あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロと電流-04


 ルイズの虚無曜日の朝は爽やかに始まった。
 大きく伸びをして外を見ると良い天気。出かけ日和だ。
 夜の内に汲んでおいた水で顔を洗い、服を着て出かける準備を整える。
 数日前まで壁に立たせていたザボーガーはいない。
 ザボーガーがルイズの部屋からいなくなった日、学生寮となっている塔のすぐ外に、小さな馬小屋のようなものが建てられた。そこにザボーガーは、マシンザボーガーの形で停められている。
 小屋を建てたのはコルベールである。
 別にルイズが要求したわけではない。コルベール、いや、学園側から言い出したのだ。
 まず最初に、ルイズが依頼した。ザボーガーに固定化の魔法をかけてもらえるように、コルベールに頼んだのである。
 ルイズにとって、ザボーガーの仕組みは謎である。しかし、メットから流れ込んできた感覚と情報から、少なくとも自分たちが思っているようなゴーレムでないことはわかった。
 その構成は、生物と言うよりもアイテムに近いものだとも思える。
 だから、固定化を依頼した。それも、厳重に。できるなら、学園の宝物庫並みにと。
 コルベールが無理ならば他の先生に。それがダメなら外部に依頼してでも。そのためのお金はある。実家から送られてくる仕送りは、アイテムに固定化の魔法をかけることを生業としている特化系メイジを雇っても充分に足りるだろう。
 しかし、コルベールはあっさりとルイズの依頼に応じた。
 物わかりのいい教師であり、人格的には円満だと言われるコルベールとはいえ、あまりの気軽さにルイズは逆にいぶかしむ。
 個人を、しかもヴァリエール家の娘である自分に対してのみ贔屓したと思われては、教育者としてはいかがなモノだろうか。
 その疑問はすぐに解けた。コルベールは交換条件を出したのだ。

「ザボーガーを調べさせて欲しい」と。

 コルベールは、ザボーガーの変形を見ていた。そして、召喚時にザボーガーがマジックアイテムであるかどうかを調べたのも彼である。結果として、ザボーガーに魔法がかけられていないことは彼が一番よく知っている。
 つまり、ザボーガーの変形や機動には魔法は一切関わっていない、関わっているとすれば未知の魔法である、と断言できるのだ。
 だから調べたい、と。
 ルイズに否はないが、一応の条件を付ける。それは、ザボーガーを観察するのはいくらでも良いが、基本的に動かさないこと。見えない位置を見るのにレビテーションをかけたりするのは仕方ないだろう。しかし、勝手に触るのは基本的には却下である。
 コルベールはその条件を呑んだ。
 そして、次に提案されたのが小屋である。
 コルベールがザボーガーを調べるのは必然的に放課後が多い。その殆どが夜だろう。
 教師が女生徒の部屋を毎夜毎夜訪れるというのは拙い。さすがに拙いのだ。
 それに、ルイズが塔内でザボーガーを乗り回すのは周囲にしてみれば危なく、そして五月蠅い。音はまだしも事故の危険はないとルイズは力説するが、その辺りは事実よりも周囲の印象である。
 ザボーガーは塔の外に置かれることになった。ただし、他の使い魔の溜まり場に置くことはできない。それはコルベールが困る。
 だから、急遽小屋を建てたのである。
 ザボーガーの元いた世界風に言えば、要は「バイク置き場」である。
 その「バイク置き場」へ向かおうと、ルイズはドアに手を触れた。
 開かない。
 建て付けが悪くなったのか、と思ったが、押しても引いてもびくともしない。

「……ツェルプストー?」

 昨夜を思い出すルイズ。


「明日、城下町まで行くんでしょう?」

 夕食を追え、最近日課になったマシンザボーガーによる学園一周を終えたルイズにキュルケがそう尋ねる。

「行くけど?」
「私も街へ行きたいのよ」
「行けばいいじゃない」
「ザボーガーに乗せてくれない?」
「はあ? ザボーガーは私の使い魔よ」
「タバサのシルフィードだって、私は乗せてもらったわ」

 それとも、ザボーガーには二人乗りはできないのか、とキュルケは嫌みっぽく言う。

「そんなひ弱な使い魔には見えないけれど?」
「ザボーガーの力じゃなくて。私が嫌なの」
「どうして?」
「……貴女ねえ、私がヴァリエールで貴女がツェルプストーだって忘れてない?」

 首を傾げるキュルケ。

「私は、貴女がルイズで私がキュルケだと思ってたけれど?」

 言外に、家など知らないと斬って捨てている。ツェルプストーとてゲルマニアでは押しも押されもせぬ名門だというのに。
 そんなキュルケの言葉に、何故かルイズは赤くなる。

「と、とりあえず駄目なモノはダメ! 街へ行きたいなら、貴女の友達の風竜にでも乗せてもらいなさいよ」
「タバサのシルフィードね。でもあの子に虚無曜日出かけさせるのは割と重労働なのよ」
「そんなの知らないわよ。だったら学園の馬を借りればいいじゃない」
「馬はねえ。確かに楽しいけれど、ここの馬は匂いがきついわ」
「なにそれ、トリステインの馬が嫌なら、ゲルマニアから連れてくればいいじゃない」
「餌が違うのかしら?」
「だったら、大ムカデにでも乗ってきなさい」
「それはお断り」

 キュルケは真顔で即答した。
 使い魔召喚の日、一人が大ムカデを召喚して涙目で契約していたのはキュルケもよく覚えている。
 あれはちょっと……キモい。キュルケは密かにその女生徒に同情していた。
 学園には他にも色々な使い魔がいたが、乗って早いのはダントツにタバサのシルフィードである。
 しかし、ルイズは心密かに自慢していた。
 空こそ飛べないが、スピードならマシンザボーガーは風竜にも負けない。学園のスピードナンバーワンは自分の使い魔ザボーガーなのだと。

 その一連の出来事。
 つまり、今日キュルケはザボーガーに乗ろうと企んでいる。そして、ザボーガー自体は塔前の小屋にあるが、ルイズでなければ動かすことはできない。
 ザボーガーは無視しても、ルイズの身柄を確保すればよいのだ。
 そして開かないドア。
 ルイズは悟った。
 キュルケが外からロックの魔法をかけたのである。アンロックの使えないルイズにはドアを開けることはできない。因みに他人の部屋のドアへ勝手にロックやアンロックをかけるのは校則違反なのだが、キュルケは全く気にしていないだろう。そもそも証拠はない。
 一瞬、ドアを爆破してやろうかと思うルイズ。ドアに触れて練金なりレビテーションなりを唱えれば簡単だ。魔法が失敗して爆発する。
 しかし、外側からならまだしも中側である。部屋にも多少の被害は出るだろう。
 少し考えるルイズ。
 ふと思いついて、これだけは部屋に置いてあるヘルメットを被る。
 ヘルメットから伝わってくるザボーガーの性能をよく吟味する。
 よし、可能だ。
 ルイズは、メットのインカムを下ろした。



「ザボーガー、私の部屋まで来なさい。静かにね」

 付け加える。

「塔の外を登ってくるのよ」

 そしてルイズは、慌てるキュルケの顔を想像してほくそ笑むのだった。



「さて」

 楽しげに呟いて、キュルケはルイズの部屋の前に立つ。
 そしてアンロック。

「おはよう、ルイズ」

 いない。
 誰もいない。

「え?」

 窓が開いている。

「あの子、まさか」

 慌てて窓から下を見ると、なんだか桃色のもこもこしたものがマシンザボーガーにしがみついていた。
 そしてマシンザボーガーは、塔の壁面に垂直に立っている。

「……ルイズ?」

 キュルケは何となく猫を思い出した。
 高いところに上がったはいいが、降りられなくなってしまった猫を。
 キュルケは窓から出た。当然、フライの呪文を唱えている。
 ゆっくりと下がり、ルイズの前へ。

「何やってるの? ルイズ」
「……なさい」
「はい?」
「……なさい」
「聞こえないけど」
「下ろしなさいって言ってんのよ!」

 叫び、顔を上げたルイズは体勢を崩し、慌ててザボーガーにしがみつく。

「もしかして、ザボーガーで降りようとしたの?」

 こくり、とルイズは頷いた。

「途中で怖くなって、動けなくなった?」



 こくり
 やってきたザボーガーに乗って窓から出たまでは良かった。気分が高揚していたのだ。
 ところが、途中で我に返ると高さが怖い。
 思わずザボーガーを停めてしまい、それが裏目に出たのだ。

「これくらいの高さ……」

 言いかけて、キュルケは口を閉じる。
 ルイズは魔法を使えない。建物の中にいない限り、この高さに上がってくることはできないのだ。つまり、今日が初体験。
 キュルケは初めてのフライを思い出す。確かに、自分は怯えていたはずだった。いや、誰だって怯えるだろう。ルイズだって例外ではないのだ。メイジが高さを恐れないのは、自力で飛べるからだ。
 キュルケはゆっくりとルイズに手を伸ばす。

「動かないでよ、ルイズ」

 背中から手を回し、しっかりと抱き留める。

「ほら、ザボーガーを放しなさい」
「だ、大丈夫?」
「貴女一人くらい平気よ。ザボーガーは自力で降りられるんでしょう?」
「ザボーガー、私が離れてからゆっくりと降りなさい」

 そろそろと壁から離れたキュルケは、ルイズをゆっくりと地面に下ろす。そこではザボーガーが主を待っていた。
 ルイズは、ザボーガーに寄りかかるようにして側に立つ。その視線は、地面に向けられていた。

「……まさか、こんなに高かったなんて。……いつももっと高いところから景色を見てたのに……」

 実際、何もない空をフライで飛ぶよりも、高い木や建物のそばの方が高さを実感できるのは確かだ。
 さらに、ルイズは自分の身を保持していなかった。ザボーガーから滑り落ちればそれでおしまいの体勢だったのだ。ザボーガーはシルフィードやフレイムとは違う。背中に乗る者が落ちないように支えることはできないのだ。
 慰める言葉をキュルケは探せなかった。自分は飛べる者。助けた者。何を言ってもルイズには届かない。
 だから、キュルケはこう言った。

「克服するものが増えたわね」

 魔法がゼロでも座学はトップ。貴族として正しく振る舞うことを心がけ、その誇り高さは誰にも負けない。そのルイズなら、克服で
きないものなどない。
 いや克服してもらわなければ困る。
 そうでなければ、自分の立場がない。
 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールをライバルと決めたキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーの立場が。
 ヴァリエールとツェルプストーは、国境のそれぞれトリステイン側とゲルマニア側に領地を構えている。いわば隣同士だが、裏を返せば紛争の当事者同士でもある。
 幼い頃の園遊会で引き合わされてから今まで、キュルケはルイズに負けたと思ったことはない。ヴァリエールに負けるなと言われ、その言葉に自分でも納得していた。
 負けたことはない。魔法も使えないゼロに負けるわけがない。とキュルケに近い者は皆が言う。
 違う。とキュルケは言う。
 違う。魔法が使えないから勝っているのだ。
 もし同じ条件なら。
 自分がゼロなら? ルイズが魔法を使えれば?
 自分は、ゼロと呼ばれてもあれだけ頑張ることができるだろうか。周囲の白眼視を無視して自分を高め続けることなどできるだろうか。

 ある意味でキュルケはルイズを尊敬し、同時に恐れていた。ルイズが魔法を使えるようになる日を恐れていた。そうなれば自分など足元にも及ばないのではないだろうか。
 しかし、実際にルイズがサモンサーヴァントを成功させたとき、キュルケが感じたのは恐れではなかった。それは、喜びだった。
 これで、対等に戦える。同じ立場で比べることができる。
 使い魔が喚べたのだ、他の魔法だって時間の問題だろう。
 それに比べれば、高いところが怖いなどなんだというのか。

「そうね」

 果たして、ルイズは顔を上げた。
 キュルケを睨むように見つめる目は、いつものように輝いている。

「これくらい、どうって事無いわよ。どうせいつかは飛べるようになるんだから」
「あら、それっていつかしら? まさか、お婆ちゃんになってから飛ぶなんて言わないわよね?」

 だからキュルケはそう返す。
 そして、ルイズも。

「ふんっ、見てなさい。貴女よりうんと高く早く飛んで、今度は私が貴女を助けてあげるから」

 とりあえず、とルイズは続ける。

「当面の借りは返すわよ」

 ザボーガーに跨ると、キュルケをじっと見つめる。

「乗るの? 乗らないの?」
「ええ。乗ってあげるわ」

 輿に乗る女王のように優雅に、キュルケはザボーガーに跨った。こんな事もあろうかと、スカートの代わりにズボンを穿いている。
 そしてルイズはアクセルをふかすのだった。
 そんな二人の姿が学園から充分に遠ざかったところで、上空から青い竜……シルフィードが舞い降りた。
 その背には、タバサが乗っている。

「追跡」
「わかったのね、お姉さま」

 きゅい、と一声啼くと、シルフィードは力強く翼を広げるのだった。



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