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mission 13「Dead End」


 アルビオンから帰ってきて、スコールはおよそ5ヶ月ぶりにトリステイン魔法学院へとその足を向けていた。
(……また来るとは思ってなかったな……)
「レオン?」
「……何でもない。早くこいつを届けよう」
 と、ジャケットの裡から便箋を取り出す。
 結局指定されていた宿に、ロングビル本人は来なかった。警戒されていたのかも知れない。使いになっていた子供から手紙を受け取って、すぐさま帰ってきた。
 今日明日にも開戦の兆しが見えており、既に艦隊は出立したとも聞く。手早くこちらを手空きにしたかった。
「何でもないという顔か、それが。ああ……召喚されたんだったな、お前は……」
 動揺を見せたスコールの素性を思い出す。
「ああ。俺がハルケギニアで初めて入った建物だ」
「何なら私一人で行くか?」
「大丈夫だ。遺恨が無い訳じゃ無いが、いちいちそれに引っ張られてもいない」
 と、率先して足を進める。
 そうして入った学院は、明らかに何かがおかしかった。
「……人気が無さ過ぎるな」
 この戦争に際して、ほぼトリステイン全土の総力を結しているという事から、学院の男子生徒までが徴用されたという話は既に聞いている。だがそれでも、門に衛兵の一人も見あたらないというのはおかしな話だった。
 妙な胸騒ぎを覚えつつ、不慣れな敷地内へと足を踏み入れ探索することしばし。建物の一つを囲むようにしている十数名の人影があった。
「何者だ、貴様ら!」
 何故か、視界にはいるのは鎧を纏った女性ばかり。その内の一人が振り向いて誰何してくる。
「傭兵のスコール・レオンハートだ」
「その相棒のアニエスだ」
 敵意がないことを示すため、両手を上げながら名乗ると、彼女たちの大半が驚きの表情に変わった。
(何だ? レオンハートの名前が出た途端に騒いで)
「そう言うあんた達は何者だ。何か起きているようだが」
 腕を下ろしても大丈夫そうだと判断して下ろしつつ、尋ねる。
「……我々は女王陛下直属の銃士隊の者だ。……現在、賊が大半の女子生徒と職員を人質にとっている」
 後半は少し間を置いて、迷った末に告げたように思えた。
「人質?」
「職員もか?」
 予想外の事態に、二人は顔を見合わせる。
「それで貴様達は何をしに来たんだ」
 ここで隊長格らしい女性が前に出てくる。
「俺たちは、先日ここの学院長に依頼を受けていた。その任務が完了したので報告に来たんだが……」
「こんな事になっているとはな……」
「ちょっと失礼するわよ?」
 そこで他の隊士をかき分けながら現れたのは3人の人影だ。
「やっぱり、あの時の傭兵さん達ね」
「…………」
「スコール・レオンハート……!」
「お前達は……」
 ラグドリアン湖で会った、火のメイジと風のメイジ、そして
「ヴァリエール……」
 出来ることなら、顔を合わせずにここからは立ち去っていたかったのが本音だ。
「生徒は下がっていろと言っただろう!」
「あなた方だけでは状況を変えられないから、手を貸して差し上げると言っているんでしょう?」
 銃士隊隊長の言葉に平然と返し、スコール達に向き直る。
「あなた達も、手を貸して下さるかしら?」
「人質の救出か?」
「ええ。実はあんまり時間もなくてね……」
「ちょっとツェルプストー! あんたこいつに頼むつもり!?」
 ヴァリエールが目を三角にしてツェルプストーと呼ばれた少女に怒鳴る。
「もちろん。アナタは知らないかもしれないけどね、彼、並みのメイジよりずっと強いわよ」
「それは……知っているけど……」
 不満げなヴァリエールを余所に、スコールとアニエスへと視線を向ける。
「それで、どうかしら?」
「……こちらとしても、依頼主に何かあれば事だが」
「ああ。ここは協力すべきだろうな」


 ライオンハートも帯刀せず、両の手を挙げて敵対の意志を示さないまま、スコールは食堂へと近づいていく。
 もちろん、敵対の意志を見せていないとは言っても賊側に認知された行動ではないから声がかけられる。
「おい貴様! ここに近づけば人質の命は無いぞ!」
 ここまで近づければ十分だ。あとはG.F.の発動準備を開始しつつ隙をうかがうのみ。
「この学院の長に雇われていた傭兵だ。任務をこなしたが……学院長が死んだ場合どこから成功報酬を請求出来るのか教えて欲しい、と言伝てもらいたい」
「そんなこと知るか! 早々に離れろ!」
 窓からこちらへと杖を掲げてみせる。
「それは困る。こちらも慈善事業をやっている訳じゃない。直接会う必要はないんだ。学院長に取り次ぐだけで……」
 全てを言うより早く、スコールは雷に撃たれた。
(警告も無しか……!)
 一瞬身を仰け反らせ、前方へ体が傾いでいく。
 ざわ、と後ろと食堂内から声が上がる。
「良いか!? 早く女王を連れてこい! さもなくばここにいる全員が――」
 窓辺からの声が辺りに響く。つまりそれは、
(俺から、目を離したな!)
 倒れる中、前方へ手を付きクラウチングスタートの構えに。
「――こいつと同じ様に――」
 一番体重が掛かる時の反動を利用してダッと一気にかけ出す。オートヘイストは掛かっていないが、それでもトリプルをジャンクションしてあるスコールのスピードは並みの人間とは桁違いだ。見張りがそれに対応出来ないうちに、窓枠越しで右ストレートを見舞う。
 倒れ込む犯人によってまた別の悲鳴に満たされる食堂へ目を向け、全ての対象を補足。
「G.F.召喚、セイレーン! サイレントヴォイス!」


 一瞬にして辺りの風景が食堂から海辺へと変わって、打ち寄せる波飛沫に、座っていた女子生徒達が悲鳴と共に慌てて立ち上がる。
「おい、勝手に動くな!」
 賊がそうは怒鳴るが、彼ら達自身、いきなり変わった辺りの光景にすっかり動揺していた。
 そこへ、音が聞こえてきて食堂にいた者達は全員がそちらへ目を向ける。
 海辺の浅瀬、そこに突き出た一つの岩礁。その上に座った裸の亜人がハープを奏でている。頭から生えているのは髪か羽か、誰も見たことのない亜人だった。
(――ほ、これは眼福じゃ。が――)
 何か危険な匂いはした。ダテに齢を重ねた訳ではない魔法学院学院長オールド・オスマンの経験が直感へと結びつき警鐘を鳴らすが、とらわれの身の中、動くに動けない。
 そして気付けば、全員再び食堂の中にいた。
 一体何が起こったのか?
 特に誰に向けるでもなくそう呟こうとしたオールド・オスマンは有ることに気付いた。
 ――声が出ない。
 今度こそどうしたのかと、周りに意思疎通を試みようとして、悟った。全員が、首を押さえている。つまり、この場にいる者達全てが自分と同じ状況になっているのだろう。
 正体不明の幻覚――らしきモノと声が出せなくなった自分たち。
 じたんだをふむ者の音が聞こえてくるからコモン・マジックのサイレントの類では決してない。この症状に晒されているのは場ではなく自分たちだ。
 そこでオールド・オスマンはまた別のことに気付いた。
 何で、食堂の真ん中に紙風船など浮かんでいるのだろうか?


 カッと食堂中が光に包まれるのを察する。
 黄燐を包んだ紙風船を使い、火と風のメイジによって行われた即席のスタングレネードだ。
 スコール達に話された段階での作戦は、この紙風船だけで突入する予定だったのだが、それでは自棄になった賊のめくら撃ちの魔法で死傷者が出ないとも限らない、と渋られていたのだ。
 そこでスコールは、それよりも前に自身が食堂内にいる者達全てを口の聞けない状態にするとし、作戦を補完していた。
「突入!」
 閃光の確認と共に銃士隊隊長の号令が下され、前衛と後衛に別れて突入が開始される
「レオン!」
 同時に走り出しながらも、誰より早く走ってきたアニエスが投げたライオンハートを受け取り、半透明の青い刀身を抜き放つ。今回は対メイジ戦が、それも特殊任務に向けられるような強敵が想定されているため、アニエスの方もジャンクションは済ませていた。
「行くぞ!」
 発光に目をやられないようにと隠れていた壁から、窓側へ移りアニエスと共に内部へ突入する。
 口の聞けなくなった事と、視界を奪われたことで内部は行動を躊躇する者がほとんどで、半制圧状態とも言える状況だった。ただ、一人を除いては。
「動く奴が居る!」
 この場にいるオールド・オスマン以外の男ということで、そいつが敵対者であることはほぼ間違いない。その人物は手近な女子生徒の一人を掴むと、自分の体に引き寄せ盾代わりにしつつ食堂の出口へと向かった。
 その手に持つ杖はレイピア型のような刺殺出来るデザインには見えないが、
(あの体格、下手をすればそのまま首をへし折られかねないな)
 要するに、人質に出来てしまっているのだ。
「あれ、モンモランシー!?」
「これは……!? くっ! 行動不能に陥っている賊を捕縛、急げ! 君たちは他の生徒達の誘導を!」
 突入して、状況を理解した銃士隊隊長が他にそう命ずる。と、それに弾かれるように男は女生徒を連れたまま、食堂から表へ飛び出していた。
「あの男、目が利いているのか!?」
「そうらしい。目を閉じていたのか何なのか……」
 驚きの声をあげる隊長と共に、男を追って表に出る。以前ヴァリエールが囚われていた時と同じく、距離を詰めて擬似魔法のデスをたたき込めば何とかなるだろうが……。
「全員下がれ! 人質を取っている!」
 後詰めに回っていた面々が、距離を保ちながらの後退を余儀なくされる。そんな中――
「? コルベール! 下がって頂きたい! ひとまずは人質の安全を……」
 学院に所属する男の中でただ一人難を逃れていた人物が、離れるどころか近づいていっていた。
「ミスタ・レオンハート、彼を話せるようにしてくれるかな?」
「出来ますがしかし……」
 銃士隊隊長の言葉を遮り、妙な殺気を伴ったコルベールからの申し出にスコールは難色を示す。
「どのみちこの状況では魔法が使えようと使えまいと大した差はありません。それよりはまず意思の疎通を図ることが重要でしょう」
(会話で隙を作り出すつもりか……?)
 真意を推測し、それに乗ってみる。ジャンクションを切り替え、男に向かって手を向ける。
「G.F.セイレーン、アビリティ ちりょう」
 ぱぁっとその男を光が包む。
「は、ははぁっ! お前は……。お前は! お前は! お前は!」
 口がきけるようになった男の口調から察せられたのは驚きと、
「捜し求めた温度ではないか! お前は! お前はコルベール! 懐かしい! コルベールの声ではないか!」
 そして歓喜だった。
「何年ぶりだ? なあ! 隊長殿! 二十年だ! そうだ!」
(隊長? 何のだ……)
「オレだ! 忘れたか? メンヌヴィルだよ隊長どの! おお! 久しぶりだ!」
「メンヌ……ヴィル……?」
(ん?)
 隣にいる相棒が、男の名を繰り返したが、今はとりあえずそのメンヌヴィルとやらの様子をうかがう。
 メンヌヴィルの興奮ぶりに対して、コルベールは静かだ。
「わたしの教え子から、離れろ」
 ただし、その静かさの裏には別なモノが見えるが。
「教え子? なんだ? 隊長殿! 今は教師なのか! これ以上おかしいことはないぞ! 貴様が教師とな! いったい何を教えるのだ? 〝炎蛇〟と呼ばれた貴様が……、は、はは! ははははははははははははははははッ!」
 そこで腕の中で震えている少女に顔を向ける。
「きみたちに説明してやろう。この男はな、かつて〝炎蛇〟と呼ばれた炎の使い手だ。特殊な任務を行う隊の隊長を務めていてな……、女だろうが、子供だろうがかまわずに燃やし尽くした男だ」
 その話の内容に、ハッとスコールは隣の相棒を見た。余りにも似通っている。
 では噛み締めるように名前を繰り返したのはつまり……
「メンヌヴィル! それに、コルベールと言ったな!?」
 コルベールの静かな怒りも、メンヌヴィルの高笑も遙かに上回る怒声を放つアニエス。その場にいる全員の目が彼女に集中する。
「貴様らが……貴様らの居た隊が魔法研究所実験小隊か!」
「ほう! オレたちのことを知っている者が居たとは光栄だな」
 心底嬉しそうに、軽くアニエスの方へ向けた顔を、僅か数瞬で距離を詰めたアニエスの右膝が強襲する。反動で出来た滞空時間を利用し、もう一度右の、今度はヴォレーキックを頭部へと見舞う。
 メンヌヴィルが吹き飛ぶ傍らで、放り出される形になった少女の側へとスコールは駆け寄る。
「G.F.セイレーン、アビリティ ちりょう」
 助け起こしつつ、サイレスを解除する。
「怪我はないか?」
「ちょ……ちょっとすりむいた……」
 半泣きになっているのは、人質にされていた恐怖か、それとも安堵か、或いは両方か。
 ともかく、このままではアニエスの戦いに巻き込まれかねないと、少女を抱えて離脱する。
 アニエスの剣が趨り、ブーツが舞い、拳が唸った。メンヌヴィルにいくつもの打撃と斬撃を見舞っている。もちろん、ジャンクションの上乗せでだ。
「ぐ、く、お! オレは……! コルベールと、だ! フレイムボール!」
 猛攻の中で、必死に反撃の魔法を向けるが
「そんな炎で私の怒りまで吹き消せるかぁっ!」
 属性防御ファイガで防ぐどころか自身の活力へと転換し、その燃える体のままに体当たりを行い、
「待っていたぞ、仇を討てる、この時をなぁっ!」
 どぉっ! とメンヌヴィルの体が塔に打ち付けられる。
「く……う、う……馬鹿な……貴様、人間か……」
 右手の剣は憎き仇敵を討たんが為
「人間などとうに止めた。あの時の仇を討つために!」
 左手を添えつつ振りかぶり
「オレは……オレは死ねん! コルベール隊長と……あの時の、続きを……!」
 二十年前に着火した恩讐の種火を業火に変えて
「もう二度と貴様らの好きにさせるものか! その続きは冥府でやれっ!」
 一刀両断。
「お、ごぉ、お……」
 袈裟切りに切り捨てられ、メンヌヴィルはついにその目的の欠片すら行えぬままに、塔の外壁にもたれて果てた。
「奴もすぐに送ってやる……」
 背後の壁ごと斬ったためにアニエスの剣は完全に刃が潰れていた。
 握りを返し、反対側の刃を外へと向けて振り返る。
「王軍資料庫の名簿を破ったのは、貴様だな?」
 その視線の先にいるのは、全てを察した様子のコルベール。
「そうだ」
「メンヌヴィルには言い損ねたな……教えてやろう。わたしはダングルテールの生き残りだ」
「……そうか」
 静かに、呟く。
「弁明も開き直りもしないのか」
 冷ややかにそう尋ねつつ、正眼に構え直す。
「……討たれる覚悟が出来ているととらせてもらうっ!」
 振りかぶった高速の一撃は、
「待て、アニエス」
 彼女が高速に至る力を与えた男によって防がれた
「何故止める!? その男は、私の捜していた最後の一人だ!」
 ライオンハートで剣撃を受け止めながら冷静に、答える。
「ここで斬ることは出来るだろうが、それじゃああんたが捕まる。俺としても、あんたの敵討ちに手を貸したいとは思うが、それ以上に捕まって欲しくない」
 スコールの言葉に、ようやく徐々に周りが見えてくる。
 銃士隊の面々はあっけにとられた顔をしているし、助け出された生徒も恐ろしいものを見るような目を向けている。
「……少し頭に血が上っていたようだ」
 血を拭い、剣を納める。
 もう一度だけコルベールを睨み付けた後、つい、と視線をずらした。


 なんだ今の戦いは。
 ルイズは目を見開いていた。
 銃士隊の訓練、コルベールに習った擬似魔法、そんなのはまるで役に立たないと言わんばかりの傭兵アニエスの戦いぶりと、それを鍔迫り合いを経て制止して見せたスコール・レオンハート。
(……敵わない)
 もし、アンリエッタから彼を討伐するように『命令』されていたとしても、一矢報いることすら敵わずに無駄死にを晒してしまうだろう。
 ならば、今成すべき事は一つ。
 アニエスは少し離れたところで目を瞑り、スコールはライオンハートを鞘に収めて銃士隊隊長へ向く。
「他に討ち漏らした連中はいるか?」
「い、いや、他は全て私の部下が捕縛している」
「そうか。なら、すぐにみんなを喋れる様にしてくる。人質達はまだ食堂か?」
「ああ、頼む……アニエスの名は知っていたが……何とも……」
 隊長の独り言のような言葉を背に聞きつつ、食堂へと歩を向けるスコール。その前に、ルイズは立つ。
「……ヴァリエール?」
「スコール・レオンハート、話があるわ」
「……早く人質達を喋れるようにしたい。その作業をしながらになるが」
「っ……ええ、いいわ」
 真面目に人の話を聞けと怒鳴りたいところだったが、とりあえず学友や教師達のことを思い出して従う。
「あなた、この前ウェールズ皇太子を殺めたそうね」
 歩き出したスコールに尋ねると、不思議そうな顔をしてルイズへと視線を向けてくる。
 周りに居た銃士隊の者で、ルイズの声を聞いた者はハッと目を向けるが、ルイズはそちらには気付かなかった。
「? ……誰のことだ」
「とぼけないでっ! アンリエッタ様の前で、ウェールズ皇太子を亡き者にしたでしょうっ!?」
「……知らない。俺がこの国の女王に会ったのは、あんたを送った時と、タルブ平原の戦いの報償を受けた時の二回だけだ」
 きっぱりとそう答えつつ、食堂への戸を潜る。
「何ですって……?」
 余りにも堂に入ったたたずまいに、ルイズが飲まれかけたところで、別の方から声がかけられる。
「ああ、ようやく来たわね、ミスタ・レオンハート。これ、どうしたらいいのかしら? どうやってもみんなが喋れるようにならないんだけど」
 キュルケの質問に、一つ頷きながら、学院長の側に向かう。
「大丈夫だ、俺が治せる。みんなが混乱しないように、順番に待たせておいてくれ。
 G.F.セイレーン、アビリティ ちりょう」
 ぱっと光が散り、オールド・オスマンの沈黙状態が解除される。
「お、おお……喋れるぞ! いやぁ、一時はどうなることかと思ったが、助けられてしまったのう」
 こりゃ追加料金も払わなければならんかな? とおどけるオスマンの視界に、ルイズが入ってくる。
「待ちなさい! アンリエッタ様がアンタの姿を見たっておっしゃってるのよ! 陛下が嘘をついたとでも!?」
 何だかどこかで聞いたような問答だなと、オスマンは目を細める。
「……俺は女王にも皇太子にも会っていない。
 アビリティ ちりょう」
 キュルケの誘導で並んだ女子生徒と教師達の沈黙状態解除をスコールは始める。
「あー、ミス・ヴァリエール。話は後回しにせんかね? この通りミスタ・レオンハートは忙しいようじゃし、その件についてはまぁワシも少々聞き知っておるでな。答えられる範囲では答えよう」
「アビリティ ちりょう」
 横目でその光景を見ながらちりょうを続ける。喋れるようになった者達も、ルイズの放つ威圧感に萎縮して、或いは白い目をしつつそそくさとその場を去っていった。
「……ではオールド・オスマン。お聞きしますが、あの事件で現れたというウェールズ様は本物なんでしょうか? ワルド子爵によって殺められた筈なのですが」
「う……む、それは……」
 流石にそこまでは知らないオスマンが言い淀んだ所で、スコールが振り向く。
「あれは本物のウェールズ皇太子だ」
「アンタ、やっぱり……!」
「ミスタ・レオンハート?」
 オールド・オスマンが良いのか、と目で利いてくるが、これは幾らでも言いつくろえる。それに出来るだけルイズとの繋がりは早めに切っておきたいのがスコールだ。
「あの事件に関して、別件で情報が必要だったのである程度調べてある」
 そこでキュルケへ視線を向ける。
「ラグドリアン湖で、俺が水の精霊と契約を交わしたのを覚えているか?」
「え? あ、ええ、確か指輪を……そっか」
 スコールの指摘にキュルケは何かを思い出したように頷く。
「アンドバリの指輪ね」
「アンドバリ……?」
「ふむ、水の先住魔法を封じ込めた指輪じゃったかな?」
 その老成された知識を呼び起こしながらオールド・オスマンが呟いた。また一人沈黙を治してスコールが振り向く。
「そうです。死者に偽りの生を与え、人を意のままに動かす指輪。長いので経緯は省きますが、俺はその奪還を依頼されています。推定ですが、現在の指輪の所持者はアルビオン帝国皇帝のオリバー・クロムウェル……」
「ほ……」
 スコールの言葉にオスマンは一つ感心したようなため息を出すと、スッと目を細める。
「つまり、そのウェールズ皇太子というのは、指輪の力によって蘇えり……」
「アルビオン皇帝に操られていた、と考えています」
 そこで再び、スコールは治療に専念し始める。
「ふーむ……王家への反乱のみならず、人の意志をねじ曲げるとはオリバー・クロムウェル、外道じゃな」
 吐き捨てるようにそう言ったオスマンの顔がルイズへ向けられる。
「結局ミスタ・レオンハートの手を煩わせてしまったが、これでミス・ヴァリエールの疑問も晴れたかな?」
「は、はい……」
 ルイズの胸中に飛来するのは、安堵と怒り。
 あのウェールズ皇太子は本物だけれど、意志が無い操り人形だった。つまりそれは、狙うべき仇は目の前の男よりもあの皇太子の決死の覚悟を冒涜したレコン・キスタの連中なのだと言うこと。
(……こいつを相手にしなくて良くなってほっとするだなんて……情けない!)
 悔しさにギリ、と奥歯が鳴るが、今はそんなことを言っている場合ではないだろう。今は兎も角一刻も早くこの事を女王に伝えなければ。
 そうルイズが意識を固め、手紙をつづるためにひとまず自室へ戻ろうと踵を返したところで、銃士隊の一人が駆け込んできた。
「水メイジは居るか!? 魔法が使えるようになっているならすぐに来てくれ! コルベールが流星に打たれた!」



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