片道三十分かけて、クラース達はエギンハイム村へと到着した
話し合いはサムの家…つまり、村長の屋敷で行われる事になり、主だった面子がその場に席を置いた
頼んでいた騎士が来た事、村で噂になっていた少年少女が来た事で多くの村人が村長の屋敷へ集まった
「はぁ、はぁ…成る程、そういうわけですか。」
奥の席に座る村長が困った顔をしながら相槌をうつ…今、全員に大まかな説明を行った所だ
とりあえず、二人はクラースの知り合いであり、腕利きのメイジと戦士であると説明した
そして、今回の件にはクラースとタバサは関与していない事も理解して貰えた
「翼人達は今子育ての時期で、その為にあの辺で巣を作っているんだ…だから、今動くわけにはいかないんだ。」
「へっ、そんなの知ったこっちゃねえな。」
ジーニアスが翼人達の言い分を伝えるが、早々にサムが突っ返す
「お前達は奴等の生活の為に俺達が飢え死にしても良いって言ってるもんだぜ…んなの納得出来るか。」
そうだそうだ、と周りの男達が口々にそう叫ぶ
ムッとなるジーニアスだが、プレセアがそれを制して代わりに話を続ける
「この辺りは森林の密集地帯です…別に翼人達の住む辺りではなくても、売買や加工に使える木は他にもあるのではないですか?」
「素人に何が解る…そこんじゃそこらの安物の木なんかで俺達が生活出来ると思ってんのか?」
「解ります…私、きこりですから。」
そう答えるプレセア…サムも、後ろにいる男達も顔をきょとんとさせた
しかし、次の瞬間にサム達は大声で笑い出した
「お嬢ちゃん、馬鹿言っちゃいけねぇ…お前みたいな細い腕できこりだって?」
サムはそう言って立ち上がると、近くに立てかけてあるプレセアの斧を手に持った
「どうせ、この斧だってマジックアイテムか何かだろ?だから…うおっ!?」
片手で持ち上げようとしたサムだったが、重さから滑り落としてしまった
持ち上げようとするが、重くて持ち上がらない
「どうしたんだよ、サム?」
「な、何だこれ…重くて持ち上がらねぇ。」
両手を使ってでも持ち上げようとするが、完全に持ち上げる事は出来なかった
サムが四苦八苦していると、見かねたプレセアが斧を持ち上げる
「片手で持つと危ないですよ…これ、すごく重いですから。」
そう言って片手で持つと、元の場所へと立てかけた
サムは呆然とそれを眺めていたから、しばらくして憤慨しながら口を開いた
「と、兎に角だ…あそこの木を売らにゃ、俺達は生活出来ねぇんだ、これだけは譲れねぇ。」
そう言い放つと、サムは元の自分の席へと戻り、ドカッと音を立てながら座る
話し合いは難航しそうだ…クラースは辺りを見回してみる
隣に座っているタバサは、何時もの無表情な顔で話し合いの流れを見つめている
他にも見回していると、ジーニアスが辺りを見回している事に気付いた…誰かを探しているようだ
「ん…お前、何してる?」
「えっ…あっ、ううん、何でもないよ。」
その姿をサムに咎められ、ジーニアスは適当に答えるとそれ以上誰かを探すのを止めた
そして、話し合いはその後も続いていき……
………
「結局…駄目だったね。」
森への入り口付近で、何時間にも渡って続けられた話し合いの結果を、ジーニアスが告げる
あれから何度も説得しようと頑張った二人だったが、サムを中心とした村人達は首を縦に振らなかった
あの場所を立ち去るか、戦うか…その二択しか許されなかったのだ
「すまんな、二人とも…折角話し合いが出来たというのに…。」
本当なら味方したかったクラースだが、立場上それは許されなかった
出来たのは話し合いの纏めと、森へ帰る彼等の見送りだけだった
「残念ですが、こうなってしまっては仕方ありません…村の人達の総意はアイーシャさんに伝えます。」
「そうなると…やはり、翼人達や君達と戦う事になるのか?」
「それは……。」
プレセアが答えようとした時、横から投げられた何かが彼女の頭に当たった
当たったそれによって、彼女の頭は赤く彩られた
森への入り口付近で、何時間にも渡って続けられた話し合いの結果を、ジーニアスが告げる
あれから何度も説得しようと頑張った二人だったが、サムを中心とした村人達は首を縦に振らなかった
あの場所を立ち去るか、戦うか…その二択しか許されなかったのだ
「すまんな、二人とも…折角話し合いが出来たというのに…。」
本当なら味方したかったクラースだが、立場上それは許されなかった
出来たのは話し合いの纏めと、森へ帰る彼等の見送りだけだった
「残念ですが、こうなってしまっては仕方ありません…村の人達の総意はアイーシャさんに伝えます。」
「そうなると…やはり、翼人達や君達と戦う事になるのか?」
「それは……。」
プレセアが答えようとした時、横から投げられた何かが彼女の頭に当たった
当たったそれによって、彼女の頭は赤く彩られた
「プレセア!?」
ジーニアスが驚き、プレセアは当たった何かを触ってみる…それはトマトだった
三人が投げられた方向を見ると、そこには幼い男の子と女の子の姿があった
「この野郎…よくも父ちゃんに怪我させやがったな!!」
「お、お兄ちゃん…止めようよ。」
男の子は手に持ったトマトを握り締め、女の子が止めようと腕を押さえている
この幼い兄妹は、今朝の翼人討伐に参加した男達の家族らしい
「ちょっと、プレセアに何するんだよ!!」
子ども達に向かって怒ろうとするジーニアス…だが、それをプレセアは止めた
彼女はジッと二人を見つめた後、ゆっくりと彼等に向かって歩き出す
「な、何だよ…く、来るなよ!?」
男の子は声を震わせながらそう言うが、プレセアは何も答えずに近づいていく
表情に感情の色が見えない彼女に、男の子は怖くなって持っているトマトを再び投げつけた
投げられたトマトはプレセアの顔に向かっていくが、ぶつかる直前にそれは捉えられた
「ひっ!?」
恐怖のあまり腰が抜けてしまった男の子は、その場へ尻餅をつく
女の子も怖がって彼にしがみつく…そんな二人にプレセアは…
「………食べ物を、粗末にしてはいけません。」
優しくそう言うと、プレセアは投げられたトマトを男の子に差し出す
「……えっ?」
何かされると思った男の子は驚き…戸惑いながら彼女の顔を見た
そこには、彼女の真剣な眼差しがあった…不思議と、怖いとは思わなかった
「………。」
呆然とそれを見ていた男の子だったが、我にかえると差し出されたトマトを取る
そして、怯えている妹の手を引っ張ってその場から立ち去っていった
「プレセア…大丈夫?」
彼等の姿が見えなくなった後、ジーニアスが心配しながら駆け寄る
はい…と答えると、持っているハンカチで汚れた顔を拭く
「…あれで良かったのか?」
「はい…理由がどうあれ、私達があの子達の親を傷つけたのは事実ですから。」
クラースにそう答えると、拭ったハンカチを見つめる…真っ白だったハンカチはトマトのせいで赤くなっている
「それにしても…。」
「ん?」
「今の場合…ロイドさんだと大ダメージだったでしょうね。」
プレセアのその言葉にぽかんとなるクラースとジーニアス…しばらくして、苦笑を漏らした
これが彼女なりの気の紛らわせ方なのだ…先程の事と、これから起こる事への
「では、戻りましょう…ジーニアス。」
「うん、そうだね…クラースさん、また…。」
二人はクラースに別れを告げ、翼人達のいる森の奥へと去っていった
それを見送るクラース…彼等が去った後、後ろを振り返った
「………。」
何時からいたのか、タバサが立っていた…ジッと此方を見ている
そんな彼女に何も答えず、クラースはゆっくりと彼女に向かって歩き出す
「…結局、話し合いは失敗した。近い内に翼人達やあの二人と戦わなければならなくなる。」
「そうだな…そうなるかどうかは、二人の報告を聞いた彼等の動き次第だが。」
クラースは帽子を深く被りながら答えると、彼女の横を通り過ぎる
「そうなったら…貴方は戦える?」
「…さあ、どうだろうな。」
タバサの問いにはぐらかしながら答えると、彼は一足先に村長の屋敷に戻っていった
そんな彼を見ていると、近くの物陰から一人の男が現れた…サムである
「騎士様…あなたのご友人だが、本当に当てになるんですかい?」
サムがタバサを疑う事はもう無かったが、クラースへの疑いは晴れてなかった
あの二人と知り合いであるという事実は変わらないから…最悪、裏切る可能性だってある
「解らない…彼が戦うのか、戦わないのか…私達を裏切るのか。」
クラースの事をよく知らないタバサは率直な意見を返す…そんな、とサムは文句を言おうとした
でも…と、サムの文句を遮ってタバサは話を続ける
「彼はきっと…やる時にはやる。」
彼は戦士だから…そう言って、タバサもまた村長の屋敷へ向かって歩き出した
その意味が解らないサムは、呆然と彼女の後姿を見るしか出来なかった
ジーニアスが驚き、プレセアは当たった何かを触ってみる…それはトマトだった
三人が投げられた方向を見ると、そこには幼い男の子と女の子の姿があった
「この野郎…よくも父ちゃんに怪我させやがったな!!」
「お、お兄ちゃん…止めようよ。」
男の子は手に持ったトマトを握り締め、女の子が止めようと腕を押さえている
この幼い兄妹は、今朝の翼人討伐に参加した男達の家族らしい
「ちょっと、プレセアに何するんだよ!!」
子ども達に向かって怒ろうとするジーニアス…だが、それをプレセアは止めた
彼女はジッと二人を見つめた後、ゆっくりと彼等に向かって歩き出す
「な、何だよ…く、来るなよ!?」
男の子は声を震わせながらそう言うが、プレセアは何も答えずに近づいていく
表情に感情の色が見えない彼女に、男の子は怖くなって持っているトマトを再び投げつけた
投げられたトマトはプレセアの顔に向かっていくが、ぶつかる直前にそれは捉えられた
「ひっ!?」
恐怖のあまり腰が抜けてしまった男の子は、その場へ尻餅をつく
女の子も怖がって彼にしがみつく…そんな二人にプレセアは…
「………食べ物を、粗末にしてはいけません。」
優しくそう言うと、プレセアは投げられたトマトを男の子に差し出す
「……えっ?」
何かされると思った男の子は驚き…戸惑いながら彼女の顔を見た
そこには、彼女の真剣な眼差しがあった…不思議と、怖いとは思わなかった
「………。」
呆然とそれを見ていた男の子だったが、我にかえると差し出されたトマトを取る
そして、怯えている妹の手を引っ張ってその場から立ち去っていった
「プレセア…大丈夫?」
彼等の姿が見えなくなった後、ジーニアスが心配しながら駆け寄る
はい…と答えると、持っているハンカチで汚れた顔を拭く
「…あれで良かったのか?」
「はい…理由がどうあれ、私達があの子達の親を傷つけたのは事実ですから。」
クラースにそう答えると、拭ったハンカチを見つめる…真っ白だったハンカチはトマトのせいで赤くなっている
「それにしても…。」
「ん?」
「今の場合…ロイドさんだと大ダメージだったでしょうね。」
プレセアのその言葉にぽかんとなるクラースとジーニアス…しばらくして、苦笑を漏らした
これが彼女なりの気の紛らわせ方なのだ…先程の事と、これから起こる事への
「では、戻りましょう…ジーニアス。」
「うん、そうだね…クラースさん、また…。」
二人はクラースに別れを告げ、翼人達のいる森の奥へと去っていった
それを見送るクラース…彼等が去った後、後ろを振り返った
「………。」
何時からいたのか、タバサが立っていた…ジッと此方を見ている
そんな彼女に何も答えず、クラースはゆっくりと彼女に向かって歩き出す
「…結局、話し合いは失敗した。近い内に翼人達やあの二人と戦わなければならなくなる。」
「そうだな…そうなるかどうかは、二人の報告を聞いた彼等の動き次第だが。」
クラースは帽子を深く被りながら答えると、彼女の横を通り過ぎる
「そうなったら…貴方は戦える?」
「…さあ、どうだろうな。」
タバサの問いにはぐらかしながら答えると、彼は一足先に村長の屋敷に戻っていった
そんな彼を見ていると、近くの物陰から一人の男が現れた…サムである
「騎士様…あなたのご友人だが、本当に当てになるんですかい?」
サムがタバサを疑う事はもう無かったが、クラースへの疑いは晴れてなかった
あの二人と知り合いであるという事実は変わらないから…最悪、裏切る可能性だってある
「解らない…彼が戦うのか、戦わないのか…私達を裏切るのか。」
クラースの事をよく知らないタバサは率直な意見を返す…そんな、とサムは文句を言おうとした
でも…と、サムの文句を遮ってタバサは話を続ける
「彼はきっと…やる時にはやる。」
彼は戦士だから…そう言って、タバサもまた村長の屋敷へ向かって歩き出した
その意味が解らないサムは、呆然と彼女の後姿を見るしか出来なかった
その後…何も起こる事なく、夜がやってきた
タバサとクラースは夕食を終えると、それぞれの部屋へと入っていった
そして、今は……
「………。」
タバサの部屋…彼女は寝巻きに既に着替え、ベッドの上に寝転がっていた
手には持ってきていた本があり、ペラペラと捲って読んでいる
「………。」
その隣の椅子にはクラースが座り、同じように自分の魔術書に目を通していた
今後の翼人への対策を話し合うというわけで此処にいるのだが、まだ話を始めていない
タバサがページを捲り、クラースもページを捲る…そんな事がしばらく続いた
「………もし、彼らと戦う事になったら。」
何度かページを捲った後、タバサが口を開いた
彼女の言葉にクラースは手をとめると、横目で彼女を見る
「勝算は…どの程度ある?」
「そうだな………森の中で戦うとしたら、勝算はまずないといった所だな。」
戦う相手が翼人達とジーニアス・プレセアと考えての、クラースの意見だった
プレセアの斧とジーニアスの魔術は、前衛のいないこちら側にとっては恐ろしく脅威だ
更に先住の魔法を使える翼人達…地の利を生かす彼等の戦法も加われば、攻めれば確実に負ける
「此方にも前衛となる者が二人ぐらいいれば何とかなるだろうが…残念ながら、この村の男衆ではその役は酷だ。」
「そう…貴方の魔法、風の精霊なら何とか出来ない?」
「シルフか…セフィーを前衛、ユーティスを中衛にして、フィアレスが私達を守る盾とすれば…。」
クラースは今の立場を理解している…その上で、彼等と戦う場合を想定して作戦を考える
やはり、彼は戦士だ…タバサは彼の作戦を聞きながら、そう思った
そんな時、コンコンとドアをノックする音が聞こえた
「ん、誰だ?」
「あ、その…失礼します。」
ドアが開き、外から一人の青年が入ってくる…サムの弟のヨシアだった
ヨシアはおどおどしながらも、二人の下へ歩み寄っていく
「は、始めまして、自分はヨシアと言います…兄のサムを助けて頂き、ありがとうございます。」
深々と頭を下げるヨシア…すぐに顔を上げると、彼は話を続けた
「本当なら、俺も話し合いに参加したかったんですが…邪魔だからと兄に参加させて貰えなくて。」
そこまで言うと、彼は顔を俯かせた…悔しそうな表情を二人に見せる
「兄さんも、皆も馬鹿だよ…折角分かり合える機会があったのに、それを不意にして。」
そう呟きながら、ギュッと拳を握り締める…その様子に、クラースは今朝の事を思い出した
「(そう言えば、プレセアは村人にも理解者がいると言っていた…もしや、彼が…。)」
「それで…貴方は何の用で此処に?」
考えるクラースに対し、タバサは手っ取り早く此処に来た用件を尋ねる
「え、えっと、その…貴族の方にこんなお願いをするのは失礼だと解っていますが…。」
「翼人討伐を止めて欲しい、だろ。長々と前振りを言わなくても良いから、はっきり言ったらどうだ?」
クラースがあっさりと代弁し、それに驚いた様子でヨシアは彼を見る
「どうして、それを……。」
「君だろ、翼人を理解している村人というのは…プレセアが君の事を言っていたからな。」
「あの子が…そう言えば、貴方様はあの子達と知り合いだそうですね。」
その口調だと、彼もあの二人と親しいようだ…続けざまに、クラースは彼に質問する
「この村の住人は翼人達を憎んでいると思っていたが…君は何故彼等と親しいんだ?」
「そ、それは……。」
クラースの問いに、ヨシアは戸惑う…どこと無く、顔を赤らめている
何故彼がそんな顔をするのか…何となく理由が解った
「まさか、君は翼人と…。」
その理由を言おうとしたその時、窓の方に人の気配を感じ取った
全員が窓を見ると、窓の外に人影があった…それは…
「アイーシャ!?」
ヨシアが彼女の名前を叫ぶ…ジーニアスとプレセアが親しくしていたあの翼人だった
反射的にタバサは杖を掴むが、クラースが手を出して彼女を静止する
「待て、タバサ…恋人同士の会合を邪魔するのは無粋なもんだ。」
「…恋人?」
その間にヨシアは窓を開け、アイーシャの手を取った
彼女を中に招き入れると、ヨシアは不安そうに此方を見る
「さて…どういう事なのか改めて説明してもらおうか。」
クラースの言葉に安堵すると、ヨシアは説明を二人にはじめた
タバサとクラースは夕食を終えると、それぞれの部屋へと入っていった
そして、今は……
「………。」
タバサの部屋…彼女は寝巻きに既に着替え、ベッドの上に寝転がっていた
手には持ってきていた本があり、ペラペラと捲って読んでいる
「………。」
その隣の椅子にはクラースが座り、同じように自分の魔術書に目を通していた
今後の翼人への対策を話し合うというわけで此処にいるのだが、まだ話を始めていない
タバサがページを捲り、クラースもページを捲る…そんな事がしばらく続いた
「………もし、彼らと戦う事になったら。」
何度かページを捲った後、タバサが口を開いた
彼女の言葉にクラースは手をとめると、横目で彼女を見る
「勝算は…どの程度ある?」
「そうだな………森の中で戦うとしたら、勝算はまずないといった所だな。」
戦う相手が翼人達とジーニアス・プレセアと考えての、クラースの意見だった
プレセアの斧とジーニアスの魔術は、前衛のいないこちら側にとっては恐ろしく脅威だ
更に先住の魔法を使える翼人達…地の利を生かす彼等の戦法も加われば、攻めれば確実に負ける
「此方にも前衛となる者が二人ぐらいいれば何とかなるだろうが…残念ながら、この村の男衆ではその役は酷だ。」
「そう…貴方の魔法、風の精霊なら何とか出来ない?」
「シルフか…セフィーを前衛、ユーティスを中衛にして、フィアレスが私達を守る盾とすれば…。」
クラースは今の立場を理解している…その上で、彼等と戦う場合を想定して作戦を考える
やはり、彼は戦士だ…タバサは彼の作戦を聞きながら、そう思った
そんな時、コンコンとドアをノックする音が聞こえた
「ん、誰だ?」
「あ、その…失礼します。」
ドアが開き、外から一人の青年が入ってくる…サムの弟のヨシアだった
ヨシアはおどおどしながらも、二人の下へ歩み寄っていく
「は、始めまして、自分はヨシアと言います…兄のサムを助けて頂き、ありがとうございます。」
深々と頭を下げるヨシア…すぐに顔を上げると、彼は話を続けた
「本当なら、俺も話し合いに参加したかったんですが…邪魔だからと兄に参加させて貰えなくて。」
そこまで言うと、彼は顔を俯かせた…悔しそうな表情を二人に見せる
「兄さんも、皆も馬鹿だよ…折角分かり合える機会があったのに、それを不意にして。」
そう呟きながら、ギュッと拳を握り締める…その様子に、クラースは今朝の事を思い出した
「(そう言えば、プレセアは村人にも理解者がいると言っていた…もしや、彼が…。)」
「それで…貴方は何の用で此処に?」
考えるクラースに対し、タバサは手っ取り早く此処に来た用件を尋ねる
「え、えっと、その…貴族の方にこんなお願いをするのは失礼だと解っていますが…。」
「翼人討伐を止めて欲しい、だろ。長々と前振りを言わなくても良いから、はっきり言ったらどうだ?」
クラースがあっさりと代弁し、それに驚いた様子でヨシアは彼を見る
「どうして、それを……。」
「君だろ、翼人を理解している村人というのは…プレセアが君の事を言っていたからな。」
「あの子が…そう言えば、貴方様はあの子達と知り合いだそうですね。」
その口調だと、彼もあの二人と親しいようだ…続けざまに、クラースは彼に質問する
「この村の住人は翼人達を憎んでいると思っていたが…君は何故彼等と親しいんだ?」
「そ、それは……。」
クラースの問いに、ヨシアは戸惑う…どこと無く、顔を赤らめている
何故彼がそんな顔をするのか…何となく理由が解った
「まさか、君は翼人と…。」
その理由を言おうとしたその時、窓の方に人の気配を感じ取った
全員が窓を見ると、窓の外に人影があった…それは…
「アイーシャ!?」
ヨシアが彼女の名前を叫ぶ…ジーニアスとプレセアが親しくしていたあの翼人だった
反射的にタバサは杖を掴むが、クラースが手を出して彼女を静止する
「待て、タバサ…恋人同士の会合を邪魔するのは無粋なもんだ。」
「…恋人?」
その間にヨシアは窓を開け、アイーシャの手を取った
彼女を中に招き入れると、ヨシアは不安そうに此方を見る
「さて…どういう事なのか改めて説明してもらおうか。」
クラースの言葉に安堵すると、ヨシアは説明を二人にはじめた
「成る程…そういう事か。」
数分後、ヨシアとアイーシャから事情を聞き、クラースは頷く
彼の読み通り、二人は恋仲だった…以前、森で怪我をしたヨシアをアイーシャが助けた事がきっかけらしい
説明をする間、二人は仲睦まじく寄り添っている
「あの子達とはそんな時に出会いました…二人で森の中を歩いている時に、僕が倒れている二人を見つけて…。」
「私が彼等の手当てをしました…彼等とも仲良くなって、このブローチを頂きました。」
そう言って二人は、つけているブローチをクラースに見せる
確かトンガリマダラトビネズミとかのブローチだな…と以前彼女が作っていたのを思い出す
ヨシアのはペンダントになっている…ペアルックとして作ったらしい
「はいはい、解った解った…つまりは、愛する人の為に討伐を止めて欲しいってわけだな。」
「そ、それだけじゃないですよ…俺は翼人達と協力すれば、もっと良い暮らしが出来るようになるって思ったからなんです。」
ひやかし口調のクラースに対し、ヨシアは顔を赤らめながら答える
ほぅ、と呟くとクラースは話を進めるよう促すと、彼は自分の思いを語り始める
「村の皆は翼人達の事を嫌っているし、翼人達も俺達の事を馬鹿にしているって事はアイーシャから話は聞いています。」
「ヨシア……。」
「でも、俺は彼女と会って…色々と知らない事を教えて貰って気付いたんです。分かり合えば…お互い協力すれば得る物は多いんだって事を。」
力強く発言するヨシア…その表情はとても活き活きとしたものだった
そうか、とクラースは彼から話を聞き終えて今度はタバサを見る
「と言うわけで、討伐を止めて欲しいそうだが…その案は通るのか、タバサ?」
クラースが尋ねると、タバサは口に出さずに首を横に振るだけだった
「ど、どうしてですか!?」
「そりゃあ、彼女は村人からの依頼を受けて来たわけだからな…村の総意でなければ、討伐を止めるわけにはいかんさ。」
勝手に止めれば任務放棄とみなされ、最悪処刑される…その事はクラースにも解っていた
そんな、と俯くヨシア…アイーシャは両手を握って俯いている
「…その様子だと、それを一番解っているのは彼女のようだな。」
「えっ、どういう…事ですか?」
「よく考えてみろ…何故彼女が危険を犯してまで此処へ来たのかを。」
もし、他の村人に見つかれば命がないというのに…それでも彼女は此処へ来た
ヨシアはアイーシャを見つめる…重苦しい空気の中、彼女は口を開いた
「ヨシア…今日はね、お別れを言いに来たの。一族で話し合ってあそこから立ち去る事にしたから。」
「そんな…どうして!?君達は子育ての時期だというのに…それはどうするんだい?」
「争うくらいなら、増えない方が良いって…精霊の力を、争い事には使いたくないから。」
涙ぐみながらアイーシャは答え、ヨシアは呆然となった
だが、すぐに我に返ると、タバサに向かって膝をついた
「お願いです騎士様、どうかお引取りを…俺が村の皆を説得してみせますから。」
必死になって頭を下げるヨシア…それでも、タバサは首を縦に振らなかった
ヨシア…と彼の名を呟きながら、アイーシャは彼に寄りそう
「(このままいけば、私達が翼人達や二人と戦う必要はなくなる…しかし、それではこの二人が…。)」
そんな彼等を見つめながら、クラースは考える…考えて……
「………ヨシア君、と言ったな。君は真剣に彼女の事を愛しているか?」
その後にクラースはヨシアにそう尋ねる…頭を上げた彼は疑問を浮かべている
「えっ、それはどういう……。」
「良いから、質問に答えるんだ…それとも、君は彼女の事を愛していないのか?」
「そ、そんな事ないです…俺は彼女を、アイーシャの事を愛しています!!」
クラースの言葉に真剣に、拳を握り締めながらヨシアは答える
それを聞くと、今度はアイーシャに尋ねる
「それで…アイーシャ、君はヨシアの事を愛しているのか?」
「それは……はい、私も彼を愛しています。ずっと一緒に居たいと…。」
本当は別れたくない…アイーシャもまた落ち着いて、しかしヨシアと同じく真剣に答えた
「なら、思考を回転させろ…一緒にいられるよう、私達が翼人討伐をしない方法を考えれば良い。」
彼等の答えを聞き、かつての師の口癖を言いながら二人にそう告げる
二人が戸惑いながら顔を見合わせていると、タバサがあっ…と声を漏らす
「どうやら、タバサは思いついたようだな…タバサ、君の答えはどう出た?」
それを聞き逃さなかったクラースが、タバサに尋ねる
二人も見守る中、タバサは自分が思いついた案を答えた
数分後、ヨシアとアイーシャから事情を聞き、クラースは頷く
彼の読み通り、二人は恋仲だった…以前、森で怪我をしたヨシアをアイーシャが助けた事がきっかけらしい
説明をする間、二人は仲睦まじく寄り添っている
「あの子達とはそんな時に出会いました…二人で森の中を歩いている時に、僕が倒れている二人を見つけて…。」
「私が彼等の手当てをしました…彼等とも仲良くなって、このブローチを頂きました。」
そう言って二人は、つけているブローチをクラースに見せる
確かトンガリマダラトビネズミとかのブローチだな…と以前彼女が作っていたのを思い出す
ヨシアのはペンダントになっている…ペアルックとして作ったらしい
「はいはい、解った解った…つまりは、愛する人の為に討伐を止めて欲しいってわけだな。」
「そ、それだけじゃないですよ…俺は翼人達と協力すれば、もっと良い暮らしが出来るようになるって思ったからなんです。」
ひやかし口調のクラースに対し、ヨシアは顔を赤らめながら答える
ほぅ、と呟くとクラースは話を進めるよう促すと、彼は自分の思いを語り始める
「村の皆は翼人達の事を嫌っているし、翼人達も俺達の事を馬鹿にしているって事はアイーシャから話は聞いています。」
「ヨシア……。」
「でも、俺は彼女と会って…色々と知らない事を教えて貰って気付いたんです。分かり合えば…お互い協力すれば得る物は多いんだって事を。」
力強く発言するヨシア…その表情はとても活き活きとしたものだった
そうか、とクラースは彼から話を聞き終えて今度はタバサを見る
「と言うわけで、討伐を止めて欲しいそうだが…その案は通るのか、タバサ?」
クラースが尋ねると、タバサは口に出さずに首を横に振るだけだった
「ど、どうしてですか!?」
「そりゃあ、彼女は村人からの依頼を受けて来たわけだからな…村の総意でなければ、討伐を止めるわけにはいかんさ。」
勝手に止めれば任務放棄とみなされ、最悪処刑される…その事はクラースにも解っていた
そんな、と俯くヨシア…アイーシャは両手を握って俯いている
「…その様子だと、それを一番解っているのは彼女のようだな。」
「えっ、どういう…事ですか?」
「よく考えてみろ…何故彼女が危険を犯してまで此処へ来たのかを。」
もし、他の村人に見つかれば命がないというのに…それでも彼女は此処へ来た
ヨシアはアイーシャを見つめる…重苦しい空気の中、彼女は口を開いた
「ヨシア…今日はね、お別れを言いに来たの。一族で話し合ってあそこから立ち去る事にしたから。」
「そんな…どうして!?君達は子育ての時期だというのに…それはどうするんだい?」
「争うくらいなら、増えない方が良いって…精霊の力を、争い事には使いたくないから。」
涙ぐみながらアイーシャは答え、ヨシアは呆然となった
だが、すぐに我に返ると、タバサに向かって膝をついた
「お願いです騎士様、どうかお引取りを…俺が村の皆を説得してみせますから。」
必死になって頭を下げるヨシア…それでも、タバサは首を縦に振らなかった
ヨシア…と彼の名を呟きながら、アイーシャは彼に寄りそう
「(このままいけば、私達が翼人達や二人と戦う必要はなくなる…しかし、それではこの二人が…。)」
そんな彼等を見つめながら、クラースは考える…考えて……
「………ヨシア君、と言ったな。君は真剣に彼女の事を愛しているか?」
その後にクラースはヨシアにそう尋ねる…頭を上げた彼は疑問を浮かべている
「えっ、それはどういう……。」
「良いから、質問に答えるんだ…それとも、君は彼女の事を愛していないのか?」
「そ、そんな事ないです…俺は彼女を、アイーシャの事を愛しています!!」
クラースの言葉に真剣に、拳を握り締めながらヨシアは答える
それを聞くと、今度はアイーシャに尋ねる
「それで…アイーシャ、君はヨシアの事を愛しているのか?」
「それは……はい、私も彼を愛しています。ずっと一緒に居たいと…。」
本当は別れたくない…アイーシャもまた落ち着いて、しかしヨシアと同じく真剣に答えた
「なら、思考を回転させろ…一緒にいられるよう、私達が翼人討伐をしない方法を考えれば良い。」
彼等の答えを聞き、かつての師の口癖を言いながら二人にそう告げる
二人が戸惑いながら顔を見合わせていると、タバサがあっ…と声を漏らす
「どうやら、タバサは思いついたようだな…タバサ、君の答えはどう出た?」
それを聞き逃さなかったクラースが、タバサに尋ねる
二人も見守る中、タバサは自分が思いついた案を答えた
「人間と翼人が協力する必要性を村の皆に見せる…ですって!?」
それが、クラースの言葉をヒントに出したタバサの答えだった
ヨシアとアイーシャは、その答えに目を丸くさせる
「そうだ、翼人が村人達の脅威でないと解れば討伐は中止…彼女も咎められる事はないというわけだ。」
「そ、そんな事が可能なんですか。」
「それ以外に討伐の依頼を白紙にする方法はない…君には何か考えはあるのか?」
クラースの言葉にヨシアは考え…結局思い浮かばず、顔を横に振る
「で、ですけど…必要性を見せるってどうやって…。」
「そうだな…それはシルフに頼んでみるか。」
「シルフ?シルフって一体…。」
ヨシアの質問に答えず、クラースは召喚術を唱え始めた
詠唱が完了すると、彼等の前にシルフ…セフィーが姿を現した
『お呼びですか、マスター?』
「シルフ…すまないのだが、君に頼みたい事があってな。実は…。」
初めて見る召喚術に二人が驚く中、クラースは彼女に用件を伝える
「………という訳で、彼等の為に一役買ってくれないか?」
『そうですか…解りました、二つの種族の共存の為なら喜んで協力しましょう。』
事情を聞き、それに了承するとシルフは二人の方を見る
戸惑っている二人に向かって優しく微笑むと、彼女は姿を消した
「良いか、二人とも…明日の朝、シルフが村の中で暴れる。それをタバサと私が止めようとする。」
「けど、私達は負ける…そこへ、貴方達が出て風の精霊の怒りを静める…。」
クラースとタバサが、明日の芝居についての大きな流れを説明する
「まあ、こんな感じでいこう…アイーシャもそういう事でプレセア達や仲間達に話を通してくれ。」
「は、はい。」
こうして、どんどんと明日の計画が出来上がっていく
しかし、そんな中でヨシアは不安そうな表情をしている
「でも…上手くいくのでしょうか?」
「上手くいくもいかないも、必ず成功させなければいかん…でなければ、このまま何も変わらないぞ。」
「ですが……。」
不安を口にするヨシア…クラースがそう答えても、彼の顔は曇ったままだった
「……勇気は夢を叶える魔法。」
「えっ…。」
そんな時、タバサが口を開いた…何時もと違う、はっきりとした声で
その言葉にヨシアだけでなく、アイーシャとクラースも彼女へ視線を向ける
「昔、私の命の恩人が教えてくれた言葉…貴方が持つ勇気という魔法で、夢を叶えれば良い。」
翼人達との共存、彼女との未来を…タバサはヨシアを見つめる
その言葉と眼差しを受けて、ヨシアは顔を下に向けるが…やがて、顔を上げる
「解りました…騎士様、クラース様、アイーシャ…俺、やってみせます。」
もう迷わない…ヨシアは此処で決意を固めた。それをアイーシャは笑顔で受け入れる
こうして明日の流れが決まり、この場での話し合いはお開きとなった
アイーシャは森へ、ヨシアは自分の部屋へと帰り、クラースとタバサが残る
「これであの二人や翼人達と戦わなくてもよくなるわけだ…良かったな、タバサ。」
クラースの言葉に、タバサがジッと見つめてくる
それは、貴方が一番嬉しい筈…と語っており、クラースは軽く咳払いする
「まぁ、その…それにしても、勇気は夢を叶える魔法か…良い言葉じゃないか。」
視線を逸らせる為に言ったのだが、クラースの言葉にタバサは頷いた
そして、彼女はこの言葉を教えてくれたあの人の事を思い浮かべる
赤い髪に、眼鏡を掛けたあの人…今どうしてるだろうか、と
「…では、私もそろそろ寝るとするか。」
そしてクラースもまた部屋を出ようと、ドアの取っ手に手を伸ばした
「ん、待てよ…タバサ、私達は何か忘れてないか?」
部屋を出る前に、今日此処に着てからの一日を振り返って、クラースはその疑問を口にする
何か…何か大切なようなそうじゃないような事を、忘れている気がしたのだ
「別に…私達には忘れるような事は何も無いはず。」
「そうか…私の気のせいか。すまない、忘れてくれ。」
タバサの言葉にそう言うと、おやすみと言ってクラースは自分の部屋へと戻っていった
しばらくしてタバサも本を閉じると、明かりを消してベッドに横になり、そのまま深い眠りについた
それが、クラースの言葉をヒントに出したタバサの答えだった
ヨシアとアイーシャは、その答えに目を丸くさせる
「そうだ、翼人が村人達の脅威でないと解れば討伐は中止…彼女も咎められる事はないというわけだ。」
「そ、そんな事が可能なんですか。」
「それ以外に討伐の依頼を白紙にする方法はない…君には何か考えはあるのか?」
クラースの言葉にヨシアは考え…結局思い浮かばず、顔を横に振る
「で、ですけど…必要性を見せるってどうやって…。」
「そうだな…それはシルフに頼んでみるか。」
「シルフ?シルフって一体…。」
ヨシアの質問に答えず、クラースは召喚術を唱え始めた
詠唱が完了すると、彼等の前にシルフ…セフィーが姿を現した
『お呼びですか、マスター?』
「シルフ…すまないのだが、君に頼みたい事があってな。実は…。」
初めて見る召喚術に二人が驚く中、クラースは彼女に用件を伝える
「………という訳で、彼等の為に一役買ってくれないか?」
『そうですか…解りました、二つの種族の共存の為なら喜んで協力しましょう。』
事情を聞き、それに了承するとシルフは二人の方を見る
戸惑っている二人に向かって優しく微笑むと、彼女は姿を消した
「良いか、二人とも…明日の朝、シルフが村の中で暴れる。それをタバサと私が止めようとする。」
「けど、私達は負ける…そこへ、貴方達が出て風の精霊の怒りを静める…。」
クラースとタバサが、明日の芝居についての大きな流れを説明する
「まあ、こんな感じでいこう…アイーシャもそういう事でプレセア達や仲間達に話を通してくれ。」
「は、はい。」
こうして、どんどんと明日の計画が出来上がっていく
しかし、そんな中でヨシアは不安そうな表情をしている
「でも…上手くいくのでしょうか?」
「上手くいくもいかないも、必ず成功させなければいかん…でなければ、このまま何も変わらないぞ。」
「ですが……。」
不安を口にするヨシア…クラースがそう答えても、彼の顔は曇ったままだった
「……勇気は夢を叶える魔法。」
「えっ…。」
そんな時、タバサが口を開いた…何時もと違う、はっきりとした声で
その言葉にヨシアだけでなく、アイーシャとクラースも彼女へ視線を向ける
「昔、私の命の恩人が教えてくれた言葉…貴方が持つ勇気という魔法で、夢を叶えれば良い。」
翼人達との共存、彼女との未来を…タバサはヨシアを見つめる
その言葉と眼差しを受けて、ヨシアは顔を下に向けるが…やがて、顔を上げる
「解りました…騎士様、クラース様、アイーシャ…俺、やってみせます。」
もう迷わない…ヨシアは此処で決意を固めた。それをアイーシャは笑顔で受け入れる
こうして明日の流れが決まり、この場での話し合いはお開きとなった
アイーシャは森へ、ヨシアは自分の部屋へと帰り、クラースとタバサが残る
「これであの二人や翼人達と戦わなくてもよくなるわけだ…良かったな、タバサ。」
クラースの言葉に、タバサがジッと見つめてくる
それは、貴方が一番嬉しい筈…と語っており、クラースは軽く咳払いする
「まぁ、その…それにしても、勇気は夢を叶える魔法か…良い言葉じゃないか。」
視線を逸らせる為に言ったのだが、クラースの言葉にタバサは頷いた
そして、彼女はこの言葉を教えてくれたあの人の事を思い浮かべる
赤い髪に、眼鏡を掛けたあの人…今どうしてるだろうか、と
「…では、私もそろそろ寝るとするか。」
そしてクラースもまた部屋を出ようと、ドアの取っ手に手を伸ばした
「ん、待てよ…タバサ、私達は何か忘れてないか?」
部屋を出る前に、今日此処に着てからの一日を振り返って、クラースはその疑問を口にする
何か…何か大切なようなそうじゃないような事を、忘れている気がしたのだ
「別に…私達には忘れるような事は何も無いはず。」
「そうか…私の気のせいか。すまない、忘れてくれ。」
タバサの言葉にそう言うと、おやすみと言ってクラースは自分の部屋へと戻っていった
しばらくしてタバサも本を閉じると、明かりを消してベッドに横になり、そのまま深い眠りについた
その夜、森の中に潜む一つの集団があった
兜にジャケットという簡易的な装備をしたこの集団は、武器を手に持っている
「おい、もう一度資料を見せろ。」
そんな集団の中で、一人の男が部下に指示を出す
指示を受けた部下は、持っている資料を渡した
「ふむ、エギンハイム村…人口は二百人ほどか、中々の数だな。」
「素材としては多いにこした事はありません…何せ、失敗する事が多いので。」
「そうだな…どうも、此処の人間どもとでは愛称が悪いらしい。」
男は自身の手の甲を見つめる…そこには赤い宝石が埋め込まれていた
「しかし、成功すれば良質なものが出来るからな…もっと人間どもを集めなければ。」
そう言うと、彼はもう片方の手で包み込み、握り締める
しばらく目を瞑り…その目を再び開けて、部下に指示を出した
「よし、現状のまま待機、明朝に作戦を開始する…抵抗する者以外はなるべく殺すな。」
「了解…所でリーダー、あの村の近くには翼人と呼ばれる亜人が住み着いていますが…。」
「亜人か…今の我等の人数では狩れんな、放っておけば良いだろう。」
奴等が向かってこなければ…そう言うと、部下の男は引き下がった
リーダーと呼ばれた男は腰につけている鞭を取ると、その手入れを始めた
その途中で、彼は森の奥を見つめる…その視線の先には、エギンハイム村があった
兜にジャケットという簡易的な装備をしたこの集団は、武器を手に持っている
「おい、もう一度資料を見せろ。」
そんな集団の中で、一人の男が部下に指示を出す
指示を受けた部下は、持っている資料を渡した
「ふむ、エギンハイム村…人口は二百人ほどか、中々の数だな。」
「素材としては多いにこした事はありません…何せ、失敗する事が多いので。」
「そうだな…どうも、此処の人間どもとでは愛称が悪いらしい。」
男は自身の手の甲を見つめる…そこには赤い宝石が埋め込まれていた
「しかし、成功すれば良質なものが出来るからな…もっと人間どもを集めなければ。」
そう言うと、彼はもう片方の手で包み込み、握り締める
しばらく目を瞑り…その目を再び開けて、部下に指示を出した
「よし、現状のまま待機、明朝に作戦を開始する…抵抗する者以外はなるべく殺すな。」
「了解…所でリーダー、あの村の近くには翼人と呼ばれる亜人が住み着いていますが…。」
「亜人か…今の我等の人数では狩れんな、放っておけば良いだろう。」
奴等が向かってこなければ…そう言うと、部下の男は引き下がった
リーダーと呼ばれた男は腰につけている鞭を取ると、その手入れを始めた
その途中で、彼は森の奥を見つめる…その視線の先には、エギンハイム村があった
…………