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毒の爪の使い魔-55-b


ジャンガはゆっくりと彼女を振り返る。
「ンだ? お前…あのガキを庇うのか?」
「はい」
ジャンガは盛大にため息を吐く。
「たかだかガキの癇癪で、この熱湯に浸けられて殺されかけたくせに…それでも庇うとはよ…」
「確かにベアトリスさんのした事は間違っているかもしれません。
でも、わたしもまた自分の事を理解して欲しいとわがままを言っていただけなんです。
ハルケギニアの人がどんなにエルフを怖がっているかとか…他の人の気持ちをわたしは考えようとしていませんでした。
だから、悪いのでしたら…わたしもです。ベアトリスさんだけを責めるのは止めてください」
そう言って真正面からティファニアはジャンガを見つめた。
ジャンガも静かにティファニアを見据える。
互いに一歩も譲らない状況で暫しの時が流れた…。
ハァ~、とジャンガがため息を漏らす。
「ったく…、あいつみたいなタイプがどうしてこうもゴロゴロしているんだろうな…?」
呆れたような表情でジャンガは呟く。
「ジャンガさん?」
「負けたゼ…お前にはよ」
ジャンガは大釜から足を離す。
ティファニアの顔に笑みが浮かぶ。

――瞬間、ジャンガは力任せに大釜を蹴り飛ばした。



――グラッと大釜が傾いた。

――ティファニアが目を見開く。

――生徒達が驚愕の声を上げる。

――大釜の傾きが激しくなり、中から熱湯が顔を出す。

――ベアトリスは恐怖のあまり目を閉じた。

――駆け出すティファニア。

――熱湯がベアトリスに降り注ぐ直前、ティファニアがその身で彼女を覆い隠した。

――熱湯が降り注いだ直後、凄まじい氷嵐が熱湯ごと二人を覆った。



膨大な水蒸気が立ち込め、圧倒的な熱量が急速に冷やされた事を物語る。
倒れた大釜の上に乗ったジャンガはそれを静かに見下ろす。
「キッ、タイミング良いじゃネェか?」
「あなたの行動は解っているから」
大釜の横にはタバサが立っていた。無論、彼女が氷嵐を唱えたのだ。
タバサは杖を振り、風を吹かせる。水蒸気が払われ、ベアトリスに覆い被さったティファニアの姿が現れた。
急いで彼女達に近づくタバサはモンモランシーを呼んだ。
言われるまでも無かったらしく、モンモランシーは治癒を唱えた。
氷嵐で急速に冷やされたとは言え、熱湯を被ったのである。
その際に負った火傷は可也酷く、ティファニアは重傷だったのだ。
そして、ベアトリスの方は軽傷だった。直ぐに冷やされた事もあるが、
ゆったりとしたローブを羽織ったティファニアが、その身で庇ってくれた事が大きかった。
ベアトリスは未だ生きているのが信じられないのか、呆然と倒れたティファニアを見つめている。
やがて、体力が回復したからか、ティファニアは目を覚ました。
「わたし…」
「良かった…目を覚ましたのね?」
モンモランシーが安堵の息を漏らすと、周囲の生徒達もそれに習った。
ティファニアは何とか身体を起こすとベアトリスを見た。
ベアトリスは一瞬身体を強張らせる。
自分がした事は許されない事であるのは既に承知しているが、やはりどんな罰を受けるのか怖かったのだ。
と、ティファニアが手をベアトリスへと伸ばす。
打たれるのではと思い、ベアトリスはいつの間にか動けるようになっていた身体を縮込ませる。
だが、ティファニアの手はベアトリスの目の前で掌を返した。
それは”握手”を求めて差し出されたと言う意味。
ベアトリスはティファニアの顔を見る。
彼女はニッコリと笑い、こう言った。
「お友達になりましょう」
その言葉にベアトリスはついに堪え切れなくなったようだった。
決壊した堤防の様に押し寄せる感情の波が後から後から溢れ出していく。
全く意図せず、自然に彼女は泣いていた。
怖い目に遭った幼児の様に、彼女は泣いた。
そして、ティファニアはそんな彼女を母のように宥めた。

気に入らないから自分を苛めていただけかと思った少女は、実は孤独に苦しんでいた。
自分は周囲から構われるのを疎ましく感じてしまったりしていたが、全く構われなくて寂しい思いをしている人も居るのだ。
その事を考えなかった自分は何て愚かなのだろう? とティファニアは自分を恥じた。
確かに彼女のした事は正しくは無い。だが、だからと言って彼女だけが悪いと誰が言える?
彼女の事を真に理解しようとしなかった者達にも十分に責は在るのだ。

ティファニアはこれからは周囲の人間の事もちゃんと理解しようと心に決めた。
目の前の泣きじゃくる、この学院で初めてちゃんと語り合った”お友達”を宥めながら…。

「……」
ジャンガは無表情のままそんな二人のやり取りを見ていた。
そこにルイズとタバサがやって来た。
「ねぇ…、あなたタバサが何とかしなかったらどうするつもりだったの?」
「ン? どうするって…何が?」
ルイズはため息を一つ吐く。
「ティファニアとあの一年生の子よ。一歩間違えたら死んでいたわよ?」
「死んでなかったんだからいいだろうが?」
何とも無責任な発言である。
ルイズは慣れているとは言え、絶句するほか無かった。
「あ、あんたねぇ…」
「フンッ…」
背を向け、ジャンガは立ち去ろうとする。
その背に向かってタバサは呟いた。
「もっと素直になるべき。それと、やり方が乱暴すぎる」
「…テメェが大手振って本名を名乗るようになったら、考えてやるゼ?
あと、これ位やらなきゃ生意気言い出す奴がまた出るんだよ」
嫌みったらしくそう言い残し、ジャンガは今度こそ歩き去った。
タバサはポツリと呟いた。
「本当に素直じゃない」



――ジャンガが去った後、負傷した空中装甲騎士の面々とティファニアは水の塔に在る医務室へと運ばれた。
空中装甲騎士の面々はともかく、ティファニアの方には見舞いの生徒達が殺到した。
恐ろしいジャンガを目の前にしてもまるで気後れしない彼女の強さ、
そしてベアトリスを許した彼女の温かさに誰もが心引かれたのである。
だが、中でももっとも熱心に看護をしていたのは他でもないベアトリスだった。
あれほどまでに侮辱し、命の危険にまで晒した自分を許してくれた彼女にベアトリスは本当の友達を感じ取ったのである。
それはもう、恋人同士と取られかねないほどのベッタリさである。
転じて取り巻きだった三人とも本当の友達として打ち解けたらしく、いつも仲良く四人で彼女の看護をしていた。

さて、そんな風に皆と打ち解けていったティファニアだったが…気がかりな事があった。
――ジャンガはどうしているのだろうかと…。
ティファニアは彼の姿をまだ見ていないのだ。見舞いに来る様子も無く、聞いたとしても皆は食事の時以外見かけないと言う。
無論、ティファニアの一件でその恐ろしさを再認識させられた事もあったのだが…。
ジャンガに関わらない方がいいとも言われたが、彼女はそれでも会いたかった。



ある夜…、多少満足に動けるようになったティファニアはハープを手に取り、窓際に椅子を持っていって座った。
窓を開けると涼しい風が吹き込んでくる。身体のまだ残っている火傷に実に心地良かった。
ティファニアは椅子に腰掛けると、ハープを奏で始めた。
心地よい音色が夜風に吹かれ、学院中に響き渡っていく。
そのままティファニアはハープを奏で続ける。
――誰かの気配を暗がりに感じた。
しかし、ティファニアはハープを奏でる手を止めない。
暫くの間ハープの演奏のみが夜の学院に響き続けた。
…ふと、気が付けば誰かの歌声が混じっている。
どうやらそれは子守唄のようだった。
ティファニアは演奏を続けながらその歌に耳を傾ける。
何とも心地良い、心安らぐ歌…。それは自分の奏でる音色と実に良く合った。
「…良い歌ですね」
そう語りかける。
暫く答えは無く歌だけが続いたが、やがてため息混じりに返答があった。
「まァな…」
「自分で作った歌ですか?」
「違う…、知っていた女が作った歌だ…」
「そうですか…」
”知っている”ではなく”知っていた”と過去形だった所から、
歌を作った人が既に居ないのだろう事を彼女は察した。
「その方は大切な人でしたか…?」
「……ああ」
「そうですか…すみません」
謝罪の言葉が口を突いて出る。
チッ、と舌打が聞こえた。
「別にテメェが気にする事じゃネェだろうが…、余計な同情は要らねェ」
そこで会話は途切れ、暫くの間演奏と歌が続いた。
「…この間はありがとう」
「何がだ?」
「助けてくれて…。
笑い声が聞こえた。何処か自嘲的な感じがするそれは暫く続いた。
「…勘違いするなよ。俺は別に気に食わなかったからあのガキを脅しただけだ。
お前を助ける為じゃねェよ」
「どうしてそうやって悪ぶるんです?」
「あンッ?」
「…あの時だって、あなたの目には哀れみがありました。
他人の事を理解できなかったわたしが唯一人、理解できたのがあなただけ。
見間違うはずがありません」
「バ~カ、そんな不確かなモンで他人を図るんじゃネェよ。
そんなんじゃこの先、どれだけの奴に騙されるか解ったモンじゃねェゼ…。
少しは気をつけたらどうだよ?」
クスリ、とティファニアは笑い声を漏らす。
「何が可笑しい?」
「…やっぱり嘘が下手ですね。そんな風に注意してくれるのが優しい証拠です」
「……ウルセェ」
少し声を低くしたようだが、彼女には微塵も恐怖を与えない。
「やり方は少し乱暴ですけど、やっぱりあなたは優しい人です。
だって、あなたのお陰でこうして皆と分かり合えたんですから」
「……」
相手は答えなかったが、歌が響いて来た事が何よりの答えだった。
ティファニアも演奏に集中する。
何時の間にか部屋から気配は無くなっていたが、その歌声は何処からとも無く聞こえ続けていた。
「ありがとう…」
ティファニアはもう一度感謝の言葉を呟いた。


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