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確率世界のヴァリエール-08


「聞いたか? また戦艦が沈められたってさ」
「もう7隻目だろ? アルビオンの貴族派どもも大変だな」

朝のアルヴィーズの食堂。 未来の政治家達が楽しげに語り合っている。
貴族にとって戦争と醜聞はこの上ない娯楽。 対岸の火事となれば尚更だ。
「しかし王党派も現金なもんだよな、一時はニューカッスルを枕に
 一族郎党覚悟を決めたと思ってたけど」
「それくらいの生き意地の汚さがなけりゃ、王族なんぞ務まるまいさ」
「王さえ居れば国は成り立つ。 朕は国家なり、ってやつか」
「ははは、それさそれ」

笑いあうひよこ達をよそに、ルイズはシュレディンガーのタイを整える。
「一人だからって粗相しないのよ?」
「信頼無いなあー、大丈夫だって」
「あらシュレちゃん、今日もおでかけ?」
「うんキュルケ、行って来るね!」
「この前みたくルーン無くしたりしないのよ?」
「うるさいなあもうルイズってば。 大丈夫!」
念を押す様言うと、「右手」の手袋をはずして光り輝くルーンを見せる。
「んじゃ、夕食には戻るね~」

==============================

「ふう、ホントに大丈夫かしら」
席を立つ二人に事情通気取りのひよこ達が自慢げに話しかける。
「ああ、ルイズにキュルケ、君達は知ってるかい?
 アルビオン貴族派の船を沈めて回ってる謎のメイジ。

 その名も、 『虚無の魔女』 の話を」



 確率世界のヴァリエール
  - Cats in a Box - 第八話



アルビオン大陸の中央に広がる森林地帯。
その中でもひときわ高い大木の梢にシュレディンガーは居た。
「さて、今日はこの辺りでも攻めてみますか」
晴れ渡る空、気持ちのいい朝の風が頬をなでる。
ポケットから地図を広げ、おやつ用に持って来ていた
ビスケットを思わずぽりぽりとかじる。
「ええと、こっちが北でー、」
幹に片手で掴まり、身を乗り出したシュレディンガーの頭が
突然、バカンッ! と爆ぜ飛んだ。

バサバサと音を立てて落ちてきた首なし死体を見下ろして、
白いスーツ姿の男は甘くて渋い子安ボイスで小首をかしげた。
「ん? どこかで見たよう、な」

==============================

「ひっどいなあ、ルークったら!!
 ひっさしぶりに再会した身内の頭を挨拶もなしに吹っ飛ばすなんて!」
シュレディンガーがぷりぷりと怒りながら獣道を歩く。
「すまんな。 ここいらに住むオーク鬼とやらの仲間かと思った。
 ま、頭を吹っ飛ばしたのがお前で良かった」
「ちょ、何ソレー!」
前を行く男に食ってかかる。

森を歩くというのに真っ白いスーツに真っ白いコート、腰元で括られた
長い金髪を揺らしながら、木漏れ日を避けて森の中を優雅に歩く。
「で、お前はこんな所で何をしてるんだ?」
「僕? 僕はご主人様がこの国で戦争をすることになってね、その斥候さ」
「ハッ、こんな異世界くんだりまでやって来てもまだ戦争、戦争か。
 やっぱりお前は少佐殿のお気に入りだっただけの事はある。
 お前もあの方と同じ、どうしようもない戦争狂(ウォーモンガー)だな」

「そう言うルークは何やってんのさ」
「俺か? 俺はな、さっき言ったろ」
スーツの内から取り出した銃をシュレディンガーに構える。

ドンッッ。

シュレディンガーの後ろで豚の頭をした怪物がどさりと倒れる。
「単なる狩りだ」
硝煙を吐くソードオフ加工のM1ガーランドの銃口で眼鏡を上げた。

「ひどいやルーク、こんなブサイクを僕と間違えたって?」
2メイルを超す巨体を見下ろし、不満げにぼやく。
「やかましい所なんぞソックリだ」
奇声を上げて二人を囲むオーク鬼の群れを見回し、
ルークは懐からもう一丁、M1ガーランドを取り出した。

舞を舞うかの如く、軽やかにルークがその腕を振るうたびに
両手に持った自動小銃がオーク鬼の頭を次々と射抜いていく。
「ふう、こんなものか?」
十を超える死体に囲まれた二人の足にに地響きが伝わってくる。
メキメキと音を立てて倒れる木々の向こうから現れたのは、
身の丈5メイルを優に超す3匹の巨人だった。
「うっはあー、ラスボス登場!」

打ち込まれる銃弾をものともせず雄たけびを上げるトロール鬼に、
ルークは呆れ顔で銃をしまう。
「ライフル弾なぞ足止めにもならんか。 やれやれ、素晴らしいね」
真っ白いスーツの一点に、黒いしみが浮かぶ。
じわりと広がったそのしみは、輪郭をゆがませゆっくりと膨れ上がる。
「あーっ、ソレ! ズッルいんだ~!」
シュレディンガーがクスクスと笑った。

「ふん、「こちら側」に来る時に引きちぎってやった。
 俺はこいつの腹の中にずっと居たんだぞ?
 これくらいはあって当然の役得、だ!」
ガチガチと牙を噛み鳴らしつつルークの体からあふれ出た黒く巨大な塊は、
矢の様に解き放たれるなりトロール鬼の胸から上を食いちぎり、
臓物を森の下生えにぶちまけた。
「全部は喰うなよ、『黒犬獣(ブラックドッグ)バスカヴィル』。
 私の『領民』にも加えておきたいんでな」
片手にナイフを構えたルークの姿がにじみ、かき消えた。


再びの静寂に包まれた森の中、死体と臓物の中に立つルークの足元から
闇よりも濃く黒い影が意思持つ触手のように広がっていく。
「はは、誰かさんみた~い」
高みの見物を決め込んでいたシュレディンガーが枝の上から笑う。
オーク鬼の、トロール鬼の血が、臓物が、ゆっくりと影に呑まれていく。
「そうだとも。
 『あの方』と始めてお会いした時の事を思いだすと、恥じ入らんばかりだ。
 今ならば判る。 私を紛い物と知った時の、『あの方』の絶望と憤りがな。
 『死の河』と一つになって、やっと私は吸血鬼の何たるかを知った」

何もかもが影に呑まれ、その影もルークの中に消えてなくなる。
「今ならば、ククッ! 『あの方』にも少しは満足頂けるだろうさ」
ルークが牙を見せてぎちりと笑った。

  。。
 ゚○゚


木漏れ日の中、二人並んで川のほとりを歩く。
川を挟んだ森の外には麦畑が広がる。
「ルーク様~!」
橋を渡る二人に、いかにも田舎育ちといった風の娘が駆け寄って来る。

「ルーク様、これを。 畑で取れた初物です」
おずおずと籠に山ほど入ったトマトを差し出す。
「ありがとう。 テファが喜ぶ」
その答えに少し表情を曇らせながらも、意を決した様に向き直る。
「あ、あの! ルーク様さえ良ければ私の血を、、
 私、殿方ともまだ、ごにょごにょ、、ですし、」
「それは駄目だといったろう? だが、気持ちだけは貰っておこう」
娘の額に口付けると、顔を茹で上がらせてへたり込む娘を置いて
籠を持ち道を行く。

道を行くたびに農作業をする娘達が手を止め、黄色い声を上げる。
「へ~、モッテモテじゃない」
「何度か今日の様な化物退治をしているうちにな。
 人間なんてのは現金なものさ」
「そればっかりじゃなさそうだけど~?」
娘の幾人かは、明らかな嫉妬の目をシュレディンガーに向けていた。

村落に近づいた頃、腰の曲がった老人が声をかけてきた。
「おお、ルーク殿! いかがでございましたじゃろか?」
「おおかた貴族派の脱走兵だろう。 当分は心配あるまいさ」
「さようでございますか!
 これで村の衆も枕を高くして眠れましょう!
 本当に、本当にお礼のしようもございませぬ事じゃ!」
「気にするな、村長。 こちらも随分と世話になっている」
村長がなおも礼を述べようとした時、畑の中から一人の女性が顔を出した。
流れるような金髪に切れ長の耳を持つその女性が、嬉しげに声をかける。
「ルークさん、帰っていらしたんですか!」
「ウエストウッドの子供達も一緒か。

 ただいま、ティファニア」

  。。
 ゚○゚


「へー、いいなあルークってば。
 こーんな美人のエルフさんがご主人様なんて」
先ほどの村からさらに離れた森の中、ウエストウッドの孤児院で
子供達と一緒に昼食のテーブルを囲む。
「さっき言ったろう? 別に使い魔の契約は結んで無い。
 一日数滴の血と引き換えに用心棒をやっているだけだ」
話を聞かずにシュレディンガーが愚痴る。
「それに引き換えボクのご主人様なんてさ~、
 短気でわがままで甘えん坊で皮肉屋で、そりゃ困ったもんだよ」
「何だそれは。 自己紹介のつもりか?」
ルークに軽くいなされて、子供達とティファニアがくすくすと笑った。

食事を終え、庭のカウチでティファニアの入れたミルクティーをすする。
ティファニアは洗濯物を干し、子供達は遠くで遊んでいる。
「にしても随分とキャラ変わったんじゃない? ルーク」
「お前や少佐殿と一緒にするな。
 俺は元々フェミニストの平和主義者だ、快楽殺人者じゃあ無い。
 俺が興味があるのは自分の持つこの「力」、ただそれだけだ」
ぬけぬけと言い放つ。
「それにな、ティファニアの血は美味い。
 今までの誰とも比べ物にもならん程な。
 金の卵を産む鶏の腹を裂くなんぞ、阿呆のやることだ」
「おっぱいも大きいしねー」
「それは別にどうでもいい」
本当にどうでもよさそうにミルクティーに口を付ける。
「えー。 じゃあルークってばこっちの方なの?」
シュレディンガーが半ズボンの裾をちらりとめくると
ごぼり、とルークのミルクティーがあふれた。

無言で立ち上がったルークの元へ、先ほどの村娘が走り寄って来た。
「た、大変です、ルーク様!
 村が、、村が!!」


 †


森のはずれの丘の上から、村から立ち昇る幾筋もの煙が見える。
「ルークさん、あれ!」
ティファニアが指差した先、村の中央にある広場には
貴族派の傭兵と思われる一団が陣取り、村人を集め座らせていた。
「ふん、この国も随分とガラが悪くなってきたものだ」
丘を降りようとするルークを、シュレディンガーが引き止める。
「ちょい待ち! アレってー、」
手をかざして目を凝らした先には、一人の黒ずくめの女性がいた。
「あの方は確か、数日前に村に来たシスターです!」
ティファニアの声に、シュレディンガーはにんまりと笑う。
「もうちょっとだけさ、様子を見てみない?」


「お、おやめください!」
聖職者風の衣装をまとい、眼鏡をかけた黒髪の女性が
座らされた村人の前に立ち、兵隊達の前に進み出る。
手には長く大きな布包みを抱え込んでいる。
「あ、あなた達もお困りなのでしょうが、
 暴力は何も生み出しません!」
怯えながらも、きっぱりと言い放つ。

「ほう、有難いね。 こんな所で説法が聞けるとは」
周りの男たちがげらげらと笑う。
「お、お許しくだされ、兵隊さま方!
 こちらは旅のお方で、何もご存知で無いんですじゃ!」
村長がよたよたと進み出て、女性をかばう。
「わしらが何をしたというのです!
 税も納め、男衆の徴兵にも応じ、貴族派のかたがたに
 歯向かうようなまねは、何一つ行っておりませんじゃ!
 なぜ、村の家に火を放つようなむごい真似をなさるのか!」
涙ながらに訴える老人を、隊長風の男が蹴り飛ばす。

「村長さん!」
老人に駆け寄る女性を無視し、男は辺りを見回す。
「王党派の連中を匿っている、との通報があってな」
「な、何を馬鹿なことを!
 国王様がおられるのはずっと北のニューカッスルのはずじゃ!」
「ジジイの癖に随分と情勢に詳しいな。 こりゃあますます怪しいぜ。
 おい、残りの家にも火を放って、王党派どもをあぶり出せ!」
「そ、そんな!」

「やめて、やめてください!」
なおも立ちふさがろうとする女性の髪を鷲掴み顔を向ける。
「おいシスター様よ、どこの田舎宗教かはしらねえが、、、
 ここじゃ異端は火あぶりだぜ? お前もそうされてえのか?」

『ああもう、面倒くせえなあ、由美子。
 とっとと相棒に替わってこのゴロツキどもをブチのめしちまえよ』

突然のガチャついた声に隊長が女性の顔面を殴り飛ばす。
「今言ったやつは誰だ! まあいい、どのみち王党派を匿う連中への
 見せしめに、村を二つ三つ焼いておけとのお達しだ。
 年寄りどもは全員殺せ! 女どもは犯して殺せ!
 誰一人として生かして逃すなよ!」
歓声を上げる兵達をよそに、隊長は渋い顔で木箱に腰を下ろす。
「腐れ仕事はいっつも俺たちの役回りだ、正規軍の糞ったれめ」

倒れて気を失った女性の抱え込んだ布包みから、カチカチと声が鳴る。
『あーあ、虎の尾っぽぉ踏みやがった』


「きゃああ!!」
「オイ、暴れんじゃねえ、殺されから犯されてえか!」
乱暴に村娘を引っ張るその手が突然に千切れ飛ぶ。
「え?」 混乱しつぶやく首がゴロリと転がり落ちた。

『おいおい、俺の出番は無しかよ、相棒』
左手でぼやく布包みを無視し、女性は右手の日本刀の血を払う。
「相棒って呼ぶなって言ったろ、なまくら。
 アタシをそう呼んでいいのは一人だけだ」
言いながら気だるそうに頭を傾けゴキリ、と首の関節を鳴らす。

「な、て、てめえ! さっきの女か?!」
隊長がガタリと箱から立ち上がり剣を抜く。
その声に聖職者服を着た女性は、歯を見せて笑いながら振り向く。
「我らが唯一絶対の神の教えを、田舎宗教だと?
 ほざくなよ、糞異世界の糞異教徒の糞外道共奴が!!

 神罰だ! くれてやるっ!!!」

頭を無くして血を撒き散らしながら倒れる傭兵隊長を気にも留めず、
仁王立ちのまま周りの傭兵達をゆっくりと見下ろし、唇を舐める。
「さあて。 お次はだれが地獄に落ちる?」

「この、アマァ!」
背後から飛んできた火球を左手の布包みで背中越しに受ける。
「何ぃ? ま、魔法が、消された?!」
『悪ぃね、ウチの相棒は熱いのが苦手でね』
女の背中でカチカチと声が響く。
布が燃え散り、中から身の丈ほどもある幅広の片刃剣が出てくる。
長剣を掴んだ「左手」の甲が、低い唸りを上げまばゆい輝きを放つ。

「冥土の土産だ、見せてやる」
ぎちり、と歪ませた唇の間から歯が覗く。
両手に刀を下げたシスターが、ゆったりと、禍々しく嘲笑う。


「島原抜刀流!  秋 水 !!!」


死を撒き散らす二刃の竜巻に巻き込まれ、傭兵達の手が、足が、首が千切れ飛ぶ。
渦巻く血風の中から楽しげな声が響く。
『へへ、まったくもってお前ぇさんにゃおでれーた!
 感情の高ぶりがガンダールヴの力の源とはいうがなあ、相棒。
 手前ぇの主人を殴り飛ばして出奔した使い魔てーのも初めてなら、
 ここまでガンダールヴの力を引き出せる奴もお前ぇさんが初めてだ!』
「いちいち嫌なことを思い出させるんじゃねーよ。
 あん時居たのが由美子じゃなけりゃ、あのヒヒ爺ィ! ブチ殺してやれたのに。
 大体アンタやっぱ邪魔だわ、二刀流なんて動きにくいし」
『冷てーこと言うなよ相棒』
「相棒って呼ぶなっつてるでしょ、このなまくら」
臓物と血溜まりの中でのん気に言い合う。

「何だこいつら、、何だこいつらァ!」
腰を抜かしてへたり込む傭兵に、女がゆっくりと近づく。
「アンタには二つの選択肢がある」
無慈悲な顔で見下ろしながら、右手の日本刀を男に突きつける。
「こいつで縦真っ二つになるか、、、」
「わ、分かった! もう二度とこの村には」
「このなまくらで横真っ二つになるかよ」
「~~!!」
必死に立ち上がり、逃げようとする男にうっとりと微笑みかける。
「あ~ら贅沢。 両方、だなんて」

綺麗に四分割された男の破片に囲まれ、臓物まみれの顔で
自分を見上げる老人に、シスターは優しく手を差し伸べる。
「大丈夫ですか? お怪我はありませんか、村長さん」
老人が必死の形相で後ずさる。
「ひいぃぃっ~~!
 来るな、来るなぁ! お願い、来ないでぇ~!
 マジすみませんっ! 命だけは、命だけはぁ~!!」


隠れて見ていた傭兵が、カチカチと歯を鳴らす。
「な、何モンなんだあの女! 、、、本隊に戻って、報告を」
「どこへ行こうというのかね?」
振り返った男の額に銃口が突きつけられた。
「どこへも逃げられはせんよ」

銃声にシスターが振り返ると、そこには真っ白いスーツの男が立っていた。
「やっと思い出したよ。 ヴァチカンの殺し屋集団、イスカリオテの狂えるシスター。
 『バーサーカー』、高木由美江。 こんな所で会えるとは光栄だ」

血刀を握った両手を友好的に広げ、歯を見せて笑顔を返す。
「アタシもアンタを知ってるよ。 裏の世界じゃ有名だ、人でなしのヴァレンタイン兄弟。
 ヘルシングにトっ込んで返り討ちにされたって聞いてたけど、
 こんな所に居たとはねぇ。 ルーク・バレンタイン!」

ゆっくりと二人が近づいていく。
「で、どうする?」
双銃と双剣を構えた、白と黒とが対峙した。

由美江が哂う。
「ハハッ、眼前に化物を放置して!
 何がイスカリオテか! 何がバチカンかァ!!」
ルークが応える。
「そうでなくてはな、そうであろうとも。
 さあ殺ろうぜ、ジューダスプリースト!!」 

「おやめくだされ、シスター!」
「や、やめて、ルークさん!」


「 ハ ァ ~ イ ♪ 」


二人の間に魔法陣が現れて、陰気な声が陽気に響いた。

「死霊を呼び出してコキ使おうとしても見つからんと思ったら、
 こーーんな所におったのかね、高木由美江クン」
黒ずくめの男がずるりと魔法陣から這い出した。
「あ、貴方は確か、日本支部の間久部(マクベ)神父?!」

右眉から頬にかけて大きな傷のある陰気な顔をした神父姿の男は、
一筋垂れた前髪の奥の目をにやりと歪ませドス黒く微笑んだ。
「お久しぶりだねー、10年ぶり?
 けどね、もう神父じゃーない、司教なんだよ由美江クン?
 君ンとこの上司だったマックスウェル君がおっ死ンでいい迷惑だ。
 今じゃ私は君の上役、イスカリオテの機関長、なんだよ?」
やれやれとため息をつく。
「せっかく超レアな聖遺物をいじくり回してステッキーな研究を
 教会の金で思う存分ゲップが出るほどやれてたっていうのに。
 それもこれもコロっとおっ死ンだマッックスウェル君の所為だ。
 で。 神の裏ワザを使って人手不足解消を、と思ったんだが」
間久部神父は周りの惨状を見回す。
「どこかねここは?」

「誰だ貴様は?」
突然現れた男の長口上に痺れを切らしたルークが不用意に近づく。

スパァンッ!

ルークの頭を無造作にワシ掴むと、ガッチリと目を見つめる。
ミ゛ワ゛ミ゛ワ゛ミ゛ワ゛ミ゛ワ゛ミ゛ワ゛ミ゛ワ゛ミ゛ワ゛ミ゛ワ゛
「 今ネッ トーッテモ大事なおハナシしてるんだからァ
  静かにシテないと駄目ッツッたら駄目デショ ネッ 」

ルークがうつろな目で口をパクパクと動かす。
「ハイ アザラクサマハ スバラシイ 先生(ティーテャー)デス」

「っきゃーっ!」  
ティファニアが悲鳴を上げてルークを奪い返す。
「なッナニうちのルークさん洗脳してるんですかぁっ!!」
「で。 ナニがあったのかね? 耳の長いお嬢さん」

  。。
 ゚○゚


「なるほどなるほど」
一通りの話を聞き終えた間久部が神妙にうなづく。
「もう、もうわしらはお終いじゃあ」
落ち着きを取り戻した村長が、がっくりと肩を落とす。
「いやいや、そんな事は有りませんよ? ご老人。
 悩めるもの、迷えるものの救いを求める手を
 我らが神が振り払うことなど有り得ません。
 ましてや、私や、このシスター高木はね」
絶望の底にある村人達ににっこりと微笑む。

「祈りなさい。さらば、救いの御手は伸ばされましょう」

「おお、おお」
老人がぽろぽろと涙を落とす。
「ちょちょ、ちょっと待ってよ、機関長。
 私を連れ帰るんじゃなかったの?」
由美江が小声で間久部に詰め寄る。
「何を言っとるんだ、君はバカかね? バチカンのバカチンかね?
 アッチではもう君はおっ死ンどるんだよ。
 生身の君を連れ帰ったら黒魔術じゃないか。 火あぶりだ。
 マッッックスウェル君の所為でこちとら肩身が狭いんだよ?
 それにね」

二人をすがる様に見つめる村人たちを見渡す。
「君がこの世界に来た事も、主のお導きだとは、、思わないかね?」

「機関長、、、」
「君はおそらく遣わされたのだよ、彼らを、この世界を救うために。
 それこそが君の、カトリックの「果たすべき務め」だ」
そっと由美江の肩に手を置く。
「果たすべき、、、務め」
ティファニアの呟きを耳ざとく聴き付け、笑いかける。
「そう「果たすべき務め」、神の与え給うた使命だ。
 そしてそれは君にもあるはずだよ、耳の長いお嬢さん」
「マクベ、さん、、」

「フン、そんなに簡単にいくものか。
 この世界の「ブリミル教」は、中々に強大だぞ?
 この村ごと焼かれて終わりだろう」
ふらつく頭を抑えながらルークが横ヤリを入れるのへ、
「それなら何とかできるかもしれないなあ~!」
話を見守っていたシュレディンガーが入ってくる。
「まあ、そこのお二人しだいだけど」
ルークと由美江を交互に見返す。
「そ、それはどういう事ですじゃ?!」
詰め寄る村長へ手をかざす。
「ちょっと待ってて」

==============================

「ジャ~ン、こういう事!」
シュレディンガーが持って来た書類には、アルビオン王ジェームズ1世の
署名と共に、信仰の自由と村の独立自治を認める旨が記されてあった。
「あ、貴方様はいったい、、、」
驚く村長へ、自慢げに胸を張る。
「僕? えっへっへー、僕はねー。
 トリステイン王国のアルビオン特別大使補佐官、シュレディンガー!」

目を丸くする一同をよそに、ルークと由美江に顔を向ける。
「条件は、『王党派として貴族派の反乱鎮圧に二人が協力する事』」
王党派、と聞いて顔を曇らせるティファニアへ、
村長や他の村人達が地面に額をこすらせる。
「厚かましい願いとは思っておりますじゃ。
 ティファニア殿が王宮へ何ぞ遺恨があるのも存じておりますじゃ!
 しかし、しかし、何卒ワシらをお助け下さらんか!
 お願いですじゃ、ティファニア殿、ルーク殿!!」
見つめるティファニアを、ルークが見つめ返す。
「私は単なる用心棒だ。 決めるのはお前だ、テファ」

ティファニアが意を決し、村人に向き直る。
「王への遺恨はあります、それを忘れられるかどうかも判りません、、、
 しかし、皆さんを見捨てることなんて、私には出来ません!」
「おお、ティファニア殿、、ティファニア殿、、
 何と、何とお礼を申せば良いか」
老人の手を取り、首を振り、微笑む。
「お礼なんて。
 皆さんはエルフであるこの私を、村人の一人の様に
 受け入れて下さいました。 それで十分です」

ティファニアがゆっくりと立ち上がり、自分に笑顔を向ける四人を、
ルークを、由美江を、間久部を、そしてシュレディンガーを見回す。
「ま、オーク鬼も狩り飽きていた所だ」
「フンッ、化物どもと呉越同舟たぁね」
「まーそう言うな由美江クン、立ってる者は化物でも使え、だ」
『そうだぜ相棒、はぐれモン同士楽しくいこーや』
「えへへ~、これで中々良い勝負になりそうじゃない?」

シュレディンガーはにんまりと、遥か北の空へ目を向けた。
黒煙たなびくロンディニウムの空へ。


 †


蜀台の炎が形作る影が、石で囲われた部屋の壁に蛇のようにうねる。
黴の匂い、煤の匂い、そして石畳に滴る血の匂い。
日の光すら届かぬ深い深い地下の牢獄。
その部屋の中央には椅子の上で後手に縛られ麻袋を被せられた男が一人。
手首から先にも袋が被されてはいたが、床に滴るほどに血が滲んでいた。

その前には3人の人影。
一人は真っ黒な頭巾をかぶった尋問官。
もう一人はカールした金髪に丸い球帽をかぶった聖職者風の男。
その男が、傍らに立つ白ずくめのスーツを着た黒髪の少女に話しかける。
「シェフィールド殿、この者が例の目撃者です」
十をいくらかも過ぎぬようなその少女への畏怖を隠そうともせず、
緊張した面持ちで尋問官へあごをしゃくる。
「話せ」
尋問官が椅子の男に短く言うと、被された麻袋を取る。
出てきた男の顔はまだ三十そこそこだったが、それまでに受けた
「尋問」のため、それより十は老けて見えた。
片目を覆うようにぐるりと包帯が巻かれ、そこにも血が滲んでいる。

「わ、私はただの整備士でございます!
 あの船に工作をしたなど、断じて、断じてそのような事は!!」
「わかっておるとも」
血の泡を飛ばし弁解する男へ、少女が優しく語り掛ける。
血で汚れた男の顔にそっと手を置く。
「おまえが見たというものを、この私に教えてはくれんかの?」
自分に微笑みかける少女へ、男は歯の折れた口でおずおずと語りだす。

「私が、レキシントン号で最後の点検をしていた時のことです。
 突然の爆発音に動力室へ駆けつけた私の前に、アレが、いたのです。
 アレは、あなた様と同じくらいの幼い娘の姿形をしてはおりましたが、、、
 炎に照らされたその髪は燃えるように真っ赤で、私を背中越しに
 振り返ったその瞳も真紅そのものでした。 そして、、、」

うつろに前を見つめたまま、男が息を呑む。
「そして、その頭の上には、、おお、恐ろしい、、、
 太く短くささくれ立った二本のツノが生えておりました!
 アレは古い話に伝え聞く、始祖ブリミルの加護を捨て、
 悪魔と契約を交わした邪なるメイジ、『魔女』に違いありません!
 きっと追い詰められた王党派の連中は、悪魔と手を結んだのです!

 そしてその『魔女』めは、私を一瞥するなり向こうを向くと
 ルーンを唱える事も無く、そのまま消えてしまったのです。
 まるで初めから、『虚無』そのものででもあったかのように!
 あのような魔法、見たことも聞いたこともありません!
 あれは、、信じてくださいまし!
 あれは、『魔女』にございます!
 あれは、『虚無』の『魔女』の仕業にございます!」

「信じる、信じるとも」
目の前の少女がにっこりと笑う。
「じゃがの、もうちっと詳しく知りたいんじゃ。 だからの」
両手を男の頬に添えて、少女は口を大きく開く。
びっしりと乱杭歯の並ぶ、地獄のように真っ赤な口を。

「洗いざらいしゃべってもらおう、おまえの命に」

途切れ途切れの断末魔の声に、球帽の男は思わず顔をそむける。
ごとり、と床に落ちた干乾びた死体が、ずぶずぶと影の中に沈んでいく。
「ツノ、、、?  いや、これは」
もはや床には死体どころか血の一滴も残ってはいない。
真っ白い闇のような、少女の形をしたモノが球帽の男へ微笑みかける。
「クロムウェルや、私も逢うてみたいのう。

 その、 『虚無の魔女』 とやらに」


 †




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