あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

オレンジ色の使い魔-02


 トリステイン魔法学院、学院長室。
「おぬしがここの責任者か」
 ハミイーは老人と向き合っていた。
「いかにも、猫どの。トリステイン魔法学院への来訪を歓迎しますぞ。わしの名はオスマン。人はオールド・オスマンなどと呼びますがな」
「ハミイーだ。敬称としてのオールドは老練なる、あるいは偉大なるであったかな?」
 その言葉に老人は口元に笑みを浮かべた。目はハミイーの手に向けられている。
「コルベール君の報告どおり、人間の社会について知識をお持ちのようですな。しかし、コントラクト・サーバントを拒まれたとか?」
「俺はこの惑星について知らぬのでな。責任者たるおぬしとの会見を要求したのは、不当な契約を避けるためだ。あのルイズと言う娘は契約の代償として衣食住を保障すると言ったが、俺はその前に知識を得ねばならぬ」
「つまり、契約が正当なものと判断するに足る知識を得た後にミス・ヴァリエールと契約すると考えてよいわけですな。契約前から高い知性を持つ使い魔ともなれば妥当でありましょう」
 その言葉にハミイーはわずかに目を細め、オスマンの傍でコルベールが身じろぎした。
 秘書の女性は関心を持った様子もなく、書類にペンを走らせ続けている。
「そう、たとえば今のおぬしの言葉だ。契約の前後で知性が変化するものと聞こえたぞ」
 オレンジ色の巨体が音も無くオスマンの執務机に歩み寄り、コルベールが一歩前に出て杖に手を掛ける。
「あるいはその杖だ。さきほど転移してきた草原でも見たが、子供が起動ワードと動作によって個人用の重力制御フィールドを発生するのを目にした。この男の動きから考えて、他にも機能がある」
「杖は道具にすぎぬよ、猫どの。多様な力はメイジ本人に備わっているもの。どうやら、猫どのの国は相当遠くにあるようですな」
 巨体に見下ろされながら、オスマンは緊張した様子もなく秘書の手元にある水キセルを眺めている。
「とりあえず、この惑星に関する基本的な説明は召喚主であるミス・ヴァリエールが行うのが筋だろうて。もし彼女の手に余ることがあればこのコルベール君と、あちらのミス・ロングビルに対応させましょう。
 猫どの、それで良いですかな?」
「当面はな。ではルイズに話を聞くとしよう」
 ハミイーは巨体を静かに巡らせ、学院長室から去った。ドアが閉まるのを見届け、コルベールが緊張を解く。

「オールド・オスマン。あの猫はいったいどこからやってきた、何者なのでしょうか」
「君の報告と今の会話を信じるならば、ミス・ヴァリエールは他の惑星にある猫の王国から猫の貴族を召喚したと言うことじゃな。
『クジンの戦士』と自称したとのことであれば、その『クジン』とやらが猫の王国なり諸侯なり、あるいは……惑星の名前であろうて」
 あっさりと言ってのけたオスマンの言葉にコルベールが目を剥く。
 コルベールも自室に惑星儀を置いているくらいで、地動説も知っているし天には月とは別に球体が浮いていることを知っている。
 しかしそれらは全て始祖ブリミルの領域。
 月は数十万リーグの彼方に浮かぶと言われ、惑星に至ってはそのさらに数十倍の距離にあると言われている。数千倍と言う説を唱える学者さえいる。
そして人の知るいかなる魔法、いかなる航空船舶、いかなる使い魔をもってしても、地表から10リーグ離れることも出来ない。それがブリミルの定めた摂理であるはずだった。
 学院長の言葉が正しいのであれば、ミス・ヴァリエールが行った召喚は異常であるばかりか、異端の可能性さえある。
「とても信じられません。どこか、たとえば東方の彼方に猫の王国があると言われたほうが納得がゆきます」
「うむ、文書にはそう記載するのが良かろう。ミス・ロングビル、そのように」
「はい」
 オスマンが淡々と処理を命じるのを聞いて、コルベールは自身の持つ常識が揺らぐのに気づいた。明らかに、オスマンは「他の惑星からの来訪者」と言う概念を当然のものとして語っている。
 そう気づいたコルベールの目が輝く。
「ふむ、説明せねばならぬようじゃな。すまぬがミス・ロングビル。しばらく席を外してもらえるかな?……いや、水キセルは置いていって欲しいのじゃが……」
 人払いを済ませするとオスマンは自らいくつかの魔法を唱え、この部屋での会話が外に漏れないことを確認した。
「さて、なんじゃったかな」
「天に浮かぶ他の惑星に知性を持つ生き物が住んでいること、しかもそれはメイジと魔法について知識を持たない存在だと言う話です」
「ふむ……コルベール君、君はおそらく、望遠鏡で観測され惑星儀が作られている惑星をあの猫の故郷と考えておるのじゃろうな」
「他に惑星があるとでも?」
「あるのじゃ。まあ、あの猫の故郷については保留しても良いが。惑星よりさらに遠く、夜空に輝く星々を知っておるな?」
 コルベールは怪訝な顔でうなずいた。
「あれらは全て、太陽なのじゃよ。遥かに遠いがために、夜空の光る点にしか見えぬが。それらよその太陽の多くは複数の惑星を持っており、総計すれば無数の惑星が存在しておる。
 そして無数の惑星の何割かには海と空気があり、生き物が住んでおる。あの猫はそれらの一つじゃ。よその太陽と惑星はあまりに遠いがためにブリミルの加護も及ばず、当然ながら彼らは魔法やメイジについても知らぬ。
 逆に、このハルケギニアを含む世界とは数多くの太陽のひとつを巡るいくつもの惑星のうちの、ひとつにすぎぬ」
「……異端です。地動説は異端ではありませんが、ブリミルの加護が及ばぬ場所とはサハラにも等しいではありませんか」
 コルベールは目眩を起こし、机に手をついてそれだけ言った。
「そのとおりじゃな。それゆえ、ワシもこの歳になるまで恩人が授けてくれた知識を他人に語ったことは無かった。残念ながらあれもワシ一人の名で世に出ておる」
 そう言ってオスマンは目を細め、壁に掛けられたハルケギニア地図を視線で示した。
 コルベールが知るところによれば、各種の測量結果を統合して作られたそれは賢者オスマンの業績のひとつ。しかし今の言葉によれば、地図の製作にあたっては協力者が居たことになる。おそらくは、異端に属する何者かが。
「その、恩人、とは……」
「それについてはいずれ語ることもあろうよ。とりあえず話はここまでじゃ」
 その宣言に、コルベールはむしろ安堵を感じた。

「……とりあえずここで区切り。質問は?」
 学院長室から出てきたハミイーは開口一番に「この惑星に関する説明」を要求してきた。
 いったい、使い魔に世界知識を説明したメイジがこれまで居たものだろうか。しかもこのふわふわもこもこした大きな使い魔はこの世界を「惑星」と呼ぶ。
ルイズも惑星の概念は知っている。光の点にしか見えないことは他の星々と同じだが、他の星々は同じ季節の同じ時刻なら必ず同じ場所に見えるのに対して惑星はその位置が移り変わってゆく。
 彷徨う星、惑う星、惑星。
 一見不動に思える大地も惑星のひとつであると主張する地動説をルイズは知っている。正確な暦を作成するには地動説に拠らねばならないことも、
しかしその一方で地動説は計算精度が高いから採用されているだけの、未実証の仮説に過ぎないことも座学の優等生として知っている。
 しかし、どうもハミイーは地動説を仮説ではなく事実としているようだ。しかも「世界」の意味で「惑星」と言っている様子もある。
 この世界のどこか、未知の場所にある猫の国はハルケギニアとは違う文化と学問を持っているらしい。猫の国についての説明を要求してみたが、
ハルケギニアの説明を聞かせるのが先だと断言されてしまった。まあ、その程度の寛容は示しても良いだろう。
 かくしてルイズはハルケギニア地図を自室の床に広げて説明をすることになった。
 地図を指差してそれぞれの国についてまず現況を説明し、さらにそれぞれの国の成り立ちを説明する。自然と歴史の始まりについて、
そしてメイジと魔法について説明することになった。
「まず最初に確認するが、ブリミルとやらがハルケギニア地域にやってきたのはおおよそ、八の四乗年ほど昔のことなのだな?
八の二乗の四倍や五倍ではなく」
「六千年も前のことだから何十年か何百年かの間違いはあるかもしれないわ。でも、数千年もの間違いはありえないわ。……それより、なんで八進法なのよ?」
 ハミイーが巨大な両手を顔の前に示した。ぷにぷにした肉球が目立つその手には指が四本ずつ。合計八本。
 ルイズもそれに応えて両手を、十本の指を示した。

「というわけだから、十進法を使って」
「承知した。さて、おぬしらの暦でおよそ六千年前、クジンの暦ではおよそ四千年前にブリミルがこの地域にやってきた。うむ」
「……ということは、クジンって言うのが猫の国の名前で、クジンでは一年半で暦が巡るのね。不便じゃない?年明けが夏だったり冬だったりすることになるでしょ?」
 納得して考え込む様子(だとルイズは思った)のハミイーにたずねて見る。
「惑星クジンの公転周期に合わせてのもの、なんの不合理も不便も無いぞ。……おお、もっとも基本的なことを確認しておらんだな。この惑星の一年は何日だ」
 意味不明な回答に続いて発せられた質問にルイズは「384日」と即答する。
「ふむ。さきほど太陽が傾く速度を見たところ、一日の長さはクジンや地球とほとんど同じようだな。では、ハルケギニア年はおおよそ0.7クジン年と考えれば良いか。
ブリミルがこの惑星にやってきたのはおおよそ4200クジン年前のことになる」
「チキューって何よ?話から見て、私の知らない人間の国?」
「ううむ。俺が説明する番だな」
 そしてハミイーは自分の世界について、ルイズが想像もしなかった話を始めた。
 夜空の星はそれぞれが宇宙に浮かぶ太陽であること。それらのひとつ、あるいは目で見えないほど遠くの太陽を巡る惑星クジンからハミイーはやってきたこと。
ここでルイズは質問を挟み、地動説は作業仮説ではなく事実であると回答を得た。
 クジンは帝国の名前でもあり、惑星クジンが巡るのとは別の太陽を巡る惑星のいくつかをも領地としていること。
 かつては太陽から太陽へと旅するのに何十年も掛かっていたが、最近数百年は光よりも早い船を使うようになり行き来が便利になったこと。
そして、クジン帝国は同じように複数の惑星を領地とする人間の社会と戦争と講和を繰り返していること。
 チキューとは人間の発祥の地であり、人間の領地の中でももっとも栄えている場所であること。
 人間の領地には月を二つ持つ惑星は無いはずだということ、そして魔法というものはおとぎ話の中にしか存在しないこと。 
「じゃ、じゃあ私たちはなんだって言うのよ?」
「判らぬ。人類が秘密の領地で特殊能力者を育てているのかといったんは考えたのだが、発足が六千ハルケギニア年前とあっては成り立たぬ。
人類が太陽から太陽へと渡る力を得てから数百年しか経っておらぬからな」
「いま話したことが作り話で、あなたはこの世界のどこかにある猫の国からやってきたって言うのはどう?」
「良い度胸だ、ルイズ。おぬしが秘密領地で育てられている特殊能力者であり、ブリミル云々の話が嘘であると言うくらいには説得力のある話だな」
 ハミイーが牙を剥き出して笑ってみせた。


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