あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

鷲と虚無-20


才人はいったい何故学院長が二人を呼び出したのかを考えていた。
二人が何か問題を起こして呼び出された、という事が最初に頭に浮かんだがプッロに関してはここ二日は一緒にいたため、それは有り得ないだろうと思った。
ウォレヌスについては解らないが、彼がそのような事をしでかすとは考えにくい。
ルイズも同じ事を考えていたのか、同じ疑問を投げかけてきた。
「ねえ、なんであいつらが呼び出されたのか知ってる?」
「いや、全然解らん」
「プッロが何かやらかしたとか?」
「昨日と今日はあの人とずっと一緒だったけど、問題になるような事は何もしてなかったぞ」
「じゃあいったい何なのかしら……」
ルイズは困惑の表情を浮かべていたが、すぐに机に向き直って勉強を再開した。

ルイズに声をかけたら邪魔になるだろうし、特にする事も無いので才人はごろんと床に仰向けに寝転がった。
最初は二人が呼び出された理由を考えようとしたが、答えが出る筈も無い。
そしてその内に召喚されてからの出来事が脳裏に浮かんできた。
考えるともう召喚されてから、その内の半分は意識が無かったとはいえ、六日程が経つことになる。
そう思うと父と母の事が気になった。今頃は大騒ぎしているはずだ。
息子が壊れたパソコンを受け取りに出て行ったきり一週間近くも戻ってきてないのだから。
彼らからすれば自分は突然、何の痕跡も残さずに蒸発したのだ。
ファンタジーな異世界にいるなんて想像すらしていないだろう。
というよりもする方がおかしい。とっくに警察に通報しているのだろうが、見つかる筈は無い。

才人はその事を考えて胸がチクリと痛んだ。いったいどれだけ心配をかけてるんだろう、と。
もしあの時変な好奇心を出さずに、あの鏡をよけてさっさと家に帰っていればこんな事にはならなかったのだろう。
今更後悔しても意味は無いが、出来る事なら可能な限り早く家に戻って父と母を安心させたかった。
だがそればかりはどうしようもない。もどかしいが学院長達が日本へ戻れる方法を見つけてくれるのを期待するしかないのだ。

家族といえば、ウォレヌス達にも家族はいるのだろうかと才人は思った。
思い出して見れば、確かウォレヌスは妻と娘がいると言っていた筈だ。
だが彼は遠く離れた場所に戦争に行っていた。
だから彼が蒸発した事を家族が知るのはもっと先の話になるに違いない。
プッロの方はどうだろう。正直に言って、あの男が家族を持っている様子を想像できなかった。
多分一人身だろうと想像した。だがそれでも両親や親戚がいる筈だ。

蒸発するのもそうだが、戦争に行く事ほど家族を不安にさせる事はないだろう。
彼らは召喚される前からもずっと家族に心配をかけていた事になる。
考えて見れば自分は彼らがなぜ戦争に行って、誰と戦っているのか殆ど知らない。
(徴兵とかされたんならともかく、そうじゃないんならなんであの人達は戦争に行ったんだろう)
才人は疑念を抱いたが、ただでさえ戦争自体が遠い世界の話だ。
しかも彼らの価値観の多くが自分のそれとはかなり違っているのはもう何度も体感している。
一人で考えるだけで答えを得るのは不可能だった。

(ルイズの方はどうなのかな)
そこで才人は感心をルイズの方に向けた。記憶が確かなら彼女は公爵の娘だった筈だ。
公爵がかなり偉い人なのは才人にもわかる。
こんな金持ちしかこれなさそうな学校に子供を通わせてる事から考えても、相当に裕福なのは間違い無さそうだ。
そして何より彼女は家族と引き離されてはいない。
学校の寮に住んでるとはいえ、会おうと思えばすぐに家に帰れるのだろう。
もっとも、それを考えても彼女を恨めしく思うつもりにはなれなかった。
自分が今こんな場所にいる原因は彼女にあるが、別に狙ってそうしたわけでも悪意があったわけでもない。
それに彼女が今おかれてる状況を考える彼女が恵まれてるとはとても言えないだろう。
(まあ、少しは申し訳無さそうな素振りを見せてもいいかもしれないけどな)

しばらく経ってから二人がもどってきた。
何かがあったのは彼らの意外そうな、そして少し落胆したかのような表情を見てすぐに判った。
才人は「お帰りなさい」と声をかけたが、ウォレヌスは「……ああ」と投げやりに答えるとドサッ、と床に座り込んでため息をついた。
いったいどうしたんだろう、と才人は不思議に思った。
「あのう、向こうで何があったんですか?」
才人がプッロにそう聞くと、彼は困ったように口を開いた。
「それが……なんと言えばいいのか、どうも変な事になった」
そう言うとプッロも疲れたように床に座った。
そこにルイズが口を挟む。

「変な事?そもそも一体なんの用事だったわけ?」
ウォレヌスは一瞬戸惑うそぶりを見せたが、とつとつと話し始めた。
「……お前が我々を召喚した日の話だ。学院長が我々に“ここで仕事を提供する代わりに、我々の国や世界について教えて欲しい”と言ったのを覚えているか?」
そう言われて才人の記憶が蘇った。
ここ数日のゴタゴタですっかり頭の中から抜け落ちていたが、確かに彼はそのような事を言っていた。
「そういえばそうでしたね。忘れてましたけど」
「まあ忘れてたのは俺達もなんだがな。それがあのジジイが俺達を呼んだ理由だ。そして色々と聞かれたんだよ、俺たちの国についてな」

それでなぜ二人が呼ばれたのかは解った。だが二人が浮かない顔をしている理由がまだ解らない。
ウォレヌスの言う“変な事”に関係しているのだろうが、呼ばれた訳からしても落ち込む様な話しでは無いはずだ。
「それで変な事っていうのはなんだったんですか?」
「順を追って説明する。まず最初にローマやその周辺、要するにヨーロッパ大陸の地理について聞かれた。文化やら制度を知る前に地理を先に知っているほうが想像しやすいというんでな。
 それに答えている途中にガリアという名前を口にしたら彼らがかなり驚く様子を見せた。それでどうしたのか聞くと、ここにも全く同じ名前の国があるという」

全く同じ名前の国?と才人が思うのとほぼ同時に、ルイズがガタッ、と椅子から立ち上がった。
「あるらしいも何も、ガリアはハルケギニア最大の王国よ!じゃあなに、あんた達の世界にもガリアって国があるわけ?」
彼女にとっても思ってもみない事だったのか、その声には驚愕が含まれていた。
「ああ。国というよりは地域の名前だがな。それでお前が隣室の娘――キュルケといったか?――がゲルマニア出身だと言っていた事を思い出した。お前には言わなかったんだが、実はローマの北にもゲルマニアという地域がある」

才人は初日の朝にルイズが忌々しげにキュルケについて話していた事や、その後ウォレヌス達がゲルマニアについて言っていたのを思い出した。
あの時もただの偶然だとは思えなかったが、これではっきりとした。
地域の名前が二つも一致するのは単なる偶然では済まされない筈だ。
ルイズも同じ考えなのか、眉間に皺を寄せて「それは……奇妙な話ね。一箇所ならまだ偶然ですむかもしれないけど……」と呟いた。

「私もそれが気になってな、彼らにハルケギニアの地図を見せて貰うように頼んだ。すると驚くべき事に私が以前見たヨーロッパ大陸の地図とそっくりだった」
才人は思わず「それ、本当ですか!」と声を上げてしまった。
だがそうするのも無理は無いだろう。
地名だけでなく地形までが同じならこれは間違いなく偶然ではない。何らかの意味がある筈だ。

「そうなんだよ。ハルケギニアと俺達の故郷の地形とか地名はかなり似てるんだ」
「細部は多少異なるがな。だがここにもロマリアという名だがイタリア半島があり、“こちらのガリア”は“我々のガリア”と同じ場所に存在し、ゲルマニアも然り。
 トリステインは位置的に“我々のガリア”のベルガエという場所にあたる。ここの北にあるアルビオンという島も、同じ場所に存在している」
「ただ名前は違うがね。俺たちの故郷じゃアルビオンはブリタンニアっていう名前だった」
「それがなプッロ、実はそうでもない。お前は覚えてないだろうが、原住民どもはブリタンニアをアルビオンと呼んでいた。つまり名前も同じだ。明確に違っているのはアフリカやエジプトが存在せず、小アジアに該当する地域から先が巨大な砂漠になっていた所ぐらいだな」

ルイズは腕を組んで首をかしげた。
これが何を意味するのか考え込んでるようだったが、答えはでないようだ。
「正直、なんていえばいいのか解らないわ。どういう事かしら……」
ウォレヌスも同じなのか、首を振った。
「それは私にも解らん。ただの偶然じゃないのは間違いないだろうがな……学院長らも頭を抱えていた」
そこにプッロが最後に一つ、付け加えた。
「つっても国に関しちゃ同じなのは名前だけで、中身は別物みたいだがね。こっちのガリアは一つの王国らしいが、俺達の方のガリアは何十っていう部族がバラバラに住んでる地域の名前だ。
 そしてこっちのゲルマニアは技術が進んでるらしいが、俺達の方のゲルマニアは野獣みたいな連中が住む森林に覆われた未開地。そして当たり前だがここにローマは存在していない」

プッロの言う事が本当ならさすがに何から何までが同じという事ではないらしい。
アフリカが存在しないというのも気になる。
それでもここまで古代ヨーロッパと共通点があるのなら偶然ではない筈だ。
だが偶然ではないとすればいったいどういう事なのか。
才人は考え込んだ。そもそもここは何なのだ?

ハルケギニアが地球ではない、いわゆる異世界なのは間違いない。だが異世界とは具体的に何を意味するのか。
才人が知る限り、漫画やアニメなどに出てくる異世界にはだいたい三つのパターンがある。
一つ目は異星。そうだとすればここは地球から何千何万光年も離れた惑星で、ルイズ達は宇宙人。そして自分は召喚の魔法によってそこへ瞬間移動した事になる。
二つ目は並行世界の地球。そうならこの星はパワレルワールドの地球で、ハルケギニアはその平行世界のヨーロッパだ。ここがヨーロッパと同じ地形や知名で、なおかつアフリカが存在しないのはそれが理由かもしれない。
三つ目は異次元世界。だがこれは一つ目とそれ程変わらないだろう。
とはいえ答えを知る術はないし、知った所で日本に帰る事は出来ないだろう――とそこまで考えた時、ウォレヌスが残念そうに才人に語りかけてきた。

「そしてもう一つ解ったのが、歩いて帰る事は不可能だという事が解ったわけだ。君にとっても残念な話だろうが……」
いきなり何を言い出すんだ、と才人は首をかしげた。
「歩くって……どういうことですか?」
一体どうすれば歩いて帰れるという発想が浮かぶのかさっぱり解らない。
異世界からどうやって地球に歩いて戻れるというのだろう。

だがウォレヌスはさも当たり前の事であるかのように答えた。
「最悪の場合、つまりどうやっても帰る方法が見つからない時は何年もかかるが、ずっと西に歩いて帰るという手があるだろう?だがハルケギニアの地図を見る限り西には巨大な海しか存在しない……ヨーロッパと同じくな。徒歩で渡るのは不可能だ」
それを聞いてルイズは目を細めたが、それはウォレヌスの考えが荒唐無稽と考えたからではないようだ。
「あんた達そんな無茶な事考えてたの?仮にハルケギニアとローマが繋がってたとしてもいったい何千リーグあると思ってるのよ。大体仮にも主人を勝手におっぽり出すなんて私が許さないわ」
「最後の手段って奴だよ。元々余程の事が無い限りはするつもりもなかったんだから目くじらたてんな」
「巨船を作って大海を西に渡り、セリカにたどり着いた後はパルティア経由でローマに帰る、のは……流石に馬鹿げているな。
 そんな長距離を補給なしに航海できる船がある筈がない。それにしてもオケアヌスの真ん中にこのような大陸が存在していたとはな……想像もしていなかった」

距離以前の問題だという事が理解できないんだろうか、と才人は思った。
仮にここが同じ宇宙に存在する異星だとしても、下手をすれば何万光年も離れているだろうに。
話をまとめると、どうも彼らはハルケギニアがあくまで地球にある大陸の一つだと思っているようだ。
ルイズは逆に日本やヨーロッパがそうだと思っているのだろう。

これでなぜ彼らが戻ってきた時に落胆していたのかが解った。
大変な苦難と時間をともなっただろうとはいえ、いよいよという時は帰る方法があると彼らは思っていたのだ。
その最後の保険が潰されたのだから少しは落ち込むだろう。これで自分達の力ではどうやっても故郷に帰れないと解ったのだから。
だがここが地球じゃない事ははっきりさせた方がいいだろうと才人は感じた。
そうしなければいつか海を渡ろうとしてとんでもなく馬鹿げた事をやるかもしれない。

「海を渡ったって意味なんてありませんよ。壮大な時間の無駄になります。海の向こうにあなた達の故郷は存在しないんですから」
才人がそう言うと、プッロがきょとんとした顔になった。
「どういう意味だよそりゃ」
「ここが異世界だからですよ!」
「そりゃ知ってるよ。当たり前だろそんな事は」
どうも彼らは“異世界”という言葉をあくまで地球上の別の大陸を指すものとして使っているようだ。
「俺の言う異世界ってのは、ここが地球じゃないって事です。ここが並行世界なのか別の星なのか異次元なのかは知りませんが、ここはどう考えたって地球じゃない」

才人がそう言い終えると十秒ほどの間、沈黙が場を包んだ。
ウォレヌスもプッロもルイズもジッと才人を見つめていた。
「……あんたが今言った事で理解できた物が一つも無いんだけど。地球じゃない?地球じゃないんならここはどこだって言うのよ」
「へいこうせかい?べつのほし?一体何の事だよそりゃ」
ウォレヌスは何も言わなかったが、理解出来なかったのを示すように眉間にしわを寄せていた。
才人はしまった、と感じた。SFの類を全く知らない人間にこんな事を言っても理解できる筈がない。
そして当たり前だが古代にSFなんて物は存在しない。それはハルケギニアも同じだろう。
一体どうしよう、と才人が言葉につまっていると、プッロが奇怪な事を言い出した。

「別の星って言ったよな?星ってのは何千マイルも離れた場所にある、天球の光が漏れてくる穴の事だろ。なんでそれが“ここ”になるんだよ」
あまりにも荒唐無稽なプッロの発言に才人は戸惑った。
明らかにガリレオ以前の天文知識しかない彼らにどうやって説明した物か。
そもそも才人自身、大して宇宙について詳しいわけではない。
彼の知識はSF物のアニメやらテレビの教育番組やら真面目に読んだ事のない教科書やらで構成された断片的な物に過ぎないのだ。
それでも星が天球とやらに開いた穴ではなく、太陽のようなものである事は解っている。
なんとか解りやすく説明しようと、才人は頭を絞った。

「星は穴なんかじゃありませんよ。え~と……簡単に言えば巨大な火の球です。太陽みたいな」
プッロは呆けたように頬を掻くと、「……そうなんですか?あんたが前に言った事と違ってるようですが」と確認するようにウォレヌスに尋ねた。
ウォレヌスはすぐに首を横に振った。
「聞いた事もないな。だいたい太陽が無数にあるのならアポロやヤヌスも無数に存在するのか?そんな滅茶苦茶な」
アポロやヤヌスがローマの神々の一つなのは才人も知っていた。
アポロは確か太陽の神だから、その事について話しているのだろうか?
だがそんな事を言われても才人には説明の仕様がない。

そして後を追うようにルイズが痛い所をついてきた。
「ヤヌスやアポロがなんなのかは知らないけど、私も同感よ。あんたのいう事には証拠が何一つ無いじゃない。いきなりそんな事を信じろって言われても無理ね。何か証拠はあるの?星がデカい火の玉だっていう」
それを言われると辛かった。単に常識として知っているだけで、星が実際になんなのかを証明する手段は何一つ持ち合わせていない。
だがどちらにしてもこれは重要な点ではない。自分が言いたいのはここが地球に似た惑星がかもしれない、という事だ。
「正直な話、その事は重要じゃありません。俺が言いたいのは宇宙のどこかに地球と同じような星があるかもしれない、そしてそこがここかもしれないって事です」

再び場に沈黙が訪れた。
それを見て才人はどんよりとした気分になった。まるで自分がとんでもなくおかしな事を言っているかのように感じられる。
実際におかしな事を言っているのは彼らの筈なのに。
やがてゆっくりと、だがはっきりとウォレヌスが首を振った。
「そんな馬鹿げた事がありえるか。地球は一つだ。この世界にこれ以外の地球があるはずが無い」
「地球が二つあるって話じゃありません。地球とは別の似たような星、って事です」
今度はルイズが呆れたように言った。
「なんていうのか……ずいぶんと突飛な発想を持ってるのねあんた。つまり宇宙のどこかに地球に似た別の地球が浮かんでいて、あんた達はそこから召喚されてきたって言いたいの?」
知ってか知らずか、彼女は才人が言いたい事をはっきりと表現してくれた。
才人は強く頷いた。
「ああ、まさにその通りだ。判りやすくまとめてくれたな」

才人がそう言い切ると共に、三人は今度は狐につままれたような顔になった。
(俺ってそんなにおかしい事を言ってるのか?)
なぜ三人ともここまで異星の存在を信じようとしないのかが才人には理解できない。
確かに証明は出来ないが、可能性として受け入れる位はしてくれてもいい筈だ。

「……おい、さっき言ってたヘイコウ世界ってのはなんなんだ。これより更にぶっ飛んだ話なのか?」
そう言ったプッロの顔は疑いに覆われている。
“ぶっ飛んだ話”という言葉からも彼が才人の話を全く信じていないのは明らかだった。
そして並行世界はこれよりもずっと説明するのが難しい。
彼らにはたして理解できるのか、と才人は悩んだ。

「平行世界ってのは……え~と、一つの世界から分岐してそれに並行して存在する別の世界の事です。パラレルワールドとも言います」
一応解りやすく言ったつもりだが、それでもプッロにはさっぱりだったらしい。
「まるで意味が解らねえよ。分岐ってどういう事だ?並行して存在だぁ?」
「え~と、そうですね――」
そう言いながらも才人は解りやすい例を考えようとした。
「そうだ、例えばプッロさんのお祖父さんが子供の頃に運悪く病気にかかって死んだとします。そうすれば当然プッロさんは今存在していませんよね?」
「まあそりゃそうだな。っていうか勝手に俺を殺すな」
「仮定の話です。つまりなんらかの理由により、プッロさんのお祖父さんが子供の頃に死んだ世界と病気にかからなかった世界が二つあると考えてみて下さい」

相変わらず皆は顔に疑問符を浮かべている。
「世界が二つできた、というのはどういう意味だ?さっぱり理解できない」
次はウォレヌスが聞いてきた。才人は精一杯解りやすいように説明しようとした。
「だから分裂したんですよ、世界が。一つの世界ではプッロさんは存在していますが、もう一つの世界では存在していない。
 別の例で言えば俺が召喚された時の事です。もしあの時、俺があの鏡を潜らなかったなら当然俺はここに存在していない。平行世界っていうのはそういう“もしも”の世界なんですよ」
「……それでその世界ってのはどこにあるのよ?」
ルイズがジト目で尋ねてくる。
「別の時間軸だ。だから俺達には決して見る事も行く事も出来ない。でも確実に存在する。そんな世界だ」
そう答えながらも才人は自分で自分の言っている事が怪しく思えてきた。
元々が漫画やアニメの受け売りだ。科学的にこれが正しいのかどうかは全く解らない。
そもそも科学的に並行世界なんて物が本当に存在するのかどうかさえ知らないのだ。

そしてプッロ達は妙に痛い所をついてくる。かえってこういう事を全く知らないからかもしれない。
「別の時間軸だの世界が分裂するってのも訳がわからんし、だいたい見る事が出来ないんならなんでそんなのがあるって解るんだ?」
確かにもっともな疑問だが、才人にはっきりとした答えは無い。
「俺は可能性の話をしてるんです。つまり、ハルケギニアは地球の平行世界かもしれない。もしそうなら地形がヨーロッパそっくりなのも説明できます。もちろん分裂したのはあなたの祖父の時代どころかそれより遥か前でしょうが」

そう言った後も三人は釈然としない表情のままだった。
無理も無い事かもしれないが、こちらの言う事を信じる信じていない以前に概念その物が理解できていないように見える。
それにしても、もどかしい。はっきり言えばここが並行世界なのか異星なのかどうかは問題ではない。
才人が言いたいのは“ここが地球ではない”という事だ。
そしてそれが正しいのは100%解っているのに彼らには中々理解して貰えない。

そして挙句にプッロはこんな事を言い出した。
「なあ坊主、はっきり言っていいか?お前さんの話はイカれてるぜ」
絶対に正しいと信じている事をイカれているといわれて、才人は少し不快になった。
思わず声を荒げる。
「イカれてるって、なんでですか!?」
「だってありえんだろ、そんな事は。別の星だのヘイコウ世界だの、滅茶苦茶にも程がある」
そして才人が何かを言い返せる前にルイズが割って入った。
「そもそもここが地球じゃない、と考える根拠はなんなの?なにかある筈でしょ?それを言って見なさい」
根拠と言われても、そんな物は決まりきっている。
「……そりゃこんな場所は地球に無いからだよ。ハルケギニアなんて召喚されるまでは聞いた事も無かった」
そこにウォレヌスが切り返してきた。
「そう言い切れるのはなぜだ?私だってこんな場所が存在するなど夢にも思っていなかったが、現にこうして存在するじゃないか」
あまりの話の通じ辛さに才人は苛立ちを覚えてきた。
それを何とか飲み込み、才人は答えを紡いだ。
「いいですか、俺の国じゃ地球にある全ての場所は隅々まで知られてるんです、詳細に。それなのにハルケギニアなんて場所はどこにも存在しないんですよ……!」
「単に君達がそう思ってるだけじゃないのか?我々も世界がどのような姿をしているかは知っているつもりだった。ヨーロッパ、アジアとアフリカの三大陸が存在し、その周りは大海オケアヌスで覆われているとな。それがどうだったかは見ての通りだ」

才人は唸った。まさかここまで理解されないとは思ってもみなかった。
とにかく、彼らを納得させるには何か証拠が必要だ。
ここが地球でない事の証拠。余りにも常識的でありすぎてかえって頭に浮かんでこない。
何か無いか、と考えていると才人は窓から差し込んでくる月の光に気付いた。
そう、月だ。ここには月が二つある。それこそここが地球じゃないという確かな証拠ではないか。
月だけではない。夜空を見れば解る。ここが地球でないのなら星座なども違う筈だ。

「そうだ、お二人とも疑問に思った事は無いんですか?ここにはバカでかい月が二つもあるって!」
「ん、ああ。まあそれは確かに不思議に思った。というか不吉だったな」
「そういえば最初の日は騒いでたわね、月が二つもある!って」
才人は決め手だといわんばかりに一気にまくし立てた。
「それが証拠ですよ!ここが地球なら月は一つしか無いはずでしょ?月だけじゃない、ここが地球じゃないんなら星座とかも全部違うかもしれません」
だが、この決め手も彼らを納得させるには至らなかった。
「……場所が違えば月の大きさや数も変わるのかもしれん。月や太陽は神域だからな。死すべき定めの人間には理解できん事があっても不思議じゃない。はっきりとした証拠とはいえないな」
才人は深くため息をついた。どうにも彼らは納得しそうにない。
神々という便利な道具がある以上、自分が思いつきそうな証拠では彼らを説得するのは難しそうだ。

才人がそう悶々としていると、プッロが彼をジロジロと見つめながら話しかけた。
「なあ坊主、これはお前が全部自分の頭で考えた事なのか?それともお前の国じゃ普通に信じられてる事なのか?」
「……普通かどうかはしりませんけど、俺が考えた事じゃないですよ。今までに読んだ本とかに載ってた事です」
才人がぶっきらぼうに答えると、プッロは感心と呆れが入り混じったような声で言った。
「なんというかまあ、お前さんの国じゃあかなり突拍子もない話があるんだな。外人の連中に奇妙な考えや風習があるってのは今までに身を持って体験したが、お前が言った事はその中でも一番ぶっ飛んでる」
突拍子もない事を言ってるのはあんたらだよ、と才人は言い返しそうになったがそこはこらえた。
これ以上は何を言っても水掛け論にしかならないと悟ったからだ。
それを察したのか、ウォレヌスが話を切り上げたいかのように言った。
「結局は君の言う事のどれかが正しいとしても、帰る方法が無いというのには変わりないんだろう?」
「ええ、まあ。そうなりますね」
「じゃあこれで止めておこう。今の時点ではなぜここと我々の世界がそっくりなのかは解らない。それが結論だ」
プッロ達も頷く。
「同意ですね。これ以上は疲れるだけだ」
「私ももういいわ。あんたの話を聞いてたら頭が少し変になりそうだし」

この話はそれで終わりになった。
ここと古代ヨーロッパの奇妙な類似については結局答えは何も出なかったが、それはまだいい。
極端な話、仮にその謎が解けなくとも故郷に帰る事ができればそれでも構わない。
それよりもここが地球ではないと二人に理解させる事が出来なかったのが、才人には少し不安に思えた。
杞憂かもしれないが、その内故郷に帰ろうとして彼らが何かとてつもなく無駄な事をしそうな気がしてならない。
特にプッロなら竜か何かを強奪して海を渡ろうとする位の事はしてもおかしくない気がする。
とはいえあくまでも最後の手段だと言っていたわけだから、今の所は心配しなくてもいいだろう。
それに彼の性格からすれば多分、ギーシュとの件で片がつくまで帰ろうとはしない筈だ。
だが長い目で見れば、ここが真の意味で異世界だという事を彼らに解らせた方がいい。
それまでになんとかうまく説明出来る方法を考えなきゃな、と才人は思った。


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