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絶望の街の魔王、降臨 - 17



 兵員輸送トレーラー。そのトラクタの役目を果たすのはY2K。ヘリコプター用のロールスロイス製ガスタービンエンジンを乗せた、大型の非常識バイク。ハルケギニアで最強の出力を誇っていたそれは、あと数時間後にその称号をはぎとられる。新事実とともに。
「うぷっ……うう……ギボヂヴァルイ……」
 コルベールにより板バネが追加されたというのに、とことん乗り物に弱いギーシュは、出発してから五分後に隔離される運びとなった。
 ちなみにコルベールはY2Kの雄姿をこれでもかというほど眼に焼き付け、一時間も眼をキラキラさせながら見ていたが、さすがに飽きたのか翻訳作業に戻っている。初めての、しかもかなり揺れる高速車両で読み書きできるとは、なかなか強者である。
 シエスタは道案内をしている。トレーラーの中から、ジルの後ろに乗り抱きついているルイズに嫉妬の視線を浴びせながら。
 キュルケとタバサはシルフィードで、快適な空の旅を楽しんでいる。今回はジルがアクセルを余り開けていないので余裕を持ってついていける。トレーラーにはまだまだ余裕があったが、二人は断固として乗ろうとしなかった。
「あ、そこ右です」
「右ね。ブレーキ」
 ゆっくりとブレーキをかける。金網やハニカムで軽いとはいえ、人が乗りそれなりに質量のあるトレーラー。合図でシエスタがトレーラーのブレーキレバーを引いてくれるとはいえ、馬車のような細いタイヤではそこまでの減速効果は期待できない。そもそも、こんな
ものはバイクで牽引すべきではないのだ。それでもY2Kに牽かせるのは、単純に馬より速いからだ。
「ここからはほぼまっすぐです」
 カーブを曲がりきって、鋼の心臓が喜びの咆哮をあげる。
「うぐ……もうやめ……おぶっ」
 ギーシュはシルフィードに乗せた方がよかったのではないか。少なくとも、同じ速度でも揺れは雲泥の差だろう。
 二百km/hまで加速して、勇ましい高音をまき散らし、Y2Kトレーラーは征く。



 あまり騒がしくするのも好ましくない。増してや、マフラーもなく甲高い騒音をだだ漏れにしているエンジンを起動したまま持ち込むなんて論外だ。幸い、トレーラーはコルベールとシュヴルーズの協力でアルミや合金などを多用し非常に軽く改良されているので、付けたままでY2Kを押すことができる。タルブから少し離れたところでエンジンを切り、そこから徒歩で行くことになったのだが。
「大正解ね」
 ジルが、矢印の形をしたいくつかの看板を見て、そう呟いた。
「ねえ、シエスタ。この看板、全部読める?」
「はい、一応『読み書き算盤格闘農業』はタルブでの必修教養ですので」
 看板は全て同じ方向を向き、恐らく同じ意味の言葉が書かれているのであろう。
「『Welcome to the stranger's village,Tarbe』……これはロシア語、こっちは多分ドイツ語……日本語……」
「これは、新しく外から来た人が立てていくんです。全部書いてある意味は同じです。もうすぐですよ」



 のどかな田舎の村。第一印象はたいていがそうなるだろう。視界の殆どが葡萄畑、川が流れ、そこに水車がある。
 しかし、入り口が物々しかった。木で組まれた壁があり、櫓には見張りが立っている。歩哨が立っている門は開け放たれているが、有事の際にはすぐに閉められる落とし戸だ。銃眼らしき穴もある。中は木の電柱が立ち並び電線が張り巡らされている。コンクリートの建造物がいくつか存在し、アンテナの立っている家もある。まさかテレビの受信アンテナではないだろうが、それでもかなりのオーバーテクノロジーであることは間違いない。
 中でも一番眼を惹くのは、鉄塔とサイレンだ。何に使うのかは判らないが、こんなもの、恐らくハルケギニア中どこを探しても無いだろう。
「何アレ?」
 キュルケが何か呆れたように鉄塔を見ていた。キュルケだけではない、シエスタとジルとギーシュ以外の全員が見ていた。
「あれ? ああ、サイレン塔ですね。十二時になったり、上流の堤防が決壊したり、村にオークとかが襲ってきた時に鳴るんです」
「鳴る? あの塔が?」
「てっぺんに付いているあれをサイレンと言いまして、これがすごくうるさいんですよ。葡萄畑の端にいても聞こえるんですから」
「便利ねぇ……マジックアイテム?」
「いえ、電気と時計で動いてます」
「電気ですと!?」
 電気という単語に食いつくコルベール。雷の正体や発電機をジルが教えてからというものの、この世界にない概念であるが故にどんどん傾倒していった。いつか完成する予定のエンジンとドッキングさせようと画策した図面も見つかっている。
「はい、電気を……」
「はい、そこまで。シエスタ、早く村長に報告に行かないととんでもない事になるんじゃなかったかしら?」
「え……ああ! 忘れてました! 来客がある時は報告しないと侵入者と思われて射殺されるんです!」
 えらく物騒な話だった。
「観光は後よ。門番から話はいっていると思うけど、念のため、ね」



 村長の家で、特筆すべきことはなかった。タルブの村は排他的ではあるが、村人の誰かに認められてさえいれば歓迎されるようだ。『竜の羽衣』を見ることも、あっさり許可された。何もせずにノックダウンされたギーシュは、輸送車の中に置いておく運びとなった。
「元々この村は、ただの田舎の農村でした。ですが、六十三年前、私のひいおじいちゃんがこの村に来たことで、この村は変わりました」
道中、シエスタが説明をしてくれた。
「どこからかふらりと現れて、ここで働かせてほしい、と言ったそうです。見慣れない風貌に村の人は怪しんでいましたが、試しに働かせて見ると誰よりも力強くて真面目で、すぐに馴染んでしまったそうです」
 村を抜け、森へ。
「あまりに真面目なものですから、そのうち葡萄畑の一つを任されたんです。そしたら、その畑だけ豊作が続いたんです。不思議に思った村の人が話を聞くと、科学の力だ、と」
 森の入り口は、有刺鉄線といくつかの言語で書かれた危険を示す警告。冗談かどうかは判らないが、放射能マークやバイオハザードマークが描かれているのがジルの心臓に悪かった。最もリアリティのある地雷マークが無いのが救いか。
「カガク? ジル、カガクって……」
「なにも兵器やバイクだけが科学じゃないの。農業にだって使えるし、数学だって科学の基礎よ」
「なんと! カガクとはそこまで素晴らしいのかね!」
「そうです。メイジのみなさんは簡単には信じられないでしょうが、この村で魔法の恩恵を受けているのはほんのわずかな固定化と鋼鉄の材料を作る錬金くらいです。点在するコンクリート……石みたいな家も全て人力で建てましたし」
「これだけの規模の村が、魔法なし?」
「ええ、そうです。貴族ではないメイジの方もおられますが、技術開発の支援といった形でしか魔法を使いません。外の方でタルブの真実を知っているのは、ここ一帯の領主ということになっているアストン伯くらいですね。何代か前のアストン伯とひいおじいちゃん達が親友だったそうですから」
 親友になった経緯は誰も知りませんが、とシエスタは続ける。
「だから、ね。ここまで閉鎖的なのは」
「はい。ロマリアやブリミル原理主義者に知られたら、戦争になりますから。それに、ひいおじいちゃんだけじゃなかったんです。ひいおじいちゃんが村に来た次の年から、次々に『竜の羽衣』が飛んできて、結果として異界の知識が次々と村に入ってきた、というわけです。あ、もうすぐですよ」
 薄暗い森が切れ、視界が開ける。
「何よ、何もないじゃない」
「…………」
「こ、これは……」
「すごい技術ね。ゲルマニアにもこんな舗装技術はないわ」
 メイジ連中が感想を述べる。
「ひどくぼろぼろの『竜の羽衣』が飛んでくることもあって、着陸に失敗して大怪我をすることも少なくなくて……ひいおじいちゃんは秘密の滑走路を作ることにしたんです。来訪者の方はこの村の宝ですから、村の人も暇があれば手伝って、当時のアストン伯も協力を惜しまなかったと伝えられています。こちらに来てください」
 まっ平らな、コンクリートを敷き詰められたヒビすらない白い滑走路を歩く一同。一般的な滑走路よりは細いとはいえ、滑走路なのだ。斜めに横切るとかなりの距離になる。
「どれだけの長さがあるのかしら?」
「そうですね……ジョンさんのナイトホークが距離不足で着陸失敗してからなんでも着陸できるように伸ばしたようですから……四リーグ弱はあるのではないでしょうか。なんでも、『じゃんぼじぇっと』や『むりーや』という『竜の羽衣』が来たらいけないから、らしいです」
 ジャンボジェットはともかく、ソヴィエトの夢が飛来するのを考慮するのはいかがなものか。アメリカ人かロシア人が発案したにちがいない。それはともかく、たいていの飛行機は離着陸できるだろう。
「こちらから、どうぞ」
「これは――――バンカー? この中に?」
 カマボコ型のコンクリート建造物。大きな搬出用扉から離れた通用口が、シエスタによって開けられる。
「これも、平民の力だけで建てられたのですか?」
「ほとんどそうです。攻撃されることを前提に作られているので、ガリアの戦艦が主砲を撃っても絶対に壊れないそうです。固定化もかかっているので劣化もしません」
「これほど巨大なものが……」
 コルベールが既に感動している。それ以上の、地球の物質文明の神髄の入れ物に過ぎないというのに、『竜の羽衣』を見たら一体どうなるのだろうか。
 中は光を一切通しておらず、真っ暗だ。
「すこしお待ちください」
 暗闇の中、シエスタの声だけがよく響く。やがて灯がつき、明るくなる。
「ご紹介します。タルブの最高軍事機密、『竜の羽衣』こと、軍用飛行機です」
 ずらりと並んだ、金属の翼達。
「これが『竜の羽衣』? なによ、こんなんじゃ羽ばたけないじゃない」
 メイジ連中は期待外れといわんばかりに落胆していた。二名を除いて。コルベールは狂気乱舞して手当たり次第に戦闘機や攻撃機の周りを走り回りながら観察し、タバサは興味はなから興味が無い。
 ルイズとキュルケはうろうろ歩きながら機体を怪訝な眼で見ていた。
「素晴らしい! 素晴らしい! なんと美しく力強い形だ! こんな技術は見たことが無い!」
「トムキャット……ムスタング……イーグル……コブラ……ナイトホーク……ラプター……これは何かしら? 凄いわね。古今東西、世界の戦闘機や攻撃機が勢ぞろいだわ」
 ジルもあまり詳しくないWW2時代のレシプロ機から、誰でも名前くらいは聞いたことがあるジェット機まで。あるいは、見たことも聞いたこともないものまで。機種は判らずとも、国籍マークでジルは判断しているが、知っているものはアメリカの、それも極少数に過ぎない。その中でも、最も目立つ紅い機体に触れてみた。
「ADF-01ファルケン……ベルカ? ノースオーシア・グランダーI.G.? 聞いたこと無いわね。いえ、それよりも……」
 違和感。昔から、武器兵器は持つだけで何となく使い方が判った。しかし、この世界に来てからその能力が強くなった。ジルはそう思っていた。サムライエッジやフィフティーキャルなど、使い方が頭に流れ込んでくる。精度・摩耗・疲労など、まるで電子制御でもしているように、手に取るように判った。しかし、デルフリンガーを握った時にその能力が別物であると判った。長物を使ったことが無かったのに、長剣の最適な扱い方が判ったのだ。それでも、『これはこんなものだ』と納得できた。しかし、全く馴染みの無い航空兵器に対して、操縦法や運用・整備の方法まで判る。こんな効果があるとは思っていなかった。
「これが、ガンダールヴの能力、ってやつかしら?」
 オスマンの言葉が甦る。あらゆる武器を使いこなす伝説の使い魔。使いこなす、ということは、使い方が判らなければいけないから、必須能力ではある。
「とはいえ、これは使えないわね」
 戦術レーザーの威力は素晴らしいし、Coffinシステムの恩恵で最高の反応速度を誇るが、この遅れている世界では整備できる環境が無い。数回飛べればいい方だろう。
「飛ばせるのは……」
 ハルケギニアで飛ばせるのは構造が簡単なレシプロ機が限度だろう。引き込み脚も無い方がいい。FBWや精密電子機器などを積んでいる機体は整備なんて不可能だし、ジェットエンジンは回すだけでFOD祭だ。
 プロペラの付いている機体を調べていく。
「ゼロ戦……ムスタング……彗星、論外ね。スカイレイダー……スツーカ? これはいいわね」
 国籍も機種もバラバラ、名機・傑作機の隣に殺人機や駄作機が並んでいるのもこのハンガーの特徴か。見事に消し炭で原型を留めていない『何か』もある。
「使えそうなのはドイツと日本とアメリカね。流石に『世界一チィィィィィィィィィ!』なんて言うだけはあるわ。変態機も多いけど」
 今回の目的の一つが航空機だ。この先何度か戦争が起きるだろうが、真っ先に発生するのはトリステインだろう。例え今、神聖アルビオン共和国皇帝の座に収まっているクロムウェルを暗殺したとしても、恐らく彼は傀儡だ。大局にはあまり影響はない。
 どっちにしろ、戦争と侵略・占領が大好きな貴族連中はこぞってトリステインに侵攻するだろう。ならば、最もある得るのは飛空船による強襲上陸だ。ハルケギニア最強を誇る竜騎士も同行するであろうから、圧倒的火力と機動性を持つ航空機は絶対に欲しい。
「ふーむ。ハインドの輸送能力は惜しいわね。でもスツーカも捨てがたいわね」
 結局ロシアのガンシップとドイツのカノーネンフォーゲルの二択になった。ソヴィエトの過酷な環境に耐えうる頑強な構造と、ターレット式のガトリングキャノンにAAMやAGMなどの装備と兵員輸送能力が魅力のハインドV。頑丈で整備性がよく、『かつて世界で最も戦車を壊した兵器』『敵エースの乗った戦闘機を撃墜した』『戦車の装甲をブチ抜けるように3.7cm機関砲を外付けしてもらった』などの話が絶えないシュトゥーカG-2。
「どうです?」
 ジルが悩んでいるとシエスタが聞いてきた。
「素晴らしいわ。整備が無理なもの以外は完全に飛べるようにしてあるのね」
「いつ必要になるか判りませんでしたから。ですが、もう飛ばす技術のある人はいません。ですから、もう私たちには必要のないものなんですよ」
 シエスタは、少し影のある微笑みを浮かべながら、シュトゥーカの隣にあるゼロ戦に触れる。
「これ……ひいおじいちゃんのなんです。何度か飛び方を教えてくれるようお願いしたんですが、そのたびに悲しそうな顔をして、絶対に乗せてくれませんでした」
「こんなものが飛べばタルブの秘密がバレちゃうし、何より……」
 戦闘機。つまりは人殺しの道具。兵器に乗るということは、殺す覚悟と殺される覚悟がいるということ。
「何より?」
「いえ、なんでもないわ。それより、ここの機体を一機……いえ、二機貰えないかしら?」
「村長に聞いてみないと判りませんが、多分大丈夫です。ジルさんは、『あっちの世界』の人、だから」



 ハインドもシュトゥーカも貰えることとなった。村長はジルが異邦人だとうすうす感付いていたらしく、すんなりと事は進んだ。
 どうもハインドもシュトゥーカも、持ち主が村人にならずに乗り捨てたものらしい。故に、余計譲るのに抵抗が無かったのだろう。
 シエスタ曰く、「スツーカは何らかのトラブルで滑走路に着陸したみたいなんですが、乗っていた人は、別のスツーカが滑走路を走りながら拾っていって、どこかに飛んでいきました。ハインドは、朝、滑走路に行ったら落ちてたらしいです。誰も乗ってなくて。これはあんまり珍しい話じゃないんですよ。リボンのマークのラプターとか、犬のマークのイーグルとか、ファルケンとか」
ジルはいやな予感が頭を過るのを感じた。



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