あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロと電流-17


「貴女には、なんと言えばいいのでしょうね」

 城に入ったルイズは人払いをしたアンリエッタの前に通される。ルイズはまず、手紙を差し出した。
 右腕に巻かれた包帯はまだ新しい。シルフィードに運ばれている間に水の秘薬とモンモランシーの応急処置を受けただけで、きちんと医者に診せたわけではないのだ。
 学院でシルフィードから降りるとすぐにマシンザボーガーに乗り込んだルイズに、そんな時間はなかった。
 キュルケ達は当然止めるが、ルイズには急ぐ理由があった。その理由の一端を話すと、全員が口を閉じる。
 全員がルイズの用件の緊急性を理解したのだ。

「ウェールズ様からお預かりしました。ご確認ください」

 即座に手紙を開いたアンリエッタは、それがかつての自分によるものだと確認次第、手紙を脇へ置く。
 次にルイズは始祖のオルゴールを。
 アンリエッタも何も聞かずに受け取る。
 説明は必要なかった。
 アルビオン王家にあるべきものをルイズが、いや、ルイズ経由でアンリエッタが、トリステインが託された。それだけで充分だった。

「大儀でした。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」

 アンリエッタ・ド・トリステインとして、アンリエッタは言う。
 そして、ルイズの幼馴染みアンリエッタは言う。

「ごめんなさいっ!」
「姫殿下?」

 伸ばしたアンリエッタの手が、ルイズの左肩に優しく触れる。そしてアンリエッタは立ち上がり、ルイズへと歩み寄った。

「私が余計なことを言ったばかりにこんな……」

 あくまでも優しく、アンリエッタは逆の手でルイズの右腕に触れる。

「貴女をこんな目に遭わせる気なんてなかったのです」

 ルイズは一歩下がり、跪いて頭を垂れた。

「ルイズ?」
「これは私の、愚かさが招いた怪我です。決して姫殿下の責など……」
「ルイズ!」
「姫殿下。まずはお聞きください」

 アンリエッタの言葉を遮りながら、ルイズは語り始める。
 アルビオンで見たことを。聞いたことを。感じたことを。
 一部の急を要する情報はここに通される前に既にマザリーニに伝達済みではあるが、アンリエッタにとっては初耳な話ばかりだった。
 そしてルイズの話がワルドの裏切りに至ったとき、アンリエッタは目を見開く。

「……あの人が……」

 いずれはトリステインを代表する騎士となる、とまで考えられていた男である。アンリエッタとて、何度か拝謁を許したことがある。
 信じられない。
 いや、そうではない。逆に自分はワルドを信じていたのか。
 側近であるマザリーニすら本当には信じられずにいた自分が、どうしてワルドを信じていると言えたのか。
 まさに愚かな王族ではないか。とアンリエッタは自嘲する。

「愚かですね」
「はい」

 素直に答えたルイズに、アンリエッタは俯いていた一瞬顔を上げる。その表情には不審と驚愕が表れていたが、すぐにルイズの言葉が自分を指したものではないと気付く。
 ルイズは、ルイズ自身のことを言っているのだ。

「私は愚か者でした。姫殿下のお言葉に甘え、暴走しました。無断でアルビオンへ向かい、あまつさえ、裏切り者を引き込んでしまいました」
「ルイズ……」
「姫殿下が私を処罰すると仰るのなら、私はその罰をお受けします」
「何故です」

 アンリエッタは問うていた。
 違うのだ。
 ここにいるのはルイズではない。いや、確かにルイズなのだが、アンリエッタの知っているルイズではない。
 何かが、大きく変わっている。
 その変化は好ましいものではないかとアンリエッタの中の何かが、ルイズの親友としてではない、トリステインという国を預かる者としての何かがそう訴えているのだ。
 だから、アンリエッタは問うた。その問いの意味すら、自分では理解していなかったというのに。

「私が、トリステインの貴族だからです」
「貴族だから、王族に従うというのですか?」
「いいえ」

 ルイズはきっぱりと答えた。

「貴族だから、真っ直ぐに道を行くのです」
「罰を受けるのが、正当な道だというのですか?」
「間違っていた自分を正すのは、正当な道だと思っています」

 アンリエッタが積極的に罰を与えたがっているというわけではない。それはルイズにもわかっていた。
 それでも、何らかの形の罰は必要だろう。
 ルイズは、無断で紛争中のアルビオンへ向かったのだ。その一事だけでも、罰には値する。

「私は、ザボーガーという分不相応な使い魔を召喚しました」

 ザボーガーの力に振り回されていたこと。その力に酔いしれていたこと。
 思い上がりと鼻っ柱をギーシュに砕かれ、藻掻き足掻くなかでアンリエッタの言葉を曲解したこと。
 自分は姫殿下の、幼馴染みの想いを叶えたいと思ったのではない。それによって自分の地位を取り戻そうとした。利用しようとしていたのだ。
 それがどれほどの身勝手で愚かだったか。
 誰のためでもなく自分のために、力に地位に執着する愚かさ。
 ルイズは、ワルドを醜いと感じた。その時に気付いたのだ。自分自身のこれまでの醜さに。
 力に溺れる存在にはなりたくないと思っていたはずだった。
 それがどうだ。ザボーガーという力を得た瞬間、自分はどうなった。
 力に溺れる存在になりたくない? それは、魔法という力を持たない自分を正当化するための偽りだったのではないか。
 力を持った上で力に溺れぬ事が、どれほど難しいか。本当にわかっていたのか。
 力を持つということが、どれだけ誘惑に満ちているのか。理解できていたのか。
 ギーシュに負けたことで何故落ち込む。ギーシュが自分より強いと思ったなら、彼に学べばよいのだ。
 タバサでも、キュルケでも、モンモランシーでも。自分より優れていると思うのなら学べばいいのだ。
 今までが愚かなら、改めればいい。
 滑り落ちたのなら、這い上がればいい。
 貴族に相応しくないと思うのなら、次から貴族らしく振る舞えばいい。
 それがせめてもの、今の自分の誇り。

「貴族として、使い魔の主として相応しくありたいと思いました」

 だからルイズは、再び前を向く。前を向くことを宣言する。
 貴族として、魔法使いとして。
 貴族だからといっても魔法が使えるとは限らない。それをルイズは誰よりも知っている。
 そして、魔法が使えるからといって貴族に相応しいとは限らない。
 魔法を使える者が貴族なのではない。魔法という力に溺れず、正しく力を行使できる者こそ、貴族と呼ばれるに相応しい。
 力に溺れた魔法など、ただの暴力装置に過ぎない。
 ルイズは気付いていた。
 使い魔を呼ぶ意義とは。
 自分に相応しい使い魔を呼ぶ。それだけではまだ半分なのだと。
 自分が使い魔に相応しい主となること。それが出来てこそ、真の使い魔召喚の儀なのだ。

「今の貴女なら、それが出来るでしょう。いえ、前に進むことが出来るでしょう」

 アンリエッタは立ち上がり、ルイズの前へと進む。

「ルイズ、貴女は未だに、私の秘密騎士でいてくれますか? 貴女の使い魔ザボーガーと共に、私のため、いえ、トリステインのために動いてくれますか?」

 再び跪くルイズ。

「姫殿下のお許しがいただけるなら」
「勿論です」

 一旦受け取っていた風のルビーを、アンリエッタは手ずからルイズに指にはめなおす。

「この指輪は貴女が持っていなさい。私の直属として動くことが出来るように、様々な許可証の代わりとなるでしょう」

 そして自らのはめた水のルビーをかざした。
 二つの指輪は共鳴し、虹色の光が現れる。

「かつて一度だけ、ウェールズ様と二つの指輪を合わせたことがあります」

 ルイズは無言で溢れる光に目を向け、アンリエッタの言葉に耳を傾ける。
 アンリエッタはウェールズとの想い出を語っていた。それは、ルイズに聞かせるためではない。
 自分自身に、もう一度ウェールズを思い出させるため、そして、けじめを付けるために。

「こんな、音も聞こえないオルゴール。それでもウェールズ様は、何度でも試すのだと、いつもこれを開いていました」

 開いたオルゴールから音は流れない。流れるはずはなかった。
 しかしその時、ルイズは確かに聞いたのだ。
 オルゴールから聞こえる言葉を。
 それは虚無の術者への語りかけ。

「……嬢ちゃん、こいつは当たりだぜ?」

 それまで黙っていたデルフリンガーが口を開いた。

「ルイズ?」
「姫殿下、これは……」

 それは、虚無の使い手の前でルビーと宝物の二つを合わせることによって初めて起こる現象。
 それは、虚無の使い手にしか感じられない言葉。
 ルイズは知った。己の魔法の属性を。
 己の爆発魔法の出自を。

「……〈爆発〉……〈記録〉……」

 二つの虚無魔法がルイズの意識に記されていく。
 任意の物体を爆発される攻撃魔法。
 物体に込められた記憶を再生する魔法。

「聞こえるの……声が……」
「ルイズ?」

 ルイズは突然立ち上がると、テーブルの上にアンリエッタの注意を向ける。
 紡ぐ呪文。
 テーブルの上に置かれた菓子の一つが、突然小さく破裂する。

「今のは?」
「虚無魔法〈爆発〉ですわ、姫殿下」

 その言葉にアンリエッタは驚くと、直ちに説明を求めた。
 ルイズは隠すことなく、今その身に起こったこと、始祖のオルゴールから聞こえてきた言葉を余さずに報告する。
 王家に伝わるルビーと対をなす秘宝こそが、虚無の使い手を目覚めさせるアイテムなのだと。そして今、ルイズはその力を得たのだ。

「……ああ、思い出したよ、嬢ちゃん」

 デルフリンガーがルイズの言葉を補足していた。
 四つの秘宝。四つの虚無。四つの使い魔。

「この国にも、そんなのがあるんじゃねえか? このオルゴールみてえに、一見役に立たないのに、大事にされてきたものが」
「……始祖の祈祷書」

 アンリエッタは理解した。
 あるのだ。始祖の祈祷書と呼ばれている代物ではあるが、その中身は誰も知らない。いや、中身は全くの白紙なのだ。だから、誰にも中身は読めない。

「ルイズなら、祈祷書が読めるというのですか……?」
「少し違うね」

 答えたのはデルフだ。

「虚無魔法ってのは、習い覚える類のもんじゃねえのよ。必要に応じて、その祈祷書なり、このオルゴールが教えてくれるもんだね。今だって、嬢ちゃんが覚えたのは二つだけ。いくらなんでも、虚無の魔法が二つきりってこたぁねーやね」
「〈爆発〉と〈記録〉が?」
「〈爆発〉は嬢ちゃんが今まで無意識に放っていたもんだろーね。〈記録〉は……」
「ザボーガー、ね」
「だね」

 二人はザボーガーの置かれた中庭へと移動する。
 その後ろにいつの間にか現れ従うのはアニエスだ。
 ザボーガーの記録に目を通すことを、アンリエッタは希望しルイズは承諾した。
 虚無の使い手であったルイズ。ならばそのルイズに召喚されたザボーカーとは一体なにか。
 場合によってはトリステイン、いや、ハルケギニア全体にも関わる問題なのだ。
 ルイズは電人ザボーガーを一旦、城内まで移動させる。
 そして呼ばれるマザリーニ。
 ザボーガーを招いた部屋にはルイズとアンリエッタ、そしてアニエスとマザリーニが揃う。
 アンリエッタからの説明をマザリーニは淡々と受け入れる。

「驚かないのですね」
「可能性はあると考えられていましたからな」

 王家の血を引くものが虚無を受け継ぐ。今の王家にいないのならば、王家の傍流、すなわちヴァリエール家を筆頭とする者たちである。

「既に、学院からは内々に報告を受けておりますし」

 アンリエッタはやや眉をひそめるが、ルイズは素直に頷いた。今にしてみれば、考えられないことではないからだ。

「よろしいですか? 姫殿下」
「ええ」

 ルイズはゆっくりと呪文を唱えるとザボーガーの中の記録を取りだし、四人の目の前に開陳する。

 犯罪捜査ロボットとして大門勇博士によって作られたロボット、電人ザボーガー。
 だが、ザボーガーの動力源として開発した新エネルギーダイモニウムを狙う悪之宮博士によって、大門博士は殺されてしまう。
 大門博士の息子でもある警視庁の秘密刑事大門明は、ザボーガーと共に悪之宮博士率いる秘密殺人強盗機関Σ団と戦い、これを粉砕した。
 しかし、Σ団を直接壊滅させたのはザボーガーではなかった。
 ザボーガーに追いつめられたΣ団は、魔神三ッ首率いる恐竜軍団に襲撃され壊滅したのだ。
 そして激闘の末、ザボーガーは魔神三ッ首と相撃ちとなり、戦いは終わった。

 映像が薄れる中、ルイズの声が三人に聞こえる。
 ザボーガーを動かすダイモニウムとは、怒りの電流で代用することも出来る。そして怒りの電流とは、ここハルケギニアでは“虚無”とも呼ばれているのだと。
 つまり、ハルケギニアでザボーガーを動かすことが出来るのは、虚無の使い手のみ。
 さらに、Σ団との戦いの中ではマシンザボーガーと同等のマシンホーク。恐竜軍団との戦いではザボーガーと合体する事によってストロングザボーガーにパワーアップさせることのできる、マシンバッハというモノが存在していた。
 もしかすると、マシンホークとマシンバッハも他の虚無に召喚されているかも知れない。

「ということは、そのマシンホーク、マシンバッハがアルビオン、ガリア、ロマリアに?」
「可能性としてはそうなるでしょうな」
「すぐ調査を。ただし極秘裏にです。こちらに虚無とザボーガーがあることを知らせぬように」
「はっ」

 即座にマザリーニへと指示を出したアンリエッタは、次にアニエスを医者の元へ向かわせる。
 王室付きの医者にルイズの腕を任せようということだ。

「ルイズ、貴方はまずその腕を治すことに専念しなさい」
「はい」

 活発に動き出す四人。だからこそ、

「……まさか、そんな……」

 デルフリンガーの小さな呟きは、誰にも聞こえなかった。


 その日から、ルイズは数日を王宮で過ごすこととなる。
 傷を癒すだけでなく、ザボーガーの今後の運営、そして虚無への対応。
 また、〈記録〉によってルイズが初めて知ったザボーガーの性能についても検証しなければならない。
 整備、補給を考えなければならない。ザボーガー本来の世界でないここで、どれほど補給と整備が可能なのか。
 療養とは思えない忙しさで、ルイズは走り回ることとなっていた。

 そしてルイズの知らぬ間に、物事は動く。

 一つは、ルイズの母であるカリーヌが、ルイズに合うために王宮へ向かったこと。
 そしてもう一つは……


「久しぶりだな、シャルロット」

 王からの気さくな挨拶に、タバサは非の打ち所のない答礼を返す。

「王とはいえ、伯父と姪ではないか。もう少し楽にすればどうだ?」

 ジョゼフは親しげに笑う。
 ここはガリアの王宮。急の呼び出しを受けたタバサの前に現れたのは、あろう事がジョゼフ本人だったのだ。

「なに、今更貴様に毒を飲めと命ずるつもりはないわ。安心するがいい」

 タバサの表情が揺れる。
 怒りが、内に秘める事の出来ぬまでに膨張しようとしている。

「命じられても、呑まない」
「ふむ。そうであろう、そうであろうとも」

 ジョゼフはひとしきり笑うと、六つのビンを並べたテーブルを示す。

「ところで、貴様は博打が得意だと聞いたが。余と勝負する気はないか?」

 タバサの目がビンに向けられる。

「一つは、解毒薬だ」
「……残り五つは?」
「さあな。だが、掛け金を出せば、あそこから一つ選ばせてやると言っているのだ」
「何をすればいい?」

 いくら、と聞かないタバサに、ジョゼフは機嫌良く微笑んだ。

「ザボーガーを、連れてこい」

 何故かタバサには、ジョゼフの向こうに三ッ首の竜が見えたような気がした。






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