あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

無情の使い魔-01



涼やかな夜風が吹き、潮騒が微かに響いている。
ここは瀬戸内海にある沖木島という小さな島の最南端に位置する岩浜である。
その一角、やや盛り上がった岩場の上に腰掛けたまま、桐山和雄は静かに佇んでいた。
風が強く吹き、生臭く酸っぱいが彼の鼻を刺激する。しかし、彼は一瞥する事なくひたすらに佇み続けていた。
岩礁のすぐ下に、四つの人の形をしたそれが転がっている。みんな動いてはおらず、開かれたままの眼には生気が宿ってはいない。
三人が喉や胸に鋭い切り傷を負い、もう一人は全身に無数の風穴を開けられ、そこから流れ出ていた血が水溜りを作っている。
彼、桐山和雄がほんの十数分前にこのプログラムで支給された武器、小型の「シーナイフ」によるものと、殺した一人の持っていた「イングラムM11/9サブマシンガン」によってもたらされたものだ。
四人とも、彼のクラスメイトの一員だった。中でも男三人はいつも彼をボスと呼び、不良グループのリーダーとして心酔していた。
しかし、彼は三人を手にかけても特に何かを感じた訳でもない。


良心の呵責も、後悔も、罪悪感も、何一つだ。


ただ、彼は初め、四人の中の一人の女子を捕まえて命を奪う直前に行ったコイントスで自分のやるべき事を決めたまで。


表が出たら、仲間を集めてこの島からの脱出を図る――

裏が出たら、この殺戮ゲームに乗る――

その結果は、裏だった。ただそれだけの事である。



桐山は岩場から降りると、この岩浜から別の場所へと移動するべく歩を進めた。
その間にも彼は自ら殺めた者達を石ころのように全く気にしていなかった。
そして、やや遠くに人の気配があるのも感じていたがそれすら気にも留めはしない。

「……?」

岩浜から森へと続く入口に差し掛かった所で桐山は立ち止まった。
彼の目の前には不思議に光輝く大きな鏡のようなものが浮かんでいた。
先程、ここへ来る際には見なかったものだった。それが何故、今ここにあるのか。
その場で立ち尽くしたまま目の前に浮かぶ鏡をじっと見つめていた桐山は、無表情のまま小首を微かに傾げる。

そして、その鏡に手を伸ばして触れた途端、彼は眩い光に飲み込まれた。

光が収まった時、そこには桐山も、鏡も跡形もなく姿を消していた。


「あ、あらぁ? 桐山君? どこにいっちゃったのよぉ」
岩場の陰でその一部始終を窺っていた月岡彰はかつての不良のリーダーにしてボスであった桐山和雄が忽然と消えてしまった事に狼狽していた。
裏切りを警戒し、桐山の招集命令にわざと遅れて難を逃れ、これから彼を本格的にストーキングしようとしていた所だというのに。
「もう。ひどいわ、桐山君。アタシを置いてどこかへ行っちゃうなんて」


「先生、桐山和雄の反応が消えました」
「何ぃ?」
同じ頃、沖木島の分校の司令室にて今回のプログラムの担当教官・嘉門米美は兵士・野村の困惑した言葉に顔を顰める。
島中に散らばった今回の対象クラスの中学生達には発信機・盗聴器付きの首輪を装着させており、それによって動向を探っているのだがそれが突然途絶えるなどおかしい。
桐山は早速四人を殺害し、順調な滑り出しだったというのにそれが何故突然消えるのか。
首輪を外そうものなら内部に仕組まれた爆弾によって死亡するというのに。
「死亡確認の電波も送られていません」


――ハルケギニア、トリステイン魔法学院

「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ!
 私は心より求め、訴えるわ! 我が導きに、応えなさい!!」

二年生による春の使い魔召喚の儀式。
最後の一人となったルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが杖を構え、詠唱を行う。
数回に渡るサモン・サーヴァントの失敗。それにより起こる他の生徒達の罵声。
そして、最後通告による儀式でまた爆発と共に召喚されたのは――

「あんた、誰?」

彼女の目の前に立っていたのは、黒い服の袖に腕を通さず肩に羽織り、襟足の長い黒髪をオールバックにした長身の少年だった。
その首元には金属製の変な首輪が付けられている。

だが、彼は明らかに平民である事は明白だった。

「ルイズ、サモン・サーヴァントで平民を呼び出してどうするの?」
「さっすが、ゼロのルイズだな! まさか平民を呼び出すとは!」
周囲の生徒達から爆笑と共に野次が飛び交う。
ルイズは顔を赤らめ、屈辱に唇をかみ締めた。


「でも、凄く格好良いわね」
「本当に平民かしら」
一部の女子からそのような言葉も出てくる。

ルイズはここで初めて目の前にいる平民の顔を見た。

(た、確かに顔は良いみたい。だけど……)

平民とは思えない程、少年は知的で端整な顔立ちだった。思わずぞくりとしてしまい兼ねない。
それだけではない。彼からは何とも言えない張り詰めた雰囲気がありありと感じられてくる。
表情は先程から全くの無表情であり、その瞳にも光が宿っていないように見える。

しかし、たとえハンサムであろうと彼が平民である事には変わりない。
「ミスタ・コルベール! もう一度召喚させてください!」
ルイズは儀式の教官を務めるコルベールに捲くし立てる。
「それは出来ない。使い魔召喚とは神聖なものだ。やり直しは一切認められない」
「でも、平民ではないですか!」
ビシリと目の前でじっと立ち尽くし佇む少年を指差し、叫ぶルイズ。
「それでも、だ。召喚された者がいかなる者であろうと、呼び出された以上君の使い魔にしなければならない。さっ、早くしないと次の授業が始まりますよ」
コルベールにそう言われ、悔しそうにしながらルイズは目の前の少年の元まで歩み寄る。

153サントであるルイズに対し、177サントはあろうかと思われる細く逞しい体格の長身が目の前に立ち塞がり、その威圧感に思わず竦みかけるがここで恐れていては何にもならない。
「あんた、感謝しなさいよ。平民が貴族にこんな事されるなんて絶対にないんだから!」
主人らしく威圧してみようと叫んでみるも、彼はルイズは見下ろしたまま相変わらずの無表情だった。
人の話を聞いているのかいないのかもさっぱり分からない。

(うう……ちょっと、怖い……)
ただ、その氷のように冷たい人形のように生命感に乏しい瞳に恐怖を感じてしまう。しかし、それでもめげずにルイズは続ける。

「ちょっと! 届かないじゃないの! 屈みなさいよ!」
そう叫ぶと、彼は微かに小首をククッと傾げだす。
その態度が何やら異様にムカつき、
「早く屈みなさい!」
さらに苛々を込めて叫ぶと僅かな沈黙の後、ようやく彼はその場で屈みだした。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

コントラクト・サーヴァントの詠唱を唱え、ルイズは少年の頬を掴んで彼に口付けをした。
彼は何の抵抗も動揺も見せずにただ黙ってルイズを見つめたままだった。


「終わりました」
少年から離れ、振り返るとコルベールに告げる。
少年の左手に使い魔のルーンが刻まれていくが、それでも彼は微動だにしていなかった。

(何なのよ、あいつ。人形みたいで気味が悪い)

左手の甲に刻まれたルーンをじっと見つめている少年を不愉快そうに睨んでいたルイズはふん、とそっぽを向く。
何であんなのが自分の使い魔なのだろう。本当だったらもっと珍しい幻獣とかを召喚したかったというのに。
しかし、一応使い魔を召喚できたというだけまだマシだった。


「ふむ。珍しいルーンだな」
ミス・ヴァリエールが召喚した平民の少年に刻まれたルーンを見たコルベールはそれをノートに書き写す。
(……血の臭い?)
ふと、彼から異様な臭いを嗅ぎ取ったコルベールは顔を顰める。
彼から嗅ぎ取れる血の臭い。それはかつて多くの汚れ仕事を請け、その手を血に濡らしてきた彼だからこそ嗅ぎ取れるものだった。
(この少年……もしや、本当に……?)
歳は明らかにここにいる生徒達とほとんど変わらない。それなのに、彼はその手を血に濡らしているというのか。
しかも、様子からして極最近に彼は人を殺めている。
だが、それで彼が罪悪感のようなものを感じている訳でもない事を察していた。
自分はかつて、多くの人々を死に追いやり、その罪悪感で今も苦しんでいるというのに。
それが信じられず、密かに冷や汗を首筋に滲ませる。
「……それでは皆さん! 春の召喚の儀式はこれにて終了! 解散してください!」
コルベールが明朗に告げ、少年に背を向けて歩き出す。
ちらりと肩越しに彼を見やり、その冷たい瞳に思わず息を呑んだ。


「ルイズ! お前は歩いて来いよ!」
「あいつ、フライはおろかレビテーションさえまともに使えないんだぜ?」
生徒達がルイズを嘲笑うと、各々が宙へと浮かび上がり、広場から去っていく。
悔しさに肩を震わせるルイズだが、やがて自分が召喚した平民の少年の元まで再び歩み寄る。
「……あんた! 行くわよ! 早く付いて来なさい!」
そう叫び、ルイズは彼に背を向けて歩き出す。そのすぐ後を彼は付いてくる。
「あんた、名前は?」
相変わらず黙りこくったままの彼の態度に苛立ちを感じつつ、振り向きもせずにルイズは問いかける。
先程のように言葉ではなく、動きで意思表示をしたのだ。もしかしたら喋れないのかもしれない。それを確かめる意味でもあった。
「……キリヤマ……キリヤマカズオ」
張り詰めたその声に一瞬、びくりとする。
「変な名前ね」
(何だ、ちゃんと喋れるじゃない)
しかし、ようやく一声を発してくれたのでホッと息をついた。

「さて、あんたはどこの平民? どこから来たの?」
学院内の自室に戻ってきたルイズはベッドに腰掛け、目の前に立つ平民・桐山和雄に問う。
桐山は左肩から提げていた自分のデイパックを下ろす。やけに重そうで、床に下ろした途端にガチャガチャと音を立てている。
「この国の平民? それともガリア? ロマリア? アルビオン? ゲルマニア?」
しかし、桐山は返答をせずにまた小首を傾げる。
「……何なのよ! あんたは! ご主人様に向かってその態度は! 返事くらいはしなさいよ!」
「主人、とは?」
やっと返事をした。
「あんたはサモン・サーヴァントであたしに召喚された、あたしの使い魔なのよ。さあ、あんたも答えなさい! 
あんたはどこから来たのよ! 何度も言わせないで!」
桐山はまた黙りこくるが、今度は何かを考えている様子だ。
自分のいた場所を答えるだけで何故、そんなに考える必要があるのか。
「俺がいた所は、お前の言うどの場所でもない。俺は、大東亜共和国の香川県城岩町という町に住んでいた」
「聞いた事のない所ね。……って、どこよそこ!」
「ここはどこだ」
桐山はルイズを無視して質問してくる。
「は? 何言ってるの。ここはハルケギニアのトリステイン魔法学院に決まってるじゃない」
「知らない名前だ」
「あんた、どこの田舎者よ」
「その国は俺のいた場所には存在しない」
桐山曰く、彼のいた所は月が一つしかないというルイズには信じられないものだった。
そして、桐山は言う。「ここは俺のいた世界とは違う世界だ」と。
「あんた、人を馬鹿にするのもいい加減にしなさいよ? だったら、証拠を見せなさいよ」
両腕と膝を組み、ふんと鼻を鳴らしながら言うと桐山はその場で屈み、デイパックの中をごそごそと漁りだす。
そして、手帳のようなものを投げ渡してきた。
「何よ、これ」
「俺の学生手帳だ。それに書いてある文字が読めるか?」
手帳を開くと、中には桐山の写真と共に色々な文字が書かれているのだがルイズにはさっぱり読めない。
しかし、これは彼が誤魔化すために書いたものでない事は分かる。
そして、この事から一つの可能性が浮かびだす。
「あんた、もしかしてロバ・アル・カリイエから来たの?」
桐山は無言のまままた小首を傾げだす。
それがまたムカついたが、ここで喚いても仕方がないので話を進める。
「ハルケギニアのずっと東にある土地の事よ」
「知らないな」
「……まあ、とにかくあんたがどこから来たのであろうと、あたしの使い魔である事には変わりないわ」
「使い魔?」
その質問に、ルイズは少々勝ち誇った様子で使い魔の事について桐山に説明してやった。
「……と、いう訳であんたはあたしの使い魔。そして、あたしはご主人様なのよ。あんたは使い魔として一生を通してあたしのために色々働いてもらうわよ」
「そうか」
いきなりこんな所に呼び出されておいて、何の抵抗もなく平然と答える。
(やけにあっさりしてるわね)
「具体的に何をすればいい」
「そ、そうね。……まず、使い魔には主人の目となり耳となる能力を与えられるわ。
ま、要するに感覚を共有するということなんだけど……駄目ね。こっちは何も見えないもの」
桐山は特に何も答えはしないが、ルイズはさらに続ける。
「で、もう一つは主人の望むものを見つけてくるのよ。例えば秘薬とか」
話を聞いているのかどうか分からないが、桐山はルイズを見たまま黙っているままだ。
「三つ目。これが重要だけど、主人を守る事。……でも、あんたじゃ期待できないわね。何しろ、平民だもの。
ま、それで何もしないというのも何だから雑用でもしてくれれば良いわ」
(話、聞いているのかしら? こいつ……)
「とにかく、今日はもう遅いから続きは明日!」
言うなり、ルイズは服を脱ぎだしネグリジェへと着替えだす。
桐山は相変わらず無表情のままルイズを見ているが、別に使い魔に自分の裸を見られても恥ずかしくはないのでルイズは気にしない。
「それ、明日の朝までに洗濯しておいてね。それから主人がいない間はここの掃除をお願い」
服を投げ渡し、ベッドに潜り込むルイズ。
「ああ、それとあんたは床に藁でも敷いて寝てなさい。明日はあたしより早く起きる事」
しかし、桐山からの返答は何も無い。
だが、深く気にするでもなくルイズは眠りについた。
あまりにも無口、無表情すぎるので正直あまり話をするのは気分がよくない。
……そして、彼のあの瞳が恐ろしかった。
(何を怖がってるの! あたしはあいつの主人なのよ!)


床に座ったまま桐山はデイパックの中身を確認していた。

プログラム開始時に支給されたパンの袋と1リットルの水が入ったペットボトルがそれぞれ二つずつ。
既に四人を殺害していたため、パンは十に増えている。水は重くなるので一本しか奪っていない。
他には地図、方位磁針、時計、懐中電灯。もっとも、地図は沖木島の地図なのでこんな所では役に立たないだろう。

そして、プログラムで支給された武器。
桐山に支給されたのは「シーナイフ」これで金井泉と黒長博、笹川竜平を殺害した。
これは服の中にでも隠しておけば良いだろう。

笹川から奪った武器はサブマシンガン「イングラムM11/9 9ミリ」非常に当たりと言える武器だった。40発の予備弾倉も5倉残っている。

金井泉から奪ったのは「スタンガン 10万ボルト」まだ使っていないのでバッテリーは充分だ。

黒長博からは小型自動拳銃「ワルサーPPK 9ミリ」予備の弾も50発分が一箱付いている。

そして、かつての不良グループの参謀格であった沼井充からは「自動拳銃ワルサーP99 9ミリ」こちらも予備弾が一式ある。また、彼の私物としてオイルライターとそのオイルも物色している。

桐山自身の私物は元々、修学旅行としての荷物しか持ってきていなかったのでサイフや学生手帳、読書本などといったものしかない。


桐山は自分が突然、こんな異世界という俄かには信じられない場所にやってきてしまっても別段どうも思っていなかった。
魔法という不思議な物を見ても、本人は何も感じはしない。

ルイズの使い魔となるのに承諾したのも、いつものような成り行きに任せての結果だ。

これからどうなるのかは桐山自身にも分からない。
自分が元の世界に戻れるかどうか、そんな事も別にどうでもよい。
コイントスのごとく成り行きに任せるだけである。


桐山は首に付けられている首輪の違和感に気が付き、手をかける。

この首輪には爆弾が仕込まれているそうで、本来ならあのプログラムのルールで禁止エリアに入ったり無理に外そうとしたりすると爆発をするらしい。
実際、桐山は首輪からほんの微かな機械の音を聞いていたのでそれを即座に理解した。

しかし、今はその音が僅かも聞こえてはいない。

何の迷いもなく桐山は首輪を掴み、力を入れて引っ張る。

あっけなく、首輪は外れた。

首に付いていた都合上、鏡を介さなければ見る事すらできなかったが、外す前から壊れていたのか微かに火花を噴いている。

それをじっと見つめている桐山だが、やはり何かを感じたりする事はなかった。

窓の外に首輪を放った桐山は壁に寄りかかると、床に座ったまま静かに眠りについていた。



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