「牛乳……、牛乳は要らんかね……」
朝靄に煙る町を、1人の男が牛乳瓶を積んだ荷車を引いて歩いている。
「美味しいよ……、とっても濃いんだよ……」
早朝の路上には誰もいないにもかかわらず売り歩くように呟く男。その顔には不気味な笑みを浮かべているような奇怪な仮面。
「加工乳なんか目じゃないぜ……」
――ガシャアッ!
男は牛乳瓶を2本手に取ると、道端の民家に設置されていた牛乳瓶受けの箱に乱暴に放り込んだ。
「へっへっへ……、夕方の騒ぎが楽しみだあ。デュマさん、あんたもついてないなあ……」
トリスタニアの林で牛乳配達員の遺体が見つかるのは後日の事である。「彼」が殺して配達員になりすましたのだ。
彼の名はデリバリー・ヘル。町は間も無く彼のもたらす恐怖に覆われる。
朝靄に煙る町を、1人の男が牛乳瓶を積んだ荷車を引いて歩いている。
「美味しいよ……、とっても濃いんだよ……」
早朝の路上には誰もいないにもかかわらず売り歩くように呟く男。その顔には不気味な笑みを浮かべているような奇怪な仮面。
「加工乳なんか目じゃないぜ……」
――ガシャアッ!
男は牛乳瓶を2本手に取ると、道端の民家に設置されていた牛乳瓶受けの箱に乱暴に放り込んだ。
「へっへっへ……、夕方の騒ぎが楽しみだあ。デュマさん、あんたもついてないなあ……」
トリスタニアの林で牛乳配達員の遺体が見つかるのは後日の事である。「彼」が殺して配達員になりすましたのだ。
彼の名はデリバリー・ヘル。町は間も無く彼のもたらす恐怖に覆われる。
「ミス・ヴァリエール!! ミス・ナックルスター!! 事件です!!」
それから数時間後、町で発生した事件を知ったシエスタは教会へと急いでいた。
「トリスタニアで牛乳を飲んだ人達が大変な事に……うっ!?」
勢いよく教会の扉を開けたシエスタは言葉を失った。
何があったのか教会内の壁といわず床といわず至る所に穴が開いたり亀裂が入ったりしていて、ルイズ・サタニスターは立つ事さえままならない様子で家具の残骸で体を支えつつ息を荒げていた。さらにサタニスターのナックルがシエスタの足元に転がっていたのだ。
「ミ……、ミス・ヴァリエール!? ミス・ナックルスター!?」
「ぬかったわ……。あたしとした事が……」
シエスタは慌てて2人の元に駆け寄る。
「何があったんですか!?」
「不運その1、変な牛乳飲んだみたい……」
「ええーっ!! 飲んだんですか!? 今先生方が大騒ぎされてるんですよ!? あれは異物がでたらめに混入されていて……、死人も出てるんです!! お二人とも敵が多いのに……。何で宅配の牛乳を飲むなどという迂闊な真似をしたんですか!!」
「あたしだって新鮮な牛乳が飲みたいのよ!!」
「それよりシエスタ……、あなたは逃げなさい」
逆ギレしてシエスタを殴るサタニスターを制するようにルイズが話を続けた。
「え?」
「不運その2!! 敵襲よ!! あほみたいな格好の敵が襲ってきたから吹き飛ばしたけど……、まだくたばってない!」
その時、シエスタの背後の扉に音を立てて亀裂が入る。そして次の瞬間、
――ドゴオッ!
「サタニスターっ!! まだ勝負はついてないぞーっ!!」
扉を周囲の壁ごとぶち破って、全身金属鎧で固めたような人物が3人の前に現れた。
「きゃあああ~っ!!」
「あんたまだ私達とやる気!? そっちだって結構こたえてんでしょ!?」
「うるさい!! お前らは必ずぶっ倒す!! お前らを倒せば周囲が俺に一目置くのは間違い無い!! 仲間は『まだ戦うな』って言ってたけど知った事か!! 俺の手柄――!!」
全身から火花を散らしている金属鎧がそこまでまくし立てたところで、突然その動作が鈍くなった。
「くそ……、動力系統が故障したか。体の動きがひっかかる感じがするぜ……、ぬうう……」
「イ……、インテリジェンスアーマー!? 何でこんなのがいるんですか……!?」
金属鎧の隙を見逃さず、ルイズは教会入口近くに転がっているナックルを指差す。
「シエスタ!! 床に落ちてるナックルスターのナックルを拾って!!」
「装着前にあのメカ野郎にぶっ飛ばされて転がったのよ!! どっちが格上かこいつに思い知らせてやる!!」
慌ててナックルに駆け寄って拾い上げるシエスタ。そんな彼女にナックルスターは奇妙な忠告をする。
「こ……、これですね!! ミス・ナックルスターの武器……」
「あっ、それと……、何か見えても無視して!!」
「えっ!?」
それから数時間後、町で発生した事件を知ったシエスタは教会へと急いでいた。
「トリスタニアで牛乳を飲んだ人達が大変な事に……うっ!?」
勢いよく教会の扉を開けたシエスタは言葉を失った。
何があったのか教会内の壁といわず床といわず至る所に穴が開いたり亀裂が入ったりしていて、ルイズ・サタニスターは立つ事さえままならない様子で家具の残骸で体を支えつつ息を荒げていた。さらにサタニスターのナックルがシエスタの足元に転がっていたのだ。
「ミ……、ミス・ヴァリエール!? ミス・ナックルスター!?」
「ぬかったわ……。あたしとした事が……」
シエスタは慌てて2人の元に駆け寄る。
「何があったんですか!?」
「不運その1、変な牛乳飲んだみたい……」
「ええーっ!! 飲んだんですか!? 今先生方が大騒ぎされてるんですよ!? あれは異物がでたらめに混入されていて……、死人も出てるんです!! お二人とも敵が多いのに……。何で宅配の牛乳を飲むなどという迂闊な真似をしたんですか!!」
「あたしだって新鮮な牛乳が飲みたいのよ!!」
「それよりシエスタ……、あなたは逃げなさい」
逆ギレしてシエスタを殴るサタニスターを制するようにルイズが話を続けた。
「え?」
「不運その2!! 敵襲よ!! あほみたいな格好の敵が襲ってきたから吹き飛ばしたけど……、まだくたばってない!」
その時、シエスタの背後の扉に音を立てて亀裂が入る。そして次の瞬間、
――ドゴオッ!
「サタニスターっ!! まだ勝負はついてないぞーっ!!」
扉を周囲の壁ごとぶち破って、全身金属鎧で固めたような人物が3人の前に現れた。
「きゃあああ~っ!!」
「あんたまだ私達とやる気!? そっちだって結構こたえてんでしょ!?」
「うるさい!! お前らは必ずぶっ倒す!! お前らを倒せば周囲が俺に一目置くのは間違い無い!! 仲間は『まだ戦うな』って言ってたけど知った事か!! 俺の手柄――!!」
全身から火花を散らしている金属鎧がそこまでまくし立てたところで、突然その動作が鈍くなった。
「くそ……、動力系統が故障したか。体の動きがひっかかる感じがするぜ……、ぬうう……」
「イ……、インテリジェンスアーマー!? 何でこんなのがいるんですか……!?」
金属鎧の隙を見逃さず、ルイズは教会入口近くに転がっているナックルを指差す。
「シエスタ!! 床に落ちてるナックルスターのナックルを拾って!!」
「装着前にあのメカ野郎にぶっ飛ばされて転がったのよ!! どっちが格上かこいつに思い知らせてやる!!」
慌ててナックルに駆け寄って拾い上げるシエスタ。そんな彼女にナックルスターは奇妙な忠告をする。
「こ……、これですね!! ミス・ナックルスターの武器……」
「あっ、それと……、何か見えても無視して!!」
「えっ!?」
次の瞬間、シエスタの目の前に死んだはずのモット・貫通のワルドが出現した。
(殺されろ……呪われろ……)
(お前も来い……)
いや、2人だけではない。いつの間にかシエスタの周囲には数十人もの生気の無い人影が出現し、彼女に呪いの言葉を吐いていたのだ。
「え……!? え……!?」
(地獄に落ちろ……)
(死ね……死ね……)
(くたばれ……)
(手首切れ……)
「あ……、あわわ……」
「シエスタ!! そいつらにかまっちゃ駄目!! 早くナックルをこっちに投げるのよ!!」
サタニスターの叫びも人影達の恐るべき姿と呪いの言葉に半ば恐慌状態のシエスタには届かず、
「ああああああああ!!」
あまりの恐怖と衝撃にシエスタの両耳からは鮮血が噴出し、股間からは**。
「あひいいい~っ!!」
「シエスタ!!」
(何やってんだ……!?)
悲鳴を上げるシエスタと彼女を何とか落ち着かせようとするルイズ・サタニスターだったが、金属鎧にはシエスタの身に何が起こっているのかさっぱり理解できないようだった。
「ナックルから手を離せば『そいつら』は消えるわ!! 投げなさいっ!!」
「ひいいっ!」
やけくそになったかのようにシエスタはナックルを放り投げ、
――ガッシイイ!
宙を舞うナックルにサタニスターは1発で両腕を突き入れて装着した。
「はあっ、はあっ……。い……、今のはいったい……!?」
人影の消失を確認して、荒く息を吐きつつ落ち着きを取り戻そうとするシエスタ。一方サタニスターは自分の周囲に出現した人影達を睨みつける。
「あたしの鉄拳によって敗北を喫した殺人鬼の怨霊どもよ、あたしの邪魔をする気かい? あたしを誰だと思ってる? このサタニスターに殺された時の恐怖を思い出させてあげようか!?」
(……ひっ!?)
(……ひいいいい!)
(……サタニスターだああああ!!)
サタニスターの気迫の前に、人影達は恐怖の叫びを上げて消滅していった。
「ふん!」
「ミ……、ミス・ナックルスター……、今のは……?」
「何でもなくてよ!!」
「それより奴をぶっ倒さないと……」
シエスタに背を向けたまま答えてよろよろ立ち上がるルイズ・サタニスター。
「まだ戦う気なんですか!? 顔色悪いのに……」
「当然!! 私達の教会を荒らした報いを与えてやるわ」
「上等だぜ、サタニスター……」
2人が立ち上がるのとほぼ同時に、金属鎧も体中から火花を飛ばしつつ強引に体を動かし始めた。
(駄目です……!! いつものお二人なら1人でも勝てるかもしれませんけど……、今は毒を盛られた状態なのに……!! どうしましょう……、どうしましょう……。私に何ができるのでしょう……!?)
(殺されろ……呪われろ……)
(お前も来い……)
いや、2人だけではない。いつの間にかシエスタの周囲には数十人もの生気の無い人影が出現し、彼女に呪いの言葉を吐いていたのだ。
「え……!? え……!?」
(地獄に落ちろ……)
(死ね……死ね……)
(くたばれ……)
(手首切れ……)
「あ……、あわわ……」
「シエスタ!! そいつらにかまっちゃ駄目!! 早くナックルをこっちに投げるのよ!!」
サタニスターの叫びも人影達の恐るべき姿と呪いの言葉に半ば恐慌状態のシエスタには届かず、
「ああああああああ!!」
あまりの恐怖と衝撃にシエスタの両耳からは鮮血が噴出し、股間からは**。
「あひいいい~っ!!」
「シエスタ!!」
(何やってんだ……!?)
悲鳴を上げるシエスタと彼女を何とか落ち着かせようとするルイズ・サタニスターだったが、金属鎧にはシエスタの身に何が起こっているのかさっぱり理解できないようだった。
「ナックルから手を離せば『そいつら』は消えるわ!! 投げなさいっ!!」
「ひいいっ!」
やけくそになったかのようにシエスタはナックルを放り投げ、
――ガッシイイ!
宙を舞うナックルにサタニスターは1発で両腕を突き入れて装着した。
「はあっ、はあっ……。い……、今のはいったい……!?」
人影の消失を確認して、荒く息を吐きつつ落ち着きを取り戻そうとするシエスタ。一方サタニスターは自分の周囲に出現した人影達を睨みつける。
「あたしの鉄拳によって敗北を喫した殺人鬼の怨霊どもよ、あたしの邪魔をする気かい? あたしを誰だと思ってる? このサタニスターに殺された時の恐怖を思い出させてあげようか!?」
(……ひっ!?)
(……ひいいいい!)
(……サタニスターだああああ!!)
サタニスターの気迫の前に、人影達は恐怖の叫びを上げて消滅していった。
「ふん!」
「ミ……、ミス・ナックルスター……、今のは……?」
「何でもなくてよ!!」
「それより奴をぶっ倒さないと……」
シエスタに背を向けたまま答えてよろよろ立ち上がるルイズ・サタニスター。
「まだ戦う気なんですか!? 顔色悪いのに……」
「当然!! 私達の教会を荒らした報いを与えてやるわ」
「上等だぜ、サタニスター……」
2人が立ち上がるのとほぼ同時に、金属鎧も体中から火花を飛ばしつつ強引に体を動かし始めた。
(駄目です……!! いつものお二人なら1人でも勝てるかもしれませんけど……、今は毒を盛られた状態なのに……!! どうしましょう……、どうしましょう……。私に何ができるのでしょう……!?)
「来なっ、機械野郎!!」
「うおおおお~っ!!」
「今のお二人を倒してもあなたの手柄にはならないです!!」
互いに一撃を浴びせるべく駆け寄っていくルイズ・ナックルスター。2人を迎え撃つ金属鎧にシエスタは毅然とした態度で叫んだ。
「なぜならミス・ヴァリエールもミス・ナックルスターも、毒を盛られて手負いの状態だからですっ!!」
「何い!? 『毒を盛られた』だと!? どういう事だ!? 説明しろ」
「シエスタ!! でしゃばるんじゃないわよ!!」
サタニスターの静止にも耳を貸さず、シエスタは金属鎧の説得に入る。
「この町で牛乳に異物が混入されるという騒動が起きています。お二人も被害に遭っています。異物の成分はまだわかっていません。今のお二人を倒せても……、それは『毒入り牛乳』のおかげですよ? そんなので勝って嬉しいですか? 『毒入り牛乳のおかげで勝てた自分』に誇りとか感じますか? 不用意に変な牛乳を飲んだお二人にも落ち度はありますが、今ここで倒したらもう取り消しはきかないですよ?(ど……、どうか逆上されませんように……!!)」
シエスタの言葉に、金属鎧は彼女を威圧するように1歩前に出る。
「……なあお前、俺がそんな事にいちいちこだわるやつだと思うか?」
「ええ、思いますとも。さっき言ってましたよね……。『(俺)1人の手柄だ』とか何とか」
「……!! じゃあ質問を変えるぜ。なぜサタニスター達をそこまで庇いだてするんだ?」
「そ……、それは……、ミス・ナックルスターもミス・ヴァリエールも友達だからです。友達を庇うのにいちいち理由が要るんですかね!?」
「おい、サタニスター」
金属鎧はシエスタに視線を向けたままサタニスターに声をかけた。
「何よ」
「あとでこいつを褒めてやれ。何の力も持たない女の子が体を張ってお前を守ろうとしたんだ。……それから覚えとけ。俺の名は平賀才人。『例の大会』でお前を倒すのは……この俺だ!!」
――ゲシッ!!
叫びと共に才人はサタニスターが装着しているナックルを殴りつけると、出入り口に向かっていく。
「じゃーな。今日のところはその子の顔を立てといてやるぜ」
才人が去っていったのを見送って、シエスタはようやくひと心地ついた様子になる。
「……ミス・ナックルスター、あとでお風呂借りてもいいですか?」
「あいつが壊したよ」
「うおおおお~っ!!」
「今のお二人を倒してもあなたの手柄にはならないです!!」
互いに一撃を浴びせるべく駆け寄っていくルイズ・ナックルスター。2人を迎え撃つ金属鎧にシエスタは毅然とした態度で叫んだ。
「なぜならミス・ヴァリエールもミス・ナックルスターも、毒を盛られて手負いの状態だからですっ!!」
「何い!? 『毒を盛られた』だと!? どういう事だ!? 説明しろ」
「シエスタ!! でしゃばるんじゃないわよ!!」
サタニスターの静止にも耳を貸さず、シエスタは金属鎧の説得に入る。
「この町で牛乳に異物が混入されるという騒動が起きています。お二人も被害に遭っています。異物の成分はまだわかっていません。今のお二人を倒せても……、それは『毒入り牛乳』のおかげですよ? そんなので勝って嬉しいですか? 『毒入り牛乳のおかげで勝てた自分』に誇りとか感じますか? 不用意に変な牛乳を飲んだお二人にも落ち度はありますが、今ここで倒したらもう取り消しはきかないですよ?(ど……、どうか逆上されませんように……!!)」
シエスタの言葉に、金属鎧は彼女を威圧するように1歩前に出る。
「……なあお前、俺がそんな事にいちいちこだわるやつだと思うか?」
「ええ、思いますとも。さっき言ってましたよね……。『(俺)1人の手柄だ』とか何とか」
「……!! じゃあ質問を変えるぜ。なぜサタニスター達をそこまで庇いだてするんだ?」
「そ……、それは……、ミス・ナックルスターもミス・ヴァリエールも友達だからです。友達を庇うのにいちいち理由が要るんですかね!?」
「おい、サタニスター」
金属鎧はシエスタに視線を向けたままサタニスターに声をかけた。
「何よ」
「あとでこいつを褒めてやれ。何の力も持たない女の子が体を張ってお前を守ろうとしたんだ。……それから覚えとけ。俺の名は平賀才人。『例の大会』でお前を倒すのは……この俺だ!!」
――ゲシッ!!
叫びと共に才人はサタニスターが装着しているナックルを殴りつけると、出入り口に向かっていく。
「じゃーな。今日のところはその子の顔を立てといてやるぜ」
才人が去っていったのを見送って、シエスタはようやくひと心地ついた様子になる。
「……ミス・ナックルスター、あとでお風呂借りてもいいですか?」
「あいつが壊したよ」
『トリスタニアの宅配牛乳に大量の水の秘薬が混入された事件ですが、なんとたった今犯人から声明文が届きました!! 文中には意味不明な表現がありますが、それも含め全て読み上げてみたいと思います』
その日の昼、遠見の鏡ではデリバリー・ヘルが起こした事件の騒動を報じていた。
『えー……、「今回の事件は私デリバリー・ヘルの怒りを示すものである。私はアカデミー研究員のエレオノール・アルベルティール・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールに対し、ウサギ耳・オーバーニーソックス・スクール水着・羽着用で研究活動を行うよう文書にて伝えたが、愚かなアカデミーは56回にわたって私の指示を無視した。今回の事件はその報復と考えよ。私の要求が聞き入れられない限り……」』
とある厨房。1人の男が遠見の鏡から流れる音声を聞きつつ煮立った大鍋の中身をかき混ぜている。
その大鍋の中では、ぶつ切りにされた野菜類に混じって人間の生首も煮られていた。
『「同様の事件はくり返されると考えよ」』
「信じられねえ変態野郎だな。世も末だぜ、ったく……」
――「トリステインからの食人鬼」 マルトー・シュバルツマン
その日の昼、遠見の鏡ではデリバリー・ヘルが起こした事件の騒動を報じていた。
『えー……、「今回の事件は私デリバリー・ヘルの怒りを示すものである。私はアカデミー研究員のエレオノール・アルベルティール・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールに対し、ウサギ耳・オーバーニーソックス・スクール水着・羽着用で研究活動を行うよう文書にて伝えたが、愚かなアカデミーは56回にわたって私の指示を無視した。今回の事件はその報復と考えよ。私の要求が聞き入れられない限り……」』
とある厨房。1人の男が遠見の鏡から流れる音声を聞きつつ煮立った大鍋の中身をかき混ぜている。
その大鍋の中では、ぶつ切りにされた野菜類に混じって人間の生首も煮られていた。
『「同様の事件はくり返されると考えよ」』
「信じられねえ変態野郎だな。世も末だぜ、ったく……」
――「トリステインからの食人鬼」 マルトー・シュバルツマン
『「なお、『例の大会』に参加する者に告ぐ」』
とある街角。マントを纏った少女が、キャンディー片手に店で売られている遠見の鏡の画面を眺めている。
『「大会中の食事には十分気をつけたまえ。私はお前達に負けるつもりは無い」』
「たわけた事抜かすんじゃないよ、ケツメド野郎が……。あー、早く大会始まんないかな……」
――「サビエラの吸血嬢」 ブラッドロリータ
とある街角。マントを纏った少女が、キャンディー片手に店で売られている遠見の鏡の画面を眺めている。
『「大会中の食事には十分気をつけたまえ。私はお前達に負けるつもりは無い」』
「たわけた事抜かすんじゃないよ、ケツメド野郎が……。あー、早く大会始まんないかな……」
――「サビエラの吸血嬢」 ブラッドロリータ
『……以上が声明文の文面であるわけですが、はたして「大会」とはいったい何を意味するのでしょうか?』
とある工房。顔を仮面で覆った女エルフが、真っ赤に熱せられた刃物を金槌で叩いている。
刃物を水につけて冷やした後仮面を外した女エルフ……ビダーシャルは、水差しからグラスに注いだ水を1口飲んで呟く。
「『大会』まであと1週間……。どいつもこいつもテンパッてきだしたね。私の事見守ってね、パパ……、ママ……」
その視線の先には、開けられた小さな鞄に入っている男女1組の人形があった。
とある工房。顔を仮面で覆った女エルフが、真っ赤に熱せられた刃物を金槌で叩いている。
刃物を水につけて冷やした後仮面を外した女エルフ……ビダーシャルは、水差しからグラスに注いだ水を1口飲んで呟く。
「『大会』まであと1週間……。どいつもこいつもテンパッてきだしたね。私の事見守ってね、パパ……、ママ……」
その視線の先には、開けられた小さな鞄に入っている男女1組の人形があった。
『こういった無差別殺人を引き起こす犯人の傾向としては、現代社会のルールを逸脱して見せる事で自分に万能感を感じるというタイプが最も多く考えられ……』
「うおらあああ~っ!!」
――ゴッシャアッ!
回転しながら着地した勢いのまま、毛皮の服を纏った青年が遠見の鏡を叩き割った。
「なあサイトよ。俺はなあ……、悪党には2種類存在すると考えている。仲間内での秩序を守れるタイプと、勝手な行動を起こしてはチームに迷惑を……」
「『迷惑』? 別にお前らに迷惑かけたつもりは無いぜ」
「『足並みを揃えろ』って言ってるんだよ……。『サタニスターはまだ殺さん』という意見で俺達はまとまってたよな? 『大会で殺す』という話だったよな?」
そう声を荒げる青年の顔には毛が生え始め、牙も爪も鋭く伸びていった。
「それをふまえた上でお前に問う!! 自分の力を周囲に誇示したいというだけの動機で、お前はその取り決めを破った……。これは俺を!! 仲間を!! なめていたからこそ為せる業だろう、違うかアニエス!?」
――メンヌヴィル
小太りの少年も乱杭歯を剥き出しにして才人を睨みつける。
「しかもサタニスターへの攻撃を途中で『取りやめた』のは……、デリバリー・ヘルの牛乳を飲んで弱ってるのが面白くなかったからだそうじゃないか」
――石牙のマリコルヌ
「それだったら初めっから襲わずとも結果は同じだったって事だな~っ!! 自分1人で納得してるんじゃあねえーっ!!」
――ガシャアッ!
メンヌヴィルは才人めがけて力任せに遠見の鏡の残骸を投げつけた。
「やめときな、メンヌヴィル!!」
「女がしゃしゃり出るな!!」
――バギャン!!
飴姫が左腕を大きく振った瞬間、壁に幅20サント・長さ4メイルはある巨大な亀裂が深々と刻まれた。
正体不明の斬撃の威力はそれだけにとどまらず、その延長線上の空を飛んでいた鳥の翼までも切り落とす。
「……うむ!!」
切り裂かれた壁の亀裂から一刀両断にされた鳥が墜落する様子を見て、メンヌヴィルも頭が冷えたらしく顔が元の青年のものに戻る。
「『大会』は!! 1対1の決闘式で行われるわ。対戦相手はくじ引きで決められる。あんた達2人が対戦相手としてぶつかるようであれば、その時存分にやり合えばいいさね」
――飴姫
「でもその前に人数を振るい落とすため『予選』が行われ、その予選で一定のポイント数を稼げたやつだけが本戦に参加できる。そのためにはあたし達は『一応その場では』協力し合う必要があるんだよ。だから喧嘩はするな。あたしだってあんた達に対しては何かと我慢している……」
「……ちっ」
飴姫の言葉に舌打ちしつつも才人は矛を収めた。
(しかしそれにしてもサタニスター……、薬を盛られた状態でこの俺と渡りあってたとは……。屈辱だぜ……)
「うおらあああ~っ!!」
――ゴッシャアッ!
回転しながら着地した勢いのまま、毛皮の服を纏った青年が遠見の鏡を叩き割った。
「なあサイトよ。俺はなあ……、悪党には2種類存在すると考えている。仲間内での秩序を守れるタイプと、勝手な行動を起こしてはチームに迷惑を……」
「『迷惑』? 別にお前らに迷惑かけたつもりは無いぜ」
「『足並みを揃えろ』って言ってるんだよ……。『サタニスターはまだ殺さん』という意見で俺達はまとまってたよな? 『大会で殺す』という話だったよな?」
そう声を荒げる青年の顔には毛が生え始め、牙も爪も鋭く伸びていった。
「それをふまえた上でお前に問う!! 自分の力を周囲に誇示したいというだけの動機で、お前はその取り決めを破った……。これは俺を!! 仲間を!! なめていたからこそ為せる業だろう、違うかアニエス!?」
――メンヌヴィル
小太りの少年も乱杭歯を剥き出しにして才人を睨みつける。
「しかもサタニスターへの攻撃を途中で『取りやめた』のは……、デリバリー・ヘルの牛乳を飲んで弱ってるのが面白くなかったからだそうじゃないか」
――石牙のマリコルヌ
「それだったら初めっから襲わずとも結果は同じだったって事だな~っ!! 自分1人で納得してるんじゃあねえーっ!!」
――ガシャアッ!
メンヌヴィルは才人めがけて力任せに遠見の鏡の残骸を投げつけた。
「やめときな、メンヌヴィル!!」
「女がしゃしゃり出るな!!」
――バギャン!!
飴姫が左腕を大きく振った瞬間、壁に幅20サント・長さ4メイルはある巨大な亀裂が深々と刻まれた。
正体不明の斬撃の威力はそれだけにとどまらず、その延長線上の空を飛んでいた鳥の翼までも切り落とす。
「……うむ!!」
切り裂かれた壁の亀裂から一刀両断にされた鳥が墜落する様子を見て、メンヌヴィルも頭が冷えたらしく顔が元の青年のものに戻る。
「『大会』は!! 1対1の決闘式で行われるわ。対戦相手はくじ引きで決められる。あんた達2人が対戦相手としてぶつかるようであれば、その時存分にやり合えばいいさね」
――飴姫
「でもその前に人数を振るい落とすため『予選』が行われ、その予選で一定のポイント数を稼げたやつだけが本戦に参加できる。そのためにはあたし達は『一応その場では』協力し合う必要があるんだよ。だから喧嘩はするな。あたしだってあんた達に対しては何かと我慢している……」
「……ちっ」
飴姫の言葉に舌打ちしつつも才人は矛を収めた。
(しかしそれにしてもサタニスター……、薬を盛られた状態でこの俺と渡りあってたとは……。屈辱だぜ……)
そして1週間後!!
雨のラ・ロシェール。停泊している空船の前にルイズ・サタニスター・シエスタの姿があった。
(『大会』の招待状によれば、この港に迎えの者がいるとの事)
(待っていなさい、殺人鬼ども……!! ビダーシャル……、才人……、デリバリー・ヘル……、その他大勢……!! お前達に引導を渡すのは、このサタニスター!!)
「ミス・ヴァリエール、ミス・ナックルスター!! 頑張ってくださいね!! それじゃ!!」
そそくさ帰ろうとするシエスタの肩をサタニスターはがっしりつかむ。
「一緒に来いって言ったでしょ。付き人がいてくれた方が何かと助かるもの」
「嫌です~っ!! 付き人ならミス・タバサにやってもらえばいいじゃないですか!!」
「タバサは牛乳事件の処理に終われてて、少し遅れるのよ!! 大丈夫だってば!! 何があっても私達が守ってあげるから!!」
言い合っている3人の前に、停泊している空船から1人の男が降りてきた。
「ようこそお越しくださいました。私、『虚無壺の会』のクロムウェルと申します。招待状を拝見……」
クロムウェルに促されてサタニスターは招待状を彼に手渡す。
「では改めまして、ハルケギニア最強殺人鬼決定戦へようこそ……。こちらは『虚無壺の会』が出場者の方々のためにご用意致しました、専用空船でございます。ビュッフェ・シャワー・ベッド完備でございますよ。会場への到着は明朝を予定しております。他の出場者との同乗になりますので、無駄な争い事はなるべく避けた方が賢明かと……。くくく……」
雨のラ・ロシェール。停泊している空船の前にルイズ・サタニスター・シエスタの姿があった。
(『大会』の招待状によれば、この港に迎えの者がいるとの事)
(待っていなさい、殺人鬼ども……!! ビダーシャル……、才人……、デリバリー・ヘル……、その他大勢……!! お前達に引導を渡すのは、このサタニスター!!)
「ミス・ヴァリエール、ミス・ナックルスター!! 頑張ってくださいね!! それじゃ!!」
そそくさ帰ろうとするシエスタの肩をサタニスターはがっしりつかむ。
「一緒に来いって言ったでしょ。付き人がいてくれた方が何かと助かるもの」
「嫌です~っ!! 付き人ならミス・タバサにやってもらえばいいじゃないですか!!」
「タバサは牛乳事件の処理に終われてて、少し遅れるのよ!! 大丈夫だってば!! 何があっても私達が守ってあげるから!!」
言い合っている3人の前に、停泊している空船から1人の男が降りてきた。
「ようこそお越しくださいました。私、『虚無壺の会』のクロムウェルと申します。招待状を拝見……」
クロムウェルに促されてサタニスターは招待状を彼に手渡す。
「では改めまして、ハルケギニア最強殺人鬼決定戦へようこそ……。こちらは『虚無壺の会』が出場者の方々のためにご用意致しました、専用空船でございます。ビュッフェ・シャワー・ベッド完備でございますよ。会場への到着は明朝を予定しております。他の出場者との同乗になりますので、無駄な争い事はなるべく避けた方が賢明かと……。くくく……」
3人が甲板から船内に入ると、多数の先客達が一斉に彼女達の方に視線を向けた。
長剣を手にした者、ナイフが収まった鞘を首から提げている者……。一見すると平凡な服装で武器も持っていない者も多いが例外無く剣呑な雰囲気を漂わせている。
(船内に血が付いてます……。もう誰かが殺し合ったんです……!!)
(シエスタ……、絶対に連中と目を合わせるんじゃないわよ……)
長剣を手にした者、ナイフが収まった鞘を首から提げている者……。一見すると平凡な服装で武器も持っていない者も多いが例外無く剣呑な雰囲気を漂わせている。
(船内に血が付いてます……。もう誰かが殺し合ったんです……!!)
(シエスタ……、絶対に連中と目を合わせるんじゃないわよ……)