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五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔-10



  第10夜
  おでれーた


 フーケが『銀の竪琴』を盗み出した二日後、つまりワイバーンが討伐された翌日、虚無の曜日に、朝からルイズとマルモはトリスタニアに来ていた。
 今回は、クリオも一緒である。
 学院内ではルイズの部屋で待機するのが常であるが、マルモが、
「クリオにも外の世界を経験させたい」
 とのことで、ルイズを説得した。
 ルイズは、
「それは駄目よ。学院の中でも混乱させないように部屋の中にいるのに、王都に連れていくなんて……」
 と初め断ったが、
「クリオを閉じ込めたくない」
 とマルモが強く出たので、渋々ルイズは了承した。ルイズも、クリオを部屋に軟禁しておいたのには罪悪感を感じていた。
 ただし条件として、クリオは網に包まれ、マルモに抱かれる形となった。
「これなら、今日の人ごみの中でも大丈夫でしょう」
 虚無の曜日に大抵の公務は休みとなる。それはトリステイン魔法学院も例外ではなく、従って生徒も授業から解放され、思い思いに過ごすのが通例である。
 ルイズも例に漏れず、連日の疲れを吹き飛ばすかのようにはしゃいで、マルモにトリスタニアを案内していた。
「ここがブルドンネ街。トリステインで一番大きな通りよ。この先にトリステインの宮殿があるわ」
 大通りには様々な人がひしめき、活気に溢れた様相を呈している。
「らっしゃいらっしゃい! 新しい布が入荷されたよ!」
「ここから先にゃあウチより安い店なんてありませんぜ!」
「この店は魔法衛士隊の人にもご贔屓にしてもらっておりまして……」
「てめえ、この値はぼりすぎだ!」
「そこのお嬢さん、ゲルマニア製の指輪などはいかがでしょう?」
 店の主人の大声やら露天商の宣伝やら客の怒声やらがが飛び交い、鄙びた所からやって来た者はまずこの声に驚くという。これがブルドンネ街の日常であり、晴天であれば、必ずこのような騒がしい様子が見られる。
 マルモはこんなにも人で混雑した所は初めてだったので、珍しく困惑してしまった。
 ルイズは、そんなマルモを見て楽しげである。
「驚いた?」
 マルモが頷くとルイズは満足そうに笑う。昨日魔法衛士隊の本部を目指したときは大通りを避けていたので見られなかったのだ。
「もっと進むと寺院や酒場もあるけど、今日はどうでもいいわね」
 トリスタニアを観光するにあたって、マルモはルイズに「武器屋と道具屋に立ち寄りたい」と言っていたのだ。
 その訳は、ミョズニトニルンの能力を発揮するためにある。武器屋や道具屋に、何か役立ちそうな魔道具があれば、修行に役立てようという魂胆だった。
 また、マルモは自身でマジックアイテムを作ることも考えていた。そのためにも、見本となる物が必要なのだ。
 ただし、マジックアイテムを主に売っている店となると、平民の多いブルドンネ街にはない。
本筋から離れすぎず、かといって人も大通り程多くない、そんな場所に立っていることが多かった。
 もっとも、非合法的なアイテムを売る怪しい店ならば、裏通りのチクトンネ街などの所にもある。
「とりあえず今は店の場所だけ確認して、そこは後に行きましょ」
 ルイズは貴重な休日を武器や魔道具の購入に終わらせる気はない。ルイズの目的は、あくまでマルモと一緒に過ごすことである。
 資金も、前から貯めてきた仕送りに加えてオスマンからの報奨でそれなりにあり、飲食や衣服に金をかけても充分余る。
 その後、昼食まで二人は仕立て屋を回った。
「ほら、これなんてどう?」
「こっちの赤いやつも……」
「やっぱりマルモは白よね!」
「慎ましさの中の色気が……」
 ルイズはマルモを着せ替えて思いっ切り遊んでいた。
 魔法の領域ではルイズはマルモに適わないが、貴族の娘として服飾には一長ある。センスが良いわけでは決してないが。
「次はこれ……」
 結局、マルモはなされるがままとなり、二人が店を出たのは、入ってから二時間ぐらい後である。
 その後二人はぶらぶらと歩くことにした。
「そういえば……」
 道を歩きながら、ルイズは九日後に学院で開催される『フリッグの舞踏会』のことをふと思い出した。
 『フリッグの舞踏会』は、毎年春のウルの月(五月)の第一ユルの曜日(虚無の曜日の翌日)に開かれ、一緒に踊った男女は結ばれるという言い伝えが残されている、伝統ある舞踏会なのである。
 ここで勝負にでる者も多く、その後の人間関係が決まる場合もある、生徒にとっての一大イベントなのだ。
 ルイズは自分がマルモと踊る姿を想像してみる。
 マルモのドレスはどんな物がいいだろう。やはり、普段と似たような胸開け袖なしで、色は雪白でいくべきか。いやいや、あえて黒を基調として肌の白さとの対比もいい。上胸を強調する形で、鎖骨を下ると胸の谷間が……。
 踊るときはマルモから誘ってほしいけど、やっぱりわたしがダンスを教えなきゃ……。
 ふとした拍子に二人の足がもつれるんだけど、マルモがちゃんと支えてて、そのまま顔が……。
「やん、駄目よマルモぉ。皆の前でそんな……」
 往来で急に嬌声を上げたルイズに、通行人が一斉に振り向く。特に男が。
 見ると、美少女が、もう一人の美少女の隣で顔を赤らめながら身をよじらせている。
 己の言動と周りの視線に気付いたルイズは、ますます顔を真っ赤にさせながらマルモを連れて激走し、その場から消え去った。その間は五秒にも満たない。
 残った人々は、
「現実にあんなことが……」
「あれって魔法学院の制服じゃ……」
「都会って怖い……」
「ハァハァハァハァ……」
 などと口々にした。
 数ヵ月後、『百合色の学院生活』なる小説が出版されるも、諸々の事情で発売後すぐ発禁処分となり、蔵書家やその筋の者が買い求めたという。その最高額は、新金貨で四十エキューもしたそうな。
 さて、当のルイズはというと、食事が主体の酒場でテーブルに突っ伏していた。向かいにはマルモとクリオが坐っている。
「もうやだやだもうでたくないなんでこんなことになったのどちくしょう」
 料理が来るまでの間、ルイズはぶつぶつと呪詛を呟くことに費やした。ピンクブロンドの髪が机椅子にかかっているので、遠目からは得体の知れない恐ろしい何かにしか見えない。
「ご注文いただきましたクックベリーパイでございます」
 店員の言葉にがばりと腹筋のみを使って起き上がったルイズの顔は、晴れやかであった。
 この店は、コーヒーやお茶だけでなく、料理や酒もなかなかのものなので、貴族や金のある平民が好んで通う店の一つである。
 ルイズのおすすめデートスポットだった。
「これがなきゃ人生やっていけないわ」
 何を隠そう、ルイズはクックベリーパイが好物である。特にこの店のものは、甘味と酸味がちょうどルイズの嗜好にあっていた。
 特に、焼きたてから少し間を置いた、程よい温かさのときに口に含むと、
「甘いのと酸っぱいのが溶け合っていつまでも続くような……」
 感覚が口内に広がり、それがまた、堪らない。
 マルモも一口食べてみたが、こんなに美味しい物は学院の食堂でしか食べたことがなかったので、ついつい食べ過ぎてしまう。
 テーブルを囲う二人の顔は笑顔だった。
 やがて二人は食べ終えると店を出て、マジックアイテムの専門店に向かう。
 その店は、ランプなどの日用品のみならず、『風』の宿った拡声器や『探知』の魔法がかかった警報装置など、様々なものを売っていた。注文すればガーゴイルも作るらしい。
「いらっしゃいませ」
 声をかけてきたのは初老の男性である。白髪交じりの金髪で、身なりは平民であるが、その気風は紳士であった。
「何かお探しでございましょうか」
 男はこの店の店長である。店の持ち主は貴族であるが、経営は一手に任されていた。もう隠居してもよい歳の瀬であるが、健康であるうちは、長年続けてきた仕事を辞めるつもりはない。こうした手合いはいるものだ。
「とりあえず商品を全部見たいのだけれど」
「左様で……」
 男は、陳列されているマジックアイテムを大まかに説明し、
「何かありましたらなんなりとおっしゃって下さい」
 と、カウンターに引っ込んだ。
「さあ、一つ一つ見ていくわよ、マルモ」
 その後文字通り『手当たり次第』にミョズニトニルンのルーンが反応し、商人にも引けを取らぬアイテムの知識をマルモは得た。
 結構な時間がかかったが、マジックアイテム制作の足がかりが固まったのでルイズたちは善しとする。
 なお、結局購入したのは、ルイズが選んだ『銀のロザリオ』だけだった。少しだけ身を守る効果があるらしい。
「そうね……二つちょうだい」
「かしこまりました」
 もちろん、自分用とマルモ用のものである。
「お揃いね」
 と、ルイズは笑みをこぼした。マルモもつられて笑い返す。二人の首には銀の輝きがかかっていた。
 二人は代金を払い、店主に見送られて店を出る。ルイズは午前中の疲れも忘れて、意気揚々とマルモと街中を歩いた。ルイズの手を握るマルモは、ルイズの楽しい気持ちが伝わってきて、穏やかな温かみが自分の裡に広がっていくのが感じられた。
 季節は春だった。

 四辻に出ると、ルイズはきょろきょろと辺りを見回す。
「ピエモンの秘薬屋の近くだったから、この辺のはずなんだけど……あ、あった」
 剣の形をした銅の看板を見つけたルイズは、マルモの手を引っ張って石段を上り、羽扉を開けて建物の中に入った。
 今日の目的の一つ、武器屋である。
 昼間でも薄暗い店内にはランプが灯り、立派な甲冑が飾ってあるかと思えば、雑多に剣や槍が並べられていた。
 店の奥から、パイプをくわえた店の親父が場違いな二人を睨みつけたが、ルイズの制服の五芒星に気付き慌てる。
「旦那、貴族の旦那。うちはまっとうな商売してまさあ。お上に目をつけられるようなことなんか……」
「客よ」
 ルイズはぶっきらぼうに言い放った。
「こりゃおったまげた。貴族が剣を! おったまげた!」
「いいから、さっさと武器を見せなさいよ」
 ルイズにとって平民の出入りする薄汚い店など居心地の良いものではない。店主の雰囲気も、さっきの店と比べれば劣った。おそらくマルモの用事がなければ一生縁がない所だろう。
「どのようなものをご所望で?」
「魔法がかかっているやつ」
 店主は、ルイズを大方変わり物好きの客だと思い、貴族なら大枚もはたくだろうと、手揉みしながら奥の倉庫へと入った。
 数分も経つと店主は立派な剣を持ってきた。
「これなんかいかがです?」
 宝石が散りばめられた大剣をカウンターに置き、ルイズとマルモに見せつける。刀身輝くその剣は、見るからに立派だった。
「店一番の業物でさ。こいつを鍛えたのは、かの有名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿で。魔法がかかってるから鉄だって一刀両断でさ。御覧なさい、ここにその名が……」
 店主の説明を意に介さず、すかさずマルモは手を当てる。
「どう? マルモ」
「『固定化』以外かかっていない」
「だそうよ」
「な、なに言ってやがる!!」
 顔を赤くする店主であるが、相手が貴族の娘であると思い出し、怒りを抑えた。
「他にはないの? 魔法がかかっているやつ」
 見下したような態度のルイズに店主は唇をひくひくさせながら、なんとか見返してやろうと思い立った。
「それなら……」
 と、店主はルイズとマルモの脇を抜けて、乱雑に積まれていた剣の山から一振りの剣を抜き出した。
「なによその汚い剣は」
 長さこそ先程の剣と変わらないが、錆が浮いた刀身はお世辞にも綺麗とはいえなかった。
「なんでえ他人のことを汚ねえとは!」
「きゃっ」
「黙ってろデル公!」
「…………」
 突然、低い男の声が聞こえた。それも、店主の持つ剣から。
「……それって、インテリジェンスソード?」
「そうでさ、若奥様。意思を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ。ナリこそ悪いですが、これほど珍しい剣はございませんぜ」
 店主の言葉に嘘はない。嘘はないが……。
「これっていくらなの?」
「エキュー金貨で千、新金貨で千五百といったところですかね」
 店主はデルフリンガーにそこまでの価値を見出してはいなかった。本来なら、これらの十分の一以下でも良いぐらいである。
「なんでえなんでえ、普段は邪魔者扱いしてるくせによ。さっきの剣が売れなかった仕返しか?」
「うるせえぞ、デル公」
「デルコーって名前なの? それ」
「デル公じゃねえ、デルフリンガー様だ!」
 剣の癖に随分と喋るデルフリンガーを、ルイズは胡散臭げに見た。
「他にまともな魔法がかかっている剣はないの?」
「残念ですが、こいつだけでさあ。けれども、インテリジェンスソードなんて、他の店でもお目にかかりませんぜ」
 インテリジェンス系のアイテムは殊更珍しくはないが、数が少ないのは事実である。そもそもメイジは剣を使わないので、インテリジェンスソードなんてものは滅多に作られない。
「そういうものかしら……マルモ、一応この剣も見てくれる? ……マルモ?」
「あ……ごめんなさい、ルイズ」
 マルモは、デルフリンガーをじっと見ていた。
 喋る剣。それはマルモの感覚からすればモンスターの一種である。さらにいえば『物質系』のモンスターであり、マルモのかつての仲間たちと同じ部類に入るものだ。
 だが、ここでは武器屋で売られている。モンスターが武器屋で売られているなど、マルモでさえも今まで見たこともなかった。
 もっとも、この世界では喋る剣はあくまでも剣であるらしく、だからこそ売られているのであろう。
「……おでれーた。おめえ、その額のは……使い手か、いや、でも似てやがる…………」
 デルフリンガーが、先程の調子とは打って変わって呟きだした。
「……そこの娘っ子、俺を買え」
「買う」
「毎度ありがとうございます」
「ちょ、ちょっとマルモ?!」
 勝手に話を進められたルイズは、わけがわからずに混乱した。
「なんだよ、騒がしい娘っ子だな」
「ボロ剣は黙ってなさい! 一体どうしてあんたみたいなのを買わなくちゃいけないのよ!」
「買われる俺に訊くなよ、買うと決めたのはそこの嬢ちゃんじゃねえか」
 ぐっ、とルイズは唸った。確かに正論ではあるが、マルモ相手にはルイズは強く出られない。
「……どうしてこの剣を買おうと思ったの?」
「…………」
 どうしてだろうか。
 そう自問するマルモであったが、明確に言葉では表せない。感覚的な理由だった。
 かつて仲間を拾ったときの、あの気持ち。捨てられたランプ、みなし児の岩、放置された巨大マシン。それらを見たときの、確かな感情。それと同じものが去来していた。
「うまくは、言えないけれど……」
 マルモは言葉を搾り出すように言った。
「きっと……必要だと思うから」
 論理性などない。合理的でもない。
「これは、私のわがまま」
 すべてその一言に尽きる。
「はあ…………まったく」
 どうしてくれるんだろうか、わたしの使い魔は。
 『私のわがまま』だなんて言われて、それを許す主人がいるわけないじゃない。
 もっと上手に言えないものかしらね。
「しょうがないわね」
 ここは、ご主人様として。
「買ってあげるわ」
「ルイズ……ありがとう」
「べ、別に感謝されることじゃないわ。元々今日はそのために来たんだし」
 ああ、やっぱりわたしの使い魔は可愛い。
 マルモは作り笑顔をしない。だから、時折見せる笑顔には本当に心癒される。
 これはご主人様だけの特権だ。

『銀のロザリオ』――装飾品。装備すると守備力が四上がる。装備中は性格が『ロマンチスト』になる。

 ルイズは気前よく新金貨で千五百エキュー支払い、マルモが抜き身のデルフリンガーを抱えて店を出た。
「……これは」
 デルフリンガーに触れているマルモの額のルーンが輝き、情報が頭の中に流れ込んでくる。
「どう? マルモ。この剣は使えそうなの?」
 もちろん実用ではなく、マジックアイテム作成にという意味である。
「デルフリンガー、あなた……」
「デルフでいいぜ、嬢ちゃん。……なんか感覚は違うが、懐かしい感じだなあ」
「なになに、どうしたのマルモ?」
 ルイズが心配そうにマルモの顔を覗き込む。
「デルフ、の能力がわかった」
「どういうこと? それって単なるインテリジェンスソードじゃなかったってこと?」
 コクンとマルモは頷いた。
「魔法吸収と、吸収した魔法の魔力で『使い手』を動かせること、それに……」
「……ちょっと待って、『魔法吸収』?」
「今は錆ついていてできないけれど、錆を落とせば吸収できるようになる」
「……うお! 思い出したぜ!」
 唐突にデルフリンガーが声を上げた。その声にルイズは驚く。
 ちなみに、この場にはルイズとマルモ、それに網に包まれたクリオと抱かれているデルフ以外誰もいない。
「なによ、なにを思い出したっていうのよ」
「いやあてんで忘れてたぜ」
 と、錆に包まれたデルフリンガーの刀身が強く輝きだした。
 そして光が収まると、そこには錆が跡形もなく消え去った、見事に光り輝く刀身があった。
「これが俺の本当の姿さ!」
 錆が落ちたので、マルモは柄を握って鎬を掌に乗せている。ルーンの光は一層強くなっていた。
「うっかりしてたぜ、テメエでテメエがしたこと忘れるなんてな。六千年間つまらんやつばっかだったから、テメエで身体変えてたのすっかり忘れてたわ」
「六千年?!」
 始祖ブリミルの降臨がおよそ六千年前。デルフリンガーの言葉が真実ならば、始祖との関連も考えられる。
「そういえば……『使い手』ってどういう意味なの?」
「忘れた」
 思わずルイズはずっこけた。
「こ、こ、このボロ剣……じゃなかった、駄剣がーーーー!!!!」
「言い直して叫ぶなや。しょうがねえじゃねえか、六千年もありゃ色々忘れもするさ。……もっとも、俺を持ってる嬢ちゃんの方はわかってるみてえだぜ」
 ルイズは、マルモの顔を見た。先程からずっと額のルーンが光っている。
「わかるの?」
 マルモは頷いた。
「ガンダールヴ」
「ガンダールヴ? それって……始祖の使い魔じゃない!!」
 始祖の使い魔は四体いたと伝えられ、その内名前が判明しているのは三体。
 その中でもガンダールヴの強さは特筆され、千人の軍隊を一人で壊滅させ、並みのメイジではまったく歯が立たなかったとか。
「そうか! ガンダールヴ! いやあ、懐かしいねえ……」
 叫んだかと思えば、しみじみとデルフは語りだす。
「俺も昔はガンダールヴに握られてたもんだ。もうほとんど忘れちまったが、ガンダールヴに使われてたってことは憶えてるぜ」
 剣の語りとは思えぬ語りに、ルイズは頭を悩ませていた。
「えーと、もしあんたがガンダールヴの剣だとすると……ミョズニトニルンのことはわかる?」
 ガンダールヴと並ぶ始祖の使い魔の一体、ミョズニトニルン。あらゆる魔道具を操ったとされ、『神の頭脳』と呼ばれている。
「ミョズニトニルン……ああ、そういやそんな名前が微かに残ってんなあ。けど、なんなのかは思い出せねーや」
 今度こそ、ルイズは青筋をこめかみに立てた。
「それでも伝説の使い魔の剣なの?! ひょっとしたらあんたを作ったかもしれないのに!」
 インテリジェンスアイテムは制作者の能力が高いほど強い魔力が内包される。魔法を吸収するほどのアイテムなら、
伝説級の存在にしか作られないのも道理であった。
「俺を作る……? ……あーーーー!! 思い出したぜ! ミョズニトニルン、あれの道具捌きは見事だったなあ。
……そうか、この感覚。『今』は嬢ちゃんがミョズニトニルンか」
「わかるの?」
「伊達に長生きはしてねえさ」
 マルモは、やはりこの喋る剣デルフリンガーが単なるアイテムとは思えなかった。たとえ人造物であっても、魂を持てば生物たり得る。『物質系』モンスターが『星降りの祠』でタマゴを生むように。
 だが、ルーンが反応している以上アイテムなのだろう。少なくともこの世界では。
 それならば、私の仲間だった彼らはどうなるのだろうか。皆には意思があり、魂もあった。自ら動き、私を守ってくれた。彼らは『生きていた』。
 デルフにも意思がある。魂も、おそらくある。けれども、自らは動けない。精々が錆を浮かしたりする程度だ。
 動けるか動けないか、これが境目なのだろうか。賢者であるマルモであっても、悩まざるを得なかった。
「ピー」
「うお! タマゴが鳴いた?!」
「……クリオ」
 マルモが網から解き放つと、クリオはマルモの顔に擦り寄った。
「ピーッ、ピーッ」
「慰めてくれてるの?」
「ピー」
「ふふ、ありがとう」
 顔をほころばせ、マルモはクリオを撫でる。その表情は、ちょうどルイズがマルモを撫でるときのものに似ていた。
 ちなみにルイズは、マルモを慰めるのに先を越されたのでクリオに嫉妬したが、タマゴに嫉妬するのも惨めだったので余計にダメージを食らった。
「いまどきはタマゴも動いたり鳴いたりするもんだなあ…………」
 はて、そういえば。
 ミョズニトニルンの嬢ちゃんがいるのなら、本来の相棒であるガンダールヴもどこかにいるんだろうか?
「……ま、会えるときには会えるし、会えないときには会えないもんだな」
 何せ六千年間もガンダールヴから離れていたのだ。ミョズニトニルンと出会えただけでも良かったのかもしれない。
 そう思いながらも、デルフリンガーは今どこかにいるかもしれない『相棒』に思いを馳せた。

 その『相棒』であるガンダールヴは今、宗教都市ロマリアにいた。
 金髪月目の神官、ジュリオ・チェザーレ。彼が現在のガンダールヴである。
 そしてその主は教皇聖エイジス三十三世、本名ヴィットーリオ・セレヴァレ。二十代の若さにして教皇の座を得た美青年である。
 二人は教皇の執務室で向かい合っていた。
「武器の扱いには慣れましたか?」
「慣れるもなにも、僕はガンダールヴだぜ? 嫌でも身に付くってものさ」
「それもそうですが、代物が『場違いな』ものばかりですからね」
 ロマリア宗教庁が密かに収集している、『場違いな』武器。それらは東の『聖地』より現れ、『聖地』を支配するエルフの目をかいくぐっては回収していた。
 それらは明らかにハルケギニアで作られたものではなかった。見た目こそ剣などハルケギニアでもありふれた武器ではあるが、『道具として使う』と、単なる剣や槍以上の効果を発揮する。具体的には、火炎や氷が発生したりするのだ。つまり、メイジの攻撃呪文が剣で行えるようになる。その最大威力は、スクウェアスペルにも匹敵するものもあった。
 しかも単なる攻撃だけでなく、補助的な魔法効果を発揮するものもある。対象の守備力を下げたりするなど、戦闘面でも充分有用なものもあり、さらに回復の効果をもたらすものまである。
 これらすべて、『武器』である限りガンダールヴなら扱える範疇だ。故に、連日ジュリオは『場違いな』武器を使い続けてきた。
「おかげで疲れが溜まってるよ。まったく、使い魔遣いが荒いんだから」
 小言を言いつつも、ジュリオは主人を信頼していた。自分の主人は、無駄なことはさせない性格だと。
「ところで、話は変わりますが。アルビオンの反乱があと一月くらいで終結しそうです」
「王党派の敗北でか?」
「はい」
 浮遊大陸アルビオンを支配するアルビオン王国。その王家は始祖にも連なる現存最古の家系の一つであるが、貴族らの反乱によって力を落とし、現在は『貴族派』と『王党派』による内乱が勃発している。
 だが当初から王党派は負けが続き、時と共に貴族派は着々と国内に根を広げ、ついに王党派の負けは誰の目にも明らかになった。
「なにをしろっていうんだよ」
 半ば確信しながら、ジュリオは問うた。
「アルビオンに眠る『始祖の秘宝』の確保。及びそれのための準備です」
「加えて、王家の保護もあると思っていたんだけどな」
「確かに私の『虚無』があればそれも不可能ではないでしょう。しかし、それではいらぬ混乱をロマリアにも招いてしまいます。王家の方には残念ですが」
「おいおい、王家が滅亡すれば『始祖の秘宝』も手に入れにくくなるぜ?」
「いえ、それには及びません」
「どうしてだ?」
 ジュリオは身を乗り出した。
「たとえ『秘宝』が貴族派に奪われたとしても、いつかは『土の国』の虚無の手に渡りますからね」
「……それはつまり」
「ええ、この反乱はガリアが手を引いているということです」
 ここ最近で一番の溜息を、ジュリオは吐いた。



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