あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第30話 友誼




 ヴァリエール領からトリスタニアへ向かう街道。その途中、魔法学院方面への分岐点で、ヴァリエール家一行は二手に分かれた。トリスタニアにある別邸を整備するための使用人達と、魔法学院へと向かうルヴァリエール一家及びその護衛達である。
 なにぶんにも中央と距離を取っていた公爵は、それこそ滅多なことでしか首都の別邸を使わなかったため、別邸の維持を最低限のレベルでしかしていなかった。
 平たく言えば掃除してあるだけで、ベッドに敷く毛布すら置いていないような状態だったのである。だが、事こうなると公爵は別邸と領地を頻繁に往復しなければならない。
 生活環境を整え、馬車では間に合わないため騎乗用の竜を護衛の分まで揃え、などなど大変な量の下準備が発生する。とてもではないが大量の使用人を送り込まねばこなせる仕事ではない。
 時間だってそれなりにかかることになる。
 そんなときに主人である公爵達は、むしろいるだけ邪魔になる。公爵はこういう点、厳格であっても理解があるタイプなので不満を漏らすようなことはないが、むしろ使用人達のほうがいたたまれない。
 主に不便を煩わせるよりは、という思惑その他がいろいろ一致し、公爵達はルイズと共に学院を訪問し、いろいろな意味での『挨拶』をしておこうということになったのである。
 そして特に何事もなく、ルイズ達は魔法学院へと到着した。
 さすがにトリステイン一の公爵が非公式とはいえ学院を訪れるとなると、学院側もそれなりの対応をする必要がある。
 あくまでも生徒達の父兄として訪れるのであるため、以前アンリエッタが行幸した時のような派手な出迎えはないが、学院長自らが手すきの教師達と並んで出迎えることになる。
 ルイズとなのはを乗せた馬車だけはその歓迎の列を離れて普段生徒達が馬を借りたりする厩舎のほうへと向かったが、それ以外の馬車はこうして出迎える彼らの前に静止した。



 父親達が学院長や教師達に囲まれているのを横目で見ながら、ルイズとなのはは馬車を降りた。顔なじみの厩舎番に挨拶をし、馬や馬車のことを頼んで寮へ戻ろうとした時、ルイズはふと違和感を感じた。
 小屋が一つ増えている。しかも厩舎から少し離れたところに、突貫工事で建てられたような形跡がある。
 「あれは?」
 ルイズが疑問を口にすると、厩舎番の男が御者との話を中断して答えてくれた。
 「ああ、あれは臨時で立てた竜舎ですよ。なんでも上の都合で、しばらくの間竜騎士が1人遠方から来るそうで。ただ竜がいると馬がおびえるんで離れてるんです」
 「竜騎士が?」
 なんでまたと思わなくもなかったが、これ以上の事情をただの平民でしかない彼に聞いても無駄だろう。そう思ったルイズは、直接竜舎をのぞきに行くことにした。
 「お話中にごめんなさいね。なのは、行くわよ」
 「はい、ご主人様」
 そう言って竜舎の方に向かっていく主従二人を、厩舎番と御者は、ぽかんとした顔で見送っていた。
 「……うそだろ。お貴族様が平民の俺に謝るなんて」
 「以前のお嬢様からは想像も出来ない」
 期せずして重なった言葉に二人はお互い見つめ合い、同時に目をそらした。



 竜舎へ近づいてみると、そこには大きな生き物がいる気配があった。ルイズもすっかり慣れたシルフィードのそれに近い。
 そしてそこには、思わぬ人物がいた。
 「おや、あなたは。お久しぶりですね」
 ルイズとなのはに気がついて挨拶をする人物。その人物に二人は見覚えがあった。
 前に見た時は質素な僧服であったが、今は立派な軍服を着ている。
 だがそれ以上に目立つのは、綺麗と評されそうな顔と、左右で色の違う瞳。
 「ジュリオさん……何故あなたが」
 思わずなのははそう言ってしまった。それを耳ざとく聞き止めたジュリオが、軽い口調で答える。
 「ミス・ヴァリエール、それにガンダールヴ。ボクがここにいる理由など、一つしか無いじゃないですか」
 そう言って、手袋に覆われた右手の甲を二人の方に向ける。
 その意味は二人にとっては明白なことであった。
 なのはのことを『ガンダールヴ』と呼んだことからも、その意味は一つしかない。
 自分は今、虚無の使い魔が一人『ヴィンダールヴ』としてここにいると言うこと。
 それはつまり……
 「ちょ、ちょっと、それって……」
 「ええ、ちょっどよかったです。ヴィットーリオ様も、今お忍びでここに滞在していますよ。まあ明日にはロマリアに戻っていないとまずいのですが」
 うろたえるルイズに、ジュリオは何でもないことのように言った。

 「なるほど、ここを拠点に、ですか」
 話を聞いてみれば、何と言うこともなかった。
 ヴィットーリオはこの間習得した『転移門』の呪文の力で、一度訪れた場所へならどこへでも移動できる。乱発できるものではないが、その価値は計り知れない。
 だが問題も幾つかある。移動の際にはかつてなのはが見たような『ゲート』が出現するため、大変に目立つ。また、ヴィットーリオ自身、下手な場所で目撃されるわけにはいかない。
 「そういったことを勘案した場合、トリステインの王城よりここを基点にした方が何かと問題が少ないのですよ」
 「なるほど……」
 いわれてみればうまい手であった。
 利便性だけを取れば王城の方が何かと便利であろうが、万一姿を見られた時に大変まずいことになる恐れがある。その点こちらなら噂になっても遙かにごまかしやすい。
 何より聖下の姿を知っている人物がこちらには殆どいないというのが大きい。服装にさえ気をつければ、「謎の美形」とは思われても「教皇聖下」だと思う人物は、教師を含めてほぼ皆無である。
 また、今学院はこの間の襲撃事件の痛手を回復するため、普段より人の出入りが多い。それでいて出入りする人間は厳しく吟味されているので不審者の入り込む余地も少ない。
 また、王都より派遣されてきた兵士が周辺を警戒していたりもする。逆にいえば聖下が王都に行くのにも、その兵士に紛れてしまえばまずばれない。あらかじめ派遣する兵士を選別しておけばいいだけのことだ。
 そういったことを瞬時に頭に浮かべたルイズ。ここ一月ばかりの体験が、ずいぶんと彼女を成長させていた。
 だが、そこまで思い至った時に、少しまずいことに気がついた。
 「あ、ミスタ・ジュリオ」
 「ジュリオでいいですよ。ミス・ヴァリエール。形式的にも本質的にも、あなたは私より上のものですから」
 「そんなことないでしょ……まあいいわ。ジュリオ、今ね、私の両親が来ているんだけど」
 学院側でも困るのではないだろうか。公に来ているのなら何も困らないが、お忍びの教皇と公の公爵がかち合ったら、どちらを立てるべきかは非常に微妙な問題になる。
 それを告げると、ジュリオは思わず吹き出した。
 「た、確かに学院長は困るだろうなあ……でも大丈夫。公爵様はある意味関係者だから、今頃一緒に話しているんじゃないかな」
 「いいんですか?」
 「こういう点、聖下は実に融通の利くお方ですから」



 彼の指摘通り、学院長に軽い挨拶をする気でいた公爵とカリーヌは、そこで思わぬ人物を目の当たりにして硬直する羽目になった。
 ヴィットーリオ・セレヴァレ教皇聖下。国王より遙かに偉い人物である。人並みの信仰心は持ち合わせている公爵に、彼に逆らうという意識はない。
 同席していた学院長のことすら意識から飛んだほどだ。
 カリーヌも普段の尊大さはどこへやら。がちがちに固くなって頭を下げている。
 幸いそんな妻のおかげで公爵の緊張がほぐれた。今でこそ天下無双の公爵夫人であるが、珍しくも固くなる妻に、恋人未満どころかそれ以下だった、知り合った直後の彼女を思い出したからだ。
 「聖下。お初にお目にかかります。学院長もお久しぶりです」
 「久しぶりですな。じゃがわしのことなど、今は気にせんでもよかろう」
 「こちらこそよろしく、ミスタ・ラ・ヴァリエール。夫人も楽にして結構ですよ。今の私は、何しろ『ここにはいない』のですから。それにあなたはこの世に『虚無の担い手』を産み落とした偉大なる母なのですから」
 「は、はい」
 掛けられた言葉と優しい笑みに、カリーヌも肩の力が抜ける。
 だが公爵はその言葉を聞いて先ほどとは別の意味で身を固くした。
 「聖下……失礼ながら、聖下がそうおっしゃると言うことは、ルイズはやはり」
 「はい。彼女こそ、間違いなく真正の『虚無の担い手』。この私と同じ、時に選ばれた始祖の使いの一人でしょう」
 その言葉に含まれた意味に気がついて愕然とする公爵夫妻。
 「わしも聖下がこんなに若いのは意外じゃったのだが、それにはそれだけの訳があったという事じゃよ」
 学院長もそう言葉を添えた。
 「もっとも今の教会は大変に乱れていて、お恥ずかしながら我が身を持ってしても一枚岩とは行かない有様です」
 「皮肉なものですな」
 皮肉の漂う台詞を、全く皮肉を匂わさずに語る公爵。
 公爵は彼の一言だけで今の教会の現状を悟ってしまった。
 虚無の担い手という、最強の正統性を持ってその地位に就いた教皇が教会をまとめられないというその事実。
 その腐敗度は、今のトリステインをも上回るのだろう。
 少なくともトリステインなら、今ルイズが正統の玉座に座ったのならば。
 国内の貴族は、面従腹背であろうとも一人残らず面を伏せる。
 虚無の発現という、絶対の正統性を持つ王を貶めるものはトリステインの貴族にはいない。
 というか、始祖に対する信仰心を持つものなら普通逆らおうなどとは考えない。利用しようとはしても。
 なのにその総本山たる教会がなんたるざまか、である。
 はっきり言ってこれは教皇の指導力不足以前の問題である。確かに彼は若い。だがその存在は紛れもない至高なのだ。
 少なくとも表向きは彼の言葉が通らないなどと言うことがあってはいけない。
 たとえば、トリステインでルイズが玉座に着き、見た目は立派だが内実は無茶な政策を要求したとしよう。
 この場合、臣下は一度その言を受ける。そしてそれが実務レベルで難しいことを証明して対抗する。
 それを押し切ろうとするなら、次はそのことによる弊害を具体的に並べる。そこまでしてさらに押すのなら、その時はやむなく命に従う。あるいは無視して何もせず、忘れられるに任せる。
 抵抗するにしても頭ごなしには否定しないはずである。
 これがただの世襲の王ならば、経験不足を元に一顧だにしないところであるが、ルイズの場合『虚無の担い手』という絶対の正統性が付随している。つまりただの王ではないのだ。
 ルイズの場合、その言葉には王としての政治的権威に加えて虚無の担い手という宗教的権威が付いている。ただの若年王として扱うわけには行かない。
 それなのに本来宗教的権威が圧倒的に強い教会内において、ヴィットーリオが経験不足の王のように扱われている。それがどんなに問題あることなのか、わずかな言葉のやり取りだけで公爵は理解してしまった。
 学院長も同じ思いなのだろう。その視線に何ともいえないやりきれなさがあった。
 「全く、信仰の証として存在している神官がなんたるざまじゃ。じゃが聖下、早まってはいけないと、この老骨は愚考する次第です」
 「先哲の賢者の言葉、無碍にはできませんね」
 ヴィットーリオは若者らしいさわやかさで頷く。
 「嘆かわしいことですが、かといって力尽くで彼らをどうこうすることはできません。自らの力のなさを権威で補うのでは、名目上はともかく実質的には敗北です」
 ヴィットーリオはこと政治的な面では自分を遙かにしのぐ先達二人に、若者らしい素直さで愚痴をこぼしていた。
 「要は力なのです。彼らのようなものは、様々な意味での『力』を感じなければ、頭を垂れると言うことをしないのですね。一時は『聖戦』をも考えましたが、さすがにそれは強すぎる札です」
 聖戦、の一言に思わずぎょっとする公爵夫妻であったが、ヴィットーリオがその話を引っ込めたので大いに安堵した。そんな経過で聖戦を宣言されたらえらいことになるのは見え見えだったからだ。
 「ところが思わぬ所からはからずしも私が『力』を世に示す場が巡ってきてしまいました。
 ミス・ルイズの来訪は、ある意味私にとっても何重もの意味で見過ごすことのできない内容だったのです。聖職者が頂点に立つ反乱、偽りの『虚無』、そして教会の意図しない『聖戦』……
 こたびのアルビオン内乱、レコン・キスタには、教会としても放置しておけない問題を多分に含んでいるのです。かといって表から教会が乗り出すわけにも行かない。
 手段は無茶でも、ある意味彼らは『教会に従っている』のです。それを直接『教会』の力で止めるわけにはいかないですし、それに暴走している彼らは止まらないでしょう。
 それを止められるとしたら、むしろ『教会』ではない、もっと直に信仰と結びついた力。それが必要になります」
 場に沈黙が流れた。一通りの事情はルイズから聞いていた公爵であったが、それに聖下の事情が加わると、話はいっそう重いものになっていた。
 「……確かに、これは放置できませぬな」
 はっきり言って現状においてトリステインが出兵するのは無謀だ。だが、放置することはもっとひどい事態を巻き起こすことになる。
 戦場で毒矢を打ち込まれたようなものだ。水魔法も無しに肉を抉れば命に関わりかねないが、即座に抉らねば確実に死ぬ。
 幸い今のトリステインには、『ヴァリエール公爵』という秘薬が存在していた。本来別のことに使わねばならない秘薬であるが、使用をためらっていたなら手遅れになる。そんな状況だった。
 おそらくそれを見抜いたのは鳥の骨の奴であろうが、理解したのはルイズ、そしてあの使い魔の女性だ。
 決してそそのかされて動いたのではない。
 公爵は、そのことをはっきりと理解した。







 そんな頭の痛い話があった夜。
 ルイズとなのはは、久しぶりにいつもの練習場所に来ていた。もちろん、練習仲間であるキュルケやタバサ、ギーシュも一緒である。
 「なんか久しぶりって感じね、ルイズ」
 そういうキュルケの隣で、タバサも同意するように頭を下げる。
 「モンモランシーは香水の作成とかもあるんで来ていないけど、帰ってきたら又マルチタスクの練習をお願いするって言っていたよ」
 「あ、はい。判りましたって伝えておいてください」
 ギーシュの言葉に、なのはも頷く。
 そのあと少しの間、お互いのことに関する報告会になった。学院襲撃のことを聞かされたルイズとなのはは驚きつつもほっとし、改めて猊下との面会のことなどを少しだけ聞かされたキュルケ達も彼が美青年と聞かされて驚いていた。
 「そうそう、なのは」
 そんな会話がある程度落ち着いた時、キュルケがなのはに話しかけた。
 「ちょっと見てもらいたいものがあるの」
 「はい、なんでしょうか」
 「これ、さっきの襲撃事件の時に開眼したんだけど」
 キュルケはギーシュが練金で作った的に対して「フレイムバスター」の呪文で攻撃する。
 初めて見るルイズとなのはの目が点になった。
 「何これ、本当に火の呪文なの? なんかなのはの魔法みたい」
 「よく判らないけど……レーザーっぽい?」
 二人の疑問に答えたのはレイジングハートだった。
 “マスター、どうやら彼女は魔法で赤外線レーザーを発生させたみたいです”
 それを聞いてなのはが思わず吹き出した。
 「それってものすごく危ないんじゃ」
 “かなり高出力の炭酸ガスレーザーに似ていますね。射線上の有機体くらい軽く蒸発させてしまいそうです”
 「キュルケ、うかつに使わないでね、それ。対人には殆ど必殺だから」
 「それくらい判っているわよ……」
 なのはの気魄にたじたじになるキュルケ。
 “その攻撃は基本的に『目に見えない光』ですので、非物理的鏡面で反射される恐れがあります。又、霧や煙、陽炎などを通過すると散乱して威力が大幅に減衰しますのでご注意を”
 慌てるなのはの胸元で、レイジングハートは淡々と魔法行使の際の注意点を説明しているのであった。

 そのあとなのはとタバサが空中戦の練習をしていたりすると、思わぬ乱入者が現れた。
 「ずいぶん熱心に練習しているわね。それにちょっと信じられないものまで見えるわ」
 「お母様! お父様まで」
 「え、公爵様?」
 ルイズの言葉に、キュルケとギーシュは慌てて姿勢を正した。キュルケにとってはある意味ライバル的な家系であるが故に、かえって礼を失することが出来なかったりする。
 少ししてなのはとタバサも空中から下りてきて礼をした。
 「ああ、そうかしこまらんでもよいぞ、皆」
 緊張を解くように公爵が語りかける。
 「こちらから訪ねておるのだ。今は身分など忘れて楽にしなさい」
 「そうそう。私もあまり固いことはいわないわ」
 そう言われて、とりあえず肩の力を抜くルイズ達。
 「でもどうしてこんな夜遅くに? お父様達もお疲れなのでは」
 そう聞くルイズに、公爵は笑いながら答えた。
 「何、娘達が修練に励んでいるときいてな」
 「わたくしも興味を持ちましたの」
 「噂に聞く『烈風』様から見たら、拙いものだとは思いますけれども」
 ルイズは内心、キュルケがへりくだったのを見てびっくりしたが、それをなんとか押し殺した。
 「ルイズ、お友達を紹介していただけないかしら」
 と、そこにカリーヌの言葉がかかってきて、ルイズは一瞬言葉に詰まってしまった。
 「は、はい、お母様」
 そう口にして、なんとか動揺を静める。
 キュルケ、タバサ、ギーシュの方を向き、
 「まずこちらがキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。私の不倶戴天のライバルです」
 「キュルケと申します。よろしく」
 ツェルプストーと聞いて一瞬眉をひそめる両親であったが、二人の様子を見て感ずるところがあったようで、鷹揚に頷いて言葉を掛けた。
 「キュルケどの、まあ我がヴァリエール家とは何かとある間柄だが、よろしくな」
 「は、はい、こちらこそ」
 別に公爵が威圧しているわけでは無かったのだが、キュルケはその圧倒的な二人の存在感に気圧されるものを感じていた。ある意味ルイズとは役者が違う。
 キュルケはこの二人に頭を下げることを屈辱とは思わなかった。
 (ツェルプストーとヴァリエールがライバルだと言っても、今の私じゃ鼻であしらわれるだけね)
 キュルケは自分のことをよくわきまえていた。



 公爵とカリーヌはそのまま皆の練習を見学してたが、内心では驚きを隠すのにいっぱいであった。
 今彼女たちは鍛錬の仕上げとして実戦形式の模擬戦をしている。内容はワルキューレ対キュルケ及びタバサである。
 今まで語られていなかったが、ギーシュの操るワルキューレも、かつての頃とは一変していた。
 見た目は殆ど変わっていない。だが実のところ中身は別物と言ってもよい。
 ある一体は他のものより素早く動くことが出来る。
 ある一体は他の倍の重さの武器を振り回せる。
 ある一体はギーシュと視覚がリンクできるようになっている。
 そのほかにも幾つかのバリエーションを持ったものをギーシュは形成可能になっていた。
 ちなみに姿を揃えなければ、これらの能力はさらに強化される。今回はキュルケやタバサが相手なので、ギーシュは特殊能力がばれないように形態を揃えているのだ。亜人相手ならこんな手間は掛けない。
 そしてこれに加えて。

 「手強くなってる」
 はじめに対戦したタバサがおもわずそう呟くほどにギーシュの実力は上がっていた。
 なお今回の対戦に於いては、ギーシュはあくまでゴーレムの操り手であり、ギーシュ自身は一切戦闘に参加することはなかった。ギーシュはただそこにいるだけで、手出しもしなければ狙われもしない。
 だがそれでもギーシュの実力は上がっていた。
 ゴーレムは自立して動くことが出来るが、その武勇は操り手に比例する。創造者が武術の基本を理解していなければ、ゴーレムはただ力任せに殴ることしかできない。
 なお、この場合創造者は本当に剣を振るえる必要があるわけではない。実理に基づいた技をイメージできれば何とかなる。剣士としても名をはせた老土メイジが晩年に操ったゴーレムなどは恐ろしく強いであろう。
 そしてギーシュ自身はともかく、ワルキューレの振るう武は間違いなく進歩していた。
 それだけではない。
 細剣を手に素早く切り込んでくるワルキューレがいる。
 剣を振るワルキューレの剣をはじき飛ばしたら、次の瞬間にそのワルキューレは大槌を握っていた。
 囲まれそうになったところをフライで抜け出したら、そこに青銅の矢が飛んできた。
 これにはタバサも心底驚いた。ゴーレムに飛び道具を扱わせるのは、実はものすごく難しい。軍隊の弓兵のように、特定の方向に適当に打つ、というのなら簡単である。だが物陰から出てくるのを狙撃するなどと言うのはまず無理なのだ。
 ゴーレムに基本思考能力はない。術者が目視しながら命令するか、自律的に決められたことしかできない。
 剣を持って戦えるのは、『目の前の相手を攻撃しろ』という命令を実行しているだけだ。術者による補助がなければ、敵も味方も区別できない。それでも白兵戦闘ならある程度自律的にゴーレムに任せられる。だが飛び道具ではそうはいかない。
 ゴーレムに出来るのは射ること、引き金を引くことだけだ。相手の動きを見越す予測射撃や、出てきたターゲットの敵味方の判別などは出来ない。
 かといって予測射撃を第三者の立場で実行するのは無茶にもほどがある。だがギーシュはそれをやってのけた。
 フライにハイマニューバーで加速を掛けてなんとか矢を回避し、着地と同時にフライを解除、矢を放った直後のワルキューレにマルチタスクで用意していたエアハンマーを当てて体勢を崩させたあと、とどめのウィンディ・アイシクルを放つ。
 「この鋭さ……動きの的確さ、ギーシュ、感覚同調に成功した?」
 タバサはそう呟きつつ、まだ残っているワルキューレを片付けにかかる。
 いくらワルキューレが強くなろうとも、タバサがある程度本気で攻撃すれば一撃で撃破できる戦力でしかない。盾を持っていたワルキューレがやたらに頑丈で何度も必殺の一撃をブロックされていたが、先ほどそれも撃破した。
 実際、既に残り2体となったワルキューレではもうタバサを倒せないだろう。
 だがまだタバサは油断していなかった。
 感覚同調。『ゴーレムが飛び道具を使いこなす』という技のタネを、タバサはそう推測していた。だとしたら『まだ2体』残っている相手に油断は出来ない。
 実はタバサもこれを行える。マルチタスクによる使い魔であるシルフィードとの同調だ。
 自分の視点とシルフィードの視点を同時に認識する。これによって死角が消えることの利点はタバサ自身が体感していた。そしてもしギーシュがゴーレムとの間にこの感覚同調を実現していたのなら、その戦闘力は見た目を越える。
 そしてその用心は無駄にならなかった。タバサはまだ完全には使いこなせていない切り札を切る決意をする。
 エア・ハンマーを詠唱。普通なら即座に発射されるそれを『維持』。
 エアハンマーは炎系の呪文とは違って、その姿を直接見ることは出来ない。続いて今度は『ウィンディ・アイシクル』を詠唱。こちらはつらら状の氷が形成されるため目に見える。
 目の前から襲ってくる相手に回避行動を取りつつウィンディ・アイシクルを叩きつけ、『回避の結果』自分にとって死角となる位置に向けて、先ほどから維持していたエア・ハンマーを解放する。
 自分の背後で金属が地面に打ち付けられる音を聞いて、タバサはほっと一息ついた。
 「危なかった……」
 小声でそう自分に言い聞かせるようにして気を落ちつける。
 今までの自分だったら最後の一撃を受けてやられていたはずだ。予測は出来たが、運がなければ交わしきれない見事な嵌め技だった。
 「やられたな。まさか『エア・ハンマー』を隠し持つような技が出来たなんて思ってもいなかったよ」
 ギーシュが心底感心したような表情を浮かべつつタバサを讃える。
 「空中戦の応用。フライではなく、エア・ハンマーを維持してみた」
 「なるほど。それは道理だ」
 ギーシュがほう、という表情を浮かべる。
 「ずいぶん応用できるようになったみたいね」
 なのはも出来のいい教え子をほめる表情になっていた。
 「ギーシュもずいぶん腕を上げている。感覚の同調、出来るようになったの?」
 タバサにそう聞かれて、ギーシュの表情が感心から驚きに変わった。
 「そこまで見抜かれていたとは。一応、ワルキューレを作る時に仕掛けておけばなんとか可能になった。もっともまだ同時に同調できるのは一体だし、それを仕込んだワルキューレは幾分脆くなるんでね、使い分けが難しいんだ」
 それを聞き、自分の判断が間違っていないことを理解すると同時に、ギーシュのパワーアップを実感するタバサだった。
 だが、それは早計だった。
 「ギーシュ、次はあたしお願い」
 タバサはそれを聞いてひっくり返りかけた。ギーシュが使えるワルキューレは7体。そしてそれを使い切るとしばらく魔法が使えなくなるはずだった。
 だが先ほどまで戦っていた方を見ると、ギーシュは再び7体のワルキューレを創造していた。
 「……ギーシュ、あなた、ラインになったの?」
 ラインになっているのなら負担が半減するからあり得る話である。だが、
 「いや、ボクはまだドットのままだよ。使える魔法もフライとかみたいなやつを除けばこのワルキューレ創造だけで、他のは全然ダメ。その分練金だけはいろいろ器用になったけどね」
 タバサは先ほどの戦いの最中、瞬時に武器を持ち替えていたワルキューレがいたことを思いだした。
 「あれ……そういうこと?」
 「そうさ。普通は武器より先に本体が壊されるからあまり意味はないけど、最初から大振りな武器を持たせるとせっかく普通のワルキューレに偽装する意味がないだろ?」
 確かに大型の武器をも持っていれば、パワー型のワルキューレとして対処しただろう。
 「ほんと、ずいぶん強くなってる」
 実戦では普通術者が真っ先に狙われるので今ひとつ活躍の場が薄いゴーレムマスターであるが、以前戦ったフーケとはまた別の意味でギーシュは手強くなっていた。
 ドットでは最強に近いだろう。
 「これも毎日マルチタスクで仮想演習していた成果かな? 実際に体を鍛えないといけないタバサと違って、これは仮想の効果がそのまま出るからね」
 ちなみに今の会話を、ギーシュはワルキューレでキュルケの相手をしながら行っている。
 タバサはギーシュに対する認識を、少し改めるのであった。



 なお、この戦いぶりに興味を持ったカリーヌが同じように相手をして、1分でワルキューレ7体を殲滅して見せた。この際にカリーヌは直接的な攻撃魔法をほぼ使用していない。
 なのはとの模擬戦で新たに身につけたフライを応用した超高速機動と、ブレイドの魔法を巧みに切り替えて使用、見事なまでにワルキューレ達を切り捨てた。
 「ドットにしては見事としかいえないわね。これでラインになればぐんと伸びるわ。今のままだとちょっとまだ足りないけど。このまま頑張りなさい」
 珍しくもカリーヌがほめてくれたのに、ギーシュは白くなったままであった。



 余談であるが、後日ギーシュはカリーヌに再戦を申し込む。そしてその戦いの中、彼はラインに覚醒するのだが、それは物語が全て終わった後のことになる。







 「本当に驚いたわ、異国で教導していたその腕、本物だったのね」
 「あの子達の実力ですよ。私はそれを少し引き出してあげただけです」
 練習が終わった後、カリーヌが少し話をしたいと言うことで、なのはとカリーヌだけが本塔裏手のこの場に残っていた。
 「あなた自身の腕は私がこの目で確認しましたけど、教師としても一流だったのね。あの子達の動きを見ていれば判るわ。
 まあ、戦いになれていない人は、派手な攻撃に目がいきそうだけど、あの子達、ずいぶんと防御がしっかりしていたわ。あのギーシュ君のワルキューレとの対戦、あなたの指導でしょ?」
 「ええ、どっちかというとギーシュ君のための指導なんですけど」
 なのはが照れくさそうに笑う。
 「ギーシュ君……あの子もまだ気がついていないでしょうね。今の彼でも、標準練度のメイジ部隊、一個小隊なら完封するわ」
 「え、そこまで強くなっていました?」
 驚くなのはの様子に、カリーヌは思わずこけた。
 「気がついてなかったの?」
 「というかこちらでの標準が判りませんから」
 「ああ、そういうことなの」
 カリーヌは、彼女が本当に『異国』の人間なのだと改めて実感した。
 「タバサさんとキュルケさんは、まあちょっと別格の何かになっちゃった面があるけど、それを抜きにしても驚いたわ。
 私たちメイジはどうしても奇襲や接近戦に弱い。今はまだそれほどでもないけど、いずれは銃器などの発達で、平民がメイジを討ち取る場面も出で来るでしょうね。
 この先戦になれば、メイジでも安穏としてはいられないわ。いえ、むしろメイジは戦場で命をやり取りするほうが本来なのよ」
 「戦いにしか魔法が使えないのは、哀しいことですけど」
 なのはの声も少し沈む。
 今はある程度吹っ切っているが、なのはも以前悩んだことがある。
 彼女にとって魔法とは『人を救うための力』だ。だが彼女の魔法は、殆どが何かを破壊するためのもの。戦いの力だ。
 そしてミッド式の魔法は、そういう『武力』的な面が強く、便利なものではない。
 武器としての属性が強いのだ。
 人を傷つけるための力で人を救うという矛盾。撃墜され、半身不随にもなりかねない重傷を負いながらも、魔法の力を取り戻すために過酷なリハビリをくぐり抜けた自分。
 そのことが思い出になる頃、ふと自分を振り返って愕然としたことがある。
 そこまで魔法にこだわる自分が異常なのではないかと。
 年頃の婦女子の生き方としてはずいぶんいびつなものだ。高校年代の頃、地球の親友達と雑談している時にふと気がついてしまい、その時は内心の動揺を隠すのに必死になった覚えがある。
 結局は開き直ったのだが。
 「こちらの世界の魔法は、まだまだ発展、応用の余地があるとは思うんですけど」
 「同感ね。でも、いろいろと宗教的な絡みとかもあって、そう簡単にいくものでもないのよ」
 カリーヌは少し遠くを見つめる目を浮かべて言った。
 「私も若い自分はかなりやんちゃなことをしていたものよ。特にこの国には、自分を律せないタイプの人が多くて。でも昔はそんな自分の行動もまた、横紙破りだって気がついてもいなかったわ」
 「何となく判ります」
 なのはの言葉に、カリーヌはくすりと笑った。
 「女性は騎士になれなかったから、男装して、カリンって名乗って、それなのにあの人に男扱いされて不満を持ったり、ね。
 今ではもう思い出だけど。
 その頃の私は自信過剰で鉄砲玉で、守ることなんか考えていなかったわ」
 そう言ってカリーヌはなのはの方に視線を向けた。
 「でもあの子達は、ずいぶんと守ること……防御の技がしっかりしていたわ。複数に襲われない位置取り、牽制と攻撃の使い分け、あれなら多分初陣を生き残るわね。身内に足を引っ張られなければ」
 「……私も、一度墜ちましたから」
 それを聞いて、納得した表情をするカリーヌだった。
 「失敗をしない人間は、結局成長しないのよね……なのはさん」
 「はい」
 返事をしたなのはに対して、カリーヌは……本当に珍しいことだが……頭をを下げた。
 「娘をよろしくお願いします」
 「言われずとも」
 双月の元、また一つ、友情が結ばれた瞬間であった。







 《お久しぶりですね、クロノ、そしてアースラスタッフの皆さん》
 所変わってこちらは次元の海に浮かぶL型巡航艦『アースラ』。
 最終突入に備えて忙しくも暇であるという矛盾した状況の中、クロノの元に遙かな次元を越えて一つのメッセージが届いた。
 今のアースラはその特異な次元環境が災いして、本局との間にリアルタイムの回線を開くことが出来ない。そのため定時報告その他はパッケージ化されてまとめて送られていた。
 本局からの連絡も同様である。
 そんな中、今再生されているのは、クロノが待ち望んでいた、とある人物に依頼した調査に対する報告であった。
 画面には柔和そうな若者の姿が映っている。
 名をユーノ・スクライアという。
 一般スタッフには、『無限書庫司書長』という肩書きのほうが有名である。
 なのはにとってはおそらく一番近くにいる男性であるにもかかわらず、この探査行に唯一加わっていなかった人物でもある。
 ちなみに本人はヴィヴィオのお父さんの位置を狙っていることが関係者には知られているにもかかわらず、あと5年はそれが果たせそうもないかわいそうな人でもあったりする。
 主になのはの鈍感とユーノの押しの足りなさのせいで。
 《依頼された『ハルケギニア』という星のことだけど、わずかながら手がかりはあった。
 だけど、どうにもやっかいなものっぽいよ。こちらで見つかった資料によると、どうも『ハルケギニア』という名前の星は、『聖王遺産』の可能性がある》
 「聖王遺産だって!」
 リアルタイムではないのに、ついクロノは突っ込んでしまった。
 「提督」
 隣で見ていたはやてに生ぬるい目で見られて、クロノは自分のやったことに気がついた。
 「これは失礼……しかし」
 「ベルカの聖王遺産ですか。こりゃまた大変そうやなあ」
 聖王遺産……それはある意味「厄介事」と同義である。
 かつて次元界を席巻していたベルカ帝国。聖王はベルカの王であると同時に、ベルカ社会における魔導師の頂点でもあった。
 七色の魔力光を纏う聖王の元には、聖王にしか使えない超強力な魔導器があった。
 代表的なものが先年に起こった「JS事件」で浮上した『聖王のゆりかご』である。
 名前こそゆりかごだが、その実体は超弩級魔導戦艦。完全復活すれば、惑星の一つくらい軽々と吹き飛ばす文字通りの最終兵器である。
 このほかにも、歴代の聖王がその手にした数々の魔導的秘宝の存在が今の世にも伝わっている。
 聖王遺産というのは、そういった『聖王が手にするはずだった』ロストロギア級の物に付けられた名前である。
 画面の中では、ユーノの解説が続いていた。
 《幸いハルケギニアという名前の星は、そういう危険なタイプの物じゃなかった。だけどやっかいなことに掛けてはある意味ゆりかご以上かもしれないよ。
 というのはこの星、もし記録通りなら人工惑星の可能性がある。改造じゃない、人工、だ》
 「わ、惑星一つ、丸ごと作ったというのか?」
 クロノの声が引きつる。
 無理もなかった。
 《残念ながらその具体的な手段とかはまださっぱりだ。だけどこちらの記述によれば、ハルケギニアという星は、初代聖王の時代、既に聖王が個人的に所有していたのは確かだ。概念的な意味じゃ無しに聖王の遺産として次代に譲渡されている》
 「さすがにベルカ製じゃないっちゅうことか」
 「いくら何でも惑星一つ作るのは無理だろう」
 はやての言葉にクロノが応える。
 《そしてこの星は、どうやら特殊なリゾート惑星みたいなんだ。詳しいことは判らないけど、1日で1ヶ月や1年分の休暇が取れるらしい。あと、空想の世界を現実にした物らしいとの記述もある》
 「それはこの六次次元障壁の特性を利用してのことだろうな」
 六次次元障壁は、使い方によっては時間の流れをある程度コントロール出来ることは既に判っている。
 《これ以上の詳しい情報は追って調査するけど、この時点でほぼ確定だと思う。このハルケギニアっていう星は、間違いなく聖王遺産の別名のほうに所属しているよ。今度はそっちの面から追ってみる。じゃあまた》
 最後の言葉を聞いて、クロノもやっぱりかという表情を浮かべていた。



 『聖王遺産』の別名。それはこう呼ばれている。

 『アルハザードの遺産』と。





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