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赤目の使い魔-09


本塔の最上階、学院全ての頂点を意味する場所に、学院長室は存在する。
その部屋の主、つまりは学院長であるオスマン氏は――珍しい事に、困惑していた。
何時もの飄々とした態度からは想像出来ない動揺した表情と、その皺だらけの額に一筋の冷や汗を浮かばせながら、手に持った二つの書物を交互に見詰める。
一つは、『始祖ブリミルの使い魔たち』と書かれた古めかしい本。その一節、『神の左手』 ガンダールヴのルーンが描かれたページ。
そしてもう一つは、一枚の紙に描かれた、簡素なスケッチ画。
本に描かれたルーンの絵と、スケッチされた模様。その二つは、あまりにも――

「――確かに、似ているのう。いや、全く同じと言ってよい」

厳かに、眼前の男――教師、コルベールに言葉を投げかける。
コルベールは、オスマンの何倍も動揺している様に見えたが、同時に、興奮からか少年の様に目を輝かせてもいた。

「これが……ミス・ヴァリエールの召喚した使い魔の左手に刻まれたと、そういう事かね?」

「ええ、見覚えのあるルーンでしたので、記録しておいたら案の定、と言う訳です。これは由々しき事態ですよ、学院長!」

広い額を汗に濡らしながら、コルベールは泡を飛ばす。
対するオスマンはふむう、と唸り机を指でコツコツと叩き始めた。
ガンダールヴと言えば、始祖ブリミルが従えた使い魔の一つだ。伝説によれば、ありとあらゆる武器を使いこなす事が出来たとか。
一刻も早く本人から話を聞きたい所だが、下手に動けば無用な騒ぎも起こしかねない。
もしこれが真実ならば、最悪国が動く可能性だって有る。
どうしたものか、と知恵を絞っていると、コツコツとドアをノックする音が聞こえた。

「誰じゃ?」

「私です。オールド・オスマン」

ドア越しに声を聞くと、オスマンは背丈ほどもある無骨な木造りの杖を振った。
カチャリ、とドアの鍵が開く。そして、緑色の髪をした女性――オスマン専属の秘書、ロングビルが入ってきた。
オスマンの姿を認め、彼女は淡々と用件を話し始める。

「ヴェストリの広場で決闘騒ぎが起きているそうです。相当数の生徒が集まっている様で、教師の方々にも手が付けられないと」

彼女の言葉を聞いて、オスマンは深く溜息をついた。

「全く次から次へと……、今日は厄日かのう。それで、誰が暴れておるんだね?」

「それが、生徒のギーシュ・ド・グラモンと――ミス・ヴァリエールが召喚した、使い魔だそうです」

コルベールとオスマンの動きが、同時に止まった。
どちらとも無く目を合わせる。暫く視線が交差した後、オスマンが深く頷いて声を上げた。

「所詮は生徒のやることじゃ。わざわざ教師がしゃしゃり出ることも有るまい。危険になるまでは静観しておきなさい」

「では、そのように」

軽く一礼すると、ロングビルは無表情のまま部屋を去っていった。
足音が響かなくなった所で、オスマンは再び杖を振る。
すると、壁に掛かった大きな鏡に映るものが、部屋の様子からヴェストリの広場の映像へと変わった。
ロングビルの言う通り、大量の生徒が鏡に映し出されている。

「実に絶妙のタイミングじゃ。今回ばかりは、グラモンの小倅にも感謝せねばなるまいて」

鏡に映る映像を見ながらオスマンは静かに、それでいて重みのある口調で呟く。

「では、見せてもらおうかのう――始祖の僕、ガンダールヴの力というものを」

数分前 アルヴィーズの食堂

食堂は、沈黙に支配されていた。
数秒前まで沸きあがっていた喧騒は、今や影も形も無い。
痴情の縺れの末の、伊達男の破滅。それに続く、貴族の一方的な平民蹂躪劇。
どちらも、退屈な学院生活に刺激を与えるにはもって来いのイベントだった。
それをあの怪人が――『ゼロ』のルイズが召喚した、不気味な平民が、その『原因』ごと吹き飛ばしたのだ。

男が行った事は至って単純。
ギーシュに近付き、肩を叩き、ニッコリと笑いかけ――そのまま、投げ飛ばした。
誇張でもなければ、比喩でもない。肩に置いた手を、そのまま服ごと捻り上げ――
気が付いた時には、彼の身体は綺麗な弧を描いていた。

ギーシュの身体が派手な音を立てて地面に叩きつけられた後、観衆はようやく事態を理解したのだった。


シンと静まり返った食堂の中、クリストファーは軽やかに足音を響かせながら、痛みに悶絶するギーシュの許へと歩み寄る。

――止めなければ、ヤバイ。

そんな思考がその場に居る全ての人間に沸き起こるが、誰も身じろぎ一つしない。
男の足を止めさせるのは、簡単な事だ。杖を振って、何か魔法を唱えれば、それで済む。
しかし、平民が何の躊躇いも無く、貴族に手を上げたと言う事実。それが、まるで鎖の様に彼らの身体を縛り付ける。
大量の視線を感じながらも、クリストファーは実に楽しそうな笑顔を浮かべ、ギーシュの横に立つ。
此処に来て、やっと彼はクリストファーの存在に気付いた。目が、クリストファーの顔を捉える。

「君さぁ」

彼は、笑いながらギーシュに話しかける。
その表情とは真逆の、怒りに満ちた言葉で。

「僕の友達に、何してんの?」

ギーシュ・ド・グラモンは、混乱していた。

――今、何をされた?

身体を激痛が支配する中、彼は必死で自分の身に何が起こったのかを考えていた。
平民に肩を叩かれ、その手を振り払おうとして、それで――

――投げられた? あの男に?

有り得ない。そんな筈が無い。あの細身にそんな力が有る訳が無い。
ならば、今感じている痛みは何だ?
疑問符が頭で荒れ狂う中、彼の目線が、クリストファーの姿を捉える。
彼は、笑っていた。楽しそうに。嬉しそうに。
それなのに、彼の目を見た瞬間、痛みも消え去るような悪寒がギーシュを襲った。
その血の様に赤い眼が――怒りで、染め抜かれている様に思えて。
そして、男は口を開いた。

「君さぁ――僕の友達に、何してんの?」

――……
――…………そうだ。
――やはり、自分は投げ飛ばされたのだ。目の前の男に。
――『平民』に。

其処まで考えが至った瞬間、彼は再び痛みを忘れた。
しかし、彼の頭を支配したのは恐怖ではなく――純粋な、怒り。

――平民が、貴族に手を上げた。
――平民が、貴族に手を上げた。
――平民が、貴族に手を上げた!

震える身体をものともせずに、立ち上がる。
痺れた声帯を締め上げ、声を上げる。

「どういうつもりだ……? 平民が、こんな事をして許されると……」

何時もの鼻に掛かるような口調は微塵も感じさせない、低く重い憤怒の言葉。
それでも、クリストファーは微塵も物怖じしない。その赤眼に煌々とした怒りをたたえながら、ただ言葉を紡ぐ。

「言っただろ? 君が僕の友達を怒鳴りつけてるのが見えたからさぁ――とりあえず、投げといた」

――理屈になってない。

聴衆は一人残らず同じ事を思ったが、巻き込まれたくないのでわざわざ口にはしない。
只一人、騒動の中心にいたギーシュだけが、その言葉を聞いて嘲る様に笑った。

「ふん、妙な人間だとは聞いていたが、会話もろくすっぽ出来ないとは、全く呆れる。 
『平民は貴族に従わなければならない』、この絶対に侵してはならない規約を破ったからには、相応の覚悟は出来ているのだろうね?
……それとも、『ゼロ』風情に召喚された君には、それを理解する脳味噌も足りていないのかな?」

畳み掛けるように挑発の言葉を並べながら、ギーシュは顔に浮かんだ侮蔑の笑いを深くする。
対するクリストファーは、侮辱の言葉を雨のように浴びながら――一層、楽しげに笑う。

「いやいや、こんなにストレートに喧嘩売られたのは久々だよ。 規約とかは知らないし知ったことじゃないけど、つまりは僕とやり合うってことでいいのかな?」

「野蛮人的な短絡思考だな。しかし、今回ばかりは同意見だ」

ギーシュは胸元から一輪の薔薇を取り出し、芝居がかった仕草でそれをクリストファーに突きつける。

「君に――決闘を申し込む」

瞬間――静まり返っていた食堂が飯時以上の喧騒に包まれる。
そのざわめきを全身で受け止め、ギーシュは満足げに口の端を歪ませた。

「ヴェストリの広場で待つ。心構えが出来たら、来るといい」

そう言い残すと、ギーシュは身体を翻して食堂を後にした。その後ろを、幾人かの生徒が追従する。
クリストファーは何の躊躇いも無く、後を追おうとするが――

「ま、待ってください!」

不意に、その動きが止まる。
振り向くと、シエスタが泣きそうな顔をして彼の腕を掴んで引き止めていた。

「決闘なんてしてはいけません! 今すぐ謝って来て下さい! 今ならまだ……」

「御免。それ無理」

必死で追いすがるシエスタの手からするりと抜け出し、彼は場にそぐわない朗らかな調子で言葉を紡ぐ。

「謝るなら、両手両足叩き折って塔のてっぺんに吊るして晒し者にした上で許してあげようかなーって思ったんだけどさ。
それどころか彼、僕やルイズまで馬鹿にしたじゃん? これはもう、殺して蘇生させて殺して蘇生させて殺して蘇生させて……、の生き地獄を味あわせるしかないよね。
具体的に回数で言うと、君と僕とルイズの分を更に三倍返しの3乗で……、えーと何回ぐらい?」

声の内容とかけ離れた凄惨な話の内容。その異様な雰囲気にシエスタはたじろぐが、すぐに気を持ち直して声を上げる。

「そんな事、出来る訳が有りません! 貴族を本気で怒らせたら、逆に貴方が殺されるのかもしれないのですよ!?」

シエスタは、ギーシュに難癖を付けられたときよりも遥かに怯えていた。
自分の事が原因で友人が傷つけられるなんて、考えただけでも耐えられない。
脅しつけてでも、彼を止める。そんな一心で放った一言。

しかし――それは、完全に逆の成果を生むこととなった。

「――いいねぇ。素晴らしい」

「え……?」

「本音言うと、自分の強さとか、今はよく分かんなくなっちゃってるんだよね。何しろ、ちょっと前に派手に殺し合いに負けてさ。しかも手加減された上に情けまでかけられた」

より嬉々とした表情で、自らの過去を語りだすクリストファー。
軽く飛び出した『殺し合い』と言う言葉に、シエスタの思考が硬直する。

「だから、勘を取り戻すには――ちょっと、殺っといた方がいいのかなーって思ったりしてる。相手が強いなら、尚の事良いんだよ。……まぁ、端的に言うと、あれだ」

首をコキリと鳴らし、目に狂的な光を爛々と輝かせながら――彼は、続きを吐き出した。

「――丁度良い、リハビリだ」




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