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ゼロの黒魔道士-74


足音が増えるって、頼もしいって思うんだ。
心細くなったりしたときに、仲間がいるって嬉しい。
ましてや、これから悪いヤツと戦いに行くってときには、ね。
……でも、仲間、かぁ……なんか、不思議な感じもするなぁ……

「しかし、奇妙な場所だよね、ここ……」

真っ直ぐなのに曲がった道、
空に線の痕を残しながら動く星、、
真っ逆さまに昇っていく雨……

ギーシュに改めて言われるまでもないぐらい、
不思議で奇妙な場所を、ボク達は歩いていた。


「『記憶の場所』って言うそうよ。入ってきた人達の記憶を映す……」
「あー、うん。その点は、うん、もういい。理解している」
「なんだ、もう見たの?」
「聞カナイデクダサイ」

ルイズおねえちゃんの質問に、ギーシュは固い口調で答えた。
思い出したくない物を、見てしまったのかなぁ……ボクやルイズおねえちゃん、デルフみたいに……

「――楽しそうな家族の光景、実に微笑ましいと思ったけどねぇ?
 歳の離れたお兄さん達に色々可愛がられてて。特にあの無理矢理着せられたじょそ……」
「く、クジャさんっ!?秘密って言いましたよねっ!?はっきりくっきり言いましたよねぇえっ!?」

じょそ……?何だろう……
ギーシュは思い出したくないみたいだけど、すっごく気になってしまう。
……教えてくれないかなぁ、いつか……

「これは失敬――少々羨ましくなったからね」
「羨ましく?」
「……」

ふと、横を歩くクジャを見る。
……コイツと、並んで歩く日が来るなんて、想像もしなかった。
したくもなかった。
コイツが、味方……
なんかこの場所よりも、ずっと変で、奇妙で、不思議な感じがしてしまう。


「――ビビ君、ここが、僕達の知る『記憶の場所』とは違っていることは理解しているかい?」
「……違うって?」

ボクが聞き返すと、ニヤリと笑って大げさな手振りをするクジャ。
……なんか、馬鹿にされている気がするのはなんでだろう……

「ガイアの『記憶の場所』は、言わば本の最後のページから順番に読んでいくような……
 時系列とは正反対の向きに景色が移っていってたろ?」
「……うん、確かに」

『記憶の場所』。
クジャが最期に逃げ込んだ場所。
ボク達が敵同士として戦うことになった場所。
……あの時は、クジャの言うとおり、時間とは逆方向に、みんな繋がっていた。
街が壊れたところから、生まれるところへ、そしてもっともっと時代が前に進んでいって……
星や、宇宙が生まれるところまでさかのぼっていったんだっけ。

そしてその一番奥、全てが生まれる前のクリスタルの世界。
そこでボク達とクジャは戦ったんだ。
お互いの、生きる意味のために……

「ところが、今我々が歩く場所、これはまるっきりバラバラなんだ。
 複数視点的とでも言おうか。必要なところだけ斜め読みしているような感覚だね」

本をパラパラッとめくるような動作をして、クジャが言う。

「……必要……?」

言われてみれば、ボクの記憶、ルイズおねえちゃんの記憶、デルフの記憶……
それと、ワルドも、かな……
時間も見せられ方も、なんかバラバラだった。
クジャの言い方を真似するようで嫌だけど……
落した本のバラバラになったページを、元に戻していきながら読んでいるような……
でも、『必要』ってどういうことだろう?
記憶は、全部必要なんじゃないの?

「そう、きっと必要なところを――」

クジャが言いかけたところで、みんなの足が止まった。
曲がりくねった真っ直ぐな道が、目の前で突然途切れたからだ。
前も、後ろも、全部。
途切れたというより、覆い隠された?
眠っていくように透明で深い、とても深い青い光に……

「わっ!?」
「ちょ、押さないでっ!?おち、落ちるっ!?」

ギーシュがわたわたとよろける。
不安になる細い柱の上に、金属の網とガラスでできたような建物が浮かんでいる。
まるで息ができる水の中のような景色。

「またなの!?」
「今度ぁ誰の記憶でぇ?」

これは、『記憶の場所』が見せる景色。
ボクは、ここがどこだか知っている。
……そして、誰の記憶なのか予想がつく。

「――これはこれは――名場面だね」

クジャが、皮肉っぽい調子で言った。
これは、クジャの……
クジャの言う、『必要』な記憶の幻……?



ゼロの黒魔道士
~第七十四幕~ 記憶を紡ぐということ


青い壁が、チリチリと儚い光を放っている。
ガラス性の容器の中では、薄い水色の液体がコポコポと泡立っている。
全てが凍りついたように眠っている。
ここにはお日様のあったかさも、大地の温もりも無い。
そんな場所だった。

≪何度も言わせるな、クジャ。
 お前は与えられた仕事をこなせば良い≫


そう言ったのは、真っ黒な衣装を身に纏った、お爺さん。
青白く、血の気の無い顔をした人。
……確か……ガーランド、だっけ……
自分を『時の管理者』って呼んでた人。
ジタンを操って、クジャみたいにしようとした人……

≪いいや、そうはいかないね! もう一度言えよガーランド!
 僕がその子供に劣っているとでも言うのか!?≫

こう返したのは、今とそう変わらない姿の……クジャ。
でも、少しだけ髪の毛が短い。
その分、少しだけ若く見える。
その若いクジャが指差した先。
そこにいあったのは……淡い青色の布にくるまれた……
なんだろう?って思っていると、そこから柔らかそうな腕が空気をつかもうと伸びてきた。
赤ちゃん……?

≪劣る、劣らないではない……ただ、この子は『お前の代わりとなる者だ』、と言うただけだ≫

ジタンだ。そう気がついた。
これはまだジタンが赤ん坊だったときの景色だ。

≪気に食わないね……こんな何も知らない稚児に汚れ仕事を?いよいよ趣味が悪くなったかい?≫
≪己が存在意義を『汚れ仕事』と呼ぶか……相変わらず、ジェノムが意味を、否定するのだなお前は≫
≪ふんっ!僕はこいつらとは違う!より美しく!より輝いている!
 この僕の代わりがその赤ん坊?これは新手の滑稽劇かい?≫

若いクジャがイライラと地面を蹴った。
ジェノム……クジャや、ジタンの種族の名前、でいいのかな?
ボクと、ある意味同じような……作られた命……
ボク達が住んでいたガイアを、もしもテラが乗っ取ることができたなら、
ジェノム達の体に、テラの人達の魂が入れられ、新たな生活をはじめる。
そのための、器。そのための、体……

クジャの汚れ仕事っていうのは……
ガイアの人達を殺して乗っ取り易くすること……
思い出すのも嫌になるほど、酷いことばかりだ……
それを、生まれたばかりのジタンにやらせる?
……確かに、酷いことだなぁと思う。

≪この者には『可能性』が存在する≫
≪なんだって?≫
≪この者の前には道がある。この者の前には苦難が存在する。
 だがそれを乗り越えたとき、この者はより強く、より我々の力となる。
 それを我々は『可能性』と呼ぶのだ。この子は我々の『可能性』なのだよ≫

ガーランドの言葉が進むにつれ、若いクジャの顔色がどんどんと真っ赤になる。
爆発寸前のボム。いや、それよりも酷い。
でも、次のクジャのは、それとは真反対の……
凍りつきそうなくらい静かな口調でこう言ったんだ。

≪……待てよガーランド。まるで僕にはその道が存在しないみたいじゃないか≫
≪事実、お前に道は無い。我道を好み、勝手に動く者に未来は存在しない≫

お互いの言葉が、冷たくぶつかり合う。
剣と剣が交わるよりも、ずっと冷たい。

≪じゃぁ君の言うとおりにしていれば『可能性』とやらが生まれるとでも!?
 願い下げだね! お前達に従うだけの未来なんて、不仕合せしか生まない!!≫
≪……ならば出ていくなり好きにするが良い、クジャ。だがこれも予定通りだ≫

若いクジャの爆発を、ガーランドは止めなかった。
止めずに、くるりと振り返って、その部屋の奥へと向かおうとしていた。
……止めても、無駄だと知っていたから?
クジャがいなくても、ジタンがいるから?
全部は、自分の目的のため?
……なんか、クジャのことなのに……すっごく腹が立った。

≪あぁ、そうかい……ならこれも、予定通りかな!?≫

瞬間、若いクジャが布の包みを奪う。
中にいる赤ん坊が、赤ちゃんのジタンが泣き叫ぶ。

≪っ何を――≫
≪お前は、この僕に『可能性』が無いと言ったんだ!ならその『可能性』とやらを奪うまでさ!≫
≪無駄なことを、愚かな……≫

ジリジリと、後ずさり、逃げだす若いクジャ。
ガーランドは、手を出せない……というより手を出さない?
まるで……全部予想通りって思っている……?
クジャがジタンを奪うことも、クジャが逃げることも、全部……?
それら全てが……無駄だと思っていたから……?


≪さようなら!願わくば、もう会わないことを!
 もしくは貴方が用済みになったときに!ハーハハハハハハ――




 ククク……みじめですねえ……。最後に何か言うことは?≫

「あ……」

ほとんど、継ぎ目が無く景色が入れ替わる。
思わず、声がもれてしまった。
若いクジャが抱えていた赤ん坊は、大きくなって、倒れている。
……ボクもいる。この幻の中にはボクもいる。
……ジタンと、ボクと、みんな……
このとき、クジャは、望むものを手に入れていた。
力を。魂の咆哮、『トランス』の力を。
ダガーおねえちゃんのお母さんの魂や、ガイアのみんなの魂を手に入れて……
その力が、真っ赤な羽になってクジャを覆う。
このときのクジャは、たった一人で世界を滅ぼしてしまうだけの力を持っていたんだ……


≪もう一度言う……無駄だ≫

さっきまで……といっても、幻の中の話で、本当は十何年も前なんだろうけど……
クジャに『未来が無い』って言っていたガーランドが、跪いてクジャを睨みつけている。

≪……≫

クジャは、きっと期待していたんじゃないかと思う。
……あまり理解したくないけど……
もっと怖がって欲しかった、もっと泣きわめいて欲しかった。
そうすることで、自分を納得させてかったんだと思う。
そうすることで、ガーランドを見返したことになるんだから……
でも、そうならなかった。『無駄だ』とまた言われるだけ。
……幻の中の、真っ赤な羽に覆われたクジャが、
その笑顔を、冷たいまでの表情に変えた。
まるで、興味が消えたとでもいうように。
興味を失って……ただの『モノ』のように、ガーランドを蹴飛ばした。
蹴り飛ばした先は……青い光がたゆたっているだけ。

≪ぐおーーーーっ!!≫

ガーランドは落ちていく。
自分の作った、クジャの手でトドメを刺されて……その姿がどこまでも小さくなっていった。

≪お次はキミ達の番だよ……
 感謝の意をこめて苦しまないように楽に殺してあげようか……
 それとも愛をこめてじっくり苦しみを与えながら殺してあげようか……
 おお、そうだ!!こういうのはどうだい?
 僕の永遠の王国のための人柱になるってのは!
 僕の城のホールに八本の柱……
 それぞれに、キミ達が埋め込まれる……どうだい?ゾクゾクしてこないか?≫

クジャが向き直って、幻の中のボク達を見る。
もう、ダメかもしれない。
このときはそう思ったっけ……。

【お前に永遠の王国など作れぬ……】
≪その声は……ガーランド!?ふん、まだ何か言い足りないのかい?≫

もう一度、ガーランドの声。
落ちたはずの人の声がする。
低い、がらんどうな声。

【魂の器として不適合なお前をいつまでも生かしておくよう、私が作ったと思うのか?】
≪……何?どういうことだ!?≫

がらんどうの声が続ける。
それは、クジャにとって、『無駄だ』と言ったよりも、
ずっともっと、残酷な言葉だった。

【お前の魂にはリミットを設けてある……
 それも、あとわずかの時間だ……
 たとえ私が滅びようとも、お前は世界に何の影響も与えることなく消え去っていくのだ……】

青い光がチリチリと音を立てるのさえ聞こえそうなぐらい、沈黙が全てを支配した。

≪……
 フ、フフフ……

 面白い負け惜しみじゃないか、僕の魂はいずれ尽きる……そう言いたいのかい?
 ハハ……答えておくれよガーランド……どうせ僕を絶望させるためだけの冗談なんだろ?
 ……。答えろ、ガーランド!!≫

信じたくない、信じられない。きっと、クジャはそう思ったんだと思う。
クジャのこの気持ちは……認めたくないけど、痛いぐらいよく分かる。
……いつか、死ぬということ。
それが、もうすぐだっていうこと。
これを……受け入れるのは、すっごく難しいことなんだ……


【永遠ならざる時のために作られた死神……それがお前の存在理由だ】

がらんどうの声が、唸るのをやめたら、
後に残ったのは、クジャの絞るような掠れた息使いだけだった。

……このときも、今も、これを見ているボクは、どう思えば良かったんだろう?
……『いい気味だ』、とか?
……うん、そう思ったのもホントのことだと思う。
クジャは、それだけ酷いことをしたのだし、それだけ悪いヤツだったんだから。
でも……このときも、今も、まず真っ先に思ったのは『悲しい』だった。
理由なんて分からなかった。でも、ただただ悲しいって、そう思ったんだ……

≪存在……理由?……僕は……用済みだと?ク、ククク……
 そんなバカな話があってたまるか?
 やっと何者にも負けぬ力を得たと思ったらわずかの命だと?
 死ぬというのか……この僕が?
 失うというのか……この魂を?
 アハ……
     アハハハハハハ!!
 笑えよ、ジタン!!
 作られた生命、限られた生命の黒魔道士達を嘲ってきた僕が今、同じように滅びるんだぞ!?
 アハハ、これを笑わずして何を笑う!?
 ガイアに戦乱をもたらした僕が、虫ほどの価値すらない、ただの人形だと!?≫

そう、クジャも、結局は黒魔道士と一緒だったんだ。
ただ、壊すためだけに作られた、用済みになったら捨てられるだけの人形……
クジャによって作られたボクと、クジャは、同じ……
そう思うと、『いい気味だ』なんて思う前に、悲しいし、やるせない気持ちになってしまう。

≪……認めない。認めないよ……
 僕の存在を無視して世界が存在するなどと……≫

幻の中のクジャが、浮かび上がる。
その顔は、悲しいほど空っぽだった。
涙まで失ってしまったような、何も見ていない、そんな虚ろな瞳。

そうして、クジャは、おもむろに手を振って、ありったけの魔力でそこらを壊していったんだ。
悲しいまでの魔力が、涙の代わりに溢れて止まらないっていう風に。
まるで、踊るようなその動きは……
『自分はこんなにも生きているのに』って言いたそうな、そんな感じだった……


クジャの足掻きが、弾け飛ぶ幻の光の中、ボク達は戻ってくる。
元の『記憶の場所』。
曲がりくねった真っ直ぐな道、逆さまの雨が降る場所に。

「……」

ただ、黙ることしかボク達にはできなかった。
……これが、クジャにとって『必要』な記憶?
……この……悲しい記憶が?

おもむろに、クジャが、フッと笑った。
噛みしめていた唇を、袖で拭いながら。
あんな悲しい記憶を見たあとなのに、自分の悲しい過去なのに、
それがどうしたことかって、そんな力強さで、フッて笑ったんだ。

「――醜いね、何とも。自分であることを認めたくなくなるよ」


「……い、いやいやいや!?そういう問題じゃ無いでしょクジャさん!?」
「――さっきの話の続きだけどね。この光景を見ることが、僕には必要なんだろう」


ギーシュの慌てっぷりを無視して、クジャが続けた。

「……必要って、どういうこと?」
「人は――死に瀕すると、走馬灯というものを見る。
 『記憶』を見るんだ。そこから教訓を得て、死に立ち向かう術を手に入れるために」

死ぬ前に、振り返る……
なんとなく、分かる気がする。
ボクも、いよいよ動かなくなってしまうとき……みんなの顔を思い出したや。
なんかこう……色々なことがあったって、あったかい気持ちになったっけ。


「……これも、そういう意味なのだろう。
 この『記憶の場所』に再び危機が訪れようとしている。
 だから、必要なものを見せようとしているんだ、この危機を何とかすることのできる、僕達に……」

フォルサテ、あいつが、ハルケギニアを支配しようと動いている。
でも、あいつの性格だから、それどころか、『記憶の場所』ごと支配しようとしているのかもしれない。
……間違いなく、危機が訪れている。
それをどうにかできるのはここにいるボク達だけだ……

「僕は……許せなかったんだ。認められないことが。
 何にも無い、空っぽの器に見られることがたまらなく嫌だった」
「空っぽ……何も、無い……」


クジャが、灰色の空を見上げて、ぶつ切れに言葉をつないでいく。
その言葉が、ルイズおねえちゃんのどこかに引っかかったみたいだ。
ルイズおねえちゃんは、さっきから眼を真っ赤にしている。
……クジャの記憶は、そこまで悲しいものだったんだ。

「だから、抗った。少しでも認められるように、こっちを向いて欲しくて……
 今にして思えば趣味の良い抗い方では無かったかもしれないけどね……」

ここまで言って、クジャは思いっきり深呼吸したんだ。
今までの自分を、今まで思っていたことを、全て入れ替えるってみたいに。

「人はね、間違った過去を、繰り返さないようにと記憶を紡ぐんだ。
 そうやって、少しずつ、強くなれる。
 だから、これは『必要な記憶』なんだ。
 これ以上無いほどに、過ちを犯した僕という愚かなる人間にとってのね」

そんな風に、『記憶』を考えたことも無かった。
……ボク自身、何かを繰り返せるほど長く生きたことはなかったし……
でも、言われてみれば分かる。
一度間違ったことを、次は絶対にやらないようにって、思うのは当たり前のことだよね。
……ボクが、ルイズおねえちゃんを二度と泣かせたくないって思ったのと同じで……
うん、きっと、すっごく当たり前のことなんだ。

「……だから、もう繰り返させないよ!虚しさしか残らない破壊なんてね!」

クジャのこの台詞は、真っ直ぐだった。
いつもの芝居がかった回りくどい言い方じゃなくて、
それこそ魂に響くみたいに、真っ直ぐ。
……クジャ、本当に……変わった……?

「さ、昔話はもう終わり!!先へ進もう!」

と、思った矢先に、やっぱり芝居がかった動作でみんなを促す当たり、
全然変わって無いと思ってがっかりするんだけど、ね……

「……色々背負っちまってるもんだな、しかしよ」
「……うん……」

デルフの言うとおり、みんな色々背負っている。
過去の記憶も、今の仲間も、未来のハルケギニアも、全部。
その背負ったものを無駄にしちゃわないためにも、ボク達は……
行かなきゃ、いけないんだ。


 ・
 ・
 ・
「しかし広いですね、ここって……」

ギーシュがそうつぶやいたのは、金色に光るハシゴを昇っているときのことだったんだ。
段々、景色が単純になってくる。
昇れば昇るほど、次第に暗くなっていく。
『記憶の場所』は、基本的に進むほど過去にさかのぼっていく。
だから、今いる場所は……光が生まれるよりもずっと前、
『何も無い』が生まれたころまで、溯っていることになる。
つまり……

「基本一本道なんだがね……おや、でもそろそろ終点だな」

終点。ハシゴを昇りきった先。
そこは、六角形の大理石が、真っ暗闇に浮かぶ場所だった。
星の欠片すら見えないのに、ほんのり大理石が光って薄明るい。
ここは、『何も無い』がある、そんな変な場所……

「祭壇……?」

なんとなく、神聖な場所って、そんな感じもする。
だから、ルイズおねえちゃんの感想もそう間違って無いなぁと思う。

「ここは『虚空への門』と呼ばれている。
 全ての記憶が集まる場所、『クリスタル・ワールド』へと続く場所さ。
 僕がフォルサテなら――と言うより、僕自身がそうだったんだが――立て篭もるならこの向こうだね」

この、向こう。
いよいよだ。
ボクは、帽子をギュッとかぶりなおした。
倒さなきゃいけない敵が、この先にいる。

「えーと……ここからどう行けば?」
「飛ぶんだよ。こうやって、ね! さぁ、行くよ!」
「わっ!?またいきなりっ!?」

『虚空への門』のその先は、『何も無い』があるばっかり。
だから、思いきって、そこに飛び込む必要があるんだ。
クジャが、その御手本を見せてやるってばかりに、一気に飛んだ。

「ビビ、行くわよっ!」

ルイズおねえちゃん……
こんなところまで、付き合わせてしまったのに、全然迷いがない。
そのことに、すっごく安心する。
ボクは、ルイズおねえちゃんと手をつないだ。

「うんっ!」
「よっしゃ、『伝説の剣 デルフリンガー』、最終回『伝説よ永遠に』って感じだなぁ!
 いっくぜぇ~!!」

一気に、飛ぶ。
この先だ。いよいよだ。

「え、あ、わわわ……えーいこうなりゃヤケクソだぁああ!?」

……だけど、そこにあったのは、
『何も無い』、じゃない、全然別の……

また、ある『記憶』……だったんだ……


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