あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

孫悟空VS.その他大勢


船倉に戻ったキュルケは、火薬樽に体重を預け、両膝を抱えて座り込むルイズを見つめた。
ルイズの両目は開かれているが、その瞳には何も映されていない。
今のルイズのような目をした女性を、男性経験豊富な彼女はこれまでの人生で何度も見たことがある。
男の帰りを待って待って待ち続け、やがて待ち疲れた女の目だ。

(……いや、あれはどっちかっつーと)

キュルケはその考えを訂正した。

(主人に捨てられた子犬の目、かしらね)



船尾に設けられていた船倉を後にした悟空とワルドは、一度デッキを上がった後、ひたすら下へ下へと歩を進めていた。
先頭に立っているのは悟空だ。船内にいる賊をやりすごすため、遠回りを余儀なくされている。
ワルドはその悟空の後を黙ってついて来ていた。

(ここまでは、オスマンのじっちゃんの言ったとおりになってんな)



ギーシュと悟空がトリステインに戻った日。
手合わせの後、駆けつけたモンモランシーによってタコ殴りにされ、更に無断外出の件を問い詰められていたギーシュをどう助けたものかと
眺めていた悟空をコルベールが発見し、3人はオスマンの執務室へと向かった。
そこで悟空とギーシュは、フーケがワルドの保護観察下にあるのではなく、脱獄したのだと聞かされた。

「馬鹿言え。裁判も始まってないのに、保護観察になるわけが無いじゃろう。第一保護観察なんて、ここトリステインじゃめったに執行されんわい」

とはオールド・オスマンの言である。
この時、アンリエッタは既に城へと帰っていた。
もしこの場に彼女がいたなら、最も信頼している家臣の一人が脱獄の手引きをしていたと知って、ショックのあまり気を失っていただろう。
犯人はワルド以外ありえなかった。彼女は彼の保護観察下に置かれている。
フーケがそう言った。ワルドもそう言った。
チェルノボーグにいた門番の話では、さる貴族を名乗る怪しい人物に『風』の魔法で気絶させられた、との事だった。
言うまでも無いことだが、ワルドは風のスクウェア・メイジだ。

「…状況証拠がここまで出揃えば答えは明白。どうやら、敵は外だけでなく内にもいるようじゃな」

白い顎鬚を撫でながら、ため息をつくようにオスマンは言った。
そこから、オスマンを中心として作戦会議が始まった。



『ミス・ロングビル……じゃなった、フーケはミスタ・グラモン、お主がなんとかせい。やっこさん、今なら油断しきっとるに違いあるまい』

ギーシュは昼食の際、フーケにこれでもかと給仕しまくった。
酒癖の悪さを隠さなくてもよくなったフーケは、開き直ってぱかぱかグラスを空にした。しまいには、エールの入った大瓶を抱えて離さなくなった。
酔い潰れ、フーケにマトモな行動を取らせなくした時点でギーシュの任務はひとまず達成された。

『ミス・ヴァリエールの使い魔の…ゴクウ、じゃったか? お主はワルドの動向に気を配れ。出来る限りミス・ヴァリエールから遠ざけておくんじゃ。
 できれば彼一人をどこかに閉じ込められればよいのじゃが……』

2人は梯子を上って甲板から三つ下のデッキにたどりついた。このデッキには今、悟空とワルドを除けば誰もいない。
悟空はL字型の通路の中ほどにある扉を開け、中に入った。ワルドも後に続いた。
そこは船の側面に取り付けられた翼の機関部だった。
奥行きは10メイルほどしかなく、両脇は冷却用のパイプやら大小さまざまな歯車やらでひしめき合い、大の大人が2人並ぶのがやっとのスペースしかない。
おまけに機械類が絶えずガチャガチャと音を立てている。これなら外を賊の誰かが通ったとしても気付くことは無いだろう。
と、悟空はルイズ達を置いてきた船倉に何者かの気が近付いてくるのを感じ、動きを止めた。
先ほどのジョニーとかいう男のものではない。が、悟空はこの気に覚えがあった。
甲板で眠らされる直前、上昇した気と同じものだ。
悟空の様子がおかしいことに気付いたワルドが声をかけようと足を踏み出すと、突然悟空がこちらに振り返った。

「ワルド、悪ぃけど、おめえちょっとここで待っててくれ」
「は?」

――ピシュン
悟空が瞬間移動で消えた。

「………あれ?」

ガチャンガチャンと機械がせわしなく音を立てる小部屋に、ワルド一人がとり残された。



船倉の扉が開いた。
悟空が戻ってきたものと思っていた一同は、入ってきた人物の顔を見て凍りついた。

「なんでぇ、やっぱり2匹ほど居なくなってやがんな。ったくジョニーの奴サボりやがってよぉ」

空賊の頭が、室内を舐め回すように覗き込んでいた。
その顔を見た瞬間、呆けた様子だったルイズの瞳に、強い怒りが宿った。
ゴクウを眠らせた奴だ。
出し抜けにルイズは立ち上がり、頭の目をキッと見据えたまま、室内の皆を庇うように前に進み出た。
頭は何も言わず、面白そうな笑みを浮かべたまま黙ってルイズを見下ろした。ルイズも負けじと睨み返す。
今ここにゴクウはいない。
だからせめてわたしが皆を守るんだ。
そうルイズの背中は語っていた。キュルケには、その様子れが主人の居ぬ家を守る犬のようにも見えた。
タバサは、頭の左耳に着けられていた片眼鏡に注目していた。
先ほどと違い、緑色レンズの部分に何か模様が描かれているように見える。
すると、片眼鏡から奇妙な音が鳴り、レンズに描かれた模様がひとりでに形を変えた。

「ん?」

頭がその音と模様に怪訝な表情を見せると同時に、突如悟空が船倉内に出現した。

「ゴクウ!」

反射的にルイズが叫ぶ。先ほどの気丈な様子とは裏腹に、その瞳にみるみる涙が浮かんだ。キュルケ達もこの状況で一番頼れる男が戻ってきてくれたことで、その顔に安堵の色を浮かべていた。

「なっ!? 何だ貴様! 今どうやって現れやがった!?」

余裕を見せたルイズ達と違い、初めて悟空の瞬間移動を見た頭は驚いていた。
無理も無い、とギーシュは思った。杖も詠唱も無しにあらゆる障害物や制約を無視して移動してのけるその能力は、何度か間近で見ているギーシュですら、今のように突然現れると少しはビックリするのだ。初見では尚更であった。
そして、もう一人この状況に驚いている人物がいた。
悟空は、自分を眠らせたと思しき人物の顔についている物を見て、反射的に自らの気を上げた。
あのスカウターとかいう強さを測る機械を、今目の前にいる男が身に着けている。
服装が違う上に力も感じないのでとてもそうは見えないのだが、こいつも自分同様ハルケギニアに迷い込んできたフリーザ達の仲間なのだろうか。
悟空の気の上昇に伴って、ピピピピ…という音と共に相手のスカウターの数値が見る見る上がり、やがて止まる。
今の悟空の気は、戦闘力に換算して5000程度には上がっているはずだ。
相手は自分のように気をコントロールできる実力者かもしれない。これくらい気を上げていれば、相手の実力が今の悟空の気より弱ければ警戒するし、悟空より強ければ油断した様子を見せるはずだ。そう判断してのことだった。
だが、目の前の相手はそのどちらも無い行動に出た。

「何だ、うるせえな」
「へ?」

数値の上昇などお構い無し。警戒も油断もせず、スカウターの耳当ての部分を指先で数度つついただけだった。。
悟空の頭に一つの疑念がよぎった。

「……おめえ、もしかしてそれが何か知らねえで使ってんのか?」
「ん? そういう貴様はこれの使い方知ってるのか。…ということは貴様ら、やっぱり貴族派なんだな」
「バカ言わないで!」

貴族派と言われて頭に血が上ったルイズがたまらず叫んだ。

「誰が薄汚いアルビオンの反乱軍なものですか! わたしたちは王党派の使いよ!!」
「王党派の使い?」頭の視線がルイズに向いた。「何しに行くんだ? あいつらは、明日にでも消えちまうよ」
「あんたらに言うことじゃないわ」
「…貴族派じゃねえんだな?」
「くどい!!」

それを聞いて、頭は縮れた黒髪を剥いだ。驚くべきことに、それはカツラだった。中から現れたのは、銀河帝国の皇帝と張り合えそうな豪奢な金髪。
付け髭も剥がされ、野性的な風貌の頭は一転して凛々しい金髪の若者へとその姿を変えた。まさに劇的ビフォーアフター。

「なら私達は味方同士だ」



「……いえ、今のところこちらに届いたのは1つだけです。もう1つは所在がわかっておりません」
『こちらからは同時刻に別々のルートで出発させた。今になっても届いていないということは、恐らく王党派の襲撃を受け、奴らの手に渡ったのだろうな』
「申し訳ございません。ジョゼフ様に頂いた品、この身に代えても必ず取り戻して見せます」
『別に構わん』スカウターの向こうで、王が面倒そうに片手をひらひらさせる様が目に浮かんだ。『遠くの者とこうして会話ができる程度の品なら、他にいくらでも替えが効く』
「寛大な処置、痛み入ります」

アルビオン首都ロンディニウム、王家ハヴィランド宮殿に設けられた一室で、シェフィールドは彼女の主、ガリア王ジョゼフ一世とスカウターを通じて会話していた。
ジョゼフには、これは遠くに居る者と会話ができる機械。ディスプレイに表示される記号は調節のためのものであり、特に気にする必要は無い、と説明した。
探せばありそうなちょっと珍しいマジック・アイテム。そう相手に思わせることが目的だった。
そして、ジョゼフはそれで納得した。
今はそれでいい。シェフィールドは一人笑みを浮かべた。
この地に来てから何年経つだろう。
一時は諦めかけた元の世界に戻る手がかりが、今になってようやくこの手に飛び込んできた。
後はこのスカウターがいつ、どうやってハルケギニアにもたらされたのかを調べる必要がある。

「ところで、このアイテムはいつ入手を?」
『先週だ。ビダーシャルが言うには、4年ほど前に発見された「場違いな工芸品」の中で発見したらしい』

エルフの名を出されて、シェフィールドの形の良い眉がしかめられた。

「場違いな工芸品?」
『ロマリアの連中が、ハルケギニア外部からもたらされたらしい物品をそう呼んでいるそうだ。相当な数をエルフ達の目をかいくぐって蒐集していると言っていたな』

今回はたまたま移送前に発見できたんだそうだ、とジョゼフは付け加えた。
サハラ方面になら何か手がかりがあるだろうとシェフィールドは踏んでいたが、ここに来てもう一つ調査対象が増えた。
正直、今すぐにでもロマリアに足を運びたいところだ。
だが、王の興味と戦力はほぼ全てアルビオンに向けられている。彼女もそこに配置された重要な駒の一つだ。独自に動くことはできない。
まあいいか、とシェフィールドは考え直した。
もう30年近くこの世界に居る。あと1、2年余計に待ってもいいだろう。



ルイズは目の前の光景が信じられなかった。
先ほどまで不倶戴天の敵だと思っていた空賊の頭は、あろうことかアルビオン王国皇太子、アンリエッタ姫の想い人、ウェールズ・テューダーその人だったのである。
船長室まで案内され、集められた空賊たち――ジョニーは便所に行ったままだった――が一斉に直立不動の姿勢を見せた時は、おもわずキュルケと互いの頬をつねり合った。
ルイズの指に光る水のルビーを目ざとく見つけたウェールズが、自分の指に嵌めていた風のルビーを近づけてその身分を証明したことにより、ようやくルイズは納得して姫から託された手紙を皇太子に託した。
ウェールズがその手紙を読んでいる間、悟空とギーシュから更なる衝撃的な発言を聞いた時には、ルイズは卒倒しそうになった。
ワルドが、あのフーケを脱走させた張本人で、しかも、しかも……敵である可能性がある。
今はフーケ共々先ほどまで居た船倉に閉じ込めている。ルイズは信じたくなかったが、ギーシュがルイズに語って聞かせた学院でのオールド・オスマンとのやり取りと、それを告げられた時のワルドの狼狽っぷりが、その話が嘘でないことを何より如実に物語っていた。
ちなみにフーケは最初から最後まで酔い潰れていた。立場上は凶悪な脱獄犯であるはずなのだが、だらしのない顔で盛大に眠りこける様は、とてもそうは見えなかった。
互いに一通りの自己紹介を終えると、ウェールズは一行を正式な大使としてアルビオンに迎えることを約束した。
件の手紙もアルビオン本国にあるらしく、ルイズたちはこのまま空賊船改め偽装船<イーグル>に乗って行く事になった。
その手筈が整うと、タバサはさっさと<ドレーク>の甲板に係留したままになっているシルフィードの餌やりに行ってしまった。
キュルケとギーシュは、ウェールズと悟空を中心とした会話に参加している。
議題は、ウェールズが身に着けていたスカウターについてだった。
悟空からスカウターの機能について簡単に説明を受けたウェールズは、感じ入ったように頷くと、このオーパーツを手に入れた経緯について話し始めた。

「4日ほど前だ。今日のように貴族派の物資輸送船に奇襲をかけ、戦利品の中にこいつがあった」
「誰が着けてたのかわかるか?」
「いや。これは箱に収められていた。最初は使い方が判らなかったが、やがてこの模様が人間の場所を示すらしいことが判明したので、襲撃の際に相手の人数と位置が把握できるようにと私が使うことになった。が、まさかこれが相手の力を計るものだったとは思わなかったな」
「あと、オラの兄ちゃんが言ってたんだけど、これを着けてる他の奴と会話とかもできるらしいぞ」
「そんな凄いものなのか…。ふむ、マジックアイテムのようだとは思っていたが、これはそれ以上だな。……生憎私が持っているのはこれ1つだけなので、会話はできないだろうが。
 それよりもう一つの機能というのが気になるな。これで本当に相手の力が判るのか?」
「ああ」
「ダーリン、よかったら使って見せてくれない? ちょっと興味があるわ」
「オラが?」
「だって、あたし達じゃ何が書いてあるのか読めないもの。ダーリンは読めるんでしょ?」

まあな、と悟空は頷いた。
かつてヤードラットから地球に帰る際、乗ってきた宇宙船に再度コースを入力するため、現地の科学者が総出で機能を解析してくれたのだが、実際にコースをインプットした後の微調整などは乗組員本人が行わなければならない仕様だったため、悟空も簡単な操作や計器の読み方をレクチャーしてもらったのだ。
そのため、フリーザ軍で使用されている言語も少しなら読める。当然、計器に表示される数値などはお手のものだった。

「よし、じゃあ誰の力から計っかな~」
「ぼ、僕のから頼むよ!」

ギーシュが期待を顔にありありと浮かべて言った。
悟空はスカウターを装着すると、赤いスイッチを入れた。ピピピピ…と電子音が鳴り、やがて止まった。

「えっと…ギーシュの力(りき)は……5だな」
「それって、強いのかい?」
「う~ん…普通……かな。魔法使う時とかは、この何倍にもなってると思うんだけどよ」
「ねえダーリン、あたしはどうなの?」
「キュルケは…」再びスカウターのスイッチを入れる。「……6。お、やっぱトライアングルなだけあってギーシュより強えな」

悟空はせっかくだからと、船内に居る者の戦闘力を片っ端から計っていった。

「ルイズも6、ワルドが9、う…うぇ…」ウェールズだ、と再び自己紹介が入る。「ウェールズが6」皇太子をつけなさい、とルイズからツッコミが入る。「タバサは4、フーケは5だな。やっぱワルドが一番強えんだな」
「でもタバサだけ低くない? あの子もあたしと同じトライアングルなのよ?」
「魔法使ってねえ時はこんなもんなんじゃねえか? あいつちっこいし」
「ゴクウ、ちょっと貸してくれ。君の力を計ってみたい」
「いや、オラは別にいいよ。強くも弱くもできっからさ」
「それならば参考までに、さっき私の前で上げた時の値を出してくれ」

そうウェールズに促され、じゃあ、と悟空がスカウターをギーシュに渡す。ギーシュがスカウターを装着している間に、悟空は気を再び上げた。
数値をここに書き出すといい、とウェールズから紙とペンを渡されたギーシュは悟空をスカウターの表示範囲内に捉えると、スイッチを入れた。
これまでの誰よりも長い時間ピピピピ…と電子音が鳴り、やがて止まる。ギーシュはその値を紙に書き出し、悟空に見せた。

「どれどれ、オラの今の力(りき)は……。んーと、5034か」
『ごせん!!??』

悟空を除くその場の全員が驚愕の叫びを上げた。
文字通り桁が違う。違いすぎる。
口々に悟空を褒め称える声が上がる。それを効いているのが次第に辛くなり、ルイズは部屋の隅で両耳を塞ぎ、目をぎゅっと閉じた。
またひとつゴクウの凄さが証明された。
わたしは相変わらずだ。ギーシュより強いけど、慰めにもなりはしない。
何なんだろう、この差は。
その時、船長室に設けられた窓の外が真っ暗になった。

「どうやら、そろそろ到着するらしいな」ウェールズが言った。「今この船は雲海を潜って大陸の下を通り、ニューカッスルに近付ている。そこに我々しか知らない秘密の港があるのだ」
「どうしてわざわざそんなことを?」
「今、ニューカッスルの制空権は叛徒どもの手の内にある。かつての我々の旗艦<ロイヤル・ソヴェリン>が拿捕されてしまったのだ。今はそいつが城に向けて、たまに嫌がらせのように大砲をぶっ放していく」

それに答えるかのように、外から大音響が轟いてきた。

「あれがそうだ」
「あ、オラ前に見たことあるぞ。ルイズも」
「では、あの船がいかに強力かも知っていよう。あれが敵の手にある限り、我々の空は戻ってこないのだ」

<イーグル>と<ドレーク>は、静かに闇の中を進んでいった。



シェフィールドのスカウターが警戒信号を発した。
彼女のスカウターは今、観測範囲をアルビオン国内に限定している。そこに強い戦闘力を持った何者かが侵入してきたのだ。
詳細な数値を確認したシェフィールドは、ありえない数値に思わず驚愕の声を上げた。

「5000!?」

一瞬故障を疑った。
が、ミョズニトニルンとしての能力が、スカウターに何の異常も無いことを教えてくれている。
シェフィールドの戦闘力は84。メイジに魔法で対抗されない限り、ほぼ最強といっていい数値だった。
その彼女をも上回る、エリート級の戦闘力を誇る何者かがこの地にやってきた。自分と同じように召喚されてきた同僚かもしれない。
座標から場所を確認する。ニューカッスル城内。
確か、「閃光」と「土くれ」が皇太子の命を奪うために先行しているはずだ。
もしや、と疑念がよぎる。
「土くれ」がこちらの側につくための条件と言っていた「こちら側に引き込んで欲しい人間」だろうか。
もしそうなら、同じ穴のムジナである自分が居た方が話が早い。
シェフィールドは、一人宮殿を後にした。



「これが姫から頂いた手紙だ」

ニューカッスル城に到着後、ひとしきり歓迎を受けた一行は、揃ってウェールズの居室に案内されていた。城の一番高い天守の一角にある彼の居室は、王子の部屋とは思えない、質素な部屋であった。
何度も読み返されたらしいボロボロの手紙をウェールズは最後にと愛しそうに読み返すと、丁寧に畳み、封筒に入れてルイズに手渡した。

「この通り、確かに返却したぞ」
「ありがとうございます」

ルイズは深々と頭を下げると、その手紙を受け取った。

「明日の朝、非戦闘員を乗せた<イーグル>が、ここを出航する。それに乗って、トリステインに帰りなさい」
「感謝します。ですが、それには及びません。わたしの使い魔が連れて行ってくれます」
「ほう? どうやってだね?」
「ゴクウ」
「ん?」
「わたしを姫様のところに連れて行って。せっかくだから今のうちにこの手紙を渡してしまいましょう」
「わかった」
「見ててください、殿下」

――ピシュン
悟空がルイズの肩に手をやり、もう一方の手で自分の眉間に指を2本当てると、瞬時に2人の姿は掻き消えた。



アンリエッタ姫は、トリステイン王宮の自室で、一心不乱にペンを走らせていた。
創作意欲がグングン湧き上がってくる。何かに吐き出さないと、どうにかなってしまいそうだ。
今はただひたすらに、書く、書く、書く!
取り付かれたかのように書をしたためる姫の口元からは、ブツブツと呟きのような音が低く漏れていた。
広い部屋の中、従者すらも追い払われ、いかなる干渉も受け付けないかのようにサイレントがかけられた室内は書き連ねられた紙がそこかしこに散らばり、ペンを走らせるカリカリと言う音だけが聞こえていた。
その時までは。

――ピシュン

聞き慣れない音に、集中力を削がれたアンリエッタが顔を上げる。

「オッス」
「姫様…?」

ルイズと使い魔が、そこに居た。
呆気にとられた顔でぽかんと2人の顔を交互に見つめたアンリエッタが、がたんと椅子から転げ落ちた。
と、手足をわさわさと動かして部屋中を這いずり回り、散らばった紙をかき集めていく。
この2人に見られるわけにはいかなかった。
だって、今書いているのは、

(ヤバいヤバいヤバい! 何で? 何でこの2人が居るの!? 誰か来てーって無理だぁサイレントかけてるから聞こえるわけねー!!! ていうか誰にも見られるわけにはいかねー!!!!!)

悟空×ワルド本の原稿なのだから。
狂ったように散らばった紙を回収するアンリエッタをとりあえず手伝おうと、ルイズも手近な紙に手を伸ばす。その表面に書き込まれた文章が、ふとルイズの目に止まった。

「『そう、そのまま飲み込んで、オラのデルフリンガー』……?」
「み、見ちゃらめぇぇ」
「ルイズ、何だそれ? デルフのことが書いてあるんか?」
「うん、良い子は見ちゃ駄目」

何が書かれているのかを大体察したルイズは、頬を染めながらも勝ち誇った顔で集めた原稿をアンリエッタに差し出した。
口では駄目といっているものの、もの書きのサガか、だれかに原稿を読んでもらいたいという欲が羞恥心を上回ったアンリエッタは、じっくりねっとり読み込まれた原稿を真っ赤な顔で受け取った。

「ず、ずいぶんと精が出ますのね姫様。今度はゴク×ワルですか」
「ええ、ルイズ。やはりあの方は受け――」
「それは違いますわ姫様」

ぴしゃりとルイズが遮った。

「ワルドは攻めよ。わたしとゴクウは確かにその証拠を聞いたわ」
「何ですって……?」
「ゴクウ、ラ・ロシェールの酒場で、ワルドは貴方に『やらないか』って言ったわよね?」
「ああ」ルイズは言外に違う意味を込めて言ったが、悟空は知る由もない。「そういやそんなこと言ってたな」

アンリエッタの頭上に雷が落ちた、ように感じた。
衝撃にアンリエッタの膝がガクガクと振るえ、口が打ち上げられた魚のように力無く開閉を繰り返す。
姫は今、真っ白に燃え尽きた。

「お、おい、姫様大丈夫か…?」
「今はそっとしてあげて。信じていた未来が崩れ去ろうとしているのよ」

どこか遠い目をして、ルイズはそっと嘆息を漏らした。

「悲しみを繰り返し、人はどこへ行くのかしらね……」



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