あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

PERSONA-ZERO -01

「――――――落ち着け」

 これまで、いったい何度この言葉を口にしただろうか。
 転校先での事件、もう一人の自分、そして最後に見つけた真実。
 つい先日まで、自分が立っていた場所に思いを馳せる。
 しかしこの場所は、それらの思い出の場所のどことも違っていた。

「あんたは黙ってなさいよ! ―――ミスタ・コルベール、どうかやり直しを!」

 そして目の前には、アニメや漫画でしかお目にかかれない様なピンク色の髪の少女が一人、けたたましく何かのやり直しを要求していた。
 どうやらそれは、自分がここにいることと関係があるらしい。

「ミス・ヴァリエール」

 コルベールと呼ばれた周囲の人間より明らかに年配の男は、懇願する少女に対しゆっくりと首を横に振った。

 周囲には城壁のような囲いと、おそらく自分とそう変わらない年頃の少年少女。
 中世の人物の様な見慣れない服装をしているが、年に二回開催される某イベントではないだろう。
 なんとなく、なにかの授業―――青空教室のようなものだろうか―――のような雰囲気を受ける。
 とすれば、年配の男は引率者かまたは教師だろうか。

「それは認められない。使い魔の召喚は神聖なものだ、いかなる理由があろうと―――」

「そこをなんとか!」

「人間の……それも平民の男が使い魔なんて、考えられません!」

 ヴァリエールと呼ばれた少女―――ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエールというらしい―――は尚も食い下がっている。
 その姿に、あたりから嘲笑の声が降り注いでいた。

「見ろよ、ルイズの奴平民を呼び出したぜ」

「ああ、流石はゼロのルイズってところだな」

 嘲笑・嘲り・蔑み、それらの顔には決して好意的とは言えない笑みが浮かんでいる。
 特に珍しいことでもない。だが『彼』は、あからさまに不快な表情でその様子を眺めていた。

(……どこの『世界』でも、同じなんだな)

 『彼』は直感的に、そして経験的に理解していた。
 慣れているとまでは言わないまでも、そもそもこの様な事態は初めてではない。
 『彼』が体験した二つの世界。ここはそれらよりも、まだ幾分常識的だ。
 ここへ来る前に見た、奇妙な鏡。これはTVに置き換えられる。
 この目の前に広がる、見たことのない風景。これはTVの中の世界に置き換えられる。
 そして一瞬脳裏をよぎった鼻長妖怪……これはノイズとして除去してかまわない。
 それらのことから推測できること―――そしてその推測はおそらく正しい。



 すなわち異世界だと。



(さて……どうしたもんだろう)

 目の前では、まだ言い争い―――というより、一方的にピンク髪の少女が懇願を通り越してまくしたてている。
 周囲はそれを止める気もなく、嘲笑と傍観を決め込んでいる。
 そして、問題の中心にいながら放置されている自分。

「とにかく、落ち着きなさいミス・ヴァリエール」

「貴女の気持ちもわからないではないが―――」

「でしたら!」

「それでもやはり儀式のやり直しは認められない。例え召喚したものが平民の人間であろうとも、亜人であろうともだ」

 さて、どうしたものか―――。
 二人の問答は終わる気配がない。もっとも、今や少女が執拗に食い下がっているだけの形になっているのだが。
 二人の会話から察するに、この少女が『彼』をここに連れてきた張本人であると思えるが、
 先程の態度からしても、まともに話を聞く余地はなさそうだった。

「あの、コルベールさん……ミスタ・コルベールでよろしいでしょうか?」

 少し考えた末、『彼』は頭皮に幸薄そうな教師風の男性―――ミスタ・コルベールに声をかけた。

「え?……ああすまない、えーと君は……」

「番場 長助……いや、『こちら』では長助・番場の方が正しいのでしょうか」

「チョースケ・バンバ?」

「はい、元いた所では苗字と名前から一文字ずつ取ってJOJ……もとい、番長と呼ばれていました」

「……バンチョーですか……珍しい名前ですが……なんとなく威圧感を感じる響きですね」

 ふむ、と『番長』は小首を傾げた。
 彼にとっての現実世界では猛威を振るったウィットでキャッチなトークも、ここでは通用しないようだ。
 もっとも、現実世界でもブフーラに似た効果があるだけであったが、そこは気にしないことにした。

「そうですか? いや、それはともかく……俺はここに呼び出されたばかりで、状況がわかりません。説明をお願いしたいのですが……」

「―――呼び出された?」

「はい……そうなんでしょう?」

 そういって、番長はチラリと横にいる小柄な少女に視線を向けた。
 ミス・ヴァリエールと呼ばれていたその少女は、話に割り込まれたことに不満気ではあったが
 このまま我を通そうとしてもラチがあかないことは自覚していたのだろう。
 ジロリとこちらを一瞥するだけで、頬を膨らませながらすぐに視線をそらした。

 やはり、この少女だ。
 奇妙なことではあるが、何故かこの少女からは不思議な絆のよな物を感じていた。
 今まで自分の力と支えになってくれていたもの、コミュというやつだろうか。
 だとすれば、彼女は自分の知らないなんらかの『力』で自分をここへ呼び込んだことになる。

 瞬間的に場所を移動する方法は、『番長』もいくつか知っている。
 しかし、そのどれもが『通常』とは異なった空間のみで作用するものであること、
 そしていずれもが特定の場所から外へ出る手段、つまり脱出の手段としてのみ機能するものである。
 今回の様に別の世界を股にかけ、尚且つ誰かに移動させられるという事態は初めての経験だった。
 そのことから、ここでは自分の持つ常識はあまり通用しないだろうと『番長』は考えた。

 見知らぬ場所で行動する時、まず必要なものは情報である。
 そして、最後に武器となる物は人との関わり、すなわち絆だ。
 それなくしては、いかなる『真実』にもたどり着くことはできない。

「……ふむ」

 どうやらこの少年、若く見えるがなかなかの切れ者らしい。
 おそらくは、ミス・ヴァリエールとの会話の断片から最低限の状況把握をしたようだが
 普通いきなり見も知らぬ場所に呼び出されれば、状況把握どころか混乱してそれどころではないはずなのだ。
 実際に今まで召喚された動物の類でも、いきなりパニックを起こして暴れだすケースも少なくはない。

「わかりましたミスタ・バンチョー。お話しましょう、貴方は……」

「はい」

「召喚の儀式によって呼び出されたのです。使い魔として」




 ※※※




『いい? 私はアンタを使い魔として認めたわけじゃないんだからね!』

 結局、進級を人質にとられた少女の決断は『契約』であった。
 メイジと使い魔としての主従契約。
 脅しに近いコルベールの言葉と、反論を許さぬ雰囲気に圧された少女は、ついにはしぶしぶながら折れた。
 これは、その際の彼女の捨て台詞である。
 これに「勘違いしないでよねっ!」と続けば立派な某テンプレ台詞の完成だったわけだが。

 まあ、契約の方法がキスであったあたりの、あまりのファンタジー色というか
 おとぎ話節に多少面食らったものの、そこは百戦錬磨の我らが番長である。
 羞恥と緊張からガチガチになっていた少女を優しくリードしていたのは余談である。

 その報酬は頬についた小さな赤い掌の跡、そして左手に刻まれた不思議な紋章。

 それを見た、コルベールがガンダムだかザブングルだか聞きなれない単語を呟いていたが
 それを聞いて、コルベールと一つだけ共通点のある男の姿が思い浮かんだのもこれまた余談である。

「使い魔……ね」

 ならば、自分の今の状況はなんなのかとも思う。
 認めないと言いながら、示された最初の仕事は少女の下着の洗濯。
 召喚された場所で見た、火トカゲや大モグラには洗濯などできはしないだろうから
 コレが使い魔の仕事とはかけ離れているであろうことは明白だ。
 だが、良いように使われているという点ではなんらかわらなかった。

「やれやれだ」

 洗濯を始める前、番長は使い魔というものの役割に関していくつか説明を受けていた。

 一つ、使い魔と主人は視覚や聴覚などの感覚を共有することができる。

 これは結論から言うとできなかった。
 主が未熟であるが故か、使い魔の特殊性故かは判断できないがとにかくできないらしい。
 これについて我が主は、大いにご立腹だったことを思い出す。
 もちそん、その責任は使い魔へと託された。
 主曰く、「役立たず」

 一つ、秘薬の材料を探して採集してくること。

 そういえば『魔術の黒布』を集めるのは大変だったなぁ……。
 もとい、探そうにも番長はコチラの世界のことをまるで知らない。無理。
 「役立たず」と言われた。

 一つ、主を守ること。

 これについてはどうだろうか。
 正直、あの戦いを戦い抜いた自信はある。
 しかし、戦えるということと守りぬけるということは、似ているようで違う。
 成長に手ごたえがなくなるまで自身を鍛え、神と称する者を打ち破った。
 あらゆる『自身の力』を手に入れ、『最強の女帝』と称される者にも打ち勝った。

 しかし、それは頼もしい友人たち……仲間があってのことであり、そして今自分はたった一人だ。
 まして正面から襲われるだけならまだしも、奇襲や暗殺、戦争の真っただ中で守りきれと言われたら
 その自信はない。そんな経験もない。
 それを正直に伝えた。
 「役立たず」と罵られた。

 結果、主から賜った言葉は「やっぱアンタいらない」である。

「……ふぅ」

 洗い終わった下着を見つめながら、番長は一人ため息をついた。
 けっしてコトがすんだ後のため息ではない。

 使い魔になるにあたり、無条件で了承したわけではない。
 元々、使い魔などという奴隷のような人の尊厳を無視した契約である。
 いや、これが動物や魔物の類であっても同じことだ。
 生き物にはそれぞれ、それまでの生活というものがある。しがらみと言ってもいい。
 それらの多くは家族であったり友人で会ったり仲間であったり、義理であったり人情であったり。
 とにかくそういったものを全て断ち切って、一生身を粉にして仕えろというのは横暴というものだ。
 その旨を伝え条件を出すと、それは意外にあっさりと受け入れられた。
 教師であるコルベールにだ。自分を呼び出した張本人はいたく不満があったようだが。

 一つはこの世界のことを自分に教えること。
 もう一つは契約を破棄し元の世界へ戻る方法を探してもらうこと。
 その約束を履行してもらうためには、自分もまた使い魔として役にたたなくてはならない。
 しかし、今はその機会があまりなかった。

 せめて自分の実力を見てもらう機会でもあればよかったのだが、元々この番長という男は
 自らの実力を進んで誇示するような性格ではない。
 まして、荒事が起こればいいなどとは万に一つも思えない。

(そういえば……ここでは使えるんだろうか)

 番長とその仲間たちが持っていた、特殊な能力。
 精神の裏側にある、自分の半身。

 『現実』では使えなかったと思う。
 いや、使う機会がなかった。現実世界で使うという発想がなかった。
 「現実でも探知能力が使えたらいいのに」とは仲間の一人、久慈川りせの言葉だ。

 はたして、本当にそうだったろうか。
 「本当のことを言っても信用されない」「下手に知られて自分らに目をつけられても困る」
 そう言ったのは、一番の親友である花村陽介だ。

 混乱を避けるため、自分たちから警察の目をそらすため、自分は叔父にもその秘密を隠してきた。
 しかしその叔父に疑われた時、能力は使えなかったとしてももう一つの力、TVに入れることは明かせたはずだ。
 「おまえは……なんだ、その……家族なんだからな」
 照れ笑いをしながら、目だけはまっすぐに、そう語った叔父の姿を思い出す。
 あの叔父を、自分は信用していなかったのか。いや、そうじゃない。

『人は、見たいように見る』

 彼女が言った言葉が頭に響く。

(もしかしたら……)

 自分たちはまだ、呪縛に縛られていたのかもしれない。

 眼前に手を開く。

 眼を閉じる。

 自分の奥に住まう12体の影。そのうちの1体をイメージした。

 眼を開く。

「どうかなさったんですか?」

 ―――ビックリした。

 完全に集中していた。だから彼女の接近に気付かなかった。
 見上げると、そこにいたのは洗濯をするためにこの場所を教えてくれた―――

 シエスタだった。




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