あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

リさん一家

 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが、ル・ブランの西のはずれにある持ち主のいない地所を召し上げて住むことにしたのは、もう自分の将来に見切りをつけたためである。
 かつてヴァリエール領の死刑執行人の一族が住んでいた屋敷は、陸の孤島と言っていいほど近隣の地所から離れており、しかも近くの湖から風が吹いているせいか、領内では珍しく湿気の多い土地柄ゆえに生い茂った森に四方を囲まれ、一本の道だけで森の外とつながっている。生い茂った森と言っても木々がみっちり立て込んでいるわけでないので、その間を十分散策できるというのも気に入って、トリステイン学院を去った後、家族のお荷物にならずにあと三、四十年、せいぜい五十年の楽隠居の生活を送るため、早めの終の棲家として移り住むことにした。

 森の裏手は、公爵家の初代がラ・ヴァリエールの地を拝領する以前から石柱が並んでいる広場があり、ちょっとした観光名所になっている。そこを訪れる観光客のざわめきが森を通り抜けてくるのを聞きながら、それに背を向けて庭で読書をするなり、お茶を飲むなりして日々を無為に過ごすことに、世俗を無視する世捨て人の倒錯した優越感を感じるのが、今のルイズの生き方である。時々、かつて同じ教室に机を並べていた友人のキュルケ・フレデリカ・アウグスタ・フォン・ツェルプストーが訪ねてきては、なんとか引っ張り出そうと、最初の二年ほどはしていたが、これがルイズの決めたヴァリエールの一員としての生き方だということを納得してからは、ゲルマニアで世俗の栄達に邁進する貴族として、世捨て人を訪問してからかいつつも、隠者の助言を求めるという関係に変わっている。
 森を越えてくるのは声だけではなく、ついでも森を散歩したくなった旅行者が、うっかり地所の中に入ってくることがままあり、そのような旅行者と言葉を交わしたり、場合によってはお茶に誘ったりするのも楽しみの一つである。そのようなことはルイズにとって、学院にいた時には考えられなかったことだが、今となっては、なぜあんなにピリピリしていたのか、そちらの方がむしろ理解できない。タバサが森を抜けて庭に迷い込んできた時も、ルイズはつくづくそう思ったものだ。いつも本ばかり読んでいて何を考えているか分からないのにキュルケとだけは仲が良かったタバサは、座学は完璧にしようと思って必死の努力を重ねていたルイズにとって、年下であるにもかかわらずトライアングルクラスの実技の実力を持ち合わせながら、知識でも追い立ててくる目の上のたんこぶだったが、今にして思えば一緒に勉強すればさらにお互いの力を伸ばすことができたはず。そう考えると以前の自分はつくづく損をしていたとルイズは思う。
 「えっと、あまり話したことなかったけど、わたしのこと覚えてる?」
 「ええ。久しぶりね、ルイズ」
 「その・・・タバサ、って呼んでいい?」
 学院を去った後、ガリアで起きた政変で、彼女の立場が激変したことは、隠遁しているルイズの耳にも入ってきていた。
 「ええ。学院で知り合った人たちにとっては私はタバサだから。キュルケもいまだにそう呼んでいるもの。気にしなくていいわ」
 「ありがとう。時間があったら、お茶、飲んでかない?」
 「お言葉に甘えさせてもらうわ」
 そう答えるとタバサは、連れてきていたメイドと衛士に声を掛ける。メイドは「はい、陛下」と言い、椅子を引いてタバサに掛けさせ、ルイズとタバサ二人の給仕をする。衛士は、タバサのそばに控えながら談笑する主人と主人の友人を見守った。
 「キュルケから聞いていたけど、本当に召使も置いてないのね」
 「そうよ。だからできることは自分でしているの。使い魔も一緒だけど、召使と言うよりは一種の変わった間借り人よね」
 噂をすれば影が差す。その使い魔がタバサと同じく森を抜けて帰ってきた。
 ルイズが引き籠もることを決意したのは、サモン・サーヴァントで平民を呼び出してしまったことが直接のきっかけである。メイジの実力を見るには使い魔を見ろと言われているこのメイジ社会のハルケギニアで、魔法を使えない、魔法の系統を象徴するとも考えられない人間の平民を召喚したということが他の貴族にどう映るか、どんな反応が返ってくるか、そして自分が、言わばサモン・サーヴァントでハルケギニアに強制連行あるいはら致されたに彼らを、人生の障害として憎むようになるのではないか、それらの考えから、ルイズは貴族社会を離れる決心をした。
 「リさん、おかえり」
 「ただいま帰ったのです」

 使い魔は名前を尋ねた時、リと名乗った。その時は呼び捨てにしていたが、学院を辞め、貴族を捨てたつもりで若隠居するとなると関係も変わってくる。もうメイジとして生きるのはあきらめたのだから、使い魔ではない。使用人を置くつもりもなかった。だから、ルイズは彼を友人として遇し、自身よりだいぶ年上なのでリさんと呼んでいる。
 リさんは、本人言うところの「ギャング時代のカポネのようなスーツ」という服を着ている。上はズボンのポケットに丸めて突っ込んであるものだから、そこがひどく膨らんでいる。そんな姿で森の中を散策するのがこの使い魔の日課である。
 「お客さまだったのですか」
 リさんは、タバサに気づき少しかしこまったポーズをとる。
 「そうよ。紹介するわ。学院で同窓だったタバサ。本名はシャルロット・エレーヌ・オルレアン、ガリア女王陛下よ。でも学院ではタバサと名乗っていたから、今でもタバサと呼んでいるの」
 「ええ。初めまして、リさん。お噂は伺っています。私のことはタバサと呼んでくださって結構ですよ」
 「初めまして、女王陛下。リと申します。ルイズ様の使い魔であるのです」
 「森の中で何をなさっておいででしたの?」
 そこまではタバサはルイズから聞いたことがなかった。それゆえの質問である。
 「鳥と話していたのです」
 なぜ鳥と話ができるようになったのかということは、リさんにも分からないとルイズは聞いている。鳥の話を聞いているうちに、なんとなく話が通じそうな気になって、話しかけたところ通じたのだと言う。学院の教師の一人、コルベール先生は彼の右手に現れたルーンの意味を教えてくれなかったが、感覚の共有も、秘薬の材料の採集もできないこの使い魔に可能な唯一の特殊技能と関係あるのかもしれない。
 「あら、鳥とどんなことを話してらっしゃるの?」
 学院にいたころと大いに変わったのはルイズだけではない。タバサも、女王としての決して平坦ではない、女王になるまでとは種類の違う苦労の多い道のりを経て、見違えるほど社交性を身に着けていた。
 「鳥というものは頭がよくないので、天気と食べ物の話しかしないのです」
 ちょうど庭に下りて来た雀たちがいたので、リさんはチチチチチチチと声をかけた。すると雀たちもチュンチュンチュンチュンチュンチュンと応じる。
 「今日は晴れているから羽が濡れなくて済むと言っているのです」
 「じゃ、よかったわね、とお伝えくださる?」
 タバサは、リさんを通訳として鳥と話してみるつもりになっていた。リさんはチチチチチと雀に声をかけ、雀はチュンチュンチュンチュンチュンチュンと返す。
 「明日も晴れるとエサが取りやすいと言っているのです」
 「かみ合ってないわね」
 とルイズが突っ込んだ。その間タバサははるか上空を旋回している、地上の人間の目では点にしか見えない自分の使い魔に心で呼び掛けた。
 (シルフィード、今の聞こえてた?)
 (きゅい。聞こえてたのね。「大いなる意志」が作り上げた自然の生きものの言語で話していたのね。そのおじさん、嘘ついてないのね)
 (そう)
 (ただ鳥は頭がよくないと言っているけど、それは間違いなのね。鳥にとって必要で重大なことを話しているだけなのね。人間が色々考え過ぎるのね)
 その日、タバサとルイズは、庭に訪れる鳥の話と、かみ合わない会話を楽しみながら旧交を温めた。

 召喚したのはリさん当人だけではなく、運よくと言うか折悪しくと言うか、一緒にいた家族も全員こちらに引き込んでしまっていた。リさんの妻と子ども二人である。
 リさんの奥さんは目鼻立ちのはっきりとしたショートカットの美人で、スタイルもなかなか肉づきのよい女性である。コントラクト・サーヴァントを直接交わしていないにもかかわらず、彼女の右手にもリさんのと同じルーンがなぜか存在している。リさんによると故郷では海女をしていたとのことで、実際地所の近くの湖で、素潜りをして魚をとってきている。淡水と海水の浮力の違いに最初は苦労したが、魚が目が合うと寄ってきて、そのまま大人しく捕まってくれるのが不思議だと、ルイズはリさんから聞いている。
 リさん一家とルイズは食卓を共にしており、リさんの奥さんが獲ってきた魚もそこに並ぶ。リさんと奥さんの子どもたちは、最初ほとんど口を聞かず、笑ったり怒ったりと言った感情も見せず、子どもらしい遊びも何一つするではなかったが、ルイズがいろいろとかまっているうちに少しずつ反応が返ってくるようになった。当初は発育不良に見えたが、隠棲先を見つける前にいったんド・ラ・ヴァリエールの本邸に戻ったルイズに当然ついてきている二人を見たルイズの母も姉たちも一様に心配し、あれを食べろこれを食べろと世話を焼き、ル・ブランのはずれに隠居所を見出した時には、ヴァリエール家の厨房から食材をまわそうか、料理人も派遣しようかと言ってきた。ルイズも、思うように育たない体にいらだちを覚えた経験があるので、あまり意地を張らず、焼いてくれる世話は素直に受け入れた。学院を辞めたばかりのルイズは、自分の意志で退学してきたと言え、傷ついたプライドも抱えていたので、自分が無力な分野の存在を指摘するような発言には強く反発しても不思議はなかったが、自分の体のことじゃないからと素直になる努力をできたことが、思えばルイズが大人になる上で大きな一歩だったのかもしれない。
 母親によく似た上の女の子も、姉のお下がりを着ているので最初のうちはこれも女の子かと思っていた下の男の子も、年相応に健康な成長を見せてくれている。この二人はなぜかギーシュとマリコルヌがお気に入りで、二人が来ると大喜びで寄っていく。ギーシュは相変わらずドットクラスで青銅のワルキューレを作っているが、ただその数が今では二十体を越え、しかも動きが人間並みに精密になってきている。一芸に秀でることの恐ろしさを思い知らされるが、子どもたちにはもっとかわいらしいものを錬金で見せてあげている。最近ではギーシュとモンモランシーの間に生まれた赤ちゃんが来るのが一番の娯楽らしい。
 マリコルヌもよく遊びに来る。純粋に自分に走り寄り、お気に入りの自分より大きなぬいぐるみに対するように跳び付かれ、お気に入りの丸々した着ぐるみを愛でるような眼差しで見られるのがたまらないらしい。
「大きくなったらマルちゃんのお嫁さんになる!」と上の女の子に言われた時には、嫌にさわやかな笑みを浮かべて「大きくなる前でもオッケーさ」と言い放ったものだ。ルイズは子ども二人とマリコルヌだけにならないよう、常に警戒している。ともあれ、彼らはルイズの侘び住まい(と言っても屋敷ではあるが)の二階に一家で暮らしている。ルイズはそろそろ二人を学校に通わせようかとすら考えている。

 ルイズがアンリエッタ女王の使者として内々のうちにロマリアに派遣され、珍しく屋敷を離れている間のこと、ある日、リさんは、厚さが一様でないので料理を作ると焼きムラが出てしまう不良品の大鍋が捨てられそうになったのを貰ってきた。それに水を張り、下から火を焚くと五右衛門風呂だ。帰って来たルイズが辻馬車から駆け降りて森の中の一本道を走り抜け、庭に駆け込み屋敷に上がり、二階に駆け上がり二階から駆け下り、屋敷から裏庭に駆け出てそれを見つけた時には、
奥さんが鍋に入り、リさんが下から火を焚いていた。
 「ここにいたの!・・・・・・何してるの?」
 うちわを持ったままリさんが答える。
 「故郷の風呂なのです」
 ルイズは足を火傷しないのかと心配になったが、
 「底に板を渡してあります」
 とのことだった。
 「女房は故郷では海女をしていたのです」
 そして、リさんは奥さんの素潜りの腕前を見せてやろうと言い、奥さんをお湯の中に潜らせた。
 「五分くらいは平気で潜っているのです」
 「ふ~ん・・・・・・それどころじゃなかった! リさん! あんたたち、帰れるわよ!」
 「帰れるとはなんのことですか?」
 「ロマリアで教皇聖下にお会いしたのよ! そうしたら教皇聖下は失われた系統である虚無の使い手で、世界扉(ワールドドア)っていう魔法が使えるのよ。見せてもらってけど今まで見たことのない街が扉の向こうにあったわ。精神力を蓄える必要があるけど、リさんたち、そこを通って元いたところに帰れるのよ!」
 「ルイズ様は私たちを帰したいのですか?」
 「えっ?」
 「私たちが邪魔なのですか?」
 「そういうわけじゃないけど・・・・・いや、あなたたちは私がサモン・サーヴァントで無理やりこっちに呼び寄せたんだから、人として元の世界に帰してあげないといけないんじゃないかと・・・・・・リさん、こっちで幸せ?」
 「子どもたちはずいぶん明るく、健康になったのです」
 「・・・・・・じゃ、元いたところじゃ?」
 その時、奥さんがお湯の上に顔を出すなり、グンニャリと伸びてしまった。
 「大変、大変、おぼれてしまったのです」
 リさんとルイズは、あわてて奥さんを鍋から引き上げようとするが、奥さんは前に記したように肉づきのいい体格なものだからなかなか引っ張り出せない。
 「何をぼやぼやしているのです」
 とリさんはルイズを叱咤する。やっとこさ引っ張り出して屋敷に運んだが、ルイズは途中で躓いてしまい、奥さんの裸の両太ももにぼてっと挟まれたりした。

 ルイズの人生に入り込んで来たこの一家がその後どうしたかと言うと

 まだ二階にいるのです。

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