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第27話 家族 後編




 「大きなお城……」
 それはある意味、トリステインの城にも匹敵するような立派な城であった。
 大きな違いを挙げるとすれば、トリステインの城が国の象徴を兼ね備えたような優美な城であったのに対し、こちらは前線にて敵国と対峙する、質実剛健を思わせる要塞としての城であった。
 塀は分厚く、今目の前で下ろされている跳ね橋も、巨大なゴーレムがその怪力を持って鎖を支えていた。
 それは今でも城主が、いつでも戦いに赴ける心構えを維持している証ともいえた。
 そんな無骨さの漂う城の中を、馬車は進んでいく。もっとも城の内部は、表面的な無骨さとは裏腹の、自然を生かした美にあふれたたずまいであった。木々は丹精され、堀に引かれた水はその役割とは真逆の公園じみた雰囲気をにじませている。
 外剛内柔、という言葉がなのはの脳裏に浮かんでいた。
 馬車が止まると、扉が外から開けられる。そこには外国の映画で見かけるような、絨毯で作られた道があり、その両脇にたくさんの使用人達が並んでいた。
 「うわ……」
 さすがになのはの口から言葉が漏れる。
 「それではなのはさん、しばらくは先生でいてくださいね」
 「はい」
 道中なのはがルイズの使い魔であることはカトレアに話した。それを聞いたカトレアは、公爵にはともかく、使用人達にはなのはのことを教師として紹介するように勧めたのである。
 「使い魔なんて言ったら、その身分は使用人以下になりますわ。人が使い魔になるなんて、それこそ始祖様ぐらいしか聞いたことがないですけれども、うちの家人は身分にはことのほかうるさいのが多いですから、そう名乗るのはおすすめできませんわ」
 ルイズはカトレアの鋭さに内心ぎくりとしながらも、それじゃあどうすればいいのと聞いてみる。それに対するカトレアの答えが『家庭教師』であった。
 「先生と言うことにすれば、たとえ身分が平民であっても無碍には扱われませんわ。ルイズが教えを請うべく頭を下げている人物に対して軽んじた態度を取ることは、ルイズを貶めることになりますもの」
 「一理あるわね。それになのはにいろいろ教えてもらったのは事実だし」
 「なら問題ないわね」
 と、なのは本人の意志は無視して段取りが決まってしまった。
 幸い今のなのはの服装は召喚された時に着ていた武装教導隊の制服だ。こちらでは少し奇異なデザインだが、ただの平民に見られるものではない。
 そして馬車からまずカトレアがおり、次いでルイズ、そしてなのはが下りる。
 そこにタバサの実家で見たペルスランと似た雰囲気の人物が、挨拶の声を掛けてきた。
 「お帰りなさいませ、カトレアお嬢様、ルイズお嬢様」
 「ご苦労様、ジェローム」
 「久しぶりね。変わりはない?」
 そう声を掛けるカトレアとルイズ。そしてジェロームと呼ばれた老執事は、礼儀正しく一礼して答えた。
 「はい。いつも通りでございます、お嬢様。後ろのお方は?」
 言葉は穏やかだが、目は鋭い。値踏みをするような光がそこに潜んでいる。
 「わたしの私的な教師で、名前はなのは。身分こそ平民だけど、わたしにとって大切な先生よ。決して無碍には扱わないように徹底してね。身の回りのこととかまではいいけれど、貴族の賓客を扱う心得でいてちょうだい」
 一瞬、ジェロームは驚いたように目を見張った。そしてルイズとなのはを見比べ、そして改めてなのはに一礼をした。
 「歓迎いたします、ミス・ナノハ」
 「はい。お世話になります」
 なのはは一瞬訳が判らなかったが、どうやら一応合格点をもらえたようだ、と気を少し緩めた。歓迎してくれる人の前で敵地のように緊張していては失礼だ、と思ったのだ。

 そして城の中を進んでいく途中で、なのはは脇のメイドに止められた。
 「ナノハ様のお部屋はこちらになります」
 「待って」
 あ、はいとなのはが頷き掛けたところに、ルイズの声が割り込んだ。
 「なのはの部屋はあたしの部屋と一緒よ。悪いけど寝室に予備のベッドを入れておいて」
 「お嬢様!」
 さすがにメイドが驚いて声を上げる。だが、ルイズははっきりと言った。
 「言わなかったけど、先生はわたしの私的な護衛を兼ねているわ。荷物の中に大剣があったでしょう? あれも一緒に、先生の荷物は全てわたしの部屋に移しておいて」
 「は、はい。かしこまりました」
 有無を言わさぬその口調に、メイドの一人が慌てて飛んでいく。残ったメイドも何故か唖然としていた。
 「カトレア様……」
 そんな中で、この場では一番偉そうだったメイドがカトレアに声を掛ける。そんな彼女に対して、カトレアはいつもと同じように言葉を掛けた。
 「いいのよ。ルイズの好きなようにさせて上げて」
 「ですが……」
 「いいの。あなたもびっくりしたと思うけど、とにかくルイズの言う通りにしてあげて」
 「……はい。判りました」
 結局なのははそのままルイズの部屋まで通されることになった。

 ルイズの部屋は、さすがに大貴族の自室だけあって、それだけで高級マンション一軒分くらいの広さと施設が整っていた。
 お付きのメイドが下がると、ルイズが目に見えるくらいはっきりと肩の力を抜いた。
 「は~っ、疲れた。久しぶりに帰ってくると、なんか逆に緊張するわ。昔はこれが当たり前だったのに」
 「お疲れ様でした」
 なのはも肩の力を抜く。ここに来てからと言うもの、どうもなのはも落ち着かなかったのだ。
 敵地ではないと判ってはいるものの、どうも注目を集めまくっていた気がする。
 「あ、ここは本来使用人用の部屋とかもあるから、空いてるところ好きに使っていいわよ。ベッドもすぐに移させるから。まあ最悪、一緒に寝たって問題ないんだけど、ほら」
 そういって見せてくれた寝室のベッドは、堂々たるキングサイズで、二人どころか三人で寝ても十分すぎるくらい広かった。
 「なんか家のベッドを思い出します」
 なのははミッドチルダにある自宅のベッドを思い出しつつ答える。
 ここのベッドのような豪華な装飾は一切付いていないが、大きさだけは大人三人が寝ても十分な広さのあるものだった。
 もっともルイズにしては意外だったようで、
 「へえ、なのはの実家って、ひょっとしてお金持ち?」
 「そんなことはないですけど」
 慌てて否定するなのは。一応なのはは年齢に対してかなりどころではない高給取りではあるが、ここルイズの実家と比べたら及びもつかない。
 ベッドがやたらに広いのは単なるなのはの好みだ。
 気の合う親友達とちょくちょく一緒に寝泊まりしていたせいだろう。
 もっとも、そのあまりにもの男っ気のなさプラス親友間の親密さが高町教導官レズ疑惑の原因となっていたのはなのはのあずかり知らぬことである。
 そうこうしているうちに運び込まれた荷物がとどき、そのへんの片付けをしている内に公爵の帰還と夕餉の準備が整ったことを告げる知らせがとどいた。
 もっともそれにはおまけがあり、

 「お召し替えを」

 ルイズ共々それなりの服に着替えさせられてしまうなのはであった。
 ドレスまで行かなかったのが幸いだ。学院では普段メイド服を初めとするカジュアルな服が多かっただけに、緊張がぶり返す。
 そしてルイズとなのはが出て行き、無人となった部屋の中では、

 「やれやれ……俺またしばらく出番なしかよ」

 デルフリンガーが一人黄昏れていた。







 長辺が三十メートル近くありそうな大きなテーブルを、五人の人間が囲んでいた。はっきり言ってテーブルの大きさと人数が釣り合っていない。
 上座に当たる位置に二人、五十前後に見えるやや白みがかった金髪の男性と、ルイズ達と同じ色合いの髪をした三十代後半から四十代前半に見える女性。
 そして側面の席には女性が三人。カトレアとルイズ、そして何故か並んでなのはであった。
 なのははてっきり自分は別と思っていたのだが、服を着替えさせられた辺りでこの展開は予想がついた。カトレアの策もあって、自分は貴族に準じた扱いを受けているということだろう。
 そう思いつつ、失礼にならないようにルイズの家族達の方を見る。
 その光景は、本来なら家族同士の心温まる光景なのだろう。
 なのに。
 なのははこの場の雰囲気から、どうしても家庭の団欒を感じ取ることが出来なかった。
 あまりにも緊張感が満ちあふれすぎている。
 そしてその発生源が、上座に座る女性なのは一目瞭然であった。
 当主たる男性の持つ迫力も相当のものが感じられるが、こちらは明らかにルイズの顔を見てゆるんでいる。対して女性の発する気魄はとてつもないものだった。
 なのはの主観で、これだけのプレッシャーを与えた相手はただ一人だけ。闇の書事件において、はやてを取り込んで敵対したリインフォースだけである。
 とうてい民間人に出せる気魄ではなかった。明らかに武人、それも超一流のものでなければ持ち得ないような気魄であった。
 その気魄が、どうも三割ルイズ、七割なのはに向いている。おかげでルイズは、せっかく家族での食事なのに緊張しまくっている。慰めようにも自分も同等の位置にいるので出来ない。
 もっとも実のところ、上座で気魄を発している女性--公爵夫人カリーヌも似たようなことを思っていた。
 ルイズにべったりついている正体不明の女性。カトレアはルイズの家庭教師だと言い、ルイズは同時に私的な護衛だとも言う。現に彼女の荷物の中には身の丈に似合わぬ大剣などもあり、しかもそれをルイズ自身が彼女のそばに置くことを容認している。
 大貴族の娘としての教育は厳しくした筈である。そんな彼女が、怪しい人間を帯剣したも同然の状態でそばに置くとも思えない。つまりは事実上命を預けている。
 カリーヌはそんな彼女に嫉妬に似た感情を覚えていた。
 ルイズから見れば恐ろしい母親であっても、子供を愛していないなどと言うことは決してない。ただ本人の性格が子供を甘やかせないだけであって、愛情そのものはたっぷり持っている。
 複雑な事情が、それを素直に出すのを妨げているだけである。
 だが久しぶりに帰ってきた娘は、たった数ヶ月で見違えるような変貌を遂げていた。
 ジェロームを初めとする使用人が、口を揃えて言った。
 『ルイズお嬢様は、随分と大人になられた』と。
 こうしてみるとまるで変わっていないように見えるが、使用人達の前に立つルイズは、前回の里帰りの時と一変していたという。エレオノール同様困った一面でもあったヒステリックな部分が姿を消し、言葉の端々に威厳と自信が感じられるという。
 以前の彼女なら、メイドに無茶な命令をする時には決まって声を荒げていた。だが今回は有無を言わさぬ迫力を、静かに言葉に込めていたという。
 ここまで性格が激変していたら、何かよほどのことがあったのは明白である。そしておそらくその原因に、娘の隣に座る女が絡んでいるのはこれもまた明白だった。
 そして現に彼女は、自分から出ているであろう覇気を、柳に風と受け流している。
 カリーヌの気魄をこうも易々と受け止められるのは、よほど気心の知れた相手か、あるいは--よほどの実力者か。
 答えは決まっていた。

 そんな女性達の思惑はさておき。公爵にしても今ひとつ落ち着かない晩餐はデザートも終わり、最後の飲み物だけになっていた。
 そして公爵は、娘に向かって言葉を掛けた。
 実のところ、ヴァリエール公爵は今回の娘の帰還に対して不安を感じていた。夏休みにはまだ間がある。おまけについ先日、魔法学院が謎の傭兵達に襲撃された。
 この時娘はたまたま私用で場を外しており、巻き込まれていなかったと知ってほっとしたのだが、逆に言えば学院をサボっていたとも取れる。
 そして今回の急な里帰り。しかも途中まで『王家の馬車』で送られてきたという。
 これで娘が何か厄介事を抱えていないと思うようでは親失格である。幸い娘は明るいままで、おまけに随分と成長した様子である。
 脇にいる見慣れない家庭教師だという女性のことも気になるが、それも娘の口から聞けるのだと思っていた。
 だが、その娘から帰ってきた返答は。

 ヴァリエールのあり方そのものを根底から覆す、超巨大な魔法であった。

 娘はあろう事かこう言ったのだ。



 「父様、わたしはトリステイン王家に変わり、この国を支える玉座に着くことになりました」



 その瞬間、公爵は口にしていた茶を吹き出し、カリーヌは手にしていたカップを取り落とした。
 カトレアですらその目を丸くし、言葉を掛けることすら出来ない。
 そして使用人達は、主人達の失態をサポートすべく慌てて動き出した。



 「ルイズ、それは一体どういうことだ。場合によってはおまえを不敬罪で裁かねばならないぞ」
 「いえ、この事は大后妃様を初めとする、王家の方々の総意です。マザリーニ枢機卿ももちろん了承済みです」
 父親の動揺にも全く動じずに答えるルイズ。
 「それにしても何故いきなりそんな話が出る。全く理解出来んぞ!」
 「いくら大后妃様が政務を投げているとはいえ、玉座を投げ捨てるほど非常識な方とは思えません」
 両親の問いに、ルイズは次の爆弾を投げ込んだ。
 「父様、報告がまだでしたが、わたしはつい先日、ようやっと自分の魔法に目覚めました」
 「ん、そうか。それはめでたいが、それがなんの関係が……まさか!」
 いきなりまるで別の話題を振られて混乱したものの、その妙に持って回った言い方に、二つの関係なさそうな話を繋げるものに公爵は気がついた。
 「はい。お父様が考えた通りです。わたしの系統は--虚無、です」
 「なんと……」
 公爵の顔にも、得心が浮かんでいた。
 「よりにもよって、我が家から『虚無』の系統が出るとは。なるほど、確かに正統なる王が不在の現在、始祖の血統の証たる『虚無』が出現したとしたら、王家の正統は我がヴァリエール家に移ることになる」
 「さらにわたしは、この始祖の恩寵を持って、先のアルビオンにおける内乱の際、不逞の輩たるレコン・キスタ軍三万を撃滅し、アルビオン王家を滅亡の危機から救い出しました」
 ルイズがそう言った瞬間、カリーヌの目がそちらに向いた。

 「ルイズ」

 その迫力は、今まで冷静沈着に見えていたルイズが、実は虚勢であったその仮面をあっさり落とすほどのものであった。だが次の瞬間、その仮面がかけ直されていた。
 よく見るとどうやらテーブルの下で、なのはとか言った女がルイズの手を握ったようだった。
 そのことにカリーヌはまた嫉妬を覚え、慌ててそんな自分を叱責して平常を取り戻した。
 今は自分の感情に流されていい場面ではない。そう思ってのことであった。

 「一つ確認いたします。あなたがアルビオンに赴いてその力を振るったのは、トリステイン王家の命ですか?」
 「結果的にはそれに近いですが、違います」

 ルイズはきっぱりとカリーヌの問いを否定した。彼女がアルビオンに行くことになった原因はアンリエッタの言葉が元であるから王家の命に近いのは否定できない。単純に否定したらそこをツッコまれるだろうとルイズは考えた。
 こっそり念話でなのはとも相談して、その通りだとの答えももらっていた。
 なので含みを持たせつつも否定するという答えをルイズは返した。

 「何故わたしがアルビオンにいたのかと問われたら、そこに王家の問題が関わっていないとは言えません。ですがそれは決して命令ではありませんでしたし、よくある遠回しなものでもありませんでした。
 あくまでもわたしが自発的に問題に関わると言ったのです。
 そしてわたしが虚無に目覚めてアルビオン王家を救ったのは、偶然の要素も絡みました。
 わたしが虚無の力に目覚めた時、そこがたまたま戦場で、かつわたしにもたらされた力が、その場の戦局を一変してアルビオンのテューダー王家を助けられるものだったと言うだけのことです。
 そしてわたしは、身近な人が苦しんでいてかつそれを救うことが出来る時に、その手を差し出すのをためらうことが出来なかっただけです」
 「むう……」

 公爵はうなった。うなるしかなかった。
 自分の娘は、自分にもたらされた力を、貴族の誇りに掛けて行使しただけだと言っているのが判ってしまっただけに、それを外部の政治的要素から否定するわけにはいかなかった。
 もし今の娘を頭ごなしに怒れば、それは自ら娘達に教育した貴族としてのあり方を真っ向から否定することになる。
 玉座に着くと言っているのも、その流れであろう。
 理屈は判る。だが甘い、と公爵は思った。
 まだ若い娘には、玉座を継ぐことの重さが判っていないのだと。
 ところが娘の答えは、公爵の予想を越えていた。

 「ですのでお父様、いえ、ヴァリエール公爵。お願いがございます」

 今、娘は父親をはっきりと父ではなく貴族の一人として呼んだ。
 すなわちそれは、次に続く言葉が私的なものではなく、公的なものであると言うこと。
 公爵はこの瞬間、目の前にいるのが愛娘であるという事実を切り捨てた。
 どうしても締め切れていなかった『緩み』がこの瞬間完全に公爵から消え去る。
 今の公爵の態度は、娘ではなく、正しくも腹立たしい、あの枢機卿を前にしたものになっていた。

 そして投下される弩級の爆弾。

 「公爵。近くトリステイン軍はアルビオン王国軍救援に出兵いたします。その際、公爵には後方支援と逆侵攻に対する防衛、及び戦費の供出を求めます。詳しくは後ほど」



 「ふざけるなあああっ!」



 そして公爵は、目の前にいるのが娘であるということを忘れて叫んでいた。

 「ルイズ、おまえは自分が何を言っているのか判っているのか! 王座を受け継ぐまではまだいい。おまえの系統が虚無であるとすれば、それは仕方ないことだからな。拒絶など出来ぬわ。
 だが、言うに事欠いて戦の手助けをせよだと! おまえにそんなことを言わせたのはあの鳥の骨か! いや、あいつ以外におらん。許さんぞルイズ。玉座は百歩譲ってもそれは認められん」
 「いいえ、公爵。それは認められません。非公式かつ機密ですが、この戦いは既に教皇聖下の内諾を得ており、その上、その戦いの場において、聖下御自らが戦場に立ち、レコン・キスタの掲げる『虚無の力』が偽りであることを証明していただけることになっています」
 ルイズは冷静沈着に言葉を返す。それを聞いた公爵の顔が、傍目から判るほど土気色に変わっていた。

 「……やられた。出遅れたか」

 そして無理矢理絞り出すように、それだけの言葉をつぶやく。
 それがきっかけとなったのか、土気色だった顔に血の気が戻ってくる。いや、いささか戻りすぎたのか、反転するようにその顔が真紅に染まった。

 「ええい鳥の骨の奴め! 既にそこまで手を打っていたというのか! 忌々しいがこれでわしが娘を閉じ込めでもしようものなら反逆罪まで成立してしまうではないか!
 反逆なんぞは恐れはせんが、奴の方に理がありすぎる! たとえ立ったとしても、今のままではルイズという虚無を旗頭に王位を簒奪しようとしているようにしか見えぬではないか! 
 しかも、そんなことをしなくても時が経てば我が家は自然とその立場になるのだから、そもそも立つ意味すらまるで無い。残るのは娘かわいさの親馬鹿でわがままを言う公爵という評判だけではないか!
 「もしくは戦費の供出を渋る吝嗇家という評判ですね」
 憤る公爵に夫人がとどめを刺す。
 それを聞いた公爵は、立ち上がると早足で食堂から退出していった。

 「頭に血が上りすぎて冷静な判断が出来ん! ルイズ、続きはわたしが冷静になってからだ」
 「了解しました。お父様」

 公爵がルイズを名前で呼んだのに合わせて、ルイズも公爵を父と呼ぶ。
 そしてその姿が食堂から姿を消すと同時に、カリーヌがルイズのことを見つめた。

 公爵の何倍も冷たい目で。

 その瞬間、あれほどの啖呵を切っていたルイズが、明らかに動揺した。慌てて覆い隠すものの、そこには先ほどまでの強度はない。

 「ルイズ」

 その一言でルイズが折れた。いや、へし折られた。
 さっきまでの立派かつ気丈な姿はどこへやら。攻守所を変えたように真っ青になるルイズがそこにいた。
 「さすがにお母様にまでは無理だったのね」
 その隣で柳に風のカトレア。食事の時の方がまだ固まっていたような気がするのは気のせいであろうか。
 ただ姉の言葉がいくらかルイズの緊張を解いたようだった。
 「は、はい、お母様」
 何とか返事が出来るところまでは回復する。
 「お父様は鳥の骨の陰謀だ、と決めつけていらっしゃったみたいですけど、違うのではありませんか? 正直に答えなさい」
 「は、はい。違います……あれはなのはとも相談したりして考えた、わたしの独断です」
 「あの人に言う前に、まずわたしに説明してみなさい」
 「はい……でも何故そう思ったのですか? お母様」
 ルイズはいくらか落ち着きを取り戻してそう尋ねる。
 カリーヌは少し緊張を緩めつつ娘の問い掛けに答えた。
 「間違ってはいませんが急ぎすぎです。まして手段が陋劣ですもの。あの鳥の骨は人の弱みにつけ込むのに遠慮はしませんけど、親子の情を盾にするような真似は決してしませんわよ」
 「それでですか」
 納得するルイズ。が、
 「それが出来るくらいならばとっくにマリアンヌ様は玉座に着いています」
 母の苛烈さは娘の予想以上であった。

 「で、聞くけど。なんであんなことを? あなただってあんなことを言えばあの人が激昂するくらい判らないわけがないでしょう?」
 珍しく圧力のかかっていない母の問いに、娘は真面目な表情を浮かべて答える。
 「はい。でもそれが必要だと思ったのです。
 枢機卿から今のトリステインは、国を食い荒らす不忠な毒虫が大繁殖し、自らの保身のためにはいずれアルビオンを滅ぼしてこちらに向かってくるレコンキスタに国を売ろうとしているものまでいると聞きました。
 幸いわたしが放った『虚無』の力のためアルビオン王家は持ち直し、トリステインが侵略される恐れは大分減りましたが、それでも現状は五分以下、相手より早くアルビオン王家を立て直さねば、結局は元通りになってしまいます。
 ですが現在トリステインの国力は、先ほども言った毒虫に食い荒らされています。
 そして現在もっとも必要とされているのは、名より実、アルビオン王家を立て直すためのお金や武器、食料といったものです。わたしが知るかぎり、迅速にそれを供給できるのは、堅実に領地を運営し、莫大な財を保持している我がヴァリエール家しかありません。
 もっとはっきり言うと、わたしの手の届くところにあるもので姫様達に差し出せるものが、これくらいしか思いつかなかっただけです」
 「そのためにヴァリエールの領民を泣かせるというの?」
 「はい。もし本気でお父様が自領の保持にだけ汲々としているというのなら、わたしはお父様を軽蔑します」
 ここだけは言い切るルイズだった。
 そんな娘を見て、初めて頬を緩めるカリーヌ。
 隣でカトレアが驚いていたから、かなり珍しいことなのだろう。
 「ずいぶん、勉強したのね。それに、大人になったわね。つい先日まで、わがまま放題の子供だったのに」
 「お、お母様」
 かえってとまどうルイズ。が、慈母の微笑みは一瞬にして元の苛烈さに取って代わられた。
 「でもいつの間にそんなことを勉強したの? あなたは自分があの人に対して何を言ったのか、自分でもまだ理解していないようだけど」
 ルイズにも、母の言っているのが、父に向かっての放言が間違っていたというのではないことは理解出来た。だが、あの言葉には何か見落としがあったらしい。
 「な、何かまずかったでしょうか」
 「いいえ、内容は大変に正確でしたわ。少なくとも今動かねばアルビオンが落ちるのは間違いないでしょう。あなたの判断に間違いはありません」
 母親ではなく、軍人の顔でカリーヌは答えた。
 「ですが」
 すさまじく力のこもった声がルイズ……ではない人物に襲いかかる。
 ルイズは何故か矛先が自分からそれたのを感じて思わずきょろきょろとまわりを見回してしまった。
 そして母の矛先は、何故かとなりのなのはに向かっていた。
 「戦争のせの字も知らない家の娘が、何故ベテランの政治家か将軍のような物言いをさらりとこなすほど、この事態の本質を掴んでいるのでしょうかしら、家庭教師さん?」
 その瞬間、ルイズとその使い魔は、冷や汗を垂らしながらお互い見つめ合ってしまった。



 念のために言っておくが、別になのははミリオタでも天才軍師でもなんでもない。管理局という軍隊的な性格も持つ組織に所属しており、かつなのは士官であるから全くの素人とはいえないが、専門家と言うほどでもない。
 あくまでもミッドチルダにおいて、ではあるが。
 ルイズがこういう判断が出来たのは、アルビオンからの帰り道やロマリア行きの時間などの中、戦争について常識的なことをなのはから聞いていたためである。
 それに対してなのはは基本的なこと、軍事作戦というものを理解している人物にとってはあたりまえなことを自分の体験として話しただけである。
 補給の大切さや、戦術と戦略の違い、などなど。現代なら仮想戦記を読んだくらいで判る程度の知識でしかない。
 だが、ここハルケギニアは、情報の持つ密度と流通速度が違いすぎた。
 なのはがちょっとローカルな常識程度で語った知識ですら、この地においては貴族が士官候補生になって初めて学ぶ高度な知識だったのである。
 ましてルイズは頭がよい。基礎となる知識さえ与えられれば、それを敷衍して現状を分析するのはそれほど難しくはない。
 メタな話だが愛情を満たされた上恋愛感情で混乱していないこの世界のルイズに於いては何をいわんやである。
 あるべき世界に於いて某男子に自意識が集中しすぎて暴発している知識と意欲と感情が、こちらは健全なバランスを保ったまま、正しい貴族としての誇りに結びついているのだ。
 そんな中でルイズの得た結論が、父の持つ力を借りねばトリステインは苦しいと言うことだった。詳しくは知らないが、真っ当なトリステイン貴族の友人は、何故か皆貧乏をしているとルイズは知っている。
 逆に小金を貯めていそうな貴族は、どうも毒虫側にばかりいそうだとルイズは直感した。
 だとしたらたとえ枢機卿が大規模な粛正をしてもトリステインの財力が相当減るのではないかとルイズは考えた。そこに他国援助などということをしたら国が潰れてもおかしくはない。
 ならば自分が国を継ぐことになるということを言うと同時に、お金なんかを出してほしいと、ルイズはある意味お小遣いをねだる感覚で公爵に要求したのだった。
 ルイズの計算違いは二つ。
 一つは自分の父親の持つ力……ヴァリエール公爵家の立場と実力を過小評価したこと。
 もう一つは過去姫様と見た劇や王家の人々の態度を元に考えた台詞回しや態度の取り方が、ちょっとハマりすぎてしまったこと。
 そういった勘違いの集積が、どうやらなのはに向いてしまったようだった。
 決して間違いでないのがまたまずい。
 確かになのはの持つ知識と人としてのあり方、ルイズに対しての態度はルイズのこれまでの人生を激変させてしまった。使い魔がまさにそういう存在であるかのように、ルイズの持っていた欠損を埋め、その人格を円熟させた。
 だがそこには打算も意図もない。まさに始祖のお導きとしか言いようのない、出会いのもたらしたものなのだから。
 だがそれは見方を変えれば、なのはがルイズを魔改造してしまったかのようにも見える。カルト宗教とかそういう方面的な。
 家庭教師のカバーを使ったことも裏目に出ていた。
 なのはが貴族ならまだしも、平民だと言ったのもまずかっただろう。
 そんななのはに対して。
 カリーヌは自分のもっとも信頼している、とある人物鑑定法をぶつけてきた。

 「なのは、とか申しましたね。あなたは家庭教師であると同時に、私的な護衛を兼ねているとか」
 「あ、はい」

 嫌な予感を覚えつつも、そう答えるなのは。

 「ならば、明日にでもその実力を見せてもらいましょう。娘が後々玉座に昇るかというのなら、その側につく人間の実力は、母として見極めておかねばなりませんから」

 建前だ。絶対に建前だ。
 なのはとルイズの内心は、心を交わすまでもなく一致していた。
 そんな二人の様子を、カトレアが何故かニコニコとしながら見ている。



 そしてなのはは、因果応報というか、自分が得意というか無意識的に行ってきた『なのは式説得術(笑)』を、今初めて相手からぶつけられようとしていた。
 本人にその自覚は全くなかったりするのだが。 



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