あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ラスボスだった使い魔-42b


「……ようやく着いたか」
 もうしばらくしたら夜明けという時間帯になって、ユーゼスはトリステイン魔法学院に帰還した。
 この銀髪の男は、夕方前のあたりからつい2時間前に至るまで、延々とエレオノールとの間にあった出来事をカトレアに語り続けていたのである。
 しかも話が終了したのは『語り終わった』からではなく、『カトレアの体力が持たなくなって貧血で倒れた』からだった。
 そしてゼエゼエ言いながら続きを促すカトレアをなだめ、更に寝室まで運んでベッドに寝かせるのに更に30分を費やした。
 ちなみにその際、
「汗も随分とかいているな」
「え、ええ……まあ……。でも、このくらいは……慣れっこですから」
「……冬に汗まみれのままで眠れば余計に体調を崩すぞ。ただでさえ寝不足なのだから、汗のふき取りや着替えくらいはするべきだと思うが」
「そうしたいのは、やまやまなんですけど……。ちょっと、そんな……余裕も、ないみたい……ですし……」
「ふむ」
 という会話があり、
「分かった。それでは私がそれをしよう」
「は……え、ええっ!?」
「何を驚いている。御主人様など、私を召喚したその日には何の躊躇もなく『自分を着替えさせろ』と命じていたぞ」
「………、あの子ったら……」
 そんな掛け合いを経て、 
「それに……お前が私に対して肌を晒すことに、羞恥心を感じるのも今更だろう?」
「え?」
「お前の肌など週に二回の診察で見慣れているし、触り慣れているからな。まあ触れていない部分もそれなりにあるが、要領として大差は……」
「っ……」
「ぐっ―――なけなしの体力を消費してまで、なぜ私の頭を叩く?」
「自分の……胸に、ぜえ、聞いてっ、くださいっ」
 その後も交渉は続き、
「とにかく、身体を拭くから服を脱げ。これが原因で死なれでもしたら目覚めが悪い」
「や……でも、ちょ、ちょっと、それは……」
「? ……ああ、服を脱ぐためにも身体は動かさねばならんか。それにも体力は必要だからな……。では私が脱が―――」
「じっ、自分で……脱ぎます、からっ、大丈夫ですっ!」
「そうか?」
「ええっ、身体も……自分で、拭きますし」
「そこまで言うのならば任せるが……。着替えはそこのクローゼットの中でいいのか?」
「あ、はい。さすがに……立ち上がるのは、無理みたいですので……お願いします」
「…………寝具や下着が数種類あるが、適当でいいか?」
「~~~……っ、は、はい、ユーゼスさんに、お任せ……します。……それと……」
「何だ」
「その……着替えたり、身体を拭いたりしてる間は……むこうを向いててください」
 などという一連のやり取りの末に、結果としてもう30分を消費していた。
 それからカトレアが着替えたことと眠ったことを見届け、夜間ということでスピードを控えめにして飛行を行い、現在に至っている。
 ラ・フォンティーヌの屋敷に寝泊りするという選択肢もあるにはあったのだが、『さすがに朝帰りは不味い』という程度の良識はユーゼスも持ち合わせていたのだった。


 何はともあれ、ユーゼスは早く自分の研究室に戻ろうとする。
 徹夜をしようが朝帰りをしようが、『使い魔として命じられた仕事』がなくなるわけではないのだ。
 差し当たって7時になったら主人を起こさなければならない。
 これが簡単そうに見えて意外に大変な仕事だった。
 特に最近は冷え込みが厳しくなってきたせいで、ルイズがなかなか布団から出ようとしないのである。
「……………」
 ゆっくりとビートルの着陸視点から学院へと歩いていくユーゼス。
 今の時間帯の正門は閉まっているはずなので、火の塔近くの裏口から学院の敷地内に入り込もうとする。
 そこで、ユーゼスは学院の異変に気付いた。
「む?」
 学院本塔の食堂あたりから、明かりが差してきている。
 ……一瞬、調理場の仕込みのせいかとも思ったが、調理場だけから発せられる光にしては随分と大きい。
 つまり今、食堂には明かりが灯っているということになる。
(この時間帯にか?)
 まだ夜明け前、時刻で言うなら五時にもなっていない。
 何かの催し物があるという話も聞いてはいないし、そうなると『通常では有り得ない事態』が起こっているということになるのだが……。
「……それだけではな」
 何かが起こっている可能性は高い。
 しかしそれが具体的に何なのかは分からない。
 どうしたものかと考えながら、ユーゼスは取りあえず警戒しつつ火の塔の前、以前にギーシュと戦ったヴェストリの広場の隅のあたりを進んでいく。
 すると、そこで少々見過ごせない物を見つけた。
「銃士隊?」
 学院内ではもはや見慣れた服装となっている銃士隊の女性が、二人ほど倒れている。
 近寄ってみると、二人とも銃を抱えたままで喉から大量の血を流しており……。
「……死んでいるな」
 肌の色や瞳孔の開き具合からして、間違いなく死亡していた。
 蘇生までのタイムリミットなど、とっくの昔に過ぎ去っている。
 いや、この出血量では蘇生は不可能か。
「……………」
 ひとまず銃士隊の死体を検分するユーゼス。
 本格的な死後硬直はまだ始まっていないが、周囲にこれでもかと言うほど流れ出た血の乾き具合からして、死後三十分以上、一時間以内といったところだろう。
「ふむ」
 二人とも特に服装が乱れているわけでもなければ、喉以外に外傷もない。
 つまり強姦などはされずに速やかに殺されたということになる。
「厄介だな……」
 侵入者か襲撃者が現れたことは、これで決定的になった。
 問題はそれがどのような相手かということだが、銃士隊に首の傷以外の外傷が見られない以上、ある程度のプロフェッショナル意識を持った相手なのだろう。
 襲撃者が女という可能性もあるが、こういう場合は楽観的な考えを持たない方が良い。
「……エレオノールたちは無事か?」
 まず気がかりなのは中にいる人間の安否だ。
 銃士隊隊員がかなりアッサリ殺されたと見られる以上、中にいる誰が殺されても何の不思議もない。
 その上、彼女たちも死体になる前はそれなりの訓練を受けており、まがりなりにもあのアニエスの部下として行動していた。
 つまりガンダールヴが発動していない状態の自分よりは強かったはず。
 それが二人とも激しい戦闘をした形跡もないまま殺されている。
「……………」
 こういう場合は迂闊に動かない方が懸命ではある。
 しかし静観に徹した結果、状況が悪くなるケースも考えられる。
「ひとまず、何かが起こっているらしい食堂の様子を見るべきか?」
 そのようにしてユーゼスが女性二人の血まみれ死体を前に今後の行動について悩んでいると、
「!」
 何者かがこちらに近付いてくる気配を感じた。
 ……なお、本来ユーゼス・ゴッツォに『敵の気配を感じる』などという戦闘技能は備わっていない。
 ではなぜユーゼスが敵の気配を感じ取ったかというと、これはカリーヌ・デジレの訓練によって半ば強制的に叩き込まれた技能なのである。
 もっともユーゼスの持つ『本来の能力』を駆使すれば、『敵の気配を感じる』ことはおろか『現在魔法学院がどのような状況にあるのか』、『敵一人一人の能力や素性』すらも容易に把握が出来るのだが……。
「……………」
 ともあれ、使うつもりのない能力に関して考えても意味がない。
 ユーゼスは音を立てないようにしながらゆっくりと鞭を構え、正体不明の敵と思しき影に向かってそれを放った。
「ぐぅっ!?」
「!! おい、どうした!?」
 暗闇の中で、聞き覚えのない男の声が聞こえてくる。
 今の魔法学院に男はほとんどいない。
 いたとしても、残り少ない男の声くらいならユーゼスも把握はしていた。
 つまりこの先にいるのは学院部外者ということになる。
 ……もし学院関係者だったらどうしようかと思ったが、結果オーライというやつだ。
 そして先ほどの攻撃については、鞭が命中した手応えは感じたが、仕留めるに至ってはいないようだ。
 すぐそばに転がっている二つの死体のように『喉か頭部に当てて相手を即座に殺す』のがベストだったのだが、夜明け前の暗闇では命中精度が大きく下がってしまう。
(早川健ならば、それでも正確に当てただろうな)
 やはりちょっとやそっとの訓練では、あの境地には至れないようだ。分かっていたことではあるが。
(さて……)
 自分の技量不足は納得済みなので構わない。
 ここで優先しなければならないのは、自分のことではなく相手のことだ。
 ……先程聞こえてきた声や気配の数からして、こちらに向かってきた敵はどうやら二人いるらしい。
(いかんな)
 敵が一人であればそれなりに何とか出来る自信はあったのだが、二人となると事情が違ってくる。
 たかが一人から二人になっただけ、と考えてはいけない。
 単独のこちらに対して、向こうの戦力はその倍だ。
 自分の能力が敵のそれを大きく上回っているのならともかく、互角以下の自分にとっては生きるか死ぬかの大問題なのである。
(ギーシュ・ド・グラモンでもいれば、もう少しやりようもあるのだが……)
 彼の操るゴーレムはかなり応用が利くし、何より『手軽に数を揃えられる』という点が評価出来る。
 さすがに敵味方の総数が三ケタを超えるような大規模な戦闘においては意味合いが薄れてしまうが、戦術的にはそれなりに使えるはずだ。
 ……と考えはするものの、現在ギーシュはアルビオンにいる。
 アルビオンまで空間転移してギーシュを連れて戻って来るという手段もあるにはあるが、それには色々と問題がありすぎる。
(いない人間のことを考えても意味がないか……)
 何にせよ、この場は自力で乗り切らねばなるまい。
「……………」
 ユーゼスはオリハルコニウムの剣を鞘から抜き、地面を蹴って二人の敵を襲撃する。
 だが、それとほぼ同時に敵も動き出した。
「む!?」
 土の弾丸と風の刃とが襲いかかってくる。
「!」
 ユーゼスは剣を構えつつ身をひねり、それを回避した。
(……あの訓練がこんな形で役に立つとはな)
 数ヶ月前の自分ならば、おそらく直撃することはないにしても、完璧には避けきれずに多少の怪我は負っていたはずである。
 これもカリーヌとアニエスによる、それぞれのシゴキの成果と言えるだろう。
(何か妙な自己嫌悪を感じるが……)
 しかしそのようにして順調に戦闘技能を身に付けていっている自分が、何だか嫌なような。
 ……いや、無数に存在する並行世界の中で、一つくらいはそのような『ユーゼス・ゴッツォ』がいても構わないとは思う。
 そう思いはするが、それが『このユーゼス・ゴッツォ』となると複雑な心境だった。
 と、そのようなユーゼスの内心の葛藤はさておき。
「おい!」
「……ああ、分かってるよ」
 二人の敵から伝わってくる空気が、明らかに一変する。
 自分たちが放った攻撃は、運やマグレなどの類で避けられるタイミングではない。
 それは他ならぬ自分たち自身が一番よく知っていたからだ。
「ぬかるなよ……」
 ユーゼスから見て右側に立っていた男が一歩前に出て、短い呪文を連続して唱える。
 すると、決して大きくはないが幾重もの風の刃がユーゼスに襲いかかった。
「くっ!」
(理に適った攻撃法だ……!)
 いきなり大きな魔法を使っては放つ時のモーションや詠唱に取られる時間が大きくなるし、何より精神力を大きく消耗してしまう。
 よって男は単純な威力よりもリスクの軽減を優先し、詠唱が短く精神力も節約出来る、小規模な魔法を使ったのだ。
 威力の不足分は数でカバー、というわけである。
 この方法だと威力や数の微調整も利きやすく、まさに『実戦向きの魔法の唱え方』と言える。
「ぬっ……!」
 ユーゼスはその幾重もの風の刃を回避し、僅かにかする程度のものならば無視して、それでも避けきれない分はオリハルコニウムの剣で受けながらどうにかしのいでいく。
(……デルフリンガーがあれば、また違ったか?)
 風の刃をさばきながら、そんなことを考えるユーゼス。
 確かに『魔法を吸収する』というあの剣の能力があれば、もう少しは楽になっていたかも知れない。
 ……だがデルフリンガーは全長がかなり大きいため自分にとっては少々扱いにくく、当然それに比例して重量もかなりある。
 つまりあの剣がデッドウェイトになって、動きの機敏さが損なわれてしまうのだ。
(切れ味に関しては、大して変わらんようだし……)
 ならばむしろ無い方が良いかも知れんな、とユーゼスは結論付ける。
 と、その時。
 風の刃に気を取られていたユーゼスの足元の地面がボコリと波打つようにうねり、直後にユーゼス目掛けて土の弾丸が飛んで来た。
「っ!!」
 即座に身をひねり、可能な限りの脚力を駆使してその場から飛び退くユーゼス。
 そのついでに軽く周囲を見回してみると、脇腹から血を流している男が杖を構えてこちらを睨んでいる光景が視界に映った。
 どうやら最初に鞭で行った先制攻撃は、あの男に当たっていたようだ。
「……っ」
 白衣のスソを犠牲にしつつ、風の刃と土の弾丸を回避するユーゼス。
(こちらの見極めが甘かったか……)
 自分としたことが、あの風メイジに気を取られすぎて残りの一人のことを失念していた。
 状況は二対一。
 手負いのメイジと無傷のメイジに、剣と鞭が多少使えるだけの男が戦いを挑んでいる。
(……ガンダールヴの力を引き出せれば、また状況も違ってくるのだろうが……)
 ガンダールヴの性能は『心の震え』―――要するにテンションによって大きく左右されるのだが、あいにくと今の自分ではこの戦況をひっくり返すほどのテンションは持ち得ない。
 例えば絶体絶命の状況下に置かれたとしても、割とすんなり眼前の死を受け入れてしまいそうな気がする。
(さて、どうしたものか……)
 玉砕覚悟で突撃―――却下。まず間違いなく返り討ちにされる。
 現状を維持しつつ隙をうかがう―――却下。そう都合よく隙が見つかるとは思えない。
 持久戦に持ち込む―――却下。体力の削り合いならば、負傷者を抱えているとは言え数で勝る向こうの方に分がある。そもそもこの戦法ではジリジリと押し切られる可能性が非常に高い。
 退却する―――保留。現状においては最も現実的な案ではあるが、逃げ切れるとは限らない。
「……………」
 ほとんど八方塞がりである。
 もうこうなったら、クロスゲート・パラダイム・システムを起動させて逃げることがベストのような気さえしてきた。
 だがそういうわけにもいかない以上、どうにかしなくてはいけない。
(……この際だ、アレを試してみるか)
 ユーゼスは剣を水平に構え、ルーンが光る左手をその刃の腹に当てる。
 そしてそのまま刃に沿って左手を滑らせようとしたが、やろうとした途端にその表情が曇った。
「くっ……ルーンの出力が足りん」
 手本となる物はいくつか知っている。
 やり方の要領も分かっている。
 ……理論的には十分に可能なはずなのだが、しかしそのための力が不足していた。
 現在の自分のテンションでは、自分が思い描いていた通りの『剣とルーンの組み合わせ方』は出来そうにない。
「ぐう……」
 やろうとした途端に失敗してしまった『新しい試み』。
 こうなったら因果律を操作して強制的にルーンの持つ力を引き出してみるか……などとユーゼスは考えるが、しかし。
「今だっ!」
「戦いの最中に考え事とは……!」
 当たり前ではあるが。
 その失敗によって生じた隙を見逃してくれるほど、敵は甘くはなかった。
「!?」
 空気がうごめき、渦を巻いて槍となる。
 地面が盛り上がり、更に硬質化して特大のトゲと化す。
「ちいっ!」
 風と土、二種類の攻撃は互いの間隙を補い合うようにして容赦なくユーゼスに攻めかかる。
(……こうなれば、イチかバチかしかないか?)
 ユーゼスはそれをかなり際どいタイミングながらも回避し、切り抜けていった。
 更に回避の動作と接近の動作を連動させ、少しずつではあるが二人の敵へと近付いていく。
(ここか……!)
 ユーゼスが十分に鞭の間合いに入った、と判断したところで、
「甘ぇっ!!」
「何!?」
 最初に鞭の一撃を受け、脇腹に傷を負った土メイジの男が声を上げてユーゼスをギロリと睨んだ。
 向こうは既に、杖をこちらに向けている。
 こちらは鞭の柄に手をかけている。
 両者の挙動の差は明確だ。
(―――間に合わないな)
 すでに攻撃の動作に入っている以上、回避運動に切り替えるのにもコンマ何秒かが必要となる。
 順調にその切り替えが行われたとしても、このタイミングではおそらく敵の攻撃は避けきれまい。どう少なく見積もろうと身動きが取れなくなる程度のダメージは追うはずだ。
(ここまでか……)
 終わりは意外とあっけなかった。
 ……さて、自分が死んだらどうなるのだろうか。
 また『因果地平の彼方』に飛ばされるのか、それとも今度は本当に『死ぬ』のか。
 いずれにせよ、大した心残りもないので―――
(む?)
 『心残り』というキーワードに対し、ユーゼスの中で何かが引っ掛かった。
 一瞬、誰かの顔が脳裏をよぎる。
 誰の顔なのかはいまいちハッキリとしないが、それでもその『誰か』を原動力として、自分の身体は勝手に『死』に対して抵抗しようとする。
 まさか……。
(…………死にたくない、などと思っているのか? この私が?)
 自分の精神と肉体、両方の動きに驚くユーゼス・ゴッツォ。
 そして、その一連の場面での驚きは『自分のこと』だけには留まらなかった。
 手傷を負った土メイジが、ユーゼスに向けて魔法を放とうとした瞬間。
 全く予期していなかった方向から、巨大な炎のカタマリが現れたのだ。
「!!」「なっ!?」
「うおおぉおっ!!!??」
 炎はユーゼスを狙っていた土メイジを飲み込み、瞬く間に彼を燃やし尽くしていく。
「…………っ」
 標的である銀髪の男への注意も忘れて、呆気に取られる風メイジ。
(チャンス、か!)
 自身に芽生えた『生への執着』にやや困惑しつつ、ユーゼスは手にかけていた鞭をあらためて握り、地面を踏みしめてそれを振るった。
 一撃、二撃、三撃。
 杖を持っていた右手と、前に踏み出していた右脚と、何かを喋ろうと動きかけていた喉。
 いきなり仲間が焼死してしまって動揺している風メイジは、マトモにその三撃を食らった。
 当然の帰結として、彼の命はそこで潰えることになる。
「……ふむ」
 風メイジが仰向けに倒れたことを見届けて、自分の手の中にある鞭を見るユーゼス。
 快傑ズバットこと早川健の攻撃に比べれば児戯にも等しい攻撃ではあるが、彼を知るカリーヌ・デジレに『取りあえず形だけは及第点』というお墨付きを貰った鞭さばき。
 改良の余地はあり過ぎるほどにあるが、ひとまず護身用程度には役に立ってくれたようだ。
「……………」
 と、鞭のことは別にいいとして、この場で気にかけるべきことは他にあった。
 ヴェストリの広場に転がる二つのメイジの死体。
 血まみれで死んでいる風メイジは自分がやったのだから構わないが、その直前に焼死した土メイジは果たして誰がやったのか。
(まだ近くにいるとは思うが……)
 確認するべく周辺を見回そうとするユーゼス。
 しかしそれを実行しようとした矢先に、その土メイジを焼死体に変えた人物は姿を現した。
「無事かね、ゴッツォ君?」
「お前は……」
 長い木の杖を持ち、黒いローブに身を包んだ、禿げた頭の中年教師。
 転がる二つの死体を見ながら、何かの苦痛にでも耐えているような顔をしているジャン・コルベールがユーゼスの前に立っていた。


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