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三重の異界の使い魔たち-04


~第4話 もう1組の主従~

 ハルケギニアの竜の中に、古代から伝説として詠われる種族が存在する。その種族は言語感覚に
優れ、知能は通常の竜はおろか人間さえ上回り、先住魔法の名で知られる精霊の力を操り、強力な
息吹を武器とし、大空を疾風のごとく飛翔する。

 その強力な種族を韻竜といい、その中で風と深く関わる眷族は風韻竜と呼ばれた。

「そして、その一員が、このイルククゥなのね! きゅい!」

 魔法学院の片隅で、齢約200歳――人間でいえば10歳前後――である竜の少女、イルククゥは、
自らを召喚した桃色がかったブロンドの少女、ルイズにそう名乗る。その召喚者は半ば呆然とした
表情でイルククゥを見上げていると、やがて我に返ったらしく口を動かしはじめた。
「まさか、貴方が韻竜だなんて思わなかったわ……」
 信じ難いとばかりにルイズが言う。
「きっとそうだと思ったから、黙ってただの風竜のふりをしてたの! だって、ルイズ様ったら
風竜を呼んだと思っただけで泣いて喜んでるんですもの!」
 風韻竜が人間に劣るなどとはこれっぽっちも思っていないが、一応は使い魔となったのだし
相手のことは様付けしておく。
「これで、わたしが風竜どころか風韻竜だなんて判ったら、嬉しがりすぎで死んじゃうかも
しれなかったわ! この風韻竜の機転と心遣いに、感謝するがいいのね!」

 初めて一族から暮らす巣の外に出てきたことと、初めて人間と会話していることの興奮から、
イルククゥは口も軽く言葉を吐き出していく。普通の竜ならばこんな風にぺらぺらと喋ることなど
不可能だが、韻竜である彼女には雑作もないこと。それにイルククゥは年頃の少女らしくお喋りな
気質なのだ。

「なんだか微妙に偉そうな態度が気になるけど、それにしても驚いたわ」
 イルククゥが1人言葉を続ける中で、ルイズは少し落ち着いたらしい声をだす。
「韻竜は、もう絶滅したっていわれているのに」
「きゅい! それは違うのね。わたしたちは、人間の目から離れた場所に巣を作って、そこで
暮らしているの」
 ルイズの言葉に、イルククゥは召喚される直前までいた場所を思い出す。

 彼女たちの一族は、俗世間から遠く離れた場所で、修道僧のように毎日大いなる意思への祈りを
捧げ続けるという、なんとも退屈な暮らしを続けていた。父曰く、自分たちのような古い一族は
あらゆる危険から離れて長生きすることが世界への恩返しなのだというが、巣の外へ出ることも
許されない生活なんて幼いイルククゥには窮屈すぎる。
だからこそ、イルククゥはルイズが開いた召喚のゲートに、迷わず飛び込んだのだ。偉大なる
古代の眷族たる自分を召喚するのだから、さぞや強力な魔法使いなのだろう、その人物から様々な
ことを学べば、一族に新たな知識をもたらせるだろう、そんな期待を胸に。

 ゲートの主が思ったよりも頼りな気な少女だったということは少々期待外れだったし、偉大なる
風韻竜の自分をただの風竜呼ばわりしたことには多少怒りを覚えたが、自分に抱きつきながら涙を
流す姿を見ては、とても刺激するような真似はできなかった。
 それに、ルイズの容姿が人並み外れて整った、可憐な容姿であることも大きい。ウェーブ気味で、
桃色がかったブロンドの綺麗な長い髪。小柄でほっそりした、柔らかそうな体。勝ち気そうな鳶色の
双眸を持つ、あどけなくも高貴さを感じさせる顔立ち。竜の目から見ても、ルイズは美しいと認める
ことができた。イルククゥも女の子、可愛いものには弱いのだ。人間の少女が愛らしい猫や犬に頬を
緩めるように、異種族であっても、むしろ異種族だからこそか、可愛いものは可愛いと感じてしまう
ものらしい。

 一方、ルイズはイルククゥの言葉に1つ頷くと、なにやら顔を笑みで彩りだす。
「私が、風竜どころか風韻竜を召喚するなんて」
 小さな呟き、それを皮切りに、自信に満ちた声が放たれていく。
「そうね、そうよね! とうとう努力が実ったんだわ! 私だってヴァリエール公爵家の娘なんです
もの、いつか大成するって信じてたわ!」
 満面の笑みで、ルイズは自分の召喚の結果に、再度の喜びを露わにした。ほんの少しだけ、また
目に涙を見せながら。
「見てなさいよ、あいつら! なんたって風韻竜を使い魔にしたんだから! これでもうゼロだ
なんて呼ばせないわ!」
「ゼロってなに?」
「なんでもないの! もう関係ないんだから! きっと、この調子で私はどんどん才能を開花させて
いくわ!」
 言いながら、ルイズは腰に手を当てて薄い胸を張った。

 それにしても、先程は泣いて喜んだと思ったら、今度はこの自信たっぷりの様子。愛らしい外見の
割に、結構調子に乗り易いタイプなのかもしれない。

 もっとも、お調子者なのはイルククゥも同じなので、似た者主従といえるのだが。

 それはともかく、自分を召喚したことでこれほど喜んでくれるルイズに、イルククゥは好印象を
抱いた。
「きゅい! そんなに喜ばれると、わたしも嬉しくなってくるわ! きゅいきゅい!」
 歌う様な調子で言いながら、イルククゥはあることを思い出した。
「きゅい! でも、ルイズ様! これだけは覚えておいてほしいのね!」
「? どうしたの?」
「あのヘンテコ! あの気持ち悪いのには、近づいちゃダメなのね!」
 イルククゥの言葉に、ルイズは首を傾げるばかりだ。そこでイルククゥも記憶をたどり、補足の
言葉を重ねる。
「ほら、あの青い髪のちびっこ! あの子の召喚したのの1匹なのね!」
「青い髪……ああ、あの子、タバサっていったかしら」
「そうなのね、って、ありゃん? ルイズ様あの子のこと知らないの?」
 同じ魔法学院のクラスメイトだということなのに、よく知らなそうな様子に疑問符を浮かべる。
「去年は別のクラスだったし、あの子目立つタイプじゃないから」
 ルイズは説明しながら、それにツェルプストーとよく一緒にいるし、とよく判らないことを言って
眉をしかめた。
「それで、あの子がどうかしたの?」
 聞き返す召喚者に、若干苛立ちながらイルククゥは繰り返す。
「だから! あの子が召喚したヘンテコ! 3体も召喚されてたけど、その中で1番気持ち悪いの!」
「ああ、あの気味の悪い仮面のこと?」
 イルククゥはこくこくと頷いた。
「そうそう、そいつ! あれには近づかない方がいいのね、というか絶対近づいちゃダメなのね!」
「う、うん。まあ、あんなのに近寄りたくはないけど」
 鼻息荒く迫れば、ルイズがやや(?)怯んだ様子で応える。

「でも、なんでそこまで念を押すのよ?」
 不思議そうな顔で尋ねてくるルイズ。それに一瞬イルククゥの方がきょとんとするが、すぐに
人間は精霊の声が聞こえないことを思い出した。
「あのヘンテコ、絶対危険なのね! だって、あいつが出てきた途端、周り中の精霊たちが一斉に
警戒しだしたんだもの!」
「精霊が警戒? そんなことってあるの?」
 どうやら韻竜が精霊の声を聞ける種族であることは理解しているらしい。召喚者の博識ぶりに
嬉しくなるが、今はおいておく。
「今まではそんなこと1度もなかったし、お父様もお母様も長老様たちも、誰もそんなことが
あるなんて言ってなかったのね。だから、そんな事態を引き起こすあいつは、絶対に危ない奴
なのね!」
 語気も強く、力説してみせた。あんな者に、この愛らしい召喚者を会わせるわけにはいかない。
あの時の精霊たちの声、あんな怯えを含んだ声なんて、聞いたことがなかった。第一、あの
仮面の姿自体も気に入らない。繰り返すが、イルククゥは女の子。可愛いものは好きだが、不気味な
ものは嫌いなのだ。まずは外見で第一印象が決まることは、どの種族もあまり変わりがない。



「えーっくし!」
「どうしたの、ムジュラの仮面?」
 突然奇妙な声を上げるムジュラの仮面に、ナビィが驚いた。
「いや、なにか急にくしゃみが……」
 ムジュラの仮面が戸惑った風で言うと、今度は才人が訝しむ。
「鼻も口もないくせに、どこでくしゃみ出すんだ?」
「いや、オレもこれまでこんなことはなかったんだが……」
 そして、ムジュラの仮面は体ごと首を傾げ、周りの者たちも合わせる様に首を捻るのだった。



「そう、判ったわ。元々そうするつもりはなかったけど、あの仮面には近づかないようにする」
 シルフィードの警戒心が伝わったのか、ルイズは先程よりもはっきりと約束してくれた。それに
安堵の息をつくと、今度はルイズが表情を引き締めて口を開く。
「でも、私の言うことも聞いてちょうだい」
「? なんなのね」
 聞き返すと、ルイズは周囲を見回して、人目があるかどうかを確認した。今更という気がするの
だが。やや呆れ気味に見ていると、ルイズはイルククゥに近づき顔を下げさせる。
「今日から、人前で言葉を話すのはダメだからね」
 そして、声をひそめて耳打ちされた言葉に、激昂する。
「何を言い出すのね、この桃色娘は! 偉大なる風韻竜であるこのわたしに、いつまでもおバカな
風竜なんかのふりをしていろっていうの!」
 唾と一緒に抗議の声を飛ばした。今日はルイズが落ち着いてからということで我慢したが、
これから毎日会話してはいけないなど冗談ではない。その怒りのままに、イルククゥは文句の
言葉を放っていく。その声の風圧に吹き飛ばされそうになりながらも、ルイズは長い髪を抑えつつ
言葉を続けた。
「お願い、聞き分けて! 韻竜種は絶滅していると思われてるし、もし貴方のことが知れたら
きっと大変なことになるわ!」
「大変なことって、どんなことなのね」
 まだ憮然としながらも、少し声を抑えてイルククゥは聞いてみる。その質問に、ルイズが
溜息混じりで説明を始めた。

「きっと、アカデミー(魔法研究所)が研究のためだっていって、貴方を連れていっちゃうで
しょうね。もしそうなったら、きっと連日連夜実験材料にされて、挙句の果てには体を
バラバラに……」
 ルイズの語る内容に、イルククゥは慄然とする。
「こわい!」
 たかだか言葉を喋るか喋らないか程度のことで、そんなことになり得るとは思いもよらなかった。
恐怖の声を上げるイルククゥに、ルイズは頷く。
「そう、恐いことになっちゃうのよ。私もそんなことにならない様させたいけど、アカデミーは
王立機関だからヴァリエール家でも流石にどうにもできないし、それに万一エレオノール姉さまに
知れようものなら……」
 そこまで言うと、突然ルイズは身を震わせ始める。

「きゅい?」
 それに怪訝としていると、ルイズの口からなにやら言葉が漏れていることに気が付いた。
「ごめんなさい姉さまでもイルククゥはせっかく召喚できた私の使い魔なんですだから
取らないで……」
「きゅ、きゅい……?」
  自分の鱗のように顔を青くしながらぶつぶつと呟くその姿に、イルククゥは我知れず
後ずさった。その距離、約3メイル程。先程のエレオノール姉さまなる人物に、よほどなにか
あるのだろうか。
「貴族の義務は判っていますですけどおねがいです連れていかないでああごめんなさいほっぺた
つねらないで顔ふまないでごめんなさい母さまへの報告だけは堪忍して……」
「あ、あの……、ルイズ様……?」
 憑かれたように独り言を続けるその様は正直不気味この上ないが、イルククゥは思い切って
声を掛けてみた。そこで、やっと正気に戻ったらしいルイズが咳払いをする。顔色はまだ
真っ青なままだ。
「と、とにかく、喋ったら大変なことになるから、他の人には喋っているところを見られない
ようにしなきゃダメなんだからね!」
 びしっと指を突きつけてくるルイズに、イルククゥは勢いよく首を上下させた。先程の尋常で
ない、むしろなさすぎるルイズの様子に、すっかり不安が伝染してしまったのである。
 そこで、ルイズが何か思いついたような顔をした。
「そうか、それなら名前も変えた方がいいかもしれないわね」
「きゅい? 名前?」
「ええ。イルククゥって可愛い名前だと思うけど、私が思いつくような名前じゃないし、なんで
そんな名前にしたかって聞かれたら答えられないもの。もし聞いてきたのが姉さまだったり
したら……」
 そこまで言って、また何処か遠い所に行ってしまいそうになりかけるルイズに、イルククゥは
慌ててブレーキを掛けさせる。
「そ、そういうことだから、人前ではなにか別の名前で呼んだ方がいいと思うのよ」
 言うが早いか、ルイズは唇辺りに指を当て、考え込み始めた。
「風韻竜なんだから、風に関する名前の方がいいわよね、それに女の子だし、可愛い名前に
しなきゃ」
 眉根を寄せて、可愛らしく唸るルイズ。それを見ていると、自然と胸が温かくなってきた。
使い魔となった自分の身を案じてくれ、自分の名前を一所懸命に考えてくれている。そのことに、
イルククゥはルイズの優しい心根を感じずにはいられなかった。

 そして、やがてルイズは結論が出たらしく、両の手を打ち鳴らす。
「うん、決めた! シルフィードっていうのはどう?」
「シルフィード?」
 聞き返すと、ルイズは笑顔で頷いた。
「物語に出てくる、風の妖精の名前よ。どうかしら?」
――シルフィード……
 ルイズが考えてくれた名前を反芻していると、心が感激に染まっていくのが判る。
「素敵な名前ね! きゅいきゅい! 可愛くて綺麗な名前! 新しいなーまーえー!」
 跳びはねたい様な喜びを歌声で表してみれば、ルイズの方もますます顔をほころばせていった。
「ふふ、気に入ってくれたみたいね」
「ええ、とっても! どうもありがとう、ルイズ様!」
 感謝の言葉を告げながら召喚者、否、主人であるルイズに鼻先をすりよせる。
「も、もう、使い魔が勝手にご主人様に顔を近づけるなんて、本当は不敬なんだからね」
 口ではそんなことを言っているが、その紅潮した頬と緩んだ口許を見れば、照れ隠しである
ことは見え見えだ。そんな主の子どもっぽい愛らしさにイルククゥ、否、シルフィードの中で
ルイズへの愛おしさが募っていった。
「でも、あのヘンテコには絶対近づいちゃいけないのね!」
 だからこそ、あの奇妙な仮面に対しては、釘をしっかり刺しておく。

 そして、実のところその考えは決して的外れのものではなかった。
 ハルケギニアに生息する幻獣と、ハイラル、タルミナ等でモンスターと総称される魔物や魔族。
姿形に関しては大差が無くもないのだが、この両者はある一点において大きく異なっている。
それは、幻獣が生態系に則った存在であるのに対し、モンスターはこの世のルールの乱れから
生まれ出るものであるということだ。
 世界のルールの乱れ、例えば世の平和が脅かされる時、そこにモンスターの生まれる余地が
生じる。生まれたモンスターたちはその凶暴性のままに世を乱し、それが更にモンスターを
生む。その歪んだ生態故に、モンスターは世界の理法を司る精霊たちとは敵対関係にあった。

 普通、幻獣は精霊と戦おうなどとは思わないし、中には韻竜のようにその力を借りるものさえ
いる。しかし、モンスターはそうではない。例を挙げるなら、ハイラルではナビィの故郷である
森を守護してきた精霊デクの樹が魔物に呪い殺されたし、それとは別の時代に空の精霊ヴァルーや
水の精霊ジャブー等が魔物に脅かされ、また別の時代にはフィローネ、オルディンといった光の
精霊たちが魔物に力を封じられている。そして、当の奇妙な仮面、ムジュラの仮面自身もまた、
邪気と魔力が健在の頃はタルミナの四方を護っていた守護神たちを呪って魔獣に変えた上、精霊の
眷族である大妖精を――殺したわけではないが――ばらばらに引き裂いていた。
 世界に仇なし、時として精霊さえも手にかける魔性の命、それを魔物や魔族と呼ぶのだ。
 そんな異世界の存在の生態をシルフィードたちが知る由はないが、それでもシルフィードはあの
仮面に対しては最大限の警戒をしておくよう、心に決めていた。

 と、そこでシルフィードのお腹がくぐもった音を鳴らす。
「きゅい、ルイズ様、わたしお腹がすいた、お腹がすいた、お腹がすいた!」
「そうね、そういえば、召喚してからまだご飯あげてなかったっけ」
 思い出したようにルイズは言うと、踵を返してシルフィードを招いた。
「じゃあ、いらっしゃい。厨房の場所を教えるから、貴方が来たらご飯をもらえるように
言いつけておくわ」
「きゅい! ごはんごはん!」
 喜ぶシルフィードに、ルイズは少し眼を厳しくさせる。
「でも、約束ちゃんと判ってるわね?」
「きゅい! きゅいきゅい!」
 喋ってはいけないことを覚えていることを示すように、シルフィードは竜の泣き声で応えた。
その態度に満足したらしいルイズは、シルフィードを厨房に連れていき食事を与えてくれる。
その食事の美味しさに、シルフィードは思わず感涙してしまった。巣では調理という概念が
なかったため、貴族用の食事を作るコックたちの料理は新鮮な驚きと喜びに満ち溢れていた。
そして、そんな食事を与えてくれた主のことが、ますます好きになっていく。舌鼓を打ちながら、
イルククゥ改めシルフィードとなった風韻竜の少女は、新たな絆の証である使い魔のルーンを
見つめるのだった。

 その左前足の甲に浮かんだルーンが何を意味し、自分を召喚した少女がどういうメイジなのか、
何も知らないままに。

~続く~



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