あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

HELLOUISE IF~きっともう一度の、冴えたやり方~ (後編)

「さすがに……疲れたな」

戦場の真ん中。数多のグールと人間の死体でできた丘の上に、ギーシュが座っていた。
周囲の敵は全て討ち滅ぼしたようだったが、精神力も体力も尽き果てて、
これでは邪魔になるだけと考えたらしく、今からキュルケたちを追う気はないようだった。
キュルケ達の戦いとその上に見える空を眺めながら、彼は立ち上がる代わりに言葉を紡ぎ出す。

「――なあ、青い空よ。あの日の約束を未だ覚えているかい?」

紡ぐのは歌。変わってしまった自分達と、あの頃から変わらぬ空に問いかける歌。

「傷は未だ癒えないよ。
 もう傷つきたくないから、もう涙を流したくないから、器用になったつもりだった」

遠くではシエスタとモット伯が一進一退の攻防を続けている。
更にその奥では、ルイズに辿り着きそうになったキュルケとシャルロットへ、ワルドが飛び掛った。
ワルドに応えるようにシャルロットが前に出て、残ったキュルケはルイズの元へと駆け抜ける。

「――でも気がついたら、汚れた宝箱を抱き締めて、思い切り泣いていた」

脳裏を過るのは思い出。皆で笑いあったあの頃。
ギーシュの顔にこびりついた血が涙で流されていく。

「青い空よ、あの日の約束を未だ覚えているかい? 傷は未だ癒えないよ」

痛いんだと、静かに涙を流しながらギーシュは手で胸を押さえる。
戦場で貰った傷ではない。心が痛くて、ギーシュは年甲斐もなく泣いていた。

背後から、声が聞こえる。
孫の声だ。
ギーシュは涙を拭った。

「――追伸。あれから僕は、綺麗な種を植えたよ。この種が大きく、純粋な木になるまで。
 僕はこの丘で待つことにしたんだ」

孫に応えるように、ギーシュは右手を挙げた。
戦いの結末は見ない。
別れはもう自身の中で済ませているし――今の彼には帰るべき場所がある。
本当は、ルイズを討ったら自分も逝こうと、そう誓っていたのだけれど。
今の彼には、捨てられないものが、見届けたいものができてしまっているから。

「やっぱり僕は約束を守れなかったよ。……でも」

でも、彼女は許してくれるんじゃないかって、そうも思っているのです。
ギーシュはそう口の中で呟いた。

 *

ギーシュが死体の丘に座り込んだその頃。
キュルケとシャルロット率いる部隊はグールの群れをかき分け、ルイズへ肉薄しようとしていた。
文字通り押し潰そうとする不死の軍勢に抗いながら、ギーシュの開いた血路を駆け抜ける。
それは殆ど捨て身に近い吶喊だったが、多大な出血を払いながら彼らは突き進み、そして。

「二人抜けた……! ツェルプストー候達だ!」
「総員、ここでグールを止める……! 本体は侯爵たちに任せるんだ!」

大量のグールが犇く空間を抜け、キュルケとシャルロットはついにルイズを指呼の間へと捉えていた。
食い散らそうと進撃するグール達と動かないルイズとの間に開いた、五十メィルほどの間隙。
其処へ先陣を切っていたキュルケとシャルロットが飛び込んだのである。
これによって、気の狂った演劇はとうとう最終章へと突入しようとしていた。

舞台に立つのはたった四人の演者のみ。
円の端にキュルケとシャルロット。それを迎え撃つように、ルイズとキュルケ達の間へ仁王立つワルド。
そしてワルドの奥、円の中心に立つルイズ。
お姫様と、侵略者から姫を守る騎士のような光景だ。
その実は寧ろ、死霊の王とその従者を討とうとする勇者たち、と言った方が近かったが。

「……キュルケ。貴女はルイズ。私はワルド」
「…………分かったわ。無理するんじゃないわよ?」
「心配も遠慮も無用。それに、彼(ワルド)には聞きたいこともある」

昔の『タバサ』へ戻ったような口調のシャルロットに、キュルケは少し悩みながらも諾と応えた。
無用と言われたが、心配だし遠慮もする。
ワルドは桁外れに強いし、何より恐らくはシャルロットもルイズの相手をしたかった筈だ。
だが彼女はその役目をキュルケに譲ると言った。ルイズの好敵手を自認するキュルケへの気遣いである。
それが解らないほどキュルケは鈍くなかった。

「……行かせると思うのかね?」
「貴方の意志は関係ない。私が行かせる」
「それはまた大きく出たものだ。だが――そう簡単に行くかなッ!」
「私が行かせると言った。『タバサ』とキュルケのコンビは、常に学園で最高だった!」

二人は言葉と共に杖を掲げると、示し合わせたように竜巻を作り出してぶつけ合った。
エア・ストームとアイス・ストーム。拮抗する二つのスクウェアスペルが轟音と突風を生む。
そしてシャルロットの風に後押しされるようにして、キュルケが走り出した。

「させん!」
「そっちこそ、させない」

ワルドの遍在が四体、キュルケを追おうとして、同数のシャルロットの遍在に阻まれた。
本体と遍在の全てが鍔迫り合いを演じ、魔法と武器と言葉の応酬を始める。
キュルケはそれを背中に聞きながら、玉座へ、ルイズの元へ駆けて行く。

「それよりも、どうして貴方がルイズの中にいる? 貴方はタルブ村とは無関係のはず」
「……一度はレコン・キスタに走り――あの子を裏切った身だ。
 二度もルイズを討つ側に回るくらいならば、共に消えるのもいいかとね。自ら望んだことだ」
「ルイズはそんなことを求めてはいなかったのに……!」
「それでも。私はこれが正しいと思ったのだよ。
 分からんさ、何が正しいかなど、君にも私にも、ルイズにもね」
「それは、ただのエゴ……!」
「そうだ! だがそれはみな同じこと! 所詮はエゴに過ぎんのだよ、誰も彼も!」

ごう、と、互いの意志を篭めた風が吹き荒れていった。

 *

「ルーーーーーーイーーーーーーーーズゥゥゥーーーーーーーーーーーーッ!!」
「来なさいキュルケェッ! バカ踊りも仕舞いにしましょう!!」

ルイズへと走りながら、キュルケは懐から短銃を取り出した。
渇いた音と共に、鉛弾がルイズを貫いていく。
だが吸血鬼には、それも真祖の直系たるルイズにはそれは致命傷足り得ない。
討ち倒すならば頭を吹き飛ばし、心臓を杭で貫くより他はない。
その証拠に、腹や腕に風穴を開けられながらルイズはキュルケを捕まえるべく突進してきていた。

「ちッ…《発火》!」
「ぎッ!?」

短銃では足止めにもならないと判断したキュルケは、即座に短銃を投擲。
《発火》の呪文で短銃を爆破した。
鉄で出来た銃身と内蔵された弾丸がルイズを蹂躙し、その隙にキュルケはバックステップで距離を取る。
吸血鬼に接近戦は即ち敗北を意味するということを、キュルケは脳髄に叩き込んでいた。

「さあ往くわよルイズ! 教育してあげる、本当の人間の闘争っていうものをね!」
「ちぃぃッ!」

キュルケは背負っていたバックパックを外し、中味をぶち撒ける。そこには大量の銃、銃、銃。
何れもコルベールとキュルケが「もしも」のために開発したものだ。
短銃やフリントロック式の銃だけではない。
原始的なショットシェルによる散弾銃。パーカッションロックによるボルトアクション小銃。
ハルコンネンを参考にでもしたのか、対物ライフルのようなものまである。
大口径のものや範囲攻撃に特化したそれらが、誰に向けられることを想定されたかは言うまでもなかった。
使われぬことを願って作られた革命的兵器たちはその本懐を果たすべく、担い手もないのに浮き上がり、
そして吸血鬼へと銃口を向ける。キュルケの《念力》の魔法であった。
一人軍隊(ワンマン・アーミー)を体現するこれこそが、キュルケの対吸血鬼の秘策である。

「吹ッ飛びなさい!」
「舐めるな人間! 全弾避け切ってやるわよ!」

断続的な轟音が鳴り響く。硝煙が立ちこめ、埃が舞い上がった。
細かく位置を調整しながら十字砲火を叩き込もうとするキュルケと、キュルケを捉えようと猛進するルイズ。
両者は泥沼の消耗戦に突入したが、しかし反面、決定的な決着は中々つかない。
両腕で顔を庇いながら突進するルイズに、キュルケが散弾銃の一撃を叩き込む。
それによって右腕が肩から吹き飛びながら、ルイズは残された左腕を振るう。
反応の遅れたキュルケがわき腹を抉られたが、すれ違いざまにライフル弾を眼球にお見舞いする。
血煙が舞った。
片や爪で片腹を抉られ、片や腕と目を?ぎ取られながら、それでも彼女達は嗤う。

「ねぇキュルケ! あなたは誰かを殺したいと思ったことがある?!」
「あるわよ! 当たり前じゃない! だって今、こんなにも貴女を殺したい!」

決着がつかないのは、二人が共に決定的な一撃を封じられているからだ。
ルイズの武器は吸血鬼の腕力と虚無の魔法だ。
だが、キュルケは無数の火器の掃射によって、正面からの接近や大きな魔法を許さない。
キュルケの《念力》で飛び交う火器たちは、性質上、心臓への精密射撃には時間が掛かる。
だがルイズの身体能力や《ディスペル》への警戒が、攻撃を一時止められる程の時間を作らせない。
故に、崖の上でダンスを踊るような戦闘を繰り広げながら、二人は膠着状態に陥っていた。

「じゃあ死にたいと思ったことは? 世界の終わりを望んだことは?
 人を傷つけたことはある?!」
「あるわ! あるとも! だからあたしは人のまま!
 そんな自分が怖いから、あたしは化け物にはなれなかった!」

わき腹に魔法薬を掛けながら、キュルケが問い返す。
その隙にルイズが踏み込もうとして、リボルバー式連発銃の迎撃を受けた。

「そういう貴女はどうなの?! ルイズ、『ゼロ』のルイズ!
 始祖の魔法と人を外れた体を持った貴女は!」
「私もあるわ! いいえ、今もそう!」

互いに背筋に冷や汗を垂らしながら、二人は死の舞踏を踊る。
急速に体が再生していく不快感に顔を顰めながら、キュルケが懐に手を入れる。
太腿を打ち抜かれたルイズが、至近距離からの射撃を嫌って飛び退る。
置き土産に一言のみで発生させた《エクスプロージョン》をばら撒いて煙幕とするおまけつきだ。

そして訪れる、僅かな停滞。
ここが分水嶺だと、二人とも知っていた。

「私はいつだって誰かを妬んでた。躓く度に何かのせいにしてた。
 自分のことばかり心配してて、何も信じてなんかいなかった」
「それは違うわ、ルイズ。貴女は何時だって前を向いていた。泣きそうになったって、下を向かなかった」
「そんなことない! 私は汚れてる、私はいつだって、心に悪魔を飼っているの!」

《エクスプロージョン》の煙幕が切れる寸前。
両者は動き出していた。
ルイズは言葉の端々に混ぜた《ディスペル》の呪文を完成させ、杖を振り下ろした。
キュルケは懐から取り出した透明の液体を撒き、マッチを投げた。
光と共に全ての銃器が力を失い、キュルケとルイズの間に炎の壁が出来上がった。

「そんなの……誰だってそうじゃない! 世界は何時だってこんな筈じゃないことばっかり!
 それでも貴女は挫けなかった!だからあたしは、貴女を全力を尽くすべき愛しい怨敵と認めたのよ!」

キュルケが投げたのは『ツェルプストーの火』と呼ばれる兵器だった。
ハルケギニアでは燃える水と恐れられたそれは、ウォルターに言わせれば「ナフサ」という物質。
コルベールがコークスの産業廃棄物たるコールタールをヒントに作り出した、異界の燃料。
その特徴は極めて高い可燃性と消火の困難さだ。特に水を掛けた場合には――

「それでも私は……!」
「この、大莫迦野郎ッ!」

ルイズが炎の壁に飛び込むのに合わせて、キュルケは瓶を投げた。
モット伯から渡された聖水だ。
ルイズに直撃した聖水は、それだけでアンデッドの身を焼く。
そして、それだけでなく、高温の油の中では水は禁忌だ。言うまでもなくそれは、
水蒸気爆発を齎す。

――爆音。

「があッ……!」

ルイズの片足が吹き飛び、転がる。
終わったか、とキュルケが気を抜きかけた。
《ブレイド》の呪文で剣を出すと、ポケットに手をやり、何かを取り出そうとする。
が、その瞬間。

「まだよ! まだ終わってない……!」
「なッ……!」

片足だけで飛び込んだルイズが、キュルケに殴りかかった。
回避は間に合わない――そう咄嗟にキュルケは判断する。
ではどうする。このまま頭を砕かれるか、それとも。
逡巡は殆どなかった。
キュルケは、自分からルイズに飛び込んだ。

「ぐッ……!」
「ああッ……!」

轟音と共にルイズの腕が振り抜かれ、キュルケの髪と、頬の肉を抉っていった。
だが、直撃はしていない。

ルイズの元に飛び込んだキュルケは、ルイズと縺れ合う形で転がっていく。
ただし吸血鬼の膂力で体当たりされた形になったため、骨の数本は持っていかれた。
同じようにルイズも、傷ついた足を地面に打ち付けて苦悶の声をあげていたが。
最終的に、キュルケがルイズに馬乗りになる形で二人は止まった。

「くッ……ふふ、全く、貴女相変わらず子ども体型なんだから。ぶつかられると体が痛いわ」
「……キュルケこそ、相変わらず余計なものぶら下げてるから頬肉抉られるのよ。
 重いのついてるから避けきれなかったんじゃないの?」
「おあいにくさま。女を捨てきれるほどあたしは自分に絶望しちゃいないわ」

軽口をぶつけ合いながら、二人とも悟っていた。
もう終わりだと。
キュルケがルイズの心臓を突くのと、ルイズがキュルケを殴るのと。
どちらが速いとは言えないし、そもそも言う必要もない。
どちらが先に死んでも、死に切る前に互いが互いの止めを刺し終わる。
人間は死んだ瞬間に全ての力を失うわけではないのだ。
もう互いの攻撃を避ける余力が無い以上、この勝負は相打ちで終わることが決まっていた。

「さて……さよならかしら、それとも『またね』かしら?」
「どっちでも。どの道私もキュルケも地獄行きよ」
「違いないわね」

くッくッく、と嗤いながら、キュルケは先ほど懐から取り出していた金属球をルイズの胸に置いた。
中には沸点を超えた状態で保存された液体燃料が満載されている。

所謂一種の燃料気化爆弾である。
コルベールの《爆炎》の完成形、キュルケをして「悪魔の兵器」と言わしめた禁忌の発明。
それは間違いなく二人を同時に始祖ブリミルの元へと送るだろうと思われた。
尤もキュルケはともかく、ルイズには其処までのことは分からなかったに違いない。
ただ、何となく察する様子を見せてもいた。

「一人では逝かせない。言葉に出さなかったけれど、あの日約束した皆が思っていたことよ」
「……キュルケ」
「あたしで悪いけど。付き合ってあげるわよ、地獄の底までね」
「………………ごめん、キュルケ」

いいのよ、とキュルケが首を振り、ブレイドで金属球を断ち割る。
その刹那に、ルイズは動いていた。
キュルケの腕を掴み、放り投げる。
その先はギーシュが作った、グールの屍骸の山。

それを見送って、ルイズは閃光の中へと消えていった。

「ルイズーーーーーーッ!」

キュルケは遠ざかる視界の中で、ルイズの微笑みを見ていた。
回る視界の中でもずっと、一度も目を離さず。そうしたら、何故かルイズの声が聞こえる気がしたのだ。
ルイズは泣いていた。やっと死ねると安堵しながら、笑顔で泣いていた。


――私は裁かれるべきなのでしょうか。

――悲しみよ、憎しみよ。何故人は多くを望むのですか?

――もう十分なはずなのに、それでも人は欲に身を委ね

――誰かが泣いても心や耳を塞ぎ、新しい世界を作ろうとするのです

――そう、誰もが皆、心に悪魔を飼っているのです


轟音が耳を焼き、平衡感覚を失わせた。
それと同時に、キュルケはグールの屍骸にぶつかる。
衝撃に血を吐きながら、彼女はルイズを焼いた雲を睨みつけていた。

「それでも。それでも私は生きているわ。悪魔と共に、ね。
 地獄で待ってなさいルイズ、何、すぐよ」



数年後。
ツェルプストーはゲルマニアから独立を勝ち取り、公国として独立する。
同時にツェルプストー伯キュルケは対吸血鬼専門機関を秘密裏に設立。
多くの国家と吸血鬼事件限定での介入権を得る。
機関の名前は「HELLOUISE」と言った。



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