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確率世界のヴァリエール-12


浮遊大陸アルビオンの南端、軍港ロサイス郊外の古城。
昼なお暗いホールの中央に、白いコートの男が一人立っていた。
血の付いたナイフを払いコートの内に仕舞うと、ポケットから紙箱を取り出す。
「、、、ん」
軽く眉を寄せるとくしゃりと紙箱を握り潰してポケットに戻す。
ふ、と男が視線を前に投げる。
男の床の前に黒い光がこぼれ方陣を作ると、黒尽くめの男が這い出て来た。

「ハァーイ♪、おひさ死ブリDeath」

陰気に笑う男が掲げたタバコの箱からその一本を口で受け取ると、
ルーク・バレンタインはライターを取り出して火を付けた。
間久部(マクベ)が小脇に抱えている書類の束に目をやりつつ、煙を吐き出す。
「今度は何だ、賛美歌でも教えるか?」
「それも良いが、そりゃまた今度。
 金属の鋳造練成加工技術と、、それにチョイと精度の高いマスケット銃ですよ。
 魔法抜きの技術レベルにあったブツをチョイスするのが中々に大変でしてねぇ」
「まるでエデンの蛇だな」
「何せ私ゃホラ、十三課<イスカリオテ>ですからネ。 汚れ仕事は我等が本懐」
傷の奥の目がにんまりと嗤う。

「今週末の虚無の曜日までに、ここの密偵共だけは潰して置きたかったんですがー、
 イヤハヤ、相変わらずの見事なお手前。 これで「停戦会議」も滞りなく」
足元の暗がりに転がるいくつもの死体を見回す。
「それじゃ、いつもの如く血の一滴も残さぬよう、頼みマスよ。
 あーそうそう、我等が聖女様たちへ何か伝言は?」
「テファには、夕飯までに戻ると言っておいてくれ。
 黒い方には、今度あったら殺すと伝えろ」
ニヤケ顔で手を振りつつ間久部が魔法陣の中に消えていく。

床に残されたタバコの箱を拾い上げ、ルークがつぶやく。
「フン、、、悪魔め」
善人ごっこ、オーク狩り、麗しの姫を守る騎士、、すべては余興のはずだった。
この世界の実情を把握し、新しい獲物を見付けるまでの、仮の住まい、隠れ蓑。
ひとときの戯れ、すべてはそのはずだった。
(俺たちにとっちゃあ人殺しができて生き血がすすれれば なんでもかまわねーや)
頭の中に懐かしい声が蘇る。
「ックク、確かにな、、、」

べちゃり。 と、床に広がる血だまりに手をひたす。
ぞろり。 と、屠った者たちの感情が、記憶が、意識がルークの中に流れ込む。
オーク鬼やトロル鬼とは比べ物にならぬ程の、思念の熱量、思考の奔流。
驚愕。敵意。侮蔑。殺意。激怒。後悔。嘆願。渇望。絶望。諦念。狂気。
悔恨、無念、怨恨、嫌悪、遺恨怨念懇願激憤呪詛自嘲憎悪憎悪憎悪憎悪
憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪
憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪
憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎
憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎にくにくくにくににくにnnnnkknnnnn


    -  テ  ィ  フ  ァ  ニ  ア  -


混濁した意識が強引に引き戻される。
目を開ける。 床に転がる自分の右手がどろりと溶けている。
違う、違う。 目を閉じ、意識を集中し、在るべき形を思い出す。
形を取り戻した手を床に突き、ゆっくりと立ち上がる。
たかが千にも満たぬ心を、命を、魂を取り込んだくらいで。
己を失ってたまるか。
名も無き化け物になぞ、なってたまるか。
俺は、俺だ。俺は、俺だ。俺は、俺だ。俺は俺だ俺は俺だ俺は俺だ。
ぎしりと歯を噛み、ルークは笑う。
「俺は、、、俺だ!」



 確率世界のヴァリエール
  - Cats in a Box - 第十二話



「そそそ、それじゃあ、行って来るから!」

緊張で顔を赤らめたルイズをキュルケが部屋の前で見送る。
「はいはい、がんばってらっしゃいね~♪」
「ががが、がんばるって何をよ!
 魔法訓練の息抜きにちょっと遠出しようって誘って下さっただけで
 ワルド様とは別に頑張るとか頑張らないとかじゃないから!」
「えー、それなら僕も行きたいなー。
 あのグリフォンにも乗ってみたかったしー」
「だ~め。 シュレちゃんは今日は私とお留守番」
寝起きのベビードールのままでシュレディンガーの頭を抱え込む。
「ちぇー」
「わがまま言わないの。 せっかくだからコッチも朝食にしましょ。
 タバサ食堂に呼んできて」
「はーい」

==============================

シュレディンガーが消えた後、ルイズはキュルケに向き直る。
「じゃ、シュレの事頼むわね。
 夏休み中でヒマだからって私のいない間に
 あの子にちょっかい出さないでよ」
「出さないわよあのコには」
呆れ顔で即答するキュルケに、ルイズはそれはそれでと不満に思う。
「そういやキュルケ、年がら年中サカってるくせに
 シュレにだけは手ぇ出そうとしないわね」

「あらアンタ、あのコの飼い主なのに気付いてないの?
 危険な香りのする殿方ってのも魅力的だけどね、
 あのコの中に居るのは「死神」よ。
 アタシはそこまで命知らずじゃないの」
「、、、?」


(やっぱり制服は無かったかしら、もうちょっと地味目でも夏物の、、)
考えながら中庭を歩くルイズの元へ一人の少女が駆けてきた。
「はいっ、ルイズさん!
 頼まれていたサンドイッチとワイン、
 それに今朝一緒に作った、焼きたてのクックベリーパイですよ!」
「あ、ありがと、シエスタ」
「ついにワルド様とデートですね。
 頑張ってくださいね、ルイズさん!」
シエスタが屈託無くはしゃぐ。
「そそそ、そういうのじゃ、、、!」
顔を火照らせてどもるルイズの手を取り、
シエスタは真剣な面持ちでルイズを見つめる。
「ルイズさん、女は度胸です!」

「それじゃあ、ルイズさん」
走り去ろうとするシエスタに、おずおずとルイズが声をかける。
「そ、その、シエスタ」
「はい? 何でしょう、ルイズさん」
「あ、、、ありがと」
「っふふ、はいっ!」

「うわー、青春ねぇ、ギーシュ」
「そうですねぇ、お姉さま」
カフェテラスでその様子を眺めていたモンモランシーとケティが
ギーシュを横目にうっとりとつぶやく。
読んでいた本から目を上げ、ギーシュが一つあくびをする。
「ふわあ、ん。 あのルイズにもやっと春到来か。
 いやいや、めでたいね」


「お、おま、お待たせしました!!」

「やあ、おはようルイズ」
門の外に立っていたワルドが優しく微笑みかける。
「いや、こちらも今着いたところさ。
 済まないね、まだ夏休みに入ったばかりだと言うのに」
「い、いえそんな、ぜんっぜんヒマです!」
「そうか、それは良かった」
親しげに首を寄せてくるグリフォンの頭をなでながら
ルイズへにっこりと笑う。

「訓練ばかりじゃあ気が詰まると思ってね。
 たまには気晴らしに、と思っていたんだが。
 喜んで頂けたようで何よりだ」
「い、いえ、こちらこそ
 誘って頂いてありがとうございます」
ルイズははにかみながらバスケットを抱え込む。

「おや、それは?」
ワルドがルイズの手に持ったバスケットを覗き込む。
「シエスタに頼んでランチと飲み物を。
 それにその、シエスタに習いながらなんですけど、
 自分でクックベリーパイを、、作ってみたんです、けど」
「そうか、それは楽しみだ!」
ルイズから受け取ったバスケットを鞍の後ろに積むと
そっとルイズの手をとる。

「それではお手を、お姫様。
 空中散歩と参りましょう」

  。。
 ゚○゚


「うわ、うわ、うわあーー!!」
満面に笑顔を浮かべ、ルイズが思わず声を上げる。
「わあ、ワルド様!
 学院がもうあんなに小さく!」
グリフォンの首にしがみつきながら、後ろのワルドを振り返る。
ルイズの体を抱え込むように手綱を取りながら、
ワルドははしゃいだ声を上げるルイズに微笑み返す。
不意に近づいた顔と顔に、ルイズは照れて前へと向き直る。

「気に入ってくれて嬉しいよ、ルイズ。
 空を飛ぶのにはもう慣れているんじゃないかと思ったけれど」
「いえ、いっつもは飛ぶんじゃなく落ちるばっかりで」
「ははは、そうかい」
晴れ渡る空の下、二人を乗せたグリフォンが強く羽ばたく。

Vの字に並んで空を舞っていた雁の群れが、
二人を覗き込むようにゆっくりと近づく。
「おや、どうやら僕らの道案内をしてくれるようだ」
「あははっ」
思いがけず現れた道連れに笑い声がこぼれる。

雲をよけ、森を渡り、丘を越えて、川を上る。
グリフォンは風にのり、ゆったりと滑空する。
時折足元を過ぎていく小さな村々。
子供たちが手を振り追いかけてくるのへ
ルイズは空から手を振り返す。

やがて遠く連なる山々が近づいた頃、
森の切れ間から小さな湖が現れた。


ふわり、と湖のほとりへ舞い降りる。
瑞々しい青草が羽ばたきになびく。

「わあ、きれい、、、」
夏の高原を渡った涼やかな風が二人に触れる。
「それは良かった」
ワルドがルイズの隣に降り立つ。
「ずいぶんと前にここを見付けてから
 どうしても一度、この景色を君に見せたくてね」

高く上った陽を受けて湖面がきらめく。
遠く山々は青く澄み、森は深く二人を包む。
小鳥たちは水辺に遊び、楽しげに歌をさえずる。

「少し長く飛んできたけれど、疲れてはいないかい?」
「い、いえ、ぜんぜん平気で、、!」
そう言おうとした時に、ルイズのお腹が可愛らしい音を立てる。
耳まで真っ赤になりながら涙目でルイズが弁明する。
「いや、あのワ、ワルド様! これはその、、、」
(ああ、やっぱり朝に少しでもなにかつまんでおけば、、、)
泣き出しそうなルイズの頭をくしゃくしゃと撫でると
ワルドは朗らかに笑う。

「じゃあ、少し早いがお昼にしようか。
 実は僕も君の作ってくれたクックベリーパイが
 朝からずっと食べたくって仕方がなかったんだ」
「は、はいっ!」
ルイズは涙を拭いてワルドに微笑むと
バスケットを鞍の後ろから取り出した。


「ふう、きもちいい、、、」

二人で草の上にごろりと仰向けになる。
ワインで火照ったルイズの頬を湖面からの風が撫でる。
グリフォンもさっきまでは干し肉をかじっていたが
二人に習って昼寝を決め込んでいる。

「また、こうして二人で来たいな」
「、、、はい」
「来年も、再来年も、十年後も、ずっと、、、」
「え、、、」
「、、、ルイズ」
「は、はいっ!」
ルイズが期待と不安にびくりと身をこわばらせる。

腕組みをして空を見上げたまま、ワルドが語りかける。
「実は君に、話しておきたい事があるんだ」
「ななな、なんでしょう!」
「今週の週末、虚無の曜日にアルビオン王国と
 貴族派、、神聖アルビオン共和国は停戦会議を行う」
「は、はい、これでやっとアルビオンにも平和が戻ります」

「そうだと良いんだが」
「、、え?」
「まだはっきりとは分らないが、貴族派に不穏な動きがある。
 狙いは王党派ではなく、、、
 このトリステインだ」

「そ、そんな、なぜ今になって!」
ルイズが体を起こし不安げにワルドを見つめる。
「分からない。 なにか企みがあるのかもしれないし、
 もしくは向こうも一枚板ではないのかもしれない」
「、、、ワルド様」
「もしも、このトリステインへ貴族派が直接侵攻する事になれば、
 貴族派への密偵であるこの僕も、危うい事となるだろう」
「止めてください! そんな!」
「大丈夫、僕も腕に覚えはある。
 そんな事で命を落とすつもりは無いよ。
 しかし、もし君が支えてくれるのなら、、、
 こんなに心強い事はない」
「、、、」
ワルドが起き上がり、ルイズの手をそっと握る。


「僕と結婚しよう、ルイズ」


「え、、、」
「ずっとほったらかしだった事は謝るよ。
 婚約者だなんて言えた義理じゃない事も判っている。
 でもルイズ、僕には君が必要なんだ」
「ワルド様、、、!
 で、でも私、貴族としてもまだ全然で、
 それに魔法、魔法だって何一つまともに使えないし!」
「そんな事は無い。
 君は他人には無い特別な力を持っている。
 僕とて非凡な使い手ではないと自負している。
 だからこそ、それがわかる。
 例えば、そう、君の使い魔」
「シュレディンガー、のこと?」

ワルドの目が光る。
「彼の持つ力はとても特別なものだ。
 誰もが持てる使い魔じゃあない。
 そして、それを召喚し使役できる君も
 それだけの力を持ったメイジなんだよ」
「でも、でも、、、」
「もしかして、あの使い魔君が、、、
 君の心の中に居るのかい?」
「ちょ! 違います!
 アレはただの使い魔っていうかペットです!
 そういうんじゃなくって!」
「え? いや、ゴメン!」

ぶんぶんと手を振り回し力いっぱい否定するルイズに
ワルドは慌てて手をかざし詫びる。
「すまない、僕も急ぎすぎた。
 もしかしたら、僕は使い魔君に嫉妬しているのかもしれないな」
「そんな、あの猫耳頭ときたら使い魔のくせに
 短気でわがままで甘えん坊で皮肉屋で、それは困った奴なんです!」
「ふふっ、まるで自己紹介を聞いているようだね」
「そんな、酷いですわワルド様!」
「はっはっは、ゴメンゴメン。
 でもね、彼と居る時、彼の話をしているときの君は
 とても自由で素直で可愛らしく見える。
 僕の前でももっと見せて欲しいんだ、素顔のままの君を」
「いやだ、ワルド様ってば、、、」
頬を染めてルイズが下を向く。

「僕はね、シュレディンガー君が羨ましい。
 彼の力は特別だ、君にとってただ一人の使い魔だ。
 この世界のどこへでも、君を連れ去ってしまう」

ワルドはルイズの頬に手を置き、そっと目を合わせる。
「だからこそ、君がどこへ行こうとも平気なように
 僕も君にとっての特別なただ一人になりたい。
 この世界のすべてから君を守る、姫を守る騎士でありたい。
 ルイズ。 僕に君を、守らせてくれ」
「、、、ワルド様」

ざざ、と。
二人の間をぬい、風が草を撫でてゆく。
ワルドがゆっくりと立ち上がる。
「今週末、アルビオン停戦会議に先駆け、ゼロ機関の長として
 僕はウェールズ皇太子とお会いする事になっている。
 場所はニューカッスル、もちろん君も同席の予定だ」
「、、、」
「そこで、返事を聞かせてほしい」
「、、、はい」
こくり、とルイズは小さく頷いた。


湖を見ながら、ワルドが一つ伸びをする。
「ルイズ、覚えているかい?
 あの約束をした日、ほら、君はお屋敷の中庭で」
「あの、池に浮かんだ小船?」
ワルドが頷いた。
「君はいつもご両親に怒られたあと、あそこでいじけていたね」
「ほんとにもう、ヘンな事ばかり覚えているんですね」
恥ずかしそうに俯くルイズへ、楽しげに話す。
「そりゃ覚えているさ。
 君には嫌な思い出なのかもしれないが、
 あの日の約束はずっと、僕にとっての宝物だった」
ワルドがくすりと笑う。

「もう一度あの日のように二人で船に乗りたいと思ってね。
 実はこの先に小船を隠しておいたんだ。
 とって来るから待っていてくれるかい?」

子供のように駆け出していく姿を目で追いながら
ルイズは突然の告白に心の整理を付けかねていた。
ワルドの姿が見えなくなるとぺたりとその場に座り込み、
そばで眠ったままでいるグリフォンの喉をゆっくり撫でた。
「はあ、どうしよう。
 私あなたのご主人様にプロポーズされちゃったわよ」
ころころと気持ちよさげな声を上げるグリフォンを見つつも
思わず頬が緩む。

むずむずとした衝動を堪え切れず、草の上に大の字になる。
「うっわー、どーしよ、どーしよ!
 ワルド様からプロポーズされちゃったわよ私!」
ごろごろと身悶えるルイズの視界に
空から降ってきた何かが映った。


絹を裂くような悲鳴が湖にこだました。
「!!」
杖を抜いて走り出したワルドの耳に
少し遅れてグリフォンの雄たけびが届く。

湖畔の斜面を全力で登り切る。
ルイズの元に戻ったワルドを出迎えたのは、
明らかに野盗と思われる風体の男たちだった。
グリフォンは杭を打たれた投網の中でもがき、
ルイズは野盗の一人に後ろ手に捕まれ、
喉に山刀を据えられている。

「ワルド様、私は構いません!
 こんな奴ら、やっつけて下さい!」
ルイズの言葉に野盗たちが大声で笑い出す。
「姫様はこうおっしゃっているが
 どうするよ、色男!」
「魔法で俺たちをふっ飛ばしたあと
 この娘っこの首だけ持って帰るかね?」
ぐい、と山刀でルイズの顎をあげる。

「物取りの類だろう、金ならくれてやる!
 今すぐにルイズを離せ!」
ワルドが杖を突きつけ言い放つ。
「そのおっかねえのを捨てたらな!
 そら、その杖をこっちに投げてよこしな!」
頭目と思しき男が叫ぶ。
「駄目ですワルド様!」
悲痛な声を上げるルイズの髪をつかみ上げ
男が耳元で怒鳴る。
「おめえは黙ってろってんだ!!」

「、、、」
ワルドが無言で杖を前に放る。
「ワルド様、、!」
ワルドが放り投げた杖を頭目が拾い上げる。
「ほう、こいつぁ良い値がつきそうだ。
 おい、予備の杖を持ってないか調べな」
一人を顎でしゃくると、その男がおそるおそる
ワルドへ近づき、マントを剥ぎ取ると
持ち物を調べていく。
「こいつもいただきだ」
ワルドのつば広帽を奪い、自分の頭に載せる。

「頭ぁ、他にぶっそうなもんは何にもありやせんぜっ! っとぉ」
振り上げた山刀の柄でワルドの頭を殴りつける。
「ぐあっ!」
「ワ、ワルド様!!」
倒れこむワルドを見て、ルイズが絶叫する。
「貴族か何だか知らねえが威張り散らしやがってよう!」
「おいおい、あんまり乱暴な真似はしてやるなよ、俺らと違って
 お上品な育ちなんだぜ? 貴族ってなあ」
「だから世の中の厳しさを教えて差し上げてんじゃねーか」
「あっはっは、ちげえねえ!」
男たちがげらげらと笑いながらうずくまるワルドを
交互に蹴りまわす。

「やめなさいよ、あんたたち!!
 離せえ、離しなさい!」
涙ながらに叫ぶルイズのマントを捕まえていた男が引きはがす。

「くそ、ルイズには手を出すな!」
ふらふらと起き上がるワルドを一瞥すると、男は
ルイズを草むらへ突き飛ばす。
「はあ? てめえじゃあるめえし、
 誰がこんな乳臭いガキを相手にするかよ。
 、、、大切に抱え込んでたと思ったら、なんだこりゃ」
男はルイズの懐から奪った、古びた革表紙の本をめくる。
「ああっ、『始祖の祈祷書』! 返しなさいよ!」

「学の無えお前にゃ、祈祷書なんぞ無用の長物だろ」
野盗の一人がげらげらと笑う。
「うるせえ、祈祷書どころか何にも書いてねえ、白紙じゃねえか!」
男は祈祷書を投げ捨てるとワルドに駆け寄り蹴りを入れる。
「ちっ、もちっと良いモン持ってねーのかよ!」

ワルドの身に付けていたものとグリフォンの鞍周りを
調べ終わった男が頭目の元へと向かう。
「どーするよ頭ぁ、多少の金貨は持ってたけどよ。
 しけてやがる」
「グリフォン殺して嘴取っとけ、薬屋に売れる」
「このハンサムはどうしやす?
 やっぱ後腐れがねえように」
「いや、契約にゃ、、、!?」
男たちが視線を向けたその先には、右手に杖を握り
始祖の祈祷書を拾い上げたルイズの姿があった。

「ワルドを、、、ワルドを放しなさい!!」

  。。
 ゚○゚


「ん?
 シュレちゃん、どしたの?」
トリステイン魔法学院のカフェテラス。
隣のイスのシュレディンガーをキュルケは怪訝そうに見つめる。
「どうしたんだい? ネコ君。
 君の手番だよ」
対面のギーシュがチェス盤をとんとんと叩く。
「ん、、、あれ? 目がヘンだ」
シュレディンガーがこしこしと目をこする。
「疲れちゃいました?
 お冷でも持ってきましょうか、シュレさん」
シエスタが心配げに顔を覗き込む。
「うわ! なんか見える!」
「はっはっは、チェスに負けそうだからって、、、
 え? ネコ君、その手袋の中」
ギーシュの指し示すその先、シュレディンガーの
右手袋の中からは、金色の光が漏れこぼれていた。

「わわ、それってもしかして使い魔のルーンが光ってるの?」
不思議そうな顔で覗き込むモンモランシーに答えず、
シュレディンガーは前を向いたまま呆然とつぶやく。
「右目に、右目だけ何か見える、、、
 これって、、ルイズの、視界?」
離れた席で一人本を読んでいたタバサが
ぱたりと本を閉じ、顔を上げた。

「ルイズが、危険。」

  。。
 ゚○゚


「脅しじゃないわ、離れなさい!!」
野盗たちに杖をかざし睨み付ける。
「おお、おっかねえお嬢ちゃんだ。
 だがそんなちびた杖でどうしようってんだ?
 さっきこのハンサムと話してるのを
 おっちゃんたち聞いちゃったのよ。
 まるで魔法を使えねえんだってえ?」
その言葉に周りの男たちもげらげらと笑う。

「ぐっ、、!」
ルイズは声を詰まらせる。
(こうなったらいつもの様に魔法を失敗させて爆発を!)
小さな杖を握り締めるが、すぐに思い止まり歯噛みをする。
野盗たちの中心にはワルドが倒れていた。

シュレディンガーとアルビオンを飛び回り、
いくつもの船を沈め、いくつもの砦を破壊した。
いつしかこれが自分に与えられた魔法なのではとも思った。
だが。

何度も起こしてきた爆発の中で、ルイズはその特徴を掴んでいた。
強い爆発を起こすには、大きな範囲を巻き添えにする事が必要だ。
短く詠唱をする事で小さな爆発も起こせるが、
それでは人一人弾き飛ばす事さえできない。
野盗たちを吹き飛ばすには、どうしてもワルドを巻き込んでしまう。

じわり、と悔し涙がにじむ。
何が、『虚無の魔女』だ。
使い魔の力を自分の物とはき違え、図に乗っていただけだ。
肝心な時に自分ひとりでは何も出来ない。
アーカードに胸を張り言い放った。
「お前を打ち倒す」、と。
なんて傲慢な、なんて恥知らずな言い草だったろう。
貴族とは名ばかりの、魔法一つ使えぬ、ただの小娘。
杖を握る手が小さく震える。

「わっはっは、手が震えてるぜ、お嬢ちゃん!」
「ぼ、僕のことは良い、逃げろ、、ルイズ、、」

逃げ出せる訳も無い。
逃げて、どこへ行けというのか。
どこにも逃げ場所など無い、どこにも居場所など在る筈も無い。
魔法の使えぬ貴族なんて、この世界のどこにも。
懐かしい誘惑が心の底からゆっくりと這い出でる。
「絶望」に抗う力などもう残っていなかった。
胸の中に、じくじくと空洞が広がっていく。
そこがどこにつながっているのか、自分は知っている。
自分にはお似合いの場所だ。
世界に存在を許されぬもののたどり着く場所。

『虚無の地平』


「さ、杖をおろしなお嬢ちゃん。
 痛かあ、しねえからよ」
警戒しつつも一人の男がじりじりとルイズへにじり寄る。

「、、、、、」
「ああ? なんだって?」
ルイズの小さな呟きに、近づいて居た男がびくりと足を止める。

「、、、エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ、、、」

「お、おい、これ!?」
男が慌てて後ろの仲間を振り返る。
「なーに泣きそうな顔してんだよ!」
「さっき言ってたろ? そいつは魔法を使えねえ!
 ハッタリだハッタリ!」
後ろでにやけながら野次を飛ばしていた仲間の野盗たちが
突然に息を呑み黙り込む。

「お、おい、どうしたってんだよ?!」
振り返った男の目に映ったのは、
ルイズの左手に掲げられた祈祷書の放つ、淡い光だった。
そのページが風も無くぱらぱらとめくれていく。
「あ? お、、ぐっ、、、!!」
男の足が止まり、額から汗が吹き出る。
それは、先程まで目の前に居た少女ではなかった。
その目は瞳孔を大きく開いて虚空を見据え、その口は朗々と淀みなく詠唱を紡ぐ。
じわり、とにじむように、男の目の前の空間に小さな穴が開く。
光さえも飲み込む、紫電をまとった虚空への穴が。

「、、、オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド、、、」


 †


神聖アルビオン共和国首都ロンディニウム、その地下。

蜀台の明かりの揺らめくテーブルの向こうで
アーカードはクスクスと小さく笑った。
「ど、どうなされました?」
向かいの席からおびえた声をかけるクロムウェルに応えず
アーカードは優しく、嬉しげに、うっとりと微笑んだ。
頬をゆがめ、ぎちりと笑ったその口元から牙がこぼれる。

「っはは、待ちかねた、、
 来たぞ、、、虚無の淵から、魔女が来た、、」


 †


驚くほどに意識は澄み切っている。
ルイズはやっと理解した。

単純な事だ。
火の系統のメイジは火の力を操る。
水の系統のメイジは水の力を操る。
風は風を。 土は土を。 ならば。
これが己の力。 己の系統。 そして己の運命。

目の前で膨れ上がっていく漆黒の穴を見つめる。
恐れる事はない。
この先は私自身の、いつか還る場所なのだから。
指にはまった水のルビーが熱を帯び、意識をつなげる。
祈祷書の知識が、始祖ブリミルの意思が頭の中に流れ込む。
『虚無』の呪文の初歩の初歩の初歩。

『バニッシュメント(追放)』


「か、頭ぁ、お頭ァ!!
 俺ぁ、どうすりゃ?!」
ルイズの目の前でおろおろと立ちすくむ男が
涙目で後ろを向き叫ぶ。

「くっそ、聞いて無ぇぞこんな事ぁ!
 構わねえ、そのアマぁ頭がトンでら!
 杖をぶんどれ!!」
「で、でも球が! 真っ黒い球が!!」
男とルイズの間に生まれた黒球は、
放電を繰り返しつつオーク鬼の頭ほどにも成長していた。

「剣で払うんだよ! 手首ごと落としちまえ!」
「いかん、ルイズ!!」
「てめえは黙ってろ!」
ワルドを押さえ込んでいる男が上から殴りつける。

「あ、あ、あ、、!」
黒球の前の男はかちかちと歯を鳴らしながら
腰の山刀を抜き放った。 その時。
==============================
「ルイズ、大丈夫?!」

突然そこに現れたシュレディンガーの姿に野盗たちが固まる。
「シュ、シュレ?!」
ルイズが詠唱を止め、驚きの声を上げる。
そのとたん、ルイズの杖の先に生まれた黒球が
制御を失ったかのようにゆっくりとぶれ始めた。
「え? あ? あわわ」

「こいつも仲間か?!
 畜生、畜生!!」
突然現れた亜人の姿にパニックを起こした男が
山刀を振り上げ、シュレシンガーに斬りかかる。

「嫌、危ないシュレ!!」
ルイズが咄嗟に男に杖を向けたその瞬間。

ぱぁんっっ!

破裂音が響き、黒球は消え失せた。
ルイズの目の前で、きょとんとした顔のまま
シュレディンガーと男が立ち尽くす。

「え?」
男は何が起こったのかも分らず、辺りを見回す。
あの恐ろしげな魔法の球は何だったのか。
そういえば振り上げた剣がない。
草むらの中に光る何かが落ちている。
「え?」
よく見ればそれは剣先だ。
丸く切り取られたようなつややかな断面を晒した
手のひらほどの金属片が落ちている。
拾おうとして、自分の腕が肩口から
無くなっている事に気付いた。
「え?」

ルイズの前で鮮血を撒き散らしながらくるくると回る
その男の肩は、まるで大きなスプーンで
すくい取ったかのように丸い断面を晒していた。

「お゛、、あ゛、あ゛、、、」
がたがたと震えながら男が肩を抑えその場にへたり込む。
「ルイズ、大丈夫?」
シュレディンガーが駆け寄り、呆然と立ちつくすルイズの手を取る。
ルイズは、心配げな表情を浮かべたシュレディンガーの瞳に映り込む
血に塗れた女の顔をぼんやりと眺めていた。
(、、誰だろう、怖い顔、、、)

「そん、な、、」
言葉をつまらせる野盗の頭目の後ろで声が響く。
「そこまでだ」
隙を突いて起き上がったワルドの手には、奪い返した杖が握られていた。
「見逃してやる。 あの男を連れて去れ」
額から流れる血をぬぐいながら、片腕を失いうずくまる男を杖で指す。

男を担ぎ逃げ去っていく野党に目もくれずに、
ワルドはルイズの元へと駆け寄った。
「大丈夫かルイズ! すまない、こんな事に、、」

「来ないで!!」

背を向けたままの少女の強い拒絶に、思わずワルドは立ち止まる。
「ご、御免なさい、ちがうんです、、、
 でも、私、今の顔、、
 ワルド様に、見られたくない、、、」
「そうか、、、
 シュレディンガー君、ここはもう良い。
 ルイズを、頼む」
ワルドは少女の背中越しにシュレディンガーを見つめる。
少女の使い魔はこくりと頷くと、二人の姿はその場から消え去った。


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「落ち着いた?」
「うん、ありがと。
 もう大丈夫」

自分の部屋にたらいを持ち込んで内風呂をした後、
キャミソールに着替えたルイズはベッドの上に寝転んでいた。
替えのタオルを抱えて来たシュレディンガーは、
そのタオルで湯気を立てるルイズの髪を優しく拭いていく。
「、、、シュレ」
「ん?」
「あのとき、助けに来てくれて、ありがと」
虚無の力に飲み込まれそうになる、あの絶望的な陶酔が
ルイズの脳裏に蘇る。
「なーに言ってんのさ、ボクはルイズの使い魔なんだよ。
 どんなピンチの時だって、
 ボクがルイズを守ってあげるってば」
タオルごと、ルイズの頭を後ろからぎゅっと抱きしめる。
「、、、うん」
自分を抱きしめてくれるシュレディンガーの腕に、
ルイズはそっと自分の手を置いた。


その夜。
シュレディンガーの胸に包まれて。
安らかなその寝息を聞きながら、ルイズは思い返していた。
(私、あの時、、、)
シュレディンガーの瞳に映った、血まみれの顔がよみがえる。
思わずルイズは頭から毛布をかぶる。


(、、、笑ってた)


 †




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