あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

アクマがこんにちわ-19


「ロングビルさん、起きてください」
「う…」
「ロングビルさん」
「あ………うわあああっ!?」

目を覚ましたロングビルは、自分の顔を覗き込んでいる人修羅に気が付き、心臓を鷲づかみにされたような錯覚に陥った。
わたわたと両手両足を振り、逃げようと身体を動かしたところで、自分の身体が怪我一つしていない事に気が付いた。

白い仮面を被った男に脅迫され、ゴーレムと傭兵を使って『女神の杵』亭を襲撃したロングビルは、人修羅の一撃で返り討ちにあった。
その時自分は石の下敷きになったはずだが、なんの痛みも残っていない。

「怪我はもう無いはずですけど…大丈夫ですか?」
「えあ、ああ、ああ、だいじょう、ぶ、だけど…」
多少混乱しているせいかロングビルのろれつが回らない。

手を引いて身体を起こさせ、近な木箱に座らせる。ロングビルはようやく落ち着きを取り戻したのか、自分が置かれている状況が気になりはじめた。
木で造られた倉庫というには何かがおかしい、違和感の正体は揺れだった、ここが船の中だと気が付くと、ロングビルは観念したようにため息をついた。

「あたしは、何でこんな所に?」
「…言いにくいんですけど、ゴーレムの巻き添えになったんです。覚えてますか?」
「ええと…そう、そうだ、あたしは、自分で作ったゴーレムの石に頭をぶつけて……」
「その時、仮面を被った男が気絶した貴方に杖を向けていた?」
「仮面、かめ…ああ、あいつが、杖を、私に?」

人修羅はここで一つの嘘をついた。
あの時、仮面の男はロングビルを放置して逃げた、最初から捨て駒扱いをされていたとしか思えないが、あえて『口封じに殺されそうだった』と臭わせる事でロングビルの出方をうかがったのだ。

「怪我の治癒はしたが、ラ・ロシェールに放置しておくわけにもいかないので、一緒に来て貰った。今アルビオン行きの船の中ですよ」

ロングビルは、ああ、と顔を手で覆った。
「アルビオンか…」
「ロングビルさん、教えてくれ、一体何があった?」
「……あたしは、あんたたちの泊まっている宿を襲えと、頼まれたのさ」
人修羅はロングビルの口調が変わっていることに気が付いた、だが、もしかするとこちらが本来なのかもしれない。余計な事は言わないことにして、ロングビルに続きを促した。
「ラ・ロシェールであんた達を見送ったら、すぐに魔法学院に帰る予定だったんだ。でも、仮面を付けた男が現れて、あたしをアルビオンの貴族派…確か、『レコン・キスタ』とやらに入るよう言ってきたんだ」
「レコン・キスタ…」
「あい、あいつら、エルフをうちたお、打ち倒して聖地を取り戻すんだとさ…馬鹿馬鹿しい」
ロングビルは、吐き捨てるようにそう言った。
「それで?」人修羅は続きを促した。

「仮面の男は、あたしの…ロングビルって名乗る前の…マチルダ・オブ・サウスゴータって知ってた、あたしが元アルビオン貴族も…ああ、し、仕送りに出したはずの…金貨の袋をあたしに見せつけたんだ」

ふと、ロングビルは顔を上げて人修羅を見た。自分を哀れんでいるのか、笑っているのか、それとも胡散臭い話だと訝しんでいるのか気になったからだ。
人修羅は疑っているとは言い切れないまでも、真剣な表情でロングビルの話を聞いていた。
「おねがいだよ…たすけてくれよ、あたしが死ぬのはいいよ、でもテファは、ティファニアは…」
そう呟いた所で、ロングビルの瞳がぶれる、幻覚を見ているのか、身体を震わせて視線を移しては怖がるような仕草を見せた。

「ごめん」
人修羅はそう言うと、ロングビルの頭に手を乗せた。

ロングビルが目覚める前、人修羅は可能な限り手加減した『テンタラフー』を使っていた、いかなる理由が有ろうとロングビルはルイズ達を殺せる魔法を使ったのだから、この際人権だの何だのと言ってられない。
軽い混乱状態に陥ったロングビルは、仮面の男に脅迫されてやむなく『女神の杵』亭を襲ったと喋った。
だが、これ以上続けていると強烈なバッドトリップに陥る危険があるので、人修羅は両手でロングビルの頭を覆い、体内の『イヨマンテ』のマガタマを活性化させた。
精神への影響(混乱、睡眠、魅了)を治癒する『パトラ』の魔法が使えれば簡単なのだが、人修羅では取得できなかったため、マガタマの力を借りることにしたのだ。

「あ……」
恐怖に染まっていたロングビルの瞳が、眠たそうな目つきに変わり、しばらくすると完全に眠ってしまった。
「…………」
人修羅はロングビルを寝かせると、部屋を出て行った。


◆◆◆◆◆◆


船底の船室から、もう一つの船室に繋がる扉を開けると、そこには聞き耳を立てていたルイズの姿があった。
あらかじめ『扉の外で話を聞いていてくれ』とルイズに頼んでいたのだが、ルイズは、何とも言えない複雑な表情で人修羅を見上げていた。
「聞いてたとおりだ。ルイズさん、彼女の名前に心当たりはある?」
そう問いかけ、ルイズの返答を待つと、少し悩んだ様子で答えが返ってきた。
「アルビオンにサウスゴータっていう地名があったのは覚えてるわ。たぶん、そこの出身よ」
「そうか…」
人修羅は腕を組み、ふぅとため息をつく。
このままロングビルをアルビオンに連れて行けたとしても、自分たちの目的地はあくまでも王宮、ニューカッスル城だ。
マチルダ・オブ・サウスゴータがどんな理由で名を変えていたのか解らないが、あまり良い理由では無いだろう、もしアルビオンを追放され、やむなく名を変えたのなら、ニューカッスルまで連れて行く事はできない。
それどころか入港の時点でストップがかけられ、投獄の危険もある。

悩んでいる人修羅に、ルイズが「ちょっと」と声をかける。
「どうした?」
「ワルドにも伝えたほうがいいかしら、なにかいい手を考えてくれるかも」
「いや…それは止めた方が良いんじゃないか。彼は俺達と違って王宮直属の軍人だろ? ロングビルさんの出自まで伝えるのはまずい。脅迫され、やむなくとはいえ…ラ・ロシェールで大暴れした事がバレたら、厄介な事になる」
「うーん、確かにそうかもしれないわね…」
「彼女は脅迫こそされたものの、それ以上のことは言われていない。おそらく『仮面を被った男』はもう一度接触してくる。そうなった今度は『アナライズ』で手がかりを掴んでみるよ」

ルイズは、沈痛な面持ちで船室の扉を…いや、扉の向こうにいるはずのロングビルに意識を向けた。
「ティファニアって、家族かしら」
「…かもしれないな」

(この旅が終わったら、学校を休んで、またカトレア姉様に会いに行こう)
ルイズは自然と、そんな決意を固めていた。



◆◆◆◆◆◆



人修羅とルイズが、船室から甲板へ出ようとしたところで、外から船員達の騒ぐ声が聞こえてきた。

「右舷上方………り……船が………す!」
「………………………………」
「…船………旗を掲げ………」
「…………る…くうぞく…………」
「間違い………乱に乗じ…………て、活動が…………ると…………」
「逃げろ!」

人修羅はハッとしてルイズに向き直る。
「空族らしい、ルイズさん、ここにいてくれ。俺は外に出る」
「でも」
言い返そうとしたルイズの肩に手を置き、真剣な表情で瞳を見つめた。

「…頼む」
ルイズは神妙に頷き、「わかったわ」とだけ呟いた。



人修羅が甲板に出ると、船長が船を空賊から遠ざけようと指示を飛ばしていた。
しかし、すでに空族らしき黒船は併走しており、脅し代わりにと船側の大砲を撃ち出した。
弾丸は、ぼごん!と音を立てて人修羅達の乗った船の針路を横切り、雲の彼方へと消えていった。
黒船のマストに四色の旗流信号が登ると、船員がそれを停戦命令だと気付き、船長に告げていく。
「停船命令です!」
この船にも武装はあるが、甲板に置かれた移動式の大砲が三門のみだ。
一方黒船は片舷側に二十数門も大砲を並べている、それに比べれば役に立たない飾りのようなものだろう。
船長は助けを求めるように、隣に立ったワルドを見つめていた。
「魔法は、この船を浮かべるために打ち止めだよ。あの船に従うんだな」
ワルドが落ち着き払った声で言うと、船長は頭を抱え「これで破産だ…破産だ…」と呟いた。
すぐにハァとため息をついて顔を上げ、力ない声で「裏帆を打て。停船だ」と命令した。



人修羅は無言で船室に入ると、不安そうな表情のルイズへと近づいた。
「ルイズさん、奥の船室に隠れて、少しの間ガマンしていてくれないか、ワルドさんは魔法を使いすぎている、俺は直接空族の頭領を狙う」
「頭領を?」
「そうだ…俺の技で空賊の船を吹き飛ばすには、相手の船が大きすぎる、余波でこの船までダメージを負うかもしれない」
「で、でも一緒に」
「ルイズ!」
びくん!とルイズの身体が震える。
「…必ず助ける、だから、協力してくれ。もし空賊に見つかったら自分が貴族だとばらすんだ、格の高い貴族なら人質としての価値が高い、相手もルイズさんを丁重に扱うはずだ、そうして時間を稼いでくれ」

どことなく戦士を思わせる、真剣な表情で見つめられ、ルイズは背筋に寒いものを感じた。
だが、それは貴族としてのプライドを刺激されるものでもあった、自分に与えられた役目を全うしようという気が、身体の奥からわき出てくるようだった。
「…わかったわ、人修羅も、無茶しないで」
「大丈夫だ」

人修羅は微笑むと、ルイズの頭に手をかざした。
「ラクカジャ」
じわりと身体に何かが染みこんでくる、一度も感じた事のない不思議な感覚だが、嫌ではなかった。
「これでしばらくの間、ナイフで斬りつけられても傷一つ付かないはずだ。奥に隠れててくれ」
そう言うと、人修羅は手近な縄を掴んで船室を出て行く、それを見送ったルイズもまた、ロングビルの居る船室の奥へと入っていった。



◆◆◆◆◆◆



「空賊だ! 抵抗するな!」
黒船から、メガホンを持った男が大声で怒鳴る、空賊の船には弓や銃を構えた男達が並び、こちらに狙いを定めている。
人修羅はデルフリンガーに縄を結びつけて背負うと、靴を脱いだ。
(俺を見ている視線は…たぶん無いな…)
殺気と比べ、視線を『心眼』で感じるのは難しいが不可能ではない、空賊達が自分に気づく前に、人修羅は船の外側を伝って船底へと下りていった。

空賊の船からかぎ爪つきのロープが放たれ、二つの船が近づけられる。
ある程度まで近づくと、空賊の船から斧や曲刀などの武器を持った屈強な男たちが、船の間に張られたロープを伝って数十人がやってきた。

それを見て、前甲板に繋ぎ止められていたワルドのグリフォンが、ギャァギャァと喚く、するとその瞬間、グリフォンの頭が青白い雲で覆われ、そのまま身体を横に倒し寝息を立て始めた。
「眠りの雲……、確実にメイジがいるようだな」
ワルドはそう呟いて、船室の方を見た、そこには人修羅の姿がないと知らないまま…



あっけなく空賊に捕らえられたワルドたちは、船底の船室に閉じ込められた。
マリー・ガラント号の乗組員たちは、空賊の手伝いをさせられ、ルイズはすぐに発見され杖を奪われた。
杖のないメイジなど恐れるに足らず、既に杖を失っていたロングビルはそのままだが、三人は手足のでない状況にあるのは間違いなかった。

船室と言っても実質的には倉庫である、酒樽や、穀物のつまった袋、火薬の入った樽などが雑然と置かれているため臭いがある。
ワルドはそれらを興味深そうに見回すと、小声でルイズに話しかけた。
「君の使い魔は?姿が見えないが…」
「空賊の頭領を狙うって言ってたわ…どうやるのか知らないけど」
「なるほど…では、伝説の『ガンダールヴ』を信じるとしようか」



その頃人修羅は、ヤモリのように船底に張り付いていた。
両手両足の爪を食い込ませて、少しずつ後甲板へと登っていく。
マリー・ガラント号は空賊の船に曳航されているが、海ではなく空なので飛び移るのにも神経を使う。
人修羅は背中のデルフリンガーに声をかけた。
「デルフ、後甲板に人はいるか?」
『見回りの空賊は前甲板に下りてったぜ、後ろには誰もいねえ』
「マストに登ってる見張りは?」
『ちょっと厄介だな…今はこっちを見てるぜ』
「後甲板に隙ができたら教えてくれ」
『おうよ』

人修羅が見た感じでは、空賊の船は大砲を舷側に供えていた。
移動式の大砲が甲板にも備えてあるかもしれないが、真後ろに撃つには時間がかかるはずだと考えていた。
『今だ、見張りが前を向いてるぜ!』
「よし」
人修羅は船の外壁から、後甲板へとよじ登った。
「高所恐怖症じゃなくて助かったな…」
そう呟きながらデルフリンガーを抜刀し、神経をとぎすませた。


「おい、誰だおま ぶ」
空賊の一人が人修羅に気付き、曲刀を向けるが時既に遅し、人修羅は手加減した一撃で空賊を昏倒させると、甲板を走り、空賊の船に向けて跳躍した。

(やっぱ恐ぇえええええええええええええええええええええええ!)
人修羅は叫ぶのを我慢しながら、ガンダールヴのルーンから送られてくる『最適な動作』を読み取り、空中で姿勢を整えて空賊の船へと着地した。

ドン!と音を立てて着地し、ガスン!とデルフリンガーを突き立てて身体を固定する。

「何だ!」
「貴様ぁ!」
空賊が人修羅の姿を見て驚くが、すぐさま武器を構えて人修羅を取り囲む。
「武器を捨てろ!」
杖を向けてそう叫ばれても、人修羅は恐れた様子もない。

『甲板の下、後部奥の部屋だ!』
デルフリンガーが叫ぶ、すると何人かの空賊はあからさまに表情を変えた。
「頭目はそこか」

デルフリンガーを引き抜くと、人修羅はまるで買い物に行くかのような気楽さで歩き出した。
「てめ え?」
人修羅に向けて斬りかかってきた男の武器を、素手で掴み、そのまま折る。
背後から杖を向けていた男の『エア・カッター』をデルフリンガーでかき消しつつ、甲板から船室に下りる跳ね上げ式の扉を蹴り砕いた。

「待て!」
「やめろ!」

空賊達の狼狽える様子を意に介すことなく、船の中に入った人修羅に向けて、何人かの屈強な男達が慌てて武器を構えた。

人修羅は息を吸い、全身に力を入れて『雄叫び』をあげる。
「        」

空賊達は一瞬意識を失いかけた上、で平衡感覚を失う。しかし船の上で揺れに耐えている空賊は耳をやられたぐらいでは倒れない。ただ、一瞬の隙ができるだけだ。

人修羅は身を低くして通路の奥へと駆け、一瞬で最奥の扉へとたどり着いた。
デルフリンガーを振るい、扉を×印に切断すると、人修羅は口を大きく開けた。
「ぎゃああ!」「うわ!」「殿下を…」
黄色のガスは船室にいる人間にショックを与え動きを鈍らせる、それが一時的な混乱を招く。
船室の真ん中に置かれたテーブルは、いかにも頭目だけが使えそうな重厚な作りであり、その奥の椅子にはボリュームのある黒髪と髭を蓄えた細身の男が座っていた。
『フォッグブレス』で混乱している隙に、人修羅はテーブルを飛び越え、頭目の隣へと着地した。

「殿…頭!下がって下せえ!」
混乱から回復した男達はそう叫ぶが、頭目からの返事はない。
別の男が、ガスが晴れた室内で頭目の姿を確認しようとして…「頭…あああああああっ!?」と声を上げた。

頭目は変わらぬ姿のままそこに居たが、隣には顔に刺青を入れた不気味な男が立っており、頭目の首へと剣を突きつけていた。

人修羅は空賊達の反応を見て、この男が空賊の頭目で間違いはなく、しかも都合の良い事に仲間からの信頼が厚いのだと感じていた。
デルフリンガーに『船内の異常を知らせに走る奴を探してくれ、そいつの行く先に頭目がいるはず』と頼んでいたが、これほどスムーズに確保できるとは思っても見なかった。
力ずくで頭目の身体を引き寄せ、左手で抱える。
頭目は、万力のような力で抱えられたため、このまま潰されるのではないかと背筋を寒くした。

「お前達、俺に構わず…ぐッ…」
「悪いが俺達の安全が確認できるまで、こいつは預からせて貰うぞ」


◆◆◆◆◆◆


一方、ルイズ達の閉じこめられている船倉では、空賊の一人が食事を運んでいる所だった。
この船倉はルイズ、ロングビル、ワルドの三人が閉じこめられている。
「飯だ」
扉の近くにいたルイズは、男を見てふん、とそっぽを向いた。
「質問に答えたら飯をやるぜ」
「…言ってごらんなさい」
ルイズがそう呟くと、空賊はにやりと笑った。

「お前たち、アルビオンに何の用なんだ?」
「旅行よ」
ルイズは座ったままだが、毅然とした声で言った。
「トリステインの貴族が、いまどきのアルビオンに旅行とは…? なにを見物するつもりだい?」
「そんなこと、あなたに言う必要はないわ」
「ほうほう、随分と強がるじゃねえか」
からかうような空賊の言葉に、ルイズは真っ向から見返す事で返答した。
空賊は一瞬驚いたような目をしたが、どこか仕方ないと言った笑みを浮かべ、皿と水の入ったコップを寄越した。
「ふん」
ルイズはそっぽを向いたが、ワルドがそれを窘める。
「食べないと、体がもたないぞ」
そう言われては逆らうわけにも行かない、しぶしぶといった顔で、スープの皿を手に取った。
ルイズは自分の分を飲むと、ロングビルを起こそうとしたが、揺すっても声をかけても目を覚まさない。
ロングビルの分を残してスープを飲むと、やる事が無くなってしまった、ワルドは壁に背をついて、なにやら物思いに耽っている。


しばらくすると、扉が開かれ、今度は痩せぎすの空賊が船倉へと入ってきた。
「おめえらは、アルビオンの貴族派か?」
ルイズは無言だが、眉がぴくんと動いたのを自覚した。
空賊は苦笑を浮かべて、くっくっくと笑う。
「くく、だんまりじゃわからねえって。でも貴族派だったら失礼したなあ、俺たちはあんた達の味方だ、王党派に味方しようとする酔狂な連中を捕まえるって、密命を帯びてるのさ」

その言葉を聞いて、ルイズはほんの少しの恐怖を感じたが…それ以上に冷静になっていく自分に気が付いた。
「…じゃあ、この船はやっぱり、反乱軍の軍艦なのね?」
「いーや、俺達はあくまで対等な関係ってやつでね、貴族派と協力し合ってるのさ、まあおめえらには関係が無い事だがなあ」

空賊はにやにやと笑いながらルイズ達の返答を待ったが、答える様子が無さそうなので言葉を続けた。
「で?おめえらはどうなんだ?貴族派ならきちんと港まで送ってやるよ」

ルイズは静かに立ち上がると、両手を腰に当て、空賊を真っ向から見据えた。
「誰が薄汚いアルビオンの反乱軍なものですか!私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、王党派への使いよ。貴族派が勝利したわけでもないのに偉そうね! 
アルビオンの正統なる政府はアルビオンの王室よ、わたしはトリステインを代表してそこに向かう貴族なのだから、つまりは大使。だから私を大使としての扱いにするようあんたたちに要求するわ」

これにはワルドも驚いた。空賊もまた驚いた様子を見せたが、すぐに気を取り直し、多少引きつった笑みを見せた。
「…正直なのは、確かに美徳だ。だが、お前たち、ただじゃ済まないぞ」
「私は、あんたたちに嘘ついて頭を下げるぐらいなら、死んだほうがマシだわ」
ルイズはそう言い切った、その瞳にまるで迷いは見られない。
「…そうか、頭に報告してくる。その間にどうなるか…ゆっくり考えるんだな」
空賊は呆れたように部屋を出て行った、
するとワルドが寄ってきて、ルイズの肩を叩いた。
「いいぞルイズ。さすがは僕の花嫁だ」
ルイズはため息をついて、俯いた。


◆◆◆◆◆◆


一方、人修羅は空賊の頭目を抱えたまま、海賊船の甲板へと移動していた。
眼前に広がる雲海の向こうに、巨大な大地が見える。
「あれがアルビオンか…凄いな。こうして見ると神聖な気さえしてくるのに、戦争の最中とはな…」
人修羅の呟きに何か思うところがあったのか、頭目が口を開いた。
「不甲斐ないと思うかね」
「何がだ?」
「神聖な大陸を統治しながら、貴族派閥に負けそうな王党派が、だよ」
人修羅はほんの少し、力を緩めた。
「…俺はハルケギニアに来て日が浅い。貴族派に負けているという理由だけで王党派を不甲斐ないと決めつけられるはずがない」
「ハルケギニアに来て……? まさか、エ…」
「言っておくが俺はエルフじゃない。人間だよ。使い魔として召喚されたのさ」
「人間…? …フフフ、君を使い魔にしたメイジは、さぞかし優秀なのだろう」
「優秀かどうかは、これからだな」
人修羅はそう言うと、自分の周りを囲んでいる空賊達を一瞥した。
空賊達はおのおのが武器を構えていたが、人修羅の強烈な殺気に射すくめられ身体を震わせた。
「飛ぶぞ」そう言うと人修羅はデルフリンガーに力を込めた、ルーンが発光し、最適な力加減が身体に浸透していく。
人修羅は、マリー・ガラント号に向けて跳躍した。


◆◆◆◆◆◆


「か、頭!」

マリー・ガラント号に乗っていた空賊は、突然甲板に飛び降りてきた人修羅と頭目を見て驚愕した。

「人質を解放して貰うぞ……って、アレ?」
人修羅もまた、着地の衝撃で頭目の頭から落ちた”カツラ”に驚いた。
「てめえ…頭を離せ!」
「あー……とりあえず船を解放して貰えないか。こっちも、なるべく危害は加えたくないんだ」
甲板で空賊と人修羅がにらみ合っていると、船室の中に入っていた別の空賊が、ルイズを羽交い締めにして甲板へと現れた。

「人修羅!」
「ルイズさん…」
人修羅とにらみ合っていた空賊は、懐から出した杖をルイズに向け「頭を放して貰おうか、でなけりゃこいつが傷つく事になるぞ」とまくしたてる。
そうは言ったものの、空賊は何処か乗り気ではない、仕方なく人質に杖を向けている…そんな気がした。
こんな時のために、人修羅は幾つかの奥の手を残してある。
敵を混乱させる『原色の舞踏』と、魔法を封じる『マカジャマオン』、そして問答無用で敵だけを殺す『マハムドオン』だ。
しかし、今回はそれを使う必要は無さそうだと思った、ルイズの目に、全く恐怖が浮かんでいないのだから。

「動くなっ!頭を離せ、でないとコイツが」
「殺すなら殺しなさい、下郎」
「!?」
ルイズの言葉は、空賊を驚かせた。
実はルイズ自身も強い恐怖心に苛まれているのだが、それを凌駕する自信が心を支え、ハッタリを可能にしている。
「私はトリステインから、正当なるアルビオンの王政、王党派への大使よ。あなた方が貴族派の貴族でも、第三国の大使への扱いぐらい心得ているでしょう。ニューカッスルまで私を送り届けなさい」
ルイズは、精一杯のハッタリを…おそらくハッタリを通り越して、真実として言い放った。

そこには、確かに貴族としての威厳が、カリスマが存在していた。

頭はルイズの言葉を聞いて、言った。
「王党派と言ったな?」
「ええ、言ったわ」
「なにしに行くんだ? あいつらは、明日にでも消えちまう」
「あんたらに言うことじゃないわ」
「……貴族派は、メイジを欲しがっている。貴族派につけばたんまり礼金も弾んでくれるぞ」
「死んでもイヤよ」

人修羅は苦笑した、ルイズの気の強さがここまでとは思っていなかった。
ルイズの体がほんの少し震えていることに気づいていたが、それでも自分を取り囲む空賊を見据えているその姿に、どこか晴れ晴れとしたものを感じた。

「はは、はっはっは!」
頭は笑った。人修羅に抱えられたまま、大声で笑った。
「失礼した。貴族に名乗らせるなら、こちらから名乗らなくてはな…私を抱えている、君、すまないが私の眼帯と、付けひげを取ってくれないか?」
「頭!」
空賊の一人が驚いたように叫ぶ。
「いいんだ、お前達、彼女を解放し整列しろ」
周りに控えた空賊たちは、武器を床に置くと、甲板で整列した。
マリー・ガラント号の船員達もその様子に驚いている。

人修羅は頭目の眼帯と、付け髭を取った。
すると頭目は、凛々しい金髪の若者へと変身した。
「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官……。本国艦隊といっても、すでに本艦『イーグル』号しか存在しないがね。まあ、その肩書きよりこう言った方が通りが良いだろう。 …アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」
ルイズは口をあんぐりと開けた。ウェールズを抱えたままの人修羅も「なんじゃそりゃ」と言わんばかりに口を開けて、皇太子殿下を見つめている。

ウェールズは、にっこりと魅力的な笑みを浮かべた、人修羅は危険がないと判断し、ウェールズを解放した。
解放されると、直立して襟を正し、ルイズに向き直る。
「アルビオン王国へようこそ。大使殿。さて、御用の向きをうかがおうか」


この後、ウェールズの持つ『風のルビー』が、アンリエッタから預かった『水のルビー』によって本物だと証明された。
持ち主であるウェールズ皇太子も、幼い頃のルイズをラグドリアン湖の園遊会で見かけた等と思い出話を始めた事で、本人だと証明された。

なお人修羅は「知らなかったとはいえ皇太子殿下に剣を突きつけるとか、やりすぎよ!」と叫ぶルイズによって股間にトーキックを受け、天使達にお迎えされそうになった。これは全くの余談である。

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