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風の使い魔-04a



 第二次忍空戦争――それは大戦後、忍空の過激派が集まった部隊『忍空狼』と干支忍との間で繰り広げられた"戦"。
 元来忍空狼とは、元忍空組五番隊隊長で干支忍である『辰忍』炎の赤雷が結成した部隊であり、
構成員は解散後も平和に馴染めなかった忍空組の残党達であった。その本来の目的は平和の為、
荒廃した国の治安維持に忍空の力を活用するというもの。
しかし諸国を訪ねる為、隊を長期間留守にしていた赤雷の与り知らぬところで、忍空狼は密かに造り変えられていた。
 忍空狼副将軍にして元5番隊副隊長、紅。彼の掲げる、
忍空の圧倒的な武力こそが天下を制するべきという野望に同調する凶暴な戦闘集団へと。
 事の起こりはEDO歴3年。ある特殊な修練によって、各人が隊長クラスに匹敵する戦闘力を持つに至った数十の忍空狼。
対するは、たった四人の干支忍。
 忍空狼が世の表舞台に出る前準備として最初に企んだのが、確実に障害となるであろう干支忍の抹殺。
師より技と志を直に受け継いだ十二人衆が、忍空狼の台頭を許すはずがないと踏んでのことだった。
 そして紅の目論見通り、計画は実行に移された。四人の干支忍の内、ある者は忍空狼への協力を拒んだことによりさらわれ、
ある者は戦友を助ける為に。またある者は忍空狼の非道に義憤の炎を燃やした。
 それぞれがそれぞれの理由で忍空狼との戦いに身を投じ、忍空使い同士の暗闘は起こるべくして起こった。
 最終的に裏切りに遭った戦友を救い、忍空狼を壊滅せしめた干支忍の完全勝利で第二次忍空戦争は終結。
力と恐怖による国の支配は未然に防がれ、干支忍達が各々の生活に戻ると共に、忍空は再び時代の陰に潜った。
 大衆の目に触れることなく幕を閉じた、たった四人での戦い。
しかし、勝敗が一国の命運を確実に左右する――その意味では、それは確かに戦争だったと言えよう。
 すべては、ようやく勝ち得た平和を守り、忍空の道と誇りを貫く為に。決して表の歴史に記されず、
誰からも称賛されない戦いに、それでも臨んだ男達。その名は、ほんの一握りの者を除けば記憶されることすらない。

 元忍空組、六番隊隊長、『巳忍』大地の橙次。
 同じく……七番隊隊長、『午忍』氷の黄純。
 同じく……十番隊隊長、『酉忍』空の藍眺。

 そして……一番隊隊長、『子忍』風の風助。

風の使い魔 1-4

 夕刻、生徒達は夕食までの時間を思い思いに過ごす。タバサにとって、その時間は誰にも邪魔されず読書に費せる時間でしかなかった。
 正確には、それは今でも変わらない。違う点といえば、これまで読書場所は自室や図書館が主だったが、ここ数日は野外が増えたくらい。
ついでに言えばもう一つ、読書の合間に一人の少年を目で追うくらいだった。
 タバサは今、広場の樹を背に座り込んで本を広げていた。彼女からやや離れた花壇で、少年は雑草をむしっている。
 名は風助。何の因果か、タバサが召喚した使い魔の少年。言動はまるで子供なのに、端々に少年らしからぬ雰囲気が見え隠れする、
どこまでもイレギュラーな使い魔。
 カエルじみた顔をしているくせに、操るのは同じ風。それも魔法ではなく、忍空と言う名の武術。
 まだ十三と幼いながらも実態は歴戦の戦士。にわかに信じられない話だが、タバサを含め事情を知る者は全員が全員首肯するだろう。
召喚から二日目、彼はヴェストリの広場で巨大な竜巻を――文字通り、学院に旋風を巻き起こしたのだから。
 広場での騒動の罰として、学院長から奉仕活動を言いつけられた主従だったが、風助の行動は言いつけられたものではない。
 本人曰く、暇潰し。有り余る時間と体力の消費先。並外れた食欲の対価として、言われてもいない用事まで積極的に行っている。
タバサが講義に出ている間もあちこちで働いているらしく、泥だらけになって帰ってくることもしばしば。
 最近はルイズの使い魔、才人(頻繁に名前が出てくるので覚えてしまった)と、
メイドのシエスタ(同じく)とつるんで何かしらやっているみたいだが、詳しくは知らない。
風助が一方的に話すことはあっても、こちらから訊ねはしないからだ。

 昨日、風助に本名を明かした。これと言って理由はない。強いて言うなら、一つでも彼と共有する真実が欲しい気分だったのだ。
秘密を共有することで少しは彼が理解できる、曖昧に揺れる胸の内が何か変わるかもしれないと。
 しかし、実際は変わらなかった。もしかすると変ったのかもしれないが、気付けないなら同じこと。
 シャルロットの名を風助は綺麗だと笑った。笑ってくれた。だが、それだけだった。それからもなんら変わりない態度で接してくる。
 未だ迷いは晴れず、主と使い魔としてスタートラインにも立っていない。どれだけ成績優秀でも、使い魔に対する理解、信頼、
コンビネーションの面では学年最下位だと、自嘲でなく自己評価している。これでは、信頼できるパートナーなどほど遠かった。
 その名の通り、風のように掴み所のない風助に、タバサは戸惑っていた。
 メイジとしては使い魔を世話し、見事に使役してみせなければ一人前とは認められないだろう。使い魔を持たないならまだしも、
召喚した使い魔をないがしろにして有用に使役できないなどもってのほか。
 故にこれまでの人間と同様、無関心と不干渉を貫いて看過できるほど遠い存在ではなく、かといって他の生徒が使い魔とそうしているように、
仲良くしたい理由もなく。正確には、それすら自分で自分が分からない。仮にそうだとしても、すんなりいかない理由がタバサにはあった。

「俺と友達になるか?」

召喚の翌日、風助が言った言葉――それに対し、どう答えたのだったか。

「あなたは使い魔。友達じゃない」

 今更、どんな顔をして親交を深めればいいのだろう。
 風助はそんなタバサの気も知らず、のほほんと日々を過ごしている。そんな彼を目で追い、観察し、しかし一歩も踏み込めていないのが現状だった。
そして今日も今日とて、タバサは無表情の裏で堂々巡りを繰り返していた。

 タバサがページを捲る手を止め、何の気なしに風助を眺めていると、
「彼は変わっているね」
 不意に頭上から声が降ってきた。そこにいたのは、頭のてっぺんが禿げ上がった中年の男性。
学院の教師であり風助の正体を知る一人、ミスタ・コルベール。いつの間にか傍らに立って風助を見ている。
「熱心に雑務をこなしている。まぁ……その分、色々と面倒も起こしているらしいが。昨日は昨日で、使われていない大釜を軽々運んでいたよ。
今日は学院の隅の荒れ地を丁寧に掃除しているのも見た。君は知っていたかい?」
 やらかしたお咎めは必ずタバサにも来るので、もちろんすべて把握しているが、ここで聞いているのは風助が才人とシエスタとやっている"何か"だろう。
知っていると言えば知っているが、タバサは黙って首を横に振った。
 やはり知らないからだ。行動の詳細も、その理由も。
「そうか。学院長室まで勝手に直談判に来たとミス・ロングビルがぼやいていたよ。学院長は悪い気はしないみたいだがね。
老人は無邪気な子供には弱い生き物だから……おっと、これは内緒だよ?」
 おどけた仕草で口に指を立てるコルベール。
 直談判の部分は気になったが、タバサは特に反応しなかった。コルベールもそれを知ってか、一方的な語りを続ける。
「ただ、オールド・オスマンの名誉の為に付け加えるならば、君達二人の処分を軽くしたのは彼の嘆願に心動かされたわけでも、
ましてや孫を持つ気分を味わいたかったのでもない。むしろその逆」
 風助の力を危険視したが故に。大方、そんなとこだろう。大体の察しはついていた。
「あの時点で、君を含む誰もが風助君の実体を捉えきれていなかった。
忍空と呼ばれる謎の武術――外見に似合わぬ強大な力を秘めているとしか。もっとも、それは今も変わらないのだが」
 風助の外見、口調、いずれも子供のそれである。子供が駄々をこねる感覚で力を爆発させ、
幼稚な怒りを誰かれ構わず振るえばどうなるか。しかも、風助は戦場で人を殺めた経験だってある。
 単純そうなので、なるべくストレスを与えず行動をコントロールし、なおかつ多くの人間と接触させ様子を見る。
つまり、機嫌を取りたかったのだろう。さしずめタバサはお目付け役だった。
 もっとも風助自身は、純粋に好意と寛大さと受け取っているのだろうが。
「だが、それも杞憂に過ぎなかったようだ。今の彼を見ればね」
 コルベールが風助を指差す。そこにいる彼はただ暢気に草抜きをしているようにしか見えないのだが、
「彼は自分の力の重みも、命の重みも理解しているよ」
 そう思って見ると、一挙一動が違って見えてくる。座って雑草を摘み取っているだけの姿が、花を折らぬよう慎重に、
蟻一匹も潰さぬような動作にすら見えてくる。が、流石に考え過ぎだろうと思い直した。
 だが、それを抜きに考えても、風助が考えなしに人を傷つけ、力を破壊に使うとは到底思えなかった。
「まだ一週間にも満たないのに、驚くほど学園に馴染んでいる。学院のあちこちに首を突っ込んでいるからか。
私も長く教職をやっているが、顔の広さは私以上かもしれないな。特にマルトーのオヤジを始めに、平民の職員からは人気が高い」
 生徒にも、早速風助と親しくなった者はいる。特に男子は仲良くなるのも早かった。どうせ、道化として見られているのだろうが。
 風助は相手の家系がどんな名門だろうと、まるで気にしない。これも、たぶん理解していないだけなのだろう。
「これも、君はとっくに気付いていたかな?」
 コクリと頷く。肯定か否定で問い掛けてくれれば、話が楽でいい。
 コルベールに言われるまでもない。タバサもこのところずっと、風助を観察しているのだから。

「ならば何故、君は風助君を避けているのだね?」

 直後、タバサは顔を跳ね上げた。普段は半ば閉じられた目を見開いて。
 さっきまで微笑んでいたコルベールの視線は鋭く、軽かった声音は重く真剣味を帯びたものに。だが、驚いたのはそこではない。
 無表情も崩れるほどにタバサが動揺したのは、図星を指されたからに他ならなかった。
「驚く必要はない。私も事情を知る手前、君達を注意深く観察していたからね。学院長の指示でもある」
 数秒して平静と鉄仮面を取り戻したタバサは、苦笑する彼から視線を逸らす。
 それは観察でなく監視だ。見透かされたようで、あまり気持ちのいいものではない。
「君は私が知る限りでは一、二を争う優秀な生徒だ。しかし、まだまだ未完成だ。人としても、メイジとしても」
 そんなことは言われなくても分かっている。誰よりも痛いほど。
 タバサが片目に力を入れて眇めると、コルベールも無言の抗議を真っ正面から受け止めた。
「私は思う時があるよ。使い魔に人間がいない理由。それは使い魔が主人の死角を補う為かもしれないと。でありながら、君達は人間を召喚した」
 流暢に語るコルベールは止まらない。片方が一切喋らないのでは無理もないのだろうが。
「ミス・ヴァリエールはともかく、君は……いや」
 言いかけて、慌てた様子で口をつぐむ。まるで口が滑ったとでも言うかのよう。
 タバサも敢えて言及しなかった。おそらく、教師として生徒を貶す表現を恥じたのだろうと。
 それを確認するとコルベールは、ゴホンと咳払いをした。
「使い魔はメイジに最も相応しい者が選ばれると云うじゃないか。私は敬虔な信徒ではないが、そこに意思や判断が介在するとすれば、
それは始祖ブリミルのお導きを措いて他にないだろう」
 始祖ブリミル――大陸に魔法をもたらしたとされる存在。神に等しい崇拝の対象。その意思がメイジに使い魔をあてがっているとでも言うのか。
 疑わしげなタバサの視線に気付き、コルベールが肩を竦める。
「別に始祖の意思の有無を論じたいのではないんだ。ただ、ミス・ヴァリエールがサイト君を召喚したのも、
君が彼を召喚したのも必ず何らかの意味がある。或いは、他者とは違う意味が」
 どんな意味があると言うのか、想像もつかなかったが、どんな意味だろうと構わない。
力にさえなってくれればそれでいい。目的を果たす力にさえ。
「君二人は真逆なようでいて似ている。逆もまた然り。だからこそ君に欠けているものを彼が埋め、
彼に足りないものを君が補えると私は考える。あの竜巻を内と外から制御し被害を最小限に留めた、あの時のように」
 さっきまでは学者然とした口調だと思っていたが、今の諭す口振りは、まさしく教育者のそれだった。
が、コルベールの言葉はすべて憶測に過ぎない。
「君は彼を避けている。避けているのに観察は怠っていない。それは、彼が信頼できる人間かどうかを測りかねている。違うかい?」
 タバサは何も言えず、沈黙を以て答えとした。黙り込んだのは、違わないどころか、その通りだったから。
顔を背けるのは、なるべくなら悟られたくなかったからだ。
 タバサの迷いを察したのだろう。コルベールはタバサを待たず、
「すまない、少し喋り過ぎたかな。余計だった。君が彼の何を測ろうとしているのかは分からないが、
お詫びに彼のことが知りたいなら至極簡単な方法を教えよう」
 人差し指を立てて言った。うつむいていたタバサは再び顔を上げる。タバサの僅かに縋るような瞳を受け、
自信ありげな笑顔から語られた方法とは。

「聞けばいいのさ、直接ね」

 期待外れもいいとこだった。危うく肩を落としそうになる。
 聞いて損した。それができれば最初からやっている。
 立ち去るコルベールを見送った後、タバサは小さく息を吐いた。読書に戻る気にもなれなかったので、風助を見やる。
 花壇の手前に座り込んで草むしりをしている少年の隣には、いつしか小さな雑草の山。
畑仕事をしていたと言うだけあって、野良仕事などは歳の割に手慣れている。
 しかし、あんなところに座ったらズボンが土塗れになるんじゃないだろうか。などと心配をしている内に、
タバサは風助が替えの服も持っていないことを思い出す。
 聞けば、洗濯と乾燥の間は裸で過ごしているらしい。らしいと言うのは直接聞いていないからだ。
風助が頓着しない性格なのか、彼からは特に希望はなかった。
 洗濯も2,3日に一度。しかも、ほとんどは昼間の内に済ませている。それ故、苦心するのはタバサではなく、専らシエスタだ。
 その手のことで数少ない困り事があったとすれば、昨夜の騒動くらいか。
 午後からの通り雨で下着が乾かなかった風助は部屋に帰ってから、あろうことか当たり前のようにタバサの下着を代用しようとしたのだ。
 あまりと言えばあまりに予測の斜め上の行動。思考よりも早く、衝動的に杖を振るってしまった。
 お陰で窓は砕けるわ、轟音に驚いて同じ階と上下の階から生徒が集まってくるわ、睡眠時間は二時間も削られるわで、もう散々な夜。
咄嗟に手加減したとはいえ、窓から落ちた風助が掠り傷程度で済んだのは、驚くと同時に安堵したものだが。
 今朝も今朝で女子寮の中を半裸でうろついていたので、寮監に叱られたばかりだった。
他にも風助絡みで注意や苦情を受けた回数は、数え上げればキリがない。
 やましい気持ちは一切なかっただろう、その点は確信していた。単純に男女の別の感覚が備わっていないだけで。
 数々の失敗にしても、大雑把な性格に加えて、こちらの様式や文化に不慣れな為に起こった可能性が高く、特別ドジだとは思わない。
 こんな調子で擁護の感情が浮かぶ程度には風助を信用しているタバサだったが、面倒を被っているのもまた事実。
そんなこんなで、流石のタバサも若干不機嫌であった。
 面倒なものだ、人の使い魔なんて。シエスタも、下着くらいどうにかなるだろうに。
 いや、違う。本来は主人が面倒を見なければいけないのだ。シエスタを責めるのは八つ当たりになってしまう。
 かぶりを振って、管理不行き届きを反省する。
 明後日はちょうど虚無の曜日。それも含めて諸々の生活用品を揃えてやらなければならないだろう。こんな用件なら苦もなく言えるのに。

 ふと思う。もしかして、自分は不器用なのではないだろうかと。
 しかし、両親が健在の頃は権謀術数から離されて育ったものの、裏の仕事をこなすようになってからは、それなりに上手く立ち回ってきたつもりだ。
ならば今まで意識してなかったが、任務のフィルターを外すと不安定になってしまうのだろうか。
 そもそも、どうして風助相手にこんなにも躊躇してしまうのだろう。
 必要なことは端的に、不要なことは口にしない。これまでそうしてきた。これからもそれでいいはずなのに。
 それでなくても、タバサは風助に負い目があった。
 第一に、こちらの都合で平和に暮らしていた彼を召喚してしまった。
 第二に、風助から伸ばされた手を拒んだ。
 もしも拒絶されたら――風助の性格からしてそんなことはないと思っても、自身を持って断言できるほど、
風助を知らない。何せ、出会ってまだ一週間しか経っていない。

 そうこうしている内に、徐々に闇は深まり、影が色濃くなってきた。春といえども、マントを付けていても夜は肌寒い。
半袖なら尚更だろう。
 風助にも声を掛けて部屋に帰り、それをきっかけに話をしよう。何を話せばいいのかは分からないが、なんでもいい。
彼の話に耳を傾けるだけでも。
 歩き出そうと立ち上がった瞬間、逆光が目に飛び込んでくる。思わず手をかざし、
目を細め――改めて彼を見ると、傍らにはシエスタが立っていた。
 和やかに談笑しながら歩き出す二人。途中で才人や、いつの間に知り合ったのかモンモランシーも加わって、遠ざかっていく。
 風助は沈みかけた陽の光と、夜のものに変わりつつある涼やかな風を浴びて笑っていた。その笑顔が妙に眩しく思え、
対照的に自身が日陰者のように感じられ、タバサはその場に立ち尽くした。
 気付いてしまったのだ。風助の周りには自然と人が集まることに。あれこれやって迷惑を掛けても、
持ち前の明るさに誤魔化されて、ほとんどが許してしまう。そして親しくなる。
 今まで欠片も気にしていなかったが、一緒に歩いていると必ずと言っていいほど声を掛けられるか、風助から挨拶をしていた。
中には顔も知らない職員や、他学年の生徒まで。
 気が付くと、タバサの周りには誰一人いなくなっていた。今は閑散とした広場で独りきり。
 取り残されたタバサは考える。
 すべては始祖ブリミルの思し召し。コルベールはそう言った。
 だとすればブリミルは何ゆえ、他人に碌に興味を示さず、心を開いてこなかった少女に風助を遣わしたのか。
そして何ゆえ、もっと単純な意思疎通を可能にしなかったのか。
魔法の効果によって使い魔は主人に、主人は使い魔に最初から好意を抱くという説もあるが、そうはならなかったのか。
 彼と言葉で心を通わせ親しくなることが、自ら"変わる"ことがメイジとしての試練だとでも言うのか。
 もやもやと鬱屈した気持ちを抱えたまま、タバサは一人答えが出ようはずもない問いを繰り返した。


「足んねぇ」
 夜の食堂、いつものように風助が呟く。股の間には綺麗に――本当に見事にパンの一片、スープの一滴、
ソースまで真っ白に舐め取られた食器が盆に載せられている。開始からここまで、僅か三十秒足らずの出来事であった。
 どうせ後になってから厨房にたかりに行くのに、一人前として出された量が少ないと寂しいらしい。
ぎゅるるるると、細い腹から鳴る音は、さながら竜の唸り声か、雷雲の轟か。
 食堂中に響き渡る腹の虫に誰もが振り向く。その顔は笑い、呆れ、嫌悪、嘲りと様々だが、生徒、給仕を問わず、
全員の視線を集めていたのは確かだった。
 しかし唯一、一瞥もせず席を立つ人物がいた。タバサである。
 風助には劣るものの、ある程度上品に洗練された作法。なのに完食は早い。まだほとんどの生徒が食事中だが、
彼女の食器も既に空。当然、テーブルで食べているので、食器を片づけることもしない。
 平然と食堂を出ようとするタバサに気付くと、
「部屋に帰んのか? だったら俺も……」
 風助もそそくさと盆をシエスタに預け、その後に付いて歩く。
 食事中は忙しいので、どうせ来るなら片付けが一段落してから来いとマルトーにも言われていた。
 二人が早々に退席するのはいつものことであった。うるさいのもすぐにいなくなるので、文句を付ける生徒もいない。
つまり、これも見慣れた光景である。
 だが、今日はいつもと少々様子が違った。
 食堂の出口でタバサが立ち止ると、合わせて後ろの風助も止まる。

「付いてこないで」

 振り向きもせず、タバサは言い放った。
 抑揚のない、怒りも羞恥も込められていない声。それがいつもの彼女の声。誰に対しても同じ態度。
 タバサはそれだけ言うと、食堂から出ていく。聞いていた生徒達は気にも留めなかった。
――おいおい、今度はどうしたんだよ!
――花瓶でも割ったか? それとも、絨毯に泥の足形でも付けたのか?
 立ち尽くす風助を、親しくなった男子生徒達が口々に囃し立てる。いずれも前科があるので、
他の生徒も大方そんなところだろうと考えていた。つまり、またいつものことか、と。
 立ち止まって頭を掻く後ろ姿から表情は窺えない。タバサの態度、
風助の背中にいつも違うものを感じた人間は二人、シエスタとキュルケだけだった。
 ちなみに才人は昼間、主人の勘気に触れた為、またしても夕食抜きの瀬戸際にあり、
ルイズはそんな使い魔と口喧嘩の真っ最中だった為、まるで気付いていなかった。


 部屋に帰るなりベッドに腰掛け、タバサはいつもの如く読書をしていたが、今日は頭に入りにくい。
ランプの小さな灯りを頼りに文字を目で追ってはいるものの、気はそぞろ、隣でドアを開く音がする度に緊張が走る。
 これまでタバサは、風助が傍にいることを拒否しなかった。仮にも使い魔である。
そして風助もタバサの邪魔はしなかった。彼は文字が読めないので、部屋にいること自体が少なかったが。
 つまり、今回が初めての明確な拒絶。そこには論理的思考も合理的判断も存在しなかった。
感情に任せた、八つ当たりに等しい行為。
 自己嫌悪が湧き上がる。
 小さなものなら、ずっと幼い頃以来。大きなものなら、夜毎に蘇る未熟な己への憤り。繰り返し思い出され刻まれる、
あの日の怒りに比べればこんなのは取るに足らない出来事なのに、どうしても頭から離れてくれない。
 時計を見ると、食堂を出てから既に四時間。だのに、本の隅を見ると二十ページも進んでいない。
 タバサは読書を諦め、幾度目かの細い息を吐くと、慎ましやかな胸に手を当てて、今一度考えてみることにした。

 やはり自分は変化している。
 変化が生じ始めたとしたら昨日、シャルロットの名を名乗った時から。或いは彼を召喚した日、"風"を感じた瞬間から。
 ただ、気付かなかっただけ。気付いているのに気付かない振りをしていたのかもしれない。
 あの時、本名を名乗ったのは、無意識の内に彼を測る物差しを求めたのだと思う。
反応を見て、彼が信じられる人間かどうかを試したかった。
 これまで一人を辛いと感じたことなどなかった。それは今も変わらない。
 ここ最近の不安定さはおそらく、突然身近に対極の存在が現れ、惹かれると同時に自らの形が見えてしまっただけ。
 鏡を見るより鮮明に映る――とうに自覚していたはずの、歪に捻じ曲がった形。
 卑下するつもりもないし、後悔もしていない。ただ、風助はあらゆる面で陰陽の如くタバサの対極に位置していた。
それも顔や性格だけでなく、その本質。
 自分が凍らせるだけの雪風なら、風助は穏やかで優しく、種子や花粉を運ぶ春風なのだろう。
 風助の奔放な性格は一見キュルケと似ているが、彼女とて良家の令嬢である以上、様々なしがらみに縛られている。
彼女は、それらを嫌ってここへ逃れてきた。タバサがキュルケと友人でいるのも、彼女の情熱と突破力に興味を持ったからだ。
 だが、それとて完全に逃れたわけではない。いい悪いでなく、愛着も責任もある以上、家も国も捨てられるはずがない。
 キュルケに限らず、自分も含め、学院の生徒は大なり小なりしがらみに囚われている。だから思う。
 あんなふうに器用に――。
 違う。
 自由に生きられたら世界はどのように映るのか。
 興味を抱いたと言うのが正しいだろう。それが、貴族の生徒達が風助に惹かれる理由なのか。
 そして今、風助という"風"に吹かれて、タバサの心は揺れていた。
 彼を信じてみたいと靡く心。
 反面、この風は迷いを誘う、と警鐘を鳴らす心。
 メリットとデメリット。両者を天秤に掛けても同じだけの重みがあり、最早打算では決められなかった。
では、この問題を解決するにはどうすればいいのか。
 分からない。正直、材料が足りない。判断を下せるだけの時間を風助と過ごしていない。
 かといって、あの従姉妹姫は待ってはくれないだろう。今日明日にでも招集がかかるかもしれない。時間は、あまり残されていなかった。

 それからどれだけの時間が経っただろう。部屋のドアが静かに開かれた。
 ちょこん、と目だけを水面から出すみたく、カエルが中を覗く。風助だ。
 一瞬目と目があった。つぶらを通り越して異様に大きい円い瞳と、ぼんやり寝ぼけた瞳が空中で交わる。
 両者の目からは感情は窺えない。しかしタバサは努めて平静を装っていたが、内心は穏やかではなかった。
「すまねぇ」
 入るなり、風助が頭を下げる。
「どうして」
 彼が謝ることはない。ないこともないが、食堂での発言は彼のせいではない。
「俺が怒らせるようなことしちまったんだろ?」
 首を振って否定の意だけを示す。
「じゃなんで怒ってたんだ?」
 タバサは答えなかった。答えられなかった。
 答えれば、抱えた迷いや屈折した感情まで説明することになる。それだけは絶対に嫌だった。
「俺、いっつもおめぇに迷惑掛けちまってるからな。あ、でも"今日はまだ"なんにもしてねぇぞ」
 昨日は色々やらかしている。迷って入浴中の大浴場に入ってきたり、
他人のマントを雑巾と間違えて床拭きに使ってボロボロにしたり。
 とばっちりを受けるのは、いつもタバサである。それでも不思議と、以前ほど迷惑とは思っていなかった。
「けど、お前は理由もなく怒る奴じゃねぇ。だから、俺が知らねぇ内に嫌な思いさせちまったかと思ったんだ」
「悪かったのはわたし。あなたは悪くない」
「おめぇなんか悪ぃことしたのか? 俺は記憶にねぇぞ。だったらしてねぇのと同じじゃねぇか」
「違う」
 今度は首を振るだけでなく、口に出して否定する。
 気付かなければないのと同じ――そんなことはない。気付かなくとも事実は残る。気付いた瞬間より重く圧し掛かる。
「わたしにも謝らせてほしい」
 風助が言うより早く、タバサも軽く頭を下げる。再び顔を上げると、風助がパン、と両の掌を合わせていた。
「じゃ、これであいこだ。おめぇも忘れてくれ」
 タバサは頷いた後も風助から目を逸らさない。むしろ、ここからが本題だ。
「それともう一つ」
 目の前の少年は小さい。ベッドに腰掛けていても、まだタバサの方が高い。それだけ幼いのだと改めて実感する。
 タバサはベッドから立ち上がり膝をついて目線を合わせると、ゆっくりと口を開く。
「聞かせて、わたしの使い魔を引き受けた理由」

 こうして同じ高さで話すのは召喚当日、互いに名前を名乗った時以来だった。
 真剣な顔で見つめるタバサに、風助は首を傾げた。顔は変わらなかったがおそらく、きょとんとしている。
 観察をしている間に思ったのだが、彼の大ざっぱな顔面は微妙な表情の変化に適応していないのだろう。
喜怒哀楽は過剰なまでに見せるのに、その中間、繊細な感情表現には表情筋が上手く働かないのか。
微妙な変化しかできない誰かとは、そんなところまで真逆である。
 などとタバサが割とどうでもいいことを思っていると、何を今更、とでも言うかのように風助が答えた。
「おめぇが助けてくれ、って言ったんじゃねぇか。だから俺は使い魔やってやるって決めたんだぞ」
「わたしはあなたの生活を無視して召喚した。そしてまた、危険や戦いに巻き込む。
あなたこそ、わたしを恨んでも仕方ない。むしろ、それが当然」
 あれから四日が経っても風助はここにいた。まだ使い魔らしいことは一つもしていないが、召喚当日とは異なり、
使い魔のなんたるかを知ったはずだ。それなのに文句も言わずここにいる。
 彼がここにいる意味。それを了承と取っていいのかどうか。それを今一度問うつもりだった。
「別に恨んでも怒ってもいねぇぞ」
 一秒と間を置かず、風助は笑った。名前を綺麗だと褒めてくれた時のように。
「俺はこれまで、ほとんど旅と戦争と修行でしか村の外に出てこなかった。
旅の間も色んなものが見れたけど、ここはもっと初めてばっかりだ。魔法も学校もおっちゃんの料理も、俺のいたとこにはなかったもんな。
だから、こうして知らねぇもんや新しいもんが見れて、これでも楽しんでんだ。おめぇのお陰だぞ」
 ついでに魔法を喰らったのもな――とケラケラ笑っているが、常人ならあの高さから落下すれば怪我は免れない。
 タバサだって、他人をエア・ハンマーで窓から叩き出したのは初めての経験だった。原因は風助にあるとはいえ、やり過ぎたかと思ったが、
まるで気にしていなかった。
「俺、もっといろんな初めてが見てぇぞ。それで、ばあちゃんや干支忍のみんなに土産話してやるんだ」
 嬉しそうに期待を膨らませている風助。対するタバサは、ほんの僅か眉間にしわを寄せて困り顔だった。
 違う。使い魔はそんな楽しいものじゃない。こと自分に限っては。
 それを伝えなければならなかった。この笑顔を曇らせることになっても。
「人を……殺させるかもしれない」
 意を決したタバサだったが、言葉に詰まり目を逸らす。風助を直視していられなかった。
 答えを聞くのが怖い。こんなに罪悪感が募るとは、自分でも予想外だった。
 無論、殺せと命じる気はない。ただ、任務に同行させれば可能性は常に付いて回る。
 眼を逸らして数秒、沈黙が流れる。頼りない灯りがゆらゆら揺れて二人の顔を照らしていた。
 やがて数秒とも数十秒ともつかない時間の後、そっと向き直るタバサ。
 その瞬間、ぼんやりとした蒼の瞳を射抜いたのは、いつになく真剣な表情、真摯な眼差し。
「……俺はもう忍空で人を殺したくねぇし、殺さねぇ。けど、もしも殺さなきゃなんねぇとしたら、それは俺が決めて俺がやるんだ。
おめぇに言われてやるんじゃねぇぞ」
 そこにいたのは普段の間の抜けたカエルとは別人。単に目つきが変わっただけなのに、
纏う雰囲気はまったく異質なものへと変じていた。
 かつて戦場に立っていたからこそ口に出せる覚悟。その言葉で少しだけ救われたが、
そんな単純なことも忘れかけていた己を恥じる。
 タバサにとって北花壇騎士の任務は押し付けられたものだが、その過程で誰に恨みを買っても、
誰かのせいにしようとは思わなかった。
 罪も業も誰かに押し付けることはできない。自ら背負う他ない。どんな理由があろうとも。
 それを彼は、この歳にして既に悟っていた。
「なぁ、使い魔ってのは、おめぇを守るものなんだろ?」
 無言で頷く。
 多くは望まない。知覚の共有も魔法薬の材料収集もいらない。ただ共に戦ってくれればいい。支えてくれる力になってくれれば。

「だったら気にすんな。俺、おめぇのこと好きだぞ」

 風助はにっこりと笑いながら、素直な言葉を紡ぐ。

「なっ……」

 不意の告白に、タバサは大いに戸惑う。
 動揺を隠せと言い聞かせても、顔に出さないだけで精一杯。押しこめた分だけ心中で暴れる。
 当然、それは男女の恋愛でなく人間としての意味合いだ。そうと知っていて動揺してしまったのは、
家族以外の他人から面と向かって好意を伝えられるなど、今まで一度たりともなかったから。
 彼と出会ってから初めて尽くしなのはタバサも同じだった。
「飯も食わせてくれるし、感謝してんだ。だから力貸してほしいって言うんなら貸してやる。おめぇが俺をいらねぇって言うまで」
 そう言って風助は、
「約束だ」
 そっと小指を差し出す。指切りのつもりだろうか。
 なんと言うか、この笑顔は――ずるい。
 さっきまで、くどくど理屈を並べていたのが馬鹿らしくなる、暢気で能天気で無邪気な笑顔。
結局のところ、みんな単純にこの顔に魅せられただけなのかもしれないと。
 朗らかで屈託なく、この世の一切の穢れに染まっていない。そんな印象すら抱かせる顔。
 彼の一言で、胸の大半を占めて締め付けていた罪悪感が吹き払われる気がした。
代わりに、その隙間が得体の知れない温かいもので満たされていく。
 奇妙な感覚。なのに、不思議と嫌ではない。
 タバサも小指を伸ばしかけたが、交差する寸前で躊躇する。
ここで指を絡めてしまえばもう後戻りできないと思うと、土壇場で何かがブレーキを掛けた。
 どうしても最後の一歩が踏み出せない。柳眉をひそめてタバサは伸ばした小指を隠し、
「もう、寝る時間」
 代わりに人差し指で時計を指して立ち上がった。気が付けば就寝時刻はとっくに過ぎていた。
 タバサが立ち上がってからも風助は行き場をなくした小指を遊ばせていたが、ランプを吹き消すと一転、部屋は闇に包まれる。
 指切りを無視された彼がどんな顔をしていたかは見えなかった。見なかった。見たくもなかった。
 手探りでパジャマに着替え、ベッドに潜り込み、サイレントを唱えるなり、壁を向いて風助に背を向ける。
ここまでのプロセスを思考停止した状態で行い、一息吐いてようやく気付く。
 そういえば今日は風呂にも入っていなかった。と言っても汗は掻いていないし、今からではどの道入れまい。それはまぁいい。
 そもそも、普通は着替えてから灯りを消すものではないのか。
そもそも、別に風助に見られても気にならないし、彼も着替えは着替えとしてしか見ていないし。つい咄嗟にそうしてしまったが、それもまぁいい。
 今、肝心なのは、風助に興味を抱いていてなお拒絶する理由。とても言葉にはし難く、口にした時点で意図したものとは異なってしまうだろうが、
敢えてこの感情に名前を付けるなら――嫉妬。
 または羨望、憧憬。
 どれでもあり、どれでもない。
 静まり返った部屋、音を成さない声でタバサは独白を続ける。

 人形になろうと決めたのはわたし。でも、そうしなければ戦えなかった。
 辛くて苦しくて、誰も助けてくれなくて……一人いたが、そんな彼女ももういない。故に生きる為に、目的を果たす為に強くなるしかなかった。
そう、仮面を被るしか。
 戦争で両親を亡くした――風助はそう言った。
 詳しく聞くまでもない。戦争で死別したなら辛く、望まぬ別れだっただろうことは想像に難くない。が、ここまでは別段、珍しくない。
ハルケギニアにも戦災孤児はいる。
 それでも、八歳かそこらで戦場に立ち、しかも一部隊の隊長であった例など、あったとしても極稀も稀に違いない。
 そして今、彼は子供らしい年相応の顔で笑っている。その笑顔に凄絶な戦争を連想させるものはない。
 彼の笑顔が思い出させるもの。それは平穏。
 わたしの過去。父様と母様に囲まれて陽だまりの中にいた、何も知らなかった頃のわたし。
 それはきっと、わたしと彼の立場を意図的に重ねようとしているから、そう思えるだけなのだろうけれど。
 わたしも、昔はあんな顔で笑えていた。でも、ある日を境にできなくなった。復讐を誓って自ら凍てつかせた。
 自分が世界で一番不幸だなんて欠片も思ってない。暗い過去を持った者すべてが、影を背負って生きていなければならないとも思わない。
 けれど何故……何故、こうまで違うのか。彼とわたしは何が違ったのか。彼の笑顔の秘密は何なのか。
 風助を風助たらしめているもの。思いつく可能性としては、やはり――力。
 描いた望みを現実に叶え、阻む他者を捩じ伏せるに足る忍空の圧倒的な武力。それが風助に余裕と自信を与えているのかも……。
 力……わたしに、もっと強い力さえあれば。
 いつかすべてから解き放たれて自由になった時。
 母の心を取り戻した時。
 いつかあの伯父王を八つ裂きにして、その首を父の墓前に捧げた時、その時が来れば。
 明るく可愛らしいシャルロットに戻って、あんなふうに素直で素敵な笑顔を思い出せるのだろうか。

 更なる力を渇望しつつ、燃え盛る激情を持て余したタバサは半ば強引に目を閉じた。
 風助の笑顔。
 タバサはその中核を成すものは力だと推察したが、それは正解であり、誤りでもある。間違っていて、合っている。
 それは半分に過ぎない。聡明な彼女でさえ、他の可能性に思い至らない。
 否、それはタバサだからこそ見落とす――まさしく死角だった。




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