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ゼロの戦闘妖精-10

Misson 10「伝説のフェニックス」(その3)

不夜城。眠らぬ城。
通常それは 真夜中でも明かりの消える事の無く 賑わいの絶えない盛り場を指す言葉。
だが、ここは 別の意味で『不夜城』だった。
アルビオン王党派 最後の砦、ニューカッスル城。
自軍の数百倍に達する敵兵力に包囲され、何時 最後の攻撃を受けるか判らない この状況で、交代で休憩を取ったとしても 眠る事が出来るものは誰も居なかった。
それでも ここには陥落寸前の城砦に付き物の『敗残兵の群』といった雰囲気は無い。
死をも怖れぬ 等とは言わない。
国の為 民の為 誇りの為、戦い抜き 生き抜いた猛者だけが残っていた。
決して逃げない。敵兵から。使命から。そして 死から。
城内の皆が 夜襲に備えて敵を見ていた。空と地上を埋め尽くす『敵』を。
が、そこに降って来たのは 弓矢でも攻撃魔法でも無く 
「どけどけどけぇ~い! 当るとイテェぞぉぉぉ!!」
素っ頓狂な怒鳴り声と、
『ドーーーン!!!』
一本の剣だった。

「イッテェェェェェェ!!!
 ナンだよ相棒、ここぁ石じゃねぇかよ! せめて地面に落としてくれヨォ…」
前庭の石畳に突き刺さった剣。それを取り囲み 杖や剣を構える兵士達。どこぞの伝説の剣のようなシーンだったが、当の剣は何かシマらない事ををボヤいていた。
兵達の頭に浮かぶ『?』、剣の方も 周りの様子に気付いたのか
「わ~ タンマタンマ、今のナシ!やり直すからヨ!!」 何故か(口も無いのに)大きく一つ深呼吸をして
「あ~ おほん。
 ニューカッスル城に集う 勇敢なる者達よ。
 我が名はデルフリンガー、
 トリステイン貴族 ヴァリエール公爵が三女 ルイズ・フランソワーズ・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢の所有するインテリジェンスソードにして、伝説の使い魔が用いし剣 『ガンダールヴの左腕』也!
 本日は アルビオン王家 アンリエッタ・ド・トリステイン姫殿下の先触れとして、まかりこしたぁ。
 早急に ウェールズ皇太子への御取次を願いたい!!
 (おっ!今の俺っち かなり格好良くね?)」
まあ ( )の中まで口に出さなきゃ そうだったかもしれないね。
『余計な一言』は、既にデルフリンガーの固有スキルと言っても過言では無いだろう。

戸惑いと困惑が広がるなか、一人の若い騎士が兵達の輪から歩み出る。
「伝説の使い魔の剣とは、中々ハッタリが効いているね、デルフリンガー君。
 歓迎するよ。ようこそ 地獄の一丁目へ。」
年に似合わぬ 凄みのある笑いを浮かべて言う。
鎧兜は無数の傷と血に塗れていたが、その青年は何処か品格を感じさせた。
「ハッタリぃ?
 悪ぃが俺は本物でね。お前さんがどう思うかは勝手だがな。
 それよりニーチャン、『王子様』にゃ伝えてくれたかい?」
「ああ 名乗るのが遅れて済まない。
 僕がアルビオン王国皇太子 ウェールズ・テューダーだ。
 ちなみに僕も 『本物』だよ。」
なんと、御当人登場!ヒョーゥと魔剣が口笛を吹く。口も無いのに器用なもんだ。
「サスガは戦場、話が早ぇーや!
 しかし 俺っちが言うのもナンだが、イイのかい。
 コッチの身元も確かめねぇで いきなり御大将がこんな怪しいヤツの前に来ちまっても?」
「いや 問題ないさ。無骨な君には不似合いの その指輪を見ればね。ほら。」
殿下は手甲を外すと、鎧の胸元からネックレス状に加工された指輪を引き出した。
その指輪のルビーと デルフリンガーに取り付けられた『水のルビー』が 同時に淡い光を放つ。更に 双方から七色の光が弧状に伸びて結び合い、虹を形作った。
「『四の指輪』は惹かれ合う。『風』と『水』、出会えば虹を描く也。
 王家の秘伝の一つだよ。もっとも 僕は一目見て、その指輪が何なのか判ったけどね。
 それを持つ以上 トリステイン王家縁の者であることは ほぼ確定だ。
 そして 『使者』とはいえ、国の秘宝を持たせるなんて突拍子も無い事をやってしまうのは アンリエッタ以外には居やしない。 
 だから 君の言う事を信じたのさ。」
「この指輪に そんな仕掛けがあったたぁ~知らなかったぜ。あの朴念仁にしちゃぁ 随分と洒落た細工を残したもんだな。」
その言葉に ある違和感を感じて聞き返すウェールズ。
「ちょっと待ちたまえ、その『朴念仁』と言うのは マサカ始祖…」
照れ笑いしながら こう返すデルフ。
「おっと、その辺は突っ込まねぇでくんな。なにせ6000年も前の事った。
 さっき アタマ打ったせいで、ほんの少し思い出したまでよ。」
「デルフリンガー。君は、本当に始祖の…」
「言ったろう。信じる信じないは、そっちの勝手だって。
 それより、姫様のことだ。」
我に返るウェールズ。
「そうだった。アンリエッタが どうしたって?」
「ぶっちゃけた話、皇太子様に一目御会いしたいってんで、此処まで来ちまったんだな。
 今 上空で待機してるぜ。」
「なっ、なんだってぇ~!!!」

「監視台、上空に異変は無いか! 砲兵隊、対空戦用意! 竜騎士隊、今すぐ出撃可能のは何騎だ!」
血相を変えたウェールズが 次々と指示を出す。
「オイオイ 落ち着きなって。
 お姫様はウチの嬢ちゃんと一緒に 俺っちの『相棒』に乗ってる。
 空飛んでる限り 相棒に適うヤツはいねぇよ。」
慌てる様子も無く デルフリンガーはそう言うが、此処は戦場である。
レコンキスタが総力を挙げて 王党派を抹殺しようと戦力を投入しているのだ。安心など 出来よう筈も無い。せめて 護衛だけでもつけねば。
すかさず 竜騎士隊長が駆けつけ
「はっ、ウェールズ様 既に十二騎全騎が準備を終えています。」
そのやり取りを聞いていたデルフリンガーが、一言
「へ~ぇ、さすがだね。
 噂に名高いアルビオンの竜騎士は、一万八千メイルまで上がれるって事か?知らんかったぜ?」
「はぁ?」「へっ!?」
緊迫した空気に似合わない 間の抜けた声が上がった。
浮遊大陸であるアルビオンの高度は 海抜約五千メイル。戦列艦の上昇限度が おおむね八千メイル。そこから竜騎兵が飛び立ったとしても、一万メイルを越えられるのは よっぽど高度順応能力に優れた ほんの一部の騎士だけだ。
だが、このインテリジェンスソードは言った。『一万八千メイル』と。
「嬢ちゃん達だってバカじゃねぇ。反乱軍共の手の届くとこなんぞに居やしねえよ。
 それに 今夜の相棒は えらく静かに飛んでたから、まだ誰にも気付かれてねぇかもな。」
「デルフリンガー殿、貴殿の『相棒』とやらは、それ程の高みまで…?」
「いったい何者なんだ、君の『相棒』というのは!?」
呆れ顔の二人からの問いかけに
「えーっと 確か名前が『せんじゅつていさつき えふあ~るえっくすぜろぜろ』で、ぱぁそなるねえむとか言うのが『雪風』だったかな?
 実は俺っちにも よく判んねーんだよ、今度の相棒は。
 着陸の許可さえ貰えりゃ すぐに降りてくるから、自分の目で確かめてくれや。
 まぁ 見たって判らねぇだろうけどよ。」 

雪風は 舞い降りた。
漆黒の闇の中から グレーの機体が篝火の薄明かりに浮かぶ。
それは、巨大な鳥のようだった。
それは、ワイバーンのようだった。
それは、ガーゴイルのように 作られた物だった。だが その姿は生きているようにも見えた。
似たモノはあっても そのいずれにも該当しない。誰にも辿り着けない 孤高の空を飛ぶ使い魔。

若い騎士は それに微かな希望を見た。
孤立無援の自分達の元に来てくれた 未知なる物。どんな力を持つのか判らないが きっと手を貸してくれるだろう。
たった一機で戦況が変わる等と言う事はないが それでも、
『アルビオンは まだ見捨てられた訳じゃないんだ』
そう思えただけで 彼は泣きたいほどに嬉しかった。

古参の兵士は それを畏怖した。
時代が、技術が、発明が、自分達・古きものを過去の異物へと押しやる。今までにも 何度も経験してきた事だ。
あれも そんな『匂い』がする。だが それだけではない。
戦場だけでなく、日常生活 産業 社会や常識といったものまで全て、あれが存在する事で変わってしまう。そんな予感がするのだ。
『地獄に現れる救い主は、やはり悪魔なのか?』
自らの問いに、長い従軍経験も役には立たなかった。

皆の注目を一身に浴びて 雪風が停止する。コクピットが駐機位置に移動し キャノピが開くと、待ちかねたように人影が飛び出す。
通常のフライでは考えられないような速度で、一直線にウェールズ皇太子の胸に飛び込んでいく少女。
「ウェールズ様、ウェールズ様、ウェールズ様ウェールズ様ウェールズ様ウェールズ様ウェールズ様ぁぁぁ、
 ウェ うぇ うぇぁぁあああああぁ!!!」
本来ならば 王子の身の安全を守る為、近衛の兵が取り押さえるべきところだろうが、その隙さえ無かった。
ウェールズ本人も、
「アッ アンリエッタ…」泣きじゃくる彼女を抱きかかえる事しか出来ない。
まあ 無理も無い。
此処までの道中 アンリエッタはルイズから 今まで知らなかった情報を与えられ、不安を煽り続けられていたのだから。
やっとの思いで会えた想い人は 血塗れ傷だらけの鎧姿、あまりにも強く『死』を連想させた。 
抑えていた感情が爆発し、涙が涸れても彼女の嗚咽は止まらなかった。
「あ~ 殿下。
 女性の その様なあられも無い姿を何時までも衆目に晒しますのは、騎士たる者の道に反するかと。
 募る話は お部屋の方で ごゆるりと。」
隣に控えていた参謀役の老将から指摘されるまで、王子と王女は抱き合ったまま固まっていた。
「あ、ああ そうだな。」
ウェールズは 両腕でアンリエッタの背中と脚を抱え上げた。
「皆、すまないが暫く下がらせてもらう。
 さぁ アンリエッタ。」
「はい。ウェールズ様。」
去っていくカップルを見たデルフ曰く、
「へぇ~。初めて見たぜ、
 する方もされる方も正真正銘モノホンの、『お姫様ダッコ』ってヤツを!」

この場の主役たる二人が去り、注目は再び雪風に集まる。
ルイズは 先ほどまでの騒動の間に機体を降りていた。そこに歩み寄ってきた老人。武将タイプではないが、その落ち着きぶりから 只者ではなさそうだ。
「主が座を離れましたので、なり代わりまして御礼を申し上げます。ミス…」
「ヴァリエール。
 どうか、ルイズとお呼び下さい。」
「おぉ、あのヴァリエール家の!
 私は、ウェールズ殿下の侍従を勤めております パリーでございます。
 ミス・ルイズ、遠路はるばる、よくぞおいで下さいました。
 アンリエッタ妃殿下による激励、城内の一同 とりわけウェールズ様にとって この上ない力添えとなりましょう。
 これで 我等一同、心置き無く・・・」
涙ながらに語る侍従長を ルイズが遮る。
「いいえ。ダメです。死んではなりません。生き延びて下さい。」
意外な言葉に 驚くパリー。そして 感謝の気持ちで胸が一杯になる。
「ルイズ様、貴女は優しい方でございますな。ですが、その御気持ちだけで十分です。
 無論 我々とて、易々と負ける積りはございません。必ずや 一矢報いんと誓っっております。
 だが、あの大軍勢にそれを為すには この命 捨てる覚悟が必要。
 この城に残りし兵の心、一つと成りて敵を討ちます。」
「勘違いなさっているようですが、私は優しくなんてありません。
 自分勝手で 利己的で、我儘な女です。」
「…どういう 事ですかな?」

「レコンキスタがハルキゲニア統一を旗印にしている以上、内戦終結後 他国への侵略戦争を始めるは必定。その第一目標がトリステインである事は明らか。
 されど、我が国は既に彼等の策に嵌っており このままではゲルマニアの盾として使い捨てられるのみ。
 ならば この内戦を終わらせるわけには行きません。ゲルマニアがトリステインを盾とするなら、トリステインはアルビオン王党派を盾とする。
 皆様には、死ぬより辛い戦場を 腕がもげようとも 血が涸れ果てるとも戦い続けて頂きたい。
 そんな非道をお願いしているのです。」
ルイズは、思いのたけを一気に吐き出した。
『これ以上 先は無い』と 死を覚悟した者に、死ぬ事すら許さない。絶望の中の 唯一の道すら強引に捻じ曲げる、なんという我儘か。
だが、パリーは
「それは、『我儘』ではありませんよ。
 貴女は自分の為に それを為そうとは思っておられません。
 そして、国の為 民の為に、他国と民を犠牲にして良いのか?それを思い悩んでおられる。
 事の是非など 私ごときには判りません。ただ そのような決断は、本来 王家の者が それも大人が下すべき事。
 ルイズ様のような御子様(ギロリ)…いや失礼、少女の肩に課せられるには 余りに重過ぎるもの。
 …
 全く、その御歳にして まことの貴族たる物の見方・考え方。
 貴女様の爪の垢を煎じて、レコンキスタの裏切り者共に飲ませてやりたいものですな。」
「パリー殿!」
「ですが 『盾』としての御役目も 間も無く果たせなくなりましょう。
 近日中に 逆賊共は総攻撃に出るでしょう。それを持ち堪える事は…」
諦念。戦う意志は未だ折れぬとも、目前の『死』を跳ね飛ばす程の力は 既に無かった。
ルイズは 自らの言葉に想いを乗せて 力強く宣言した。
「無理は承知です。それでも 生き延びてください!
 あと少し ほんの数日でも現王家が存続していれば、トリステインは援軍を派遣します。いえ させてみせます!!」
「なんですと?!」

「この城までの道中、私は姫様に戦の状況を説明し 敢えて不安を煽り立てるように仕向けました。
 ウェールズ様と再会され、不安は頂点に達したでしょう。
 お二人が今 何を話されているか、それは判りませんが、間も無く別れの刻が参ります。
 そして アンリエッタ様は、死を覚悟したウェールズ様をただ黙って送り出せる程 大人の女性ではありません。
 帰国すれば直に アルビオン派兵を唱えるでしょう。
 私情をもって軍を動かすなぞ、王族としてやっては為らぬ事。王宮会議はこれを一蹴するでしょうが、今回に限り 我が父ヴァリエール公爵は 姫に賛同、また 搦め手からの工作も進めております。
 期日は明言できませんが 派兵があることは、この一命に賭けて。なんとなれば 私と、この雪風のみでも馳せ参じる覚悟でございます。」
少女の語る内容に、さしもの老侍従長も唖然とするしかなかった。
「ですから、お願いします。どんな手を使ってでも 生き延びてください。
 特に ウェールズ殿下。
 おそらく、死を覚悟しての『決死の攻撃』等と言って敵に突っ込んでいかれるでしょうが、そんな時は 玉座に縛り付けてでも止めてください。
 王家が倒されてから 私達の派遣艦隊が到着しても、今度は『トリステインはアルビオンを侵略しようとしている』という事になりかねません。」
「ミス・ヴァリエール いやヴァリエール殿、貴女は一体…」
「私は、トリステイン魔法学院に学ぶ 女生徒です。
 魔法実技が全然ダメで、『ゼロ』なんて二つ名を付けられた 劣等生です。
 魔法が全然使えなくて、使えないのが悔しくて、使えないから頑張って、使えないから…
 せめて 手にした使い魔 『雪風』の力を、国の為 民の為に使おうと思う…唯の『貴族』です。」

その後、ルイズは 侍従長との話を聞いていた騎士達に囲まれ、握手を求められたり 雪風についての質問を受けたりしていた。
「先ほどの話は、私達がここを出発するまで、姫様にもウェールズ様にも内緒にしてくださいね。」
そう言いながら、相手の一人一人の顔を しっかりと記憶に焼き付けよう。ルイズは そう思った。
(派遣部隊が到着するまで、この中の何人が生き残れるんだろう。)
それなりに楽しいひと時ではあったが、ルイズの中に 確実に重いモノが堆積していった。
数時間ほどして、王子様と姫様が前庭に戻った。
妙につやつや・すっきりした顔のウェールズと、何故か足取りのぎこちないアンリエッタ。
彼女のドレスは 雪風から降りた時よりも、かなり着崩れている。と言うよりも、一旦ドレスを脱いで 苦手な着付けを自分一人やったのだろう。
鎧姿の王子も、全ての装甲を締め直してあるようだ。
二人きりの間に 何があったのか? この場の人間全員にバレバレであった。
(姫様、おめでとうございます。)
アンリエッタは身持ちが堅かったはず。乙女の一番大事なモノを、一番好きな方に捧げた。ひょっとして、今回の目的は 実はこれだったのかもしれない。
だが、後日 それだけではなかった事が判明する。
トリステイン王家には 確実に世継ぎを設ける為に、オギノ式に似た秘伝があり、アンリエッタは『当たり』の日であることを確認した上で、アルビオン行きの日程を計画していた。
「上手く行ったら 今度はゲルマニアに飛んでもらって、『はずれ』の日に皇帝陛下とヤれば、バレないでしょ?」
とは、ルイズが姫様から直接聞いた話。
いや 実に女性というのは逞しいものです。

雪風は離陸、帰路に就いた。
アンリエッタは後ろを振り返り 遠ざかるアルビオンをいつまでも見つめていた。その頭の中は ウェールズの事で一杯だろう。
彼女の想い人は 王族として最後まで戦う事を選んだ。それ以外の生き方は 選択肢自体が存在しないかのようだった。
同じ王族である彼女にも、理性ではその考えが理解できた。だが 感情としては絶対に認められなかった。認めたくなかった。
ウェールズを救う事ができるかもしれない 唯一の方法。それは 共に戦う事。すなわち、『アルビオン派兵』。
だが それは、たった一人の命の為に 幾千幾万の屍の山を築く道。王族として 人として、決して選んではならぬ道。
思い悩むアンリエッタの心中を、ルイズは手に取るように把握していた。
「姫様、これをご覧下さい。」
「!」
モニタに映し出された画像を見て アンリエッタは声にならない悲鳴を上げた。
そこには地獄絵図が広がっていたからだ。

何人もの女性が 道端のいたるところで、屈強な男達に組み敷かれていた。幼子もいれば 老婆に近い女性までいた。男達は 皆 兵士のようだ。
女の衣服は 無残に切り裂かれているか そうでなければ一糸も纏っていないか どちらかだった。兵士は 唯只管に女を犯していた。
悲鳴、嗚咽、苦痛の叫び、断末魔。飽きられ 捨てられるまで それは終わらない。

平民の男達が吊るされていた。兵士達が それを慰みモノにする。
死なない程度に斬り付け もがく様をみて笑う。投げナイフの的にする、何本目で死ぬか 賭けが始まる。殺す、殺す、殺す。
戦場だけでは飽き足らないとばかりに 村に 街道に 畑に 至る所に『死』が溢れ出す。

「全て 実際にレコンキスタの占領地にて起きたことです。
 戦で死ぬのは 軍人だけではありません。
 ヤツ共が アルビオンからトリステインの国土に足を踏み入れようものなら、その地で 同じ惨状が繰り返されるのは明らか。
 悪鬼の群れを アルビオンに封じているのは、ウェールズ様唯御一方のみ。もし ウェールズ様がお亡くなりになれば、トリステインの民が蹂躙される事に…」

詭弁である。
アンリエッタに
「軍を派遣し ウェールズ様を助けるのは、例え私心からのものであっても 結局はそれが民の為となる」
という免罪符を示して 思考を誘導している。
これが 『おともだち』のすることだろうか? ルイズは 自分が黒く染まっていくのを感じていた。

眼を閉じて深く考え込むアンリエッタ。しばしの沈黙の後 大きく見開かれたその瞳には 強烈な決意が宿っていた。
「ルイズ、私は決めました。
 一刻の猶予も許されません。全力でトリステインに帰還してください。
 城に戻ったら すぐに宮中会議を招集し、アルビオンへの派兵します。
 私自らが先頭に立ち、ウェールズ様と共に レコンキスタを討ちます!」
誘導は成功した。だが、
「姫様、よくぞ決心なさいました。
 でも その想いだけで、宮中の重臣達を説得できると思われますか?
 今夜 見たもの、知りえた事は、この動乱の一端に過ぎません。姫様は より多くの事柄を学ばねばなりません。
 そうしなければ、宮中の誰一人として 姫様の言葉に耳を貸す事はないでしょう。」
やっとの思いで決めたことに、思いもよらない相手からのダメ出し。アンリエッタはパニックに陥る。
「で、では ウェールズ様は?…私は 私は 一体どうすれば!」
「城へと戻る前に、雪風を魔法衛士隊 グリフォン隊に向かわせます。隊長のワルド子爵は、おそらくトリステインで最も深く この問題を理解しています。
 尋ねてみて下さい。レコンキスタについて、この動乱の現状と、その裏事情について、現在 我が国が採ろうとしている方策について。
 そして どうすれば派兵を実施できるかを。」
「ルイズ、どうしてそんな事を。貴方は…」
ルイズは いたずらっぽく微笑んで、
「まだ仮採用の見習い騎士ですから 王宮には報告は上がっていないと思いますが、つい先日 私 ルイズ・フランソワーズ・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、グリフォン隊に入隊致しました。
 そして、隊長である ジャン=ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵は、私の婚約者です!
 ですから 大丈夫です。皆 持てる力の全てを使って 姫様をお助けします。私も 隊長も、そしてヴァリエール家の全員が。」
その言葉は アンリエッタの中で確実に力となった。
ウェールズ達アルビオン王党派と同様、孤立無援と思っていた自分に 今 頼りになる援軍が現れたのだ。
それは 彼女のパニックを吹き飛ばした。

「それでは、今夜は大変ですね。
 明日の会議の為に この国の未来を賭けて 『一夜漬け』をしなければならないのですから!」
アンリエッタが見出した ほんの小さな希望。
それは はたしてトリステインの希望となるのだろうか?

           続く

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