あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロと電流-15

 風は遍在する。
 魔力により自らの分身を作り出す風の呪文。いや、只の分身ではない、それぞれが意志と力を持ち、なおかつ術者によって制御されるのだ。
 ワルドの奥の手であり、得意とする技である。
 一つの“遍在”はトリステインに残り情報を集め、別の“遍在”はフーケと行動を共にしている。
 そして今、ルイズの目を誤魔化すためにヘリキャットを運んだのも遍在である。
 ウェールズの元へと行くと偽った遍在が、ヘリキャットと行動を共にする。その隙に、本体のワルドがウェールズを殺害する。
 誤算は、マウスカーの能力をワルドが知らなかったこと。
 ヘリキャットの能力を聞いていたからこそ、まさか同能力の機体が二つあるとは思っていなかったのだ。
 しかし、これによってワルドの計画が狂ったというわけではない。ルイズを連れて行く方法が、説得から拉致に替わるだけのこと。
どちらにしろ、説得が出来なければ拉致しかないのだ。
 マシンザボーガーに乗ったルイズがデルフリンガー片手にドアをぶち破って現れた直後には、ワルドはそれだけの思考を展開させていた。

「殿下から離れなさい! ワルド!」
「ノックを忘れるとは、君のお転婆は変わらないね、ルイズ」

 慌てず、ワルドはウェールズから離れた。

「ワル……ド、君は……」

 即死でもおかしくはない一撃である。その意味ではさすがに王族と言うべきか、ウェールズは動かなくなった身体でワルドを睨みつけている。

「失礼しました、殿下。アルビオンに関しては、直接手を汚すしかありませんでしたので」

 妙なことを、ワルドは言う。
 アルビオンに関しては、とは。

「しかし、ご安心ください。トリステイン王女も、なんでしたらガリア王もゲルマニア皇帝も、あるいはロマリアの教皇すら、
もしかするとエルフたちも、いずれは貴方の後を追うでしょう。それがどこだかは存じませんが、死後の世界とやらでお待ちください」
「なに……を」

 トリステイン王女とワルドが告げた瞬間、ウェールズの目が厳しくなった。すなわちそれは、アンリエッタ姫のことである。

「なに、貴方達には知らずとも良いことです、いや、貴方達が知らずを決め込んだのですよ。一人の女性を代償にね」
「しら……」
「そろそろ黙ってはどうです、偽善の舌でも少しは疲れるでしょう」
「ワルド!」

 再び叫んだのは、ルイズであった。

「黙るのはあんたよ!」

 マシンザボーガーから飛び降り、インコムを掴む。

「ザボーガー! 殿下を……」
「ルイズ」

 命令を途中にしたまま、ルイズの声はザボーガーへと届かない。
 背中に衝撃を受けたルイズは前のめりに倒れかけ、頭を掴まれて強引に振り向かされる。
 もぎ取られたヘルメットは部屋の隅へと投げ捨てられ、ルイズの視界に映ったのはワルドの笑み。
 ワルドの“遍在”が、ルイズからヘルメットを奪い。放り捨てたのだ。
 その瞬間ガンダールヴとしての力すら失われ、一気に重みを増したデルフリンガーはーがルイズの手から滑り落ちる。
 視界の左に見たのはワルドの右腕。それは急速に接近し。

「寝てろっ」

 加減のない平手打ちがルイズの身体を浮かせた。
 目眩すら起こす衝撃をそのままに、ルイズの身体は飛ばされる。
柔らかい身体は一回だけ床に弾み、壁へと叩きつけられた。

「……あ……う」

 声にならない呻きを堪え、ルイズはそれでも壁に身体を預け、立ち上がろうとする。
 彼女の思考は混乱していたが、揺るぎのないモノが二つ。
立ち上がり、殿下を救わねばならない。ということ。
 ワルドが裏切っていた。ということ。

「僕は寝てろと言ったのだよ」

 自分へと向かって駆け出すワルドの姿を確認しつつ、それでも身体は動かない。逃げるべきだと心の中で悲鳴が上がっても、身体が追いつかない。
 伸びた腕に抑えつけられ、肺の中の空気を全て絞り出すように壁に押しつけられる。
息すら満足に出来ない状態で、身体中の骨が軋むかと思うほどの力で抑えつけられる。
 優しかったはずの許嫁の目は狂的な光をたたえていて、圧倒的な力の差を思い知らされる。

「いいかい。そのまま寝ているんだ。次に目が覚めたとき、君はレコン・キスタに僕と一緒にいるんだ。君は、僕の傍にいればいい。いるだけでいい」

 反抗して勝てるとは思わない。このまま、気絶してしまえば楽だろう。
 ザボーガーへの命令は届かず、ガンダールヴの力も奪われ、残っているのは、鍛えたとはいえワルドには遠く及ばない腕力と、不確かな爆発呪文だけ。

 ……嫌だ。

 ルイズの中で何かが呟いている。

 ……嫌だ。

 呟きは小さく、儚い。それでも、消えずに呟いている。
ルイズの手が上がる。そこに握られる、タクトの用に細く小さな杖。
 短い呪文。
 弾け飛ぶ“遍在”の肩。
 ゼロと呼ばれるルイズの魔法は必ず失敗する。その失敗は、爆発という現象により現れる。
 今、その爆発はワルドの遍在の肩を爆破した。
 驚愕の表情と共に、かき消える遍在。

「これは、僕に逆らうということでいいのかな」

 衝撃。
 腹が破れた。とルイズが錯覚するほどの衝撃。
 空気を絞り出された喉からの悲鳴は声にならず、身体を二つ折りにしてルイズは崩れ落ちる。
 霞んだ視界に本物のワルドの掌が映り、ルイズは自分の頭が掴まれていると知る。そして今度は床に押しつけられている自分の身体。

「何故逆らう? これ以上は、僕としても女性相手の暴力行為には及びたくはないのだが」

 言葉とは逆に、ルイズへの力に容赦はない。
 それでもルイズは、杖を上げる。
 ワルドが無造作にその腕を掴み、関節を逆に曲げつつ床へとたたきつける。
 明らかな骨折の音。それに重なるルイズの悲鳴。

「いい加減にするんだ。僕には君を殺す気はないんだよ?」

 その言葉が意味するところは明白だった。
 それは決してワルドによる慈悲の言葉などではない。
 死なない限り、どんな加虐もあり得る、と告げているのだ。
 それでももがくルイズから、ワルドは敢えて離れる。

「可愛い我が侭も、度を過ぎれば魅力とはならない。しつこく逆らうのなら、次は足を砕くことにするよ」


 こともなげにそう言うと、立ち上がろうとするルイズを、興味深げに見守るワルド。
 ザボーガーのヘルメットはワルドの背後、壁際に転がっている。
今のルイズがどう動くとしても、ワルドをかいくぐってヘルメットを手にすることは不可能だ。
 頼みの綱がウェールズだとしても、彼は既に意識すら混濁して瀕死の状態である。何をすることも出来ないだろう。
 さらに、厳重な人払いをしたこの部屋に人が来るまでにはまだまだ充分な時間がある。
 いや、どちらにしろ、あとわずかの時間で全ては終わるのだ。
 だから、ワルドはルイズを足掻きを見ていた。
 ルイズをこの場から拉致するのは簡単だろう。呪文でも打撃でもいい。どちらでも使って今すぐ意識を刈り取ってやればいい。
 しかし、この場がそれで良くても後がある。どうしても必要なものではないとはいえ、ワルドはルイズの力を欲している。正確には、虚無の血筋を。
 ここでもしルイズを殺してしまっても、トリステインに伝わる虚無が新たに目覚めないという保証はないのだ。
ならば、虚無の力をルイズごと奪ってしまえばいい。
 ルイズが死なない限り、新たな虚無はトリステインには生まれない。
 トリステインに一つ。ガリアに一つ。アルビオンに一つ。ロマリアに一つ。始祖の血筋を今に残す四つの国に一つずつ。
 ガリアの虚無は国王自身。アルビオンの虚無は大方の予想がついている。そうなれば残るはロマリア一つなのだ。
ここでトリステインの虚無を不明なものとする必要など無い。
ワルドはルイズを殺さない。だからと言ってまともに生かす気もない。
 自ら歩いて従ってくれるならば、それに越したことはないというだけのことだ。
 だからこそ、抵抗の意思は徹底的に砕く。
 立ち上がらせ、再び地に叩きつける。それが何度であろうとも、おのれの無力をその身体に覚え込ませ、逆らう気力を根こそぎ奪う。

「ああ、可愛らしい僕のルイズ、どうしてそんなに逆らうんだい」

 何故自ら苦しみを求めるのか、とワルドは問う。
 倒れてしまえば楽になれる。
 目が覚めれば、新しい世界にいるだろう。
 ルイズの無力を嘲る国に、何故忠誠を誓うのか。
 自分ならば、君の力を認めよう。君の本当の力を。
 偽善と口舌と保身にのみ長けた貴族達には決して理解できぬ君の力を。

「何故?」

 ルイズは尋ねていた。

「トリステインは、貴方の生まれた国でしょう?」

 それは、ワルドが愛していた人の国でもある。

「貴方のお母様の愛していた国でしょう? 貴方が大好きだったお母様が、トリステインを裏切ることを許すと思うの!?」
「国は母を愛さなかった」  冷たい言葉。それは、これまでとは明らかに違う感情を映す言葉。
 そのトリガーは、ルイズの言葉だった。
 ルイズは知らない。
 今この瞬間、ルイズはワルドのスイッチを入れたのだと。

「貴様もか!」

 先ほどまではルイズを「君」と呼んでいたワルドの言葉遣いが変わる。

「そうか。やはり貴様も、あの女の血筋という訳か!」

 あの女?

「巫山戯るなッ! 貴様らに、僕の母の何がわかるッ!」

 激高している。いや、逆上と言っていいかも知れない。
 チャンスだ、とルイズは考える。
 斜め後ろ、さっきまで立っていた位置、デルフリンガーを取り落とした位置まで一気に下がる。
 折れた右腕が軋むように痛むが、残った左腕でデルフリンガーを拾う。

「どうするつもりかな?」

 ルイズは、叫び出したいのを堪え、ワルドを睨みつけた。
 ワルドは既に、少なくとも表面上は落ち着いて見える。激高は一瞬のことだったのか、それともあれは激高に見せかけた何かだったのか。
そう思わせるほどの豹変ぶりだ。

「左手で構えて、僕と戦えるつもりでもないだろう」

 投げつけ、気を逸らし、一気にヘルメットまで走る。あるいは、逃げる。
 それとも、あの剣にはワルドの知らないマジックアイテムとしての力がある。
 前者ならば、どうと言うことはない。ヘルメットまで行かせるつもりはないし、逃げるとしても閉められている窓も破壊されたドアも自分のいる側だ。
 後者だとしても、呪文をまともに使えないルイズに使いこなせるマジックアイテムなど高が知れている。

「許さない」

 ルイズはこの場に座りこんで意識を手放したくなる欲求とも闘っていた。
 絶対に許せない。
 姫を裏切ったこと。
 ウェールズ様をその手にかけたこと。

「貴様に許しを請うつもりはない。そして貴様に許しを請われる気ももう無くなった」

 ワルドは一歩進む。

「許しを請う舌すら、貴様に残す気はない。だが命は救ってやろう。命だけを」
「遠慮、するわ」

 不思議とゆっくり、ルイズの左手が上がる。ワルドはただ、その動きを注意していた。
投げられるデルフリンガー。
 ワルドは嘲笑を隠そうともせず、そして剣を避けようともせず。痛恨のミスを悔やむようなルイズの顔を見ていた。
それでもルイズは、投げると同時にワルドに背を向けて走り出した。

「ははっ、ルイズ。みっともないなぁ。名門の娘が、ヴァリエールの娘が、あの女の娘が、ずいぶんとみっともないじゃないかぁ!」

 歓喜の雄叫びすら上げかねない気色で、ワルドはゆっくりとルイズを追う。
 しかしワルドは、このとき気付くべきだったのだ。
 ルイズの投擲が正確だったことに。
 宙に放られたのではなく、床を滑った軌跡の先に。

「ザボーガー! ぶち当てちまえっ!!」

 ルイズではない。ましてや、ウェールズですら。
 その叫びに気付いたワルドが振り向いた瞬間、マシンザボーガーが正面に迫っていた。
 重量と速度を保った衝撃に、ワルドはもんどり打って床に叩き付けられる。

「電人ザボーガー! GO!」

 それでも咄嗟に起きあがったワルドの前には、ルイズを背後に庇って立ち上がったザボーガーの勇姿。
 そしてワルドは見る。
 壁に転がるヘルメットと、その横に辿り着いたインテリジェンスソード・デルフリンガーの姿。

「嬢ちゃんを守れよっ! ブーメランカッター!」

 呪文詠唱が間に合わない、と見て取ったワルドは咄嗟に杖で身もまもる。
 何十にも固定化のかけられた杖は辛うじてブーメランカッターの軌跡を逸らすが、カッターは左右一対のものだ。
 あえて時間差で投じられた二つ目のカッターが、ワルドの左腕を切断する。
 苦悶の声を抑え、ワルドは叫んだ。

「馬鹿な、ザボーガーはルイズの命令で動くんじゃなかったのか!」
「なーに、俺は特別でね」
 ガンダールヴの大剣としてのデルフリンガーだからこそ、である。

「さて、嬢ちゃんにここまでやっておいて、逃げられるとは思ってねえよな?」
「いいや。思っているさ」

 衝撃。今度は人体ではない、城全体への衝撃である。
 衝撃が終わるに合わせたように、殆ど同時に駆け込んでくる二人の伝令官。

「殿下! 王が何者かに……」
「レコン・キスタの奇襲……」

 駆け込んできた二人の言葉が途中で消える。
 ルイズの目も自然そちらへと向いた。

「チェーンパンチ!」

 デルフリンガーの追撃命令も虚しく、その瞬間にワルドは窓を破り身を投げる。
 飛び去っていく姿に目を向けるルイズは、すぐに伝令に呼びかけた。

「水のメイジを! 殿下が暗殺者の刃を受けました!」

 確実に増えていく砲撃の音。駆け込んでくる水メイジ。
ルイズはその様子を見ながら、意識を手放しかけては立て直す。ここで気絶しては、確実に足手まといとなる。
避難するとしても、自分の足でなければならない。
 なんとかヘルメットを被ると、ガンタールヴの力でかなり意識がはっきりとしてきた。
 駆けつけたウェールズの侍従に呼ばれると、小さな箱を手渡される。左手だけで受け取れる程度の大きさだ。

「レコン・キスタにむざと渡すよりも、貴方に預けたいとの殿下のお言葉です」
「これは?」
「風のルビー、そして始祖のオルゴール。わがアルビオンに伝わる秘宝です」

 時間がないのだ。
 ルイズは頷いた。

「必ずトリステインに持ち帰り、アンリエッタ姫にお渡しします」
「ならば、お急ぎください。イーグル号が緊急出航します」

 砲撃音はますます苛烈を増していた。
 さらに、耳を澄ませば軍馬と刃の音、悲鳴と怒号すら聞こえてくる。
 今からですら、港へ間に合うかどうか。
「こちらへ」

 侍従が部屋を出た瞬間、これまでで最も近い砲撃音。思わず顔を伏せたルイズが次に顔を上げたとき、侍従のいたはずの場所は瓦礫で埋もれていた。

「船は出させろ! 残った連中を追え!」

 そして扉の向こうから聞こえる声に、ルイズは吹っ切れたように笑うと、デルフリンガーを左手に構えた。

「デルフ、私たちも行きましょうか」
「ああ、最後まで使ってくれるのかい、嬉しいねえ」
「ザボーガーも一緒よ」
「なあ嬢ちゃん」
「なに?」
「あんた、立派な貴族だよ。誰がなんて言ったって、この俺が認めてやる。俺が認めるんだ、ブリミルのお墨付きだぜ?」

 ルイズはまた笑った。

「お墨付きなんて要らないわ。貴方が認めてくれたんなら」
「俺で良いのか?」
「誰か一人、そして自分。それだけに認めてもらえば、私は貴族でいられるから」
「こりゃおでれーた。あと、ありがとよ」
「何で貴方がお礼言うのよ」
「一本とか一振りじゃなくて一人なんて言われたのは、覚えてる限り初めてだ」
「ロクな使い手がいなかったのね」

 デルフが笑う。
 老侍従は無言で最敬礼していた。

「さあ、行くわよ、ザボーガー」

 一人と一振りと一台は、笑いながら一歩を踏み出し……
 つまずく。

「貴方がぐだぐだしてなければもっと早くついたのよ」
「僕がいなきゃ、ヴェルダンデだっていなかったんだよ?」
「間に合った」
「お願いだから、こんな所でケンカしないで。戦場よ? 戦場なのよ。ここ」
「えっと……」

 四つんばいになって振り向いたルイズが見たのは、床を突き破って現れた巨大モグラと知り合い四人。
 何故か言い争っているキュルケとギーシュ。誇らしげに立っているタバサ。おろおろしているモンモランシーだった。



新着情報

取得中です。