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萌え萌えゼロ大戦(略)-26



「……これは……想像以上ですな……」
 そう言ってガリア南薔薇騎士は口元を押さえる。ここはアルビオン王国――
いや、王党派なき今は『レコン・キスタ』によって神聖アルビオン共和国と
なった国の北部、ニューカッスル。王党派最期の地として知られることになる
この地は、やがて昔語りとなる王党派による貴族派将兵への苛烈な反撃から
まだ三日目を迎えたばかりであり、城郭の外には、屍肉をついばむ鳥や
獣すら近寄らぬ、誰とも分からぬ、物言わぬ黒こげの骸が一面に広がっていた。
 口元を押さえる南薔薇騎士の横で、従軍看護婦の装束に身を包んだ
貴婦人が次々と運ばれてくる骸に祈りを捧げている。彼女の名は
モリエール夫人。このガリア南薔薇騎士団の騎士団長である。
モリエール夫人は祈りを中断して立ち上がると、側にいる騎士に問う。
「王党派は見たこともない新しい油を詰めた砲弾を用いたようですね。
ご覧なさい。人がここまで炭化するなど、我がガリアの装備であり得る
ことですか?」
 ガリア南薔薇騎士団は、かのニューカッスル攻防戦が終結した直後に、
『レコン・キスタ』に救護隊派遣を打診している。形式上は王党派にも
打診したことになっているが、このとき、すでにガリア王国首脳部は
アルビオン王国国王ジェームズ一世と、皇太子ウェールズの死亡の報を
得ていた。そしてこの派遣そのものも、形の上では首都ロンディニウムからも
見えたというニューカッスルの空を焦がす炎を駐在武官が報告したことからに
なっていた。
 モリエール夫人の問いかけに、騎士は首を振る。彼らはそれがふがくによる
広域焼夷弾爆撃の結果だとは知らなかった。
「……ありませぬな。このような臭いを放ち、人を完全に消し炭に変えて
しまう砲弾など。火竜のブレスでも、人を焼けば内臓が生焼けとなって
流れ出します。そして、アルビオン王立空軍技術廠が開発した戦列艦
『イーグル』号の装備については、我がガリアも完全に掴んでいたわけでは
ありませぬ。
 これまでの情報で、王党派は砲撃音すら聞こえぬ遠方より一方的に
砲撃を加え、また砲撃を支援するかのように艦隊に襲いかかった、
見たこともない鋼の翼を持つ翼人の姿も見られたとか」
「『鋼の乙女』――」
「は?今、なんとおっしゃいましたか?」
 モリエール夫人のつぶやきに、南薔薇騎士は思わず聞き返した。
「鋼の翼持つ翼人には心当たりがあります。なるほど、味方にすれば
一騎当千。敵に回せば……これ以上の脅威はありません」
 モリエール夫人は、ガリア王国の王都リュティスで、『無能王』
ジョゼフ一世の側に立つ、王が『余のミューズ』と呼ぶシェフィールドとも
呼ばれた女と一緒にいたライトニング姉妹を見たことがあった。
魔法の力を借りず空を飛び、先住魔法にも似た攻撃を繰り出す双子に、
彼女は狂気と嫌悪感しか感じなかったが。なるほど、双子と同じような
『鋼の乙女』がこの戦場を舞ったのであれば、この戦場の惨状も納得できた。
 そこに、周囲の偵察に出ていた一人の南薔薇騎士が現れ、モリエール夫人に
耳打ちする。彼に案内されるまま焼け落ちた森の集落に足を踏み入れた
彼女は、そのあまりに悲劇的な様相に言葉を失った。

 そこは、ニューカッスル攻防戦が始まるまでは、ガラス職人たちが
暮らす小さな集落だったらしい。だが、今そこに往時の姿を残す家や
工房は一つもなくすべて焼け落ち、広場であった場所には、多くの墓標が
打ち立てられていた。
 立ち並ぶ墓標の一つ。その前に、一人の少女がたたずんでいた。
身につけた衣服は煤に汚れ、その視線はどこか空を掴むよう。
モリエール夫人は少女の前にゆっくりと歩み寄ると、身を屈め少女の
視線に自分の目を合わせた。
「……何が、あったのですか……?」
 モリエール夫人は、この状況から少女の身に耐えきれないことが
起こったのではないかと思った。少女は視線を宙に漂わせたまま、
ぽつりぽつりと語り始める。
「……森が燃え始めて、お父さんが、お母さんを呼びに行くように言ったの。
そのとき、空が真っ暗になって……気がつくと、私の上にお父さんが倒れてた。
 家が燃えてて……お隣のおじさんやおばさんが広場で燃えてた。
その後兵隊さんがやってきて、燃えた家からお母さんを捜してくれたけど……
お母さん、見つからなかった……」
 少女の目からは涙はもはや涸れ果てていた。モリエール夫人は、少女を
包み込むように優しく見つめる。やがて、少女はゆっくりと言葉を継いだ。
「……兵隊さんたちがお父さんやお母さん、それにお隣のおじさんと
おばさん……死んじゃったみんなのお墓を作ってくれたの。
一番偉い人が私をお父さんみたいに抱きしめて、『すまない』って何度も
言ったわ。兵隊さんはみんな泣いてた。きっと怪我をしていたからよね」
「あなたの……おうちは?」
 モリエール夫人の言葉に、少女は言われなければそうと分からない
完全に焼け落ちた家と、その隣にある半分焼け落ち天井が崩れた工房を
指さした。工房に落ちた焼夷弾が不発弾で、しかし天井を突き抜けた
それが娘の危機を察知した哀れな父親に命中してその命を奪ったことは、
その場の誰も知る由もなかった。
「兵隊さんが、工房からこれを捜し出してくれたわ。他のものは壊れていたって。
家から見つかった溶けたお母さんの手鏡は、お母さんのお墓に入れてもらった。
それしか見つからなかったって」
 少女はそう言って、熱で歪み、衝撃で耳がかけたガラスのウサギの置物を見せた。
モリエール夫人は、その置物ごと、少女を強く抱きしめる。
その頬には、涙が伝っていた。
「……始祖ブリミルよ……。わたくしは……この子に、どのような言葉を
かけてあげられるのでしょう?何故、この子はこのような試練を受けなければ
ならないのでしょう?」
 夫人に抱きしめられて、少女の目から枯れていた泉がよみがえったかのように、
堰を切ったように涙があふれ出す。その後ろで、最初にモリエール夫人に
報告した南薔薇騎士が、少女が『兵隊さんの一番偉い人』から最初に
会った人に見せるよう言いつけられていた手紙を手にしていた。

 その手紙には、こう書かれていた――

 この未曾有の悲劇の只中で、巻き添えになったアルビオンの無辜の民の墓標を作ること
しかできぬこと、しかと詫びる。
 だが、生き残った我らが伝えねば、この惨状を誰が司令部に伝えるのか……願わくば、
始祖の大いなる加護ありて生き残った少女に、さらなる始祖の加護あらんことを。
 この手紙を読む者にしかと頼む。始祖の加護ありて生き残ったこの少女の、その庇護を
切に願う――ジョン・ホーキンス

 後にこの戦闘の悲劇を伝える貴重な資料としてアルビオン王立博物館に
保存されることになる、この攻防戦に参加した貴族派陸兵五万の、たった
五十人と伝えられる生き残りを指揮した殿軍指揮官の手紙――読み終えた
モリエール夫人は、静かに目を閉じた。
「……サー・ホーキンスも、さぞつらかったでしょう。あの煉獄のような
戦場から撤退できた残存兵力を率いて、わずかな糧食もここに残して……。
わたくしがここに来たことも、始祖のお導き。卿の心残りは、わたくしが
引き継ぎましょう」
 こうして。一人の身寄りをなくした少女が、アルビオンからガリアへと
渡った。彼女の運命がこれからどうなっていくのかを知る者は、このとき
誰もいなかった。


 その頃――ふがくたちはラ・ヴァリエール領に到着していた。
だが、まだ領地に入ったばかりであり、屋敷への到着は夜になるという。
さすが公爵家ともなればその領地も広大だった。
 ふがくは一行が小休止をすることになったとある旅籠からそのまま
空に舞い上がろうとしたが、シエスタに止められた。そして当のシエスタは
というと、ルイズたちが乗った馬車が止まったと同時に、その馬車の扉を
開ける。さすがにきちんと召使いとしての教育を受けているだけのことは
ある、とふがくが思ったのもつかの間。旅籠から飛び出してきた村人の
集団を何とか避ける。
 村人たちは馬車から降りてきたルイズたちの前で帽子を取ると、
「エレオノールさま!ルイズさま!」と口々のその名を呼んで歓迎の
意を示した。どうやら村人総出で歓迎に出てきたらしい。とある村人は
ふがくの姿に気づくと、頭を下げた。
「エレオノールさまかルイズさまの御家来さまで?」
 ふがくの姿はさすがに珍しいらしい。だが、自分たちの予想が当たっていた
場合に粗相があってはならないとの思いが先にあるのか、その視線も
遠慮がちだった。だが、ふがくが「まぁそんなところね」と言うが早いか。
やれ「背中の剣をお持ちしますだ」だの、「長旅でお疲れでしょう」だの、
ふがくの世話まで焼こうとするのに閉口する羽目になったのだった。
 その狂瀾を前に、エレオノールが口を開く。
「ここで少し休むわ。父さまに、わたしたちが到着したと知らせてちょうだい」
 その声で一人の少年が馬に跨り、速駆けですっ飛んでいく。その様子に
ふがくは小さく溜息をついた。
「場所さえ教えてもらえば私が飛んだのに。気分転換になってたかも」
「ダメですよ。ふがくさん。これでいいんです。とはいえ、ここからは
私の出番もありませんから」
 そう言うシエスタの視線の先には、旅籠に案内されるルイズたちの姿がある。
少し遅れてふがくたちが後をついていくのを見てルイズが何かを言おうと
したが、エレオノールに睨まれて小さくなっていた。

(初対面からそうじゃないかと思ってたけど、あのお姉さんにはルイズも
全く頭が上がらないようね……)

 それがふがくの率直な感想だった。旅籠の中に案内されてからも、
エレオノールもルイズも村人から最大級の歓迎を受け、褒めそやされている。
その様子をそれなりに丁重に扱われながら遠巻きに見るふがくは、
ふっと旅籠の外から近づいてくる誰かに意識を向け、デルフリンガーの
柄に手をかけた。

 しかし、それは全くの杞憂というものだった。

 旅籠のドアが突然ばたーん!という大きな音を立てて開き、桃色の風が
飛び込んでくる。
 それはまだ若い女性だった。彼女は腰がくびれたドレスを優雅に着込み、
羽根のついたつばの広い帽子をかぶっていた。その帽子の隙間から、
ルイズと同じピンクブロンドが揺れる。
 帽子の下から覗くのは、綺麗というより可愛いと形容するしかない顔。
年の頃はエレオノールよりやや下くらいか。瞳の色はルイズと同じ鳶色。
しかし、そのスタイルはエレオノールやルイズとは大きく異なっていた。
 彼女はエレオノールに気づき、目を丸くする。
「まあ!見慣れない馬車を見つけて立ち寄ってみれば嬉しいお客だわ!
 エレオノール姉さま!帰ってらしたの?」
「カトレア」
 エレオノールがつぶやく。それと同時にルイズが顔を上げる。その顔は
喜びに輝き、カトレアと呼ばれた女性の顔も、ルイズを認めてぱあっと
輝いた。
「ちいねえさま!」
「ルイズ!いやだわ!わたしの小さいルイズじゃないの!あなたも帰って
きていたのね!」
 ルイズは立ち上がると、そのままカトレアの豊かな胸に飛び込んだ。
「お久しぶりですわ!ちいねえさま!」
 ルイズとカトレアは人目をはばからず再会の喜びを分かち合う。
どうやら、彼女はルイズのすぐ上の姉のようだ。ふがくが改めてカトレアを
見ると、確かに髪の色といい瞳の色といい見れば見るほどルイズにそっくり。
ただその顔立ちは穏やかで、姉や妹と違い包み込むような雰囲気を漂わせている。
 カトレアは警戒を解かぬまま自分に視線を向けているふがくに気づいた。
カトレアが近づいてくるのを見て、ふがくはデルフリンガーの柄から手を放す。
「まあ、まあ、まあ、まあまあ」
 完全に警戒を解かぬふがくの顔を、カトレアはじっと見つめる。
その視線に込められているのは紛れもない好奇心。カトレアはそのまま
ふがくの顔をぺたぺたと触り始める。
「あなた、人間なの?てっきりガーゴイルかと思ったのだけど、触った
感じがまるで普通の女の子なんですもの」
 カトレアの手が頬に触れたまま、ふがくは言う。
「私は大日本帝国の鋼の乙女、ふがくと申します。あなたの妹君、
ルイズ様に召喚された使い魔です。この国で一番近いものを挙げると
すれば、今あなたがおっしゃったガーゴイルに相当するでしょう」
「まあ」
 場所と相手だけにふがくが言葉を選ぶと、カトレアはふがくの頬から
手を放し、柔らかな微笑みを浮かべる。その笑みは、ふがくにある鋼の
乙女の姿を思い出させた。と、そこでふがくはそういえばエレオノールには
名乗ってなかったことも思い出したが、向こうがこっちを知っているよう
だったので気にしないことにした。
「ごめんなさいね。わたし、すぐに間違えるのよ。気に障ったかしら?」
「いえ」
 ふがくは頭を振る。その様子を、シエスタは真横で心配そうに見つめていた。

 ルイズにエレオノール、そしてふがくとシエスタは、全員カトレアが
乗ってきた大きなワゴンタイプの馬車で残りの行程を移動することに
なった。学院から借り受けた馬車は、ここから王都へ戻るエレオノールの
馬車とともに魔法学院まで戻ることになる。エレオノールは召使いや
下僕と同じ馬車に乗るなんて、と顔を曇らせたが、カトレアに押し切られた
格好だ。
 そして……馬車の客はふがくたちだけではなかった。
 馬車の中を形容するならば、動物園という言葉以外になかった。
前の方の席では虎が寝そべってあくびをしている。ルイズの隣には熊が
座っている。そればかりかいろんな種類の犬や猫があちこちで思い思いに
過ごしており、極めつけに大きな蛇が天井にぶら下がっているのを見て
しまったシエスタはそのまま意識を手放していた。気絶してしまった
シエスタを介抱しながら、ふがくは思わずつぶやいた。
「それにしても……すごい馬車ね」
「ちいねえさまは、動物が大好きなのよ」
 ルイズがそう言うのを聞いて、ふがくは好きって言っても限度がある
でしょうが……と小さく溜息をつく。その横で、ルイズとカトレアは
カトレアが拾ったというツグミの話に花を咲かせ始める。その様子を
見て、エレオノールが溜息をついているのが見えた。
 ラ・ヴァリエールの美人三姉妹が勢揃いってところね――どうやら
ルイズと二番目の姉は相当仲が良いようだ。気絶したシエスタも、
いつしか自分の膝の上で寝息を立てている。馬車の左には、緩やかに
起伏する丘。右にはどこまでも続くような田園。まだ初夏の風が吹くにも
早い季節だが、冬の麦が刈り取られ秋の麦を植える準備が整いつつある
風景は壮観だった。
「……ま、たまには陸送もいいかな」
 緩やかに揺れる馬車の中で、ふがくはしばらく感じていなかった安らぎに
肩の力を抜いた。



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