔立ちをしており、何とも言えない威圧感と張り詰めた雰囲気が感じられた。
そして、氷のように冷たい瞳……。ぞくりと身震いする。
しかし、彼はどうやら平民のようだった。自分と同じだ。
見慣れない姿であるが、その様子からして何かを探しているようだ。
「あの、何かお探しものですか?」
彼はシエスタの声に反応して振り向く。
(うわっ……すごい綺麗な人……)
思わず息を呑む。貴族の人間に負けずとも劣らない端整な顔立ちをしており、何とも言えない威圧感と張り詰めた雰囲気が感じられた。
そして、氷のように冷たい瞳……。ぞくりと身震いする。
しかし、彼はどうやら平民のようだった。自分と同じだ。
彼は言葉ではなく、行動で意思表示をした。
小脇に抱えていたものを差し出してくる。どうやら洗濯物のようだ。
そして、その事からどこか水場を探しているのを察する。
「あ……こ、こちらになります。どうぞ」
まるで本物の貴族のような威圧感に少し恐れながらも、シエスタは彼を案内する。
「あの、もしかして、ミス・ヴァリエールの召喚したという使い魔でいらっしゃいますか?」
黙々と洗い物をする彼の横に立ち、問いかける。すると、彼はくくっとゆっくり頷いていた。
(喋れないのかな)
何一つ語ろうとしない彼にシエスタは少し不安を感じつつもさらに話しかける。
「わたし、シエスタと言います。ええと、あなたは……」
「キリヤマ、カズオ」
(ほっ……良かった)
「わたし、ここで給仕をしているんですけど、あなたの事で話題が持ちきりですよ。人間を召喚するなんて初めてだって」
「お前も、魔法が使えるのか」
「いいえ。わたしはキリヤマさんと同じ平民ですから。……あ、せっかくですからわたしも手伝いますよ」
と、言ってシエスタも手伝いだす。桐山は特に何を言うでもなく黙々と作業を続けている。
そして、その仕事の上手さと速さはシエスタにも勝るものだった。まるで以前にもこんな事をしていたようにも見えてくる。
「あの、キリヤマさん。もしかして、前にこんな事をしていたんですか?」
「いや……このような洗濯をするのは初めてだ」
では、どうしてか。そう問うと、「お前を見て覚えた」と言ってきた。
それを聞いてシエスタは驚いた。今、自分もやっている作業を僅かな時間で見ただけで覚えてしまうなんて。
シエスタの手伝いもあって、洗濯はすぐに済んだ。
「他にも何かございましたら、何でもおっしゃって下さいね。同じ平民同士、がんばりましょう」
愛想よく笑ってみせるも、桐山は相変わらずの無表情と冷たい瞳のままこくりと頷くだけだった。
(ちょっと怖いなぁ……)
しかし、外面だけで相手を判断してはいけないことだ。これから少しずつ、彼と話をして打ち解けていけばよい。
小脇に抱えていたものを差し出してくる。どうやら洗濯物のようだ。
そして、その事からどこか水場を探しているのを察する。
「あ……こ、こちらになります。どうぞ」
まるで本物の貴族のような威圧感に少し恐れながらも、シエスタは彼を案内する。
「あの、もしかして、ミス・ヴァリエールの召喚したという使い魔でいらっしゃいますか?」
黙々と洗い物をする彼の横に立ち、問いかける。すると、彼はくくっとゆっくり頷いていた。
(喋れないのかな)
何一つ語ろうとしない彼にシエスタは少し不安を感じつつもさらに話しかける。
「わたし、シエスタと言います。ええと、あなたは……」
「キリヤマ、カズオ」
(ほっ……良かった)
「わたし、ここで給仕をしているんですけど、あなたの事で話題が持ちきりですよ。人間を召喚するなんて初めてだって」
「お前も、魔法が使えるのか」
「いいえ。わたしはキリヤマさんと同じ平民ですから。……あ、せっかくですからわたしも手伝いますよ」
と、言ってシエスタも手伝いだす。桐山は特に何を言うでもなく黙々と作業を続けている。
そして、その仕事の上手さと速さはシエスタにも勝るものだった。まるで以前にもこんな事をしていたようにも見えてくる。
「あの、キリヤマさん。もしかして、前にこんな事をしていたんですか?」
「いや……このような洗濯をするのは初めてだ」
では、どうしてか。そう問うと、「お前を見て覚えた」と言ってきた。
それを聞いてシエスタは驚いた。今、自分もやっている作業を僅かな時間で見ただけで覚えてしまうなんて。
シエスタの手伝いもあって、洗濯はすぐに済んだ。
「他にも何かございましたら、何でもおっしゃって下さいね。同じ平民同士、がんばりましょう」
愛想よく笑ってみせるも、桐山は相変わらずの無表情と冷たい瞳のままこくりと頷くだけだった。
(ちょっと怖いなぁ……)
しかし、外面だけで相手を判断してはいけないことだ。これから少しずつ、彼と話をして打ち解けていけばよい。
桐山はルイズの部屋に戻り、洗い終わった洗濯物を干す。
そして、ベッドの上でシーツを蹴散らしてだらしなく寝ているルイズの肩を揺らし、起こそうとする。
そして、ベッドの上でシーツを蹴散らしてだらしなく寝ているルイズの肩を揺らし、起こそうとする。
「う~ん……あと五分……」
と寝ぼけるだけで起きようとしない。
桐山はくくっと小首を傾げた。
それだけで普通にやったのでは起きない事を判断し、桐山は羽織っている学ランの制服の内ポケットの中からスタンガンを取り出す。
バチバチと一瞬、電撃を迸らせてみた後、再びベッドの横に立つ。
桐山はくくっと小首を傾げた。
それだけで普通にやったのでは起きない事を判断し、桐山は羽織っている学ランの制服の内ポケットの中からスタンガンを取り出す。
バチバチと一瞬、電撃を迸らせてみた後、再びベッドの横に立つ。
そして――
「ぎゃん!」
ネグリジェの上から腿にスタンガンを押し付けた途端に悲鳴を上げて飛び起き、ベッドから転げ落ちるルイズ。
起きた事を確認し、桐山はスタンガンをしまうと前を開けたままの学生服に腕を通し、踵を返す。
起きた事を確認し、桐山はスタンガンをしまうと前を開けたままの学生服に腕を通し、踵を返す。
「……あ、あああああんた、ねぇ……!」
立ち上がろうとしても足が痺れて動けない。ルイズはベッドに這い上がりつつ物凄い剣幕で桐山を睨みつけるが本人はそれに意を返さずデイパックの中を漁りだしている。
「ご、ご主人様に向かって何て起こし方をするのよ!! 使い魔のくせして!! そんな事して良いと思ってるの!?」
「一度、お前を起こそうとした。だが、起きなかった」
仕方がなかった。そう言いたそうだ。
「もっと他に起こし方はあるでしょうが!! この、馬鹿ぁ!!」
枕を掴み、投げつける。
しかし、桐山はすいと体を少し動かすだけでかわし、扉に乱雑な音を立てて当たるだけだった。
「バツとして今日は朝飯抜きよ!」
立ち上がろうとしても足が痺れて動けない。ルイズはベッドに這い上がりつつ物凄い剣幕で桐山を睨みつけるが本人はそれに意を返さずデイパックの中を漁りだしている。
「ご、ご主人様に向かって何て起こし方をするのよ!! 使い魔のくせして!! そんな事して良いと思ってるの!?」
「一度、お前を起こそうとした。だが、起きなかった」
仕方がなかった。そう言いたそうだ。
「もっと他に起こし方はあるでしょうが!! この、馬鹿ぁ!!」
枕を掴み、投げつける。
しかし、桐山はすいと体を少し動かすだけでかわし、扉に乱雑な音を立てて当たるだけだった。
「バツとして今日は朝飯抜きよ!」
その後、バケツに水を汲むよう命じても、着替えをさせるように命じても桐山は黙々とまるで人形のように作業をこなしていた。
桐山の態度にイラつくルイズは作業をしっかりこなす彼を本来なら少しは褒めてやっても良いかとも考えた。
しかし、何故、彼が何も言ってこないのかが分からず逆に不愉快で、そんな事は言えない。
桐山の態度にイラつくルイズは作業をしっかりこなす彼を本来なら少しは褒めてやっても良いかとも考えた。
しかし、何故、彼が何も言ってこないのかが分からず逆に不愉快で、そんな事は言えない。
朝食を抜き、と言われても桐山は別に気にしてはいなかった。
ここで例のパンが役に立つ。と、言ってもあまり味気はないのだが。
アルヴィーズの食堂の隅でパンを齧っている桐山は自分の私物である本「人体解剖学」を読んでいた。ルイズから「あたしの食事が終わるまで待っていなさい!」と命じられてそうしているだけである。
「何をしてらっしゃるのですか?」
そこに声をかけてきたのはシエスタだった。
桐山はちらりと彼女を一瞥する。
「ルイズに待てと言われて待っている」
「……あの、もしかしてそれがキリヤマさんの食事ですか?」
ほとんど食べ尽くしているパンを見てシエスタは呆然とする。
桐山はこくりと頷いた。
「そんなパン一つだけなんて駄目ですよ。よろしかったらわたし達と一緒にどうですか? 賄い食しか出せませんけど」
桐山は本を閉じると、了解したのかシエスタの後を付いていこうとする。
「ちょっと待ちなさい」
そこで呼び止めたのは食事を終えたルイズだった。
「あんたは今日朝飯抜きだって言ったでしょう! 勝手にそんな物を貰ったりして何してるの!」
桐山の私物であるパンを指差し、ルイズは叫ぶ。
別に貰った訳ではないのだが、ルイズにはそう見えたらしい。
「あんたも、人の使い魔に勝手に餌付けしないでよ! 躾にならないじゃない!」
と、今度はシエスタを睨んで喚いた。そして、ふんと鼻を鳴らして食堂を後にしていく。
しゅんと気落ちするシエスタ。しかし、桐山の方は気にするでもなく相変わらず無表情だ。
「……お昼にはちゃんとを用意しておきますので、来てくださいね」
ぼそりと桐山に言い添え、シエスタは厨房へと戻っていった。
桐山は残ったパンを一気に飲み干し、ルイズの後を追う。
「あたしが戻るまで、あんたは部屋の掃除をしてなさい!」
追いつくと、相当苛立った様子で桐山に命じていた。
ここで例のパンが役に立つ。と、言ってもあまり味気はないのだが。
アルヴィーズの食堂の隅でパンを齧っている桐山は自分の私物である本「人体解剖学」を読んでいた。ルイズから「あたしの食事が終わるまで待っていなさい!」と命じられてそうしているだけである。
「何をしてらっしゃるのですか?」
そこに声をかけてきたのはシエスタだった。
桐山はちらりと彼女を一瞥する。
「ルイズに待てと言われて待っている」
「……あの、もしかしてそれがキリヤマさんの食事ですか?」
ほとんど食べ尽くしているパンを見てシエスタは呆然とする。
桐山はこくりと頷いた。
「そんなパン一つだけなんて駄目ですよ。よろしかったらわたし達と一緒にどうですか? 賄い食しか出せませんけど」
桐山は本を閉じると、了解したのかシエスタの後を付いていこうとする。
「ちょっと待ちなさい」
そこで呼び止めたのは食事を終えたルイズだった。
「あんたは今日朝飯抜きだって言ったでしょう! 勝手にそんな物を貰ったりして何してるの!」
桐山の私物であるパンを指差し、ルイズは叫ぶ。
別に貰った訳ではないのだが、ルイズにはそう見えたらしい。
「あんたも、人の使い魔に勝手に餌付けしないでよ! 躾にならないじゃない!」
と、今度はシエスタを睨んで喚いた。そして、ふんと鼻を鳴らして食堂を後にしていく。
しゅんと気落ちするシエスタ。しかし、桐山の方は気にするでもなく相変わらず無表情だ。
「……お昼にはちゃんとを用意しておきますので、来てくださいね」
ぼそりと桐山に言い添え、シエスタは厨房へと戻っていった。
桐山は残ったパンを一気に飲み干し、ルイズの後を追う。
「あたしが戻るまで、あんたは部屋の掃除をしてなさい!」
追いつくと、相当苛立った様子で桐山に命じていた。
桐山が部屋の掃除をすぐに終え、読書をしていると突然ルイズがやってきて彼を無理矢理外へ連れて行った。
連れて来られたのは瓦礫の山と化していた教室で、錬金の実習でルイズが教師や生徒を巻き込む大爆発を引き起こしたものである。
そして、その片づけを桐山に命ずるルイズは机の上にふんぞり返ったまま彼を見ていた。
桐山は何一つ文句を言わず、黙々と作業を続ける。
従順な使い魔だ、とも思ったが彼が自分に対して文句はおろかほとんど何も言ってこないまま仕事を続けるので、決して使い魔と信頼関係を築けている訳ではない事も察している。
確かに、ムカつく態度ではあるがしっかり信頼関係を築かなければ何にもならない。
「ねぇ、あんた何で何も文句を言わないの? 普通平民のあんただったら、何か一つは言うはずよ」
しかし、桐山は全くの無反応。
まるで自分が拒絶されているような気がして余計にルイズの癪に障る。
「何とか言ったらどうなの!」
「何故、爆発が起きた」
ようやく答えたその一言にうっとルイズは息を呑む。
そして、搾り出すように言う。
「……錬金に失敗したのよ。あたしは昔から、何一つ魔法を成功させた事がない……。それで付いたあだ名は「ゼロ」のルイズ……。
ふんっ、笑ったらどう? 貴族なのに未だに空も飛べないし、魔法一つ使えないんだから。あんただって、あたしの事を馬鹿にしてるんでしょ?」
少し自暴自棄気味に自嘲するルイズ。
しかし、桐山は気にするでもなく手際よい片づけを続けている。もうほとんど終わりかけていた。
そして、ルイズは気付かなかったが桐山は小さなガラス片をいくつか回収し、別の小さな袋に詰めている。
「……何で、何も言わないのよ!」
「俺は、お前の使い魔。それだけだ」
一切の感情がこもっていない声で彼は返してくる。
興味など無い、そうも聞こえてくる。
それが余計に悔しくて、ルイズは喚くのを通り越して泣き出してしまった。
「終わった」
それすら桐山は意に返さず、淡々と告げてくる。
「……終わったなら、さっさと部屋に戻りなさい!!」
目に涙を浮かべつつ叫ぶと、桐山は用は済んだと言わんばかりに教室を後にしていった。
「人間って脆いものだな」
教室から去る寸前、桐山は一言そう口に出していた。
連れて来られたのは瓦礫の山と化していた教室で、錬金の実習でルイズが教師や生徒を巻き込む大爆発を引き起こしたものである。
そして、その片づけを桐山に命ずるルイズは机の上にふんぞり返ったまま彼を見ていた。
桐山は何一つ文句を言わず、黙々と作業を続ける。
従順な使い魔だ、とも思ったが彼が自分に対して文句はおろかほとんど何も言ってこないまま仕事を続けるので、決して使い魔と信頼関係を築けている訳ではない事も察している。
確かに、ムカつく態度ではあるがしっかり信頼関係を築かなければ何にもならない。
「ねぇ、あんた何で何も文句を言わないの? 普通平民のあんただったら、何か一つは言うはずよ」
しかし、桐山は全くの無反応。
まるで自分が拒絶されているような気がして余計にルイズの癪に障る。
「何とか言ったらどうなの!」
「何故、爆発が起きた」
ようやく答えたその一言にうっとルイズは息を呑む。
そして、搾り出すように言う。
「……錬金に失敗したのよ。あたしは昔から、何一つ魔法を成功させた事がない……。それで付いたあだ名は「ゼロ」のルイズ……。
ふんっ、笑ったらどう? 貴族なのに未だに空も飛べないし、魔法一つ使えないんだから。あんただって、あたしの事を馬鹿にしてるんでしょ?」
少し自暴自棄気味に自嘲するルイズ。
しかし、桐山は気にするでもなく手際よい片づけを続けている。もうほとんど終わりかけていた。
そして、ルイズは気付かなかったが桐山は小さなガラス片をいくつか回収し、別の小さな袋に詰めている。
「……何で、何も言わないのよ!」
「俺は、お前の使い魔。それだけだ」
一切の感情がこもっていない声で彼は返してくる。
興味など無い、そうも聞こえてくる。
それが余計に悔しくて、ルイズは喚くのを通り越して泣き出してしまった。
「終わった」
それすら桐山は意に返さず、淡々と告げてくる。
「……終わったなら、さっさと部屋に戻りなさい!!」
目に涙を浮かべつつ叫ぶと、桐山は用は済んだと言わんばかりに教室を後にしていった。
「人間って脆いものだな」
教室から去る寸前、桐山は一言そう口に出していた。
昼になり、桐山は朝にシエスタに言われた通り食堂の裏にある厨房へと赴く。
「あ! お待ちしてましたよ! キリヤマさん!」
入るなり、シエスタが満面の笑みで桐山を出迎えてくれた。そして、料理長を呼ぶ。
「お! お前さんが貴族の使い魔になっちまったっていう奴かい?」
マルトーの言葉に、無言のまま桐山は頷く。
「何でい、元気がねえな! よし、お前さんの元気が出る特製料理を作ってやるぜ! 待ってな!」
豪快に笑いながらマルトーは仕事場へと戻っていき、シエスタは桐山をテーブルに案内する。
そして数分後、賄い食とは思えない豪勢な料理が桐山の前に出てきた。
桐山は無言のまま食器を手にし、食していく。
「どうだい? 美味いか?」
マルトーが言うと、桐山はこくりと頷く。
元々、彼は香川県でも指折りの大企業の御曹司。これくらいの食事は常日頃から食してはいたので素直なものだった。
「あ! お待ちしてましたよ! キリヤマさん!」
入るなり、シエスタが満面の笑みで桐山を出迎えてくれた。そして、料理長を呼ぶ。
「お! お前さんが貴族の使い魔になっちまったっていう奴かい?」
マルトーの言葉に、無言のまま桐山は頷く。
「何でい、元気がねえな! よし、お前さんの元気が出る特製料理を作ってやるぜ! 待ってな!」
豪快に笑いながらマルトーは仕事場へと戻っていき、シエスタは桐山をテーブルに案内する。
そして数分後、賄い食とは思えない豪勢な料理が桐山の前に出てきた。
桐山は無言のまま食器を手にし、食していく。
「どうだい? 美味いか?」
マルトーが言うと、桐山はこくりと頷く。
元々、彼は香川県でも指折りの大企業の御曹司。これくらいの食事は常日頃から食してはいたので素直なものだった。
「おかわりもありますから、欲しい時は言ってくださいね」
と、桐山の横でシエスタが言う。
(ちょっと怖いけど……大丈夫、大丈夫よ)
上品に食事を続ける桐山を見ていて、相変わらず人形のように冷たい表情にまた思わず身震いしてしまった。
しかし、彼は平民だ。同じ平民同士、ここでちゃんと仲良くしておかないと。
「あ、もう良いんですか?」
「礼を言う」
無機質ながら感謝されて、シエスタは嬉しさを感じていた。
「またいつでも来てくださいね」
と、桐山の横でシエスタが言う。
(ちょっと怖いけど……大丈夫、大丈夫よ)
上品に食事を続ける桐山を見ていて、相変わらず人形のように冷たい表情にまた思わず身震いしてしまった。
しかし、彼は平民だ。同じ平民同士、ここでちゃんと仲良くしておかないと。
「あ、もう良いんですか?」
「礼を言う」
無機質ながら感謝されて、シエスタは嬉しさを感じていた。
「またいつでも来てくださいね」
その後、シエスタは食堂で貴族達にデザートの配膳をしていた。
そこには桐山の姿もあった。
自分達の仕事だからやらなくても大丈夫、だと言ったが桐山は「いいんだ。少しくらいは手伝ってみてもいいと思った」
そう言って仕事を手伝ってくれた。
(優しい所もあるんだな。キリヤマさん)
と、さらに嬉しく感じていたが桐山は別に好意で手伝っている訳ではない事をシエスタは知らない。
そこには桐山の姿もあった。
自分達の仕事だからやらなくても大丈夫、だと言ったが桐山は「いいんだ。少しくらいは手伝ってみてもいいと思った」
そう言って仕事を手伝ってくれた。
(優しい所もあるんだな。キリヤマさん)
と、さらに嬉しく感じていたが桐山は別に好意で手伝っている訳ではない事をシエスタは知らない。
桐山が配膳の手伝いをしている所を多くの生徒達が見かけていた。
そして、彼がいつ自分の所へ来るのかと恐怖に震え上がる生徒が多数存在した。
特に、一年の生徒達は彼がデザートを配膳しに近くへ来た途端、びくりと反応し極端に怯えていた。
そして、彼がいつ自分の所へ来るのかと恐怖に震え上がる生徒が多数存在した。
特に、一年の生徒達は彼がデザートを配膳しに近くへ来た途端、びくりと反応し極端に怯えていた。
配膳の手伝いが終わり、桐山は壁に寄りかかったまま読書を開始していた。
桐山に怯えていた生徒達は彼が読書に夢中になってくれた事で安堵に溜め息を吐いている。
少しすると、何やら食堂内が騒がしくなる。桐山は意に返さず、読書に集中する。
「すみません! すみません!」
「いや、許せないな!」
シエスタの必死そうな声と共にキザったらしい男の声も聞こえてくる。
「貴族である僕はあの時、知らないと言った! それを受けたら平民である君は気を利かせるべきではなかったのかな? まったく、これだから平民は……」
侮蔑の混じった声が響く。
それに対してシエスタは先程から頭を下げて「すみません」と言うばかりだ。
桐山は本を閉じ、声が聞こえてくる群集の元に行くと、
「静かにしてくれないか」
張り詰めたような声に、シエスタと彼女に八つ当たりをするギーシュを含めた聴衆が桐山の方を向く。
「な、何だね君は?」
「キ、キリヤマさん……! 駄目です!」
「静かにしてくれないか。……今、そう言った」
彼の言葉が今一理解できず、ギーシュは顔を顰める。
桐山に怯えていた生徒達は彼が読書に夢中になってくれた事で安堵に溜め息を吐いている。
少しすると、何やら食堂内が騒がしくなる。桐山は意に返さず、読書に集中する。
「すみません! すみません!」
「いや、許せないな!」
シエスタの必死そうな声と共にキザったらしい男の声も聞こえてくる。
「貴族である僕はあの時、知らないと言った! それを受けたら平民である君は気を利かせるべきではなかったのかな? まったく、これだから平民は……」
侮蔑の混じった声が響く。
それに対してシエスタは先程から頭を下げて「すみません」と言うばかりだ。
桐山は本を閉じ、声が聞こえてくる群集の元に行くと、
「静かにしてくれないか」
張り詰めたような声に、シエスタと彼女に八つ当たりをするギーシュを含めた聴衆が桐山の方を向く。
「な、何だね君は?」
「キ、キリヤマさん……! 駄目です!」
「静かにしてくれないか。……今、そう言った」
彼の言葉が今一理解できず、ギーシュは顔を顰める。
「こちらは今、取り込み中なのだよ! 引っ込んでいてくれたまえ!」
(な、何なんだ……こいつは……)
ギーシュは目の前にいるのが平民であると理解していたが、その氷のように冷たい無情の瞳に思わずゾクリとした。
「聞こえなかったのかね? 早く、立ち去りたまえ!」
桐山の威圧感に負けじと叫び、腕を振るギーシュ。
しかし、桐山はじっと冷たい視線をギーシュに向けたまま立ち尽くしているだけで従わない。
「ああ……そういえば、君はミス・ヴァリエールが召喚した使い魔だったな。使い魔の躾がなっていないとは、さすがにゼロのルイズだ」
と、侮蔑を込めた言葉を吐く。しかし、桐山はそれに意を返さない。
「何とか言ったらどうなのだね!?」
桐山の前まで詰めより、間近で彼の顔を睨む。
(な、何なんだ……こいつは……)
ギーシュは目の前にいるのが平民であると理解していたが、その氷のように冷たい無情の瞳に思わずゾクリとした。
「聞こえなかったのかね? 早く、立ち去りたまえ!」
桐山の威圧感に負けじと叫び、腕を振るギーシュ。
しかし、桐山はじっと冷たい視線をギーシュに向けたまま立ち尽くしているだけで従わない。
「ああ……そういえば、君はミス・ヴァリエールが召喚した使い魔だったな。使い魔の躾がなっていないとは、さすがにゼロのルイズだ」
と、侮蔑を込めた言葉を吐く。しかし、桐山はそれに意を返さない。
「何とか言ったらどうなのだね!?」
桐山の前まで詰めより、間近で彼の顔を睨む。
すると、彼はすぅと目を閉じ――
「ぶっ」
バン! という大きな音が響き、低いうめき声と共にギーシュの体は軽く錐揉みをし、床に叩きつけられた。
桐山の手には人体解剖学の本があり、それでギーシュを殴打したのだ。
桐山の手には人体解剖学の本があり、それでギーシュを殴打したのだ。
その衝撃で歯が一本抜け落ち、コロコロと床に転がり落ちる。
「へ、平民が……、き……貴族に対して、手を出す、とは、良い度胸をしているな……」
先程、ケティに叩かれていた右の頬ごと側頭部を殴打されたので押さえつつ、立ち上がったギーシュはぺっと血を吐き捨てて桐山を睨みつける。
「決闘だ!」
杖を突きつけ、叫ぶ。しかし、桐山は無表情のまま小首をくくっと傾げるだけだった。
杖を突きつけ、叫ぶ。しかし、桐山は無表情のまま小首をくくっと傾げるだけだった。
一部の生徒達は、桐山から発せられる異様な威圧感に恐怖を覚え、身震いしていた。
ただの平民のはず。それなのに、貴族とほとんど変わらない……いや、それ以上のオーラを彼は発していた。
ただの平民のはず。それなのに、貴族とほとんど変わらない……いや、それ以上のオーラを彼は発していた。
「ヴェストリの広場で待つ、逃げることは許さない!!」
しかし、ギーシュはそれには全く気付いていない。