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第拾壱話「力こそ正義」


――どうしてこうなった……。

遠いものを見る目でマチルダが天井を見上げると溜息を吐いた。

圧倒的な力で叩き伏せられた後、経絡秘孔という物を突かれ死んだように見せかけられた事は分かる。
その後、有無を言わさずに『新一』とかいうのを突かれて、身の上から何まで、今まで隠し通してきた事を洗いざらい吐かされたのもまだいい。
アルビオンを獲るため、内偵とそれなりに使える手下を集めろという無茶な注文は何とかこなした。
だからと言って、この前まで盗賊やってたような女が何の因果か王女の変装の手伝いをするハメになるなんて事は、一片も想像だにしていなかった。

聖帝様は、それなりの変装はさせていると言っていたが、フード被せるぐらいの事しかしておらず、見る者が見れば一発でバレるようなお粗末な変装だった。
聖帝号の御者をやっていた隊員の惨状を見るに、多分バレても口封じすればいいぐらいにしか思っていないんだろうなぁ、と検討を付けると頭が痛くなってくる。

下手をすれば、トリステインまで相手にしなければならない事になるので、少しは省みて欲しい。
もちろん、退かないし媚びないし省みないのが聖帝の聖帝たる所以なので、その思いが届く事は決してないのだが。

「これでよろしいですか?」
「……あ~、着替え終わった?」
だるそうな声で首を九十度曲げると、その先にはさっき調達してきたどこにでもある服を着たアンリエッタが立っていた。
自分が騒ぎの渦中になっている事が分かっていないのか、それとも分かっている上で平然としているのか分からないが、どっちにしろ大したタマだとは思う。
恋は盲目とはよく言ったものだと、心底どうでもいい事を頭に浮かべながら指でこっち来て座れと促す。
アンリエッタが椅子に座ると、どうしようかと少し考え、とりあえず簡単にできるポニーテールの形でまとめあげた。

後はと、懐から化粧道具を取り出すと、アンリエッタに軽く化粧を施す。
化粧を施している最中、胸元に目が行くと思わず唸ってしまった。

清楚な顔して、随分な暴れん坊である。
キュルケには劣るものの、あれと違って何も知らない箱入りの正真正銘お姫様でこれなのだから、世の格差という物を感じずにはいられない。
とはいえ、彼女の場合はこれ以上の物を有する妹みたいなハーフエルフをよく知っているだけに、受けた衝撃はルイズあたりよりは遥かに低い。
ちなみに、そのハーフエルフのティファニアですら二番手で、マチルダが見た中で一番大きいのは聖帝様である。(大胸筋的な意味で)
何食って、どう鍛えたらああなるんだろうかと、不思議に思ったが考えるだけ無駄なので止めた。

まぁ、無いよりはある方が使い道がある。
経験上、胸元を少し開いておくだけで、世の男の大半はそっちの方に目が釘付けになって、こっちが多少表情を変えたところであっさり見逃してしまう。
最近では、オスマンやコルベールとかがいい例だろうか。
ふと、視線を上げると、アンリエッタが目を瞑りながら微笑んでるような顔をしているのを見て、自然に額に手が行った。

「この状況を楽しんでるとは、いい度胸してるよ。……ったく」
「そう見えますか?……ふふ、確かにそうかもしれませんね。こんな脱走みたいな事をするなんて子供の頃以来ですもの」
今頃、学院や王宮は王女がかどわかされたってんで大騒ぎだろうに、当の本人はまるで自分の仕掛けたいたずらを眺める子供のような顔をしている。
世間知らずでどこかズレているという点では、ティファニアといい勝負だと思い、また、この問題に付いても考えるのを止めた。
自分一人が悩んだところでどうにかなるわけでもなし、問題になったらなったで聖帝様がどうにかしてくれるだろうという結論に達したのだ。

とりあえず仕上げを済ますと、中々の出来に思わず自画自賛をしてしまった。
自分で化粧をする機会はあっても、人にするという事は今まで無かったために、なんだか絵を描ききった画家のような気分である。
今度戻ったら化粧っ気の全く無いテファにも色々やってみようと、悪戯心と創作意欲がもりもり沸いて出てきた。
惜しむべきは披露する相手が子供ぐらいしか居ないという事だが、それでも先の楽しみが出来た事には違いない。
そんな様子とは対照的に、急にアンリエッタの顔が沈んだ物になった。

「……やはり、アルビオンの王家は滅びるしかないのでしょうか」
「当然さ。あんなやつら、出来ることならわたし自身の手で滅ぼしてやりたいぐらいよ」
アルビオンの王家と聞いて、マチルダの顔からはさっきまでの笑みが消えた。
まるで仇でも見るかのように吐き捨てた様に、さすがのアンリエッタも小首を傾げた。

「……アルビオンの王家に何か恨みがあるのですか?」
若干、言葉尻に鋭さを混ぜた風に問われて、マチルダも感情に任せて言わなくてもいい事を言い過ぎた事に気付いた。
このお姫様は、ウェールズ皇太子を助ける為にアルビオンへ向かう。
ここまでやるのだから、後は何だってやるだろう。
こういう、後先考えないで先だけ見て突っ走るタイプが一番危ないし怖いのだ。
もし、ここで本気で杖を抜いてきたら、黙ってやられるわけにはいかない以上応戦するしかない。
かといって、アンリエッタの同行をサウザーが認めている以上、サウザーにも何らかの思惑があるはずで
それをブチ壊したとなれば、もれなく『ひでぶ!』『あべし!』『たわば!』という素敵な断末魔のうちのどれかを選ぶ事になる。
経絡秘孔を突けば人を内側から破壊し、殺す事もできるとも聞いており、今まで散々な事をされただけに嘘とも思えず、指先一つで軽く突かれただけで
『貴様……、もう死んでるな』とか言われたなら、まず間違いなく正気なんて保てない。……正気を保つ時間があればの話だが。
そんな死に方だけは御免被ると悩んだ末に、結局目的地に着けば全部分かることだと思い、話すことに決めた。

「……マチルダ・オブ・サウスゴータ」
「それでは……」
捨てたはずの貴族の名を、秘孔の効果ではなく、今度は自分の意志で思い出すかのように呟く。
それだけで、アンリエッタも大方の事は理解できた。
サウスゴータと言えば、アルビオン有数の観光名所でもあり都市の名前である。
そのシティ・オブ・サウスゴータの名を持つという事は、元はシティ・オブ・サウスゴータ領を有していた貴族だという事は容易に伺える。
恨んでいるという事は、王家に家名を理不尽に奪われた、例え王家に正当な理由があったとしても、少なくとも奪われた方はそう思っているに違いない。

「うちも含めてだけど、あの辺りはジェームス一世の弟のモード大公が治めてたのさ。でも大公が投獄されてね」
モード大公が何らかの事件が原因で投獄された事なら、政治に疎いアンリエッタでもよく知っている。
プリンス・オブ・モード。
アルビオンの財務監督官で、ジェームス一世の弟。
その弟が投獄されたとなれば、いかに緘口令を敷こうが噂はすぐに広がってしまう。
だが、奇妙な事に肝心の投獄された原因についてだけははっきりしていない。
となれば、考えられるのは、アルビオン王家がモード大公を邪魔者とし一方的に排除したか、投獄の原因が余程不名誉な物だったかのどちらか。
事件を思い出しながら、拙いなりに推測すると、その心中を見透かしたかのようにマチルダが続けた。

「色々言われてるけどね。実際はモード大公が一人のエルフを妾にしたのが原因さ。
 それを知った王家は、そのエルフと娘を追放しろと言ってきたけど大公は決して聞き入れなかった。大公が投獄された後も、サウスゴータ家はその母と娘をかくまってたけど、ごらんの有様だよ」
関係者以外は知ることの出来なかった裏事情が暴露された事に、さすがのアンリエッタもこれには驚いた。
大公投獄の原因が一人の妾による物だけなら、実にくだらない内容になるが、その相手がエルフなら話は変わってくる。
エルフと言えば、その地の精霊と契約を結び強力な先住魔法を行使し、熟練のメイジが十人揃って一人のエルフとやっと互角と言われているハルケギニアで最大の敵と呼ばれている種族。
過去幾度と無く聖戦が繰り返され、多大の犠牲を払い、今でこそ砂漠地帯に押し込んでいるものの、未だその脅威は健在である。
その不倶戴天の敵とも呼べるエルフを王家の者が妾にし、あまつさえ子さえもうけていたとなれば普通の貴族なら、その処置も当然だと思うだろう。

しかし、今のアンリエッタに関して言えば普通とは少しばかり異なる。
人間とエルフが結ばれる事が赦されない事なら、王族同士という身分の自分とウェールズも結ばれる事は決して赦されない。
そんな風に考えてしまうのも無理からぬ事で、アンリエッタ個人の感情としてはモード大公の側に傾いていると言ってもよかった。

「プリンス・オブ・モードは、自らの地位を捨ててまで、その人を守ろうと……、種族は違ってもお互いを愛していらしたのですね」
羨望を含んだ目で、どこか遠くを見つめながらアンリエッタが言う。
アンリエッタもエルフと聞いて、他の例に漏れず嫌悪感や恐怖を表すかと思っていたマチルダもこれには面食らった。
「……意外ね。エルフと聞いたら、普通のやつは除者にするか、怖がるかのどっちかだと思ってたんだけど」
「今までのわたくしだったら、確かにそうだったかもしれません。ですが……」
「ですが?」
「あの方の姿を見ていると、心が通じ合えれば種族の違いなんて取るに足らない事と思えてしまいますから」
あの方と言われてマチルダも、ああ、と納得した。
巨大なゴーレムをただの飛び蹴り一発でブチ壊し、固定化のかかった壁を素手で打ち抜き
スクウェアが相手でも、本気を見せないまま軽く倒すような漢の姿を目の当たりにすれば、確かに人間とエルフの違いなんて些細な物だと感じてしまうだろう。

というか実際のところ、マチルダにとっても本当に同じ人間という種族なのか甚だ疑問だった。
力はオーク鬼を遥かに上回り、スピードは吸血鬼でも遠く及ばず、空中戦闘力は翼人を凌ぐ。
ロバ・アル・カリイエの人間はみんなそうなのか、それとも南斗聖拳とやらを習得するとああなるのか。
どっちかは分からないが、どちらにしろあんなのがごろごろ居る修羅の国には一歩でも立ち入りたくない。
……というのが、現在の東方への感想である。

とにかく、アンリエッタがエルフという存在に対して偏見を持っていない事で、幾分か気が楽になったのか、軽い感じで続ける。
「ま……、わたしがどうこう出来る問題じゃないし、それを決めるのは聖帝様。下手に口出ししたらどうなるかなんて…………あ、ああ……もう!考えたくもないー!」
言葉途中で生きたまま肉片にされる様でも想像したのか、頭を抱えて振り払うかのように頭を振るう。
アルビオンを獲る以上、サウザーはアルビオン王家もレコン・キスタも纏めて叩き潰すつもりだ。
目の前でアルビオン王家を滅ぼしてくれるというのなら、マチルダも幾分か溜飲が下がる。
だが、アルビオンの王族貴族も皆殺しにするかと言えばそうでもない。

世紀末とはいえ、学が無ければ帝王などやってはいられない。
あくまで世紀末では力と恐怖による支配が最も効率的だっただけで、こういう封建的な秩序が成り立っている場では、また別のやり方が必要になってくる。
ユダのように知略に固執するわけではないが、ラオウのように全て真正面から突っ込んで行く様な無駄な事はしない。
逆らうならともかく、特に敵対もしていないウェールズが生き延びようが死のうがどうでもよく
生かす方に利用価値があるなら積極的に利用するつもりなので、刃向かう=死、という方程式が成り立っている以上、そこに異論を挟む余地なんて一切無かった。
人前で取り乱した事にほんの少し顔を赤らめさせ、落ち着いたところで一度咳払いをすると、中空を見上げるようにしてマチルダが言った。

「そ、それに、上手くやればサウスゴータ領がまた戻ってくる。そうすれば、あの子達の暮らしも、今よりずっと楽になる。だから、今は滅んでいく奴らの事なんかに構ってる暇は無いのさ」
サウザーがアルビオンを平定し、その時まで生き延びていられれば、サウスゴータ地区はマチルダに任せる事が決まっている。
また、レコン・キスタがエルフを敵とし、聖地奪還を目標としているのなら、ハーフエルフというティファニアの存在がレコン・キスタ側にバレた場合、聖戦の為の生贄なんかにされてしまうかもしれない。
危険は大きいが得る物も大きい事と、将来的な敵の存在がマチルダがサウザーに従っている理由だった。
まぁ比重としては、裏切りや歯向かった暁に行われる情け容赦の無い制裁という名の暴力による恐怖の方が大きいのだが、その事はなるべく考えたくないし、口に出せば考えてしまうので絶対に口にしない。

「随分と、あの方を信頼しているのですね」
お姫様らしく、その辺りの事情を読めないアンリエッタが、一片の曇りの無い笑みを浮かべて言うと、対照的にマチルダの顔と心には一気に影がかかった。
「いや、そう言われると。ちょっと……ねぇ……?」
信頼しているというよりは、やる事やらないと容赦無く切り捨てられそうだからかなぁ……?と、考え方が段々悪い方悪い方へと向かっていく。
今更ながら、使えないと見なされれば、どこぞの副官のように『お、俺を利用したのか~~!?』という具合に、囮にでもされて使い潰されそうな気がしてきたのだ。

「はぁ……、それでは向かいましょうか」
暗い未来が見えてきたので溜息を一つ増やすと、口調を変える。
すると、下の方から食器が割れる音やら、何かが粉砕される破壊音が盛大に聞こえてきた。

「この料理は口に合わぬ。下げい!」
次いで聞こえてきた命令に、料理はおろかテーブルごと強制的に下げさせたという光景が頭に浮かんだ。
二階の部屋の中でも、破壊音に混じって、店主や料理人の悲鳴が聞こえてくるあたり、相当派手にやらかしたと見える。
また溜息のカウントが一つ増え、二度目の修理の為に、今日消耗し回復もしてない精神力をまた使わなきゃならんのかと気が重くなったが
行かないわけにもいかないので、ゆっくりとドアノブに手をかけ扉を開いた。

第拾壱話『力こそ正義』

経過する事、十数時間。

「ふふ……あれか」
数が多少減ったとはいえ、かなりの人数の傭兵を一隻で収容しきれるだけの商船などそうあるはずもなく
補給の関係から数隻でアルビオンへと渡る事になったが、急な事とアルビオンがまだ接近しきっておらず、それだけに桟橋は惨状と呼ぶに相応しい様相になってしまっていた。

可哀想なのは船の持ち主と船員で、特に船長達は今頃揃って船室で頭を抱え込んでいる頃だろうか。
なにせ、真夜中に叩き起こされた上に、いきなり船を出せと言われた。
当然、そんな要求が呑めるはずもなく、サウザーは実に世紀末的にこの問題を解決してみせたのだが、一部始終を抜粋するとこんな具合である。

「ほう、この俺に逆らうというのか。ふっふふふ、その減らず口、どこまで叩けるかな?……ひと~つ」
と、威圧感たっぷりにサウザーが数を数えると同時に右腕を横薙ぎに振るう。
すると、恐ろしいことに、一本のマストの根元に切れ目が奔ると、さほど大きな音も立てずに船からの分離を果たし、木の枝やらロープを巻き込みながら遥か下へと落ちていった。
支えのロープが何本も持っていかれた事で、船が勢いよく揺れると船室で眠っていた水夫達も何事かと文句を垂れながら甲板に姿を現し始める。
あっけにとられている船長を無視し、サウザーが甲板を歩き、中央マストの根元まで歩を進めると、今度は十字に薙ぐ体勢に入った。

「ま、待ってくれ!この船はわしの宝なんだ!」
まさかの破壊活動により、一瞬正気を失っていた船長がようやく我に返り、必死の思いで懇願しても聖帝様は逆らった物に対する情けなど持ち合わせていない。
「なにぃ~?聞こえんなぁ!その程度で、この俺の心が動くとでも思っているのか!……ふた~つ!」
無常にも根元からX印に切り裂かれた中央マストが崩壊し、サウザーが最後のマストを切り裂こうとすると
あまりの惨状に膝を付いた船長が涙を流しながら、悲鳴のような魂の叫びをあげた。
「ふ、船を出します……!何処へなりとお連れいたします!だから、これ以上は船を壊さないでくれぇ~~!」
「くははははははは!最初からそうしておれば良かったものを!ふっははははは!」

このスクラップ一歩手前にされた船が『ユリア』という名を付けられていたというのは、特に関係ない話。

哀れな犠牲者はどんどん増え、通常の航海より多く風石と物資を積んだ船が二隻調達できた。
その分、破壊された船と係留地の数は五倍に及び、当分は、ラ・ロシェールの港から船が出る事は無いだろう。

その先頭を進む船の甲板には、聖帝様が物凄く偉そうな姿勢でアルビオンを眺めているところである。

「聖帝様。ニューカッスルは敵軍に包囲されているはずですが、どう進路を取られますか?」
すっかり、副官のような立場に納まっているマチルダが、確認としてサウザーに問いかける。
どの船も旧式の砲が三門ばかりあるぐらいで、砲撃戦を行うようには造られていない。
アルビオン自体がかなりの高度でそれに合わせて航行している上に、下は海ともなれば全滅は必至である。

「ふむ……、貴様はアルビオンの出だったな。内偵もしていた事だ、先に貴様の考えを聞こう」
人間を辞めている域に達しているサウザーとて、全知全能ではない。
この高度から船諸共落とされてしまえば助かる術は皆無に等しい。
少なくとも、下に陸が見えるようになるまでは砲撃戦のような事は避けねばならないのだ。

「そうですね……、ある程度ニューカッスルに近いスカボローに入港するというのが順当というところですが……」
「……保留付きか。構わぬ、言ってみよ」
「その場合、ニューカッスルにたどり着く為には、五万の包囲を突破しなければならないというのが一つ」
頬杖を付いたまま僅かに鼻を鳴らす。
五万という数は世紀末での聖帝軍と拳王軍の総兵力を合わせた数よりも多い。
また、地理的にもニューカッスル城は岬の先という、包囲しやすい地にあたるために、陣の厚みは相当な物と見ていいだろう。

「その場合、聖帝様はともかく、兵が無事に着いてこられるとは思えません。
 従って兵はスカボローに残しておく事になりますが……、そうすると、貴族派に帰順する兵が後を絶たないでしょう。結局はどちらも兵を失う事になります」
突破に成功しても、せっかく集めた兵が全滅しては意味が無いし、また聖帝という恐怖の対象が離れれば、傭兵という利だけで動く連中が寝返る事は目に見えている。

傭兵が雇われた理由は、あくまで『アルビオンに向かう貴族をラ・ロシェールで足止めする』というもので
それがいつの間にか『アルビオンに乗り込む』に変わっているのだから遅かれ早かれ、逃亡者が出る事は予測済みでそれとなく監視はさせていた。
案の定というか、出航の前に逃亡を企てた者が十数人ばかり出たので、マチルダに捕らえさせ、見せしめも兼ねて自らの手で処刑した。

この俺に一傷でも付ける事が出来たなら許してやろうと告げられ、愚かにもサウザーに向かっていき、鎧ごと寸断された者が六名。
人間があっという間にバラバラにされる様を目の辺りにし、踵を返して逃げ出し後ろから心臓を貫かれた者が五名。
五体倒地し、平伏し命乞いをするも、それすらも虚しく頭を踏み潰された者が三名と、種籾勢なら気絶どころでは済まないような惨劇を見せ付けてやった。
しかも、僅か十秒足らずの出来事である。
気を利かせて、マチルダがアンリエッタを別の場所に連れて行かなければ、一生物のトラウマが付いて回る事になっただろう。

価値観がモヒカンに近い傭兵という連中を使う以上、利益を与えてる以外は恐怖で縛るしか無いのだが、スカボロールートはそれが役に立たない場合である。
となれば、他の道を選ぶ事になる。

「仮に、空からニューカッスルに近付いたとしても、あの付近の制空権は完全に貴族派が抑えています。
  特に、旗艦である『レキシントン』は二百メイルを超える巨大戦艦で砲数百八門。周りを哨戒している竜騎兵の数は不明ですが、これに見付からずの接近は難しいかと」
聞けば、レキシントンは本来アルビオン王立空軍、本国艦隊旗艦で元の名を『ロイヤル・ソヴリン』というらしい。
報告を聞いている途中で、サウザーの目が鋭く光った事にはマチルダも気付いた。
それどころか、これ見よがしに含み笑いまでしているのだから、何か突拍子もない事でも思いついたんだろうという事は馬鹿でも分かる。

「聖帝様には、何か考えがおありのようですが、よろしければ教えていただけませんか?」
「なに。その船が一度所有者を変えたのなら、二度目があっても誰も文句など言うまい」
簡単に言うと、サウザーはレキシントンを気に入ったのだ。
特に、何の因果か、南斗聖拳百八派と同じだけの数の砲門を揃えているというところがいい。
戦艦としても、他に並ぶ物が無いと言われ、南斗百八派を統べる帝王が座するには相応しい。

「……レキシントンを制するおつもりですか?お言葉ですが、この船では射程に入る前に……いや、なるほど……、それならば可能かと」
「くははは。そういう事だ」
なにも、砲で戦う必要は無い。
そもそも、商船なのだから軍艦と砲撃して勝てるとはサウザーも思っていないし、敵だって思ってはいない。
地上なら、輸送車を壊して積荷だけ奪えばいいが、下が無い以上積荷を奪うには拿捕するしかない。
無力な商船をいきなり撃沈するような真似をするとも思えず、拿捕するために近付いてくればこちらのもの。
なにせ、乗り込むのはたった一人でいいのだから、偽装もやりやすいというものだ。
少なくとも、このまま何の策も無しに突っ込むよりは遥かに勝算は高い。
そう覚悟を決めるとマチルダが他の船にも伝わるように伝令を出した。


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