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memory-05 「大鷲、再び」


西暦2012年
地球――某国
アサシンの隠れ家



「デズモンド、起きて」
「んっ……」

 デッキチェアーに横になっていた男性が閉じていた瞼を開ける。
ぼやけていた視界が次第にはっきりと見えてくる、目の前には自分を起こしてくれた金髪の女性が立っていた。
その横で、パソコンのディスプレイを見つめていた女性がうれしそうに声を上げた。

「おどろいたわ! トリステイン? 魔法使い達の学校だなんて、まるでファンタジーの世界じゃない!」
「デズモンド、君のご先祖はずいぶんと波乱の人生を送ってきたようだな」

 眼鏡をかけた男性が、椅子から立ち上がり、こちらへ近づいてきた。

「ショーン、茶化さないで、レベッカも」
「なぁ、ルーシー、どうすればいい? このままエツィオと同調を続けるのか? まるでこれじゃ、ジャパンのアニメじゃないか、なんだか訳がわからなくなってきたぞ?」

 デズモンド、と呼ばれた男性が小さく頭を振りながら金髪の女性に尋ねる。
もはやわけがわからない。いつも通り『アニムス』を使い、先祖であるエツィオと同調していたら、いつの間にかファンタジーで異世界である。
ルーシーと呼ばれた女性がデズモンドの肩に手を置いた。

「だから起こしたの、この頃のエツィオと同調するのは危険よ……アルタイルの時を覚えてる? エデンの果実に近いほどあなたの身体が拒否反応を起こすことを」
「あぁ、確か同調率がどうとか言ってたな」
「そうよ、この記憶を辿るにはあなたはエツィオと同調しきっていないの」
「同調しきっていないって……今まで順調だったぞ? この先どうするんだ?」
「……あのルイズって女の子とのキスを覚えてる? あの子は契約って言ってたけど」
「あぁあれか、子供は趣味じゃないが、久しぶりに胸がグッときたよ、これがジャパンのMOEって奴なのかな?」
「……それは置いておいて、あのあとエツィオに刻まれたルーン、あれが問題なのよ」

 ルーシーはレベッカと呼ばれた女性の横に立つと、パソコンのディスプレイをデズモンドに見せた。

「あのルーンが刻まれてから、エツィオの身体能力が全盛期のそれを大きく上回ったの、この数値は異常よ」
「……といっても、この画面をみても俺にはピンとこないんだけどな」

 デズモンドは肩を竦める。ルーシーは一つ小さくため息をつくと説明を始めた。

「元々エツィオは『最強のアサシン』よ、その身体能力は計り知れないわ、
だからあなたの身体を馴らしていくために、誕生の瞬間からエツィオと同調させてきたの、流入現象をスムーズに利用するためにもね」
「なるほど、だから赤ん坊から、それで? なにが問題なんだ?」
「エツィオがいきなり全盛期以上の身体能力を得てしまうとなると、あなたも精神崩壊は免れないわよ」
「16号のようにか」
「それだけじゃないぞ、デズモンド」

 ショーンと呼ばれた男が、やれやれといった風に肩を竦める。

「15世紀のイタリアなら、情報提供ができるが……相手が異世界じゃな……さすがの僕もお手上げだ」
「それじゃ、この先どうするんだ? 今ギーシュってガキとやりあってる途中なんだが……」
「そこは大丈夫よ、エツィオは二年後に再びロレンツォの前に姿を現しているの、おそらく無事に帰還できたんだわ、
今回は時間もないし……そこから同調を再開させるわね、残念ながらこの世界のことは後回しよ」
「堅いことを言うなよ、と言いたいところだけど、僕らにはあまり時間も余裕も残されていないのが現実だ」

 残念そうにショーンが呟く、デズモンドが小さく笑いながらアニムスに腰かけた。

「異世界旅行か……アニムスにはあまりお世話にはなりたくないが、テンプル騎士団との戦いが終わってからなら、この頃のエツィオと同調するのも悪くはないかもな」
「その時はぜひ、その世界に行ける方法を見つけ出してくれよ、デズモンド」
「あぁ、是非とも見つけたいものだな」

 二人の様子を見て、ルーシーが呆れたように呟いた。

「男の人ってどうしてこうかしらね? レベッカ」
「さぁ? ロマンってやつじゃない? まぁ、わからなくもないけどね、それじゃデズモンド、横になって、始めるわよ」
「わかった、……エツィオには悪いが、俺たちは一足先にフィレンツェ……地球に帰らせてもらうか」

 デズモンドが再びアニムスに横になる。
パソコンのデスクトップを見つめ、ルーシーが小さく呟いた。

「差し詰め、ここの記憶はLost sequence(――失われた場面)ってところかしらね」

 同調を開始し、アニムスの世界に立ったデズモンドが呟く。

「あのルイズって女の子……似たような奴がどっかにいたような気がするんだよな……」
「そう? そんな子いたかしら?」

 やがて一人の人物が該当したのか、デズモンドが両手を打つ。

「……あぁそうだ思い出した! エルサレムの管区長! マリクだ!」
「あぁ、彼、最後辺りとかすごかったわね、彼女もいつかあんな風になるのかしら?」
「ははっ、それは見ものだな」

 想像したのかデズモンドが笑みを漏らす。
やがて急速に意識がアニムスに呑みこまれるのを感じた。
デズモンドの前に15世紀のイタリア、フィレンツェの街並みが再現されていく。
アニムスの機械的なアナウンスが聞こえてきた。





――記憶を早送りし、次の場面に移ります――






「驚いたな……」

 思わず感嘆の呟きを洩らす。まるで粘土の塊を貫いたような感触。
エツィオが突き立てたアサシンブレードはゴーレムの首関節を捉え、深々と貫いていた。
青銅製のゴーレムを貫いてなお、アサシンブレードは折れることなく貫通し、地面にまで突き刺さっていた。
アサシンブレードを引き抜き、収納する、同時にルーンの輝きが消える。
周囲の人間の目にはエツィオがただ、ゴーレムを押し倒しただけと映っているだろう。

「ッ!?」

 首を貫かれながらも動き出したゴーレムに、エツィオはあわててその場から飛び退く。
忘れていた、相手は『魔法』で動いているのだ、アサシンブレードでの一撃では致命傷足り得ない。
せめて剣があればよいのだが、フィレンツェでの逃走劇で失ってしまっている。
小さく舌打ちし策を練る、人間相手なら先ほどの一撃で即死させる事が出来るが、魔法で動くゴーレムには微々たるダメージを与えるだけのようだ。

「押し倒すだけかい? それでは僕のゴーレムは壊せないよ?」

 ギーシュは余裕の笑みを浮かべている。
ゴーレムは立ち上がると、再びエツィオに向かい突進してきた。

「これは失礼、レディをいきなり押し倒すなんて紳士のすることじゃないな」

 軽口を叩きながらエツィオが迎え撃つ。一撃で仕留めることこそ出来ないが、通じないわけではない。
放たれた右ストレートを払いのけ、今度はこめかみにアサシンブレードを叩きこむ。
ぐらりと体勢を崩したゴーレムの身体に、エツィオは次々アサシンブレードを繰り出した。
青銅のゴーレムを貫いているとは思えないほど柔らかい感触が伝わってくる。
目にもとまらぬアサシンブレードの刺突がゴーレムの身体を貫いていく。
最後の仕上げと、ゴーレムの首に両手を当て、二本のブレードを交差させ掻っ切った。
元々刺突用として造られているアサシンブレードが、まるで粘土のように青銅のゴーレムを切り裂いた。
べろん、と切断された首がだらしなく垂れ下がり、ふらふらと倒れこむ。
どしゃり、と音を立て青銅のゴーレムが地に付した。

「な……な……」
「……まったく、なんてタフなご婦人だ」

 エツィオは手のひらを叩きながら、苦笑する。
ギーシュは目の前で起こったことが信じられないといった様子でうめき声を上げた。
彼が何をしたのか、早すぎて何もわからなかった。
見ればゴーレムにはなにかで刺突された痕が無数に残っている。
首元に残る、鋭利な刃物で切り裂かれたような痕が痛々しい。

「なっ! なにをしたんだ!」
「さあ? なんだろうな」

 エツィオが悠然とギーシュに向かい歩を進めていく。
マントに隠れた左手から鈍く光る短剣が覗いている。
おそらくはあれでゴーレムを滅多刺しにしたのだろう。
ギーシュの顔がみるみる青くなっていく、これ以上接近を許したら、自分もゴーレムと同じ目に遭ってしまう!

 ギーシュは慌てて薔薇を振った。花びらが舞い、新たなゴーレムが六体現れる。
そのゴーレムの手にはそれぞれ槍や、剣、斧などの武器が握られていた。
丁度いい、アサシンブレードでチマチマ刺すより、効率がいい方法をわざわざ相手が用意してくれた。
エツィオがフードの中で薄く笑う。

「そうだな、決闘には武器を使うものだ」

 エツィオは優雅に一礼し、ゴーレムの群れに向かい手を差し伸べる。

「それでは、お集まりのご婦人がた、わたくしと踊っていただけますか?」
「いっ! 行け! ワルキューレ!」

 挑発を受けたゴーレムがエツィオを取り囲み、一斉に襲いかかった。
そして一気に揉みつぶす……かに見えた瞬間、包囲網を突き破り、二体のゴーレムとエツィオが飛び出した。
右手と左手、それぞれゴーレムの眉間にアサシンブレードを突き立てそのまま前方に押し倒す。
倒した衝撃でゴーレムが持っていた斧と槍が宙を舞う。
エツィオは落ちてきた槍をつかみ取ると、倒れているゴーレムに突き立て、地面に縫い付けて動きを封じた。

「ちょっと借りるぞ」

 誰に言うわけでもなく呟いたエツィオは、地面に突き立った両手斧に手をかける。
ルーンが光り出し、体が軽くなる。ありがたいことに、どうやら全ての武器に対してこの効果は有効なようだ。
本来ならば片手で扱うようなものではないが、エツィオは右手で軽々と両手斧を振い、倒れているもう一体のゴーレムを両断する。
金属がひしゃげる音とともに、ゴーレムの胴体が真っ二つに切断された。

「おい! 本当に青銅製なのか?」

 斧を肩に担ぎながらエツィオが小馬鹿にした様子でギーシュに話しかける。
そのまま斧を振い、彼に襲いかかろうと間合いに入り込んだゴーレムの胴体を豪快に切断した。
続けざまに残ったゴーレム達を屠って行く。そのあまりに異様な光景にギーシュは咄嗟に残りの一体を自分の盾に置いた。
次の瞬間、そのゴーレムの頭にエツィオが放り投げた斧の刃がざっくりと突き刺さり豪快な音を立てて倒れこむ。

「ひぃっ!?」

 あっという間に全てのゴーレムを平らげたエツィオは、腰を抜かしたギーシュに向かい歩いて行く。
ギーシュは、まるで死神を見ているかのような表情で歩み寄るエツィオを見上げた。
フードの中身は影になっており、笑っているのか、はたまた無表情なのか、彼の表情をのぞき見ることはできなかった。
彼が小さく両腕を広げる、開かれた両手から二本のブレードが勢いよく飛び出した。
鈍く光るそれは、まるで死神が振う剣を連想させる。

「あ……ぁ……」
「ギーシュ・ド・グラモン、お前には、我が家名を侮辱した償いを受けてもらう」

 迫りくる恐怖にもはや声すらも出ない、そんな彼に追い打ちをかけるようにエツィオが口を開いた。

「汝、怖れより解き放たれよ。眠れ、安らかに――」

 言葉が終わるや否や、エツィオはギーシュに猛禽のごとく飛びかかる。
大鷲が獲物を捕らえるように、エツィオは左手をギーシュの首に向け突き出す。ブレードがみるみる迫ってくる。
やられる! 思いっきり目をつむった。
広場に悲鳴が響き渡る。地面に強く押し倒され、首を掴まれる感覚、
あぁ自分は殺されたんだな……。死ぬ時は一瞬か、痛くもなんともないや……。そう思った。

「っ……! あ……あ……あれ?」

 しかしいつまで経っても意識ははっきりしているし、広場の喧騒も聞こえる、
第一痛くも痒くもない。あるのは首根っこを掴まれている感覚だけである。
ギーシュが間抜けな声を出しながら恐る恐る目を開ける。
目の前にはフードを被った男が自分の首を掴み、してやったりといった表情で笑っている。

「なんてな、冗談だ」

 エツィオはギーシュの首から手を離すと、ぽんと、肩に手を置いた。
ギーシュは何度も首に手を添え、血が流れてないか確かめる。しかしいくら撫でてみても血なんてどこにも付いていないし。
ましてや傷も付いていなかった。

「まだ続けるか?」

 ギーシュは首を横に振る、杖は取られていない、しかし完全に戦意が喪失していた。

「ま、参った……僕の負けだ」

 それを聞いたエツィオはニヤリと口元を歪めると、ギーシュの肩をたたき立ち上がった。
広場が歓声にどっと湧きあがった。
あの平民、やるじゃないか! とかギーシュが負けたぞ! とか、エツィオ様! 素敵! とか見物していた連中からの歓声が聞こえてきた。
その歓声に軽く手を振って応えながらエツィオは歩き出した。
そしてすぐに自分の左手を見つめる。そこにはルイズとの契約時に刻まれたルーンがあった。
もう一度アサシンブレードを引き出すと、再びルーンが淡く光り出し、体が羽のように軽くなった。
それだけではない、アサシンブレードの殺傷力が増し、両手で扱うはずの大斧がまるで木の枝のように軽く感じたのだ。
一体これは何なのだろうか、どうやら武器を使う時にだけ効果があるようだが……。
まぁなんにせよ、後でルイズに聞いてみるか。そう考えていると、ルイズが駆け寄ってくるのが見えた。

「やあルイズ」
「エツィオ!」

 まるで散歩から帰ってきたかのように右手を上げ、いつもの軽い口調で話しかける
そんなエツィオとは裏腹に、ルイズは目じりに涙をため軽くパニック状態に陥っていた。

「あんた! だっ、大丈夫なの! ち、血が出てる!」
「なに、ただのかすり傷さ」
「でっ、でもっ……!」

 エツィオは口元についた傷に手を添える、まだじくじくと痛いがすでに血は止まっている。
騒ぐほどではない傷を、涙目になりながら心配してくるルイズを見て、エツィオはついついからかいたくなってしまう。

「おや? 心配してくれてるのか? これはうれしいな!」

 エツィオがルイズを両手で抱きよせる。
エツィオに抱き締められる形になったルイズは顔を真っ赤にしながら、エツィオの股間を蹴り飛ばした

「ぐぁっ!? ……ル……ルイズ……な、なにを……」
「こここっ、こっちのセリフよこのバカ使い魔! ごごご、ご主人様にい、い、いきなり、だ、だ抱きつくなんて! な、なんてことをっ!」
「だ、だからって……この仕打ちは……」

 股間を押え、悶絶しながら地面に倒れ伏したエツィオをガシガシと蹴りつけながらルイズは怒鳴りつける。

「もうっ! 折角人が心配してやってるってのに! このぉ!」
「あだっ! 心配してくれるならこれ以上は勘弁してくれ! あいつのゴーレムよりおっかないな君は!」
「うっ! うるさい! もう知らない! このバカ!」

 ボロボロになったエツィオが立ち上がりローブについた埃を叩き落していると、ようやく立ち上がったギーシュが近づいてきた。

「ミスタ!」
「ん? 君は……まだなにかあるのか?」

 ギーシュはエツィオの前に立つと、深々と頭を下げた。

「ミスタ・アウディトーレ、家名を侮辱するという貴族にあるまじき行為、どうか許してほしい」

 エツィオは頭を下げているギーシュに近寄ると、ぽん、と、肩に手を置いた。

「顔をあげてくれ、もう済んだことさ」
「しかしっ!」
「それに、俺も少々大人げなかった所もあるしな、悪かった」
「あ、ありがとう、ミスタ」
「エツィオでいいよ。モテる男ってのは、つらいよな、ギーシュ」

 軽くウィンクしながらエツィオが右手を差し出す、ギーシュもそれに応えた。

「エツィオ、君は一体何者なんだ? この僕のワルキューレを倒すなんて」
「なに、別にたいしたものじゃない、全ては訓練の賜物さ」
「訓練って……、しかし、魔法が使えないのに僕のゴーレムを倒すなんて今でも信じられないよ」
「ふんだ、あんたが弱かっただけじゃないの?」

 横からルイズが茶々を入れる、するとエツィオが首を振った。

「とんでもない、ギーシュ、君は俺が今まで戦ってきた敵の中でもっとも強かった、断言してもいい。今回は運が良かっただけだな」
「そ、そう言ってもらえるとうれしいな、それでもまるで歯が立たなかったけどね……」

 エツィオは肩をすくめながら正直な気持ちを伝える、命のないゴーレムは一撃で仕留めることを旨とする彼にとって最悪の相手だった。
今回は成り行き上決闘と言う形になってしまったが、メイジと戦う際は真正面から戦うべきではないと改めて認識した。

オスマン氏とコルベールは、『遠見の鏡』で一部始終を見終えると、顔を見合わせた。

「あの青年……勝ってしまいましたが……」
「うむ」
「ギーシュは一番レベルの低い『ドット』メイジですが、それでも平民に後れをとるとは思えません。
そしてあの動き! あんな平民見たことがない! やはり彼は『ガンダールヴ』!」
「じゃろうな……あの動き、彼と同等……否、それ以上か……」
「オールド・オスマン。さっそく王室に報告して、指示を仰がないことには……」
「ミスタ・コルベール」

 興奮して泡を飛ばすコルベールを諌めるように、オスマン氏が口を開く。

「彼はただの平民ではないよ」
「はい? ……と、いいますと、どういう……」

 その言葉に疑問を浮かべながらコルベールがオスマン氏に尋ねる。
オスマン氏は、杖を振り、『遠見の鏡』にもう一度ヴェストリ広場の光景を映し出させる。
『遠見の鏡』は、決闘時にエツィオによって最初に破壊されたゴーレムを映し出した。

「これは……彼に破壊されたゴーレムですね、これが何か?」
「『炎蛇』よ、よく見たまえ、何か気がつくことはあるかね?」
「……えぇ、全身に刺突された痕……最後に首を裂かれて……。こっ、これはっ!」

 倒れたゴーレムを見ていたコルベールの顔がみるみる青くなる。

「うむ、人体の急所を寸分違わず貫いておる、心臓、肝臓、膵臓、頸椎、腋、こめかみ、眼球、喉。
……君はこの全ての急所に刃を突き立てられて、立っていられるかね?」
「……御冗談を、これがゴーレムでなければ最初の一撃で即死です」
「こんなエグい戦い方をする人間を、私は一人しか知らん」

 オスマン氏は、そこでいったん言葉を切ると、机の上に置かれた一枚のスケッチを手に取る。
それは先ほどコルベールが書いた、エツィオが身に着けている紋章だった。
オスマン氏は昔を懐かしむような目で紋章のスケッチを見つめ、言った。

「間違いあるまい、彼は『アサシン』じゃ」
「『アサシン』っ……! そんな……!」

 『アサシン』、『暗殺者』、その言葉に、コルベールは思わず言葉を失う。
オスマン氏はそんな彼を窘めるかのように声をかけた。

「ミスタ・コルベール、彼の名誉のために言っておくが、私の言う『アサシン』とは決して殺人狂ではない、断言しよう」
「ど、どうしてそんなことが言えるのです! よりにもよって『アサシン』とは! 彼は暗殺者ですぞ!」
「落着きなさい、ならばどうして彼はギーシュを殺さなかったのかね? それに、先も言ったが、彼は君の認識するような『暗殺者』ではない」

 オスマン氏はそう断言すると、手に持っていたスケッチの紋章を見せる。

「『罪なき者を殺めるなかれ』、彼らの掟じゃ」
「掟? 掟とは一体……」

 身を乗り出し質問するコルベールを無視し、オスマン氏は再び杖を振る、
ワルキューレを映していた遠見の鏡はエツィオを映し出した。

「ほほっ! これはまた、彼にそっくりじゃのう」

 オスマン氏は昔を懐かしむように目を細めると、椅子に深く腰掛けもたれかかる。
なんのことかわからないコルベールは、釈然としない様子でオスマン氏の言葉を待った。

「オールド・オスマン、それで、王室に報告するという件はいかがいたしましょう。私としては、やはり指示を仰いだほうが……」
「それには及ばん」

 オスマン氏は重々しく頷いた。白い髭が、厳しく揺れる。

「どうしてですか? これは世紀の大発見ですよ! 現代に蘇った『ガンダールヴ』!」
「ミスタ・コルベール。『ガンダールヴ』はただの使い魔ではない」
「はい、その通りです。始祖ブリミルの用いた『ガンダールヴ』は主人の呪文詠唱の時間を守る為に特化した存在と伝え聞きます」
「そうじゃ、始祖ブリミルは呪文の詠唱にえらく時間がかかったそうじゃな、知っての通り詠唱中のメイジは無力じゃ
その間、己の身体を守る為に始祖ブリミルが用いた使い魔が『ガンダールヴ』じゃ、その強さは……」

 その後を興奮した様子のコルベールが引き取った。

「千人の軍隊をたった一人で壊滅させるほどの力を持ち、あまつさえ並のメイジではまったく歯がたたなかったとか!」
「それじゃよ、そのただの使い魔ではない『ガンダールヴ』が『アサシン』であることが問題なのじゃ。
王室のボンクラどもに『ガンダールヴ』である『アサシン』と、その主人を渡すわけにもいくまい。
そんなオモチャを与えてしまえば、彼らは喜んで彼を使いあらゆる政敵を暗殺するじゃろうな。
無論、その前に彼の刃が宮廷のボンクラ共の首を切り裂く可能性も十分ある……彼、アルタイルがそうだったように」
「彼……? アルタイルとは?」
「なに、私の古き友人じゃよ、彼もまた『アサシン』であった。もっとも彼は煙のように消えてしまったがね。
ともかくじゃ、この件はわしが預かる。他言は無用じゃ、ミスタ・コルベール」
「は、はい! かしこまりました!」

 オスマン氏は、コルベールを下がらせると、重厚な机の引き出しを、首に下がった鍵を使って開けた。
その引き出しの中を見つめながら、遠い記憶の彼方へ、思いを馳せ、呟く。

「世が乱れし時、若き大鷲が現れる……。師よ……貴方はこれを予見していたというのですか……?」

 オスマン氏は、まるで祈りを捧げるように、左手を胸に当てると、薬指を曲げ、眼を瞑った。

「ならば、私はそれに従いましょう、全ては大導師の仰せのままに……」


 決闘騒ぎも収まり、次の授業が始まるとのことで、ヴェストリの広場に集まった生徒達が退散していく。
その中で、女好き同士お互いなにか通じるものがあったのか、エツィオとギーシュが歩きながら談笑に興じていた。
その様子は、先ほどまで決闘していた者同士とは思えないほど親しげだ。

「おっと、そうだギーシュ、これ、返しておくよ」
「こっ、これは……」

 ギーシュに、エツィオが何かを放り投げる。
それは決闘の引き金になった香水の小壜だった。
エツィオがギーシュと肩を組み誰にも聞こえぬようにひそひそと話しかける。

「俺がそれを開けた時、動揺してたところを見ると、お前の本命はモンモランシーって子だ、違うか?」

 少し顔が赤くなっていたギーシュはやれやれと言った表情で肩をすくめた。

「まったく……君には敵わないな……」
「その様子をみると当たりか、それで? どこまでいってたんだ? もちろん抱いたんだろ?」
「なっ! き! 君! そ、そんな野暮な事を聞くものじゃないだろ!」

 突然顔を真っ赤にしてギーシュが叫び出す。
横にいたルイズが怪訝な表情をして二人を覗き込む。

「ちょっと、何の話よ」
「なんでもないさ、男同士の話だよ」

 エツィオはルイズを押しやると、再びガシリとギーシュと肩を組む。

「で? どうなんだ?」
「あぁ……それは……その……なんと言うか……」
「おい……まさかとは思うが……」
「な、ななな、なんだね?」
「お前、その様子だとまだその子のこと抱いてすらいないな?」

 あからさまに動揺を始めたギーシュに、エツィオは呆れたように大きくため息を吐く。

「お前……それで自分のこと薔薇だとかどうとか抜かしてたのかよ……その様子じゃ大した経験もないな?」
「きっ! 君はどうなんだ! そんなに言うからにはもちろんあんなことやこんなこと!」
「当然だろ、お前と同じ頃には何人食ったかすら覚えてないよ。人妻もいたかな? そりゃ大変だったぜ? もう裁判沙汰まで行ったこともあるくらいさ」
「き……君ってやつは……!」
「ねぇ! さっきから一体何を話してるのよ?」
「「武勇伝だ、ひっこんでくれ」」
「なっ! 何よもう!」

 蚊帳の外に置かれてしまったルイズが怒鳴り散らすも、エツィオとギーシュはなおもひそひそと話を続けている。
すると突然、ギーシュが大声をあげて笑いだした。

「あっはははは! すごいな君は! どうやってその修羅場をくぐりぬけたんだ? 後学のために教えてくれよ!」 「そろそろ行くわよ!」
「なに、コツなんて必要ないさ、ただな……」 「ちょっと!」
「あっ、その手があったか! まったく、君には頭があがらないな!」 「聞いてるの!?」
「大げさだな、ちょっと考えればわかることじゃないか、っと、……なんだよ、これからが面白いところなのに」

 後ろから肩を掴まれ、エツィオが振り向く、そこには今の今まで無視され続けたルイズが鬼の形相で立っていた。

「こ、こここ、この……馬鹿使い魔……! ご、ご主人様を無視し続けるなんて、い、いい度胸してるじゃないの……!」
「なんだ、かまってほしいのか? 案外寂しがり屋なんだな君は、心配しなくても、あとでたくさん相手してあげるさ」

 エツィオは笑いながら、ルイズの頭にぽんと手を置いた。
ルイズはそれを振り払わずにエツィオの二の腕をガシリと掴む。
その細い指のどこにそんな力があるのか、エツィオの腕に食い込んで離さない。

「そ、そろそろ授業だな! それじゃエツィオ! また話を聞かせてくれたまえ!」
「あっ、おい!」

 ただならぬ気配を感じたギーシュは苦笑いを浮かべそそくさとその場を後にする。
エツィオは肩をすくめて見送ると、ルイズに視線を戻した。

「だとさ、君も授業だろ? 行かなくていいの――うわっ!?」

 いきなり飛んできたルイズの拳をかろうじて受けとめる。

「おいおい、そんなに寂しかったのか? だからって何も殴ること……!」
「うるっさい! この馬鹿! あんたはわたしの使い魔でしょ! ご主人様を無視するなっ!」

 レディというよりは、まるで手のかかる妹だ、エツィオは苦笑いを浮かべながら、ルイズを窘めた。


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