あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無と最後の希望 Level15


level-15 「敵意」


 がさりがさりと生い茂る草木を掻き分け、森の中を進む一つの影。
 軽く高さ10メイルはある樹木の、空を隠すほど生い茂った葉が太陽光を遮り、森の中は薄暗くなっている。
 視界は差して良くは無い、集中すれば何とか見えると言う程度。
 そんな深い森の中で緑色の全身鎧を着た大男が、青く長い髪を持つ全裸の少女を肩車して歩いているなど考え付きもしないだろう。

 そんなチーフとシルフィード、もといイルククゥは悪路もなんのその、構わず進んでいく。
 整えられた街道、そちらの方が速いのだが、やはり人目に付きたくはないために森の中を突っ切る。
 それでもだ、チーフの進行速度は目を見張るものがある。
 草木を掻き分けて進む、それは文字通り手で跳ね除けて進むわけだが。
 鎧を着ているチーフにとっては意味の無い動作、幾ら草木がアーマーに擦ろうが極小の掠り傷一つ付きはすまい。

 もう一人、シルフィードことイルククゥは常にチーフの上、肩に乗っている。
 最初は歩いて付いてきていたが、チーフとの移動速度に差が在りすぎ一分も経たず数十メイルもの差が出来ていたため。
 チーフの上に乗ると言う選択を選ぶことになった。

 ただのお荷物、と言うわけではなく、優れた視覚と嗅覚、聴覚によってチーフの知覚外の事象を感じ取ることで役立っていた。
 その具体例が一つ、それは……。

「お兄様、前に豚が居るのね」
「………」

 イルククゥが前方を指差し、それを聞いたチーフは光学ズームにて指差された方向を確認。
 薄暗いため、暗視に切り替えてみる。
 イルククゥが言った通り、豚、オーク鬼が一匹のっそり歩いていた。

「他には」
「んー、居ないと思うのね」

 25メートル以上の距離はモーショントラッカーの範囲外、それより先で何者かが動いていても分かりにくい。
 オーク鬼の周囲を確認、一匹しか居ないらしい。
 ここは素通りさせるか、そう思いその場にしゃがみこんでオーク鬼の動向を観察する。

「……ふご」

 のっそり、非常にゆったりしている。
 寛いでいるのだろうか、散漫な動きしかせず、とうとうその場に座り込んでしまう。

「邪魔なのね」

 イルククゥは嫌そうに呟き、チーフの頭の上に両腕を乗せダレた。

「………」

 そんな行動に構わず、物音立てず観察し続ける。
 出来るだけ先を急ぎたいチーフに浮かんだ選択肢は三つ。
 一つ目、このまま待ち、オーク鬼が移動するまで待つ。
 二つ目、すぐさま排除し、行軍を再開する。
 三つ目、迂回して目的地へ向かう。

「お腹空いたのねー」
「……排除する」

 イルククゥの五感を信用し、素早くオーク鬼を排除する事を決める。
 それを聞いて飛び降りるイクルルゥ、そうして腰のハンドガンを手に持つ。
 すると体が軽くなり、力が漲り始めた。
 武器を握れば体が軽くなるこの現象、使用するに当たりメリットはいくつも見ることは出来るが。
 デメリット、使用による不具合に何があるのかが見当も付かない。

 ミスタ・コルベールによれば使い魔の契約に因って与えられる力らしいが。
 何せ人間の使い魔など例が無いと言う事で、言った通り効果が持続するかどうかも分からないとの事。
 効果の程を確かめるのは長期間の情報収集が必要となるだろう。
 チーフとしてはそれに当てる時間など無いに等しい、出来るだけ早く戻らなければならないから。

「………」

 立ち上がり、オーク鬼を見据える。
 もう一度オーク鬼の周囲を確認、その他の存在が見受けられないことを確認して駆けた。
 森の悪路もなんのその、時速50kmを超えて走るチーフがオーク鬼へと接敵。

「ブゴ?」

 オーク鬼が近づいてくる足音に気が付き、ゆっくりと振り返った。
 その時には10メイルの距離もなく、1秒もすればクロスレンジ。
 地面に擦りそうな低い位置から跳ね上がってくる、固く握ったチーフの左拳がオーク鬼の顎を打ち抜いた。

「ッポギ」

 とオーク鬼の口から漏れた声。
 余りの威力に座っていたオーク鬼が軽く浮き上がり、垂直に一回転してうつ伏せに倒れ落ちた。

「さすがお兄様ね!」

 ピクリとも動かないオーク鬼を確認した後、イルククゥがまたもチーフに飛び乗った。
 手だれの戦士5人に匹敵すると言われるオーク鬼でも、正面から戦っても勝てるチーフの奇襲を受けたものだから勝てないのは自明の理か。
 素手に因る近接格闘のみであっても、オーク鬼10匹居ても勝てなかっただろう。
 それほどまでに練達した戦士であるチーフだった。

「相棒はな、俺を使わなくても十分強いんだよな。 俺が居る意味あるのかね?」
「消耗しない武器は重要だ」





 そうして行軍を再開する、道中お腹すいたと連発するイルククゥに腰のサックから食料を出して手渡す。

「ウマウマ」

 モグモグと食べ続けるイルククゥを他所に、黙々と歩み続ける。
 時折ポロポロと小さな食べカスが転がり落ちてくるが、それすらも無視して歩き続ける。

「お兄様は食べないの?」

 と四分の一しか残っていないパンを、顔の前に差し出すイルククゥ。

「……別のがあるからそれは全部食べて良い」

 この星の日照時間などから、強引にだが地球の定時法に割り当てた。
 時間は11:24と表示され、既に3時間以上歩いていたようだ。

「降りてくれるか」
「きゅい」

 パンを頬張りながらも飛び降りる。

「周りに何か居るか」
「ムグ……、いないのね」

 モゴモゴと口を動かしながら、目や鼻、耳を使ってあたりを探るイルククゥ。
 モーションセンサーにも動く物、草むらに潜む小動物しか捉えていない。

「少し休もう」

 現在位置の周囲、草むらから樹木の位置を確認。
 迫るとしたらどこから来るかなど考え、防衛に最適な位置を割り出す。

「(……あそこか)」

 攻めるも守るも、優位になるだろう位置にしゃがみ込む。
 その動作を見て呼ぶより早く、イルククゥが隣に座り込む。
 そうしてサックをあさり、パンと水を取り出した。

「いっぱい食べるのね」

 手に持ったパンと水の入ったビンを差し出してくる。

「………」

 じーっと、チーフの顔、ヘルメットを見つめ続けるイルククゥ。
 顔が見たいのか、そう聞くと「見たいのね!」と元気よく声が返ってくる。

「機密だ、見せられない」

 そう言って左手のひらをイルククゥの顔に当てる、勿論力は入れてない。

「は、離すのね!」

 イルククゥの視界を塞ぐように左手で顔を覆う。
 ヘッドディスプレイを不透明100%に指定し、空いている右手でヘルメットを外す。

「んあー!」

 チーフの手を外そうともがくイルククゥ、竜とは言え変身している時では本来の力を出せないらしい。
 そんなイルククゥから手を外すと同時にヘルメットを被せ、また視界を塞ぐ。

「なにするのね!?」
「少しだけそのままでいてくれ」

 叫びながらもヘルメットを取ろうと動くが、上からヘルメットを押さえつけているので両腕を使っても外せない。
 上に持ち上げられないなら、自分の体を下げれば良い。
 そう言う考えに至ったのであろう、ずりずりと体を下げ始め、一行に外せないヘルメットと共に地面へと寝そべっていた。
 最後の方には体をひねり始めてもいた、そこまでして見たいのかと思ったが、見せてやるわけにも行かないので素早く食事を済ます。

「と、とれたのね!」

 と、体を土塗れにしたイルククゥが起き上がって見るも、既にチーフはヘルメットを被っており、その顔を拝む事は出来なかった。

「んきぃー!」

 見れなかった事に腹を立てたのか、ついには地団駄まで踏み出す。

「何故見たい」
「見たいから見たいの!」
「見せられない」

 単純な答え、見たいと言う感情のみでの発言。
 しかしながら軍機のため、顔、名前、年齢と言った個人を特定できる物は一切教える事は出来ないし、見せる事も出来ない。
 違う惑星に居ても、UNSC<国連宇宙軍>の法はチーフに適用される。
 たとえイルククゥのようなファンタジーな生物でも、決して語る事、見せる事は出来ない。

「進もう」
「むー」

 とりあえずイルククゥの顔に付いている土汚れをふき取り、持ち上げてから肩に乗せる。
 顔が見れなかったのは不満だったが、先に進む事には反対しない。
 そういった感情がだだもれなイルククゥであった。





 その後、運良くアルビオンの兵や亜人に遭遇せず順調に進み続けた。
 暗くなり始めても歩き、完全に日が落ちても歩き続ける。
 街道を見つければ誰も居ないか確かめ横断、ひたすら歩く。
 そんな代わり映えのしない状況にイルククゥは文句を垂れるが取り合わず。

「遅れてタバサが危険な目に遭ってても良いのか」

 といえば黙り込む。
 既にこの状況、タバサはともかく魔法を使えないルイズは歳相応の身体能力しかない。
 もしもと言う時の自衛手段が少ない、スクウェアの子爵が居るとは言え過信するのも良くは無い。
 タバサにしても最速の移動手段であるイルククゥが居た方が良いだろう。

「お腹空いたのねー」

 そう言えばサックからパンを取り出して上に手渡す。

「ウマウマ」

 それを数時間毎に繰り返しながらも歩き続ける。
 そうしてさらに数時間、00:56と時間的に言えば翌日になっていた。
 このままニューカッスル城に向けて歩き続けるのはチーフ的に問題は無いのだが。
 肩に座る少女、イルククゥが完全にチーフの頭へとうな垂れかかり眠っていた。

「………」

 バランスの問題もあるし、何より敵に遭遇した時に対処が遅れる可能性も十分ありえる。
 ならば何処か適切な場所でキャンプを張った方が良い。
 決断するや否や落ちそうになるイルククゥを横抱きにして抱え、周囲を探る。
 特に草むらが多い箇所、そこを避けてしゃがみこめば隠れられる程度の草垣に陣取った。
 本来ならば暖を取るために焚き火の一つを起こしてやりたいのだが。

「……いっぱいねぇ、おなかぁ……」

 と平然と寝るイルククゥを見て、そのままで良いだろうと思い至った。

「軍人ってのは随分慎重なんだな」
「基本だ」

 樹木を背にして周囲を警戒し、気持ち良さそうに眠るイルククゥの安眠を邪魔しないようにする。

「娘っ子の傍にいけすかねぇ兄ちゃんが居るんだし、そこまで急ぐ必要ねぇんじゃねぇの?」
「守るならば一枚だけでは駄目だ」

 出来るなら二重三重と、敵の手が届かないようにするべきだ。
 強い仲間が一人居る、だからなんだと言う考え。
 魔法だろうが火器だろうが、使用による限界は何れ来る。
 物量で攻められればより限界が近くなる、それを補うために複数の仲間を必要とするのだ。

 チーフと言えど、ただ一人きりで戦ってきたのではない。
 心強い仲間が居てこそ、支援があってこそやって来れただけだ。
 本当にただの一人きりであったなら、ここには居ない。
 命はなく、ただ終わっていた。

「………」

 チーフは森の天井、木々に生える葉の天井の隙間から見える双月を見て夜を過ごした。





 日が昇る。
 水平線の向こう側から顔を出す太陽、天文学的に言えば太陽ではないのだが、殆ど真っ暗だった森の中に明るみが増えてきたので朝と認識。
 時間も05:13と表示されている。
 視線を下げればうつ伏せで寝ているイルククゥ、起こしてすぐにでも進むべきか。
 そう考えていれば。

「……お腹、空いたのね」

 むくりと起き上がった。
 睡眠欲より食欲を取ったらしい、言った通り食料、最後のパンを水と一緒に差し出した。

「ウマ、ウマ」

 眠気眼で頭を揺らしながらもパンを頬張る。
 地面に直接寝転がっているため、土埃が凄い事になっている。
 食べ終わったのを見計らい、口周りと顔を拭いておく。

「……お兄様はもう食べたのね?」
「済ませた」
「……むー」

 まだ狙っていたのか。

「進もう」

 抱え上げて肩に乗せる。

「いつか絶対見せるのね!」

 と完全に目が覚めたのか、元気良く宣言するイルククゥ。
 自分から見せることは無いので、見るとしたら力尽くか、或いはヘルメットを外すその時に覗き見るか。
 どちらにしろ簡単な事ではない事は確かだった。





 そんなこんな、さらに5時間ほど歩き続ければ大きく長い森の切れ目、端が見え始めた。
 進み、森の端、幹の太い樹木に手を置きながらも視線は森の外。
 先に遠くまで続く広い草原と、その先に有る小さく見える、大陸から突き出た地形の上にある城があった。

「あれ?」
「あれだ」

 イルククゥが指差すのは城、地形にも因るが後数時間で城にたどり着けるだろう。
 だが、今現在の問題は目の前に広がる草原。
 人目に付かぬよう迂回するか、或いは時間優先で突っ切るか。

「さっさと行くのね!」

 迂回はイルククゥの好みではないらしい、一直線に城へ向かおうと言う。
 地下を行くギーシュたちもどの辺に居るのか分からない、もう付いているかもしれないし遅れているのかもしれない。
 ならば出来るだけ早く付いた方が良いだろう。

「ああ、そうだな」

 右手にハンドガンを握る。

「掴まっていろ」
「うん!」

 イルククゥは手でヘルメットをしっかり掴み。
 チーフの左手がイルククゥの足を押さえ、落ちぬ様にする。

「行くぞ」

 駆け出す、人の全力疾走の倍以上。
 時速70kmはあろうかと言う速度で駆ける。

「きゅいきゅい!」

 嬉しそうに鳴くイルククゥ、空を飛ぶのと地を走るとではスピードの差が在るが、映る景色や体感にも違いがある。
 それを感じて喜んでいるのか、普通ならば感じる事が出来ないのだから仕方ないと言える。
 そうしてグングンと走り進み続ける。
 運が良い、ここまできて行った戦闘はオーク鬼の一度だけ。
 願うならばこのまま敵と出会わず、と言いたい所だが現実はそれほど甘くは無い。

「敵だ」

 空に見える赤い点、恐らくは赤い姿の火竜。
 イルククゥが素早く降りて草原に伏せる、同じ様にチーフもしゃがみ込んで草丈に紛れた。

「………」

 気付いているのか、ゆっくりと草原を見渡すように飛んでいる。
 警邏、その類だろう。
 ここは穏便に、無駄な戦闘を行い敵を呼び寄せても良い事が無い。
 だからじっとして警邏が通り過ぎるのを待つ、が。

「………」

 左の視界、歪み明らかにおかしい。

「きゅい!」

 自身の異変と連動するかのように、イルククゥが叫んだ。

「きゅいぃぃ!!」

 それは叫びのような、力の篭った鳴き声。
 光を放つと同時に変化、イルククゥが風竜シルフィードへと移り変わる。

「これは……」

 左目の映る景色、今見える草原とは別物。
 その左の景色には背を向けている子爵と、杖を支えにして立つタバサが見えた。
 苦しそうな表情、衣服は切り刻まれ、その下の肌も傷がいくつも入っている。

『使い魔は主人の目となり耳となる』

 これも能力、メイジの使い魔になる事で得られる力の一つ。
 普段見えないのは発動する条件ではないから。
 つまりルイズとタバサの身に危険が迫っていると言う事。
 イルククゥは自身と同じ様に主に危険が迫っている事が分かるのだろう、翼を大きく広げた。

「乗るのね!」

 言われると同時に飛び乗る。
 500kgも何のその、大きく一度羽ばたいただけで浮き上がり。
 二度目の羽ばたきでさらに高く、三度目には加速し始め、四度目を最後に高速で飛翔し始めた。
 そんな草原から突如光を放ち飛び上がる物体に気が付いた警邏、怪しい存在に対して攻撃を加えようとした時にはもう遅かった。
 チーフがハンドガンにて狙い撃ち、火竜の下顎から進入したマグナム弾が喉に突き刺さり、火竜は一撃で絶命。

 そうして落下する火竜から飛び降り、フライにて浮き上がった頃には遠く小さくなっていた。
 この警邏が不審な存在が草原に居たと報告できた時には、ニューカッスル城は陥落していたのであった。



新着情報

取得中です。