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萌え萌えゼロ大戦(略)-12


 『破壊の杖』を取り戻した日の夜は意外に早く更けた。やはり疲れが残っているのか、
ルイズもあっという間に眠りの世界へと引き込まれていく――


 ――ん……ここは……――

 気がつくと、ルイズは見たこともない建物の廊下に立っていた。壁も、天井も、見たことの
ない材質で造られ、天井にはランプとは違う、揺らめく炎もない細長い白い明かりが
まっすぐに規則正しく並べられている。そこに、寝ていたはずなのにネグリジェではなく
学院の制服を着ている自分。
 その廊下には真っ白い上着を羽織った、いかにも頭脳労働担当という印象の男女が
ひっきりなしに出入りしているが、誰もルイズに気づくことがなかった。

「……どこかしら?ここ」
 ルイズがきょろきょろと見回しながら廊下を歩く。規則正しい同じような風景が続く中、
途中にいくつかある窓から外を見ると、トリステイン王国の王都トリスタニアでも見たことの
ない、立派な舗装がされたどこまでもまっすぐな、それでいてある地点でまるで空に
つながっているかのようにぷっつりと途切れるとんでもなく広い道が見える。そうしたものから
何とか自分がいる場所の見当をつけようとしたルイズは、ふと壁に貼り付けられた紙を
見て、あることに気づいた。
「これ、パイン缶に書いてあった文字と似てる……ということは、ここ、ふがくの故郷……なの?」
 そう言って壁に見入っていたルイズの後ろを、金糸で立派な刺繍が施された飾りが
ついた紺色の制帽をかぶった紺色の詰め襟姿の中年の男――ルイズでも、その服装と
雰囲気からかなりの高官だと判る――が上等な革靴の音を立てつつ歩いて行く。
そのとき、こんな言葉がルイズの耳に入った。

「――ふがくくんも、あかぎくんのおかげでずいぶんと性格が落ち着いてきたようだな。
これならあのうさんくさい男の戯れ言に耳を貸す必要もなくなるだろう。
 私としては彼女に出撃命令を下すことがないことを願っているが……次の作戦、いちこくんでは
届かない空域にも投入できるふがくくんが出撃できれば戦局は一気にこちらが優位に
立てる……だが……――」

 そう言って高官は去っていく。

(あかぎ……って確か、ふがくが助けたいって言っていた誰かの名前ね。いちこっていうのは
初めて聞く名前だけど)

 ルイズは高官がやってきた方向に歩いて行き……大きな扉の前に立つ。タバサの使い魔
シルフィードが楽々出入りできそうなくらいのぴったりと閉まった鉄の扉。その横にある
普通の大きさの鉄の扉がわずかに開いている。そこから中に入り、ふがくの背中の風車を
大きくしたようなものからよく分からない金属製の物体までが置かれた広い室内を音を
立てないように歩いて行くと、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「……ふがく?」
 ルイズが声の聞こえた小部屋の窓から中を覗く。そこには、背中の翼を外したふがくと、
左肩に肩からあごくらいまでの高さの金属製の塔のようなものがついた肩当てをつけ、
右腰には下向きの金属の筒、そして太ももまで覆う、朱色の紐状のソックス止めが
アクセントになっている白いニーソックスの上から膝まで届く脚甲のようなものを履いた、
ふがくと似たようなデザインの衣装を身につけた黒く長い髪の大人の女性がいた。
ただ、ふがくと違い肩を露出させて紺色のボディスーツが見えていることと、スカートが
足首までの丈に縦にスリットが入っているふがくとは異なり、緋色でスリットこそないものの
きわどいくらいに短い。それに、スタイルもふがく以上のボリューム感――キュルケなんか
比べものにならない、男を惹きつける、出るところは出て引っ込むところは引っ込んだ姿に、
思わずルイズは自分の薄い胸に手を当ててしまった。
 二人はテーブルの上に箱庭を置き、それぞれ赤と青の駒を持って話し合っていた。
ルイズがそれを知っていればそれが兵棋演習だと理解できたのだが、ギーシュのような
武門の家の出ではないルイズにはそこまでは理解できなかった。

「ふがくちゃんは、とっても優秀な指揮官になるわー。
 あら、そろそろ時間も遅いわねー。じゃあ、最後の演習にしましょうか?」
 女性がうれしそうにそう言うと、別の箱庭を取り出してテーブルに広げる。そしてふがくと
交代で駒を動かしていき――ある一手をふがくが打ったとたん表情を曇らせた。

「今の……どうしてこうしないの?ここの爆撃隊で、敵を空爆すればいいじゃない」
 ふがくの小さな手が青い駒を動かした先は、山岳に囲まれた小さな都市。小さいながらも
城壁があり、実際にそこを攻めるとすればそれなりに苦戦しそうだということはルイズでも
想像できた。ふがくはそこに、フーケと戦ったときに見せたように空から攻撃してしまおうと
考えたらしい。もしトリステイン王国空海軍が同じ状況になっても、同じように上空に配置した
フネから攻撃することだろう。だが……
「そうねー。その通りよ。
 でも私なら、地上軍の到着を待ってから、都市を占領させるわー」
 女性が言う。ふがくはそれに納得できないという表情を隠さない。
「空爆だけでいいじゃない。
 そりゃあ、完全に敵を撃破できないけど、戦力は十分に奪えるわ。そして部隊を別方面に
転進させるのよ」
 ふがくが力説する。それは確かに効率的な戦い方。しかし――女性はその言葉に困った
ようにうつむいた。そして、それまでの明るい雰囲気とは打って変わった面持ちでゆっくりと
言葉を紡ぐ。

「……これは、偽善なのかも知れないけど……よく聞いてね、ふがくちゃん」
 そう言って、女性はふがくの手に赤い駒――敵の駒を握らせる。
「これは、何だと思う?」
 女性は問いかける。ふがくは「敵でしょ?」と即答した。
「もう少し、考えてみて」
 さらに女性は問いかける。ルイズは気づく。この女性は、今、大切なことをふがくに教えようと
しているのだと。ふがくもそれに気づき、手の中の赤い駒を見る。それは人を模して赤く
塗られた、小さな木製の駒。それが意味するものに気づいたふがくは、ぽつりと言葉を
口にする。
「……兵士。ううん、人間ね」
「そうよ。
 私たちが戦っている相手は、『敵』なんていう得体の知れないものじゃない。人間なのよ」
 そう言って、女性は青い駒、ふがくの背中の翼と尻尾だけを形にしたような駒を都市の
上に置く。
「そしてここには、兵士でない人間もたくさん住んでいるわ。
 爆撃だけでは、無差別に人を傷つけるだけ。だから地上部隊も行かせるの」
「味方の被害を減らすために空爆し、そして占領した地上部隊は被害の復旧に当たる……
いいことだと思うけど、矛盾と無駄だらけよ」
 ふがくはそう言って箱庭と駒を交互に見る。その様子に、女性は優しく微笑みかける。
「ええ。分かっているわ。
 でも、私たちは誰のために戦うのか、考えてみて。そして、その誰かと……この街の人が、
どう違うのかも」
 ルイズも考える。何が違うのか。敵と味方?生まれた国?話す言葉?文化?歴史?
答えは出ない。ふがくも同じ気持ちなのか、戸惑ったような表情で女性に答える。
「だけど……だけど、人間なんだよね。
 アタシたち鋼の乙女は、お国のために、人間のために戦う兵器なのに……」
 ふがくは言う。そこでルイズはふがくの一人称が『私』じゃないことに気づいた。ルイズの
知らないふがく。改めてそのことに気づかされた気持ちがする。
 そんなふがくの戸惑いを前に、女性は胸に両手を当ててゆっくりと言葉を紡ぐ。
「人間には……いいえ、命にはひとつも無駄なものなんてないと思うの。
 民間人、日本人、それから連合軍だって同じ人間の命じゃないかしら」
 そうして、女性はひときわ大きな地図を取り出し、そこに駒を置く。それがふがくの世界の
世界地図だとはルイズは知らない。
「たったひとつの奇跡で生まれた命なんだから、無駄なんてないのよ、きっと」
 女性の言葉――それはルイズにも思い当たる言葉。ギーシュが決闘で、そして自分が
フーケのゴーレムを前に無謀なことをしたときにふがくが叫んだ言葉。それをふがくに
教えたのは、この女性だったのだ。けれど、ふがくはその言葉に困った顔をした。
「そんなことを考えてたら、戦争なんてできないよ……
 誰もがたった一つの奇跡なのに。アタシは戦争をするために生まれたのに……」
 どうしていいのか分からなくなるふがく。その髪を女性がそっとなでる。
「……ええ。本当にそうなのにね」
 その言葉に込められているのは、哀しみ。それが何を意味するのかまではルイズには
分からない。ふがくは手にした駒を握りしめ、言葉を絞り出す。
「小さくて軽い。すぐに忘れそうよ」
「忘れないで。
 私の教えたことは、とても矛盾しているけれど、その重さだけはふがくちゃんに、覚えて
おいてほしいの」
 女性の言葉はあくまでも優しく包み込むようで。ふがくはその顔をまっすぐに見つめて――
「忘れない。絶対に忘れないよ」
 ――言った。それは決意の表れ。ふがくの決意を見た女性は、心から安心したような顔をする。
「よかった。これで安心して行けるわ」
「次の作戦、ミッドウェーだっけ?明日、出発なんだ」
「ええ。だから今日は、もう戻らなくちゃいけないの。もっともっとお話ししたかったけど」
 女性が少し寂しそうな顔をする。ふがくは頬を赤らめて、自分の感情をごまかすように
手を振る。
「何言ってるのよ!帰ってきてからでいいわよ!
 アタシ、そんなにさびしがり屋じゃないし……まだ一緒に出撃できないのは、残念だけど。
 でも、もうすぐ、もうすぐだから。アタシ、もうすぐ一緒に行けるからね!だから、大船に
乗った気で安心しててね!」
 そう言ってふがくは女性に抱きつく。柔らかく大きな胸に顔を埋めるふがく。安心しきった、
それはルイズが一度も見たことのない顔。いつまでそうしていただろう。やがて女性が
ふがくを抱きしめてから体を離し、両腕にそれぞれ腕全体がすっぽりと収まる大きな盾を
持って、大人の男でも数人掛かりでも開けるのに苦労しそうなあの大きな鉄の扉を片手で
苦もなく開けたとき――ルイズの視界も真っ白に染まった――


 ルイズが目を開けると、そこはベッドの上。着ているものも制服ではなく寝る前に着た
ネグリジェ。
 体を起こして部屋を見渡すと、そこはやはり自分一人だけ。ふがくの寝藁はきれいに
片付けられているし、窓の外からは小鳥のさえずりが聞こえてくる。
「……夢?」
 ルイズはその言葉を口にしながら、その触感すら覚えているようなリアルな夢を
思い出そうとした。
「あれはふがくの記憶……?それにしては外から見た感じが強かったような気がするけど……」
 ルイズは思い出す。おぼろげなところもあるけれど……見たこともない建物、見たこともない
人たち。そして、ふがくのことを案ずる高官と、ふがくが姉のように、母親のように慕う女性
――もしかすると、あの女性が『あかぎ』なのかも知れない。けれど――
「どうして……あの人の背中に、変な陰みたいなのが見えた気がする……」
 ふがくが帰りを待っていた女性。一緒に戦える日を楽しみにしていた女性。そこで
ルイズは思い出す。ふがくを召喚して、最初に授業で魔法に失敗した日のことを。

 ――私にはやることがあったのよ。あかぎを助けて、大日本帝国を勝利に導くはずの私を――

 夢の中で、ふがくは『ミッドウェー』という地名を口にした。向こうの言葉だから意味は
全く同じではないだろうけれど、それを無理に訳すとすればアルビオン語で意味は――
道の半ば。
どちらにも進むことのできる道。ふがくの国は、そしてあかぎは……どっちに進んだんだろう。
 考えても答えは出ない。ルイズはネグリジェを脱いで制服に着替えると、朝食を食べる
ために部屋を後にした。

「あれ?ルイズ。もう起きたんだ」
 部屋を出てすぐにふがくと出会う。その手には洗濯物のかご。ふがくにそんなこと頼んだ
覚えはないんだけど……とルイズが考えているうちに、ふがくは言う。
「シエスタから預かったのよ。ついでだから畳んでおこうと思ったんだけど」
「そう言えば、ふがく、あんた洗濯はどうしてるのよ?洗い替えがあるようには思えないんだけど」
 ルイズの言葉にふがくは気分を害したのか顔を真っ赤にする。
「ちゃんとしてるわよ!私の服はそれ自体が装甲だから普通の洗濯とは手順が違うし、
夜中に洗って少し空を飛べば乾くし!」
 その言葉にルイズが意外というような顔をした。
「え?乾くの?だって、最初にわたしがふがくに抱きかかえられて飛んだときにはほとんど
風も感じなかったのに?」
「……私が抱えていればそんなことはないわ。言ってみれば機内に座っているようなものだし」
 要するに、ふがく本人は外の環境の影響を受けても抱きかかえられたりしているものには
ほとんど影響がない、と。何とも不思議な感じがするが、ふがく自身もその理由については
解っていないようだった。
「とにかく、いつも同じ服っていうのもなんだわね……それに、あんたの銃、威力強すぎだし……
あの一件で家が何言ってくるか……」
 ルイズはふがくとロレーヌとの決闘を思い出して身震いする。あの本塔の修繕費、実家に
請求が行っているはずだが、まだルイズには何の連絡もない。それがかえって怖い。

 ――そのとき、ルイズの頭にひらめくものがあった。

「そうね。次の虚無の曜日、あんたの服と武器を買いに行くわよ。臨時収入はあるし……
剣なんてどうかしら?」
「……はい?」
 あまりの展開に、ふがくは目を丸くするしかなかった。

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