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ゼロの賢王 第08話


「何か御用ですか、ポロン様」

ルイズの部屋へ戻る前にシエスタの様子を伺おうと厨房へやって来たポロンに対して、
マルトーが向けた言葉がそれだった。
言葉の内容とは裏腹に刺々しい物言いである。

「わざわざこんな平民如きの為に、その腕を振るって下さって感謝の言葉も御座いませんよ。
 ねえ?“我らの魔法”」

マルトーが憎々しげにそう言うと、シエスタが慌てて口を開いた。

「ま、マルトーさん!そんな言い方は・・・」
「黙ってな!シエスタ」

マルトーはそう言ってシエスタの言葉を遮った。
シエスタはおろおろとポロンとマルトーの顔を交互に見る。

「いいんだ、シエスタ」

ポロンもシエスタに向けてそう言い、それ以上は口を噤む。

「で、でも!!」

シエスタは納得出来ないという風に首を振った。

「ポロン様はこんな私の為に、危ない目に遭いながらも貴族の方と決闘までして下さいました。
 それなのにこんな・・・」
「・・・だとしても俺がマルトーたちを騙していたことには違いない」

ポロンがそう言うと、シエスタはそれ以上何も言わなかった。
目を伏せ、スカートの裾をぎゅっと握る。
ポロンはマルトーの方へと向き直った。

「魔法について黙ってたことはすまない!だが、これだけは信じてくれ。俺は・・・」
「聞きたくないね!」

マルトーはピシャリとポロンの言葉を遮る。

「平民の振りして俺らに近寄ってよ、表向きは仲良くしてよ、それで裏では俺らのこと馬鹿にしてたんだろ?
 それが貴族様の新しい遊びか何かか?ええ!?」

マルトーは貴族というものが心底嫌いであった。
持って生まれた身分の差はある程度は仕方が無い。
だが、中には魔法が使えるというだけで平民を見下し、虐げる様な者も少なくない。
マルトーはそういった連中に痛い目に合わされたことは1度や2度だけではない。
時には愛する家族がその矢面に立たされることもあった。
そうしたことの積み重ねによりマルトーの貴族に対する憎しみは募っていった。

この学院でコック長として働くことが出来る様になったのは、学院長であるオスマンの厚意によるものである。
オスマンは貴族でありながら平民に対する理解も深く、純粋にマルトーのコックとしての腕を買ってのことであった。
そのことに対してマルトーは感謝はしているが、それでも貴族に対する蟠りが解けたわけでは無かった。
寧ろ、料理人への感謝も一切無く、毎日大量に残される料理を見る度に貴族に対する不平不満は余計に募っていくばかりであった。
そんな彼にとって、魔法を使う者は貴族であり憎むべき存在であった。

「帰んな!」

マルトーは冷たくそう言い放つと、背を向けて厨房の奥へと消えていった。
ポロンは特に何も言い返さずにただその背中を見つめている。

「・・・邪魔、したな」

ポロンは誰に言うでもなくそう呟くと、踵を返し厨房の外へと出て行った。
直後にシエスタは顔を上げ、ポロンを追い掛けて厨房を出た。
厨房を出てすぐにポロンの姿を見つけると、シエスタはポロンを呼び止める。

「ポロン様!」
「シエスタ・・・」

ポロンは振り返った。
シエスタは言いたいことが上手く言葉に出来ないことに歯噛みする。
少し間が空いたが、意を決してシエスタは口を開いた。

「あ、あの、私、ポロン様には本当に感謝しております。この御恩、一生掛かっても返せませんが・・・、
 必ずお返しいたします!何でもします!・・・だから、その」

ポロンは無言でシエスタの顔を見つめる。

「マルトーさんを悪く思わないで下さい。きっと、きっとマルトーさんにも事情があるんです!だから・・・」

ポロンはシエスタが最後まで言い終わらない内に、シエスタの側まで来ると頭にポンと手を置いた。
そして、優しく2,3度撫でる。

「ポロン様・・・」

ポロンの手は少しゴツゴツしていたものの、その手触りが心地良くてずっとこうして貰いたいと思った。
シエスタはまるで自分が子供に戻った様な不思議な気持ちになっていた。

「大丈夫だ。分かってる」
「・・・ポロン様」

寂しそうな顔でポロンは笑う。
ポロンは撫でるのを止めると、厨房の方へと顔を向けた。

(マルトー、すぐにじゃなくていい。だが、お前なら分かってくれるよな?)


「・・・その、取り込み中のところ大変失礼だがよろしいかな?」

その時、後ろの方から声が聞こえてきた。
ポロンが振り向くと、そこにはギーシュの姿があった。

「お前は確か・・・」
「ギーシュだ。ギーシュ・ド・グラモン。・・・もしかしてお邪魔だったかな?」

シエスタはギーシュの言葉に思わず頬を紅潮させる。
ギーシュはフフッと笑うと、ポロンの横を通り過ぎてシエスタの目の前までやって来た。

「!!な、何か私に御用で御座いますか?」

シエスタはギーシュに少し怯えながら訊ねる。
すると、ギーシュは答える代わりに突然その場に正座を始めた。
そして、両の手を地面につけて頭を下げる。

「え!?ええ!?」

突然のことに慌てるシエスタを無視してギーシュは続けた。

「自分の不始末を君に押し付け、挙げ句の果てに八つ当たりまでして・・・本当にすまなかった」
「そ、そんな!あ、頭をお上げ下さい!」
「この通りだ!許して欲しい!」

ギーシュは頭を地面へと擦り付けた。

「ゆ、許します・・・許しますから早く頭をお上げ下さい!!こ、こんなところを誰かに見られたら・・・」

シエスタが涙目でそう言うと、ギーシュはすくっと立ち上がり再度シエスタに頭を下げる。
ポロンはその様子を見て、思わず顔を緩ませていた。
ギーシュは頭を上げると、ポロンの方へと向き直った。
ポロンはギーシュの顔を見て、ふと何かに気が付いた。

「お前、その頬どうした?」
「これかい?フフ・・・愚かな男の証さ」

ギーシュの頬は真っ赤に腫れていた。

「あの決闘の後、ケティとそしてモンモランシーと話し合ってね。僕の本当の気持ちを2人に伝えた。
 ケティには可哀想だが、僕が本当に愛しているのはモンモランシーだとね。
 そうしたら、ケティには食堂の時とは比べ物にならないくらい思い切り殴られてね。この様さ」
「そうか・・・」
「でも、不思議と嫌な気分じゃない。・・・誤解を受けないように言っておくが僕にその様な趣味は無い。
 何というかとても清々しいんだ」

ギーシュはそう言うと笑った。
それは以前の蔑む様な感じは無く、とても気持ちの良い笑顔であった。

「へっ、男の顔になったな」
「君のおかげだ、ポロン。君が・・・いえ貴方がいたから、僕は過ちに気が付けた。そしてモンモランシーを失わずに済んだんだ」
「良かったじゃねえか。許して貰えたんだな?」
「ああ・・・、ケティが去った後に何度も土下座したよ。一生分の土下座だったかもね」
「いやあ、これからも土下座はするぜ?その一生分の何倍もな。経験者は語るって奴だ」
「そうか・・・肝に銘じておくよ」

そう言うと、ポロンとギーシュは声を上げて笑った。
シエスタもその様子を見ていて、思わず笑顔になる。
暫く笑った後、ギーシュは遠い目になって言った。

「・・・僕は決闘の時、いや食堂の時から貴方を許せないと強く思った。貴方を屈服させてやりたいと思っていた。
 あの時、貴方は彼女の為、体を張って僕に立ち向かった。弱き者の為に戦う。それは貴族としての精神だ。
 僕は貴族以上に貴族の心を持った貴方を見て何処か嫉妬していたのかもしれない」

ポロンはギーシュの言葉に静かに首を振った。

「違うな・・・。別にそれは貴族とかそんなのは関係ねえよ。それは人として当たり前の“心”だ。
 全ての人がそうあって欲しいと俺は願っている」

ポロンの言葉はギーシュだけでなく、シエスタの心にも強く浸透していった。

「人として当たり前・・・か。貴方は本当に僕の想像を簡単に超えてくれる。
 さて、僕は失礼させて頂くよ。時間を取らせてしまってすまなかったね」

ギーシュは踵を返して、来た道を戻ろうとしたが、ふと何かを思い出したかの様にポロンたちの方を振り返った。

「気を付けた方がいいよ。この学院にいる貴族は僕の様に物分りのいい者ばかりではないからね。
 あの決闘を見て貴方にいい感情を抱かない貴族も大勢いるだろう。教師を含めて、ね」
「・・・ああ、分かった。わざわざ教えてくれて有難うな。ギーシュ!」
「フッ、初めて名前を呼んでくれたね。貴方に覚えてもらえて光栄だよ」

ギーシュは気障な感じで手を振ると、そのまま去って行った。
ポロンもシエスタに別れを告げてそこから去り、シエスタもまた厨房内へと戻った。

「何やってたんだシエスタ」
「キャッ!ま、マルトーさん!こんなところで突っ立ってて何をやってたんですか?」
「・・・いいからこれ運べ。教員室へな」
「は、はい!」

ケーキと紅茶を乗せたお盆をシエスタに渡すと、シエスタはそれを教員室の方へと運んで行く。
シエスタが去った後、マルトーはポロンが去って行った方を見つめていた。

「・・・・・・フン!」

彼は鼻を鳴らすと再び自分の持ち場へと帰って行った。



その夜、ポロンが雑事を済ませてルイズの部屋へ戻ろうとすると、見覚えのあるサラマンダーが目の前に現れた。
「きゅるきゅる」と人懐っこそうな感じで鳴くと、ポロンのズボンの裾を口に咥えて何処かへ連れて行こうとする。

「??どうしたフレイム。何か用か?」

ポロンはフレイムの目を見た。
ポロンはモンスターや動物などと心を通わすことが出来る。
どうやら彼は自分の主人の元へと連れて行きたいようであった。

「俺に何の用があるんだ?」

ポロンは昼間のギーシュの言葉を思い出す。
しかし、彼の主人───キュルケと言っただろうか?彼女はそういうタイプには見えなかった。
いまいち意図が汲めないポロンは取り敢えずフレイムに付いて行くことにした。

フレイムに連れられキュルケの部屋の前まで来ると、ポロンは扉を開いて中へ入る。

「邪魔するぞ・・・って、うわ、何だこりゃ?」

部屋に入ると、中は真っ暗で何も見えなかった。
それでいて何か香水の様な甘ったるい香りがポロンの鼻をくすぐる。
暗がりの中から、声が聞こえた。

「扉を閉めて、こちらへいらして下さらない?」

キュルケの声であった。
ポロンは恐る恐る声の方へと歩いて行く。
すると、ポロンの通過と同時に順々に蝋燭が灯っていき、やがてベッドに腰掛けたキュルケの悩ましい姿が見えてくる。

「貴方は、私をはしたない女だと思うでしょうね・・・」

キュルケはポロンに向かってそう言うと、足を組み替えた。

「・・・・・・・・・・・・」

ポロンは無言であった。
無論、ポロンとて40年近く生きているわけであり、彼女の意図に気付かないわけではない。
仙人の様に煩悩を捨てているわけでも無いので、この状況に何も思わないわけでもない。
だが、

「・・・すまねえ、昔の俺ならお前の誘いにホイホイ乗ってたかも知れねえが、今の俺は無理だわ」

そう言って頭を下げた。
キュルケは自分のこの姿やこの状況を見てもなびかないポロンに内心驚く。
だが逆にそれがキュルケを更に燃え上がらせた。
キュルケは言葉を続けた。

「・・・昼間の決闘。貴方、本当に凄かったわ。平民が貴族に立ち向かうだけじゃなく、あんな強烈な魔法・・・初めて見たわ。
 恋しちゃったみたいなの、私・・・」
「だから本当にすまねえ!」

ポロンは再び頭を下げた。
その時、バンッと窓の開く音がした。
思わず音のする方を振り向くと、そこには恨めしげにポロンを睨み付ける男の姿があった。
男はキュルケの方へと視線を移す。

「キュルケ!待ち合わせの時間に君が来ないから来てみれば・・・」
「ペリッソン!?・・・ええと、2時間後に・・・」
「話が違うじゃないか!!」

キュルケは煩わしいといった感じで胸の谷間に差した杖を取り出して振るった。
すると蝋燭の炎がまるで大蛇の様に伸びて、窓ごと男を吹き飛ばした。

「・・・まったく、無粋なフクロウね」
「フクロウ・・・?」
「・・・彼はただのお友達よ。気にしないで頂戴」

その後も立て続けにキュルケの部屋に男がなだれ込んで来たが、全てキュルケは追い返してしまった。

「さあ、これで邪魔者はいなくなったわ!」

キュルケがそう言うと、ポロンはげんなりした表情で見ていた。

そして、後ろを振り向くとやや早歩きで扉へと向かった。
キュルケは去ろうとするポロンを見て、慌てて扉に魔法をかける。
彼を自分の虜にしたいという欲求もあったが、それ以上に彼を知りたくなったのだ。
今ここで帰すわけには行かない。
ポロンは扉に手を掛けると、鍵が掛かってることに気が付いた。

「!?何時の間に!?」
「まだ帰さないわ・・・」

キュルケが獲物を狙う蛇の様な目でポロンを見ている。
このままだとただじゃすまないと思ったポロンは扉に向かって手をかざした。

「アバカム!!」

すると、鍵が開く音がした。

(うしっ!これは使えるのか!)

ポロンは昼間の決闘以降、自身の中の魔力が多少は安定して来ているのを感じていた。
とは言っても、まだベギラゴンなどといった強力な呪文は勿論、ベキラマクラスの攻撃呪文も使えないみたいだが、
ある程度の補助呪文であれば使える様な気はしていた。

自身の掛けた魔法があっさり破られたことにキュルケは驚いた。
目の前の男は、やはりただの平民ではないと確信する。

「お願いだから待って頂戴!!」

キュルケが呼び止める前にポロンが扉へ手を掛けようとした、
その時であった。


バーン!!!!


扉が壊れんばかりの勢いで開けられた。
見ると、そこにはネグリジェ姿のルイズが鬼の様な表情で立っていた。

「る、ルイズ・・・?」
「ポロン!!!!」

ルイズはポロンを怒鳴りつけると、次にキュルケの方へ向き直った。

「ツェルプストー!誰の使い魔に手を出してんのよ!?」
「仕方ないじゃない。彼のこと、好きになっちゃったんだもの。彼、貴女なんかにはもったいないくらいいい男だわ。
 ねえ、『ゼロのルイズ』なんか放っといて、もっとお話しましょうよ?」

キュルケがポロンに向かってそう言うと、ルイズの怒りが目に見えて増していく。

「この女・・・もう頭に来た!!」

ルイズは、まるで怪獣の様にどかどかと歩いてキュルケの元へと歩いて行く。
このままならば、女同士の見るに耐えない凄惨な掴み合いが始まるであろう。
ポロンはルイズの肩越しから声を掛ける。

「お、おいルイズ!俺はあの子見ても別に何も思わないし、何もするつもりはねえ!!
 だから部屋へ戻るぞ!!」

ポロンはそう言うと、強引にルイズの手を取ってキュルケの部屋から出て行った。

「あ、ちょ、ちょっと!!」

キュルケが制止する間も無くポロンの姿は部屋の中から消え去った。

「・・・ちぇっ」

キュルケは人知れずそう呟いた。
しかし、最後にポロンの放った言葉は気に食わない。

(俺はあの子見ても別に何も思わないし、何もするつもりはねえ!!)

(あの子・・・ねえ)

ポロンにまだ自分の名前すら呼んでもらえていないことにキュルケは気が付く。

「見てなさい・・・貴方を絶対に私のものにしてやるんだから!!」


その後、ルイズの部屋へと戻ったポロンはルイズに説教を食らい、
明け方までヴァリエール家とツェルプストー家の確執についておさらいさせられるのであった。


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