スコールの意見に従い、かの巨大建造物ルナティック・パンドラへと飛ぶラグナロクは、目的地よりも遙か手前でその物体を発見した。
「もう見えた?……何でルナティック・パンドラが動いてるんだ」
砂漠の空、異質な直方体の黒い物体が西へ西へとゆっくり飛んでいく。
「どうする?何かあったのかも知れないぞ」
「……それも確かめなくちゃ判らない。ラグナロク、突入する」
通算3度目となるルナティック・パンドラへの突入は、前回と同じく何の妨害もなくすんなりと成った。
「お前達は、あの時の傭兵か?」
タラップから降りたスコール達の前に現れたのは、前回の突入の時にも見たことのある騎士だった。
「ああ。オダイン博士への面会を希望したい」
「……まぁ、博士が来たら会うと言っていたから別に構わん。だが傭兵、ルナティック・パンドラが動いていることは外部に漏らすなよ」
スコールの要求に少し戸惑いながらも首を縦には振ってくれた。
そんな騎士の案内で、ルナティック・パンドラの一室。いまはオダインのラボと化している部屋へと通された。
「むむっ。ラグナの息子でおじゃるか!?良いところに来たのでおじゃる!こちらの魔法を応用してオダインは新しい擬似魔法を作り出したのでおじゃる。傭兵をやっているお前達なら使う機会も多いはずでおじゃる。実際に使ってみて欲しいのでおじゃる!」
会うなりいきなりそうまくし立てるオダインは相変わらずの様だった。
「虚無のメイジでおじゃるか?」
とりあえずその新しい擬似魔法とやらを空きのあるアニエスにドロー、ストックしてもらっておいて、こちらの話を振る。
「そうだ。アニエスも、詳しいことは知らないらしい。王族に近くて、研究しているあんたなら知ってもいるんじゃないか?」
「知っているも何も、オダインを呼んだジョゼフが虚無でおじゃるよ」
「ガリア王も!?」
あっさりと告げられた事実にアニエスは目を剥いた。
「さっき渡した擬似魔法、ヘイスガとインビジも虚無の系統魔法を参考に作った擬似魔法なのでおじゃる。
ヘイスガは名前の通りヘイストの上位種、虚無の『加速』の要素で強化されたのでおじゃる。インビジは虚無の『幻影』で姿を見えにくくし敵の狙いを定めなくさせるものでおじゃる」
全くもって予想外の事態だったが、これは助かる。
「オダイン博士、改めて聞きたい」
「何でおじゃるか?オダインが幾らでも説明してやるのでおじゃる」
魔法オタクが目を輝かせる。
「『虚無』の魔法はどれほどの強さなんだ?今度、トリステインの女王になるヴァリエールは、擬似魔法を相手にどれだけ戦える?」
「はっきり言って擬似魔法では相手にならないのでおじゃる」
これまたあっさりとオダインは返答した。
「『虚無』のありとあらゆる基本となる魔法、『爆発』でも、魔力量と使い手の技量に依るでおじゃるが……このルナティック・パンドラそのものを一撃で吹き飛ばすことすら可能なのでおじゃる」
「……冗談だろう?」
二人とも青い顔になって尋ねるが、オダインからその点については訂正がない。
「そんなつまらない冗談を言ってもオダインに何の得も無いのでおじゃる!まぁ、弱点は存在するのでおじゃるが」
「それは?」
そこに、光明を見出したい。
「先程言った通りの魔力量と、詠唱時間なのでおじゃる。
普通のメイジは一週間もあればその精神力の容量全体分のを回復出来るのでおじゃるが、虚無は精神力のゲージがとんでもなく大きくて十数年に渡りため込める代わりに一度に消耗する量もとんでもないのでおじゃる。
それこそ、ルナティック・パンドラを吹き飛ばす規模なら、百年生きたとしても人生に五度撃てれば良い方でおじゃる」
おおよそ二十年に一発の計算だ。威力に対して相応の代償があるということか。
「それから詠唱時間でおじゃるが、これはもう決定的でおじゃる。虚無のルーンは通常の系統魔法に比べて5,6倍は長くて詠唱中は隙だらけになるのでおじゃる。
虚無の使い魔であるガンダールヴ等はその隙を埋めるためなのではないかとオダインは推測しているのでおじゃる」
「ガンダールヴ?」
聞き覚えはあるが、何だったか。
「始祖の左手と呼ばれた使い魔なのでおじゃる。あらゆる武器を使いこなし、始祖を守ったと言われているのでおじゃる。
ここからはオダインの推測でおじゃるが、ガンダールヴ『として』喚ばれた使い魔なら、その左手にはガンダールヴのルーンが刻まれるはずでおじゃる」
「『として』?」
「虚無を継いだメイジも伝説上の始祖と同じでおじゃる。四つの使い魔をそれぞれに喚び、その能力も受け継がれると考えられるのでおじゃる」
「能力もか」
「そうでおじゃる。オダインが契約すれば多分『神の頭脳』ミョズニトニルンになったはずでおじゃる」
頭の良いオダインにはぴったりでおじゃる、とえらそうに胸を張るちっさいおっさん。
「何でそう言いきれるんだ?あんたにもルーンは見あたらないし、さっきの言い方だと契約もしてないんだろう」
「簡単でおじゃる。オダインを喚んだジョゼフからドロー出来たのがミョズニトニルンだったからでおじゃるよ」
「ドロー?その……使い魔の力……と言うのか、それもドロー出来るのか」
「ジャンクションシステムの枠組みで言うならG.F.に相当している様でおじゃる」
説明を聞く限り媒体となる人に能力を付加するようだから、成る程G.F.の様なものなのだろう。
「虚無の……使い魔か……」
そこでハッとした顔でアニエスはスコールを見た。
「? 何だ」
「虚無の使い魔だ!レオンハート、確かお前を喚んだメイジは」
「ヴァリエール……まさか、俺が?」
「そう!お前も虚無の使い魔として喚ばれたのでおじゃる。惜しかったのでおじゃる。ラグナの息子がきちんと契約をしていれば、ガンダールヴかヴィンダールヴか、ひょっとすると『憚られる』使い魔の事が詳しく知れたでおじゃる~」
心底残念そうにオダインが落ち込む。
虚無のメイジであったジョゼフからG.F.がドロー出来たということは、ひょっとしてヴァリエールからも何かしらG.F.をドロー出来たのだろうか、とほんの一瞬考えた。
「お前達、他にオダイン達の世界の者を知らないでおじゃるか?オダインも、ラグナの息子もとなると、きっと他に来ている者も虚無の使い魔である可能性大なのでおじゃる」
オダインの問いかけに真っ先に思い浮かんだのは、スコールの幼なじみにしてライバルのあの男だった。
「もう見えた?……何でルナティック・パンドラが動いてるんだ」
砂漠の空、異質な直方体の黒い物体が西へ西へとゆっくり飛んでいく。
「どうする?何かあったのかも知れないぞ」
「……それも確かめなくちゃ判らない。ラグナロク、突入する」
通算3度目となるルナティック・パンドラへの突入は、前回と同じく何の妨害もなくすんなりと成った。
「お前達は、あの時の傭兵か?」
タラップから降りたスコール達の前に現れたのは、前回の突入の時にも見たことのある騎士だった。
「ああ。オダイン博士への面会を希望したい」
「……まぁ、博士が来たら会うと言っていたから別に構わん。だが傭兵、ルナティック・パンドラが動いていることは外部に漏らすなよ」
スコールの要求に少し戸惑いながらも首を縦には振ってくれた。
そんな騎士の案内で、ルナティック・パンドラの一室。いまはオダインのラボと化している部屋へと通された。
「むむっ。ラグナの息子でおじゃるか!?良いところに来たのでおじゃる!こちらの魔法を応用してオダインは新しい擬似魔法を作り出したのでおじゃる。傭兵をやっているお前達なら使う機会も多いはずでおじゃる。実際に使ってみて欲しいのでおじゃる!」
会うなりいきなりそうまくし立てるオダインは相変わらずの様だった。
「虚無のメイジでおじゃるか?」
とりあえずその新しい擬似魔法とやらを空きのあるアニエスにドロー、ストックしてもらっておいて、こちらの話を振る。
「そうだ。アニエスも、詳しいことは知らないらしい。王族に近くて、研究しているあんたなら知ってもいるんじゃないか?」
「知っているも何も、オダインを呼んだジョゼフが虚無でおじゃるよ」
「ガリア王も!?」
あっさりと告げられた事実にアニエスは目を剥いた。
「さっき渡した擬似魔法、ヘイスガとインビジも虚無の系統魔法を参考に作った擬似魔法なのでおじゃる。
ヘイスガは名前の通りヘイストの上位種、虚無の『加速』の要素で強化されたのでおじゃる。インビジは虚無の『幻影』で姿を見えにくくし敵の狙いを定めなくさせるものでおじゃる」
全くもって予想外の事態だったが、これは助かる。
「オダイン博士、改めて聞きたい」
「何でおじゃるか?オダインが幾らでも説明してやるのでおじゃる」
魔法オタクが目を輝かせる。
「『虚無』の魔法はどれほどの強さなんだ?今度、トリステインの女王になるヴァリエールは、擬似魔法を相手にどれだけ戦える?」
「はっきり言って擬似魔法では相手にならないのでおじゃる」
これまたあっさりとオダインは返答した。
「『虚無』のありとあらゆる基本となる魔法、『爆発』でも、魔力量と使い手の技量に依るでおじゃるが……このルナティック・パンドラそのものを一撃で吹き飛ばすことすら可能なのでおじゃる」
「……冗談だろう?」
二人とも青い顔になって尋ねるが、オダインからその点については訂正がない。
「そんなつまらない冗談を言ってもオダインに何の得も無いのでおじゃる!まぁ、弱点は存在するのでおじゃるが」
「それは?」
そこに、光明を見出したい。
「先程言った通りの魔力量と、詠唱時間なのでおじゃる。
普通のメイジは一週間もあればその精神力の容量全体分のを回復出来るのでおじゃるが、虚無は精神力のゲージがとんでもなく大きくて十数年に渡りため込める代わりに一度に消耗する量もとんでもないのでおじゃる。
それこそ、ルナティック・パンドラを吹き飛ばす規模なら、百年生きたとしても人生に五度撃てれば良い方でおじゃる」
おおよそ二十年に一発の計算だ。威力に対して相応の代償があるということか。
「それから詠唱時間でおじゃるが、これはもう決定的でおじゃる。虚無のルーンは通常の系統魔法に比べて5,6倍は長くて詠唱中は隙だらけになるのでおじゃる。
虚無の使い魔であるガンダールヴ等はその隙を埋めるためなのではないかとオダインは推測しているのでおじゃる」
「ガンダールヴ?」
聞き覚えはあるが、何だったか。
「始祖の左手と呼ばれた使い魔なのでおじゃる。あらゆる武器を使いこなし、始祖を守ったと言われているのでおじゃる。
ここからはオダインの推測でおじゃるが、ガンダールヴ『として』喚ばれた使い魔なら、その左手にはガンダールヴのルーンが刻まれるはずでおじゃる」
「『として』?」
「虚無を継いだメイジも伝説上の始祖と同じでおじゃる。四つの使い魔をそれぞれに喚び、その能力も受け継がれると考えられるのでおじゃる」
「能力もか」
「そうでおじゃる。オダインが契約すれば多分『神の頭脳』ミョズニトニルンになったはずでおじゃる」
頭の良いオダインにはぴったりでおじゃる、とえらそうに胸を張るちっさいおっさん。
「何でそう言いきれるんだ?あんたにもルーンは見あたらないし、さっきの言い方だと契約もしてないんだろう」
「簡単でおじゃる。オダインを喚んだジョゼフからドロー出来たのがミョズニトニルンだったからでおじゃるよ」
「ドロー?その……使い魔の力……と言うのか、それもドロー出来るのか」
「ジャンクションシステムの枠組みで言うならG.F.に相当している様でおじゃる」
説明を聞く限り媒体となる人に能力を付加するようだから、成る程G.F.の様なものなのだろう。
「虚無の……使い魔か……」
そこでハッとした顔でアニエスはスコールを見た。
「? 何だ」
「虚無の使い魔だ!レオンハート、確かお前を喚んだメイジは」
「ヴァリエール……まさか、俺が?」
「そう!お前も虚無の使い魔として喚ばれたのでおじゃる。惜しかったのでおじゃる。ラグナの息子がきちんと契約をしていれば、ガンダールヴかヴィンダールヴか、ひょっとすると『憚られる』使い魔の事が詳しく知れたでおじゃる~」
心底残念そうにオダインが落ち込む。
虚無のメイジであったジョゼフからG.F.がドロー出来たということは、ひょっとしてヴァリエールからも何かしらG.F.をドロー出来たのだろうか、とほんの一瞬考えた。
「お前達、他にオダイン達の世界の者を知らないでおじゃるか?オダインも、ラグナの息子もとなると、きっと他に来ている者も虚無の使い魔である可能性大なのでおじゃる」
オダインの問いかけに真っ先に思い浮かんだのは、スコールの幼なじみにしてライバルのあの男だった。
アルビオンへオダインを連れて行くことと、その身辺警護を正式に依頼されてラグナロクは飛ぶ。オダインが出ようとした時に、護衛に付いていた騎士が勝手に出て行かれては困るとオダインを押しとどめようとしていたが、
「ジョゼフに止められているわけではないし、ルナティック・パンドラを予定の位置に運ぶだけなら中にいる二人だけでも出来るのでおじゃる!」
と押し切ってしまっていた。些かの憐憫の情を騎士に覚えたが、まぁ依頼は依頼だ。
「ところでオダイン博士、ルナティック・パンドラはいったい何処へ動かしていたんだ」
ブリッジ後方のゲスト席に掛け、ラグナロクで収集していたハルケギニアの地形データを鑑賞しているオダインに尋ねる。
「ジョゼフの命令でゲルマニアへ持って行くように言われていたのでおじゃる。そのままルナティック・パンドラそのものをゲルマニアの反乱軍に渡すように言われたのでおじゃる」
「反乱軍に?確かその、ルナティック・パンドラとやらはハルケギニアでは使えんのだろう?何故わざわざ」
訝しげな眼でアニエスが顔を後ろに向ける。
「だからそんなことをオダインに聞かれてもオダインは知らんのでおじゃる。……おお、ここが火竜山脈でおじゃるか!ここもいつか行ってみたいところでおじゃる~」
めんどくさそうに返していたかと思うと、出てきた地形図に眼を輝かせた。全くもってマイペースなおっさんである。
「……現状でのルナティック・パンドラの使い途は一つしかない」
眼を細め、進行方向を睨み付けながらスコールは唸るように言う。
「あの巨大さを利用した移動能力のある要塞にさせるつもりなんだろう」
ゼルからの報告によると、ルナティック・パンドラがエスタ市街に突入してきた際に、数名のガルバディア兵がルナティック・パンドラ下方のハッチから揚陸してきたという。
(加えてあの巨体……敵重要拠点をあの質量そのものを利用して体当たりで破壊することも出来るだろう)
いずれにしろ、強大な兵力となることは間違いあるまい。
(十年単位で魔力を溜めた虚無ならば、破壊出来るというのがオダイン博士の言だったか。だがもしどこかでそれを無駄遣いさせれば、例え虚無を擁するトリステインと言っても敗北は必至か)
これがもし、ジョゼフがルナティック・パンドラと相対したのであったら実はもう少し事態は違ってくる。
虚無にとって基礎であるエクスプロージョンを実に効果的に使ってみせるジョゼフならば、ルナティック・パンドラの完全破壊などはせずに内部の基部のみを的確に破壊して、効果的に無力化してみせるだろう。
だがそれを、厳密に言えば虚無に目覚めてすら居ないトリステインの新女王に求めるのは酷という物だ。先延ばしになっていたラグナロクの主砲修復。今後の情勢によっては必要となってくるやも知れない。
「……レオン、ちょっと待て」
「何だ?」
「あの一帯……火が……」
「火事か?」
アルビオンの上空にさしかかったところで、アニエスがたどたどしい手つきながら機外カメラを操作して進行方向から少しずれた森の一角を映す。
「人?いや、ゴーレムか?……ゴーレムだと!?」
燃える木々に照り映えるのは、巨大な人型。
これからスコール達が会いに行こうとしている者の仲間にいるのは、土くれのフーケ。
彼らの正確な居所は判らないから、明日の朝から森の中を探そうとしていたのだが、これはいきなりのアタリかもしれなかった。
ラグナロクを空中で停止させ、改めてカメラを操作する。
「メイジ達と戦っているのは……やはりサイファーか!」
ガンブレードを赤い炎で照らしながら、ロングコートの男が駆け回る。
「強行着陸するぞ」
少し離れた所の木々を押しつぶしながら、ラグナロクの巨体が降りた。
「オダイン博士はここに残っていてくれ。ジョーカーはラグナロクと博士の護衛を。アニエス、行くぞ!」
シートベルトを取っ払いながら、機内放送で呼びかけ、昇降口から相棒と共に飛び出して、そこからでも見える炎の方へと駆ける。
「ジョゼフに止められているわけではないし、ルナティック・パンドラを予定の位置に運ぶだけなら中にいる二人だけでも出来るのでおじゃる!」
と押し切ってしまっていた。些かの憐憫の情を騎士に覚えたが、まぁ依頼は依頼だ。
「ところでオダイン博士、ルナティック・パンドラはいったい何処へ動かしていたんだ」
ブリッジ後方のゲスト席に掛け、ラグナロクで収集していたハルケギニアの地形データを鑑賞しているオダインに尋ねる。
「ジョゼフの命令でゲルマニアへ持って行くように言われていたのでおじゃる。そのままルナティック・パンドラそのものをゲルマニアの反乱軍に渡すように言われたのでおじゃる」
「反乱軍に?確かその、ルナティック・パンドラとやらはハルケギニアでは使えんのだろう?何故わざわざ」
訝しげな眼でアニエスが顔を後ろに向ける。
「だからそんなことをオダインに聞かれてもオダインは知らんのでおじゃる。……おお、ここが火竜山脈でおじゃるか!ここもいつか行ってみたいところでおじゃる~」
めんどくさそうに返していたかと思うと、出てきた地形図に眼を輝かせた。全くもってマイペースなおっさんである。
「……現状でのルナティック・パンドラの使い途は一つしかない」
眼を細め、進行方向を睨み付けながらスコールは唸るように言う。
「あの巨大さを利用した移動能力のある要塞にさせるつもりなんだろう」
ゼルからの報告によると、ルナティック・パンドラがエスタ市街に突入してきた際に、数名のガルバディア兵がルナティック・パンドラ下方のハッチから揚陸してきたという。
(加えてあの巨体……敵重要拠点をあの質量そのものを利用して体当たりで破壊することも出来るだろう)
いずれにしろ、強大な兵力となることは間違いあるまい。
(十年単位で魔力を溜めた虚無ならば、破壊出来るというのがオダイン博士の言だったか。だがもしどこかでそれを無駄遣いさせれば、例え虚無を擁するトリステインと言っても敗北は必至か)
これがもし、ジョゼフがルナティック・パンドラと相対したのであったら実はもう少し事態は違ってくる。
虚無にとって基礎であるエクスプロージョンを実に効果的に使ってみせるジョゼフならば、ルナティック・パンドラの完全破壊などはせずに内部の基部のみを的確に破壊して、効果的に無力化してみせるだろう。
だがそれを、厳密に言えば虚無に目覚めてすら居ないトリステインの新女王に求めるのは酷という物だ。先延ばしになっていたラグナロクの主砲修復。今後の情勢によっては必要となってくるやも知れない。
「……レオン、ちょっと待て」
「何だ?」
「あの一帯……火が……」
「火事か?」
アルビオンの上空にさしかかったところで、アニエスがたどたどしい手つきながら機外カメラを操作して進行方向から少しずれた森の一角を映す。
「人?いや、ゴーレムか?……ゴーレムだと!?」
燃える木々に照り映えるのは、巨大な人型。
これからスコール達が会いに行こうとしている者の仲間にいるのは、土くれのフーケ。
彼らの正確な居所は判らないから、明日の朝から森の中を探そうとしていたのだが、これはいきなりのアタリかもしれなかった。
ラグナロクを空中で停止させ、改めてカメラを操作する。
「メイジ達と戦っているのは……やはりサイファーか!」
ガンブレードを赤い炎で照らしながら、ロングコートの男が駆け回る。
「強行着陸するぞ」
少し離れた所の木々を押しつぶしながら、ラグナロクの巨体が降りた。
「オダイン博士はここに残っていてくれ。ジョーカーはラグナロクと博士の護衛を。アニエス、行くぞ!」
シートベルトを取っ払いながら、機内放送で呼びかけ、昇降口から相棒と共に飛び出して、そこからでも見える炎の方へと駆ける。
「ふんっ!」
轟、と火薬が炸裂しハイペリオンが震える。
「があああああっ!?」
獣に食い千切られたかのような傷跡を残しながら、メイジが倒れた。それは捨て置き、まだ元気に動き回る他の連中をサイファーは追う。
「マチルダ、上げろっ!」
呼びかけに応じて、心持ち昇りやすく傾けられた土くれのゴーレムの足を伝って上へ。
他の連中に任せた隙にフライでゴーレムの腕の中に匿われた子供達に近づこうとしていたメイジを捕捉する。
「すっこんでろぉっ!」
サイファーの叫びと共に目標のメイジの眼前にファイアが爆発する。怯んだ隙にハイペリオンを手の中で回転させ、斬檄を放つ。
得意の雑魚散らしで吹き飛ばしたところで地上に降り立ち、弓矢や銃でもってゴーレムの肩に乗るマチルダを狙おうとしている傭兵達へ腕を向ける。
「クエイク!」
大きく足下から突き上げられた連中の間を駆け抜けながら、ハイペリオンを振り回す。そして
ガギッ
ライオンハートの蒼い刀身とハイペリオンのメタリックな刀身が激突する。
「それで……?スコール、まさかお前も襲撃者の一人か?」
鍔迫り合いのまま、睨み付けるように幼なじみを見る。
「俺はつい今し方、別件でこの場に立ち寄ったに過ぎない。ロングビル……フーケが狙われでもしたか」
「いいや、連中の狙いはマチルダじゃねぇようだ。敵じゃないならすっこんでろ、スコール」
バッと鍔迫り合いの状況から離れて、再度駆け出す。
「ティファの騎士はこの俺だぁっ!」
そんな叫びと共にハイペリオンを振り回す。
「お前の幼なじみはいつもああか?」
「ああ、いつも通りのサイファーだ」
あまりにも乱暴な物言いに、あんぐりと口を開けながらアニエスが尋ねると、こちらも呆れ顔でスコールは頷いた。
「しかし、ここは……村、いや集落か?」
上空から見ていては判らなかったが、燃えているのは木々だけではなく、いくつかの家だったらしきものの炎上している状態も見れる。
それに踏み荒らされているモノの、炎によって照らされる地面の波模様は、あれは畑ではないだろうか?
ガコッガァーンッ
スコール達を敵と見たか、斧を振り上げて近づいてくる傭兵にアニエスが容赦なく一発をお見舞いする。
「……嫌な光景だ」
今にも燃え落ちそうになっている家を見ながら、彼女は呟く。その声を聞きながら、スコールは薄ぼんやりと相棒の素性を思い出していた。
「サイファーが守ろうとしているのは、ゴーレムの上にいる連中のようだ」
些かくたびれたコートの戦場での動きを目で追いながら、スコールはそう結論づける。
「……なら、もう住民は避難しているということだろ」
「そうだな……」
それで、幾分アニエスの気分が柔らかくなったように思えた。
「戦闘は、サイファーに任せて良いだろう。俺達は鎮火の方に」
G.F.リヴァイアサン、擬似魔法ウォータの使用準備をすると共に、それぞれが手近な火元へと駆けた。
轟、と火薬が炸裂しハイペリオンが震える。
「があああああっ!?」
獣に食い千切られたかのような傷跡を残しながら、メイジが倒れた。それは捨て置き、まだ元気に動き回る他の連中をサイファーは追う。
「マチルダ、上げろっ!」
呼びかけに応じて、心持ち昇りやすく傾けられた土くれのゴーレムの足を伝って上へ。
他の連中に任せた隙にフライでゴーレムの腕の中に匿われた子供達に近づこうとしていたメイジを捕捉する。
「すっこんでろぉっ!」
サイファーの叫びと共に目標のメイジの眼前にファイアが爆発する。怯んだ隙にハイペリオンを手の中で回転させ、斬檄を放つ。
得意の雑魚散らしで吹き飛ばしたところで地上に降り立ち、弓矢や銃でもってゴーレムの肩に乗るマチルダを狙おうとしている傭兵達へ腕を向ける。
「クエイク!」
大きく足下から突き上げられた連中の間を駆け抜けながら、ハイペリオンを振り回す。そして
ガギッ
ライオンハートの蒼い刀身とハイペリオンのメタリックな刀身が激突する。
「それで……?スコール、まさかお前も襲撃者の一人か?」
鍔迫り合いのまま、睨み付けるように幼なじみを見る。
「俺はつい今し方、別件でこの場に立ち寄ったに過ぎない。ロングビル……フーケが狙われでもしたか」
「いいや、連中の狙いはマチルダじゃねぇようだ。敵じゃないならすっこんでろ、スコール」
バッと鍔迫り合いの状況から離れて、再度駆け出す。
「ティファの騎士はこの俺だぁっ!」
そんな叫びと共にハイペリオンを振り回す。
「お前の幼なじみはいつもああか?」
「ああ、いつも通りのサイファーだ」
あまりにも乱暴な物言いに、あんぐりと口を開けながらアニエスが尋ねると、こちらも呆れ顔でスコールは頷いた。
「しかし、ここは……村、いや集落か?」
上空から見ていては判らなかったが、燃えているのは木々だけではなく、いくつかの家だったらしきものの炎上している状態も見れる。
それに踏み荒らされているモノの、炎によって照らされる地面の波模様は、あれは畑ではないだろうか?
ガコッガァーンッ
スコール達を敵と見たか、斧を振り上げて近づいてくる傭兵にアニエスが容赦なく一発をお見舞いする。
「……嫌な光景だ」
今にも燃え落ちそうになっている家を見ながら、彼女は呟く。その声を聞きながら、スコールは薄ぼんやりと相棒の素性を思い出していた。
「サイファーが守ろうとしているのは、ゴーレムの上にいる連中のようだ」
些かくたびれたコートの戦場での動きを目で追いながら、スコールはそう結論づける。
「……なら、もう住民は避難しているということだろ」
「そうだな……」
それで、幾分アニエスの気分が柔らかくなったように思えた。
「戦闘は、サイファーに任せて良いだろう。俺達は鎮火の方に」
G.F.リヴァイアサン、擬似魔法ウォータの使用準備をすると共に、それぞれが手近な火元へと駆けた。