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天才と虚無-03




 レメディウス・レヴィ・ラズエル
 ラズエル子爵家の嫡男であり、また、ラズエル咒式総合社の咒式技術者。
 二十代という若さでありながら、宝珠や機関部などの咒式制御系において、いくつもの特許を取得している。
 さらに、十二歳のときにチェルス将棋の大陸大会において、二十二歳以下の部門を制覇した、正真正銘の天才である。

 そんな彼は咒式技術者として砂漠の国ウルムンを訪れた際、<曙光の戦線>という過激派集団に襲われ、誘拐される。
 衣服以外の一切の所持品を奪われて、レメディウスは牢獄に幽閉されていた。
 しかしそんなある日、レメディウスは牢獄の中に、光る姿見のようなものを発見した。
 牢獄内の生活で暇を持て余していた彼は、好奇心に駆られてそれに触れ――――


「――――気付いたら、あの草原にいたんだ」

 そこから先は説明しなくても大丈夫だよね? と、レメディウスと名乗る青年は問う。
 ルイズはそれに、大丈夫だと首肯する。
 二人はテーブルをはさんだ二つの椅子に座っていた。ルイズは手に、夜食のパンを握っていた。
 王立トリステイン魔法学院、女子寮、ルイズの部屋。
 そこでルイズは、レメディウスから話しを聞いていた。

「それ、本当?」

 ルイズはレメディウスと名乗る青年に尋ねる。
 声には多量の疑いが含まれていただろう。なにせ、到底信じられる話しではなかったのだから。

「もちろん。ここで嘘をつく理由が、僕には無いからね」

 レメディウスは辟易とした表情で、そう答えた。
 呆れたように細められている翡翠色の瞳に、嘘をついているような色は見受けられない。
 この表情が演技ならば、彼は素晴らしい舞台俳優だろう。それこそ、自分の専属として雇いたいくらいの。

「悪いけど、信じられないわね」
「そうだろうね。僕だって、未だに信じられないんだし」
「別の世界ってどういうこと?」
「文明がもっと発達してると考えてくれたらいいかな。あと、月は一つしかなかった」

 レメディウスが窓の外を指さす。
 夜の帳が下りた空には、赤と青、大と小の月が輝いている。
 ルイズにとってはいつもと同じ夜空だが、レメディウスにとっては違うようだった。

「月が一つなんて、そんなふざけた世界が何処にあるのよ。まるで御伽噺じゃない」
「僕からしたら、この世界のほうがよっぽど御伽噺さ」

 レメディウスはそういうと、ルイズへと視線を戻し、苦笑する。
 与太話だ、とルイズは思った。
 確かにレメディウスの言葉には真実味があるし、即席で考えた設定とも思えない

 まるでそういう世界が本当にあるかのようだ。
 だが、レメディウスの表情からは、焦りが感じられない。
 ルイズがもし異世界にいきなり飛ばされたとしたら、帰りたいと喚くだろう。
 レメディウスからはそういう「焦燥」や「不安」といった感情が欠落しているように感じる。
 それが、レメディウスの言葉から真実味を欠けさせ、嘘臭くしていた。

「異世界から来たっていう割には、あんた帰りたいとか言わないじゃない」

 ルイズは感じていた違和を正そうと、レメディウスを問い詰める。

「本当に異世界から来たっていうなら、もっと焦ったりとかするものじゃないの?」

 これでまともな答えが返ってこなかったら嘘だろうと、ルイズは考える。
 レメディウスはその問いを聞くと、きょとんとした表情を浮かべ、その後に皮肉気に頬を歪めた。

「それは仕方ないかな。僕は帰りたいと思ってないから」
「はあ? なによそれ」
「説明するのが難しいんだけど………とにかく、元の世界に未練が無いんだ」

 会いたい人とかもいないしね、とレメディウスが肩をすくめる。

「あんたにだって、家族とかいるでしょ?」
「いるけど」
「会いたくないの?」
「あの人とは、会えないっていうなら別に会わなくてもいいかなって感じかな」

 ルイズはレメディウスの顔に、一瞬だけ不快気な色が浮かんだのを捉えた。
 あの人、という他人行儀な言い方から、限りなく他人に近い関係なのかも、とルイズは直感的に思う。
 しかも、折り合いが良くなさそうだった。

「まあ、それは良いとして………あんた、本当に別の世界から来たって言い張るの?」
「言い張るも何も、そうとしか思えないんだ」
「じゃあ、なんか証拠ある?」
「証拠?」
「そう、証拠。わたしが納得できそうなモノ」

 ルイズがそういうと、答えに窮したようにレメディウスが黙りこむ。
 しばらく逡巡したのち、

「困ったな、なにももってない」

 と苦笑交じりに言った。

「証拠が無いなら、信じるのは無理だわ」

 ルイズがパンをちぎって口へと運び、咀嚼しながら言った。
 行儀が悪いが、どうせレメディウスは使い魔なのだから関係ないだろう。

「異世界に行くなんて解ってたら、何かしら持ってきたんだけどね」

 何か持っていないかとポケットを探るレメディウス。
 しかし、直前まで牢獄に閉じ込められていたレメディウスは、魔杖剣どころか曲がった匙一つ持っていなかった。

「うーん………チェルスなら得意だけど、あれじゃ証拠にはならないだろうなぁ…」

 どうしたものかと悩むレメディウスが、ぽつりと漏らす。

「チェルス? なにそれ?」

 知らない単語に、ルイズが反応した。

「チェルスって言うのは二人でやる盤上遊戯だよ。八掛ける八の升目のある盤上に、王や騎士の駒を並べて………」
「それって、チェスのことじゃないの?」
「チェス? こっちではそういうのかな? 交互に駒を動かして、王を詰める遊戯なんだけど」
「やっぱりチェスじゃないの。あんた、得意なの?」
「僕の知っているものと同じなら、だけどね。これでも元の世界では強かったんだ」

 レメディウスは自信ありげに頷く。
 いままで微笑や苦笑しか浮かべていなかったレメディウスが、自慢げな表情を浮かべていた。

「じゃあ、私が相手でも勝てるかしら?」

 ルイズはそんなレメディウスを見ながら、言った。
 レメディウスはルイズを一瞥すると、即答する。

「勝てるだろうね」

 冗談を全く含まない、分析し尽くされたような冷静な声音。
 その言葉は刃となって、ルイズの貴族としての矜持を大きく抉った。

「あ、あんた、随分大口叩くじゃない! そんなに自信があるの?」
「まあね。これでも、大陸で一番強いって言われてたこともあるんだ」

 ルイズの口の端がひくひくと痙攣していることに、レメディウスは気付いていない。
 自慢げな表情で、言葉を紡ぐ。

「君の強さにもよるだろうけど、十中八九勝てるよ。自信がある」

 レメディウスが胸を張るのと、ルイズの内側でブチッ! と何かが切れた音がするのは同時だった。
 バンッ!! と、ルイズがテーブルに平手を叩きつける。
 手の下でパンが潰れて、ナンのようになっていた。

「あ、ああああああんた、いい度胸じゃない! いいわ、わたしに勝ったらあんたの与太話、信じてあげるわよ!」

 レメディウスはルイズのその言葉に、きょとんとした表情を浮かべた。

「いいのかい? たぶん、僕が勝ってしまうけれど」
「ええ、いいわよ」

 ルイズは椅子を引くと、椅子から飛び降りる。
 ベッドわきの机の引き出しを漁り、何かを小脇に抱えて戻ってくる。

「ただしッ!」

 バンッ! と、ルイズがテーブルに何かを叩きつけた。
 風圧で、テーブルに張り付けられたパンが吹き飛ぶ。レメディウスがそれを受け止め、テーブル上に置いた。
 ルイズが持ってきたそれは、ガラスで作られた、美しいチェスの盤面だった。

「あたしにも勝てないようなら、あんた打ち首だから」

 レメディウスはその時初めて、ルイズの浮かべる表情に気付いた。
 それは、冗談を言っている顔には全く見えなかった。

「ど、努力するよ。打ち首はいやだし………」

 レメディウスの背中に冷たいものが伝った。
 ルイズの視線には、恐怖を感じさせるセロトニンやノルアドレナリンを分泌させる咒式でも展開しているのだろうか?
 レメディウスにそう思わせるほど、ルイズの眼光は鋭かった。

「そうね、せいぜいがんばりなさい」

 不遜にそういってのけると、ルイズはガラスの盤面に駒を並べ始める。
 ルイズの駒が金、レメディウスの駒が銀でできていた。

「じゃあ、規則の確認をしてもいいかな? 僕の知っているチェルスと、規則が違うかもしれない」

 レメディウスが銀色の女王を手に取る。
 使う駒は似通っているし、駒を並べる順も同じだが、それでも規則の細部が違っている可能性は否めない。

「良いけど。ルールがちがうから負けたなんて言い訳は無しよ?」
「これでも指し手の誇りがある。そんな真似は絶対にしないさ」
「あっそ、ならいいわ。じゃ、駒の動きから確認ね」

 ルイズとレメディウスが、駒を一つ一つつまみあげて動きを確認していく。
 ルールの確認が終わると、ルイズはレメディウスに先手を打つように言った。

「いいのかい?」
「いいわよ。貴族はそれくらいの余裕があってしかるべきだわ」
「では、お言葉に甘えて」

 レメディウスは銀色の駒をつまみあげ、前進させた。


○ ○ ○


 数時間後、夜も更けた時分。
 レメディウスとルイズの二人が、始めた時とほぼ同じ態勢で盤面を囲んでいた。

「狭いところばかり見ていてはいけないよ。広く盤面を見て、可能性を探すことが
大切なんだ」

 レメディウスが、盤面を凝視するルイズへと声をかける。
 しかしルイズは黙ったまま、しかめ面で盤面を睨みつけていた。

「この部屋の外には外の世界が広がるように、たとえば、世界はこの世界だけではない」

 レメディウスが言葉を続ける。

「実は、次元の壁を超える伝達手段が存在する。
 これは超紐理論における紐、一次元の長さを持つ存在で、粒子は紐の振動として現れてくるという概念をさらに拡張したものなんだけれど………」

 レメディウスの言葉を聞いていないように、ルイズが一手を放つ。
 即座にレメディウスによって、最高の一手が返された。
 ルイズの可愛らしい眉間に皺が寄る。
 数十秒の間、盤面を睨みつけ、やがて一手を打つ。
 より厳しい一手がレメディウスによって返され、ルイズが泣きそうな表情になった。

「理論より導かれるP世界とは、P次元として、Pが一なら紐、二なら膜というように任意のPが設定できるなら、
 この世界は四次元以上の高次元空間にあるものとして現れてくると推測されている」

 考えていたルイズの表情に明るさが戻る。
 金色の駒をつまみあげ、自信を持って前進させる。
 レメディウスの手が閃き、より厳しい一手を打った。
 ルイズの眉間により深いしわが刻まれ、鳶色の瞳が細められた。

「ほとんどの物理力は世界という枠に閉じ込められて、外に出ることは出来ない」

 いらいらとルイズの足が、等間隔に床を蹴る。
 それを聞きながらレメディウスは、説明を続ける。

「しかし、重力だけは別の世界に影響を及ぼせる。重力の方向に別世界があれば、重力波伝達される」

 レメディウスの言葉を無視してルイズは、盤面を指差して残る手を模索する。
 対してレメディウスは盤面を見ることをやめ、既に自分の思考に囚われていた。

「別世界にまで影響を及ぼすならば特異点を発生させるようなブラックホール並みの重力波が必要なんだけれど」

 そこまで言って、レメディウスの言葉が止まった。
 盤面を見て、ルイズへ視線を向ける。

「あ、これは考えても無駄な盤面だよ。あと十三手か十五手のどちらかで、絶対に詰みになるから」

 レメディウスの指摘に、ルイズの頬が風船もかくやという程に膨れた。
 駒を取ろうとしていた手が止まり、そのまま盤面に乗っている駒を片端から叩き落とす。

「わわ、なんで盤面を壊すのさ!」
「あんたさあ! そんなに強いなら何で最初っから言わないのよ!」
「最初から言ってたじゃないか………」

 ルイズの理不尽な物言いに、レメディウスは苦笑する。
 床に散らばった駒を拾い集めると、駒を最初の状態に並べ直す。

「それに、なんかあんたブツブツ言ってたけど、あれ何よ。なんかの呪文?」
「呪文じゃないよ。咒式――――僕たちの世界での魔法みたいなものかな? それの基礎になる初歩の理論さ」
「何言ってるか、全然分かんないわ。もっと簡単に言いなさいよ!」

 苛立ちと呆れを綯い交ぜにした表情でルイズが言う。
 レメディウスが、苦笑の表情を深くしつつ、答えた。

「つまり、世界はここだけじゃない。たくさんあって重なり合い、そこには僕たち以外の誰かがいるかもしれないんだ」

 面倒な説明を省いた、結論のみの理論。
 それを聞いたルイズの瞳が、胡散臭げにレメディウスを見やった。

「ふぅん…………。じゃあ、あんたはそういう世界のどっかから来たってこと?」

 ルイズの言葉に、レメディウスが目を丸くする。

「おや? 信じてくれる気になったのかい?」
「だって、チェスで負けたら信じるって約束だったでしょう? 約束を破るなんて、貴族の恥さらしだわ」

 ルイズが悔しそうに、つんと顔をそむける。
 可愛らしいその仕草に、レメディウスは柔和な笑いを浮かべた。
 嘘が嫌いというか義理がたいというか、要はそういう少女なのだろう。

「それで、いったいどうなの? あんたはそういう世界から来たっていいたいわけ?」
「察しが良いね――――と言いたいところだけど、それは僕にもわからないんだ」
「なによ、違うの?」

 自説を否定されたようで、ルイズの顔に不機嫌さが浮かんだ。
 レメディウスはそれを見て笑うと、言葉を続ける。

「違うかもしれないし、違わないかもしれない。肯定も否定も、するには情報が足りないんだ」
「なにそれ、はっきりしないわね」

 レメディウスの答えに、ルイズは呆れて溜息をついた。
 白黒の盤面を睨みつけていたせいだろう、目がちかちかする。

「でも、元来た世界が解ったところで、帰れないわよ? あんたはわたしと契約して、わたしの使い魔になっちゃったんだもの」

 そもそも、召喚したものを元に戻す呪文なんてないし、とルイズが付け足す。
 レメディウスは人間で、さらに自称異世界人だが、それでも自分がやっと召喚に成功した使い魔だ。
 主人である自分をおいて元の世界に帰るなど、ルイズには許せなかった。

「別に帰る気はないからね。帰れなくたっていいさ」

 ルイズの言葉に、レメディウスが肩をすくめながら答える。
 その顔に浮かんでいる微笑に、ルイズは少し、影があるような気がした。
 先程も思ったが、レメディウスは家族と折り合いが悪いらしい。
 複雑な事情があるのだろうと、そう思った。

「まあ、あんたがそういうならいいんだけどね」

 ルイズは、レメディウスによって綺麗に並べ直された盤面から金の駒を拾い上げ、何気なく指先でもてあそぶ。

「あんたは人間でも使い魔なんだから、使い魔としてしっかり働きなさいよ?」
「もちろん。僕にできることなら何でもするさ」
「人間にできることって、雑用くらいしかないけどね」
「というかそもそも、使い魔というのはいったいどういうことをするんだい?」

 そういえば聞いていなかったと、レメディウスが呟く。
 幻想文学の類はほとんど読んだことが無かったため、知識に乏しかった。
 ルイズは出来の悪い生徒に講釈するように、椅子の上で膝を組んだ。

「使い魔にはまず、主人の目となり耳となる能力が与えられるの」
「言葉から察するに、視覚や聴覚の共有かな?」
「そう。でも、あんたじゃダメみたい。あんたからは何にも見えないし」

 それは逆によかったんじゃなかろうかと、青年は思った。
 ルイズは不満そうだが、さすがに入浴や用便の時に視覚を共有されるのは気分が悪い。
 少女はレメディウスの思考をよそに講釈を続ける。

「次に、使い魔は主人の望む物を見つけてくるの。具体的には秘薬やその材料ね」
「秘薬?」
「硫黄とか、苔とか、そういうものよ。魔法を使うときの触媒にしたりするわ」
「なるほど」

 そういう科学的側面も魔法には存在するのか、とレメディウスは感心する。

「最後に、使い魔は主人を守る存在なんだけど………あんたじゃ無理そうね」

 ルイズがレメディウスを、値踏みするように見やる。
 背は高いが、肉付きは薄く、筋肉質には見えない。
 性格も柔和といえば聞こえはいいが、悪く言えば気弱なところがある。戦闘には向かないだろう。

「護身術程度ならなんとかなるけど」
「平民の護身術なんか、メイジ相手にじゃ意味無いわよ」

 ちなみにルイズは、レメディウスが子爵家の嫡男――――貴族であるということをすっかり忘れている。
 ルイズの脳内では、レメディウスは自称異世界から来た、平民である。

「僕は魔法のことは解らないからなあ………」
「なんか、使えないわね。あんた」
「面目ない」

 嘆息しながら、ルイズは指先で弄んでいた女王を盤面に降ろす。
 床においていた木箱を開くと、その中に盤面の上の駒を片付け始めた。
 駒をしまうための窪みが箱の内側に彫られている。どう見てもチェスの駒をしまう専用のものだった。

「おや、片付けるのかい? もうやらないのかな?」
「あんたねえ………いったい今何時だと思ってるの? 疲れたし、もう寝るわよ」
「それもそうだね。流石に十三回も対局すれば疲れるか」

 一度目に完膚なきまでに敗北したルイズは、もう一度よ! とレメディウスに喰ってかかった。
 それを繰り返し、最後の対局で十三回目。
 繰り返された回数は、ルイズが敗北した回数に比例していた。

「結構、良い指し筋だったよ。十三回もやったのに、一度も同じ手を使わなかったしね」
「だって、同じ手じゃ勝てないでしょ」
「そうだね。ただ、同じ手に見せかけたり、別の手に見せかけたりというのは結構重要で――――うわぁああっ!?」

 チェス盤を片付け終えたルイズがいきなり服を脱ぎ出したのを見て、レメディウスが悲鳴をあげる。
 白い肌に一気に朱が差し、翡翠色の瞳が凄まじい速度で泳いだ。

「な、なななななんで服を脱いでいるんだい!?」
「なんでって、着替えないと寝れないじゃないの」
「いや、確かにそうなんだけどもね? 一応僕は、男なんだけど」

 その言葉に、ルイズが蔑むような眼をレメディウスに向けた。

「使い魔の雄に見られたって、別にどうとも思わないわよ」
「ああ、そう…………」

 ルイズの言葉に少し悲しくなりながら、少女の着替えを見ないよう、レメディウスはテーブルに突っ伏す。
 しばらくしたのち、その金髪の上に、何かが投げつけられた。

「? なにこ――――――うわぁああっ!!?」

 両手で広げたそれは、シルクの布地で造られた三角形。
 純白のそれは繊細なレースで美しく装飾され、気品さまで感じられる。
 それは、レメディウスの認識が間違っていなければ、ショーツと呼ばれる下着だった。

「それ、明日洗濯しておいてね」

 既に寝巻に着替え終わっているルイズが、レメディウスの投げ出した下着を指差して言った。

「………………普通、こういうものの洗濯は女性にたのまないかい?」
「あんた、雑用くらいしかできないんだから雑用しなさいよ」
「了解……」

 ルイズはその返事に満足そうに頷くと、自分のベッドに潜り込む。

「僕は何処で寝たら良い? やっぱり外のほうが良いかな?」

 流石に女子寮で男が寝るのは良くないだろう。
 砂漠のウルムンは、夜は氷点下になることもあった。それに比べればこの気候だ。
 外で寝ても、凍えることはないだろう。

「そこ。そこの藁束」

 ルイズが、部屋の隅を指差す。
 そこには馬小屋などの飼い葉をそのまま持ってきたような藁束があった。

「まさか人が召喚されるとか思ってなかったから」
「なるほど………」
「毛布は貸してあげる」

 今度は自分の足元を指差すルイズ。

「では、お言葉に甘えて」

 レメディウスはそこにあった毛布を拾い上げて、藁束の上に寝転んだ。
 牢獄の固い寝台より、柔らかいだけ上等というものだろう。ちくちくと肌を刺すのが難点といえば難点だが。
 そんなことを考えていたら、ルイズがパチンと指を鳴らした。同時に、煌々と部屋を照らしていたランプから光が消える。
 魔法とは便利なものだと、レメディウスは改めて感心した。

「明日、朝起こしてね」
「はいはい」

 言いつけられる仕事が本当に雑用で、レメディウスは苦笑する。
 これでは使い魔というより、従僕という気がした。

「それじゃ、おやすみ」
「おやすみ」

 最後に言葉を交わして、会話が途切れた。
 レメディウスは、ルイズの寝息が聞こえるのを待っていた。
 そしてその寝息が聞こえ始めたところで、レメディウスも瞳を閉じた。
 言葉にこそ出さなかったが、ルイズ同様に疲れていたため、眠りに落ちるのは一瞬だった。 



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