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瀟洒な使い魔‐06


「おや、2人共、尻でも打ったのかの?」

「「…………」」

学院長室でサクヤを初めとした4人と顔を合わせたオスマンは、
ルイズとキュルケが尻を押さえているのを見てそんな事を言った。
2人は恨めしげに咲夜を見るが、咲夜が笑みを浮かべて2人を見るとそのままの態勢で3歩下がった。
これ以上尻を腫らしたくはないのだろう。

「まあ自業自得といったところでしょうかね。それで、オールド・オスマン。
 ミス・ロングビルのところへ連れて行ってもらえますか?」

「おお、そういえばそうじゃったのう。よし、付いてきなさい」



瀟洒な使い魔 第6話「M.O.サウスゴータは彼女なのか?」



オスマンに先導され、4人は学院の中を歩く。途中何事かと何人かの教師が振り返ったが、
ミス・ロングビルのお見舞いだというとああ、そういえばまだ面会謝絶なんだってね、という答えが返ってくる。
眠りの香を焚いてればそりゃ部屋にも入れないわよね、などと考えていると、見慣れた部屋の前に付く。
ミス・ロングビルの部屋だ。ドアの前に立ち、オールド・オスマンが厳かに言う。
普段の飄々とした言動とは違う、厳格な声音だった。

「良いか皆、この部屋で見聞きしたものは他言無用じゃ。もし口を滑らせでもすれば、
 相応の報いを受けてもらわねばならん。覚悟がある者のみこのドアをくぐるのじゃぞ」

そう言い置いてオスマンは部屋の中に入り、魔法で風を起こし、強制的に部屋の空気を換気する。
それを確認してから咲夜は3人を引き連れて部屋へと入る。

「香も消したし、しばらくすれば目が覚めるじゃろう。
 ミス・ツェルプストー、『ロック』をかけてくれ。ミス・タバサは部屋の周囲に『サイレント』を」

キュルケとタバサが指示通りに杖を振り、先程と同じような密室が完成する。
そして少し後、香の効果が切れたのか、ロングビルが目を覚ます。

「ここは……って、げぇっ、お、オールド・オスマン!」

「まあ落ち着きなさい、ミス・ロングビル。いやさ、『土くれ』のフーケと呼ぼうかの?
 それともこう呼ぼうか、マチルダ・オブ・サウスゴータ」

マチルダって誰? と頭上にハテナマークを浮かべる4人であったが、ロングビルの反応は違った。
驚いたように目を見開き、憎々しげにオスマンを睨んだ後、諦めたように溜息を付いた。

「なんだい、ハナっからお見通しって奴かい? さすが数百年生きてると噂の大魔法使い様だね」

「何、何のことは無い。君は覚えておらなんだろうが、わしは君が3歳くらいの頃に1度会っておるのよ。
 それに今の君は母親のサウスゴータ婦人にそっくりじゃ。以下にわしが老いぼれとて、
 これほどの美人は忘れようもないわい」

「あの、オールド・オスマン? 話が見えないのですが……」

置いてけぼりの4人を代表して咲夜がオスマンに声をかけた。
なんとなくオスマンの古い知り合いなのだろうとは理解できたが、それ以上が良く分からない。

「おお、すまんのう。ミス・ロングビル、いや、ミス・サウスゴータじゃな。
 彼女はわしの古い知人の娘なのじゃよ。もうこの世にはおらなんだがの」

その言葉に反応したのはルイズだった。記憶を手繰るように考え込み、得心したように頷く。

「ち、ちょっと待ってください、オールド・オスマン! サウスゴータって、まさか……」

「左様。思っておる通りじゃよ。彼女はサウスゴータ太守の娘じゃ。
 かのモード大公が処刑された際に取り潰しとなった、サウスゴータ家の生き残りじゃ」

「……? やっぱり話が良く見えないわね、ルイズ、説明してくれる?」

この世界の事情には明るくない咲夜に、ルイズが解説する。
サウスゴータとはトリステインの隣国、アルビオンの地名である。
そしてモード大公とは、現アルビオン王ジェームズ一世の弟の名。
ジェームズに反逆した罪で投獄され、処刑されたのだという。

「なるほど、大体のところは分かったわ。
 『土くれ』としての活動は王家や貴族への復讐、といったところかしら?」

「ああ、ここまで来たら隠してもしょうがないしね。その他にも金が要る、ってのもあったしね。
 そりゃあ痛快だったよ、偉そうにふんぞり返ってるだけの貴族からお宝を分捕るのは。
 さて、それじゃあ無駄だと思うけど抵抗させてもらうよ。
 『土くれ』のフーケは、まだまだ店じまいするわけには行かないのさ」

ロングビルはばっと跳ね起き、枕を引き裂いて内部に入れていたナイフを取り出し、オスマンに向けた。
咲夜やルイズ達の手が動きかけるがオスマンはそれを制し、静かな口調で語りかける。

「いや、店じまいせんか? いかな『土くれ』とはいえ、いつまでもこんな稼業を続けられるものでもあるまい。
 確かに世の貴族は腑抜けておるよ。『土くれ』がやすやすと盗みを成功できるくらいにはの。
 じゃが、そんな貴族ばかりでもない。わしの私的な情報網で得た情報じゃが、
 王室は今度フーケが現れた際にはマンティコア隊の出動も辞さんと言っておる。捕まれば極刑は免れまい」

オスマンはそこで一度言葉を切り、ロングビルを見つめる。
いつも飄々とした彼には珍しく、心の底からロングビルの身を案じている、そんな顔だ。

「……潮時なんじゃよ。わしも知人の子供が死ぬのは辛い。じゃからの、もう盗賊なんぞやめて、
 本格的に秘書として働かんかね? 金が必要だというならば給料も増やそう、
 どうか、この老いぼれに免じて足を洗ってはくれんかね、マチルダちゃん」

「その言葉を信じろって言うのかい? 信じるに足る証拠もないくせに!」

「そうじゃな、最早大公もミスタ・サウスゴータも死んだ、わしの言葉を裏付けるものは何もない。
 だがな、だからこそわしは君の無茶をやめさせたいのじゃよ。
 君が死ねば、わしは悲しい。わしだけではない、今は亡き彼らもまた悲しむだろうよ」

それを最後にオスマンは沈黙し、部屋を沈黙が満たす。
オスマンは黙して語らず、口を差し挟むことの出来ない咲夜達も沈黙する他ない。
気まずい沈黙は暫く続いたが、それを破ったのはロングビルであった。
だらりと手を下ろし、ナイフを手放してベッドの上に胡坐をかき、はぁと溜息をつく。

「ったく、食えないジジィだよ、ホントに。そこまで言われちゃ飲むしかないじゃないか。
 まあ、いい機会だったのかもね。これでテファにも胸張って自分の仕事を言えるよ」

「ほっほっほ、それは何よりじゃ。では再就職を祝って一杯、と行きたいところじゃが、
 流石にそうすぐには用意できんのう……」

シリアスな空気から一転、いつもの飄々とした老人に戻ったオスマンがそんな事を言うと、
咲夜がテーブルの上に1本のワインを置く。その周囲には人数分のグラスも置かれており、
いつのまにかそのグラスにはワインが注がれていた。

「それでは、これは私からの贈り物ということで。よろしいですか?」

それを見て、ロングビルの肩ががくりと落ちる。それもそうだろう、
つい2日前命のやり取りをした間柄なのに、この対応は何なのだろう。普通憮然とする所じゃないんだろうか?
もっとも、咲夜としては『終わった事をぐだぐだ言う事はない』と考えていたからだったりするのだが。
幻想郷では本気の弾幕勝負をした相手と後々宴会で酒を酌み交わすというのは良くあることだ。
この辺りは環境の違い、ということなのだろう。

「あんた、少しは怒るとかしないのかい? 自分で言う事でもないけど、骨折ったのはあたしだよ?」

「その大元の原因2人には処罰を下したもの、今更どうこう言う事じゃないわ。
 それに、一応オールド・オスマンは私の雇い主よ。その意向には従うものだわ」

「……ああ、そうかい。ま、宜しく頼むよ、ミス・イザヨイ」

「サクヤで良いわよ。苗字で呼ばれるとこそばゆくて」

くすくすと笑い合いながらグラスを手に取り、傾ける。
グラスを傾けながらその様子を見ていたキュルケは、隣にいたルイズにちらりと視線を移す。

「さっきのもそうだけど、サクヤって結構いい性格してるわよね」

「……そうね」

今更どうこう言う事ではないなら何故自分達は尻を叩かれたのだろうか。
今回の一件のそもそもの発端を作った2人は、釈然としない思いで咲夜を見つめていた。



「さて、ではこの辺りにしておこうかの。明日はフリッグの舞踏会じゃし、
 ミス・イザヨイ達はフーケを撃退した英雄じゃ。ゆっくり休みなさい」

咲夜の持ってきたワインが無くなった頃、オスマンはそう言って一同に解散を促した。
たわいも無い世間話をしながら自室へと向かう。

「あ、そうだサクヤ、一つ聞いていい? フーケと戦ってた時に何か出してたじゃない。ナイフじゃない奴。
 あれって何? マジックアイテムか何か?」

「ナイフじゃないの、となると、スペルカードの事?」

キュルケの質問に咲夜は1枚のカードを取り出す。
スペルカードとは『スペルカードルール』と呼ばれる幻想郷特有の決闘で使用されるカードのことである。
スペルを使用する前に出し、宣言する為のカードで、そのためスペルカードルールでは不意打ちが出来ない。
なお、スペル自体はスペルカードを用いずとも使用する事自体は可能である。
スペルカードは、あくまで『スペルを使用する事を宣言する為のカード』でしかないのだ。

「……だったら、態々出す事ないんじゃない? ここはその『ゲンソウキョウ』じゃないんだし」

「あ」

横で聞いていたルイズの一言に硬直する咲夜。いわれて見ればもっともである。
幻想郷においてはスペルを使用する=スペルカードルールでの使用であるため、
スペル使用前の宣言は半ば常識となっていたのだろう。

「サクヤって普段はほぼ完璧なのに変な所抜けてるわよね……
 その辺りはさすがルイズの使い魔、って所なのかしら」

「どういう意味よ!」

またぎゃあぎゃあと言い争う2人をよそに未だ硬直したままの咲夜。
その硬直を解いたのは、今の今まで黙りこくっていたタバサであった。

「気にしない。よくある事」

「そ、そうかしら……有難う、タバサ」

「別にいい。……それに、有難うをいうのはこっち」

咲夜の頭に疑問符が浮く。その後のタバサのセリフを聞くに、
キュルケに怪我が無かったのは咲夜のお陰だ。そのお礼を言いたい、との事だった。
咲夜自体はキュルケを守る為に戦ったわけでもないが、
この意外に情に厚い無口な少女の気持ちを無碍にするわけにもいかないな、と素直に礼を受け取る。

「それと、サクヤ。お願いがある」

「お願い? 無茶なものじゃなければ良いけど、病み上がりだしね」

「戦い方を教えて欲しい。杖を失った時の為の戦い方も学んでおくべきだと思うし、
 少しでも強くなりたい。そのためなら手段は選ばない。だから知りたい、貴方のその技を」

そう言って、タバサは咲夜を見る。咲夜と同じ色をしたその瞳には、
強い決意と、固い意志と、ほんの少しだけの恐れが入り混じっていた。
それを見て、咲夜は仕方ないというように溜息をつく。こういう手合いには何を言っても駄目だろう。
それに、こんな小さな女の子の決意を無碍にしてしまうのも、なんだか悪い気がしてしまう。

「仕方ないわね……時間が空いているときでよければ教えてあげるわ。
 ただし、ナイフの扱い方だけ。ギーシュのときに見せたようなあの奇術は教えられないわ。
 意地悪じゃなくて、適正の問題。似たような事はできても、同じ事は私以外の誰にも出来ないから」

「……それでいい。ありがとう、サクヤ」

「あ、でもこれだけは約束して。無理だけは絶対にしない事。
 技を教えるとは言ったけど、そのためには体調を万全に整えないと駄目。
 授業にもちゃんと出ること。いい?」

タバサはこくりと頷く。それを確認すると、咲夜は後ろで口論を続ける2人を止めに入った。
1人歩を進めるタバサは、少し進んだ後立ち止まるとぽつりと呟く。

「待ってて……母さま」



そして翌日。食堂の上にあるホールで『フリッグの舞踏会』は開催された。
思い思いに着飾った生徒達が中で料理やダンス等を楽しむ中、
咲夜はワインを嗜みながらバルコニーでその中の様子を眺めていた。

「おや、『土くれ』をぶっ飛ばした英雄様は中で楽しまないのかい?」

そういって入ってきたのはロングビル。酒が入っているのか、
今は素の『マチルダ』としての喋りが表に出ていた。手にはワインの瓶とグラス、
そして料理が皿にに山盛りになっている。

「病み上がりだしね。賑やかなのは嫌いじゃないけど、流石にダンスまでは踊れないわ」

『治癒』によって痛みは大分消えたが、全く無くなったわけではない。
恐らく数日もすればそれも消えるだろうが、それまでは大事をとっておこうと判断した。
ホールの中をのぞけば、大勢の少年達に囲まれご満悦のキュルケ、
大量の料理を魔法のように胃袋に詰め込んでいくタバサと、皆思い思いに楽しんでいるようだ。

「幻想郷でもたまにこうしてパーティをしたものだけど、ほんと、皆活き活きしてるわね」

「ゲンソウキョウ、か。あんたが居たところだっけか。どんなとこなんだい?」

「そうね、いい所よ。貴族だ何だと騒ぐ事もないし、何よりのどかで気楽な所かしらね。
 後は……そうね、ハルケギニアでいう亜人が多いわね。私のいたお屋敷も、
 私以外は人間じゃなかったし」

その言葉にロングビルは少し驚いたようだが、すぐに楽しそうに笑う。

「羨ましいねえ、テファもそこに生まれてりゃ、今より気楽に暮らせてたろうにさ」

「そういえばこの間も聞いたけど、テファっていうのは貴方の妹さん?
 少なくとも、とても大事な人のようだけど」

「……そうだね。サクヤ、あんたになら話してもいいのかもしれないね。
 テファってのは、アタシの親父の主君、モード大公の忘れ形見さ」

ロングビルは皿やワインをテーブルに置くと、バルコニーの手摺にもたれ掛かって昔話を始めた。
かのモード大公が処刑された理由、それは、エルフを妾として、その上子を成したためであった。
このハルケギニアにおいてエルフと言うのは不倶戴天の敵である。
姿形そのものはとても美しいが、先住魔法という強大な魔法を操り、その性質は凶悪。
始祖ブリミルを聖地より追い出し、過去幾度と無く刃を交えてきたのだと伝えられる。

だが、ロングビルの出会ったエルフは違った。心優しく、争いを好まず、
自分が殺される段になっても抵抗をしなかったのだという。
テファ、というのはそのエルフと大公の間に生まれた娘で、今ではロングビルの妹も同然の存在なのだそうだ。
多分、エルフのほとんどはそんな奴らなんだろうね。
あたし達人間が彼らを受け入れず、忌み嫌ってきたからこんな認識なんだ。ロングビルはそう言った。

「なるほどね……私の知り合いにも人間じゃないのは多いけど、
 幻想郷自体がそういった者たちを受け入れる場だそうだから、大きな軋轢は起こってないわ」

「ホント、羨ましいね。サクヤ、もしあんたがゲンソウキョウに戻る時が来たら、
 あたし達も連れて行ってくれないかい? 少なくとも、ハルケギニアに居るよりは気楽に暮らせそうだし」

「ええ、それ自体は構わないわよ。ただ、私のいたお屋敷は人間が住むには適さないから、
 人里の方に言ってもらう事になるけれど」

「別に良いさ。ハルケギニアはちょいとばっかり、ハーフエルフのテファが住むには窮屈すぎるからね」

そう言って、ロングビルは話を終える。

「さて、貴方の秘密を一つ教えてもらった事だし、情報料に私も一つ贈り物をさせてもらうわ。
 そのワイン、未開封よね? ちょっと借りるわよ」

咲夜はワインの瓶を手に取ると、それに対して時間操作を行う。止めるのはなく、その逆の加速。
ワインの時間を進めることにより、熟成を促進させているのだ。
熟成が完了すると咲夜は能力を解除。栓を抜くとグラスに注いだ。

「さて、こんなものね。お味の方はいかがかしら?」

「へぇ、このワイン、確か作って10年ってとこだったと思うけど、
 これはそれ以上に経ってる感じだね……先住魔法、ってやつかい?」

「厳密に言えば違うんじゃないかしら。貴方と戦った時に見せた技の応用よ。
 結構便利で重宝してるわ」

そして、咲夜は自分の能力について掻い摘んで説明する。
細かい所までは理解できなかったようだが、大まかに『時間を操作する能力』というのは理解してもらえたようだ。

「凄い能力じゃないか。それにあのナイフの腕前……真正面からやりあわなくて助かったよ」

「それでも勝てない相手と言うのは居たわよ。それに、この力も万能ではないわ。
 貴方のゴーレムに殴り飛ばされた時のように、知覚外の出来事には対応できないし。
 それに、強い力と言うのは必ずいらない厄介事も引き寄せるわ。
 特に私みたいな力は、普通の人間からすれば忌み嫌うには十分すぎる」

そんなどことなく悲しげな咲夜の姿に、ロングビルは妹分の姿を見た。
エルフの血が混じっているだけで、普通の人間には忌み嫌われ、住んでいる村に閉じこもらざるをえない。
この自分の妹分と同年代であろう少女は、今までどれほどの悲しみを背負ってきたのだろうか。
親を殺された自分よりも、遥かに重いものを背負っている。ロングビルは、そう直感した。

「ま、そう気負うこたぁないさ。あたしだって似たようなもんだし、
 ゲンソウキョウじゃそれなりに楽しくやってるんだろ? 前向きに考えなよ。
 後ろ向きながら歩いてたらいつかスッ転んじまうよ」

その言葉に咲夜は苦笑し、ひと口ワインを呷る。
「ありがと。ちょっとだけ気楽になったわ」

「何、そいつはお互い様って奴さ。あたしだってあんたのお陰で再就職できたようなもんだしね」

違いない、と笑い合い、ちらりとホールの方に視線を向ける。
別人のように着飾ったルイズが、誘いを断りながらもこちらに向かって歩いてくる。
それに気づいたらしいキュルケやタバサもまたその後を追ってやって来た。

「あらら、モテモテだねぇ、メイド長?」

「ま、懐かれて悪い気はしないわね」

肩をすくめて苦笑する咲夜。ルイズたちが来たら騒がしくなるなぁ、
と考えながらも、何となく頭上に輝く双月を見上げる。幻想郷とは違い、ハルケギニアの月は2つあるらしい。

「……ん?」

咲夜は眉をひそめた。なんとなく月が変だったからだ。何か不自然な気がする。
よく見れば、月の真ん中辺りがほんの少し黒く欠けている。月蝕かと思ったが、普通月はあんな風に欠けない。
そのままじっと見ていると、それがだんだんと加速度的に大きくなってきた。何か悲鳴らしき声も聞こえる。
その悲鳴にはどこか聞き覚えがあるような気がする。
そんな事を考えている間に、その影が視認可能な距離まで近づいてくる。
その影はまさしく人間であり、悲鳴らしき声はそこから聞こえてきていた。

「―――――――――ぁぁぁぁぁああああ―――――――」

その声と姿を確認した咲夜は思わず硬直する。
赤い髪、緑色のの帽子に帽子に付いた星型の飾り。その特長には物凄く見覚えがあった。
何でこいつがここに居るんだ、そんな思いが咲夜を支配し、回避行動を遅らせる。
そして、気がつけばその見覚えある姿は目前まで迫ってきていた――――

「さ、サクヤ! ダン、ス……」

バルコニーに入ってきたルイズ達が見たのは、空から落ちてきた赤い髪の女性と、
その脇に浮かぶ黒い羽を持った亜人。そして、その女性が頭部に激突して崩れ落ちる咲夜の姿であったという。



「相棒……早く迎えに来て……」

同時刻。怪我人に悪いとのことで回収された後コルベールの部屋に運ばれたデルフリンガーは、
3日経っても一向に迎えに来ない咲夜のことを心配しつつ哀愁を漂わせていた。







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