あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

お前の使い魔 27話


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 夕日が落ち、薄暗くなっていく世界を見ていた。
 そんな世界を見ていると、どうしようもなく悲しくなってしまう。
 寂しくなって、遠くから見ていた世界に近づいてみる。
 いくつかの小さな明かり灯った家を覗き込むと、家の中には楽しそうに話をする人々がいた。
 大きな体躯に牛の頭を持つ獣人はお父さんだろうか?
 頭に鳥の髪飾りを付け、ふんわりと笑う女性はお母さんだろうか?
 背中に羽を生やし、楽しそうに笑う少年と少女は息子と娘だろうか?
 あんまり幸せそうだから、仲間に入れてもらおうと入口のドアに手をかける。
 すると、背中を誰かが引っ張った。
 振り向くと、そこには沢山の人がいて、沢山の手が伸びて、沢山の呪詛の言葉が溢れてた。
 あまりの恐さに、大きな悲鳴を上げてへたり込む。
 気が付くと温かな家はなくなっていて、周りにはわたしを恨む人だけになった。
 みんな口々に責める。
 だから、必死に謝り続る。
 でも、許してはもらえなかった。
 それはそうだ。だって、それだけの事をしてしまったんだから。
 きっと、ずっと、許されない。
 きっと、ずっと、永遠に。

「だから、一緒に謝ってあげます」

 そう言ってくれたのは誰だっただろうか?
 もう、遠い記憶の海に流されて覚えていない。
 だけど、大事な人だった気がする。
 一人ぼっちだったこの手を取ってくれたのは誰だったんだろう?

 誰だったんだろう?

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 人のいない学院のカフェテラスで、空になった紅茶の入っていたカップを置き、わたしはふうと溜め息を付いて空を見上げた。

「頭にくるぐらいいい天気だわ」

 自然と口から出たそんな言葉は、誰も反応する事無く空気に溶けて消えていく。
 ここしばらくの間、デルフを持ち続けていたせいか、やけに腰のあたりが軽く妙に落ち着かない。

「これが自然なのよね」

 わたしの口から漏れた言葉は、先ほどと同じように空に溶けて消えていく。
 あの日、タルブ村から戻ったわたしが最初にやったことは、学院長に事情を話し、その後にデルフを返すことだった。


「では、青年の『意識』ごと彼女を?」
「はい。」

 壁画に描かれた文字とダネットの言葉を伝えた後、学院長は呟き、わたしは淡々と答えた。
 日も落ちた後だった事も手伝い、薄暗い部屋の中、学院長の表情は見えない。

「そして、破壊の剣も必要が無くなった為、私に返すと……本当にいいのかね?」
「はい。もう……必要ありませんから。じゃあねデルフ」

 無言のままのデルフに一声かけて、わたしは学院長室を後にした。


 その後、学院長より、しばらくの間授業を休むようにとの指示が出た為、わたしはあれから数日が立った今日、暇を持て余してこうしてカフェテラスで一人紅茶を楽しんでいたのだった。

「一人でお茶なんて、随分とババ臭い趣味じゃないルイズ」

 声の方を見ると、仏頂面のキュルケがこちらを見ていた。
 どうやら一人のようで、周りには誰もいない。

「あんただけなんて珍しいじゃないキュルケ」
「タバサは授業受けてるわ。あたしはサボりよ」

 キュルケはめんどくさそうに答えた後、わたしの正面の席に座り、肘を付いて手を顎にやり、じっとこちらを見つめる。
 視線を受け流しながら、わたしはぼんやりと空を見上げていた。
 痺れを切らしたのか、キュルケが口を開いた。

「ねえ、聞きたいことがあるんだけど」

 視線をキュルケに向け、無言で頷きだけを返す。

「どうしてあの時、あの石を……ダネットを――」

 危険なことも、悲しいことも、辛いことも無い毎日が過ぎていく。朝起きて夜眠る。そんな毎日が過ぎていく。何事も無い毎日が淡々と続いていく。
 全て終わったのだ。


 そう思っていた。


「はあっ……はあっ……」

 小さな弟達を連れ、山道を駆けるのは無理だったんだろうか。だけれど、あそこまで行けば安全に違いない。
 そんな事を考えながら、必死にシエスタは走っていた。
 突然だった。村に降り立ったドラゴンが火を放ち、村は一瞬にして火に包まれ、何が起きたのかもわからずにいたシエスタに、父は弟達を連れて逃げるように告げた。
 最初は南の森へと逃げようと考えたのだが、そこで先日、この村へと来た桃色の髪の貴族の少女を思い出した。
 その時にはすでに足はそちらへと向かい、今こうして山道を駆けているのだ。
 だが、山道は思ったより厳しく、なかなか先へ進めない。
 私は馬鹿だ。どうして、いけ好かないはずの貴族の事なんて思い出してしまったんだろう。こんな事なら、素直に南の森へ隠れてしまえばよかった。
 どうして一瞬でも思ってしまったんだろう。『あそこに行けば助かるかもしれない』なんて。
 そんな事を考えていると、弟の一人が運悪くこけてしまった。
 慌てて思考を切り替え、まだ小さな弟に、悲鳴のような声で呼びかける。

「立って! 早く!!」

 急いで立ち上がらせようとするシエスタの上に、突如黒い影が射した。

「え……?」

 上を向くと、そこには翼を大きく広げたドラゴンの姿。
 じっとこちらを見つめ、開けた口からはちろちろと炎が見え隠れする。

「あ……あ……」

 何も言えず、怯え、動くことも出来ないシエスタとシエスタの弟達に向け、ドラゴンは大きく口を広げ、巨大な炎を放った。


 トリステイン魔法学院にアルビオンよりの宣戦布告の報せが入ったのは翌朝のことだった。


 慌ただしい魔法学院の中で、唯一、音が何者かに喰われてしまったかのように静かな場所があった。
 それは以前、土くれのフーケと言われた盗賊が『破壊の剣』と呼ばれる宝を奪っていった宝物庫と呼ばれる部屋の前。
 そこには、二人の人影が静かに対峙していた。

「こんな場所で散歩かな?」
「……」

 言葉を発した影は、学院長と呼ばれる老人であり、その正面で無言で立ち、学院長を静かに見据えているのは世界を喰らうものの依り代でもある少女。
 少女……ルイズは目線を老人の握る物へと移し、口を開く。

「手荒な真似はしたくありません。どうか、その破壊の剣を渡してください」

 そんなルイズの言葉を聞いた学院長は、少しばかり何かを考える仕草をした後、疑問を口にした。

「この剣を手にし、どこに行き、何をしようというのかね?」

 ルイズは、学院長の問いを受けた後、胸に手を当て、固い意志のもと答える。

「ダネットを守るため、タルブへ」


 わたしの言葉を聞いた学院長は、表情を一転して険しいものに変え更に尋ねた。

「守るため……つまり、彼女をデルフ君で破壊したという報告は嘘だったということかね? なぜそのような事を?」

 学院長の言葉を聞いた瞬間、脳裏にキュルケの言葉が蘇る。

『どうしてあの時、あの石を……ダネットをそのままにしたの?』

 わたしはあの時、答えることができなかった。だって自分でもわからなかったから。
 ダネットを破壊してしまわないことは、決して世界に取っていいことなんかじゃないのはわかってる。破壊すべきなのはわかってる。
 封印である彼女に何かがあれば、封印は解け、わたしは世界を喰らってしまううかもしれない。そんな可能性があることぐらいわかってる。
 なのに、嘘をついてまで彼女をそのままにしておいた。どうしても壊せなかった。
 わたしは彼女と世界を天秤にかけ、彼女を取ったのだ。たかだか亜人の使い魔一人と、世界中の人を天秤にかけ、その上で彼女を取ったのだ。
 それがどれだけ罪深いことなのか、貴族として許されないことなのか、人として許されないことなのか、ちっぽけなわたしには見当もつかない。
 だけど、それでも。

「6000年ぶりに再会した家族を……ダネットを守りたかったから。だから嘘をつきました」

 胸につっかえていたものが消えた気がして、ようやくすっきりした。
 わたしと彼女の間にも、わたしの中の彼と彼女の間にも、血の繋がりなんて無い。
 だとしても、それでも。

「なるほど。じゃが、もしこの破壊の剣を私が渡したとして、万が一のことがあったら君はどうするつもりかね?」

 どうするか? そんなの決まってる。彼女と再会したわたしは、また教えられたじゃないか。
 自分の犯してしまった罪。どうしようもない罪。その責任を取るための第一歩。

「謝ろうと思います。彼女と一緒に。許されるまで」

 わたしの言葉を聞いた学院長は、あっけに取られた表情で口を開いた後、険しかった表情を変え、耐えられなかったかのように笑った。

「ほっほっほ! そうか、なるほど、謝るか。確かに、謝らんことには始まらんからの」

 そう言って一頻り笑った後、学院長は手に持っていた破壊の剣を、デルフをわたしに手渡した。

「いいのですか?」
「構わんよ。第一、それを渡さんかったとしても、君はその身一つでタルブへと向かうじゃろ。ならば、自衛のためにもその剣を持たせとる方が安心じゃわい」

 デルフを渡した学院長は、宝物庫を後にしようとしたところで立ち止まり言った。

「ヴァリエール君。もし、君に万が一のことがあれば、私も一緒に謝ろう。じゃから安心して行ってきたまえ」

 そう言って今度こそ本当に去っていった。
 わたしは、見えなくなった学院長の背にぺこりと頭を下げると、手元のデルフに話しかけた。

「おまたせ」
「全くだ。ほんじゃやっか」

 デルフはわたしの考えを読んだのか、そんな言葉を返した。その軽い口調に微笑んだ後、わたしはデルフを胸の前に持ち、呼びかける。
 かつて、世界を喰らった彼と共にあった一振りの剣。この剣の力は、敵を討つためだけの力だけじゃない。その力は、世界のあらゆる場所を駆ける力でもある。
 だから呼びかける。デルフの中に封印された、わたしのもう一つの相棒を。
 わたしの使い魔を、家族を、ダネットを守るため、世界を救うための6000年間の封印を解く。

「来なさい!!」

 わたしの呼び掛けに応えるように、デルフから禍々しい黒い炎が巻き起こる。
 黒い炎は、喜ぶように、怒り狂うかのように、悲しむように立ち上った後、わたしの手元に集約する。

「……ふぅ」

 一息ついたわたしの手には、錆びた刀身から光り輝く刀身へと姿を変えたデルフと、今も黒い炎をたぎらせる黒い剣が握られていた。

「あー、よかった。もしかしたら俺様、封印が解けるのと同時に消えちまうかと思った」
「なによ、消されたかったの?」
「そういう訳じゃねえよ!」

 わたしの冗談に慌てた口調で返したデルフの言葉を笑顔を返した後、宝物庫を後にしたわたしは大空を見上げる。
 魔法が使えず、悔しい思いで見上げていた空は、今日もわたしを見下ろしていた。
 わたしを見下ろせるのも今日までよ。そんな事を考えた後、タルブの方角を確認し、集中する。
 わたしの中の『記憶』と、黒い剣と共に封印されていた『経験』のある今、やり方なんて手にとるようにわかる。

「行くわよデルフ!」
「おう! 俺様を落っことすんじゃねえぞ!」

 待ってなさいダネット。今度はわたしがあんたを救う番なんだから。
 ふわりとした一瞬の浮遊感の後、風竜すら凌ぐ速度でわたしの身体は空へ吸い込まれていった。


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