六
君はなんとも奇妙な夢を見る。
あの若き魔女に捕らえられ、嗜虐趣味のある彼女の手によって、左手の甲に焼印を押し付けられるという夢だ。
激痛と肉の焼けるおぞましい臭いに耐えられず、夢の中の君は気を失う。
あの若き魔女に捕らえられ、嗜虐趣味のある彼女の手によって、左手の甲に焼印を押し付けられるという夢だ。
激痛と肉の焼けるおぞましい臭いに耐えられず、夢の中の君は気を失う。
眼を開けると頭が割れそうに痛む。
頭をあげ、後頭部にできたこぶをさすりながら周囲の状況を把握する。
そこは広々とした部屋だ。
一方の壁にガラスのはまった窓があり、反対側の壁には木の扉がある。
壁際には寝台や衣装箪笥などの高級そうな家具が並び、部屋の中央、君の正面には円卓と数脚の椅子がある。
椅子のひとつに座って君の背嚢を調べているのは、あの少女だ!
少女は君が眼を覚ましたのに気づくと、驚くべき事々を語りはじめる。一八三へ。
頭をあげ、後頭部にできたこぶをさすりながら周囲の状況を把握する。
そこは広々とした部屋だ。
一方の壁にガラスのはまった窓があり、反対側の壁には木の扉がある。
壁際には寝台や衣装箪笥などの高級そうな家具が並び、部屋の中央、君の正面には円卓と数脚の椅子がある。
椅子のひとつに座って君の背嚢を調べているのは、あの少女だ!
少女は君が眼を覚ましたのに気づくと、驚くべき事々を語りはじめる。一八三へ。
一八三
この地はカーカバードでもアランシアでもなく、『ハルケギニア大陸』の『トリステイン王国』という、君にとってまったく未知の世界であると、
ルイズという名の少女は語る。
あまりの驚きに呆然とする君を尻目に、ルイズは説明を続ける。
ここは魔法使いを育成する『トリステイン魔法学院』の寄宿舎であり、生徒は皆魔法の素質を持つ貴族階級の子弟であること。
王侯貴族はすべて魔法使いであり、魔法の使えぬ大多数の平民たちの上に支配階級として君臨していること。
彼女自身がトリステイン有数の大貴族の令嬢であり、卑しい平民である君とは住む世界が違うということ。
ルイズという名の少女は語る。
あまりの驚きに呆然とする君を尻目に、ルイズは説明を続ける。
ここは魔法使いを育成する『トリステイン魔法学院』の寄宿舎であり、生徒は皆魔法の素質を持つ貴族階級の子弟であること。
王侯貴族はすべて魔法使いであり、魔法の使えぬ大多数の平民たちの上に支配階級として君臨していること。
彼女自身がトリステイン有数の大貴族の令嬢であり、卑しい平民である君とは住む世界が違うということ。
故郷のアナランドとはまったく違う、異様な魔法使いの身分と社会制度について知らされあっけにとられる君に向かって、彼女はさらに衝撃的な話を聞かせる。
君と彼女のあいだで、重大な契約が結ばれたのだというのだ。
彼女が≪使い魔≫と呼ばれる、魔法使いの下僕となる動物や怪物を呼び出す儀式を執り行ったところ、現れたのは獣ではなく人間、つまり君だったという。
≪使い魔≫を呼び出す儀式は神聖にして冒さざるものであり、たとえ術者の意に沿わぬ存在が現れようとも、やり直しはきかぬらしい。
君が気を失っているあいだに彼女は君との主従の契約を終了させ、その証拠が左手の甲にうっすらと見える未知の文字らしき模様なのだ。
そして、君をもと居た場所──危険に満ちたカーカバードのザメン高地──に送り返す手段は存在せず、≪使い魔≫の契約を破棄する方法は≪使い魔≫の死だけだという。
君と彼女のあいだで、重大な契約が結ばれたのだというのだ。
彼女が≪使い魔≫と呼ばれる、魔法使いの下僕となる動物や怪物を呼び出す儀式を執り行ったところ、現れたのは獣ではなく人間、つまり君だったという。
≪使い魔≫を呼び出す儀式は神聖にして冒さざるものであり、たとえ術者の意に沿わぬ存在が現れようとも、やり直しはきかぬらしい。
君が気を失っているあいだに彼女は君との主従の契約を終了させ、その証拠が左手の甲にうっすらと見える未知の文字らしき模様なのだ。
そして、君をもと居た場所──危険に満ちたカーカバードのザメン高地──に送り返す手段は存在せず、≪使い魔≫の契約を破棄する方法は≪使い魔≫の死だけだという。
ルイズの言うことが本当だとするならば、今の立場は絶望的だ。
もはや≪諸王の冠≫を取り戻すという君の重大な任務は、達成不可能になってしまったのだから。
しかし君は、希望を捨てない。
彼女がそれを知らぬだけで、君をカーカバードに戻すことができる未知の魔法や道具が、この世界のどこかにあるのではと考える。
それを調べるためには、当面の居場所が必要である。
≪使い魔≫がなにをやらされるのかはわからぬが、とりあえずは彼女の庇護を受けるというのも悪い選択ではなさそうだ。
もはや≪諸王の冠≫を取り戻すという君の重大な任務は、達成不可能になってしまったのだから。
しかし君は、希望を捨てない。
彼女がそれを知らぬだけで、君をカーカバードに戻すことができる未知の魔法や道具が、この世界のどこかにあるのではと考える。
それを調べるためには、当面の居場所が必要である。
≪使い魔≫がなにをやらされるのかはわからぬが、とりあえずは彼女の庇護を受けるというのも悪い選択ではなさそうだ。
君の態度を、状況を理解して立場に納得がいったものとみなしたルイズは、
「だから、あんたは今日からわたしの使い魔、忠実な下僕なのよ」と言い放つ。
君はどう対応する?
自らを平民だと偽ってこの場は≪使い魔≫として忠誠を誓うか(一五七へ)、君自身も魔法使いであることを彼女に伝えるか(一六四へ)?
「だから、あんたは今日からわたしの使い魔、忠実な下僕なのよ」と言い放つ。
君はどう対応する?
自らを平民だと偽ってこの場は≪使い魔≫として忠誠を誓うか(一五七へ)、君自身も魔法使いであることを彼女に伝えるか(一六四へ)?
一五七
君が不承不承≪使い魔≫になることを認めると、ルイズの大きな瞳にわずかながら喜びの光が輝く。
君を従えたことに対する喜びではなく、説得が予想したよりも早く済んだことに対する喜びなのだろう。
ルイズは得意げに言う。
「それじゃあ、偉大なる『始祖ブリミル』の名にかけて誓いなさい! わたしの命令に従うこと、昼間みたいにわたしに暴力を振るわないこと、それから、
命をかけてわたしを敵から守ること!」
君は、聞きなれぬ異邦の神の名にかけて彼女に対する忠誠を誓ったが、内心では、自らの守護神である正義の女神リブラに深く懺悔する。
君を従えたことに対する喜びではなく、説得が予想したよりも早く済んだことに対する喜びなのだろう。
ルイズは得意げに言う。
「それじゃあ、偉大なる『始祖ブリミル』の名にかけて誓いなさい! わたしの命令に従うこと、昼間みたいにわたしに暴力を振るわないこと、それから、
命をかけてわたしを敵から守ること!」
君は、聞きなれぬ異邦の神の名にかけて彼女に対する忠誠を誓ったが、内心では、自らの守護神である正義の女神リブラに深く懺悔する。
その後、君の寝床としてルイズが指定したのはなんと、冷たい石の床だ!
彼女自身は大きな寝台に潜りこみ、すやすやと寝息をたてている。
同じ部屋に大の男が居るというのにこの警戒心の無さは、先刻の誓いを絶対のものと確信しているためだろうか。
粗末な寝床には長旅で慣れているとはいえ、窓のガラス越しに輝く二つの巨大な月──このハルケギニアが≪タイタン≫の一部ではないという証拠だ──
という異様な眺めに心を乱され、君はなかなか眠れない。二〇〇へ。
彼女自身は大きな寝台に潜りこみ、すやすやと寝息をたてている。
同じ部屋に大の男が居るというのにこの警戒心の無さは、先刻の誓いを絶対のものと確信しているためだろうか。
粗末な寝床には長旅で慣れているとはいえ、窓のガラス越しに輝く二つの巨大な月──このハルケギニアが≪タイタン≫の一部ではないという証拠だ──
という異様な眺めに心を乱され、君はなかなか眠れない。二〇〇へ。