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ゼロの黒魔道士 幕間劇-08


未だ小さなルイズは、走った。
走った。走った。

「僕の小さなルイズちゃぁ~ん♪破壊の力を見せておくれよぅ~!」
「ハァ、ハァ、ハァ」

必要なものは距離、あるいは時間、あるいは味方。
未だ小さなルイズには、足りない物が多すぎて、
彼女は走った。走った。走った。

「何をとまどっているんだい?
 君の望みを叶えなよ!」
「私はッ……」
「力が欲しかったんだろ?
 その力を見せつけたかったんだろう?」

逃れようとするたびに、風の手が伸びてくる。
首へ、手へ、足へ、小さいその背中へ。
かつての憧れが、真っ黒けの悪夢に塗りつぶされて襲ってくる。
彼女は走った。走った。走った。

「私は、そんなつもりは……」

踏みしめる石畳は幻の中、トリステイン魔法学院のもの。
少しばかり小奇麗なのはワルドが通っていた頃のものだからだろうか。

廊下の突き当たりを右。
それが罠。
増改築による細かな差異に引っかかる。
教室へ繋がる近道は、かつては袋小路のどん詰まり。

「馬鹿にされ続けて、メーソメソ泣いて暮らしててさぁ!」
「私は……」

逃げられない。
ならば、対峙するのみ。
必要なのは覚悟。彼女が唯一持つ、足りる物。

景色は過去、問いかけられるは現在。
未だに小さいルイズは、壁を背にし、かつての憧れであった者に向き直った。
すなわち、未来に。



ゼロの黒魔道士
~幕間劇ノ八~ 一即是全、全即是一


憧れだった背中は、追いついて、追い越して見れば醜悪な面をしていた。
未だ小さいルイズは、ワルドの変貌ぶりに改めて愕然となる。
理想と現実の溝、その深みに嵌り、顔が強張った。

「ほぅら、ごらんよっ!」

「きゃっ!?」

道化の姿が腕を振る。
弾けるように舞い上がる風。
それがパッチワークの布を引きちぎっていくように、ベリベリと幻の風景を吹き飛ばす。

新たな景色も、また幻。
完全な、空の上。
神々の視点。
眼下には雲が広がり、
その下にはハルケギニアの全てが、手に納まりそうな大きさで小じんまりといる。
太陽も2つの月も、数多の星々も手を伸ばせば、容易くもぎ取れてしまいそうな高み。

小さなルイズが漠然と思い描いていた『世界』というものが、その足下に、
なんと弱々しく脆そうに転がっていることか。

「今、君には全てを壊す力がある!
 君を虚仮にし続けた、ロクでもない世界を!」

囁くは悪魔の声。
くすぐられるは、人間なら誰しも持つ暴力性。
小さなルイズ自身、ずっとずっと積み上げてきた、恨みという名の導火線。

かつての彼女ならば、すぐにでも自ら火打石を打ち付けたのだろうか。
だが、今ここにいるのは、『かつて』では無く『今の』彼女。
だから、彼女は悪魔に問い返す。

「ロクでもない?」

「だってそうだろう?
 誰も君を必要としていない。
 誰も君のことなんて気にしない。
 “ゼロ”の居場所なんてどこにもない。
 そんな世界、ロクでもないだろう?」

「――誰も?」

小さなルイズは、幻惑的な神の視点から、彼女の内側へとその意識を向け直した。
すなわち、目を閉じて、思い返した。
『誰も』、を探す意識の中への小旅行だ。

馬鹿ばっかりやっているギーシュ、
自慢話ばっかりのキュルケ、
いつも無口で何考えてるか分からないタバサ、
恐ろしいおかあさまにエレオノールおねえさま、
厳しいお顔のおとうさま、
いつも優しいちいねえさま……

それと、彼女の、彼女よりもっと小さな、だけど大きな使い魔。

「だけど、僕は知っていた。
 君の持つ力を。君の本当の価値を。
 だから、ほら。僕の手をとって。
 一緒にブッ壊そうよ。こんな世界」

悪魔はまだ続ける。
過去からの声が、本能を揺さぶる甘言が彼女を取り込もうと囁き続ける。

「ワルド、私はッ――」

ルイズは、目を開けた。
一つ一つの顔が、彼女にとっての『世界』に満ちていき、彼女に力を与える。
あぁ、確かにロクでも無い。
ロクでも無いけど、なんて素晴らしい世界なんだろう!

「ルイズ……ぅぉっ!?」

「私は、いつまでも『ちっちゃいルイズ』なんかじゃない!!」

過去との決別という決意が、彼女に杖を振るわせた。
かつての憧れにも、自ら杖を振って立ち向かう。

「――夢じゃなかったのかい?
 力を持つことが。あいつらを見返すことが。
 一人ぼっちの船から降りることが」

「私は――」

小さな船で泣いていたちっちゃなルイズと、今のルイズ。
何が違うか?
虚無の力?
そんなものは大した違いではない。
一番大きな違い、それは。

「――私は、独りなんかじゃないっ!!」

迫るワルドの手、それよりも速く、呪文を紡ぐ。
この呪文は、彼女が友を助けるために、
彼女が友と見出した、その呪文。
彼女が、決して『独りじゃない』ことを証明するための、歌。

「『ディスペル』っ!!」

唱えた魔力は、流星のように一直線に飛ぶ。
そのように願ったから、そのように唱えたから、
彼女を苦しめる過去を切り裂くように、
幻の世界を貫いて真っ直ぐとワルドへと飛んでいく。

「あーぁ、君にはがっかりだよぉ、ルイズ……」

吊り上がった道化の唇が、真逆の方向へぐぃっと下げられて、
ワルドは溜息混じりにその手を引っ込めた。
壊れてしまったおもちゃなんて、もういらない。とでも言わんばかりに。

「俺様がこんな攻撃、避けれないとでも?」

ワルドの動きは、風そのもの。
捕え所も無く、ふわりと避ける。
虚無魔法の矢は、当たらずそのまま後方へ……

「――言ったでしょ?」

「ルイズおねえちゃんっ!!」

「なぁっ!?」

「ぎぇっ!?」

『ディスペル』の矢に当たったところから、
ワルドの狂った記憶の世界に綻びが生まれ、
開いた隙間の向こうには、『風の遍在』のワルドとルイズの使い魔。

「『独りなんかじゃない』、って!!」

「行くぜ相棒っっ!!」

「『ディスペル剣』っ!!」

使い魔の手には輝く剣。
剣が受け取り纏うは、ロクでもない世界を素晴らしい世界へと戻すための虚無魔法の矢。
輝きは合わさって、さらに眩いばかりの光となる。
光の欠片に当たっただけで、『遍在』のワルドは一瞬で煙と消える。
まやかしが消え、残るは真の姿のみ。
風の防護など、破邪の剣の前にはそよ風にもならない。
悪しき者を打ち滅ぼす剣は、確実のその姿を捕えた。

「ウブァァァァァァァァァァ――」



「――ァァァァァァァ!?

 なーんて、言うと思った?思っちゃった?
 はい残念~!!オルちゃん無傷ぅ!」

水の攻撃など、無意味。
蛸入道の目が一層ニタリと垂れ下がる。
降り注ぐ水飛沫、打ち付けられた平鍋の音。
いずれもトリステインを襲った大蛸にとっては、
のれんに腕押し、糠に釘といった有り様であった。

「タコの嬌声など聞きたくもない。
 黙って逝ねぃっ!!」

それでもなお、モット伯は執拗に、水流を繰り出した。
縦横無尽とも言える蛸足に対抗するべくグネグネと。
まさに『波濤』。その勢いだけは互角とも言える。

だが、

「せやからぁ~……あんたばかぁ?ちゅう話しやん?
 タコに水も打撃も効かへん――ってタコちゃうわっ!?」

べしんっと羽虫がたたき落とされるように、
エプロン姿の男が地に落つる。
蛸足は8本、2人の男は腕足を合わせて同数。
オルトロスは対多数の戦を手数では互角とし、その防御力では上回っていた。

「くっ……なるほど。ホンット、タコってわけね――」

「せやから、タコちゃうわ!?」

エプロン姿の男は、立ちあがりこそはしたものの、立ち向かわない。
オルトロスから背を向けて、
首をこきんと鳴らしながら大きな声で語りはじめた。


「――タコのさばき方。
 その1:ぬるぬるした表皮が邪魔なので、塩でもんだり、たたいておきます」

「塩ぉ?……うわしょっぱっ!?」

オルトロスのニヤケ顔が、塩辛さで引き締まる。
フライパンの後ろにでも塗りつけていたのか、あるいは水流に隠れながら撒かれていたか、
確かにオルトロスの体は気付かぬうちに塩にまみれていた。

「その2:タコの急所は目と目の間です。包丁を立てるようにしながら皮を剥ぐと良いでしょう」
「なんや。オッサン、フライパンでオルちゃんオロすつもりか?
 アホも大概にしてくれへんと、ツッコミおいつけへんわ!やめさせてもらうで!?」

鼻こそないが、フンッと小さく笑うオルトロス。
阿呆なことを抜かすわ、である。
よしんば包丁があったとしても、オルトロスの体は引き裂けまい。
この巨体を捌けるとするならば、正に屠るために作られた刃物、それこそ騎士剣ぐらいの大きさが無ければ――


「その3:あとは酢と合えてマリネ、唐揚げてフリットなどとお楽しみください。


 ……覚えたかしら、妖精さん達?」
「はいっ!もうばっちりとっ!!」
「感謝する、店長……と、ミスタ・モット……」
「んなぁっ!?」

オルトロスは垂れ下がった目を点にした。
苦労して己の粘液で弱らせて手篭めにしたはずの、自分の嫁達が立ちあがっている。
彼の好みのタイプであるちょっと気の強そうな美人達が、冷たい目でこっちを見ている。
手にはそれぞれの獲物……すなわち騎士剣を握り締めて。

「ノンノンノーン!ミ・マドモワゼルと呼んでちょうだいなっ!」
「わ、ワイの嫁達が……
 ぁあっ!?ヒゲちゃびん!?おどれ、まさかっ!?」

オルトロスは気付く。
水魔法が、本来得手とする分野。
それは水流による攻撃では無く、水による治癒であるということを。

「ハハハ、礼にはおよばんさ!
 真のジェントルメンは、レディを救うためにこそ存在するのだよっ!」

髭の男の狙いは、自分への攻撃ではなく、弱った剣士達を回復させること。
それに気付かなかったことが、オルトロスの敗因。
気付いたときにはもう遅い。

「行くぞミシェルっ!」
「はいっ!」

鎧のこすれ合う金属音が、風よりも速く近づいてくる。
それはオルトロスにとって死の音そのもの。

「ちょ、ま、え、待って、待ってまってまってまって!?」

「はぁっ!!」
「つぇぃっ!!!」

「――鍋の準備でもしようかしらね」
「手伝おうか、店長」

「ユデダコいやぁあああああ!?ってタコちゃうわぁあああああああ――」



「タコじゃなきゃ、イカ以下ね。
 青くて不味い血の!血の通って無いあんたなんてねぇ!」

吸血鬼の振るった先住魔法は、確かにレイスウォール共同墓地の一画を切り裂いた。
しかし、

「害獣が何を言ったところで――」

墓土が幾度目か持ち上がる。
腐った手が地中から生える度に、墓場キノコの胞子が空気を満たす。

「あぁ~~!!もうっ!!うっとうしいっ!!」
「同意だな、鬱陶しい」
「死人と判ってる分やりやすいですけどねぇ、数が……」

無限と言える陣容が、変わらずたった3人の戦士たちを取り囲んでいた。
毒の沼にはまったように、もがけどももがけども、抜け出せる可能性は低くなる。
質よりも量の戦。
いかな牛鬼や吸血鬼と言えども、疲労の色は隠せない。

「貴様ら程度では、我の使命を邪魔することはできんぞ」

唯一突破口があるとするならば、術者を屠る、それしかない。
すなわち、幾体もの土人形達の中から、
『ビダーシャルの血を取りこんだ偽者』の本物を見つけ出すこと――
文面にしても分かりにくいのだ。
それを見分けられるなど、首まで死人の群れに埋まった3人に分かろうものではない。

「――では、我程度ではどうだ?」

「む……」

「ビダおにいちゃんっ!!」

陣容の復旧が、やや遅れる。
エルザは、唱えた蔦の先住魔法のその向こうに、2人のエルフが対峙するのを見た。

「やはり、お前が本体か……存外、判り易かったぞ。
 冷静に見てみるものだな」

沼に陥ったならば、騒がぬこと。抗わぬこと。
そうすれば、やがて浮くことができる。
ビダーシャルは、自然の理を知るエルフとして、それを実践したまでだ。
仲間が暴れてくれている内に、自分は相手を見ることに徹した。
そして、見つけ出す。何十という自身の偽者の中から、動きの異なる術者の姿を。

「――良いのか?崇高なる我らエルフが、
 蛮人や牛鬼、あろうことか吸血鬼までと手を組んで」

「約束だからな」

「約束が、我らの理念を越えるとでも?」

ジョゼフとの約束。クジャとの約束。
所詮は蛮人との口約束。
ビダーシャルの行動を正当化するものは、たったそれだけ。
だが一方で、今の彼の行動を否定するものは?
エルフの掟?エルフの誇り?

「――エルフが、どれだけのものと言うのだ?」

蛮人、吸血鬼、牛鬼……数多の種族が息づくこの地で、
エルフが何を威張っているというのか。
ビダーシャルはハルケギニアを訪れ、
多くと触れ、多くと語り、
そして今、感じるのだ。

自分がまた、この地と繋がる命の一つに過ぎないということを。

「何っ――」

「大地よっ!」

ビダーシャルは、ごくごく短く、口語で唱えた。
非常に単純な一言。それで充分。
大地との繋がりを密にし、それを感じとれる者に、長い呪文は不要。

「我をとりま……ぐわああああぁあああああああぁぁああぁぁアアアアアアァァァァッ――」

大地は隆起し、大地は飲み込む。
偽った者を、命を擬するという愚行を犯した者を。
地より生れし者は、滅びの断末魔と共に再び土塊と塵に帰した。

「感謝する。我の偽者よ。
 高慢たる己に気付かせてくれたことに」

術者が消えることは、
操られていた死体や人形達が無限の回復力を失うことを意味する。

やがて、最後まで立っていた骸が、臭気を巻きながら牛鬼が一斧で沈黙する。

「――んー、一件落着、ですかね?」
「だな」
「疲れたぁ~……おなかすいたぁああ~!!」

レイスウォール共同墓地、死者は全て地に眠り、
立つは今と未来を生きる命ある身。

「感謝する。ヒトとして――」

ビダーシャルは、そっと感謝した。
この地に生きる命の一つとして。



「ヒトじゃなくてバケモノつったっけ、えぇ?ホメてくれてありがとよぉっ!!」

フシュルルルル、と火炎を伴った唸りが、整えられた花壇を消し炭にする。
トリステイン魔法学院の中庭は、さながら炉の中のようであった。
戦いの邪魔をされたこと、自分の武を馬鹿にされたこと、
そうしたものが、メンヌヴィルの憤りに油を注ぐ。
今や、火龍の姿となったメンヌヴィルは、吐く息一つですら必殺の炎となる凶器となっていた。

「成り下がっておるのう、ほんに……」

オールド・オスマンは辛うじて、といった風情で後ろに下がり続ける。
ヒトとしての姿を捨て、バケモノとなったメンヌヴィルを憐れみの目で見つめながら。

「進化だっつってんだろうがっ!
 力こそ全てなんだよっ!そうだろ?だろ?だろぉお!?」

轟、剛、豪と空気が震える。
メンヌヴィルの尻尾だ。
空気すら焼きつくす炎が、弧を描いて何度も何度も大地に振り下ろされる。
鈍、重い音。
オスマンがいた大地が、次々と潰されていく。

「なるほど。
 確かに無駄に力いっぱいじゃのう、お主」

オスマンはこれに対し、意外な呪文で対抗した。
土魔法の基本中の基本、『アース・ハンド』。
大地を少しばかり手の形状に隆起させる、ごくごく初歩的な技。
一度に出した数やオスマンの背丈ほどもある大きさこそは、流石に年季を感じさせるものの、
戦闘における『アース・ハンド』はせいぜいが足止め用の防護壁。

所詮は基本技なのだ。
普通、土メイジはこれを発展させ、『錬金』やゴーレムの作成へとその技量を進める。
意表をつくならいざ知らず、このような状況で『アース・ハンド』など、愚の骨頂と言えた。
あるいは、その大きさからすると、その中に逃げ込むことを想定したとでもいうのだろうか。

「爺ぃにしちゃいい動きじゃねぇかっ!」

当然、メンヌイヴィルにこれは効かない。
彼は盲者。目では無く、匂いや熱で物を見る。
一笑のもとに、覇と息を吐く。
ある土塊は灰と化し、別の土塊は血よりも紅くドロドロに溶ける。
残った土の塊の中に、オスマンの熱があることを、メンヌヴィルは確認し、
獰猛な口を、額に届かんばかりに釣り上げた。

「だがツメが甘ぇんだよっ!囮にひっかかるわけねぇだろ、えぇ!?
 古臭ぇことしやがって!これだから爺ぃはよ、えぇ!?」」

チェックメイト、なんと呆気なく、詰まらない。
せめて怯えろ、せめて感じさせろ、俺の脳味噌を湧き立たせろよと、
メンヌヴィルはそのバケモノの体を、じっくりと見せつけるように近づけていった。

「――じゃがな、暴力だけが力じゃないんじゃぞい?」

これに対し、オスマンが取った行動は、合掌。
洋の東西を問わず『祈り』を示す仕草。
パンッという小さな柏手の音。
それが、合図。
それが、メンヌヴィルの終わりの音。

「んなっ!?」

特大級の『アース・ハンド』。
家一軒を飲み干すほどの大地の塊。

「たゆまぬ積み重ねもまた、力じゃて――」

両手の形状をしたそれは、菩薩や神といった威圧感と慈悲深さを伴っていた。
分厚く重いその全容を見切る前に、メンヌヴィルはその掌に、飲み込まれていった。

「『バケモノは岩に封じられる』……古典どおりじゃろ?」


――オールド・オスマン。
  彼はそもそも、落ちこぼれとも言える人間であった。
  通常の土メイジは、『錬金』やゴーレムの生成、あるいは建築学といった、
  より華やかで必要とされる技法を学んでいくものだ。

  だが、若き日のオスマンはそれができなかった。
  彼にはそのような別種の魔法を行使するだけの才覚が無かったのだ。
  いつまでたっても、土魔法の基礎中の基礎である『アース・ハンド』しか使えない無能。
  故に、土魔法の基礎、古典ばかりを繰り返す彼を、周囲はこう呼んだ。
  『オールド(古臭い)・オスマン』と――

「へっ、こんな岩っ――」

閉じ込められたメンヌヴィルは、自分がまだ潰されていないことに、些か戸惑いつつもほくそ笑んだ。
本気であの爺、耄碌しきってやがる。閉じ込められた程度で勝ちだ、とでも?
メンヌヴィルは暗闇の中、気炎を上げた。
とっとと、この馬鹿ほどにでかい岩の塊を溶かしてあの爺を葬って……

「(なんだ?くる……し……)」

ぐらり、メンヌヴィルの意識が揺れる。
自分の炎が小さくなる。
自分の武が、折角手に入れた自分の力が、どんどん小さくなる。
慌てて取り戻そうと力を入れようとするたび、苦しさが強くなる。
なんだ、これはなんだ。
メンヌヴィルは暗闇の中、どんどん狼狽していった。

「伊達にコルベール君の話を聞かされておらんよ」

――だが、若きオスマンは、揶揄の言葉をむしろ励みとした。
  基本しかできないのなら、古臭い技しかできないのなら、
  それを極限まで極めてしまえば良いのではないか。

  古臭いとも言える根性論。
  努力と言う名の幾千、幾億の繰り返し。
  賞金稼ぎまがいの無茶な武者修行。
  それらがオスマンを磨き上げ、彼の『アース・ハンド』を強くした。

  いつの日にか、彼の呼称である『オールド・オスマン』は蔑視の言葉ではなく、
  尊敬と畏怖の言葉として響くようになる。
  すなわち、『オールド(偉大なる)・オスマン』と――

コルベールの話、とはいつぞやの一席で彼が熱心に語った『ジョウキキカン』なるものの話のこと。
閉じ込められた炎や熱気がそれほどまでに力を秘めるならば、
完全に密封してしまえば良いのでは?というオスマンの問いに、
コルベールはかぶりを振ってこう答えたのだ。
『物が燃え続けるには、条件が必要なのだ』、と。
曰く、一に燃料、二に温度、そして三に、生きる者ならば吸わねばならない空気である、と。
これらのいずれかが削られたら、炎は成り立たぬということをオスマンは聞いていた。

オスマンは、この話を元に戦を組み立てた。
必要なものは、メンヌヴィルに溶かされぬ種類の土と、それが埋まる場所の確認。
しかる後、最大の機会に、最大の『アース・ハンド』を。
積み上げてきた物を誇るからこそ、
自分の友の知識を信じるからこそできる、戦略であった。

「ちく……ちくしょぉお……」

まるで蝋燭の炎が、自分の力で蝋燭そのものを溶かし切ってしまったかのように、
メンヌヴィルはその体を、自分の力そのもので消耗し尽くし、やがて動かなくなっていった。

それは、『バケモノ』に相応しい最後であった。


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