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虚無と最後の希望 Level21


level-21「帰還」


 眠る、アルビオンから脱出した後、タバサの使い魔のシルフィードに乗ってトリステインに戻ってきた。
 最後ギーシュのモグラが掘った穴から出てきたのが、タバサと似た長い髪を持つ見知らぬ女だったり。
 それがシルフィードで、風隕竜だったりと驚きもあったが無事に帰ってこれた。
 手紙を確保し、ウェールズ皇太子殿下も連れてくる事が出来た。
 間違いなく任務は大成功だと言って良いと思う、姫様が皇太子殿下を見た時とても驚いて、泣きながら抱きついてたし。
 でも、大成功に導いた人物は、私の使い魔は今だ『アルビオン』に居る。

 すぐに帰ってくるのか分からない、でも起きて待ち続けることは出来ない。
 だから眠り、そうして見る夢は地獄だった。





 瞬時に明確になる意識、眠りから覚めたときには起こらない急激な覚醒。
 瞼を開けば、異常が広がっていた。

『……え?』

 全く見知らぬ場所、正面のみと言う制限された視界の中でも、ここは知らない場所だと言うのが分かる。

『は? え、なに?』

 強いて言えば鉄の箱、透明な蓋で締め閉じられた鋼鉄の箱の中で横たわっていた。

『ちょ、なに? どこよここ!?』

 透明な蓋を隔てて向こう側に見える景色は異質だった、灰色の金属っぽい壁が見える。
 どうしてこんな知らない場所に居るのか、どうしてこんな鉄の箱に入れられているのか。
 困惑の極み、自分の部屋で寝ていたはずなのに!
 瞼を開いて目だけしか動かせない、体の自由が一切聞かない。
 恐怖さえ湧いてくる状況に、ルイズはただ戦戦恐恐として何の手も打てないまま時間が過ぎる。

 何分経ったか、もしかしたら数十秒かも知れないし数時間と言う時間が経ったかも知れない。
 時折透明の蓋の向こう側に見える、見たことがない服を来た人間が走りまわっており。
 それを視界に収めるたび、ルイズは何かされるんじゃないかと怖がる。
 何度かそれを繰り返した後、ようやく変化が訪れた。
 内と外に白い煙を吐き出しながら透明な蓋が上へと開き始める。

『いやっ! 一体何なのよ!?』

 ただの白い煙、中と外の激しい温度差によって生じた白い煙に見える水蒸気を見て半ば錯乱状態に陥る。
 逃げ出そうとしようが体は動かず、恐れながら何が起こるのかただ見ているだけしか出来ない。
 そうして突如視界が動き出す、視界の端々に見える物をルイズは見落として、勝手に自分の体が動いていることにさらなる恐怖を抱える。
 鉄の箱から抜け出して、何か鉄の柱っぽいものを触っていた男がこちらを見ていた。
 その男を視界を外し、左手に視線を落とす。

『……え?』

 それは見た事がある手だった、勿論自分の手とは違う。
 緑色の金属で覆われた手の甲、指先まで全て覆い尽くす黒い手袋なようなもの。
 手の甲を裏返し手のひら、一度握って開く。

『うそ、なんで』

 自分の手ではない、この色、この鎧、これは何度も見た事がある自分の使い魔の手ではないのか。

「早く出ましょう、こちらへ!」

 そんな考えを乱すように、先程鉄の柱っぽい物を触れていた、黄色が大部分を占める衣服を着た男が聞いた事が無い言葉で話し走り出す。
 その言葉に頷いたのだろう視界が僅かに揺れ、男の後を追いかける。
 壁しか無い部屋の隅へと走り出し、少しだけくぼんだ壁の前に立てば、小さく赤い光が緑色へと変化して壁が勝手に横へと動いて開いた。

 ここは部屋で、あれは扉で前に立てば勝手に開く魔法の扉だ。

 勿論実際には違うが、科学を知らないルイズからしてみれば一番それがしっくり来る説明だろう。
 そんな魔法の扉を潜って、少々薄暗い廊下へと出る。
 先を走る男に付いて行く自分、いや、自分の使い魔であるチーフが走り追いかけている。

『……これは、夢?』

 指一本自分の意志では動かせず勝手に動く体、これは自分の体ではなくチーフの体だからか。

『……そう、これは夢よ!』

 勿論こんな、全く知らない夢を鮮明に見ている理由など分からないが、無理やり付ける理由も見当たらないのでただの夢だと決めつける。
 心の均衡と言うか、学べ理解出来る事ではないものを分かろうと言うのは中々に難しいこと。
 だったら何も考えずただ見れば良い、この夢が妄想の産物であったとしても、僅かにしか語っていないチーフの事が分かるかもしれないのだからと。
 そう考えて後悔する、ルイズの使い魔たるマスターチーフが何であるのか、しっかりと理解していたなら後悔をせずにすんだかも知れない。
 考えていた思考を切り替え、夢をしっかり見ようと視界を上げれば爆発が起きた。

『ひっ!?』

 自分が起こす失敗魔法ではない爆発、自分が起こす失敗魔法の爆発は自分を傷つけないと漠然とした考えがある物とは違う。
 視界を焼くような赤と橙の閃光とともに、衝撃が体を揺らす。
 廊下を先行して走っていた、チーフを案内していたんだろう男が、爆発で吹き飛ばされる扉と一緒に吹き飛ばされる。
 反射的に吹き飛ばされた男を受け止め、状態を確かめるが。

『……なにこれ』

 自分の、チーフの腕の中で息絶えた男の亡骸があった。
 扉の前でチーフに呼び掛けようとした男は、爆発によって破壊された扉の破片を一身に受け、治癒の魔法でも治せない怪我を負って絶命していた。
 後頭部から背中全体、腕や足にも破片が突き刺さっており、物によっては体を貫通している破片まであった。

『……っ、なによこれっ!!』

 腕の中でゴロリと首が動き、力無い男の瞳と視線が交差する。
 そんな、人の死体など生まれてきてから一度も無いルイズが、何の感情も浮かべぬわけがない。

『いや、イヤッ!?』

 今すぐ手放したい、投げ捨てたい衝動に狩られるも自分の意志で動かせない体。
 ならば見るだけでも止めようとするも、視界は動かず瞼を半分開けたまま死んでいる男の顔へと固定されている。

『イヤ、イヤ、イヤッ! 止めてよ!!』

 強制的に見させる状態に強い嫌悪感と吐き気を覚え、何とか視界を逸らそうとしても変わらず見つめさせられる。
 錯乱するルイズなどお構いなし、ただチーフは男の死体を降ろして寝かせ、右手を男の顔へと被せた。
 そうして額から顎まで右手が動き、右手で隠されていた男の顔が顕になった時は、男の瞼は完全に閉じられていた。
 瞳を閉じさせてからすぐチーフは立ち上がり、隣の通路へと行けるパイプを乗り越える。
 隣の通路へと抜け出て向かおうとしていた同じ方向へと駆け出し、途中通路の壁が爆発して火が吹き上がるが無視して駆け抜ける。
 近づけば勝手に開く扉を二つほど潜り、左へと曲がる通路を見てば、先程死んでしまった男と似た服を着た男たちが手に持つ何かを光らせていた。

『………』

 次々と進んで行く光景に、中々付いていけずに呆然と見るルイズ。
 男たちが持って大きな音と強い光を出す、見たことあるそれを思い出す。

『……銃、チーフが持ってた銃……よね』

 人の死を忘れようと、いつか見たチーフが持っていた武器を思い出す。
 視界の中で右から左へと撃つ男たち、対するようにその左側から飛んでくるのは青白い光の玉。

「ッがあ!! た、助けてくれ!!」
「っ!」

 青白い光の玉が橙色の服を着た男の腕に当たり、一瞬で当たった箇所を焼き尽くして炭へと変化させる。
 血も何も出ない、ただ残る炭化した腕を押さえ蹲る男。
 動かないのは致命的だった、男の腕を炭化させた青白い光の玉が踞った男の顔に当たって一瞬で絶命させる。
 悲鳴も出ない、炭化した顔、頭を仰け反らして倒れ伏してピクリとも動かなくなる。

「コヴナントのクソッタレめ!」

 何か叫びながら後退していく男たち。
 一目で死んでいることが分かっているのか、顔を炭化させた男に構わず後退しながら銃を撃つ。

【ahhhh!】

 夢を見始めてまだ一分位しか経っていないのに、見た事も無い人の死体を見せつけられる。
 そんな光景を前に呆然としたルイズを叩き起こす、聞いた事が無い雄叫びが上がった。
 殺した事に対しての雄叫びか、人間には出せない声が通路の先の左側から聞こえてきた。

【ab*nlunN<Wnj!!】

 呆然とするルイズとは裏腹に、迅速に動くチーフ。
 男たちが後退していった右の通路へと素早く駆け出し、背後から飛んでくる青白い光の玉を無視して駆ける。

【nmk,s_*+,/\;go,ma!】

 当たり前に気が付く背後の存在、言葉にならない言葉を吐きながら青白い光の玉を飛ばしてくる。
 その通路の先、反対側でも戦闘が起こり、青白い光の玉が飛んでくる。
 奥で起こる戦闘、黄色の衣服を着た男が青白い光の玉で穿たれ、一瞬で死に至る。
 そしてその男を殺したであろう存在が、奥の曲がり角から姿を表した。

『ッ!?』

 声にもならない悲鳴、それは光沢のある青い鎧を付けた化け物。
 肌の色も人のものと違い、暗い灰色をしている。
 頭も違う、前に伸びるかのように太く長い首の先には顔、猫背のような姿勢にギョロリと丸い瞳を動かして見る。
 口の部分、顎が細長く四つに割れてそれぞれに生える鋭い歯を覗かせる。
 腕もおかしい、二の腕や前腕は変わらないが手の指が少ない。
 人間は五本指であるのに、化け物は四本の指しか無い。

 そうなれば足も人とは違う、くの字である人の足と比べて関節が一つ多い。
 膝の下、脛あたりから更に関節が有り、膝とは逆方向に伸びて足の指らしきものがない、まるで馬の蹄を大きくしたような足先。
 そして体格、2メイルを超えるチーフより大きかった。
 見様によっては細く見える化け物、だがその動きは淀みなくしなやかに体を動かして、応戦していた人間の男を数メイルも殴り飛ばしていた。

 ハルケギニアの亜人とは違う、人形の化け物。
 それがどこか分からない場所で人間と戦い、知らない言葉で話す人間を殺して行っている。
 殴り飛ばされ倒れ込んだ男へ向かって、左手に持つ青い光沢と緑色の光を放つ何かから青白い光の玉を撃ち出し、浴びせかけて男を殺した。

【/;lm,fb[m∂oMm:pi34!!】

 そうして視線が合う、背中に何度も撃ち込まれて死んだ男に興味など無く、通路を走るルイズ、チーフに手に持つ何か、おそらく銃を向けて青白い光の玉を撃ち出した。







「ッ!?」

 そうして起きる、青白い光が視界を埋め尽くして目覚めた。
 荒い息遣いのルイズ、体が震えていることに気が付き、自分を抱きしめる。

「……何なのよ」

 訳が分からない、眠って気が付けば見知らぬ場所で、気が付けばチーフの視点を見ていて、気が付けば人が死んでいる、気が付けば見た事が無い亜人が居た。
 こんな事があるのだろうか、知らない事を夢で見るなんてあるのだろうか。
 理解出来ない事に大きく息を吐き、はっきりと思い出せる人の死と人形の化け物を忘れようと頭を振る。

「……まだかな」

 学院に帰ってきてから三日が経つ、チーフたちが何時帰ってくるか分からない。
 ここに帰ってこないと言う選択肢はない、無事でいてと言う問いにしっかりと答えたんだから。
 だから待つ、待つしか無いのだと言い聞かせて、部屋の窓へと寄って開ける。
 とうの昔に日が落ちた夜空、明るく輝く双月と満天の星空を見上げる。
 早く帰ってこないかなと、夜空に向かって始祖ブリミルに祈りを捧げる。

「……始祖ブリミルよ、私の使い魔が無事に帰ってきますように」

 指を組んで膝を床に付ける。
 瞼を閉じて、祈りの詞を告げて窓の外から聞こえてくる唸るような音に耳を傾ける。

「……そうそう、こんな音出して走って……」

 呟いてハッして立ち上がる、窓枠に手を掛け乗り出すように外を見た。
 学院の正門、夜も遅いために閉じられている門と、その先に続く道の向こうから二つ一対の光が学院に向かってきていた。
 それを見て慌てて駆け出す、押し飛ばすようにドアを開けて廊下に飛び出し、全力でバタバタと廊下を駆けて階段に躍り出る。
 数十段の段差を下って一階まで降り切り、寮から飛び出す。
 途中何度もこけそうになりながら正門へと急ぎ、門の向こう側で止まるワートホグを見る。

 チーフ! そう叫ぼうとしていきなり目の前に降りてきた人物に遮られた。
 その人物はフライにて飛んできたタバサだった。
 ワートホグが出す音にタバサも気が付き、私と違って魔法を使って降りてきたんだろう。

「何よ、タバサ!」
「その格好は良くない」
「は? その格好……?」
「……寝間着」
「……ッ!!」

 タバサに言われてようやく気付く。
 今現在のルイズの格好は寝間着、半透明の体が透けて見える物だけを着ていた。
 寝間着の他に付けているのは下の下着だけ、つまりはよく見れば見えるのだ。
 帰ってきたと喜び、急ぎ来たのだから自分の格好を忘れていた。

「あ、う……でも……」
「気を付けるべき」

 タバサはそういいつつ自分のマントを外し、ルイズへと差し出す。

「あ、ありがと……」

 小声でぶつぶつが聞こえているのかいないのか、タバサは何事も無く正門へと歩き出す。
 ルイズもマントを羽織って体を隠し、正門へと駆け出す。

「彼は彼女の使い魔、通して問題無い」

 正門の内側、学院敷地内から聞こえてきた声に数名の衛兵が振り返る。

「しかしですな、貴族様。 日が上がるまで開けてはならないと規則が……」

 そう言われても衛兵からしてみれば、不用意に門を開けることが出来ないと伝えるが。

「オールド・オスマンの許可はある、問題は無い」
「早く開けなさい!」

 お構いなしにさっさと開けろと催促、ルイズも続く上に学院長であるオスマンの許可があると言うなら開けなければならないだろう。
 だがもしこれが問題になったとき、責任が振りかかるのは門番の衛兵二人。
 オールド・オスマンの許可があるからルイズやタバサが開けてくれと言っても、衛兵二人は開けることが出来ない。
 直々にオールド・オスマンが来れば話は別だが、現状貴族である二人の命令には従えない平民の衛兵たちだった。

「申し訳ありませんが、それは出来かねます。 直々の命令ならば開けますが……」
「なら確認を取れば良い、貴方達はそうするべき」

 タバサの言葉が信じられないなら、直接聞いて確認を取るべきだろう。

「……分かりました、確認をとってまいりますのでしばらくお待ちを」

 衛兵たちが顔を見合わせた後、一人の衛兵が駆け出していった。
 それから十分ほどして、衛兵が戻ってきた。

「……只今開けますので、しばらくお待ちを」

 許可が得られたのだろう、内と外から衛兵が数人掛かりで門を押し引き始める。
 大きな門であるから、かなりの重量を持っているためにゆっくりとしか開かないが。

「………」

 チーフが手を貸し、動かせば数秒と経たずワートホグが通れるほどに門が開く。

「ワートホグを停めてくる、先に部屋へ戻っていた方が良い」
「……うん」

 重低音を鳴らして、それに驚き仰け反る衛兵たち。
 学院内にワートホグを進め入れ、門を先程と同じように軽く閉める。
 再度停めていたワートホグに乗り込んで、いつもの倉庫へとワートホグを走らせる。
 軍用車のワートホグ、この世界では間違いなくオーバーテクノロジーの塊。
 魔法の錬金では作り上げられないチタニウム合金を基礎とし、熱可塑性プラスチックのポリカーボネートや配線周りのカーボンナノチューブなど。
 元より存在しないタイヤのゴムや動力であるエンジンなど含めれば、希少物質を大量に使用して作り上げられた戦車と見えるかも知れない。
 動かし方やガソリンの調達などの問題もあるために早々使えないだろうが、珍しい物としてコレクションに加えようとする好事家も居るだろう。

 倉庫から女子寮へ、昇降口から階層を上がり、500キログラムの重量で廊下を軋ませながら歩む。
 そうしてルイズの部屋の前で止まり、右手で軽くノックをする。

「開いてるわよ」

 ドアノブを掴み、回して開く。
 中では当たり前にルイズがいて、椅子に座ってチーフの帰りを待っていた。
 同じように、タバサもチーフの帰りを待ちルイズの部屋にいた。

「手紙を預かってきた」

 ルイズがなにかもじもじしていたが、気にせず要件を口にする。
 腰のナップサックに手を回して、中から手紙を二通取り出してルイズへと手渡した。

「……これは」

 室内のランプと月明かりを頼りにして、手紙の封に押された封蝋を見てルイズは呟く。
 封蝋として押された紋章はユニコーンと水晶の杖が組み合わされたもの、この紋章を使うことが出来るのは王女であるアンリエッタのみ。
 故にこの手紙はアンリエッタ姫殿下からの物だと分かる、そしてもう一通の手紙の封蝋も見た事がある紋章だった。

「こっちはワルドさまの……」

 ラ・ヴァリエールと領地が隣り合った、ワルド家の紋章だった。
 つまりこっちの手紙はワルド子爵からの手紙。

「これもだ」

 ナップサックとは違う、ルイズの両手の上に乗りきらない袋をチーフは差し出してくる。

「……なにこれ?」
「姫殿下から渡された」

 テーブルの上に置いて、袋の中身を確かめる。

「……宝石に、金貨?」

 袋の中にはずっしりと、様々な宝石やエキュー金貨が入っていた。
 宝石を換金すればかなりの金額になるだろう、金貨は金貨で結構な枚数が入っている。

「たぶん報酬」
「……そういう事」

 一言タバサ、あの危なかった任務の報酬と言うことだろう。
 これだけ貰うのは逆に気が引ける、報酬を得るためにアルビオンへと行ったわけではないのだから。
 そう考えても口には出さない、自分には必要ないとしっかりと断ったのだから貰うものでもない。
 ルイズはとりあえず報酬の袋から視線を外し、手紙へと移す。
 封を解いて中の手紙を取り出し、読み始める。

 タバサはルイズの後ろに回らないよう、手紙が見えぬよう移動した。

「………」

 読み始めてから数分、姫殿下からの手紙を読み終えたのか閉じて、もう一通の手紙を手に取る。

「……姫様の手紙、チーフにありがとうって。 あとこの宝石や金貨は隙に使っていいって」
「……ああ、ルイズが使えば良い」
「貰えないわよ、私は何も出来なかったんだし」

 属性は虚無である、と言われても今だ魔法が使えないのは事実。
 礼拝堂で襲われた時も、ただ見てるしか出来なかったのだろう。
 子爵からの手紙を開き、取り出して読み始める。

「……チーフ」

 今度は一分も経たずに読み終え、チーフに向かって手紙を差し出す。

「……ルイズ」

 だが受け取らず、手紙からルイズへと視線を移す。

「なに?」
「済まないが、文字は読めない」
「……ああ!」

 またルイズもこちらを見て、思い出したように声を上げる。
 チーフはこの世界の言葉を読み解く事が出来ない、だが言葉はなぜか地球のとある言語に非常に似通っており、翻訳機を通せば98パーセント程も通じる。
 これも異常だろう、地球人類とは全く異なる星の生物が、地球にある言語と非常に似通った言葉を話す。
 勿論この星に地球人類が移住した訳ではない、UNSCの植民地でも無い惑星だ。
 可能性としては天文学的な確率、あり得ないと言って全く問題無いレベルの確率。

 無論袂を分かった地球人類、と言う話は無いだろう。
 確かに反乱軍なども存在したが、この世界にそう言った科学技術で作り上げられた機械などは見当たらない。
 例え地球人類が移住してきても、ショウ・フジカワ超光速エンジン、スリップスペースワープ用エンジンを搭載したコロニーシップを使わないと植民地化は難しい。
 コロニーシップを奪われたと言う話も聞いた事はない、また植民地化して移民したと言う話も上がってはいない。

 地球人類、宗教的軍事連合コヴナントに属する種族、そしてはるか昔に超文明として栄えたフォアランナー。
 その三種とも違うだろう第四の文明を持つ異星人、魔法と言う科学では再現出来ないであろう技術を持ち得る種族。
 地球人類が何らかの方法でこの惑星にたどり着き、言葉を伝え広めたと言った方がまだ信ぴょう性が湧くだろう。
 そうでないならばこの惑星で発生した文明の言語は、究極的な偶然によって成り立ったのかも知れない。

「じゃあ読むわね」
「頼む」

 喉を手で押さえ、何度か小さく咳をしたルイズが手紙を読み始める。

『本当なら直接伝えたかったのだけれど、姫殿下や皇太子殿下の護衛があるので抜け出せなかった。
 だから手紙で伝える事にする。


 君の使い魔、マスターチーフのおかげで目標を達することが出来たことを感謝する。
 彼が居なければ僕は皇太子殿下を手に掛けていただろうし、目標を達することが出来なかったかも知れない。
 考えうる最善を実現し、君と姫殿下と皇太子殿下と青い髪の少女を、そして僕までも救ってくれた事に感謝の念が堪えない。
 この手紙を渡す前に彼には何度も感謝の言葉を送ったのだが、もう一度文面でも送らさせて欲しい。
 ルイズ、彼を僕に付けることを認めてくれてありがとう。
 そしてマスターチーフ、僕を信じてくれてありがとう。

 これは良い、いくら言っても尽きない気持ちだからね。
 伝えたい事はまだある、ラ・ロシェールへの街道で僕が君に言った言葉を覚えているかい?
 僕の父とラ・ヴァリエール公爵様が酒の席で戯れで決めた婚約の話だ、これは君の好きなようにして貰って良い。
 婚約通り僕と結婚するか、所詮酒の席の話だから僕と結婚する必要はないと、どちらを選んでくれても構わない。
 ルイズの選んだ事を尊重するよ、結婚するもしないも君次第だ。
 もしかすると、学院で好きな男でも出来たかも知れないからね。

 この二つが伝えたかった事だ、もうひとつ大事な話があるけどこれは二枚目の方で確認してくれ。

 それと二枚目を読む前に確認して欲しい、読む時はルイズとマスターチーフ以外の目や耳に届かないようにして欲しい。
 読み終えて覚えたなら、二枚目の手紙は燃やすなりして誰に目にも触れぬよう処分して欲しい。
 内容は君とマスターチーフに関係する事だと思うから書き記すことにする』

「一枚目はこれで終わり」

 そう言ってルイズは手紙を閉じる。
 それを機にタバサは立ち上がり、呪文を唱えながら杖をゆっくりと振る。
 杖先から光が灯り、室内を満遍なく灯す。
 その後もう一度杖を振れば周囲の音が消える、ディテクト・マジックで魔法による監視が無いか確かめ、サイレントの魔法を使って周囲に音が伝わらないようにした。

「終わったら教えて」

 タバサはそのまま部屋から出て行く、気を利かせてのだろう。
 それを確認して、次は窓を締め切る。
 室内はランプの明かりだけで灯され、少々薄暗い手紙の文字が読める程度の明るさ。

「……それじゃあ読むわね」

 何度か深呼吸するルイズ、手紙を開いて読み始めた。

『周囲の目や耳は外したかい? しっかりと確かめてから読んで欲しい。
 それじゃあ二人に伝えたい内容を記す、この事は姫殿下や枢機卿にも話ていない、僕だけしか知らないことだから他言はしないで欲しい。
 まずこの事を知るには僕の過去を話さなければならない、ルイズは憶えていないだろう僕の母に関してだ。
 僕の母は生前『アカデミー』の主席研究員だった』

「……姉さまと同じ、アカデミーの研究員、それも主席?」

 確かルイズの姉妹に姉二人が居たはず、どちらかが今言った通りアカデミーとやらの研究員なのだろう。

「……続けるわ」

『アカデミーに所属している時はハルケギニアの歴史と地学の研究を行っていたよ。
 だがある日を境に母はアカデミーを止めて、屋敷に閉じこもってしまったんだ。
 正確に言うと止めざるを得なかった、その理由は母が心を病んでしまったからなんだ。
 数カ月に渡り屋敷に引き篭もり、最後は階段から落ちて、それが元で死んでしまったんだ。

 アカデミーで歴史と地学を研究していて、ある日突然母は心を病んでしまった。
 屋敷に閉じこもってからはしきりにある言葉を呟いていたよ、当時の僕はそんな母が嫌でたまらなかったんだ。
 屋敷の中をふらふらと彷徨きながら、頻りに僕の名前と始祖ブリミルに祈る言葉ばかり。
 心の傷は水の魔法で治せはしない、元の母に戻って欲しいと願っていたけれど僕にはどうにも出来なかった。
 そんな母を父は彷徨かないよう奥の部屋に閉じ込め、出てこれないようにしたんだ。
 それから母を閉じ込めでてこれないようにして数カ月、僕の十二歳の誕生日のパーティーを開く事になって。

 そんな日に母が奥の部屋から出てきたんだ、母が心を病んだことは招待した客はみな知っていたけれど、いざそれを目に晒すのは外聞の恥になる。
 それを理解していた僕は母を奥の部屋に連れ戻そうとしたんだ、上も書いた通り当時の僕はそんな母が嫌でたまらなかった。
 だからだろうね、奥の部屋に連れ戻すために階段を登っていたとき、突然抱きついてきた母を突き飛ばしてしまったんだ。
 母は階段から転げ落ちたよ、そして派手に転げて首の骨が折れてしまった。
 対外的には事故と言うことになっているが本当は違う、僕が殺してしまったんだ。

 今でも夢に見るほど覚えているよ、母の首が折れて死んでしまった姿を。
 亡くして気が付くんだ、その時の僕は母を嫌って居たんじゃなくて愛していたってね。
 ただ子供だったんだ、その位の歳の僕は母の愛情が煩わしく感じてたんだろうね。
 愛していた母を僕が殺してしまった、そのことで心が一杯になって僕までおかしくなりそうだったよ。
 気が付けば母を殺した事を忘れようと魔法の修行に明け暮れていた、そんな事をしたって忘れられるはずが無いのに。

 それから八年間、修行ばかりして一端のメイジとして自信がつき始めた頃だった。
 母のことを振り切りたかった僕は、生前母が使っていた部屋を片付けていたんだ。
 そこで僕は母の日記帳を見つけた、それを見て僕は涙を流したよ。
 書き始めた頃は僕の事ばかり書いてあってね、僕が産まれたことに感動していたり、どういう事をしたのか一喜一憂に書いてあったよ。
 悔やんでも悔やみきれない、この事を知っていればあの時母を突き飛ばさずもっと別の、マシな行動を取っていただろう。

 そんな事を考えながら母の日記帳を読み進んでいるうちに、母が心を病んでしまった原因を見つけた。
 日記帳には『許しがたい大きな罪と秘密を知ってしまった』、と書かれていた。
 その日以降の日記帳にはその罪と秘密を恐れる内容になっていた、始祖ブリミルと神に懺悔する事ばかりしか書かれなくなっていた。
 母が恐れた大きな罪と秘密はどんな物なのか書かれていなかったけど、それが母の心を病む原因になったことだけは分かる。

 本来ならば今すぐに領地を国に返上して、サハラへ旅立ち、母が恐れた大きな罪と秘密を暴くことが母への償いとなるだろう。
 そうするべきだと僕自身も分かっている、だけど今だ区切りを付けれず乗り越えることが出来ないんだ。
 だから僕は今だ魔法衛士隊に居座り、国のためと言いつつあのような事を仕出かした。
 虚無に選ばれた君が、エルフが支配する聖地をいずれ君が取り返す時に乗じようとしている小さな男だ。
 罵り蔑んで貰っても構わない、そうなっても仕方ない存在なのだから。

 ルイズに懺悔をしてしまったが、気を悪くしないで欲しい。
 いずれ近いうちに打ち明け、母を殺してしまった事への罰を受けるつもりで居るよ。
 その時までに聖地がエルフに占拠されたままであったなら、罰を受け終えてから旅立つことにする。

 この事はもう良いか、大事なのは母が呟いていた言葉だ。

 『始祖ブリミルよ、我々は大きな間違いを起こし許されないことをしてしまったのです。
  大いなる神よ、我々は与えられた力を過信し、大いなる神から与えられた使命を擲ってしまったのです。
  おお、始祖ブリミルよ、偉大なる神よ、我々をお許しください』。

 そういつも呟いていた、もう一つは僕の名前を呼びながら『聖地を目指し、始祖と大いなる神に慈悲を求めなさい。 それが我々を救う鍵となるのです』と言っていた。
 虚無を授けた神と虚無を扱った始祖に慈悲を求めよと言っていたから、恐らく虚無を扱える君と関係があるのかも知れない。
 慈悲を求め、救いを得られないならどうなるかは分からない。
 母が恐れ、誰にも言えず心を病むほどの恐ろしいことが起きるのかも知れない。
 だからルイズとマスターチーフ、虚無の魔法の事もあるから必ず心に留めて置いて欲しい。

 もし僕の力が必要になったら何時でも言ってくれ、全力で力添えさせていただく。
 二人に始祖ブリミルの加護があらんことを。



                                ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドより』



 読み終えて、何とも言えない表情をルイズは浮かべる。
 一枚目とは大きく異なる話、トリステインのアカデミー、名前からして国の研究機関に認められ研究を行える題目。
 子爵の母は歴史と地学の研究、その末にハルケギニアに埋もれる闇を目の当たりにしたのだろう。
 ハルケギニア六千年と言う膨大な歴史と、この地に眠る誰も知らない秘密。
 何か危険なものに触れたかのような感覚を得ていた。

「……どうしよう」

 そう言って見上げてくるルイズ、とりあえずやらなくてはいけない事が一つ。

「まずは手紙を処分しよう」
「え、ええ……」

 ルイズは頷き、杖を取り出し。
 他の手紙や袋をテーブルから降ろす。

「……ウル・カーノ、発火!」

 そうして呪文を唱えれば爆発音、二枚目の手紙をテーブルごと破壊して処分する。

「………」
「娘っ子、お前さんの魔法じゃなくて良かったんじゃねぇか?」
「う、うるさいわね!」

 チリチリと破砕面から煙を上げて無残な姿になったテーブル。
 かなり大きな音だったが、サイレントの魔法で部屋の外に漏れてはいないだろう。
 とりあえず煙を上げている部分を手で擦り、木片に赤く篭る熱を揉み消す。
 木片の熱が無くなったことを確認して、部屋の隅に散らばるテーブルだったものを集める。

「どうするかはルイズが考え、決めなければならない」

 時間が有ろうと無かろうと、考え選択するのはルイズと言う事。
 中心は使い魔のマスターチーフでは無く、召喚主であるルイズであるからだ。

「……でも、聖地を奪還とか、そんな事をしてたら……」

 見上げてくる瞳は揺らいでいる、どうするべきか迷っているのだろう。
 だから答える。

「……許す限り力を貸そう」
「……そ、そうよね。 貴方は私の使い魔だし!」

 『何が』許す限りなのか、チーフの声に笑みを浮かべるルイズは理解していない。
 お願いしようが命令しようが、その時が来れば必ず帰ると言うことを。


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