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ゼロのメイジと赤の女王‐01


 眼を開けて視界に飛び込んできたのは、蒼い蒼い空と、広い広い草原だった。

 陽子は尻餅をついた格好で、ぽかんとその光景を見詰めた。
 抜けるような蒼空と豊かな草原、遠目には西洋風の石造りの城がそびえている。
 一体全体これは何事だろう。つい先程まで街中にいたはずの自分がこんなところにいる理由がまるで思いつかず、陽子は困惑する。
「あんた誰?」
 呆けた陽子の目前に仁王立ちしているのは少し信じられぬほど美しい少女である。
 意志の強そうな鳶色の瞳は白磁のようにすべらかな膚と愛らしい顔立ちを飾り、それを縁取る桃色の髪は光を受けた部分がちらちらと金色に輝く。
 身に纏っているのは漆黒のマント。その下にブラウスとプリーツスカート、オーバーニーソックス。間違っても慶の国ではまず見ないいでたちである。
 月影を隔てた彼の国にしても、漫画かアニメの中のものであろう。
 いや、この場所そのものがそういうものなのかも知れない。
 陽子と少女を遠巻きにしている少女と同じような年恰好の少年少女、ひとりだけ中年の男性――――これは彼らの引率者であろうか、教師のような印象を陽子に与えた――――その全員が、マントを羽織り、木でできた棒を手にしている。
 格好もあいまって、まるで魔法使いの杖である。
 驚愕が過ぎれば、次はゆるゆると呆れがやってくる。
 何故かは知らないが慶とも故国ともまた別の、180度ほど文化圏の違う場所に迷い込んでしまったようだ。 
 やれやれと波乱万丈なおのれの人生に溜め息して、陽子は声に出さずに語りかける。
(――――いるな、冗祐)
 お傍に、声なき声が返りとりあえず陽子は嘆息した。
 まるで見知らぬ場所に突然放り出されるのは二度目だが、今度はひとりではない。・・・前回も冗祐は陽子と共にいたのだが、そのとき彼は「ないものとしてふるまって」いたので。
 はてさて、此度は何の天意か、はたまた天帝の気まぐれかと思考をめぐらそうとした彼女に怒声が降りかかる。
「ちょっと!あんた聞こえてんでしょう!貴族の言葉を無視するなんて何様のつもりなの?!」
 大きな瞳を吊り上げて怒鳴っているのは陽子の目の前にいる少女である。
 どうやら彼女の呼びかけを無視する形になっていたようで、慌てて謝ろうとしたとき、ふと少女の台詞に引っかかりを覚える。
(・・・・・・貴族?)
 常世に「貴族」はいない。血筋に拘泥する概念自体がそもそもないからである。
 蓬莱にも貴族はいない。実質はどうあれ、四民平等という考えが世に広まり久しいのである。
 イギリスあたりには貴族やら公爵やらというものもありそうだが、そんないいとこの子女や子息がこんなにもカラフルな髪色をしているはずがない。
 ――――つまり此処は、常世でも、蓬莱でもない場所なのだというとこだ。
 陽子がそうと判じたとき、誰かの嘲笑混じりの声が飛んだ。
「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするの?」
 それを合図としたように、どっと笑い声が上がる。
 ちょっと間違っただけよと桃色の少女が顔を真っ赤にして怒鳴ったが、それはさらに笑いを誘うに終わる。

「ミスタ・コルベール!」
 少女の声に、人垣を割って前に出たのは教師らしき中年男性だった。
 なんだねミス・ヴァリエールと重々しく訊ねる男性に少女が腕をぶんぶん振ってお願いですとかもう一度とかまくしたてる。
「もう一回!もう一回、召喚させてください!!」
 少女の必死の訴えに、それは駄目だと男性は首を振る。
「君たちが今やっている春の使い魔召喚の儀式は神聖なものだ。呼び出した使い魔で今後の属性を固定し、それにより専門課程へと進む。
 現れたものが術者の好むと好まざるとは関わらず、それを使い魔としなければならない。変更は効かないんだ。わかるね、ミス・ヴァリエール」
「でも!平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません!!」
 少女の叫びに笑いが起こる。
 少女は笑う人垣を睨みつけたが、治まる気配は見せず、いっそ大きくなっているようだ。
(使い魔。召喚。貴族。平民)
 嫌な予感ばかりが陽子の胸のうちで大きくなる。
 意味はさっぱりわからないが、単語からして既に良い感じは欠片もない。
「これは伝統なんだ、ミス・ヴァリエール。例外は認められない」
 きっぱりと云い放った男性は、彼はただの平民かも知れないがと陽子を指差す。
「呼び出された以上は君の使い魔にならなければならない。
 古今東西、人を使い魔にした例はないが、春の使い魔召喚の儀式のルールはあらゆるルールに優先する。
 彼には君の使い魔になってもらわなければ」
「・・・そんなぁ・・・」
 がっくりと肩を落とした少女はそれでも駄々をこねるように渋っていたが、男性に諭され諦めたように陽子を向いた。
 陽子は自分のことなどそっちのけで勝手に話が進められていくのを少しばかり不快に思いながら、なんとなくいいようのない不安が頭をもたげて近づく少女に待ったをかける。
 少女は少し驚いたように目を見張ったが、すぐに表情を怒りのそれへと変えた。
「あんた喋れるんじゃない!貴族の言葉を無視するなんて、平民の癖に無礼もいいところだわ!」
「待って」
 一息にそう怒鳴りなおも何かを云おうとする少女の機先を制し、陽子は先程から一番気になっていることを質問する。
「無視する形になってしまったのはすまなかった。少し混乱していたんだ。
 ・・・ところで、あなたは今、貴族と?それにここは?わたしは堯天にいたはずなんだ」
「質問を質問で返すなんていい度胸ね」
 少女は愛らしい顔を怒りを無理矢理押さえつけたような表情に歪ませて、それでも陽子の疑問には答えてくれた。
「そう、私はメイジ、貴族よ。ヴァリエール公爵家の三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。ここはトリスティン魔法学校、から少し離れた草原。これでいいかしら?」
「・・・・・・トリスティン・・・魔法、学校?」
 どこのハリーポッターだろうと呆れる陽子に、ルイズと名乗った少女は苛立ちを隠しもせずに陽子を睨みつける。
「さあ、平民の分際で私に先に名乗らせたんだからあんたも名乗りなさい。名前は?」
「あ、・・・すまない。・・・陽子だ。中陽子」
 とっさにいつも街に降りる時に使う名を名乗った。
 ここが常世でも蓬莱でもないのならば偽名を使う必要はまったくないのだが、ついいつもの癖で口を吐いて出てしまったその名に一瞬だけ訂正するかしまいか迷ったけれど、まあいいかと続けて質問する。
「メイジって?」
 まさか日本の年号でも、あるいはお菓子メーカーでもあるまい。陽子がそう訊ねた途端、ルイズは眉を吊り上げやや大袈裟に驚いてみせた。
「あんたメイジも知らないの?!一体どこの田舎者よ?!」
 呆れたふうに陽子を見下ろしたルイズは溜め息を吐いた。心底頭が痛いといった体でかぶりを振る。
「まさかメイジを見たことがないとでも云うつもり?メイジっていったら、魔法使いに決まっているでしょう」
「魔法使い?!」
 今度は陽子が呆れる番だった。
「・・・わたしのいた国に、魔法使いはいなかった」
「どんな僻地よそれ」
 一応首都、というか王宮そのものなのだけれど。
 苦笑する陽子にルイズはふたたび溜め息し、次いできっと睨み付けた。決意の中に諦観がかなりの割合混じっている表情だった。
「ふん、まあいいわ。あんた感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通一生ないんだから」
「え?」
「――――我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」
 なんのことだと訊ねる暇もあればこそ。
 真名を宣言することからはじまるその詠唱を朗々と紡いだ少女は、杖をすいと陽子の額に当てると、がっしと両手で彼女の顔を固定し、唇を重ねた。

「・・・・・・なッ――――?!」

 流石に狼狽しその手を振り払うと、ルイズはすんなり陽子から離れた。
 終わりましたと男性に淡々と報告するその白い頬が赤く染まっているが、陽子とて負けずに顔が熱い。
 男性は嬉しそうにルイズを褒めたようだったが、周囲からは再びヤジがあがる。
 いまだ熱を持つ頬を押さえてその光景を唖然と眼に入れていた陽子は、唐突に右手を苛んだ熱に顔を歪めた。
「つッ?!」
 右手だけではない、身体中が熱い。
 熱病に罹患した時ともまた違うその熱に苦しむ陽子に、そっけなくルイズが云い捨てる。
「使い魔のルーンが刻まれているだけよ。すぐにおさまるわ」
 使い魔?ルーン?解らないが、これは先程の口付けの所為であるのだろうか。
 脂汗を浮かべる陽子のすがたにルイズが敵性行為に及んだと判断したか、彼女の中でぞわりと明確な殺意が背筋を伝う。
 しゃりんと軽やかな音は聴き慣れた戦いの音だ。陽子の意に関わらず身体が動く。
 既に慣れたものである、妖魔をすら相手取るその腕に少女の細首はあまりにも落とすに容易い。
「やめろ冗祐!!」
 とっさに叫んだ声はかろうじて聞き入れられるに間に合った。
 武人たらぬ少女や周囲の人間の目に追えぬ速度で振るわれた剣はぴたりと髪の毛一本の距離を残しルイズの首筋に当たり、それ以上は動かない。
 主上、何故止めるのかと云わんばかりの声に必要ないと荒い息で答える。
「しかし」
「――――大丈夫。大事はないから。もう治まった」 
「・・・・・・御意」
 みずからの意思のままに剣を持つ手を下ろし、陽子はほっと息を吐いた。
 そして零れんばかりに眼を見開き今更のように腰を抜かした少女をみとめ慌てて手を差し出す。
「ごめん、いきなり剣なんて突きつけてしまって――――」
「離れなさい!!」
 横合いから飛んだ鋭い声に視線をやると、男性――――確か「コルベール」と呼ばれていた――――が、険しい表情で陽子に杖を向けていた。
 これは素直に従ったが良と陽子はルイズから二歩ほど離れる。
 コルベールは油断なく陽子を睨みつけたが、意外にもすぐに立ち直ったルイズが彼の警戒など知りもしないでつかつかと陽子が離れた分の距離を詰めた。
 そして両手で彼女の胸倉を掴むとがくがく揺さぶって怒鳴りつける。 
「あああああ、あんた!いきなり貴族に、いえご主人様に剣を向けるだなんてどういう了見なわけ?!
 無礼打ちされたって文句は云えないのよ、わかってるの?!」
「わっ」

「ミス・ヴァリエール!!」

 コルベールの叫びは制止よりも悲鳴に近かった。
 たった今殺されかけた相手になんてことをとコルベールは蒼ざめる。
 ここまでいくと恐いもの知らずでは済まされない、下手をしたら今度こそ首をはね落とされかねない―――――。
 しかし結論を云えば、コルベールの懸念はまったく必要なかった。
 陽子は基本的に温厚で生真面目な性質であり、初対面の年端も行かぬ少女に刃を向けてしまったことを心底すまなく思っていた。
 烈火のごとく怒るルイズに謝る陽子からは今の殺気など嘘のように消え去っている。
 なんか知らんがまあ大丈夫だろうとコルベールは息を吐き、ルイズを押し留める陽子の手に使い魔のルーンが刻まれていることを確認して、少しばかり破顔しながら未だ憤怒冷めやらぬ少女を止めに入った。


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