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汝等、虚無の使い魔なり!-06


 二人のダイジュウジ クザクという存在は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールにとって奇妙な存在であった。
 平民と定義するにはちょっと無理があると、数日経ってルイズは思い直していた。

 まずは少年の方のダイジュウジ クザク。
 白銀に薄い藍色を混ぜたような煌めく髪を、腰より長い三つ編みで一纏めにして赤いリボンで留められている。
 瞳の色は碧、目元はパッチリ大きく、それでいて緩みが見えず引き締まっている。
 鼻筋や口元もきれいな形で、輪郭も同様。
 目立つ赤いマントを羽織り、衣服もかなり仕立てが良い物だとわかる。

 ここまで言えばわかると思うけど、ダイジュウジ クザクは『美人』。
 顔だけ見れば中性的と言って良い、だが軟さをまったく感じさせない。
 立ち振る舞いも堂に入り、平民には見えない。
 すごく立派に見えるのだ、貴族と紹介されれば素直に信じるほどに。

 そんなクザクに向けられるのは『熱い視線に黄色い声』。
 紳士的で姿も美しく、異世界のものとは言え礼儀もしっかりと弁えている。
 ギーシュともう一方のクザクとの決闘に、割り込んだ時に見せた力の一端もあって認識はすぐ変貌した。
 駆け巡る噂は『実は高位のメイジ』、『大貴族の子息』、『王族の血を引く子弟』と根も葉もない噂話が飛び交っていた。
 噂はどうあれ、少なくとも美形で強いと言う事が女子生徒の心をくすぐった。

 そんな噂が飛び交えば、事実かどうか気になる者たちも居る。
 そうして噂を確かめようとする者、良い思いを抱いていない者にクザクに手を出した。
 飛び交う噂なんて信じられない、私が呼び出したからどうせ『無能』だろう。
 単純な考えで決闘を突き付けた、だが当のクザクは突き付けた当人の目の前で決闘を断った。

『なぜ汝と決闘を行わなければならぬ』、と。

 尤もだった、決闘を申し込んだ貴族とクザクは初対面。
 話すどころか見た事さえ無い相手と戦わなければならないのか、まったくもって理由が無かった。
 そう返せば相手の貴族は馬鹿にした口調で『怖いのか』と言う。
 ギーシュともう一方のクザクとの決闘を見ていればそんな事は言えなかっただろう、見ていなかった故の言葉。
 挑発と取れる言葉の前にクザクは淡々と返す。

『そう思いたければ思うが良い、汝が何と思おうとも我は我であり変わりはせぬ』

 話は終わり、そう言う様にクザクは踵を返して歩き出す。
 それを見た男子生徒は声を上げて、やっぱり平民だ、逃げたのなんだと言い触らす。
 それでもクザクは僅かにも歩く速度を緩めず、その場から去っていく。
 クザクの姿が完全に見えなくなり、置いてけぼりにされた男子生徒は多少なりとも怒りが表情に浮かんでいた。
 散々喚き扱き下ろした後、その場を後にしようとした男子生徒の前に一人の紅が降りてきた。

『受けましょう、その決闘』

 凄惨な笑みを浮かべて降り立ったのはもう一方の、少女の方であるクザクだった。
 クザクと同じの顔の赤い髪に、瞳は血のように紅く、着る衣服も真紅で広がるフリルで彩られたドレス。
 どう言う事か、スカートも赤なのだけど半透明、多少目を凝らせば赤い下着が見えるくらいの半透明。
 どういう神経かわからない全身赤尽くめの少女は、クザクが代わりに決闘を受けようと言い出した。

 笑みを浮かべるクザク……、ええいわかり難い! 赤い方が笑みを浮かべたまま男子生徒を見る。
 赤い方の容姿に一瞬見惚れたのか、ぼけっとしていた男子生徒は我に返り『君に申し込んだんじゃない』と言ったが。

『いいえ、ダイジュウジ クザクに決闘を申し込んだのでしょう? ならば、ダイジュウジ クザクの私が受けて何の問題もありはしないわ』

 さあ、はじめましょう?
 そう言った時には男子生徒の周囲に立ち上がるのは、ゴーレム。
 先日ギーシュとの決闘時に見せた鮮やかな色彩の鉄で出来たゴーレム、それが瞬時に現れ形作って男子生徒の全方位から拳を放った。
 半殺しでは少なく、全殺しには多すぎる、ピクリとも動けないほど男子生徒を殴り痛めつけてゴーレムは土へと還った。
 ……小さな呻き声が微かに聞こえるから、意識はあるんだろうけど……かなり痛そう。

『つまんないの』

 顔面が腫れ上がり倒れ伏す男子生徒を見下し、空へと浮かび上がって見えなくなる。
 決闘とは言えない、杖を握る間も無く一方的な攻撃のみで終わった。
 その場に居合わせたギャラリー、赤い方が居なくなってようやく思い出したようにその男子生徒へと駆け寄る。
 ……改めて見ると凄過ぎる、ゴーレムを作り上げてから錬金で変化させるのだが、それが異常に早い。
 知識があるからと言ってこんな簡単に使えるものなのか、ギーシュより凄いちいねえさまが作るゴーレムより断然早い。
 私も魔法が使えるようになったら、あんな風に軽やかに使えるのだろうか。

「とか考えているでしょう?」
「ひあっ!」

 いきなり背後から耳に吐息を掛けられた。
 反射的に耳を押さえながら背を丸め、前に逃げた。

「ちょ、何すんのよ!」
「あら、気持ちが良かったの?」
「んなわけないでしょ!」

 廊下の端から覗いていたにも拘らず、後ろから今さっきまで聞いていた声。
 離れてから振り返れば、クスクスと笑いつついつの間にか居た赤い方。

「何か分かったのかしら?」
「……見てたの分かってたのね」
「わからないものですか、たとえ百万の視線が有っても意図して見る視線ならすぐにでも」

 まったく騎士殿はお優しいこと、と宙に浮かんで足組み。
 クザクのほうも分かっているような口ぶり、実際分かってるんだろうけど。

「それでぇ、数日我慢してきてぇ、心境のへんかはぁ、あったのかしらぁ?」

 何も分かっていないでしょう? と如何にも言いたげに馬鹿にした声と笑み。
 『ここは……我慢よ』と何度もそうして耐えてきたクザクの言葉を思い出し、奥歯がギリギリなるように歯を食いしばって赤い奴を見る。

「ふん、あんたになんか教えてやるもんですか」
「……いいわねぇ、その顔。 随分と溜まっているじゃないの」

 顔を逸らす、こんな事言う奴に顔を見られるのが癪に障る。

「言わなくても分かるけどー」

 笑いながら浮かび上がり、窓を潜って外へと出る。
 くるりと身を回して振り返る赤い方、こちらを向いてから指を向ける。

「岐路に立つのは貴女、決めるのも貴女」

 そのまま一気に視界から外れ消える。

「くっうぅー! むかつく!! 何が『決めるのも貴女』よ!!!」

 と地団駄を踏みながら、居なくなった赤い方に向けて届かない唸り声を上げた。





「嫌がっていた割には随分と構うではないか」
「女の言葉は本音と建前が完全に分かれているのよ」
「汝が言うとどうも違うような気もするが」

 腕組みして寮の屋根に立つのは九朔、その隣で浮かんでいるのは紅朔。

「……やはり興味はあるか」
「無いと言ったら嘘になるわ」

 母上ですら知り得ないアカシック・レコードへのアクセス方法。
 全ての知識とともに、全ての『夢』が詰まっているモノ。
 『出来るかも』知れないと言うだけで、好からぬ者たちが寄ってくるかもしれんな。

「それで、顛末を知りたいか」
「ただの人間がどこまで至れるか、もしかしたら御父様たちのように成るかもしれないわね」
「……本当に至ると?」
「あれ次第よ」

 視線を下に向ければ主殿が大股で歩いていた。
 随分と我慢で怒りが溜まっているようだ、その内の半分以上は紅朔だろうが。
 お陰で予想以上に早く限界を迎えるかもしれない。

「あの歳で我慢を覚えさせるって、子供よねぇ」
「人の事は言えまい」
「どっちかって言うと癇癪ね……、結局は我慢に行き着くけど」
「どうにかして始祖の遺品を手に入れなければな……」
「盗む?」
「可能であってもやるべきではないだろうが」

 十中八九成功しそうなのがまた性質が悪い。

「地道にやっていくの? その前に破裂しちゃうかも!」

 胸の前においた両手を一気に開き、何かの破裂を表した仕草をして哂う。

「本当にそうなるかもしれんから、あまり挑発はするな」
「なぁーんにもないお子様のままでもいいじゃない、公爵家の血が欲しいって奴らも沢山居るでしょうし」

 この程度いくらでも耐えれないと、力を持ってもすぐ壊れちゃうわよ。
 と足を組み替え、主殿を嘲笑う。

 確かに予想通りの力を持つならば、人でありながら人を通り超えて『神智』を手に入れることになる。
 人が持つには巨大すぎる、不相応としか言えぬ力。
 力に狂いおぼれ、破滅を引き寄せることになりかねない。

「……それも一つの未来か」

 主殿の望みに反するが、このまま魔法を使えずに居て。
 どこかに嫁げば多少は影で蔑まれるだろうが、貴族でも上の暮らしで平穏に過ごせていけるだろう。
 そういう点ではこの未来の方が幸せかもしれない。

「でも薄いでしょうねぇ、可能性を告げちゃったしぃ」
「既に一度魔法を成功させておる、……告げるのは早計だったか」
「魔法の味はあまいあまぁーい蜂蜜かしら? それとも砂糖? メープルシロップなんてのもありよねぇ」

 召喚魔法を成功させた時に感じた喜びは、極上の味。
 快楽となってルイズの心を振るわせた、それは心に軛を打ち込んでよりその快楽を求める。
 渇望、乾き切ったスポンジに水滴を落とすように、乾き切ったひび割れた大地に雨が降るように。
 まるで中毒、それを望んで望んで、それしか考えられなくなるような『魔法中毒』。

「言い過ぎではないか?」
「魔法に御執心ですもの、今はそうでなくともいずれそうなるかも知れないわよ」
「そうかもしれんがな……」

 我慢と言っても限界がある、紅朔が言うように破裂する前に何らかの発散方法を用意しておかねばならんか。

「……最悪マギウススタイルを使ってもらえばいいかもしれんな」

 とつぶやきながら横目で隣を見る。

「えー、嫌よそんなの」
「汝にも一因がある、それに最悪の場合であるからすぐにはそういう事態にはなりはすまいが」
「絶対嫌よ、何であんなちんちくりんをサポートしなきゃいけないのよ」

 下、視界に映る主殿が左右を見回していた。
 よもや紅朔の声が聞こえたのではなかろうか……。

「ともかくだ、何らかのストレス発散方法を用意しておかなければならん」
「騎士殿が背負って飛び跳ねてあげれば? 絶叫マシンも真っ青な悲鳴を上げるんじゃないかしら」
「逆に溜まるだろうが!」

 はぁーとため息を吐きつつ下を見れば、主殿に近づく少女が一人。
 腰ほどもある赤い髪をなびかせて近寄るのは主殿の学友、ミス・ツェルプストー。
 近づいている事に気が付くやいなや、随分と渋い顔を作る。

「あれも原因でしょう?」

 紅朔の指先はミス・ツェルプストーに向いている。
 何か主殿と話しており、どうにもよさそうではない雰囲気が窺い知れる。

「それもそうだが、紅朔ほどではなかろう」
「あらやだ、随分と優しくしてあげてるのに」

 あれでか。

「本気でやったら壊れちゃうかも」
「………」

 本気かと視線をやれば、アンニュイな表情で肩を竦める紅朔。

「とりあえず今後についても十分に考えなければな」
「それは騎士殿が考えてくださいな、私は関係ございませんので」
「理解しておる、有事の際は手を貸してもらうだろうが」

 主殿が知る世界の知識から見るに、危険と言えるのは亜人や怪物、高位のメイジや人間同士が争う戦争程度だろう。
 無論主殿は全てを知っているわけでもない、継続して情報を集めておかねばならんな。

「お次の行事は何でございましょうかね、怪しい森にはびこる怪物退治? それとも可憐なお姫様の護衛?」
「どこからそんな事に繋がると言うのだ……」
「全てのものはか細い、息を軽く吹きかけただけで切れる糸で繋がっているのよ?」
「縁とは無限に連なる糸か、そうであっても……繋がるかもしれんか」

 腕組みを解き、会話が終わったらしい主殿とミス・ツェルプストーを見る。

「謎を解く手掛かりになるだろう」
「その時は喜んで手を貸しましょう」

 言葉を発さない代わりに怒りの形相でミス・ツェルプストーから離れていく主殿。
 それを見送りながら呟くミス・ツェルプストーの声を拾う。

「……なるほど、敵ばかりではないと言う事か」
「ああ、麗しきは友情。 と言うことかしら」
「悪い事ではあるまい」

 軽やかに飛び上がり、屋根から飛び降りる。
 着地点はつい先ほどまで主殿が居た場所の近く、つまりはミス・ツェルプストーの数メートルの目先。
 地面に僅かながらの窪みを作って降り立つ。

「なっ!?」

 いきなり落ちて来た事に驚き、声を上げるミス・ツェルプストー。
 上と我を何度か交互に見る。

「その気遣い、真の感謝を」

 向き直ると同時に一礼、優雅に思いを込めて頭を下げる。

「え? え? なに? ちょっと、まさか……」
「主殿はミス・ツェルプストーにあまり良い感情を持っておられぬ、だが貴女はそれを気にせず声を掛けてくれる」
「……さっきの、き、聞いて……」
「ミス・ツェルプストーには、これからも主殿に気に掛けてもらいたい。 出来れば優しい言葉の一つもあれば尚のこと」

 聞かれたく無かったのであろう、驚きで手を口に当てている顔に朱がさしていた。

『あのルイズが召喚を成功させたんだから、ほかの魔法もきっと使えるようになるわ』
「紅朔! ……それではミス・ツェルプストー、失礼を」

 ミス・ツェルプストーは響いてきた声に驚き、周囲を見渡すが誰も居ない。
 隠れて心の声を代弁している気なのだろう、窘めてもう一度頭を下げて背を向け歩き出す。

「こう言う事について茶化すのは止せ」
『あら、ごめんなさいね。 お詫びはピンクブロンドを口で侮辱して、心の中では褒めてあげる権利を差し上げるから許してね』

 言いながら『ニトクリスの鏡』で周囲の景色に溶け込んでいた紅朔が、九朔の隣に浮かび上がった。
 つまらぬ事で魔術を使うでない、そう言ってもニヤニヤと笑うだけで返事を返さない紅朔。
 どうせミス・ツェルプストーの驚いている表情を見て楽しんでいるだけだろう。
 内心何度目か分からない溜息を吐き、驚いたままのキュルケを放置したままその場を後にした。





「……いきなり落ちてくるなんて普通思わないでしょう」

 呟きながらも、姿勢をまっすぐに歩いていくルイズの使い魔を見送る。
 その隣には先日ギーシュと決闘を行った紅い少女。
 どちらも強力な存在だと認識している。
 手だれの一個中隊規模の傭兵を簡単に蹴散らすだろうゴーレム、それを高速で数十と作り上げてなお平然とする紅い少女。
 そのゴーレムの強烈な、ギーシュがそのパンチを顔面に受けていたなら、確実に死んでいただろう攻撃を左手一本で簡単に止めたもう一人の少年。

 正面から対峙して勝てるかどうかと言われれば極めて薄いと判断する。
 紅い少女が作り上げるゴーレムを一体破壊している間に数十のゴーレムが出来上がり、すぐにでも群がられるだろう。
 少年のほうも素早い動きをするゴーレムとギーシュの間に割り込んだ事から、魔法を当てられる自信がない。
 と言うか姿を消す魔法なんて見た事も聞いた事もない、それ以前に魔法を使うための杖すら持っていない。
 まさか先住魔法? でも魔法を跳ね返すとかは聞いたこと有るけど、姿を消すなんてものはこれっぽっちも聞いた事がない。

 思案しながら上、少年が降りてきた寮を見上げる。
 開いている窓はなく、多分屋根から下りてきたんでしょう。
 となると10メイル以上ある高さからフライ無しで降りてきたとしたら、またとんでもない。
 普通足が折れてもまったく不思議じゃないのに、平然としていた様子。

「……本当に、何召喚してるんだか……」

 どっちもどっち、普通ではない使い魔を召喚したルイズは一体何なのか。
 メイジであってもそうやすやすと出来る事ではない。
 そういう意味ではまったくもっておかしな人物たち。
 見た限りでは悪意的、敵意的ではないことにひとまず安心するキュルケであった。





「それで?」
「聞きたい事ははっきりと申せ」
「……キュルケと何話してたのかって事よ」
「余り主殿をいじめないでくれと頼んだだけだ」

 そう言えば主殿は睨んでくる、しっかり見てたのだろう。
 場所は主殿の部屋、椅子に座って問いてくる主殿と、立ったままそれに答える我。
 紅朔はベッドに寝転がってどうでも良さそうにしていた。
 勝手にベッドを使っている事を窘めるのを諦めたのか、主殿は紅朔を相手にしないようにしていた。

「そんな事言ってもキュルケが聞くわけないじゃないの!」
「確かに、聞かぬであろうな」

 むしろ推奨した事になるだろうな。

「だからと言ってむざむざ放っておけと? それこそ見過ごせん」
「え?」

 今はまだそのような時ではないが、いずれ主殿が魔法を使えるようになった時に傍に居る者。
 信頼できる友が居ると居ないとではかなりの差が出るであろう、そういった面で内心心配をしているミス・ツェルプストーなら変わらず友で居られるかもしれん。

「あのままではいかん、聞く聞かないという事より留意させる事に意味がある」
「留意?」
「うむ、ミス・ツェルプストーは婦女子方からあまり人気がないのだろう?」
「人の彼氏取るような奴だし、好かれる訳ないでしょ」
「憎まれ口を叩くのも限度がある、負の感情を纏い過ぎる良くないものも寄ってくる」
「で?」
「一石二鳥、であるな」
「なにそれ」

 どちらにとっても悪くはない話。
 ミス・ツェルプストーに友が居るかどうかわからぬが、対等に付き合える友が居ることは悪くはない。
 本当に対等に見合えるか、それもしっかりと確かめておかねばならないが。

「どういうことよ、いっせきにちょう? なによそれ」
「一粒で二度美味しい」

 ぼそりと呟く紅朔、声に反応して振り向きかけた主殿が、振り向くまいと相当な力を入れて顔を正面へと戻した。
 それを見ていた紅朔は笑い声を漏らす。

「そこまで主殿が気にすることではない」
「気になるでしょ! 私の使い魔があのバカ女と話してるなんて! なに、それとも言えない訳!?」

 と怒りの形相で顔を突き出してくる主殿。

「そうではない、先ほど言った通りあまりいじめないでくれと頼んだだけだ」
「それじゃあキュルケはなんて答えたのよ!」
「言ったであろうが、聞く聞かないより留意させることと。 返事を貰わずに戻ってきたわ」
「……本当でしょうね」
「嘘は付いておらぬ、誓えとあらば誓おう」

 我の言葉に眉をひそませ思案顔。

「……いいわ、信じるけど」

 一息区切り。

「いい!? キュルケと付き合っちゃだめよ! あんな尻軽女と合わせてたら……」

 言葉が出ないのか、歯軋りするように歯を食いしばっていた。

「分かっておる、必要以上に接しはしない」

 如何に長年の因縁があるとは言え、ここまで露骨に嫌悪を表すのも如何なものか。
 少なくともミス・ツェルプストーの気掛かりは、主殿に対して良い効果を上げていなかったようだ。
 どうもここら辺の間柄も気を付けねばならないか。

 これ以上心配事が増えなければ良いのだが、と来る未来に不安が募る九朔であった。


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