あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの使い魔人-10


『土くれ』のフーケ……。
今やトリステインに住まう貴族達の間では、畏怖と憤激を込めてその名を囁
かれるメイジの盗賊である。
正体は元より、性別も経歴も不明。
その手口としては、強力な『錬金』の魔術を駆使し、防犯対策として予め施さ
れた『固定化』の魔術……経年劣化ないし酸化や腐敗による物体の破損を防止
する特性を持つ……をも無力化せしめ、それが掛かった壁や扉を只の土へと還
し侵入するという物であり、其れゆえの二つ名である。
そして一度、目的の場へと侵入すれば各々の貴族等が所蔵する至宝や逸品の悉く
を掠め取り、盗み出すのみならず、時には下手な城郭程の高さを持つ巨大ゴーレム
を伴い目的の物を強奪し、駈け付けた治安組織の追っ手をも軽くあしらい、蹴散ら
してのけるという傍若無人ぶりを阻む者は無く、被害者の数と被害総額は日々、
右肩上がりを続けていく……。といった有様である。
そして……今、フーケが新たに獲物と見なした物とは……。
国内外の貴族の子弟が通う、名門と名高いトリステイン魔法学院が収蔵し、珍品
  • 名品問わず存在する幾多のマジックアイテムの中でも一際変わった品と言わ
れる、『破壊の杖』であった。
名と出自を騙り、まんまと内部に潜り込む事に成功した後。表向きは忠実かつ
優秀な秘書・職員として学院に溶け込み。
自身の羞恥心と忍耐を鑢で削り取らんばかりに繰り返される、直接の上司からの
セクハラにも堪えつつ学院内の教員等に取り入り、学院の建物の間取りや警備の
配置や数等を調べ上げ、機を見ては仕事に託けて目的のモノが保管されている
宝物庫にも探りを入れる。
……これまでの自分の常套手段を全く寄せ付けない、堅固な守りを持つ宝物庫
に手をつかねていたが、つい先日、知己である教員の一人が洩らした『構造上
の欠点』を知りえた事が状況を変えた。
――即ち。外部からの魔法による干渉はまず不可能と云えるが、しかしながら
大質量物による直接的な衝撃・負荷が加わった場合の対策までは考慮されてはいない……。
――との情報を聞き出すや、遂にフーケは人畜無害を装って幾重にも被ってい
た毛皮を剥ぎ取り、行動に移った。
宵闇に紛れ、宝物庫が置かれている学院の本塔へと忍び寄ると、迅速に『仕事』
に取り掛かる筈が、二つの想定外の事態に出くわす事になった。
……一つは『直接的な物理的衝撃には弱い』とはいえど、壁自体の厚みが相当
なモノであり、自慢のゴーレムの力を持ってしても突破出来ない事。
今一つは……、複数の人間が本塔のすぐ下にある中庭に現れた事だが、それに
は若干の事情が存在した。
――当人らにとっては真剣だろうが、第三者から見れば真に無意味かつ傍迷惑。
幼稚さも此処に極まれリないざこざに因る物とはいえ。


時間は少し遡る……。
ゴタゴタの大本は、学院生寮の一室。
街での買い物から帰ったその晩。ルイズの部屋を招かれざる客人が訪れ、そこ
から騒ぎは一気に沸点に達した。
部屋で睨み合うのはルイズとキュルケの二人。キュルケのオマケといえるタバ
サは我関せずとばかりにベッドに腰掛け本を広げており。龍麻は龍麻で、部屋
の隅にて結跏趺坐を組み、静かに<<氣>>を錬っていた。
「どういう意味? ツェルプストー」
精一杯胸を張り、両手を腰に当てた姿勢で不倶戴天の敵に向かい、ルイズは先
制のジャブを繰り出す。
「だから、ヒユウに相応しい剣を手に入れたから、そっち使いなさいって言って
るのよ」放たれたソレを柳に風と受け流したキュルケは、艶然たる笑みを自身の
情熱の対象へと向ける。
彼女が言うところの相応しい剣とやらは、言うまでも無く件の武器屋にあった、
ゲルマニア謹製の派手な大剣である。

「おあいにくさま。使い魔の使う道具なら間に合ってるの。ねえ、ヒユウ」
水を向けられた龍麻は、姿勢を保ったまま目を開けると、二人を見やる。
「そうだな。アンタから物を貰うような理由はないし、それを欲しいとも思わ
ない。悪いが、そのまま持って帰ってくれ」
声や表情にも余分な感情を交えず、さらっと断る。
「だ、そうよツェルプストー。使う剣はもう、こいつにはあるんだし。例え麦
の一粒だってあんたからは恵んで貰いたくないわ!」
まず、壁に立て掛けられている剣を指差すと、ついでにこれが言いたかったと
ばかりに大声を張り上げる。
「あら。そんなサビサビのボロボロの剣なんかより、使うならこの綺麗な方が
いいに決まってるじゃない。……ねえ、いくらご主人様といっても、そこまで
義理立てしなくてもいいのよ?これは、あなたの為に用立てたのだから」
やはり剣を見たキュルケだが、鼻先で笑うと熱っぽい流し目を向けつつ、甘え
かかる様な口調で龍麻に語りかける。
「わかるでしょ? 剣も女も、生まれはゲルマニアに限るわよ? トリステイ
ンの女ときたら、このルイズみたいに嫉妬深くって、気が短くて、ヒステリー
で、プライドばかり高くって、どうしようも無いんだから」
……その一言毎に湯気の如く吹き上がる怒気、突き刺さる毒針の様な視線の
元は言うまでも無い、が。
龍麻をうんざりさせるのは、そういった負の感情の矛先はキュルケだけでは無く、
自分の方にも向けられているっぽいという点にある。
話がややこしくなる前に今一度、龍麻が断り文句を口にしようとしたその時。
「へ、へんだ。あんたなんかただの色ボケじゃない! なあに? ゲルマニア
で男を漁り過ぎて相手にされなくなったから、トリステインまで留学してきた
んでしょ?」
「―――言ってくれるわね。ヴァリエール……」
澄ましたような表情とは裏腹にルイズの声は震えており、相当アタマに来て
いるようだが、声の形をした悪意という名の『爆弾』をぶつけられた、キュ
ルケの方とて負けず劣らずである。
……実際、その目元や口元からは笑みは消え失せ、その身には抑え切れない
憤怒の気配を漂わせている。
「なによ。ホントの事でしょう?」
尚も挑発気味に言い放つ、ルイズの声が交戦開始の合図となる……筈だった
が、それより速く動いたのは傍観者その一こと、タバサであった。
本に目を落としたまま、手にした杖を振り魔術を発動させる。
俄かに捲き起こった旋風が、睨み合う両者の手から杖を弾き飛ばした。
「室内」
抑揚の無い声で短く告げる……が、それは仲裁等ではなく、単に部屋の中で
戦り合うのは危ないという事を指摘したに留まる。
実際、一旦火の付いた導火線はなかなか消せないモノであり。
「そろそろ、決着を付けませんこと?」
「そうね」
「あたしね、あんたの事、大っ嫌いなのよ」
「わたしもよ」
「気が合うわね」
交互に口を開く度、室温が急低下して行く様な感覚。
剣呑極まる雰囲気の中で、殺気に昇華される寸前の怒気を声に乗せ、同時に
二人は吠えた。
「「決闘よ!!」」
「阿呆らし」
一部始終を目の当たりにし、昨晩の痴話喧嘩にも劣る余りのしょうもなさに
呆れる気すら失せたとはいえ、龍麻はそう呟かずには居られなかった。
しかし、今にも取っ組み合いを始めそうな程にいきり立つ二人が聞いてる訳も無く。
「もちろん、魔法でよ?」
キュルケの一言に、ルイズは一瞬たじろぐも、即座に言い返す。
「ええ。望む所よ」
「いいの? ゼロのルイズ。魔法で決闘で、大丈夫なの?」
端から相手を呑んで掛かった様な口調でキュルケが言い放つ。
その、あからさまな挑発を前にルイズは反射的に頷くも、内心歯噛みし、怯み
を自覚せずにはおれなかった。
――相手は若年ながら、既にトライアングル級。片や自分は、何をしてもモノ
にならず、ただ爆発させるだけのドットともいえない『ゼロ』。
実力差は――歴然。
自信なぞ、有る訳も無い。
――それでも、やらねばならない。
積年の因縁を持つ、ツェルプストー家の人間に挑まれたというのに、ヴァリ
エールの血に繋がる自分が何もせずに引き下がり、負けを認めるなぞ出来よ
う筈が無い。
――舐められてなるものか。
――自分は貴族だ。
――受け継ぐべき名と、伝えられし勲(いさおし)を汚しはしない。
――『ゼロ』がなんだ! きっと勝ってみせる……!
その思い込みと衝動“だけ”を糧に、只々、感情の赴くままに腹の底から声
を搾り出す。
「もちろんよ! 誰が負けるもんですか!!」

――そして。龍麻は、いつもの洗濯仕事をする水汲み場にいた。
『決闘』に向かう面々には同行しないと言うなり、ルイズは『勝手な事するな』
と難詰してきたが、ここで制止した所で両者共に聞き入れる筈も無く、止める
べき理由も無い。
大体、決闘とやらに踏み切る程に話を拗らせたのは、キュルケの体面に泥を塗
ったルイズの言葉が原因であり、非は完全にルイズの側にあると、龍麻は受け止
めている。
そもそも他人を貶め、嘲ったりすればそのしっぺ返しは、確実に倍になって返って
くるのが世の常な訳で。
あれだけの言葉を口にしたからには、負けた後笑われようが、何らかの条件を突きつ
けられたとしても仕方ない。発言に伴う責任等を当人が背負うのは当然の理である。
耳をつんざく罵声を背にさっさとその場から立ち去ると、それからはもう月明かり
を頼りに、デルフリンガーにこびりついた汚れを落とすのに専心していた。
鞘から抜き出すや、お喋りを始める自称相棒に釘を刺し黙らせるが、それと同時に
左手に有る例の紋章が輝きだす。
――持ち込んだ武器の手入れをする際に決まって起こる状況であり、そうなる事で
自身が駆使する『氣』とは異なる、別種の<<力>>が満ち潮の如く瞬時に躯の裡を
満たし、渦巻くのを実感しつつ、思考を巡らす。
(やっぱり、か……。この現象は、単に『使い魔のルーン』なんてモノで説明がつく
ような代物じゃありえないぞ。一体、こいつの正体は何なんだ……?)
脳裏に浮かぶ疑問と違和感を改めて自覚しつつ、ひたすら手だけを動かす事に努めていた所へ。
彼方にて轟く、遠雷を思わせる重々しさを含んだ低音が大気を震わせ、伝播する。
「やっぱりやったか……」
一旦手を止め、立ち上がって目を凝らせば、二色の月を背後にタバサが騎乗る
風竜が上空を遊弋する姿と、そして学院の中央に聳え立つ主塔の中程から、
うっすらと煙が上がるのが認められた。
「さて、続き続き」
口内で呟き、踵を返そうとしたその時。龍麻は今の自分が正気か否か、真剣に
疑いたくなる様なモノを目の当たりにした。
「………………。今日は、四月一日じゃないよな?」

――それは僥倖と言う他、なかっただろう。
近寄って来る複数の人の気配を感じ、素早く身を隠し息を殺して状況を見守る
フーケの前に現れたのは、学院(ここ)の女子生徒である。
此処に来る迄に何やらいざこざが有ったのか、睨み合いと言い争いを繰り返し、
果ては学院の塔から吊り下げた小さい板切れをどっちが撃ち落すか等と言う、
子供じみた競争を始めると来た。
それはいい。いや、良くは無いが兎に角、さっさと終らせて何処へなりと行け
ばいい……と、近くの植え込みの陰から舌打ちしたくなる気分を堪えながら、
フーケはじっと様子を伺っていた。
……そうこうする内に邪魔者達が始めた『勝負』だが、そこで起こった事は
フーケにとっても全くの予想外だった。
唱えていた魔法は、詠唱の内容からして『火』の魔法の基本たる、『ファイ
ヤーボール』である。
確かに呪文は完成し、発動した。
だが……、出る筈の火弾は現れず、何故か目標にした木片の後ろの壁がいき
おい破裂し、派手な爆音と煙に破片までも飛び散らせる。
しかもそれで、自分の『錬金』すら受け付けなかったあの壁に、深々と亀裂
を入れたのだ。
その、始めて見た魔法の効果に驚き怪しみはしたフーケであったが、予定外
に次ぐ予定外の出来事に便乗すべく、素早く思考を切り替える。
杖を取り出し、意識を集中。
早口で紡ぐ呪の一言一言に己が意識と気力を注ぎ込み、『力有る言葉』と
して組み上げ、形とする。
長い詠唱を済ませ、杖を振る。
其れにより、此れまでの自分の『仕事』を成功させてきた最大の“切り札”
が急速にその形を現す。
深く被ったフードの下で、フーケはその整った面立ちにこの仕事が成功した
将来(さき)にもたらされる利潤と、地団駄を踏む貴族共の姿を想像し、
我知らず笑みを浮かべていた。

「残念ね! ヴァリエール!」
宵闇の宙にそんな、甲高い笑い声が響き渡る。
勝負自体はあっさりと、当初の予想を覆す事無く終った。
先に的を狙ったルイズの魔法は、あらぬ方を爆発させたに止まり、続けて
キュルケの放った火球は狙い過たず、的である板切れを焼き落とす。
落胆も露に項垂れ、地面に座り込む敗者と満面の笑みでそっくり返る勝者。
なにかと気に喰わない相手をやり込めて、勝利の余韻に浸るキュルケであっ
たが、それはそう長く続かなかった。
ふっ、と不意に自分の周りが何かの影に入ったかの様に暗くなる。
「……?」
不審に思い、振り向いた瞬間。それまでの余裕の笑いは消し飛び、恥も外聞
も無い悲鳴が飛び出す。
……まあ、全高が軽く数十メイルを超えるサイズの巨大ゴーレムが突如、眼前
に現れ自分の方へと向かって来たなら驚き逃げたくなるのが人の常であり、
此れをもって臆病だなんだと他人が嗤うのは、公平を欠くと言う物だろう。
慌てに慌て、泡を食って逃げ出すキュルケ。
驚いたのはその辺で凹んでいたルイズも同じだが、こっちは逃げ出すので
はなく突然の事にただ唖然とし、巨大ゴーレムが塔の外壁を殴り付けるのを
眺めていた所へ。
「おい! 何処に居るんだ!? 返事しろ!」
闇の向こうからの声に振り返れば、身勝手な不忠者の遅刻野郎が今更の様に
走ってくるではないか。
「あ、あんたねぇ……! 今までどこで遊んでたのよ、このグズ! ごくつぶし!」
驚きから立ち直るや開口一番、悪罵が飛ぶがそんな瑣末事に逐一反応しない。
「なんと言おうがいいけどな、それより何なんだ奴は? 何だってあんなデ
カブツがこんな所に現れる?」
「わたしにもわかんないわよ! ……けど、あんな大きい土ゴーレムを操れる
なんて、トライアングル級のメイジに間違いないわ」
「ンな事まで出来るのか……! ――全く、インチキってレベルじゃないぞ」
……中層ビルに相当するサイズの物体が自在に移動するだけでも驚異だが、
あまつさえそれが人型を取った上に、人間とそう変わらない動きを行うのである。
等身大を超える、二足歩行ロボットの成立と実用化を困難たらしめている法則
の存在を、真っ向から無視している。
ちょうどそこで一際デカイ音が響き、ゴーレムの拳によって壁の一部が砕かれ、
穴が開くのが見えた。
「なにが狙いか知らんが、とりあえず当番の警備兵なり、教師に連絡しないと
拙いだろ」
取りあえず、妥当な方策を龍麻が口にした時。
「何いってんのよ! わたしたちの学院に出た狼藉者よ、ここの生徒たるわた
したちが取り押さえなくて誰がやるのよ!!」
予想通りといえば予想通りのルイズの声に、龍麻は勘弁してくれといいたげな
顔をする。
「……あのな。それをする為に此処の教師や衛兵が給料貰って仕事してんだろ。
そいつ等にまかせときゃいい。ド素人が先走って横から口や手を出しても、ロク
な事になら……ん?」
龍麻が言葉を途中で切ったのは、ゴーレムの肩辺りに突っ立っていた黒のロー
ブで全身を覆った不審者が、腕を伝って先程開いた穴へと滑り込むのを見て取
ったからだ。

「って、誰か中に潜りこみやがっ……」
その語尾を掻き消すかのように、鈍い爆発音が重なった。
腕をめりこませたままのゴーレムの肩口が煙に包まれ、幾らかの土が剥離している。
何者の仕業かは考えるまでも無く、
「なにグズグズしてるのよ! ほら、あんたもやんなさい! ご主人様に従う
のが使い魔なんでしょ!!」
奴に向かい、杖を突きつけているルイズが吠える。
「ええぃ畜生! “また”このパターンかっ!!」
あくまで本人は無関係であり、ましてや事態の原因でも無く、何より責任を求
められる筋でもないのに周りの人間が勝手にやらかした事の後始末をやらざる
を得ないという、自分が持っているっぽい巻き込まれ体質を心底怨みつつ、
龍麻も精神を戦闘態勢に切り替える。
――ルイズの爆発魔術と龍麻が放つ氣弾は、ゴーレムに命中し続けるも一撃で
擱坐・行動不能とするには至らず、建物内から戻ってきた不審者を再度肩に
乗せたゴーレムが動き出すと、どうにも止めようが無い。
「畜生め……。的がデカいのもあるが、何よりも火力が足りん。手詰まりだ」
十発近い『掌底・発剄』を撃ち付けるも、取り立てて目に見えた効果は現れず、
部屋に置きっぱなしの道具類があればと、思わず龍麻は舌打ちをする。
「この、逃がすもんですか……! タバサ! 降りてきてちょうだい!」
二人に遅れて、風竜に乗ったまま上空から間欠的に『風』の魔術を放ってい
たタバサに向かい、ルイズが力一杯叫ぶ。
声が届いたか、けたたましい羽音を伴い風竜が着地すると、タバサが何用
なの? と言いたげな視線を向けてくる。
「お願い! わたしたちを乗せて、あいつを追いかけてほしいのよ!」
「――まあ、こうも言ってるし、一方的な頼みを押し付けるようで本当に
申し訳ないんだが、この場は協力して貰えないだろうか?」
ルイズの横で、龍麻も軽くだが頭を下げて頼み込む。
暫し、タバサは二人の顔を交互に見やった後、
「乗って」
そう促され、礼もそこそこに風竜に乗り込み、その客となる二人。
既に学院の敷地を出て、無人の野を行くゴーレムを空から追走する。
「そういや……。奴が潜り込んだ場所には、何があるっていうんだ?」
眼下にゴーレムを見下ろしつつ、龍麻が独り言に近い呟きを洩らすのに、
宝物庫と、短くタバサが応じる。
「あの黒ローブのメイジ、壁の穴から出て来た時に、何かを握ってたみたい
だけど……」
「強盗か。にしてもえらく荒っぽいやり口だな。よっぽど自信があるのか、
よっぽど馬鹿なのか、よっぽど相手を舐めてるのか……」
思い出したようにルイズが言うのを聞き龍麻がごちていた所、我が物顔で
闊歩していたゴーレムが、不意にその動きを止めた。
辺りは一面、見晴らしの良いただっ広い平原である。
「止まったか……。しかし、こんな何もない場所で観念した訳でもあるま
いし、何故だ?」
意図を図れず、龍麻はつい疑問を口にし、そのまま上空から様子を窺う一行
の目の前でゴーレムの全身が俄かに震えるや、見る間に人型の形を失い、四肢
は元より全体が完全に瓦解し、只の土砂の山と化すまでほんの十何秒である。
――それから暫く、一行は地上に降り立つと元ゴーレムだった特大土まんじゅ
う並びに、それを操っていただろうメイジの捜索を行うもなんら手掛かりらしき
ものは得られずに終わり。
更にそこから徒労感だけを手土産に、学院へと帰還した三人が見たのは事が済
んでから騒ぎ出した学院関係者ご一同の姿と、被害にあった宝物庫に残された
『置き土産』から襲撃者の正体は例の『土くれ』であり、保管されていた秘宝
の一つである『破壊の杖』が奪われたという事を知るに至る。


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